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TNG エピソードガイド
第162話「アンドロイドの母親」
Inheritance

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・イントロダクション
惑星軌道上のエンタープライズ。
『航星日誌、宇宙暦 47410.2。アトリア星の要請で自然災害対策に協力することになり、2名の地質学者が派遣されてきた。うち一人は、アトリア4号星※1に住む地球人である。』
女性の地球人。「最初に私達夫婦が御報告したときよりも、事態は悪化しています。中心部のマグマの冷却が更に進んで、固まり始めているんです。」
夫は異星人だ。「重力フィールドが影響を受け始める。地震活動が以前の 3倍に増加しています。」
女性:「この調子で冷却が進んでいったら 13ヶ月後にはアトリアには、人が住めなくなります。」
ラフォージ:「プレートにかかるエネルギーを放出させてやれば、地殻変動をいくらか抑制することはできると思いますが、根本的な解決ではありません。」
データ:「固まったマグマを、溶かす方法を考えないことには。」
「ここのマグマ層の空洞部分から、中心核まではどれくらいの距離ですか?」
観察ラウンジのコンピューターに、惑星の断面図が表示されている。中に空洞の部分がある。
女性:「数キロですが?」
ラフォージ:「ここから、中心核にプラズマを注入※2したら。」
データ:「…そこにプラズマ注入装置を設置するとなると、地表から空洞まで掘り進める必要がありますが、フェイザー砲を使えば十分可能だと思われます。」
「プラズマ注入装置の操作は、地中にシャフトを通して行えばいいでしょう。」
女性:「なるほどねえ? 直接マグマ内に、プラズマを注入すれば連鎖反応が引き起こされて、固まったマグマも融解するわ。」
データ:「マグマの温度も、以前の 93%にまで回復するはずです。」
男性:「それが成功すれば、今後数百年は安全だ。」
ピカード:「そちらさえよろしければ、すぐに開始しましょう。」 制服の裾を伸ばす。
「お願いします。ただその前に地質調査をして、最新データを取りたいのですが。」
ラフォージ:「それならお手伝いしますよ、プラン博士※3。」
ピカード:「では船室を用意してありますので、どうぞ一息ついてください。」
プラン:「ありがとうございます。」
残った女性。「データ?」
データ:「何でしょうか。」
「…覚えてる? 私が誰かわかる?」
「ジュリアナ・テイナー博士※4では?」
テイナー:「やっぱりほんとに、昔の記憶をなくしてるのね。そうだとは思ったけどもしかしたらって。」
「前に会いましたか。」
「オミクロン・セータ※5の研究所で…あなたの誕生に立ち会ったのよ? …私も手伝ってたの…まあ…立派になって。」
「スン博士の、同僚の方ですか。」
「ああ…そうね、研究仲間で…同時に彼の妻でもあったわ。だから、ある意味では私はあなたの…母親なのよ?」


※1: Atrea IV
吹き替えでは「アトリア4号星」

※2: 鉄プラズマ注入 ferroplasmic infusion

※3: プラン・テイナー博士 Dr. Pran Tainer
(ウィリアム・リスゴー William Lithgow) プランは名前なので、英語的には「プラン博士」は変ですね。声:石森達幸

※4: Dr. Juliana Tainer
(フィオヌラ・フラナガン Fionnula Flanagan DS9第8話 "Dax" 「共生結合体生物“ダックス”」のエニーナ・タンドロ (Enina Tandro)、ENT第23話 "Fallen Hero" 「追放された者への祈り」のヴラー (V'Lar) 役) 声:中西妙子

