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ヴォイジャー エピソードガイド
第77話「時空侵略戦争」(後)
Year of Hell, Part II

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・イントロダクション
※1133日目。「艦長日誌、宇宙暦 51425.4。我々はもはや金属の塊に過ぎない。宇宙空間の異変にも、エイリアンの攻撃にもなす術を失い、第9等星雲に避難していた。」 紫色の星雲の中に、ヴォイジャーはいた。
通路も同じ色のガスで充満している。その中をマスクをつけたジェインウェイとキムが、ライトで照らしながら歩いている。パネルを操作するジェインウェイ。「ちょっと、どうしてよ。踏んだり蹴ったりだわ。緊急用フォースフィールドを作動させてるっていうのにどうしてガスが入ってくるの?」
「換気システムが機能不全を起こしているようです。」 キムはしゃがみ、回路を扱う。「デッキ内の浸透圧をリバースさせてみるんで、ちょっと待って下さい。」
回路が火花を吹いた。「サーキットリレーがガスでやられてます」というキム。
「つなぎ直して。」 せきこむジェインウェイ。
「あと 3分でエアーが切れます。」
「どれくらい息を止めてられる?」

「キム少尉は安静が必要です、あなたにも。」 依然咳をするジェインウェイに、ブリッジで説明するドクター。トリコーダーで診察しながら、ジェインウェイを追いかける。
「ハリーはどう?」
「窒息しなかったのが不思議なくらいです。あのデッキにいられるのは 8分が限度といったはずです。それを 12分もいるなんて。」
「艦内にも星雲を作りたい? ほっとけば、ほか 2つのデッキにもガスが充満するのよ。ベラナ、反応炉は?」
操舵席に座っているトレスが答える。前のスクリーンは破損し、映像は映っていない。「ワープナセルの片方は停止。もう片方もほとんど機能してません、艦長。」
「ましな方にパワーを集中させて。」
咳をするジェインウェイ。ドクターはいう。「肺胞が薬品による炎症を起こしている。48時間の安静を命じます。」
「無理よ。仕事が山ほどあるの。」
「クルーは 7人もいるんです。あなたは艦長だ。離任を。」
「トリオキシン※2を打ってくれない? 少しは呼吸が楽になるわ。ベラナ、転送準備をお願い。」
「了解」と答えるトレス。
ドクター:「トリオキシンは緊急の場合のみ、その場しのぎに使うものです。あなたの肺には適切な処置が必要だ。これは、ドクター命令です。」
ジェインウェイ:「艦長命令よ。トリオキシンを打ちなさい。」
「了解。艦長の命令とあれば、医療主任の限界より優先しましょう。」 ハイポスプレーを打つドクター。
「ありがとう。ベラナ、続きを。」 いまだ苦しむジェインウェイ。

