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ディープスペースナイン エピソードガイド
第31話「詐欺師エル・オーリアン星人」
Rivals

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・イントロダクション
クワークの店。
異星人の女性、アルシア※1が笑った。「主人が生きてる時は一緒に商売してたの。…でね? 毎年ちょっとずつ、老後に備えてへそくりを貯めてたってわけ。…主人が亡くなった時は…結構な額になってたわ?」
同席している男も笑う。「そいつはいい。」
アルシア:「でもそれだけじゃ足りないわ。これから老後を、楽しく贅沢に暮らすにはね? …それで全額投資することにしたの。…嫌だわ、こんな話しちゃって。会ったばかりなのに。でもあなたは信用できるって気がするの。ずーっと前から知ってるみたい。」
「時間は関係ないですよ。フィーリングが合えばね。」
「今まで貯めてきたお金を全部はたいて、ヴルグタ小惑星帯※2の鉱山を採掘する権利を買ったの。」
「素晴らしい。あなたのようなデリケートな女性が、そんな大冒険をするなんて。でも、後悔してません? 鉱山はリスクが高い。」
オドーが近づいてきた。
アルシア:「大丈夫よ。私の父は鉱山の試掘師※3だったの。30年前父は、ヴルグタ小惑星帯に有望な鉱脈を見つけたのよ? …でも当時父にはそれを採掘する財力がなかった。」
男:「お父さんの夢を今、あなたが叶えるというわけだ。」 笑う。
「父の調査結果が公になれば、一晩で元手が 7倍になって戻ってくるわよ? …なぜあなたに話しちゃったのかしら…秘密の計画だったのよ? 何年も何年も考えて、主人にも言わなかったのに。きっとこのガムジーアのワイン※4のせいだわ…。」
「…しかし勇気があるなあ? たった一人ここまで。」
「あー、もちろん苦労したわ。調べることもたくさんあるし。やることも一杯だし。」
「手伝いましょうか。ああ……どうでしょうマダム、この僕をパートナーにしちゃ。」
オドーは男の肩に手を置いた。「さあ行くぞ。」
男:「行くってどこへです?」
「保安本部だ。」
「僕は何もしてません。」
アルシア:「ただ話してただけよ?」
オドー:「いいえこいつは話を聞いてただけですよ。」 男を連行していく。
ため息をつくアルシア。

連行される男。「あんたがミスター・オドー? 保安チーフの。」
オドー:「到着以来お前を見張ってたんだ。」
「それは光栄だなあ?」
「マータス・メイズーア※5。エル・オーリアン※6星系からの難民※7だな?」
メイズーア:「誰だって出身地はありますよ。…あなたはどこから来たんです?」
「ハ、その手は私に通じないぞ?」
「手ってどんな。」
「エル・オーリアン人の特技なんだろ? 人の秘密を、聞き出す名人だそうだな。」
「みんな、心の中に抱いてることを誰かに聞いてもらいたいんですよ。僕は聞いてあげるだけです。もちろん必要なら、人助けもする…」
「パイサロ5※8 の夫婦に、口座のアクセスコードを聞いたのもそうか?」
「あれは、お年寄りの御夫婦の投資を手伝ってあげようって思っただけですよ…」
「やるなら、自分の金を投資してやれ! しかも事業は失敗したろ。」
「ツイてなかったんですよ。僕が一番悔しいんですから。」
「ごまかすんじゃない。最初からだます気だったろ。」

拘束室にやってきたメイズーア。「僕を拘置所に入れるなんてそんな必要どこにもないのに。」 笑う。「逃げたりしませんってば? 一杯どうです?」
フォースフィールドを起動させるオドー。「ハ!」 出ていく。
メイズーア:「じゃあ話でも。」 顔をしかめる。


※1: Alsia
(K・カラン K. Callan 「新スーパーマン」(1993〜97) に出演) 声:吉田理保子

※2: Vlugtan asteroid belt

※3: 原語では星図作成士 (stellar cartographer)

※4: Gamzian wine
DS9第7話 "Q-Less" 「超生命体“Q”」など。「ガムジーアの」は訳出されていません

※5: Martus Mazur
(クリス・サランドン Chris Sarandon 映画「プリンセス・ブライド・ストーリー」(1987) でゼク役のウォーレス・ショウンと共演。その他「狼たちの午後」(1975)、「リップスティック」(1976)、「フライトナイト」(1985) などに出演。スーザン・サランドンの元夫) 声:金尾哲夫、旧ST4 チェコフ、ENT フォレストなど

※6: El-Aurian
TNG ガイナンの種族。初めて言及されたのは映画第7作 "Star Trek: Generations" 「ジェネレーションズ」ではなく、このエピソード

