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ヴォイジャー エピソードガイド
第92話「人を呼ぶ流動生命体」
Demon

dot

・イントロダクション
廊下や医療室の照明が暗くなる。ワープコアの反応を確認するトレスとヴォーラック※1。ブリッジも暗くなった。 キム:「艦長、推力減退。第4 から 9デッキ、エネルギー停止。レプリケーター、ホロデッキ、不要な装備はオフライン。残るシステムは通常の 20%にパワーダウン。」 ジェインウェイ:「トム、後どれくらいもつかしら。」 パリス:「重水素供給を 2割に減らして、推力を 4分の1 にしても 1週間以内にガス欠ですね。」 ジェインウェイ:「全員節約に努めて。重水素がある惑星がないか目を凝らして。トゥヴォック、チャコティ、エネルギー節約の方法がないか具体策を。ハリー、地球物理学の分野で手を貸して。代替エネルギーを合成できないか調べて。」 うなずくキム。 ジェインウェイ:「それまで艦内は省エネモード※2で。いいアイデアがあったら遠慮せず言って。」 パリス:「自転車に発電機をつけて、地球までこいで帰るってのはどうです?」 「それは名案。」 「最初のこぎ手にはハリーを推薦したいと思います。」 あきれるキム。ジェインウェイとチャコティは笑った。
廊下を慌ただしく行き交うクルーに命令するトゥヴォック。「生活スペースは非常に限られてくる。各自、必要不可欠な物だけを持参するように。」 前からやってきたニーリックスとぶつかった。持ち物を落とす。 それを拾うニーリックス。「ああ、すまん。」 トゥヴォックは一冊の本を拾った。 「これは一体何だね。」 「ああ、トゥヴォック少佐。その本はジューレックス※3の名作だよ。」 「必需品だけだぞ、ニーリックス。」 「それは必需品だよ。タラクシアじゃ偉大な作家なんだ。俺、こいつを一行でも読まないと眠れない。」 「君も習慣を変えたまえ。パワーが戻るまでは、自分の部屋は使えない。」 「あー、努力してみるよ。」 「それから、これは。」 ニーリックスが持っている枕を取り上げるトゥヴォック。慌てるニーリックス。 「それがないと首が凝っちゃって、大変なんスよ。」 「それならドクターに言って、抗炎症薬を処方したまえ。」 ため息をつくニーリックス。「ああいいさ、首の凝りくらい我慢する。」 「ミスター・ニーリックス。毛布もだ。」 「だめ。これだけは譲れないよ。ママの編んだ毛布は子供の頃から一度も手放したことがないんだ。」 「君もみんなと同じ毛布を使いたまえ。」 「宇宙艦隊の毛布はかゆくなっちゃって。」 「ではドクターに言って…」 「かゆみ止めか? 医療室のベッドみたいに、安眠間違いなしだ。あ! ありがとう、ミスター・ヴァルカン。あんたのおかげでひらめいたよ。」 荷物を全部持っていくトゥヴォック。
チャコティは天体測定ラボに入った。セブン・オブ・ナインに話しかける。 「セブン、何をしている。」 「仕事だ。」 「天体測定は停止させるよう、さっき言われたはず。エネルギーの無駄遣いだ。効率が悪くなるぞ。」 「効率は相対的なものだ。天体測定ラボを動かさなければ、燃料のある惑星を探査できない。」 「君の意欲は認めるが、当分通常スキャナーで我慢してもらう。」 コンピューターに反応があり、確認するセブン。 「通常スキャナーでは発見できなかった。」 「何だ?」 「高濃度の重水素だ。」 「発生源は。」 「コンピューター、位置を提示。」 スクリーンに赤い惑星が映された。 セブン:「現在地より 4光年離れた小惑星だ。地表面に重水素の厚い層を探知した。」 「だめだ。あれはデーモン・クラスの惑星※4だ。」 「デーモン・クラス?」 「通称だ。正式名は Yクラス※5と呼ばれている。惑星を取り巻く大気は有毒。熱電子放射能※6が充満している。惑星の地表温度は 500ケルビン以上。通常の軌道に乗るのも自殺行為だ。」 「しかし事態は逼迫している。」 「そうだ。」 「どんな絶望的な状況でも、適応しなければ。」 スクリーンには惑星が大きく映し出される。

※1: Vorik
(アレキサンダー・エンバーグ Alexander Enberg) ヴァルカン人男性の艦隊士官。VOY第71話 "Day of Honor" 「名誉の日」以来の登場。ここではセリフはありませんが、声は森田順平さんで統一されています