※1: このエピソードは、1998年度エミー賞シリーズ部門特殊映像効果賞にノミネートされました

※2: trioxin

・本編
暗い部屋の隅で寝ていたチャコティは、光で目を覚ました。ドアから入って来たクレニム人が無言で彼を起こし、外へ連れ出す。

テーブルの上に、様々な豪華な食事が並んでいる。椅子に座ったアノラックスが、三角錐の置物を手にとって見つめている。やってきたチャコティに話しかける。「どうやら、寝てたようだな。」
「トムはどこだ。」
「本当ならば、もう来ててもいい頃だがな。あんなに強情な若者は初めてだ。」
「隔離されてもう 2ヵ月になる。その間じゅう体を調べられ、どんな態度をとれと?」
「多少の品格と、つつしみが欲しい。彼には微塵もない。」
「何が望みだ。」
「とりあえず、情報だ。」
パリスもオブリストに連れられ、アノラックスの部屋に入った。「何か御用でしょうか、閣下。無事か?」 うなずくチャコティ。オブリストは出ていく。
アノラックス:「調理室にいって貴重な高級料理を用意させた。もうこの船の中でしか味わえん。座りたまえ。」
2人は席についた。アノラックスは立ち上がり、瓶を手に取る。「マルコシア産のワイン※3だ。ビンテージものだぞ。もうこの 1本しか存在しない。」 グラスに注ぐ。「君らの艦長は、故郷に帰る途中だといっていた。遥か彼方の惑星らしいな。未知の宇宙域で、先の予測も立てられぬまま孤独に航行する船が、我々のミッションを、どんなに複雑にしたか。」 笑うアノラックス。
「そりゃ良かった」というパリス。
「だがもはや君たちの船は、ダメージを受け、機能していない。もしも私が、あっという間にヴォイジャーを元の姿に戻せると言ったら? 我々が出会う前に時間を戻すのだ。その方がアルファ宇宙域に近づけるかもしれん。」
チャコティ:「歴史を変えられるという兵器を使ってか?」
「そうだ。私は運命をコントロールできる。分子一つから一国の文明に至るまでをな。ワインは?」
「実に美味い。」
「これは、かつて栄えたマルコス人が唯一残したものだ。ほかは全て、街も文化も、種族自体ももはや存在しない。私のせいだ。ここに並んでいる料理をもたらした文明も、時空から消し去った。ミスター・パリス、君がむさぼっていたものは、アルスラ帝国※4のものだ。この船には数百もの文明が詰まっている。時空兵器を使うだけではなく、消し去った歴史を背負っているのだ。君たちも歴史のコレクションの一部になるはずだった。だが、君らの船は助けてやろう。」
パリス:「なぜ?」
「同情とでも言っておこう。君たちは故郷を目指している。私も一緒だ。ここに手を取り合おう。」
チャコティ:「それで条件は?」
「ヴォイジャーを元に戻す数値を割り出すため、この宇宙域での君らの経験を聞かせてもらいたい。どんな種族に遭遇し、君らの存在がどのような影響を及ぼしたか。」
パリス:「ヴォイジャーが見つからないんだろう? ジェインウェイ艦長はこの 2ヶ月間、うまくあんたをまき続けてるらしい。じゃなきゃとっくに破壊されてるだろうからな。」
「君らを解放してやろうといってるのだ。それが嫌だというのなら、ヴォイジャーを見つけ次第破壊するまでだ。」
「俺たちを元に戻すために、後いくつの文明を消滅させるつもりだ。冗談じゃない。人殺しなんかに手を貸せるか。」 部屋を出て行こうとするパリスを止めるチャコティ。
「トム、待て。分子の運命までコントロールできるといったが、正確な数値を割り出せれば、本当にヴォイジャーを元に戻せるのか?」
アノラックス:「可能性はあるが、非常に困難でもある。だから手を貸して欲しいのだ。」
パリス:「フン、これ以上こんな話を聞くくらいなら、独房にいた方がましだ。」
チャコティ:「トム、座れ。」
「こんな奴、信用できるか。」
アノラックス:「その通り。この状況下で信用できるはずがない。だが今必要なのは信用じゃない。互いの存在だ。」 テーブルのスイッチを押すアノラックス。ドアが開き、オブリストがやってくる。「オブリスト、新しい部屋に案内してやれ。快適に過ごせるようできるだけ努力しよう、ミスター・パリス。君も少しは、心を開いて欲しい。」 パリスはオブリストと共に、出て行った。ワインを飲むチャコティに話しかけるアノラックス。
「君には感心したよ。時間の繊細さを理解している。」
「アカデミーのヴァスバインダー教授※5が聞いたら驚くだろう。時空力学※6は落としてる。」
「学問や理屈を超えたところでだ。本能でだよ。時間というものを正確に理解できる者は、少ない。その特性を、ムードを。君はわかっている。」
「わかりたいとは思っている。」
アノラックスは微笑み、グラスを差し出した。

いくつものカップが掲げられる。「遠く離れた友に。」 「友に。」 「乾杯。」 「乾杯。」 「乾杯。」 食堂のテーブルに集まった、クルー 7人。飲み物を口にしたキムやセブンは、顔をゆがめる。自分も飲んだニーリックス少尉は、「どう?」と尋ねる。
トゥヴォック:「面白い。」
キム:「悪くない。悪くないよ。」
トレス:「これ、一体何?」
ニーリックス:「忍耐の特効薬とでも言っておこう。中身はアミノ酸や炭水化物や、とにかくこのストレスの溜まる状況に必要な栄養素が全て入ってる。」
「栄養の固まりね。」
「ああ、まあね。でも厳密に言うとピューレ。それに水を混ぜて、タラクシア・スパイスを効かせたんだ。」
セブン:「不快な味だ。」
吹き出すキム。
「味など無意味だがな。」
ジェインウェイ:「こうして、全員が揃うのは久しぶりね。最新情報を聞かせて。修理の状況はどうかしら。」
ドクター:「私のプログラムエラーは、無事完治いたしました。」
「パワーグリッドは?」
キム:「32%まで復活してます。50%までには、後 2、3日かかるでしょう。」
「ワープドライブ。」
トレス:「右舷のナセルが、まだ修理中です。」
「直るのは?」
「3週間後、最短で。」
短くため息をつくジェインウェイ。「まさかこんなに長い間、この星雲に留まるとは思わなかったの。これ以上グズグズしてられない。同盟国を探し、一刻も早くアノラックスを倒しに行かなくては。明日の朝、一番でこの星雲を出発します。」
セブン:「艦長。それはだめだ。」
「なぜ。」
「この船はまだ無防備すぎる。完全に機能が回復するまで、待つべきだ。」
「ご忠告感謝するわ、セブン。でも従えない。明日朝 8時、ここを出発します。」 食堂を出ていくジェインウェイ。