※5: オミクロン・シータ Omicron Theta
TNG第13話 "Datalore" 「アンドロイドの裏切り」より

・本編
テン・フォワードで話すテイナー。「…こうしてまたあなたに会えるなんてまるで夢みたい。…何年ぶりかしら…。」
データ:「全く覚えていないのですが。」
「それは無理もないわ? プログラムの改良をした後で、プロセッサーを一時機能停止したの。どこから覚えてるか言ってくれたら、その前の話をしてあげる。」
「私の記憶にあるのは、オミクロン・セータ星で宇宙艦隊の士官に助けられたところからです。」
「ああ、水晶体※6の攻撃を受けた後ね?」
「はい。コロニーの住民は全滅しました。しかし、住民の記憶は全て私のメモリーバンクに移されていたのです※7。」
「あなたのためになればと思って入れておいたの。大人になればきっと上手く、役立ててくれるだろうと思って。」
「『大人』ですか。」
笑うテイナー。「大人ってのは変かしら? …でも最初は赤ちゃんみたいだったのよ? 体重は 100キロもあって身体は立派だったけど…ほんとに生まれたばかりの頃は、手足も上手く動かせなかったし。センサー情報の処理にも苦労してたわ? ヌニアンは凝り性だからもうあちこち改良を繰り返してね。あなたをできるだけ、人間に近づけようとしてた。」
データ:「…改良が終わった時点で、以前の記憶を全て消去したのですか?」
「うん。一旦機能停止して、コロニーの住民の記憶をインプットしたの。…その後再び起動させるはずだったのに突然コロニーが襲われて、その時間もなくて。緊急脱出したの。…あなたも連れて行きたかった。でも、脱出カプセルが足りなくて。」
「博士。コロニーの住民の記憶を調べたのですが、ジュリアナという名は一人だけしかいません。ジュリアナ・オドネル※8です。」
「私よ。」
「…父と結婚していた記録はありませんが?」
「内緒だったから。…ヌニアンはあの通り変わり者でしょ? だから母に結婚を反対されて、それで内緒で結婚式を挙げて一緒に暮らし始めたのよ? マヴァラ4号星※9まで行って式を挙げたわ。…立会人は、クリンゴンとコーヴァランの貿易商人※10だった。夢見てた結婚式とは違ったけど…でもヌニアンったら、そんな状況をロマンチックだねって言ってたわ。」
「…父は、独特なものの見方をしますからね?」
「どうして知ってるの?」
「前に会ったのです。テルリナ星系※11で。」
「オミクロン・セータを出た後に行った星だわ? …会えたのね、よかったわあ。」
「父が死ぬ、少し前でした。」
「……死んだ?」
「…はい。」
うろたえるテイナー。「こんなにショックだなんて思わなかった。……あの人とはとうの昔に終わったのに。」
データ:「どういうことです。」
「……あの人は私より、仕事の方を愛してたのよ。…それに気づいて、人のいないジャングルの中であの人のほかに話す相手もいない状況だった。…もう…寂しくて。…耐えきれなかったの。…それで彼の元を去ったの。…でもいいの、もう昔の話よ? …またあなたに会えた。それだけで嬉しいわ。あなたのこともっと聞かせて?」 データに自分の手を重ねるテイナー。
「ここで、産みの親に出会うとは。」 データは手を離した。「予想もしていなかったものですから。まず、事実関係をはっきり確認したいと思います。失礼、博士。」

機関室。
ラフォージ:「フェイザーバンクの調整はもう少しだ。一時間後には掘削作業を始められる。」
データ:「準備ができたら言ってくれ。」
「…さっきから何やってんだ。」
「テイナー博士の話が本当かどうか、確認を取っているんだ。」
「疑ってるのか。」
「いや、そういうわけではない。ただ、事実を把握したいだけだ。」
「…で、何かわかったのか。」
「マヴァラ4号星に問い合わせてみたが、結婚の記録は確認できなかった。内乱が起こった際、多くのファイルが紛失したそうだ。」
「いま見てるのは?」
「マヴァラ星の入国者リストだ。」 一覧が流れている。「当時、父と母が訪問していたかどうか調べている。…『ジュリアナ・オドネル』。『ヌニアン・スン』。」 点滅する名前。「2人とも同じ船に乗って、オミクロン・セータからマヴァラ4号星に移動して、4日後に戻っている。」
「裏づけになるじゃないか。」
「…だが、これだけでは 2人が結婚していた証拠にはならないな。」
「…ハ、ったく。どうしたんだよ。まるでテイナー博士が嘘をついてるって証明したいみたいだぞ?」
「そうではないが、もしテイナー博士の話が本当なら…なぜ父は一言も言わなかったんだ?」
「だって別れたんだろ? 話したくなかったんじゃないか? 思い出すと辛いから。…そう言えばさ、スン博士が残してくれたエモーションチップ※12。あれには確か記憶も入ってるって言ってたろ。あの中に託したんじゃないかなあ。」
「そうだな。子供の頃の記憶や、母の記憶も…あの中にあるのかも。」
「大体何で彼女が、嘘つく必要がある。お前の母親の振りなんかして何になる。」
「確かに、動機は全く見当たらない。」
「…お前が戸惑うのもわからないでもないよ。どうもしっくりこないんだろう。あんまり突然過ぎて、何て言うか論理的回路にフィットしないんだろ。」
「そうなんだ。」
「それが人生ってもんなのさ。生きてると、思いもよらないことがしょっちゅう起こるんだよ。…その度に経験を積みながら、人間は成長していくんだ。」
「…正直言って自分が知らない過去のことを言われても、今はまだ…受け入れられないでいる。…だがその一方で、もっと知りたいという気持ちもある。」