※2: gray mode

※3: Jirex

※4: Demon-class planet

※5: Class-Y
惑星分類システム (planetary classification system) による区分の一つ

※6: thermionic radiation

・本編
「艦長日誌、補足。危険を冒すだけの価値があることを願いつつ、熱電子からヴォイジャーを守るため、船体のシールドを調整。惑星地表面に眠る重水素の転送を試みる。」
転送台の上に容器が置かれている。転送士官に指示するセブン。「転送ビーム、0.47テラヘルツに縮小。」 コミュニケーターを叩く。「転送準備完了。」 ブリッジのジェインウェイ。「待機して。ハリー、可能な限りのパワーを抑制フィールドの方に回して。大気中の有毒ガスを侵入させないように。」 キム:「了解。」 船が揺れる。 トゥヴォック:「熱電子で、前方シールドがやられました。危険です。」 ジェインウェイ:「さっさと作業を済ませてしまいましょう。セブン、始めて。」 セブン:「エネルギー、オン。転送開始。」 容器に転送されてくる。だが操作パネルの後方で爆発が起こり、転送士官が吹き飛ばされた。 トゥヴォック:「シールドが弱まっています。」 キム:「パターンバッファーのオーバーロードを感知。」 ジェインウェイ:「転送作業中止。」 セブン:「コントロールが利きません。」 「脱出して。」 セブンは転送士官を補佐し、転送室から出る。容器は爆発した。 セブン:「コンピューター、転送室封鎖。抑制フィールド、レベル10始動。」 『抑制フィールドを始動します。』 セブンは座り込んだ。
会議室で報告するチャコティ。「まずはいい知らせから。セブンとノザワ※7の両名は既に医療室から復帰。惑星の有毒ガスも転送室から一掃されました。」 ジェインウェイ:「悪い知らせは?」 「転送装置復帰まで、2、3日はかかります。」 「そう。コース変更に伴う貴重なエネルギーを失った上に、転送装置までダウンとはね。重水素の採取にプローブを使える?」 トゥヴォック:「惑星の地表にたどり着く前に燃え尽きてしまうでしょう。」 「万事休すね。トム、ヴォイジャーを元の軌道に戻して。推力は 4分の1 で。」 解散しかけようとした時、キムは言った。「艦長、僕に提案が。」 パリス:「ハリー、自転車の話はジョークだぜ。」 「トゥヴォック少佐にシールドと防護服の調整をして頂ければ、僕が上陸します。シャトルで降りて、重水素を採掘しますよ。」 トゥヴォック:「知らないのか、少尉。Yクラスの惑星でヒューマノイドが耐えられる環境などは、ありえない。」 「そんなこと言われなくてもわかってます。でもほかに策がありますか。このまま推力 4分の1 で、宇宙空間をノロノロさまようんですか。燃料を見つける前に全員死んでしまう。目の前の重水素を見過ごす手はありません。」 チャコティ:「もっともだな。」 ジェインウェイ:「惑星と通信可能かどうかもわからない。ともかく、転送装置が復旧するまで待ってくれない?」 トゥヴォック:「防護服は完璧ではない。調整には限界があるから長時間は無理だ。大気にさらされたら君は一たまりもないだろう。」 キム:「覚悟してます。」 ジェインウェイ:「それに単独で行かせることもできない。」 「もちろんです。相棒にはトムを推薦します。仲良く行ってきますよ。」
廊下でキムと話しているパリス。「随分強気だったな。」 「だから?」 「だから? スタッフミーティングでお前のあんな強い態度、初めてだ。突然昇進に目覚めたか?」 「思いついたアイデアを発言したまでさ。」 「いやいや、それだけじゃない。クルーの前であのトゥヴォックに、ビシッと言ってやったじゃないか。」 「少佐がわかりきったこと言うからだよ。僕がまるで無知だといわんばかりの口調でさ。」 「俺はお前を誉めているんだ。ヴァルカンの傲慢な態度にはみんないい加減ウンザリしてるからな。スカッとしたよ。俺はただ、驚いただけさ。」 「何で?」 笑うパリス。「まるで別人だった。」 「そうか。第2貨物室へ。」 ターボリフトに乗る。