「クルーの前で艦長に異議を唱えるのは、不適切だ。」 トゥヴォックは自分を補助して歩くセブンに言う。
「私はただ、艦長の間違いを指摘したかっただけだ。」
「君の見解だ。」
「あなたは? 私と同意見では?」
「私はジェインウェイ艦長を心から信頼している。我々の口出しは、筋違いだ。」
「私は、ボーグとして集合体に服従してきたが、ここへ来て、個人として考え行動することを学んだ。なのに、今度は個人の意見を控えろという。」
「これだけは覚えておけ。艦長は常に正しい。」
「論理に不備があってもか。」
「恐らく。」


※3: Malkothian spirits

※4: Alsuran Empire

※5: Professor Vassbinder
多くの専門分野に渡る才能をもった科学者。TNG第151話 "Timescape" 「時空歪曲地帯」、TNG第172話 "Journey's End" 「新たなる旅路」より。「教授」としか訳されていません

※6: temporal mechanics

161日目。クレニム時空兵器艦。壁面のタイムライン図の前で、アノラックスに説明するチャコティ。
「構成要素 37329。彗星だ。約 8ヶ月前、ヴォイジャーはこの彗星を避けるようコースを変更した。それがクレニム領に侵入する原因になったらしい。」
「つまりその彗星を、歴史から消せばいいのか。」
「その通り。ヴォイジャーはコースを維持し、クレニム領を迂回することができる。」
「ふむ。実に明解だ。シミュレーションを。」
「時空侵略開始。」 タイムライン図の線が乱れていく。みてられない、という顔をするアノラックス。「これは?」と尋ねるチャコティ。
「彗星は消滅した。50光年以内の全生命体が、歴史から消されたのだ。計算上だが、君はおよそ 8,000もの文明を消し去った。」
「彗星の歴史は考慮に入れていなかった。」
「40億年前、彗星のかけらが惑星に衝突した。そのかけらの炭化水素がその惑星に数種類の植物を生み出し、それが人類の誕生を促したのだ。そしてついには宇宙探査が可能な文明に発展し、植民地をもつに至った。」 コンピューター画面上に惑星の姿が出ている。
「彗星を消したせいで、その全てを変えてしまったのか。」
「過去も、現在も、未来もな。確かに存在し、息をしていた人々だ。君と違って、私はそれを実行した。私がこの時空兵器を発明し、初めて攻撃したのは、リルナー※7だ。まるで奇跡のようだった。奴らは歴史から消え、わが種族が一瞬にして勢力を回復したのだ。しかし問題もあった。植民地内に奇病が蔓延しはじめ、1年以内に 5,000万人が死んだ。私は忘れていたのだ、リルナーが我々に非常に重要な抗体を発明したことを。私はその抗体まで消し去ってしまった。」
「それで時間を戻そうとしてるのか。だが問題を解決しようとする度、新たな問題が生じてしまう。」
「私の苦悩など想像も及ぶまい。何千の世界、何十億の命を消し去り、蘇らせ、また消し去る。その行為を正当化するため、『消したわけじゃない、存在してないんだ』、時々そう、自分に言い聞かせている。」
「それを 200年も続けているのか。なのにまだ成功すると。」
「君もヴォイジャーが帰還できると信じている。降りかかる困難は数え切れんはずだ。なのに航行を続けている。」
「そうだ。だが全ての障害を破壊してはいない。」
「だから手を貸して欲しいのだ。共に、クレニムとヴォイジャーを復活させ、私が消したものを取り戻したい。」
「先は長そうだ。」
「来い。この船の心臓部を見せよう。時空コアだ。」
アノラックスについていくチャコティ。

180日目。宇宙空間を浮遊する無数の細かい岩石が、ヴォイジャーに迫っている。指示するジェインウェイ。
「急いで。」
トレス:「これがベストです。」
キム:「艦長、ディフレクターが停止してるため、流星の粒が船体に衝突を続けてます。」 ぶつかる音が連続して響く。
ジェインウェイ:「非常用パワーをディフレクターに。」
トゥヴォック:「余裕ありません。」
ジェインウェイは立ち上がった。「ディフレクターコントロールにいるわ。」
「艦長、あのセクションは危険レベル4 に指定されています。」
「わかってる。」
止めようとするが、何も言えないキム。