※7: 吹き替えでは「逃亡者」

※8: パイサロ5号星 Pythro V

・本編
廊下でラケットを振っているオブライエン。軽装だ。
ドアを開けると、黒い壁に幾何学模様の描かれた部屋だった。
ユニフォームらしき服装のベシアが座っていた。「チーフ。」
オブライエン:「…どうも、ドクター。」
「素晴らしい。君が造ったんだろ?」
「ああ、ええ。やっとできました。ラケットボール※9。きっと、愛好者がいるとは思いましたけど。」 ボールを取り出すオブライエン。「まさかドクターとはね。」
「医学部時代、キャプテンだったんだ。セクターの決勝にまで出たんだよ。」
「へえ、医学生の大会ですか?」
「一般のだよ。決勝はヴァルカン人とで、タフな奴だった。汗もかかないような奴でねえ。ハー!」 ポーズを決めるベシア。
「勝ったんですか。」
「バックショットで仕留めたよ。」
「…へえ、すごいなあ。ハ。僕は、本格的なトレーニングを受けたことはないんですけどね? 趣味で、結構ハードにやってるんですよ?」
「素人相手ってのは、案外やりにくいんだよね? ヒュー。」
「そうですか。」
「ああ。大胆だろ? やることが。」
笑うオブライエン。
ベシア:「とにかく楽しけりゃあいいんだ。この準備運動はトッププロがしてたのを真似したんだけど、5,000年前の戦いの儀式なんだ。ホー、ホ、ハー! こうすると、手に精神が宿るんだってさ? ハー! ピ!」 指を宙に向ける。
見つめるオブライエン。
ベシア:「医学的には根拠はないけど、力がみなぎってくるよ。じゃやろっか。」
オブライエン:「どうぞ。」
「このラインだと旧式のルールだねえ。」
「…新しいルールでもいいですよ?」
「いや旧式でいこう。その方が楽しいし。」
「サーブして。」
ベシアは坂になっている部分に走り、ボールを打った。
壁に反転して返ってくる。オブライエンは動くことさえできない。
ベシア:「一点先取。」
不機嫌な様子でラケットを構えるオブライエン。

拘束室のベッドで、いびきをかいて眠っている者がいる。
メイズーア:「…ちょっと失礼。すいません! …すいません! 君!」
相手には全く聞こえていない。
メイズーアは近づく。眠り続ける異星人。
メイズーアはため息をつき、後ろから足で押した。
異星人は一瞬目を覚ましたように見えたが、起き上がらない。いびきも止まった。
メイズーア:「…君。どうした、大丈夫か?」
異星人はいきなり飛び起きた。驚くメイズーア。
メイズーア:「死んだかと思った。」
異星人※10:「ああそりゃあんた、死ねたら嬉しいがね。」
「いびきがすごいよ?」
「すまん、そいつは悪かった。迷惑をかける気はなかった。だがご覧の通り、身体の具合が悪くてね。」
「そうらしいね。起こしたりしてすまなかった。」
「昔はこんなじゃなかったんだ。」
「そりゃそうだろ。」
「若かったし、やる気も、名誉も…財産も捨てるほどあったのに。今は…皆無だ。」
「勝手に、しゃべってれば?」 ベッドに横になるメイズーア。
「全ては、こいつの…せいなんだ。」
異星人は持っていた小さな装置を起動させる。音が鳴り出した。
メイズーア:「ギャンブルのおもちゃ※11か。」
光と音が収まる。
メイズーア:「で勝ったの?」
異星人:「ハ、もちろん負けたよ。」 力なく笑う。
「財産を全部、ギャンブルでスッたのか。」
「ああそうとも言えるな。貿易をやろうとしたが、全て大損。同盟を結べば全て崩壊。援助に乗り出した事業は…全て失敗。」
「それがそのおもちゃのせいか? あんたがツイてなかっただけだろ。」
「ああ、ツイてなかったんだ。結局は、人間の一生なんて運で決まるのさ。」
もう一度、その装置を起動させる異星人。すると今度は明るく輝いた。
異星人:「…やった、勝ったぞ! ああ…」
メイズーア:「おめでとう。勝ってどうなるの?」
音が響く。近づくメイズーア。
異星人は、そのまま息を引き取っていた。
装置を手にするメイズーア。「セキュリティ! 一人囚人が死亡してますよ! 早く来て下さい!」


※9: racquetball
ホロスイート用のセットに建設。予算がかかるため、登場するのはこのエピソード限りとなりました

※10: 名前は Cos (アルバート・ヘンダーソン Albert Henderson) ですが、言及されていません。「コス」としている日本語資料もあります。声:大川透、DS9 ガラックなど

※11: gambling device
一見すると何が面白いかわかりませんが、ボタンがたくさんあってその中から当たりを選ぶ…という「黒ひげ危機一髪!」型のゲームだと思われます

自室に帰るオブライエン。
植物の前にいるケイコ・オブライエン※12。「どうだった?」
オブライエン:「クソ!」 ラケットやカバンを床に投げつけた。かなり疲れている。
「…運動になった?」
「医学部時代、キャプテンをやってたんだってよ?」
「一体誰のことなの?」
「ベシアだ。」
「試合したの。」
「ありゃ試合じゃない。こっちは 90分間ただコートの中を走り回ってただけだよ。」
「でもドクターも楽しかったと思うわ?」
「そりゃあ楽しいだろう? 勝ち誇った顔してさ。ハ、『旧式のルールでいこうか』ときやがった。…俺を年寄り扱いだ! 若い頃だったら負けないのに。」
「でも年を取ったのは事実でしょ? …何も恥に思うことはないわ? 人間はだんだん衰えていくものよ?」
「ああ、ロウソクの炎みたいにかい? ありがとよ。」
「マイルズ、あなたちょっとムキになりすぎよ?」
「次は負けないぞう。…もうちょっと練習すりゃあ、ドクターなんかに負けるもんかい。こっちが必死なのに、あっちは笑ってんだぜ。」 シャツを脱ぐオブライエン。「…全然、歯も立たないなんて屈辱だ! …見てろよ!」
笑うケイコ。