続けて話すパリス。「優等生のイメージを払拭したいのか?」 「そういう訳じゃない。」 「じゃ何だ。」 「どう説明したらいいかなあ。ヴォイジャーに来たばかりの頃、僕は未熟だっただろ?」 「ああ、未熟も未熟、超がつくくらいにウブで未熟だったな。」 「若かったし、経験もなかったから仕方ない。自分の意見さえ思うように言えず、提案する自信もなかった。余計なことを言わないようにしてたら、いつの間にかそれが習慣になってしまったんだ。でも、この 4年で僕もいろいろ経験した。ボーグと戦ったり、異星人に変身させられたり、ヒロージェンをやっつけたり、死んで生き返ったことも。」 「あれはすごかったな。」 「ある朝目覚めて、ふと思ったんだ。僕にはこれだけの経験があるんだって。そろそろ僕も主導権を握って、積極的に発言していく時期じゃないかってね。」 「いい傾向だ。」 2人はターボリフトを降りる。 パリス:「でも一ついいか。今度自分を主張する時は、俺を巻き込まないでくれ。俺は暑いのは苦手なんだ。」 「心配ないよ。防護服に一杯穴を空けて、通気性を良くしてもらう。」 「ハリー、お前は自分を磨くのに忙しくて、ユーモアのセンスは鈍ったんじゃないか?」 「ユーモアのセンス? じゃ君の自転車のギャグはどうなの。」 「ハハ、ありゃ傑作だった。」 「よく言うよ。」 「笑えただろ?」 「いいや、全然。」
激しい大気の中を進む、6型シャトル。 皮肉を言うパリス。「ハ、こんな楽しい任務に俺を推薦してくれて、涙が出そうだ。」 「気にすんなって。」 「そうだ、今度プラズマ集合体を清掃する時は、ぜひ君を推薦することにしよう。」 「いいよ、トム。恩に着せるつもりはない。」 「いいや、遠慮するなって。」 大きく揺れ、警告音が鳴る。 パリス:「方向制御を失った。」 「パイロットの腕の見せ所だな。任せてもいいかな。」 「見ててくれ。」 「お手並み拝見といこう。マニュアル制御に変更。」 「君はリラックスして、景色でも楽しんでてくれ。」 確認するキム。「惑星大気圏内突入。間もなく着陸地点。」 「よーし、いよいよ着陸だな。位置について。」 最後の大きな揺れで、収まった。 パリス:「着陸。」 「わざとヒヤヒヤさせたな。」 パリスは笑った。
地表に着いたシャトル。2人は防護服を着てトリコーダーで調べている。会話は通信で行う。パリス:「気温は 500ケルビンに達する。」 「大丈夫。防護服なら耐えられる。」 「耐えられなきゃ、バーベキューにされるまでだ。」 「早速重水素反応を感知した。50メートル。あっちだ。行ってみよう。」 「楽勝だな。」 「油断は禁物。」 笑うキム。パリスもついていく。
前方に小さな池のような所がある。キム:「これが反応してるんだ。」 「何だろう。」 「金属化合物の一種だろう。粘着性が高い。このデータが正しいとしたら、温度はたったの 12度しかない。」 「この環境でか?」 「物質の種類は不明だが、液化水素の池だ。」 「ハハ、宝の池か。」 「20メートル先にも同じ池がある。僕はここを調べるから、君はそっちの方を頼む。」 歩いて行くパリス。 「よし。いいこと思い付いたぞ。ここにラウンジチェアを並べて、でっかいビーチパラソルを立てる。化学焼けを防ぐクリーム※8もいるな。ここを俺たちの新しいヴァケーションスポットにするってのはどう? ハ、外したかな。今度はお前が一発冗談かましてくれ。……ハリー?」 振り返るパリス。キムがいない。 「ハリー!」 戻って来たパリスは、池の中から泡が出ているのに気づいた。 「ああ、何てこった。」 パリスは池の中に手を入れ、キムを探る。手をつかみ、引き出した。 パリス:「いくら暑いからって、何もこんな時に泳がなくたっていいだろう。」 「一体何が起きたんだ。サンプルを採ろうと身を乗り出した途端、いきなり引きずり込まれたらしい。」 コンピューターの声。『警告。キム少尉、防護服の継ぎ目に傷がつきました。あと 30秒で酸素切れです。』 パリス:「がんばれハリー、俺がシャトルまで運んでやるからな。」 キムを助けながら歩き始めるパリス。 「お前少し太ったか?」 「人のこと言うか。」 『警告。酸素切れまで、あと 15秒です。』 「そうだ、約束するよ。シャトルに着くまでお前が息を止められたら、俺は毎日運動するって。」 「だったら自転車こぎが効果抜群。」 「息をするなって言ったろ。」 倒れるキム。 『警告。あと 5秒で酸素切れです。』 その時パリスの防護服に液体が付着し、内部へ入っていった。5秒のカウントダウンが終わった。キムは立つこともできない。「がんばれハリー、もう少しだ。」 『警告。パリス中尉、防護服の継ぎ目に傷がつきました。あと 30秒で酸素切れです。』 「冗談きついぜ。俺たちゃ運命共同体だな。死んでたまるか。」 『警告。あと 15秒で酸素切れです。』 「参ったね。やっぱり後少し痩せときゃ良かった。」 『警告。あと 5秒で酸素切れです。』 パリスも倒れた。カウントダウンする警告音。ピー、という音だけが響く。