通路を進み、コントロールの部屋のドアを手動で開けるジェインウェイ。だが中では炎が燃えさかっていた。「あなたに試されてるみたいね、ヴォイジャー。」 コミュニケーターを押す。「ディフレクターコントロールで火災発生。反応炉は?」
ブリッジのトレスが答える。「ワープコア依然停止。」
キム:「塵の濃度がどんどん増しています。」
部屋の前で、入るかどうかためらうジェインウェイ。『パイロンが曲がりました』というキムの通信。ジェインウェイは周りを見渡し、落ちていた隔壁の一部を手にした。「ブリッジ。今から入るわ。ディフレクター稼動準備。ドクターに火傷を負って戻ると伝えてちょうだい。」
トゥヴォック:「艦長!」
「早く!」 ジェインウェイは大きく息を吸った。「お手柔らかに。」 隔壁を盾にし、火の中へ入る。
コンソールで確認するキム。「艦長が手動制御にアクセス。素粒子エミッターを安定させてます。やった! ディフレクター始動。」
トゥヴォック:「ディフレクターフィールド始動。」 衝突音が止まった。「ブリッジからジェインウェイ。艦長、応答して下さい。」
部屋の中で、腕や顔に大火傷を負ったジェインウェイが倒れていた。

食堂。寝ているジェインウェイを、ハイポスプレーを打って起こすドクター。ジェインウェイはうめき、目を開いた。「どんな具合?」
「体の 60%に、第3度の火傷を負っています。ほとんどは跡を残さず治せましたが、ひどいところは皮膚の再生を。顔と両腕に跡が残ってしまいました。」
起き上がるジェインウェイ。腕を見る。「いい思い出にするわ。」
「待って下さい。2、3日は安静にしてもらいます。」
「なぜ?」
「治療です。」
「ほかに悪いところが?」
「体にはない。」
「どういうことかしら。」
「外傷性ストレス症※8です。症状は、怒りっぽくなる。眠れない。無謀な行為。この数週間の全ての行為に表れています。」
「私はただ自分の船と自分の船を救いたいだけ。そのために無謀な行為をとったとしても、治療を要するようなものではないわ。」
「あなたを再び死ぬような目に遭わせるわけにはいきません。」
「余計なお世話よ。」
「医療主任はあなたの指揮権を剥奪する権利があります。」
「不可能よ。」
「あなたの判断力が失われてると判断したら、実行します。」
「ご勝手に。あなたのプログラムを停止させるだけ。」
「その脅しこそ、精神が不安定である証拠です。」
「ごめんなさいドクター。ここのところ直感で動いてたものだから、考える前につい言葉が。あなたを停止させるつもりはないわ。でもここにいるわけにはいかないの。」
「以上で?」
「そうよ。」
「では仕方がない。キャスリン・ジェインウェイ艦長、宇宙艦隊医療規約第121条のA※9 により、医療主任としてあなたの指揮権を剥奪します。直ちに従うように。……座れ。」
「どうやって私にその命令を聞かせる気かしら。この船にミスター・トゥヴォックの保安チームはいないし、拘束室は破壊され、艦内フォースフィールドは停止。修理をしたところで終わるのはいつになるやら。フェイザーで撃つ? 私を止めたいなら方法はそれしかないわ。」
「この件を私が日誌に書くことはわかってるはず。命令に背けば軍法会議にかけられる。」
「この数ヶ月の経験に比べれば、軍法会議など恐るるに足りないわ。無事帰還できたら、喜んで報いを受けます。」
ジェインウェイは出て行った。


※7: Rilnar

※8: traumatic stress syndrome

※9: Regulation 121, Section A
宇宙艦隊一般命令・規則 (Starfleet General Orders and Regulations) の一つ

207日目。ヴォイジャーの通路。トリコーダーで調べながら歩くジェインウェイ。「EPSコンジットに亀裂。」
ニーリックスがパッドに入力する。「32個所めと。」
「33、34、35。燃料コンバーターの清掃も必要ね。」
「はい。」
「この部屋は重力が弱くなってる。」
「チャコティの部屋ッス。」
ゆっくりと中を調べるジェインウェイ。何かがトリコーダーに反応している。あの懐中時計だ。手に取るジェインウェイ。「まだあったのね。」
「艦長?」
「チャコティが 5ヶ月前にくれようとしたの。誕生日プレゼント。なのに私……。」 ジェインウェイは腰のベルト部分に、時計をつけた。「どうかしら。」
「バッチリ。」
「行くわよ。」

時空兵器艦。パリスはオブリストとゲームをしている。笑うパリス。
「素晴らしい」というオブリスト。
「それほどでも。ラッキーなだけさ。」
「君のゲームの詰め方は、兄が好んで使っていた手だ。」
「俺の友人の言葉を借りて言えば、実に論理的だ。」
無言になるオブリスト。
「どうした?」
「誕生日には、敬意を表していた。」
「誰の?」
「兄だ。両親や、友達にも、毎年欠かさず、そして気がついたら、1世紀が経っていた。私は誕生日を祝い続けていたんだ。死んだ人……存在を消してしまった人の。」
「気の毒に。」