ユニフォーム姿のまま、レプリマットにいるベシア。「発作を起こすかと思ったよ。」
ダックス:「そんなに本気を出しちゃったの?」
「いやあ、血管が脈打っててさ。見てるだけで脈が数えられそうだったよ。」
「やめてあげればいいでしょ?」
「やめてやろうとしたさ。第1ゲームの後約束があるって言ってみたけどダメ。第2ゲームの後は疲れたって言ってみたけどダメ。でも丁度ラケットが壊れてね。『これでやめる』と思った。だけど、新しいラケットを出してきて再開ときた。」
「結局どうしたの。」
ベシアは料理にソースをかけようとしたが、容器から出てこない。「…チーフがいない隙に、助手に連絡して…いいですか。」 別のテーブルから容器を持ってくる。「5分したら救急患者だって言って呼び出せって頼んだんだ。」
笑うダックス。「…大変だったわね…。」
ベシア:「仕方ないだろ。でなきゃチーフが心臓発作で担ぎ込まれるところだよ。」 またソースが出ない。
「…でも終わってよかったわね?」
更に新しい容器を持ってくるベシア。「それなんだよ。終わりじゃないんだよな。チーフがまたやろうって言ってるんだけど、今度こそ死ぬよ。」
ダックス:「それは大袈裟でしょう? チーフは 38 にもなってないはずよ?※13
「まだ死ぬ歳じゃないな。…じゃ、そんな心配することもないだろうけど。でも問題はそれじゃない。チーフはプライドが高いんだよ。だけど僕はチーフのことが好きだし、すごく尊敬もしてるんだ。…だから、恥をかかせたくないんだよ。」
結局ソースをかけた料理を食べないベシア。

ギャンブル装置で遊ぶメイズーア。「また勝ったぞ? フン、ツイてるな?」
オドーがやってきた。「老夫婦が告訴を取り下げたよ。釈放だ。」 フォースフィールドを解除する。
メイズーア:「当然だよ。だから言ったでしょ? 人助けだって。」 出ていく。
ため息をつくオドー。

モーンに話しているクワーク。「勝てば倍、負ければゼロ。」 店にはパクレド人がいる。
ロム※14:「青なら店の勝ち。」
モーンが器をひっくり返すと、駒は青色だった。
クワーク:「悪いね、払ってもらうよ。」 店に来たメイズーアに言う。「いらっしゃいませ。」
メイズーア:「プロセッコ。」
「金は払えるんでしょうねえ。飲み逃げはダメっスよ?」
「倍ゼロをやるか?」
「倍にしてもゼロはゼロ。」
「俺が負けたら、これをやるよ。」 ギャンブル装置を置くメイズーア。
「青なら店の勝ち。」
器をひっくり返す。駒を見て笑うメイズーア。
クワーク:「ツイてるな。」
メイズーア:「今日は、運がいいんだ。」
「そうらしいね。老夫婦は証言を断ったとか。」
「何のことだか?」
「そうか? 金儲けの秘訣第47条。『いいスーツを着てる男を信じるな。』※15 軽いふところをごまかすためか、それとも詐欺師かどっちかだ。見たとこあんた、両方だな。」
「仕方ないさ、あんたほど儲かってないんだから。」
笑うクワーク。「そりゃそうだ。」
メイズーアが装置を使うと、また光り輝いた。
クワーク:「こりゃあゲーム機かい、見たことねえなどうやってやるんだ?」
メイズーア:「キーを押すだけだ。」
試してみるクワーク。だが負けた。
メイズーア:「残念だな。」 装置を押すと、勝つ。「なあ言っただろ、今日の俺はツイてるんだ。」
クワーク:「だから何だってえの?」
「…これを買わないか? 手軽な割に面白いぜ? カジノの目玉になること請け合いだ。」
「誰がこんな物を。子供のおもちゃじゃねえか。」
「フン。」
「…俺の甥っ子が…2、3日は喜んで遊ぶかもな? もらっとく。」 クワークはラチナムを置いた。
手を押さえるメイズーア。「それじゃ安すぎる。」
クワーク:「十分だと思うがねえ? 店のおごりだ。」 またプロセッコを注ぐ。
笑うメイズーア。「…売ろうかとも思ったが、酒をおごるってことは…あんたがこれに興味をもってるってことだ。」
クワーク:「何を言うか。あんたの深読みだよう、俺が太っ腹なのはいつものこった。」
「ああ、それは知ってるよ? 伝説だからなあ? …これが欲しけりゃ、いま出した金の 100倍出しな?」
「100倍なんて死んでも出さねえよ。金に困ってんならこれ持ってベイジョーへ行ってみな。飯ぐらいにはありつけるだろうさ。ただし、冷えた飯だろうよ。」
「…いま買っておけば儲けられるのに。」
少しラチナムを追加するクワーク。「これ以上は出せん。俺を怒らせる前に受け取りな。」
また装置を起動させるメイズーア。「…やはり、慌てて売るのはやめた方がよさそうだ。」
クワーク:「勝手にしな。でも勘違いするなよ。本当に俺がこいつを欲しけりゃ、あんたの言い値よりずーっと安い価格で買い叩いてらあ。」
「身体が小さい割に、自信だけは過剰らしいな?」
「商売歴を見てもらえりゃわかる。あんたの逮捕歴と同じさ。」
笑うメイズーア。「じゃごちそうさま。」
睨むクワーク。

クワークの店を出るメイズーア。
また軽装のオブライエンが走っていく。ランニングらしい。
メイズーアはふと、プロムナードにある店に目が留まった。片づけをしている。
店主のベイジョー人女性に近づくメイズーア。「不景気だからねえ?」
店主※16:「いいえ、商売は上手くいってたんだけど。」
「じゃなぜ店を閉める?」
「ここで 9年間主人と店をやってたの。その前は、17年間ベイジョーで商売を。…でも、少し前に主人が亡くなったら、もうやる気が出なくって。」
「そりゃあ違いますよ。独りで働くのは…」
「辛くてね。もう力を合わせてやっていく主人もいないと思うと。」
メイズーアは、商品の一つを手にした。
店主:「あなたもわかるでしょ?」
微笑むメイズーア。