※7: Nozawa
(John Tempoya) エキストラ扱いのアジア系男性士官。名前は初言及

※8: 皮膚軟膏 dermalplast

医療室。ニーリックスを先頭に、他に 3人のクルーがいる。 ドクター:「お話にならんね。」 ニーリックス:「頼むよ、ドクター。」 「チャコティ副長の許可をとりたまえ。今こっちに来るから。」 「ほんの 2、3日のことじゃない。部屋のパワーが元に戻るまでのことだからさ。」 「食堂にテントでも張ることだな。」 「あそこは満室だ。俺たちどこで寝りゃいいの?」 「この部屋以外だ。ここは寮じゃないんだぞ。」 「でもベッドが 4つ空いてるじゃない?」 「バイオベッドは患者のために空けてある。」 「患者なんていない。」 「私が使うかもしれん。君たちがここを不法占拠するというならね。」 チャコティがやってきた。「ドクター、何か用か?」 ドクター:「ああ、助かった。ミスター・ニーリックスがここを宿代わりに使おうとしています。」 「ベッドが不足してるんだ。使えるところは使う。」 笑うニーリックス。」 ドクター:「でも、急患が出たらどうします。」 チャコティ:「その時は速やかに出ていってもらう。」 ニーリックス:「当然のことですよ!」 ドクター:「でも、ここは医療室だが、私の部屋でもあります。」 「おとなしくいい子にしてるって。絶対約束するよ、ドクター。」 チャコティ:「ほかに質問は?」 ドクター:「でも、私には仕事がある。夜更かしするし、オペラを聴いてる時にいびきで邪魔されたくない。」 「ドクターがそれほど反対なら、ほかの方法を考えなくてはならんね。」 「ありがとうございます。」 ニーリックスの顔を見るドクター。 チャコティ:「そうだな、緊急時まで君のプログラムを停止するか。エネルギーを節約できると聞けば艦長も喜ぶ。ドクターだっていびきで悩まされるよりましだろう。」 ジェインウェイの通信。『チャコティ、ブリッジへ来て。』 「すぐ向かいます。」 出ていくチャコティ。「そんな」というドクターを無視し、クルーは中へ入った。無理矢理笑顔を作るドクター。「諸君、楽にして。」
ジェインウェイはトゥヴォックに指示している。「赤外線シグナルをスキャンして。」 「シグナルが混信しています。」 チャコティがブリッジに入る。「お呼びですか。」 ジェインウェイ:「トムとハリーが戻らないの。」 「私が 2人を探しに行きましょうか?」 「副長が消えたら大変。現状維持して。燃料が尽きて軌道に飲み込まれてしまうか、それとも…」 「それとも?」 「着陸する。」 トゥヴォック:「ですが艦長、着陸には膨大なエネルギーを消費します。シールド出力が低下すると、船体が耐えられるか保証できません。」 「ほかに方法は? ヴォイジャーはガス欠で、真下には燃料のある惑星があるのよ。着陸しかない。艦長より機関室。ナセルから全てのプラズマを排出。使えるパワーは全てスラスターエンジンに転送。着陸作業開始まで待機して。」 機関室のトレス。『了解。』 ジェインウェイ:「チャコティ副長、操舵席へ。」 チャコティ:「トムがいなくて残念だ。」 「着陸態勢※9。」 トゥヴォック:「トゥヴォックより全クルー。着陸警報発令、コードブルー・セクションに出頭※10。」 チャコティ:「大気コントロール、スタンバイ。着陸脚、オンライン。慣性ダンパー、強度最大。」 「全デッキ、準備完了しました。」 ジェインウェイ:「そっと降りて、チャコティ。」
大気の中を降りていくヴォイジャー。 チャコティ:「ヴォイジャーは軌道を外れました。高度 150キロメートル。」 揺れる船体。 トゥヴォック:「熱電子放電。シールド、81%にダウン。」 厚い大気の層を突き進む。 トゥヴォック:「43%にダウン!」 ジェインウェイ:「チャコティ。」 チャコティ:「最悪の事態は避けられた模様。多分。」 トゥヴォック:「シールド、22%にダウン。」 ジェインウェイ:「強化できる?」 「無理です。エネルギーが残っていません。」 チャコティ:「着陸脚、作動。」 4つの着陸脚が出てくる。 「衝撃に備えろ。」 着陸脚が地面に着き、着陸した。ため息をつくジェインウェイ。「ダメージは?」 トゥヴォック:「各システムへの影響は相当なものです、艦長。でもとにかく、無事着陸しました。当分離陸は無理ですが。」 「全員すぐ修理に取りかかって。チャコティ、見事な腕だったわ。早速ハリーとトムを探しましょう。」