タイムライン図が表示されたパッド。チャコティが使っている。隣の部屋からパリスが入る。「そんなことやめろよチャコティ。もう計算する必要はない。考えがある。」
「聞こう。」
「この船は、時空コアによって通常の時空と位相を変えられてる。でもシールドは驚くほど弱い。コアを停止させられれば、光子手榴弾で十分破壊できる。」
「なぜそんなことを?」
「今までオブリストと一緒にいたんだ。情報提供にはやぶさかでないらしい。それだけじゃない。18世紀のバウンティ号の事件を知ってるだろう。クルーがブライ艦長※10に反逆した。ここのクルーも 200年続いたアノラックスの独裁を、終わらせたがってる。」
「……よく調べたな。だが反乱には時機尚早だ。もう少し情報を集めてくれ。今度こそ時空計算がうまくいきつつあるんだ。時間と幸運があれば、クレニム帝国を元に戻せるし、ヴォイジャーもアルファ宇宙域に戻せる。」
「アノラックスが乗り移ったみたいだ。口を開けば計算、計算、今度こそうまくいく。」
「今度は成功する。話を聞けば、お前も彼を理解できるはずだ。」
「何? 自分の種族のために数え切れない文明を消した奴をか。」
「ことはもっと複雑なんだ!」 パッドをテーブルの上に置き、立ち上がるチャコティ。「アノラックスは道理がわかる男だ。クルー同様、彼もこの状況を終わらせたがってる。」
「あいにく俺には、時間を理解する本能がないんでね。あのネモ船長※11のことも理解できない。奴に媚びへつらわれて、腑抜けになったか。」
「何もわかってないな、中尉。」
「反乱のことは忘れるとして、オブリストならジェインウェイ艦長と連絡を取らせてくれるかもしれない。」
「それもだめだ。お前が捕まれば、全てを失う。俺が解決してやる。」
「俺の方が先かもしれないぜ。」
歩いていこうとするパリスの腕をつかむチャコティ。「アノラックスに反抗するような真似はするな。命令だ。」
笑うパリス。「従わなかったらホロデッキ立ち入り禁止か?」
「命令に従えないというなら、昔ながらの方法で決着をつけよう。」
突然、艦内に警報が鳴り響いた。

ブリッジに入る 2人。チャコティが「どうした?」と尋ねる。「時空侵略の準備をしている」と答えるアノラックス。
「何だって? そんなこと一言も…」
「夕べ思い付いたのだ。新たな計算によれば、ラム・イザド※12を消滅させれば、52%の復活を遂げられる。我が国のな。」
「これ以上の侵略は避けるんじゃなかったのか?」
「時間が幸運を与えてくれるのだ。無視はできない。」
オブリストが報告する。「ラム・イザド星の射程内です。」
「軌道に乗せろ。全パワーを兵器へ。消滅に備えろ。」
チャコティにささやくパリス。「あれで道理がわかるって?」
オブリスト:「時空中心点。ロック。」
チャコティ:「やめてくれ。ほかにも解決する方法はあるはずだ。」
アノラックスはチャコティを一瞥したが何も言わず、命じた。「発射。」
船からビームが発射され、地表が茶色に変わった。衝撃波が広がる。
「痕跡は」と尋ねるアノラックス。
オブリスト:「減少中。」
「反勢力は。」
「今のところなし。」
「連続体をスキャン。完全に消滅したら知らせろ。」
「了解。」
「私は部屋にいる。」 ブリッジを出るアノラックス。パリスは言う。「まだ十分じゃないのか、チャコティ。まだあの野郎をほっとく気なら、俺が止める。」


※10: ウィリアム・ブライ船長 Captain William Bligh
(1754-1817) ジェイムズ・クックの 2度目の航海の時には士官として乗った英国人。バウンティは映画 ST4 "The Voyage Home" 「故郷への長い道」で、ドクター・マッコイによってバード・オブ・プレイに命名された名前でもあります。訳出されていません

※11: Captain Nemo
「海底二万里」のキャラクター。訳出されていません

※12: Ram Izad

アノラックスの部屋に入ったチャコティは「あの星を消す必要はなかった」という。
「私は歴史を書き換えているのだ。無数の星系の運命が私の手の中にある。一種族の運命など、取るに足らん。」
"You're trying to rationalize genocide. One species is significant. A single life is significant."