ラケットボールをするベシアとオブライエン。
ベシアがポイントを取られた。「ナイスショット。」
オブライエンがサーブを打つ。
またベシアが負ける。「クッソ!」
オブライエン:「…バカにしてるんですか。」 ボールを適当に打つ。
ベシア:「いやあ、バカになんてそんな。」
「手加減は失礼でしょ。全力でやらないなら相手してくれなくていい。」 ラケットボール室を出ていくオブライエン。

プロムナードを歩くオドーに、クワークが駆け寄った。「おい、ひどいよ! 俺は独占契約結んでんだぜ。」
オドー:「いきなり何の話だ。」
「マータスだよ、あの野郎。」
「奴が何か?」
「…あれを見てみろ!
メイズーア:「どうも、いらっしゃいませ。」 一角に派手なライトの施された店ができており、次々と客が入っていく。「どうも、どうも。ようこそ、クラブ・マータス※17へ。」 笑う。
離れるクワーク。


※12: Keiko O'Brien
(ロザリンド・チャオ Rosalind Chao) DS9第25話 "Cardassians" 「戦慄のカーデシア星人」以来の登場。声:吉田美保

※13: 吹き替えでは「まだ 38 なのよ?」と断言されています。クロノロジーでもオブライエンの年齢 (生年) は不明です

※14: Rom
(マックス・グローデンチック Max Grodenchik) DS9第27話 "Rules of Acquisition" 「フェレンギ星人の掟」以来の登場。声:山崎たくみ

※15: No. 47 "Don't trust a man wearing a better suit than your own."

※16: 名前は Roana (バーバラ・ボッソン Barbara Bosson 「ヒル・ストリート・ブルース」に出演) ですが、言及されていません。「ロアナ」としている日本語資料もあります。声:棚田恵美子、DS9 モリーなど

※17: Club Martus

プロムナード。
クワーク:「あたしゃ契約に結構な額の金を払ってんですよ? DS9 におけるギャンブルはクワークの店に限るってね。」
シスコ:「しかし惑星連邦から見ればその金はカーデシアへの賄賂で、正規の契約とは言えない。」
「奴は詐欺師だ、悪党ですよ。」
「人のことが言えた義理か。」
一緒にターボリフトに乗るクワーク。「そりゃあひといですよ。あたしをあんな野郎と一緒にしないでもらいたいな。」 1階に出る。「忘れたんスか? 司令官が DS9 に残ってくれって言うからあたしは残ったんですよ? ほんとは嫌だったのに。」
シスコ:「勝手なことを言うな、今の店で散々儲けたくせに。」 歩いていく。
「そりゃ今までは順調でしたよ。でもマータスのせいで商売上がったりだ。赤字になる前に何とかしてくれよ!」
メイズーアに連れられて、クワークの店からロムが出てきた。「もう遅いよ、兄貴。」
クワーク:「そりゃどういうことだ。」
「ロムはただ働きはもう嫌だってさ。うちの共同経営者になってくれるんだ。」 クラブ・マータスに入るメイズーア。
微笑むロム。「…引き留めなくていいの?」
クワーク:「引き留めるって、お前をか? ヘ! 笑わせるな。」 大声で笑う。
入っていくロム。
クワーク:「マータス、気をつけないとラチナムをくすねられるぞ。」
ロム:「くすねないよう! ま、ちょっとはね。」
うなるクワーク。

クラブ・マータス。
中は客であふれており、ロムもいる。
ギャンブル装置がいくつも並んでいる。
アルシアが座っていた。「マータス。ヴルグタ政府が私の入札を認めてくれたのよ?」
メイズーア:「それはよかった。…どうしたの。」
「でも、鉱山を採掘することによって生ずる影響についての調査レポートを提出しなければ、採掘は認めないって言うの。…でもお金はもう残っていないのよ。調査するお金なんてないわ? しかも一週間以内に。」 泣くアルシア。
「いくらいるんだい。」
「10,000イシク※18よ。」
「10,000イシクもいるの。そりゃあ、簡単には出てこないよ。」
「わかってるわ、誰か投資してくれないかしら。」
「僕に心当たりがある。…でも、投資の見返りに何が期待できるのかなあ?」
「採掘さえ始められれば、10倍にして返すわ?」
「…大丈夫だよ。君の夢のために僕も、全力を尽くすよ。」
「ああマータス。この御恩は忘れないわ?」 出ていくアルシア。
「どうしたんだロム。」
銀色の上着を着て、食べ物を調べているロム。「これは大丈夫そうだ。兄貴が何をするかわからないからね。」
メイズーア:「でもまさか毒は盛らないだろう。」
「うーん、毒まではやらなくても下剤※19ぐらいはやるよ。あの兄貴ならね。」
「心配することないよ。僕は最近、ものすごくツイてるんだ。悪いことなんて起こりっこないって。」 店員の女性を抱き寄せる。
メイズーアは、店主のベイジョー人が来たことに気づいた。「勤務中に誘惑するのはやめてくれ! ああ…。乾杯だ。」 テーブルからグラスを手に取る。「プロムナードの女王様に。事業の才能だけでなく…美しさと魅力に満ちあふれた、君に乾杯。まだ誉め足りないけど? …乾杯。僕の宝に。…満足してくれてる?」
着飾っている店主。「あなたはどうなの?」
メイズーア:「僕たちは最強のペアだ。いつまでも君と一緒に、続けていきたいと思ってる。」
「それはプロポーズ?」
「これどう思う?」 イヤリングを渡すメイズーア。
「…まあ、すごく綺麗だわ?」
「君の美しさには負けるけどね?」
客が喜ぶ姿を見る店主。「…あのゲームは素晴らしいわ? どこで見つけたの?」
メイズーア:「友達がくれたのをレプリケーターで複製したんだ。」
「あんなゲーム見たことないわ?」
「だから受けたのさ?」