廊下を歩いているチャコティに、トレスが合流する。 「チャコティ、2人を探しに行くんでしょ?」 「そうだ。」 「私も行く。」 「それは無理だ。君にはやるべき仕事がある。」 「もう済ませたし、後はヴォーラックに任せるわ。手伝わせて。」 「ベラナ、君がトムを心配する気持ちはわかるが、私が 2人を無事連れ帰る。」 「気休めはいい。どんなに危険な星か、私だって知ってる。2人はもう駄目かも。」 「そうだ。何が待ち受けているかわからん。だからこそ冷静さが欲しい。」 「私が冷静じゃないっていうの?」 「君は感情的になってる。」 「ええ、その通りよ。愛する人が行方不明になったの。真っ先に助けに行くのは当然でしょ。」 「時間がないんだ。君は持ち場に戻って任務を果たせ。後は任せろ。」 「じゃ、一つだけ。」 「何だ。」 「セブンを連れて行って。」 「…セブンを推薦するのか?」 「冷静さが必要なんでしょ。彼女は一番冷静よ。」 「…わかった。」 「2人を連れて戻って。」 「約束する。」 チャコティは防護服の置かれている貨物室へ入った。
鼻歌を歌いながら、医療室の道具を片づけるドクター。ベッドにはクルーがいる。わざと大きな音を立てるドクター。鼻歌も鼻歌ではなくなっている。ニーリックスがたまらず言う。 「ちょいとドクター!」 「何だね。」 「あの悪いけどさ、俺、眠りたいんだよ。」 「どうぞ、ごゆっくり。」 「でもドクターが、気になる。」 「気にせんでくれ。私は自分の仕事をやっているまでだ。おやすみなさい。」 ニーリックスのベッドを作動させ、体を固定するドクター。また鼻歌…ではない大きな歌を唄う。ニーリックスはベッドの機具を元に戻す。 「照明なんだけど…」 「何かな?」 「消していいかな。」 「私に暗闇で仕事しろと?」 「そうじゃない。でもこんなに明るくちゃ眠れない。」 「私には関係ない。じゃ。」 歩いていくドクターを追いかけるニーリックス。 「明日はさ、メチャメチャ忙しくなる予定で、4時間後には起きて仕事をしなくちゃならないんだよ。」 「それはお気の毒。だが君の方からここに来た。」 「そうかい! 眠れないとわかれば、何かほかのことをして時間を潰すっきゃないってことだな。そうだろ。そうだな。一緒に歌でも唄わない? ドクターに俺の知ってるタラクシアのロンドを教えてやるよ。それから、ヴァルカンの葬送曲も知ってる。俺ってクリンゴンのオペラにも結構詳しいんだ。オオオオー!」 ニーリックスの肩をつかむドクター。「もうわかったよ、君の勝ちだ。いい夢をな。」 ニーリックスはベッドに戻った。「コンピューター、照明オフ。」 暗くなる医療室。納得いかないドクター。
惑星地表。チャコティとセブンが捜索している。何かの音に後ろを振り向くセブン。間欠泉だ。チャコティ:「ビクビクするな。」 「何か聞こえた気が。」 「なぜここがデーモン・クラスかわかったろ。」 「悪魔は死の世界に住む。この星に広がるのは死の世界だ。」 「2人のシャトルを感知した。」
開いたままになっているシャトルのハッチ。チャコティ:「戻ってないな。」 「こんな環境で行方不明の 2人が生き残るなど不可能だ。」 「奇跡を信じよう。」 捜索に戻る。
地面を見るチャコティ。「ここを通ってるな。」 「トリコーダーでは生命反応はない。なぜそっちに進んだとわかる。」 「足跡だよ。機械に頼る前に自分の目を信じろ。」
セブンは池を見つけた。 「高濃度の重水素だ。この池が反応している。サンプルを採取する。」 箱から容器を取り出し、池に浸けようとする。だがその前にチャコティが止めた。「2人を探すのが先決だ。サンプルは後で採取しよう。」 「了解した。」
更に洞窟を進む 2人。「奥に避難してるのかもしれん。」 慎重に歩いていたチャコティ。だが足場が崩れた。セブンが手をつかむ。「副長!」 がけの下は溶岩だ。必死に助けようとするセブン。突然誰かがチャコティを引き上げるのを手伝う。「お久しぶりです。」 パリスだ。だが防護服を着ていない。助け出されるチャコティ。パリスは言った。「悪魔の星にようこそ。」