「あれはただの大量虐殺だ。たった一つの命がどんなに大切か、わからないのか!」
アノラックスは少しの間の後、話し始めた。「最初はとても、簡単に思えた。わずか一瞬で、歴史が書き変えられ、我が種族は蘇った。だが 2度目に歴史を変えた時、かけがえのないものを失った。」
「キアナ・プライムのことか?」
「なぜ知っている。」
「侵略記録を調べさせてもらった。何度帝国の復活を試みても、常に一個所だけ欠けている。キアナ・プライムだ。誰がいた? 何を失った?」
「妻と、彼女との未来だ。子供たち、孫たち、全て私が消した。時空コアと引き換えに。」 三角錐の置物の中に入っているのは、一束の茶色い髪の毛だった。置物をなでるように触るアノラックス。「毎晩のように彼女が眠りに就いたあと、計算を続けた。それが妻の運命を変えることになるとも知らず。キアナ・プライムを蘇らせるまではやめん。妻のいた時間を取り戻すまではな。」
「可能とは思えん。」
「私は時間にムードがあると言った。私は本能で感じ取っている。比喩を言ってるわけじゃない。」
「どういう意味だ。」
「時間が怒っているのだ。怒り、私への怒りだ。私への報復、復讐。時間が、私を罰しているのだ。私の傲慢さを。だから妻を遠ざけ、未来を奪った!」
ドアが開き、オブリストがやって来た。「閣下、42%の復活に成功です。」
「キアナ・プライムも?」
「いいえ閣下。」
「連続体のスキャンを再開。」
「了解。」 出て行くオブリスト。
「君の…計算値を見せてもらったよ、チャコティ君。見込みはあるが、まだ未熟だ。やり直してくれ。それまでは、時空侵略を続ける。」
「そんな権利はない!」
「私が招いた結果だ。最後まで責任を取りたい。私に審判を下せるのは、時だけだ。」

いらつくパリス。「あんなことがあっても、まだ考えは変わらないのか? 奴はいかれてる。」
パッドで計算を続けるチャコティ。「それは違う。傷つき、苦しんではいるが、俺はまだ彼を説得できると信じてる。」
「あんたさっき何て言った? あいつは、時間に罰せられ復讐されてると思ってんだろ? そういうのをパラノイアっていうんだ。誇大妄想も入ってる。」
「彼の過去を?」
「家族を失ったってことか? そりゃ気の毒だとは思うよ。だけどこの船のクルーだって同じだ。俺たちもな、チャコティ。」
パッドを置くチャコティ。「お前の方はどうなってる。」
「もうすぐオブリストが来る。信用できる奴だ。通信アレイに、アクセスしてくれるといってる。俺の部屋からヴォイジャーにメッセージを送るつもりだ。」
「時空コアは?」
「それが、ちょっとばかり難しい。オブリストの助けで、停止はさせられるが、その前に船中の警報を解除しなきゃならない。チャンスは一度だけだ。」
「全てはタイミング次第か。俺たちは中から…」
「艦長にはヴォイジャーから攻撃してもらう。もしも、まだ生きていたらの話だが。」
「生きてるさ。……ヴォイジャーに、ここの座標を送ってくれ。」
「了解。」
ドアへ向かうパリスを呼び止めるチャコティ。「それから…キャスリンによろしくと。」 微笑み、うなずくパリス。チャコティも笑みを浮かべていた。

226日目。「艦長日誌、宇宙暦 51682.2。ニハイドロン※13、マワシ※14両国と同盟を組むことができた。共にクレニム艦への攻撃に挑むつもりだ。」 ヴォイジャーの後に、2種類の船が 2隻ずつついている。
クルーに説明するジェインウェイ。「あらゆる送信波の周波数を分析してみたところ、連邦宇宙艦隊の IDコードが含まれてたの。トム・パリスしか発信できないものよ。本物だった。彼が送って来た座標を目指せば、クレニム艦を見つけられる。」
トゥヴォック:「場所は。」
「約 50光年離れたところ。新たな同盟国が援軍を集めてくれてるの。射程内に入り次第、トムがクレニム艦の時空コアを停止させることになってる。それが成功すれば、普通の武器でも攻撃できる。トムが時空コアの正確な位置を知らせてくるのを待って、私たちは敵艦を沈黙させ、2人を助け出す。いいわね。」
トレス:「了解。」 キム:「了解。」 うなずくセブン。
「ベラナ、ハリー、ニハイドロン船へ乗り込んでちょうだい。機関士に協力して。」
うなずくキム。
「艦隊全体に時空シールドを装備させるの。」
トレス:「了解。」
「トゥヴォック、ニーリックス、セブン。あなたたちはマワシの船へ。」
ニーリックス:「了解。」 うなずくトゥヴォック。
「ドクター、攻撃が始まったら、必ずあなたが必要になる。トゥヴォックのチームへ。」
ドクター:「あなたは。」
「ヴォイジャーを操縦し、攻撃を指揮する。」
トレス:「艦長、この船がこれ以上もつとは思えません。まして戦闘にはとても。」
「ヴォイジャーはまだやれる。時空シールドもあるし、光子魚雷も 6発ある。それで十分よ。それによく言うでしょ、船長は船と共に死ぬって。命令は以上。解散。」
一人一人、ブリッジを出て行く。ジェインウェイは残るトゥヴォックに話しかける。「トゥヴォック、異論があるのはわかってる。でも、私は残る。」
「今のヴォイジャーの状態では、あなたが戦闘を生き残れる可能性は、ない。」
「それもわかってる。でも残らなきゃ。ヴォイジャーに恩返しするの。」
"Curious. I've never understood the human compulsion to emotionally bond with inanimate objects. This vessel has 'done' nothing. It's an assemblage of bulkheads, conduits, tritanium. Nothing more."