司令室のキラ。「それじゃあラボに必要なのはこれでいい?」
ダックス:「十分よ。…うーん、信じられないわ?」
「どうしたの?」
「このプログラムをずっと探してたのよ! カーデシアが撤退する時、深いコードレベルに埋めてっちゃったの。」
「どうやって見つけたの。」
「向こうから勝手に出てきてくれたの、今日はツイてるわ。」

倒れているオブライエン。
ベシア:「チーフ、大丈夫か。」
オブライエン:「…どうしたんだ。」
「僕の返した低いボールに滑って、転んだんだ。」
「滑って転んだ?」
「飛んできたボールを踏んじゃったんだよ。」
「ああ…。」
「少し、休んだ方がいい。」
「いやあ、平気です。サーブを。」
通信が入る。『ドクター・ベシア、医務室までどうぞ。』
ベシア:「悪いね、呼び出しだ。」
オブライエン:「じゃあ、また今度やりましょう。」
「いやあそれが、悪いけど…昔ほどラケットボールが楽しくないんだよ。申し訳ないけど、別の相手を見つけて。」 出ていくベシア。
ボールを投げるオブライエン。

その帰り、クワークの店に入るオブライエン。店には客は誰もいない。
オブライエン:「客は、どうした。」 だがモーンだけは、カウンター席の端でひじをついている。
クワーク:「クラブ・マータスに取られちまってね。マータスの奴。…ちきしょう、何だってんだい。俺だって人の話ぐらい聞けるよ。」
痛むオブライエン。
クワーク:「どうしたの。」
オブライエン:「…転んだんだ。」
「ほーらちゃんと聞けるだろ? 何で転んだの。」
「…ドクターとラケットボールをしてさ。」
「どこで。」
「コートに決まってるだろう。」
「スコアーはどうだったの?」
「うるさいな…」
「俺が聞いてやるからさ、悩みを話してみなよ。」
「ドロップショットさえ決まれば何でもないんだ。」
「負けたのか?」
「もう一息で勝てたんだ。向こうの方が若いだけだよ。経験では勝ってるんだ。」
「年老いたチャンピオン…」
「テクニックじゃ負けない。」
「若武者が挑む…」
「俺は、スロースターターなんだよ。あとワンゲームやってりゃあなあ。」
「こいつはいいぞ?」
「ドクターをコテンパンにのしてやれたのに。」
「店に客が戻ってくる。」
「…どうも?」 クワークが話を聞いてないことに気づき、出ていくオブライエン。
「まいど。見てろよ、マータス。一気に挽回だ。」

キラはデスクを叩いた。「もう!」
シスコ:「どうかしたのか。」
「なぜか端末機が壊れたんです。」
ダックス:「えー?」
「これでここ何週間の仕事は全部パーだわ。」
「バックアップも?」
「そう、バックアップも。」
シスコ:「変だなあ。さっきからこの手のハプニングが耳に入ってくる。小さな事故で、医務室に来る人も増えてるそうだ。滑って転んだり、ターボリフトのドアが開く前に入ろうとしてぶつかったり。」
ダックス:「私はツイてたけど、ツキのなさを移さないでよ、キラ。」
キラ:「何言ってるの。ただの偶然よ、こんなもの。」 離れる。
大きな音が響いた。声を上げた後、ため息をつくキラ。

ますます盛り上がる、クラブ・マータス。
メイズーアはロムに詰め寄る。「全員が大当たりを当てた? …まさか君の企みじゃないだろうな。」
ロム:「ああ…違いますよ…」
「まあ、それは不可能だしな。仕方ない、払ってやれ。」

倍ゼロゲームの駒をもてあそぶクワーク。「銀河最大の挑戦。世紀の…大決戦。ワームホールを越えるスリル。」
容器に入れて出すと、青色だった。
喜ぶクワーク。「青が出れば店の勝ちだー!」 笑う。


※18: isik

※19: 原語では「腸菌 (intestinal bug)」

モーンたち客の前で、カウンターに立って話すクワーク。「アクションがお好きな方。期待してて下さい? 皆さんに、感動を届けます。名勝負だけが醸し出す手に汗握る一瞬! 乞う御期待、世紀の大決戦。さあ登場です。宇宙艦隊の誇るチャンピオン。ワームホールを越える伝説の男。お待たせいたしました。『メカの天才』、マイルズ・オブライエンです。」
ケースを持って駆け込んできたオブライエンは拍手を受ける。先にベシアも来ていた。
オブライエン:「どうなってるんです? 緊急呼び出しされたのに。」
ベシア:「僕もなんだ。でもどこが緊急なんだ?」
クワーク:「どうもー。対する挑戦者は若く、恐れを知らぬ…ジュリアン・ベシアです! リングネームはもちろん、『ドクター』! 銀河系最大の決戦です。」
オブライエン:「おい、ちょっと来い。」
「どうもー。実は今回の試合については選手お二人のたっての希望によりまして、店の利益の半分をベイジョーの児童育英基金に寄付することになっております。」
「何?」 オブライエンは、後ろにベイジョーの僧侶たちが並んでいるのに気づいた。
「…メカの天才対ドクターの世紀の一戦は、明日 12時から開始です。どちらが勝つか奮って賭けに御参加を。試合開始までお暇な方は、ぜひ当店でお楽しみを。」 笑う客たち。
ベシア:「こんなの冗談じゃないぞ。当事者に相談もなく。」
「専属プロモーターとして試合を組ませてもらっただけですよ。」
「誰が専属プロモーターだ!」
「ここにサインを。」 パッドを差し出すクワーク。
オブライエン:「私はやらんぞ。」
「そりゃ怒るのはわかりますがねえ。でも、ベイジョーの方々も…これで今年の冬に備えて子供たちに毛布を買えるって喜んでるんです。…でもまあ…可哀想だが子供たちには我慢してもらおう。」
ベシア:「…仕方ない。もう一度お手合わせ願いましょうか。」
二人に近づく僧侶たち。
クワークは、クラブの前に立っているメイズーアに向かって微笑んだ。
中に戻るメイズーア。