※9: "blue alert" を「警戒警報 (態勢)」と訳していますが、警戒警報は yellow alert のことで、「ブルー」は着陸・離陸の時だけに使われる特殊な警報です。このエピソードガイドでは「着陸 (離陸) 警報」と訳しています

※10: report を「報告」と訳しています。例:"Report to Bridge."=「ブリッジへ出頭せよ。」

惑星地表。状況を説明するパリス。 「防護服は傷つき、酸素も尽き果てた。もう終わりだと思ったよ。ハ、死ぬ時何を思い浮かべるか、聞いたことあるだろ。嘘じゃなかった。走馬灯のように過去が蘇り、そして突然、意識を失ったんだ。どのぐらい倒れていたのかわからない。だがなぜか目が覚めた。そして、普通に呼吸していたんだよ。ハリーの方を見ると、あいつも普通に息をしていた。ヘルメットなしでね。お互い顔を見合わせて、そう、笑い合ったんだ。信じられない話だろうけど、最高に爽快な気分だったよ。」 セブンはトリコーダーでパリスを調べる。「生命反応は正常だ。体が環境に適応したのだ。」 チャコティ:「念のためにドクターに診てもらった方がいい。チャコティよりヴォイジャー。」 パリス:「無駄だよ。洞窟内からシグナルは届かないんだ。」 「では外に出てから連絡しよう。」 「信じてくれよ、チャコティ。実に素晴らしい体験だった。ああそうだな、まるで…水を怖がっていた子供が突然泳げるようになった気分。そうだ。あんたもヘルメット取ってみろ。」 「君が無事で本当に良かった。だが事態がはっきりするまでは、危険な行為は犯せない。」 「あんたみたいなタフガイなら、少々の毒なんかなんてことないだろ。」 「ハリーはどこだ。」 「この奥にいる。俺たち重水素の鉱脈を見つけたんだ。」 「ハリーを探して、君たちをヴォイジャーに連れ帰る。」 「上官には従うよ。でも俺たちはこの通りピンピンしてる。」
機関室。ヴォーラックがトレスに話しかける。「中尉。」 「何?」 「間もなく転送装置が復旧します。」 「そう、わかった。でも今はこっちがとても気になってるの。だって、このシステムは…そう、命に関わる。」 「ええ。私の計算によれば、環境システムは 2時間でその機能を停止します。」 「実に淡々と言ってくれるじゃない。」 「緊急事態だからこそ、クールヘッドを失っては、ことは解決しません。」 「クールヘッドって言った? そんな表現、誰に教わったの?」 「パリス中尉です。」 「あなたはまだ冷静なようね。じゃ、力を貸して。」
洞窟の奥へ進むパリスたち。やはり防護服を着ていないキムがおり、上を見上げている。 チャコティ:「ハリー!」 キム:「副長。素晴らしいでしょう。」 パリス:「さっきから俺も話してた。」 チャコティ:「大丈夫なのか、ハリー。」 キム:「気分は最高。可動式運搬装置があれば、アルファ宇宙域にたどり着けるだけの重水素を掘りあげられる。」 「既に 20キロも掘ったと聞いた。それだけあれば、メインシステムを動かすには十分だ。ヴォイジャーに戻って君たちはドクターの検査を受けろ。」 「副長さえよければ、残って作業を続けたい。」 「だめだ。」 「僕は何ともありません。それより、手伝いをもっとよこして下さい。防護服だっていらないんだ。」 「熱心なのはいいが、今すぐ全員ヴォイジャーに戻る。いいな。」 パリス:「心配するな、ハリー。検査で異常がなければ、またここに戻ってこられるさ。」
ブリッジのジェインウェイ。「トゥヴォック、現状は?」 トゥヴォック:「第1・第5デッキ以外の全ての生命維持システムを停止。これで空気を 1時間節約。」 チャコティの通信が入る。『チャコティよりヴォイジャー。』 ジェインウェイ:「どうぞ。」 『トムとハリーを見つけました。』 「やっといい知らせが聞けた。重水素の方は?」 『数キロ分確保。今からそちらに戻ります。』 「現在地は?」 『船から 2キロの位置です。』 トゥヴォック:「艦長。」 ジェインウェイ:「転送装置が復旧したわ。その距離なら全員転送可能よ。あと数分待って。」 チャコティ:『ドクターを待機させて下さい。トムとハリーを検査してもらいたいんです。』
ニーリックスが寝言ともいびきともつかぬ声を上げている。ベッドルームに入ったドクターは大きな声で言った。 「コンピューター、照明オン。最大に明るく。さあ皆さん。朝ですよー、ミスター・ニーリックス。」 ニーリックス:「何事だ?」 「チェックアウトだ。」 「まだ真夜中じゃないか。」 「医学に時間はないのだ。間もなく患者たちがやってくるから、ベッドは満床になる。」 「患者? 誰か病気なの?」 「検査するまでは、それはまだわからんがね。」 「誰を検査する?」 「パリス中尉と、キム少尉だ。」 「俺にできることない?」 「あるねえ、仲間を連れて、さっさとここから出て行くこと。」 「そうだ。起きろ! 話を聞いてただろ。緊急の撤退だ。起きろ! さあ、出たでた。ほら!」 ニーリックスに急かされ、慌てて出ていくクルー。 ニーリックスは医療室を出る前に言う。「ドクター。」 「何だね?」 「ドクターには感謝してます。医療室に飽きた時には俺んとこ来てね。いつでも歓迎するよ。」 笑顔で出ていくニーリックス。ドクターは複雑な表情を見せた。
転送室に入るジェインウェイ。「エネルギー、オン。」 自ら転送機を操作する。4人が転送されてきた。だがその途端、パリスとキムが苦しみ始めた。喉を押さえ、その場に座り込む。転送士官に命じるジェインウェイ。「2人を医療室へ転送して。」
ハイポスプレーを打つドクター。効果がない。医療室へ入るジェインウェイとチャコティ。 ドクター:「一体何があった。」 チャコティ:「船に転送された途端、苦しみ出した。」 「コンピューター、バイオベッドにフォースフィールド、レベル7 始動。」 『フォースフィールド始動。』 ジェインウェイ:「何をしてるの?」 ドクター:「フォースフィールド内に、小惑星からの大気を充満させました。」 フォースフィールドの中に入るドクター。「普通に呼吸するんだ。慌てると過換気になるぞ。ゆっくり、吸って、吐いて。吸って、吐いて。」 2人は落ち着いてきた。ため息をつくジェインウェイ。
「艦長日誌、補足。ドクターはトムとハリーの検査を続けている。2人の症状は深刻で、実に奇妙である。」
医療室。パリス:「それが俺たちの血液か?」 試験管の中に、銀色の液体が入っている。 ドクター:「そのようだな。どうやら君たちは、バイオフォームされたらしい。」 キム:「バイオフォーム?」 「大地形成の逆みたいなものだ。我々が防護服を惑星の環境に適応させたように、この惑星が君たちを適応させた。」 パリス:「一体どうやって。」 「この流動体が血液に侵入し、細胞レベルで君たちの生理機能を変化させた。成分を分析する時間はなかったが、じき結果が出るだろう。」 ジェインウェイ:「ドクターがよけれら、私がそれを分析する。」 「ええ、結構です。」 パリス:「それで? 経過は良好なんですか?」 「ああ、じき元気になる。小惑星の大気を吸っている限りはな。」 キム:「つまり、フォースフィールドから永久に出られないのか?」 「事態はもっと深刻だ。この大気は有毒で、安全にレプリケートできない。」 パリス:「ってことはつまり、惑星を出たら、俺たちが吸う大気はない。」 「そういうことだ。何らかの救済法を見つけない限り、この星を離れられない。」