「興味深い。命なきものに対する、地球人の感情というものは不思議だ。この船は何もしていない。ただの隔壁と、コンジットと、トリタニアムの集合に過ぎん。」

"Oh, you're wrong. It's much more than that... this ship has been our home... it's kept us toghther... it's been part of our family. As illogical as this might sound... I feel as close to Voyager as I do to any other member of the crew. It's carried us, Tuvok, even nurtured us... and right now, it needs one of us."

「いえ違う。それだけじゃない。この船は私たちの、家だったの。家族の一員なのよ。非論理的かもしれないけど、私にとってこのヴォイジャーはほかのクルーと同じ存在なの。私たちを運び、生かしてくれた。そして今私たちを必要としてる。」
「あなたに敬意を表します。」 ヴァルカン・サイン。「長寿と、繁栄を、艦長。」
ジェインウェイはトゥヴォックの頬に触れた。「あなたもね。良き友よ。」 トゥヴォックと抱き合うジェインウェイ。トゥヴォックもジェインウェイの肩に手を置いた。補佐するセブンと共に、トゥヴォックはブリッジを出て行った。
独り残ったジェインウェイは、腰の懐中時計を見つめ、艦長席にゆっくりと腰を下ろした。


※13: Nihydron

※14: Mawasi

257日目。ヴォイジャーのブリッジ。ジェインウェイは交信を行う。「ヴォイジャーからマワシ船へ。」
通信状態は悪いが、トゥヴォックの声が響く。『どうぞ、艦長。』
「クレニム艦を探知した。急いで。」
『了解。』
「時空シールドの方はどう?」
『全艦隊、装備完了です。』
懐中時計を見た後、ジェインウェイは操舵席に座った。「ジェインウェイ艦長から全艦隊。コースをクレニム艦の針路へ設定せよ。」

クレニム艦のディスプレイに、船の位置が表示されている。ブリッジに入るアノラックスとチャコティ。オブリストが報告する。「閣下、6隻の宇宙船が接近中です。」
アノラックス:「所属は。」
「ニハイドロン戦艦 3隻にマワシ巡洋艦 2隻、それにヴォイジャーです。」
すぐにディスプレイを確認するチャコティ。艦隊マークが表示されている。
アノラックス:「我々は時空外にいる。恐るるに足らん。」
チャコティ:「ジェインウェイ艦長は、無駄な攻撃をしかけるような人じゃない。」
オブリストはアノラックスの様子を伺いつつ、コンソールを操作する。

自室で待っているパリス。コンピューターに反応が出る。「よくやったオブリスト。」 時空コアが表示される。

「全船に時空シールドを装備させ、彼らの母星にも知らせてるはずだ。もうあなたの武器は役に立たない」とアノラックスに話すチャコティ。
「兵器にパワーを集中。多重侵略に備えよ。まずは奴らの時空フィールドを破る。必要な数値を割り出せ。」

トゥヴォックの報告がジェインウェイに入る。『全艦隊、準備完了。』
「トムの方は無事終わったかしら。ジェインウェイから全艦隊に告ぐ。攻撃パターン、オメガ。開始。」
ニハイドロン船からクレニム艦に攻撃が始まった。

アノラックス:「報告。」
オブリスト:「ダメージなし。時空コア安定。」
「反撃開始。」

時空兵器が船を襲う。空間から消滅した。
トゥヴォック:『艦長、ニハイドロン船 2隻が消されました。』
ジェインウェイ:「ジェインウェイから全艦隊へ。回避パターン、デルタ。少し待つわよ。トム、お願い、早く。」

パリスはコンピューターの操作を続けている。

アノラックス:「ほかの船を狙え。」
だが命令を受けたオブリストは、動こうとしない。チャコティと目を合わせる。
向き直るアノラックス。「オブリスト、命令が聞こえんのか。」
オブリストは素早くコンソールを操作した。部屋の照明が薄暗くなり、警告音が鳴る。「時空コアを停止させたのか」というアノラックス。
「もう終わりです。すいません。」 スイッチを押すオブリスト。チャコティと、パリスの姿が船から消えた。「持ち場に戻れ。勝手な真似は許さん!」 オブリストを押しのけるアノラックス。「通常の時空に戻ってしまっている。通常の兵器を始動させろ。」