司令室のダックス。「信じられないわ、見つけたプログラムが消えちゃうなんて。」
シスコ:「チェックはしてみたのか?」
「うん、でもダメ。…変なのよ。コンピューターが勝手にプログラムを持ちだしてきて、また飲み込んじゃったみたいなの。」
「少佐、大丈夫か。」
戻ってきたキラ。「何ともありません。医務室の患者も、ほとんどそうでしたけどね?」
シスコ:「まだ大勢?」
「ええ、ドクターがもうてんてこ舞いしてました。」
「そんなに事故が多いのか。」
「ええ、すごいですよ?」
ダックス:「事故が増えたのと、システムに故障が増えたのと関係あるのかしら。」
「関係ないわよ、私はただつまずいて転んだだけだもの。偶然に決まってるわよ。」
シスコ:「…この現象には何か原因があるはずだ。…例えばウィルスとか、宇宙からの干渉とか。」
ダックス:「しかも人間と機械の両方に影響を及ぼすものね?」
「ああ、頼む。」

メイズーアに話すロム。「俺は男※20の中でも耳が小さくてねえ。それをクワーク兄貴はバカにするんだよ。女みたいだってはやすんだ。」
メイズーア:「しかしわからないなあ。あれほど順調だったのに。」 クラブには客がほとんど残っていない。
「俺の命名の日※21に、兄貴は俺へのプレゼントを盗んで、元の値段より高く売り払って大儲けしやがったんだ、ひどいだろう?」
「うるさい! お前の子供時代のことなんか、俺はどうだっていいんだ! …このままじゃクラブはダメになる。一体何でこんなことに。」
「ツキがない時もありますよ。」
「俺にはそれはない。こういう時は、女の子に甘えなきゃやってられないな?」 店員の女性に抱きつく。
その様子を、やってきたベイジョー人店主が見た。「やっぱりね、どうせそんなことだろうと思ってたのよ!」
笑うメイズーア。「冗談だよ、冗談。」
店主:「この場所に店を出す権利は、今でも私がもっているのよ? あなたには明日までに出ていってもらいますから、綺麗さっぱり全部持っていってよ!」
追いかけるメイズーア。「でも、でも…」

そのまま外に出るメイズーア。「でも、待ってくれよ。」
話を聞かずに去る店主。
ロム:「ああ…とんだことになって。…兄貴を捨てた罰だ、これからどうする?」
メイズーア:「どうするかね?」 アルシアがいるのに気づいた。「いや、まだこの手が残ってたぞう?」

クラブ・マータス。
金庫を開けるメイズーア。「これが、店の儲けだ。全部合わせれば何とか、10,000イシクにはなるだろう。」
アルシア:「ああ、マータスありがとう。何と御礼を言ったらいいか。」
「君を信じて賭けるよ。…10倍に増えるんだものな?」
「後悔させないわ? お互いお金持ちになりましょう?」 出ていくアルシア。
ギャンブル装置を試すメイズーア。負けた。


※20: 吹き替えでは「兄弟」となっていますが、原語では boys としか言っていません。そもそも 2人兄弟のはず。また、その後の「それをクワーク兄貴は〜」からは、原語では「(耳のことで) からかわれたんだ。クワークは最悪だよ。みんなに俺が養子だと言ったんだ」となっています

※21: Naming Day
「プレゼントを盗んで」は、原語では「プレゼントを古い野菜と取り替えて」とまで言っています

上半身裸で、鏡を見ているオブライエン。「弱点はバックハンドだ。低いボールで、左を攻める。」
ケイコがユニフォームを持ってくる。
それを着るオブライエン。「リターンはコーナーを突く。…そして鋭く左へ。もし返されたら、後ろに高く返す。…それから…」
ケイコ:「勝っても負けても、今夜は御祝いしましょ? …マイルズ待って。シルクのスカーフよ? 中世の日本のデザインで、私の香水の香りがするわ。」 オブライエンの額に鉢巻きとしてつけた。キスし、胸を叩く。「がんばってね。」