医療室。ドクターに尋ねるジェインウェイ。「バイオフォームの逆のプロセスをたどれる?」 「現状ではそれに伴う現象の情報が足りません。」 「チャコティとセブンを再び上陸させて、できるだけ多くの情報を集めてもらう。私はこれをちょっと調べてみる。」 キム:「上陸班に加えて下さい。私は現場にも詳しい。」 「ドクター。」 ドクター:「船内にいるより、外の方が体にはいいでしょうな。だが詳しい検査のために、どちらか残って欲しい。」 キム:「いいですよ。ドクターの実験台には、トムを推薦します。」 笑うジェインウェイ。
惑星地表。3人が歩いている。セブン:「前回来た時より荒涼としているな。まさに死の世界だ。」 キム:「いや、息もつけないほどだ。」 「息もつけない?」 「ああ。」 「今回のことで、体の機能が鈍ったに違いない。」 「いや、そうじゃないんだ。息もつけないほど感動してるんだよ。」 チャコティ:「感動って、何に。」 「美しさだ。」 セブン:「例えばどこが美しいのだ。」 「ほら、あそこ。何が見える?」 「赤一色の単純な地形の連続に、粉塵、もや。」 チャコティ:「君にはどう見えるんだ。」 「私には、赤と金色が微妙に混じり合った美しい大地に見えます。粉塵は、刻々と変化。もやは、その色調を深めてる。すいません。なぜかこの惑星に強いつながりを感じるんです。」 「つながりって?」 セブンがトリコーダーの反応を確認した。「ヒューマノイドの生命反応を感知。」 チャコティ:「位置は。」 「真っ直ぐ 100メートル先だ。」 向かう 3人。
「拡大。倍率 10。」 ジェインウェイとトレスは液体を顕微鏡で調べている。 「重水素。硫酸酸素塩。十クロム酸塩。」 「塩を一つまみ加えたらニーリックスのスープみたいな味になるかも。」 「味見したいわね。」 笑う 2人。ジェインウェイ:「あら何かしら。拡大。倍率 20。」 「何です?」 顕微鏡を見せるジェインウェイ。 トレス:「分子構造ですね。」 「流動体には、有機的特性がある。試薬で処理したサンプルを見せて。」 サンプルののった皿を手にするトレス。すると液体が意志をもっているかのように動き、トレスの指にのった。「艦長。」 指の上を広がる流動体。ジェインウェイ:「医療室へ行きましょう。」 「いえ、その必要はなさそうです。」 トレスは指を皿に近づけた。液体は皿に戻り、そしてトレスの指の形状を形作った。息を呑むトレス。
地表の 3人はトリコーダーの生命反応を追う。キム:「副長!」 その先には、防護服を着て倒れている 2人の人間がいる。すぐに近づくキム。片方の人物の顔を確認する。それはキム自身だった。
ヴォイジャーの船体の下に、銀色の流動体が広がっている。揺れる船。科学ラボのジェインウェイは通信を行う。 「トゥヴォック、何事?」 艦長席のトゥヴォック。「ヴォイジャーの真下に金属化合物の広がりが形成され、船体が沈んでいます。」 「すぐ行きます。あなたは機関室へ。急いで離陸の準備をして。」 トレスに命じるジェインウェイ。
状況をつかめないチャコティ。「なぜかわからんが、2人は生きてる。」 セブン:「ありえないことだ。」 通信が入る。『トゥヴォックより副長。』 チャコティ:「何だ。」 『緊急の離陸命令が出された。すぐ戻って下さい。』 『了解。転送人数は 5名。』 「5名?」 『もう一組のパリスとキムを見つけたんだ。説明がつかない。』 ブリッジに戻るジェインウェイ。「私にはわかる。転送の準備を。」 チャコティ:「直接医療室へ頼む。」 防護服を着ていないキムは言う。「嫌だ。僕は戻りたくない。」 ジェインウェイ:「転送装置が不完全で、一人ずつロックできないの。ワイドビームで 5名一度に転送するから、そのつもりで。」 チャコティ:「了解。」 キム:「ここが僕の故郷だ。」 「かもしれん。だが事情がはっきりするまでは、君も船に戻ってもらう。」 キムは走り出した。チャコティ:「ハリー、待て!」 転送されるチャコティたち。
報告するトゥヴォック。「医療室に 4名転送されました。5人目にはロックできません。キム少尉か、もう一人のキム少尉と思われます。船の沈下が止まりません。」 ジェインウェイ:「時間切れね。早く軌道に戻りましょう。ハリーのことは後で考えればいい。反重力※11スラスターエンジン起動。」 「スラスター起動。」 「慣性ダンパー、フライト設定に変更。」 「ダンパー再設定。全セクション準備完了。」 「離陸開始。エンジンのパワーが足りない。」 「電磁フォースで、抑制されている模様です。」 「補正して。」 「効果ありません。第14、15デッキが沈下しました。船体は沈み続けています。」 ヴォイジャーの下の液体は、大きく広がっている。