トゥヴォック:『艦長、チャコティとパリスがこちらの船に戻りました。』
ジェインウェイ:「全て計画通りね。トムが船を出る前に、時空コアの座標を送ってくれたわ。今からそっちに送信します。」

クレニム人:「武器システムオンライン。発射準備完了です。」
アノラックス:「攻撃開始!」

時空兵器艦から、通常兵器がヴォイジャーらに降り注ぐ。ヴォイジャーの上を航行していたマワシ船が攻撃を受けて傾き、ヴォイジャーに激突した。
爆発を起こすブリッジのコンソール。船体からは炎が上がっている。
倒れたジェインウェイは起き上がった。爆発が続く中、何とか艦長席へ戻る。緊急用フォースフィールドが張られた、前方の大きな穴からジェインウェイが見たものは、クレニム艦だった。

クレニム人:「武器システムが完全に復活。」
アノラックス:「ヴォイジャーを狙え。ジェインウェイを苦痛から救ってやるのだ。」

トゥヴォック:『全艦隊、戦闘能力喪失です、艦長。そちらはどうですか?』
ジェインウェイ:「同じよ。魚雷発射不能。衝突コースにセット。シールド解除。このまま全速力で直進して。」
『艦長! ぶつかる気ですか。』
「その通りよ。あの船を破壊すれば、全ての歴史が元に戻るわ。この 1年を綺麗さっぱり消してやる。」
穴から見えるクレニム艦が、次第に大きくなって来た。ジェインウェイは言う。「時よ、戻れ。」
ヴォイジャーは時間兵器艦の側面に激突し、粉々になりながら大爆発を起こした。
アノラックスをはじめ、倒れるクレニム人たち。立ち上がるアノラックス。「コアが不安定になってる。このままでは船内が時空侵略されるぞ!」 自室に駆け込む。アノラックスの見ている前で、テーブルの上の置物が落ち、床の上で割れた。髪の毛が落ちる。うろたえるアノラックス。すると、髪の毛の位相が乱れ、消えてしまった。アノラックスは茫然と見つめる。
クレニム艦は崩壊し、そこを中心として時空衝撃波が広がった。無傷のヴォイジャーがやってくる。1日目。「艦長日誌、宇宙暦 51252.3。平穏な日々が続いている。新たな天体測定ラボは、著しい進歩を遂げた。」
「いつから稼動できるの?」と尋ねるジェインウェイ。
セブン:「今からです。」
キム:「地球への新しいコースを設定してるとこです。」
ジェインウェイ:「じゃあ早速お祝いしなくちゃ。」
トゥヴォック:「左舷前方に宇宙船が接近中。」
「スクリーン、オン。」 小型の戦艦が映し出される。
キム:「呼びかけてます。」
「回線をつないで。」
司令官が現れた。『ここはクレニム領だが。所属を述べよ。』
「宇宙艦ヴォイジャー、ジェインウェイ艦長です。故郷に戻るため通過を。」
『ここは戦闘域だ。できれば避けることをお勧めする。』
「わかりました。」
『いい旅を。』 通信が終わる。
チャコティ:「トム、クレニム領を迂回しろ。」
パリス:「了解。」
「それじゃあ、新しいラボで披露パーティでもやるか。」
キム:「いいですねぇ。」
ジェインウェイはチャコティに話す。「せっかくだから、サンテミリオンをレプリケートしない? 2370年は、当たり年だって聞いたわ。」

繁栄した都市。女性※15が「おはよう」と声をかける。相手は研究を続ける、アノラックスだ。私服を着ている。「おはよう。」
「朝食にしない?」
「後にするよ。まだ少し、計算が残ってるんだ。」
「あなたはいつも、計算計算ね。とてもいいお天気よ。私と過ごさない?」 手を伸ばす妻。
「じゃあ時間を作るか。」 アノラックスは彼女の手を取り、その場を離れた。テーブルの上のパッドには、タイムライン図が表示されていた。


※15: (Lise Simms) 声:児玉孝子

・感想
さすがに賞にノミネートされただけはあって、ヴォイジャーの激突シーンは迫力満点です。CG (今風にいえば CGI) のレベルも十分なものだったと思います。
終わり方はありきたりとはいえ、スタートレックらしいハッピーエンドで良かったと思います。結局クレニム帝国は「弱くもなく、強くもなく」という段階に落ち着いたということですね (迂回しても、そんなに遠回りにならない)。
活躍し過ぎなほど頑張ったジェインウェイですが、時空侵略艦を壊せば元通りになるとわかったのはさすが。


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