ユニフォーム姿で、腕立て伏せをしているベシア。
クワークが診療室に入る。「ドクター。いい物を持ってきました。ベイジョー星からの差し入れで、ドクターの御協力に対する感謝の印だそうです。」
ベシア:「ああ、そこに置いといて。」
「ああ…飲んでみないんですか?」
「…何だこれ。」
「強壮剤みたいな物らしいですよ。古代から伝わる秘薬なんだそうで、これを飲めば…すごい力が湧いてくるとか。試合前に飲むには最高の薬ですよ? …でも、ドクターははなっから…民間療法は信じてませんよね。」
「いやいや。古くから伝わる薬の中には、効き目のある物もあるんだよ。何で作った薬?」
「それは言ってませんでしたけど、天然の材料で作った物でしょう。ああ、ベイジョー人が言うには一気に飲まないと効果がないそうですよ?」
「へえ、そう。」 ベシアは立ち上がった。
「何するんです!」
「中身を分析するんだ。」
「ああ…準備運動はいいんですか?」
「すぐ終わるから平気さ。」
「だけど、ベイジョーを疑うんですか?」
モニターを見るベシア。「ああ、水に、スクロース、ブドウ糖、ジェミナルの根の抽出物※22。穀物粒子、イースト、シンサエノル。…それに、17ミリグラムのハイヴロクス化キント・エチルメタセタミン※23だと…?」
クワーク:「天然のものばかりでしょ?」
「これは麻酔薬だぞ、クワーク。」
「おお…」
「こんな物を飲んだら、まっすぐ立つことさえおぼつかない。八百長を企んだんだな。」
「俺がそんな。」
「自分がチーフの勝ちに賭けたからだろ、違うか?」
「誰もチーフには賭けてませんよう、みんなドクターに賭けてる。ドクターが勝ったら儲けはゼロだ。もし儲けが出なけりゃ、ベイジョーに寄付もできないことになる。ベイジョー人もガッカリ、子供たちも毛布を買ってもらえない。…でも? ドクターが負ければ、店は儲かるし子供たちに毛布も買ってやれるわけだ。」
「おい、まさか僕にわざと負けろって言うのか?」
「…子供のためです…」
「冗談じゃないよ。」
「でも毛布が…」
「毛布は君が何とかしろ。万が一ベイジョーに毛布が届かなかったら、僕とチーフとで君を訴えるからな。僕は本気だぞ、わかったか。」
「わかった。」
「それじゃ、出てってくれないか? 準備運動があるんでね。」
ため息をつくクワーク。

シスコは尋ねた。「何か見つけたんだって?」
ダックス:「見つけたんですけど、意味がわからないんです。これを見て?」 モニターに図が表示されている。
「恒星ニュートリノ※24だ。」
「何か気づきません?」
キラ:「量が多いとか?」
「いえ、回転よ。自然界の確率の法則からいって普通なら、半分が時計回りに回転し半分が反対に回るものなの。…なのに、これは 80%が時計回りだわ?」
「事故が増えたのは恒星ニュートリノの回転が異常だからってこと?」
「…いいえ。全ての原因はどこかほかにあるのよ。ステーションの外のニュートリノは正常なのに、なぜかステーションの中だけこの珍現象が見られるの。」

握手するオブライエン。「いいゲームをしましょ?」
ベシア:「お互いに。」
二人は位置につき、試合が始まった。
ベシアは取れない。

中継映像がクワークの店に流されている。
クワーク:「まずは、オブライエンがワンポイント先取。さあこれからです。」

今度はベシアのラケットが折れてしまった。

ベイジョー人僧侶やモーンもモニターを見ている。
クワーク:「2-0 でオブライエン。ドクターは調子が出ないようです。」

メイズーアは聞いた。「彼女はどこだ?」
ロム:「彼女?」
「アルシアだよ。今日入札の結果がわかるはずなんだ。」
「でも一言の断りもなく、俺の金を投資するなんてひどいよ!」
「お前の金?」
「儲けの 4分の1 は俺のものなのに、勝手に全部使ってさあ!」
「4分の1 って言ってもそれは経費を引いた後の話だ。」
「経費って、何の経費だよ!」
「経営資金だろ、諸経費だろ、資本再構成だろ?」
「…もう頭に来た!」 上着を脱ぎ捨てるロム。
「どこへ行くんだ。」
「兄貴のとこさ! 同じだまされるなら身内がマシだ! さあ帰るぞ。」 女性と出ていくロム。
服を投げ捨てるメイズーア。

壁にぶつかるベシア。

ベシアが倒れる映像が流れ、客が騒ぐ。
クワーク:「…ベシア選手の不調が続いています、オブライエン 9 対 3。」
オブライエンがカメラに向かって言った。『クワーク、中継機を切るぞ。』
クワーク:「そんなの無理だ。」
ラケットで突くオブライエン。映像は消え、反対側が透けて見える。
不満を述べる客。
クワーク:「皆さんお静かに。選手はここで 3分間の休憩です。これから賭けたい方。どうぞ 3分だけ受け付けますよ。」

尋ねるベシア。「何で切ったんだ。」
オブライエン:「どうもおかしいんです。」
「…僕はね。でも君は絶好調だろ?」
「生涯最高のゲームですよ。でも、15年前毎日 5時間練習しても打てなかったショットが打てるんです。絶対変だ。」
「僕もこんなにミスが多いのは初めてだよ。※25
「…壁に、ボールを投げてみて下さい。」
反射したボールは、手を広げたベシアではなくオブライエンの方に戻ってきた。
ベシア:「僕に、跳ね返るはずなのに。今度は君だ。」
オブライエンが投げると、またオブライエンのところに戻る。
オブライエンは適当に壁に投げつけた。反射を繰り返し、ボールはやはりオブライエンが取る。
壁の通信機に触れるオブライエン。「司令室。」