テン・フォワードで、パッドを読みながら食事しているテイナー。
テーブルの横にデータが立った。
テイナー:「…どうしたの?」
データ:「もっと話を聞きたいのです。……母さん。」
テイナーは笑った。


※6: Crystalline Entity
TNG "Datalore" など

※7: TNG第104話 "Silicon Avatar" 「殺戮の宇宙水晶体」より

※8: O'Donnell

※9: Mavala IV

※10: Corvallan trader
初言及

※11: Terlina system
TNG第77話 "Brothers" 「永遠の絆」より。名前は初言及

※12: emotion chip
TNG "Brothers" など

廊下を歩くテイナー。「私は女の子が欲しかったんだけど、あの人は絶対息子がいいって言うの。二人とも最後まで全然譲らなくて、組み立てる直前まで言い争ったわ?」
データ:「どうやって決めたんです?」
笑うテイナー。「それがもうあの人頭を造ってあったのよ。それを見せておいて後は私に決めてくれって言うの。そんなの見たら反対はできないわ? だってそうでしょ、あの人の顔とおんなじなんだもの、壊せるわけがないわ?」 部屋のラベルを見る。「…ディアナ・トロイ。彼女を訪ねるの?」
データ:「そうです。」
「…お父さんが知ったらきっと大喜びよ。」
「なぜです?」
「…性的機能が上手く働くかどうかとても心配してたから。」
「…あ、それは誤解です。カウンセラー・トロイは、セラピストですよ。」
「おやすみ?」 テイナーは歩いていった。
部屋に入るデータ。

機関室。
データ;「3分29秒後に、掘削地点の上空に到達します。」 テイナーに、肩に手を置かれた。「…スキャンによると、プラズマ注入装置設置場所のマグマは、非常に不安定な状態です。」
テイナー:「じゃあ私が地層の密度をモニターしながら、素粒子ビームの強度を調整するわ。…そうすれば作業の影響による地殻変動を減らせるでしょ?」
ラフォージ:「データ、フェイザーの調整が終わったぞ。ビームの強さを目一杯上げといた。」
データ:「ありがとう。」
笑うテイナー。「…礼儀がちゃんと身に付いてるのね。プログラムのバランスを取るのが難しかったのよ? 最初はあなた、『ありがとう』とか『すみません』なんて言葉絶対に言わなかったわ。…ずいぶん嫌な子だったわよ…。」
ラフォージ:「データが?」 笑う。「想像つかないな。」
「大変だった…。おまけにこの子ときたら…」 口に手を当てるテイナー。「ごめんなさい。気を悪くしたでしょ?」
データ:「いいえ、アンドロイドですから。続けてください。」
「…いろいろあったけど一番面食らったのがね? あなたったら辺り構わず歩き回ってたのよ。裸で。…人間そっくりなアンドロイドが裸でウロウロしてると周りの人も嫌がるでしょう? …服を着てって頼んだんだけど、あなた言うこと聞いてくれないの。必要性を認められないって言って。…だからもう仕方なくて、常に服を着るようにプログラム※13を書き直したわ…。」
通信が入る。『ライカーより機関部。』
ラフォージ:「ラフォージです、どうぞ副長。」
ライカー:『掘削作業地点上空※14に到達した。』
「…フェイザーの方は準備完了です。」
データ:「計算によりますと、最初のビーム放射は 19秒間継続すれば十分です。」

ブリッジのライカー。「わかった。」
プラン:「計算のチェックはアンドロイドがしてるんですか。」
「…全てデータ少佐に任せてあります。」
「そうは言っても、彼は機械だ! 人間がチェックすべきでは。」
「データ少佐の自己チェック機能は、十分信頼の置けるものです。どうだ。」
ウォーフ:「ターゲットロック完了。」
「始めてくれ。」
フェイザーを発射するエンタープライズ。惑星に注がれる。