※11: antigrav
重力反発装置。TOS第47話 "Obsession" 「復讐! ガス怪獣」など

ブリッジ。ジェインウェイ:「現状は?」 トゥヴォック:「オーバーロードのため、エンジンオフライン。第13 から 15デッキまで埋没。すぐ離陸しないと、船体の侵食が始まります。」 「ブリッジより機関室。」 機関室。「こちらヴォーラック。」 ジェインウェイ:『エンジンを何とか始動させて。』 「トレス中尉がコントロールジャンクションに処理班を送りました。」 『いつ?』 「30分前です。」 ため息をつくジェインウェイ。トゥヴォック:「たとえエンジンが復旧しても、これ以上深く沈んだら役に立ちません。」 ジェインウェイ:「流動体を追っ払うには…フェイザーエミッターからナディオンバーストを試して。流動体の電磁的特性を弱められるかもしれない。」 「了解。」 「ハリーたちの様子を見に医療室へ行ってきます。後をお願い。」
眠っているパリスとキムにハイポスプレーを打つドクター。フォースフィールドの中には、もう一人のパリスがいる。ジェインウェイが到着する。「容体は?」 「運がいい。防護服のバックアップシステムが 2人の生命維持機能を守ったようです。時間はかかるが、回復するでしょう。」 「彼は?」 「小惑星の特殊な大気を吸っているということを除けば、ミスター・パリスの完全なるコピーですね。中尉の記憶までもっている。その気さくな性格までね。」 「あの流動体※12には物を複製する特性があることがわかったの。なぜか。流動体が物に触れると DNA が作り出され、複製されるの。」 「面白い。」 ジェインウェイはパリスに尋ねる。「あなたは一体何者?」 「お願いだ。俺を降ろして下さい。」 「2人の部下がコピーされた原因を突き止めるまでは無理ね。」 「艦長、俺を信じて下さいよ。俺だって何が何だかわからないんです。あいつが現れるまで、俺は自分がトムだと信じてた。惑星上陸して少し変わったような気もするがよくわからない。自分が誰か。ただ感じるんです。俺は今すぐ船を降りて、あの星に戻らなきゃって。」 トゥヴォックの通信。『艦長、ナディオンバースト準備完了。』 ジェインウェイ:「実行。」 船が軽く揺れる。するとパリスが苦しむ。「何をしているんです。」 トゥヴォック:『緊急の通信を受信しました。惑星に残っているキム少尉からです。』 ジェインウェイ:「つないで。」 キム:『艦長、離陸作業を停止して下さい。』 「あなたにハリー・キムの記憶があるなら、私がヴォイジャーを守るために全力を尽くすとわかるはずでしょ?」 「そうはさせない!」 「なぜ。」 「あの…説明できないけど感じるんです。」 「じゃあ説明できるよう協力して。トゥヴォック少佐、私は第1転送室に向かいます。台座の周りにレベル7 のフォースフィールドを張って。内部を小惑星の大気で満たし、キムを転送してちょうだい。いえ、多分キムの複製の方ね。」 トゥヴォック:『了解しました。』
保安士官と共に転送室へ入るジェインウェイ。転送技師※13に尋ねる。「ロックオンできた?」 「はい。」 「エネルギー、オン。」 キムが転送されてくる。 ジェインウェイ:「船を解放して。」 「それはできません。」 「なぜなの。」 「僕はこの星に、強いつながりを感じるんです。説明はできませんが、離陸作業を中断して下さい。」 「中断したら船を解放してくれるの? さあ答えて。」 「いや、あなたたちが必要だ。」 「艦長よりトゥヴォック。点火。」 ナディオンバーストに苦しむキム。その場に倒れる。一瞬体が揺らぎ、銀色の実体が姿を見せる。 ジェインウェイ:「さあ、どうするの?」 「止めてくれ。」 「それは無理よ。」 「僕らを殺すのか。」 「仕方ないでしょ。」 「こんなの一方的すぎる。」 「艦長よりトゥヴォック。」 「やめろ!」 キムはジェインウェイに近づこうとするが、フォースフィールドに阻まれた。 「頼む。やめてくれ、艦長。お願いだ。」 「離陸中断。」 トゥヴォック:『艦長、沈下が続いています。』 「いいから中断して。」 『了解。』 「どういうことか説明して。」 キム:「僕も混乱してる。自分でもよくわからないんだ。」 「あなたはこの惑星とつながってるって、まるで惑星は生き物ね。」 「生き物。そうです。でも生きてるのは、銀色の流動体だ。」 「ハリーの DNA をコピーしたのね、あの化合物。」 「そうです。でもそれ自体意識はなく、感覚ももたない。これまではね。僕と彼ができるまでは。」 「トム・パリスね。」 「そうです。僕らが最初だ。ヴォイジャーがことの発端だ。化合物がハリーとトムに接触した時、突如として意識が目覚めてしまったんです。それ以前は、本能だけだった。音と光と熱。でも 2人が、考えることを教えた。」 「飲み込めてきた。銀色の流動体が感覚を経験し、欲望に目覚めた。ヴォイジャーの残りのクルーをコピーして、仲間を増やしたいのね。」 「ヴォイジャーは必死で故郷を目指して来たが、ここを故郷にすればいい。」 「いえ、無理よ。ここはみんなの故郷じゃない。あなたならわかるでしょ。」 「ええ、わかります。」 「じゃあ行かせて。」 「取り残されるなら死を選ぶ。仲間が欲しい。」 「……あなたを作ったあの流動体は、ハリー本人を殺さずに彼をコピーした。だから私たちの体がなくても、DNA のサンプルさえあればいい。船を解放して。クルーに話をして、彼らが承諾すれば、残りのクルーをコピーさせてあげる。」 トゥヴォック:『ブリッジより艦長。沈下停止。危機を脱しました。』 ジェインウェイ:「了解、間もなく離陸します。その前に、全クルーを第1貨物室に招集。ドクターもよこしてちょうだい。」 「なぜです。」 『説明は後よ。』 ジェインウェイはキムに言った。「新しい仲間によろしく。」
ヴォイジャーの下には、もう流動体はない。離陸を開始する。 キム:「全セクション、離陸準備完了。」 トゥヴォック:「離陸警報確認。」 ジェインウェイ:「トム、後は任せたわよ。」 パリス:「了解しました。」 惑星上では、もう一組の「ヴォイジャーのクルー」百数十人が、ヴォイジャーを見送った。

※12: エンサイクロペディアでは、「模倣生命体 (mimetic life-form)」とされています

※13: Transporter technician
(Susan Lewis)

・感想
ネタバレ邦題がどうでもいいくらい、先週と比べて何とひどいことか…。あちこちに数字の穴があるのが目に付きます。500ケルビン=摂氏 227度で、この環境に生身で耐えていることをドクターも含めて「あっさり」受け入れていること。4光年をワープなし、しかも推力 4分の1 で行っていること (本来は 64年ほどかかるはず!)。
数字に関してだけではなく、とって付けたようなトレスとチャコティの会話 (パリスが戻ってきてもトレスとは何にもなし)。時間稼ぎとしか思えない、のんびりした地表での捜索。わかりきった内容を繰り返しているキムの複製とジェインウェイの最後の会話。そして最後……クルーとなっても、彼らは荒涼とした惑星で一体何をするんでしょうか?
救いは医療室のドクターとニーリックス、それと久々に着陸したことくらい。映像も使い回しではないようです。ちなみに何と、このエピソードには続編があったりしてます。


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