ラケットボール室。
ボールが跳ね返る音が続く。そしてオブライエンの手のひらに収まった。
ベシア:「何回やっても、チーフに戻るんです。」
オブライエン:「10回以上試しましたけど、必ずです。」
「いくらツキがあってもありえませんよ。」
ダックス:「でも確率からいえばありえなくはないのよ?」
オブライエン:「確率ですか?」
シスコ:「ステーションのニュートリノが、同方向に回るとか。なぜか同じ時に大勢の人間が、事故に遭うとか。まずい時に限って、機械が故障するとか。」
ダックス:「その通りよ? 確率論からいえば、滅多に起こらないことが頻繁に起こってるわけ。」
「何ものかが、自然界の確率の法則をねじ曲げているんだ。」
オブライエン:「それで、そいつの正体は?」
ダックス:「探す方法はあるわ。」

ギャンブル装置を試すメイズーア。また負けた。
トリコーダーを使いながら、ダックスがやってきた。「ここのニュートリノは、98%が時計回りよ。」
メイズーア:「ゲームですか? どうぞ?」
シスコ:「遊びに来たんじゃない。どうだ。」
ダックス:「…100%時計回り。この機械よ。」
メイズーア:「この、ギャンブル機が…どうかしましたか。」
「なぜかこの機械は、自然界の確率の法則をねじ曲げてしまっているのよ。」
「そのことだったのか。」
シスコ:「何が。」
「この元をくれたエイリアンが…人生全て運だって言ってたんです。…きっとこういうことなんですよ? もし勝てば、ツキが巡ってくるけど…負ければ…」
ダックス:「でもこれはステーション全体に影響を及ぼしてるわ? ギャンブルをしない人にまで。」
「そんなバカな。それは、ありえませんよ。」
シスコ:「ちょっと待てよ。元のマシンがあるって言ったな。」
「ええ、もっと小さいのが。それをレプリケーターで大きく複製したんです。」
「…大きく複製ねえ。…でスイッチの切り方は?」
「いえ…切り方は知りません。」
「じゃあ最初どうやってスイッチを入れたんだ。」
「いやあスイッチも何も、ただ…レプリケーターに命令して、元のマシンをコピーさせただけなんです。…恐らくパワーを内蔵してるんじゃないかと思いますが。」
「ダックス。」
「ちょ、ちょっと。一体何する気なんです。」
シスコとダックスは、フェイザーでギャンブル装置を破壊した。
複製した分も全て壊す。
シスコ:「さて、君の処分だが。」
メイズーア:「私の責任だとでもおっしゃるんですか?」
「ああ、言いたいね。逮捕できる罪状を、思いつかないのが残念だよ。」
オドーがやってきた。「いや逮捕できますよ。『例の』お年寄り夫婦が気を変えてねえ。やはり君を告訴してくれることになったんだ、助かったよ。」
メイズーア:「…フン。」 笑い、オドーに連行された。

拘束室。
ベッドで横になっているメイズーア。
アルシアがオドーに連れられてきた。
メイズーア:「アルシア。釈放しに来てくれたんだね?」
笑うアルシア。
オドー:「さあ入って?」 アルシアを独房に入れ、フォースフィールドを張る。
メイズーア:「一体どういうことだ。」
「クワークに聞け。」
クワーク:「この俺をだまそうとしたんだよ。」
メイズーア:「…だます?」
「鉱山採掘ってな。そんな古い手に引っかかる奴もまあいないと思うが大丈夫だよマータス。俺が今そこから出してやる。」
「見返りに何を出せって言うんだ。」
「何も? お前が哀れでね?」
オドー:「ハ!」 出ていく。
メイズーア:「からかって楽しんでるな?」
クワーク:「ああ、出し抜いたとばかり思ってた俺に結局は助けてもらうんだからなあ。」 笑う。「こんなに胸の空く思いは久しぶりだぜ。」
「君が楽しいなら私も嬉しいよ? ステーションから出て行くのに、2,000イシクほど用立ててもらいたいね?」
「…お前俺に、金をもらう気でいるのか? バーカを言うな。今更そんなことが頼めた義理かよう。」
「俺にこのステーションにいて欲しいなら別だが?」
「ま、いいだろう。なら、500イシクだけ貸してやろう。貸すだけだぞ? 500 あれば貨物船には乗れる。」
「1,500 でもいい。経費ってもんがいるからね?」
「なら 600 だ。」
「1,200 だ、俺にもプライドがある。」
「金儲けしたいならプライドは捨てろ。※26金儲けの秘訣第109条。」
「…わかった。800 でいい。」
クワークは、言った。「その調子だ。弟子にしてやろう。」


※22: tribnel root extract
吹き替えでは「ジェミナルの根の抽出物」と聞こえます

※23: hyvroxilated quint-ethyl metacetamine
吹き替えでは「水酸化物キント・エチルメタセタミン」。水酸化物=hydroxide

※24: solar neutrinos

※25: 原語では「そして僕はプライゴリアン・マンモス (Plygorian mammoth) の側面にも当てられないよ」

※26: No.109 "Dignity and an empty sack is worth a sack." 直訳すると「威厳 (プライド) と空の袋なら、袋に価値がある」

・感想
クワークの商売敵が登場。マータスはガイナンの放蕩息子という設定で、サブレギュラーとする案もありましたが、どちらも消えました。確率の法則をねじ曲げるというプロットが突拍子もなくて面白いですね。そんな機械をあっさりレプリケートできてしまうのも、また怖い…。
原題の "Rivals" という点では、ベシアとオブライエンも含まれます。撮影に苦労したというラケットボールのシーンでは、ベシアが身体に密着したユニフォーム姿を披露。対してオブライエンは自室で上着を脱ぐシーンがありますが、ベシアのそれは最後の最後、"What You Leave Behind" 「終わりなきはじまり」まで待たねばなりません。


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