データ:「…空洞部分まで、あと 2キロメートルです。」
テイナー:「あと 5秒で到達するわね。…ああ! 上手くいったわ。」

ウォーフ:「ビーム照射停止。」

テイナー:「ああ…空洞部分は安定してるわ。」
データ:「周囲のマグマ層の圧力にも、上昇は見られません。」
ライカー:『ご苦労、データ。君の計算通りだったな。』

ライカーはプランを見る。
テイナー:『データがいなかったらきっとこうはいかなかったわ。彼の計算は完璧よ!』

データ:「掘削作業の影響で、マグマの空洞部分※15の温度が約300度上昇しています。…数時間して冷えれば、中に入れるでしょう。」
テイナー:「ああ…。……このあと何か用事ある?」
「いえ、特に。」
「じゃあゆっくりおしゃべりでもしましょうよ。あなたの御部屋見てみたいわ?」
うなずくデータ。

ヴァイオリンの演奏を聴いているテイナー。弾いているのはデータだ。
テイナーは目をつぶり、聞き入っている。曲が終わり、笑って拍手するテイナー。
データ:「ありがとう。今の曲を、明日のコンサートで弾くんです。」
テイナー:「感動的だったわ。」
「フン…技術的にミスがないとはよく言われますが、感動的と言われたのは初めてです※16。」
「よかったわよ、ほんとに…。」
「親の贔屓目でそう感じるのではありませんか?」
テイナーは大きく笑った。
データ:「一般的に言って親は、自分の子供を過大評価する傾向がありますから。」
テイナー:「…確かに、公平な目で見てるとは言えないかもね? あなたに芸術的能力を与えようと言い出したのは私なのよ? ヌニアンは必要ないって言ってたけどね。あなたには感情がないから自己の内面を表現する手段は必要ないと考えてたみたい。でも私は、それは違うって最後まで言い張ったのよ?」
「…よくわかりませんが…ただこれまで、芸術を理解しようとすることで人間性というものをより深く理解できたような気が、するんです。」
「やっぱり。言い張ってよかったでしょ?」
「そう思います。」
「…データ? 今の曲※17だったら私も弾けるわ。明日ヴィオラのパートを私に演奏させてくれないかしら。」
「それはいい考えですね。」
「…練習しないとね。あなたヴィオラ持ってる?」
「レプリケーターで作りましょう。…コンピューター、ヴィオラを出してくれ。」
テイナーは置いてある絵に気づいた。「あなたが描いた絵?」
データ:「ええ。あらゆる画法をマスターしようと試みているんです。」
「そう。」
「…これは、フランスの初期印象派※18の手法で描きました。」
「とっても上手じゃない。ああ、これは誰?」
少女の絵だ。
データ:「その子はラル※19。私の娘です。」
テイナー:「娘ですって?」
「アンドロイドです。…自分をモデルに創りました。」
「ああ…今どこにいるの。」
「…私が造ったポジトロニック回路が不安定だったので、長くは生きられませんでした。」
「…そう。」
「…あなたの、孫になりますね?」
絵を見つめるテイナー。
データ:「練習を始めましょうか?」
テイナー:「ええ、そうね。」

テン・フォワードで演奏している二人。
弾くのを終えたデータ。「ここは、音響効果がとてもいいのです。」
テイナー:「そうね、いい感じだわ。…データ。一つ聞いていい?」
「何でしょう。」
「この先またアンドロイドを創りたいと思う?」
「…できれば。…私は、自分と同じ仲間が欲しかった。今でもその気持ちは、変わってはいません。」
「…またラルのように死んでしまうかもしれないのに? 完全なポジトロニック回路を創るのは容易じゃないわ。私達もローアの前に何体も失敗してるのよ。」
「ローアの前に創られたアンドロイドがいたのですか?」
「…3体※20創ったわ。子供のように思ってた。みんな死んでしまったけど。…ヌニアンが次のアンドロイドを造ると言ったとき、私はもう嫌だって反対したわ。すぐ死ぬかもしれない命を生み出すのは残酷すぎる。…でもあの人はやめなかった。今度こそ大丈夫だって。…そしてついに完全な回路を造り上げたわ。……でもローアは、残忍で…邪悪だった。…仕方なく機能停止することになってしまった。…それなのにあの人はまだ懲りずに今度は…感情のないアンドロイドを造ると言いだしたの。…神経を疑ったわ。」
「そして、私ができた。…私を創るのに、反対だったのですか。」
「…あの時はそう思ったわ。でも後になって間違いだとわかった。…あなたの進歩の様子を遠くから見ていて、あなたを造ってよかったんだと思ったわ。」
「では、どうして会いに来てくれなかったのですか。」
「…あなたに対して負い目を感じていたから。」
「…なぜ、負い目を感じているのか話してみれば心が軽くなりますよ?」
「…許して。…脱出用のカプセルが足りなくて仕方なくあなたを置き去りにしたと言ったけど…嘘なの。…わざとあなたを置いてったのよ。」 涙を流すテイナー。「あなたも、いつかローアのようになるんじゃないかと思うと怖くて。……私がヌニアンに言って置き去りにさせたの。」
何か言おうとするデータを止め、テイナーは駆け出ていった。


※13: 原語では「方正サブルーチン (modesty subroutine) を書いた」

※14: 原語では「同期軌道 (synchronous orbit)」

※15: magma pocket
原語では前にも言及

※16: TNG第50話 "The Ensigns of Command" 「移民の歌」で、ピカードがデータの演奏を同じ言葉 (beautiful) で誉めています。ただその際吹き替えでは「美しい」だったので、「感動的」ではありません (意識したかどうかは不明ですが)

※17: 原語では「今のヘンデルの曲」。曲名はゲオルグ・フリードリヒ・ヘンデル (Georg Friedrich Handel、1685〜1759年) の、パッサカリア (Passacaglia、Duets for Violin and Viola という CD に収録されている曲だと思われます)。音は後から合成されています

※18: early French impressionists

※19: Lal
TNG第64話 "The Offspring" 「アンドロイドのめざめ」より。この絵は宣伝用写真をコンピューター加工したもので、風景画家の Wendy Drapanas 作

※20: 映画第10作 "Star Trek Nemesis" 「ネメシス/S.T.X」に登場する B-4 も、このうちの一体と考えることもできます

再びフェイザーを発射しているエンタープライズ。
データ:「次の、マグマ空洞部まで後 4キロ。」
船が揺れた。
ラフォージ:「ビームの先から、フィードバック・パルスが発生してる。」
テイナー:「多分マグネサイト※21の岩盤に突き当たったのよ。フェイザーの周波数を調整するわ。」
ライカーの通信。『データ、このままではビームを停止するしかない。』
データ:「そうなると、別の場所を探してやり直すしかありません。」
テイナー:「ほかに条件のいい場所はないわ。もう少しだけ待って。」
ラフォージ:「博士! そう簡単に調整できるもんじゃ…」 機関室の揺れが収まった。「どうやって。」
「…まぐれ当たりね、ツイてたわ。」
テイナーを見るデータ。
テイナー:「さあ、あと 2キロ掘れば空洞部分に突き当たるはずよ? フェイザービーム、停止準備。」
ラフォージ:「突き当たった。」
「停止。」
データ:「…周囲のマグマも異常ありません。」

ブリッジのプラン。「こちらの熱が冷めるのを待つ間、最初に掘った空洞の方に装置を取り付けに行くのはどうでしょう。」
ライカー:「データ、テイナー博士。第2転送室へ来てください。」

データ:「了解。」

アトリア4号星の洞窟。
巨大な装置を操作するデータ。「プラズマ誘導コイル、設定完了しました。」
テイナー:「転換機の調整ももう少しよ。」
データは、汗をかくテイナーを見つめている。
プラン:「マグマの圧力は多少上がっているが、この作業が終わるまでは特に危険な状態にはならんだろう。」
テイナー:「あと少しで終わるわ。」
「データ。…夕べジュリアナが君にひどいことを言ったそうだが、彼女も苦しんでいるんだ。君が怒るのは当然だと思うが…」
データ:「私は怒っていません。」
テイナー:「…いいのよ、プラン。…許して欲しいなんて虫がよすぎるけど、わかってくれたら嬉しいわ。」
「…よく理解できません。一つ聞きたいのですが。」
「……いいわ、何が知りたいの?」
「本当に自分の産んだ子供だったら、同じように置き去りにしましたか?」
「…そんな。…何て答えていいか。」
「テイナー博士。私を傷つけまいと気を遣っているのなら、その心配は全く無用です。」
「ただ答えを変な風に誤解して欲しくないだけよ。……多分、自分の産んだ子だったら置いてはいかなかったわ。」
「うん。…人間の命の方が、人工生命体の命より価値があるからですか。」
「そんなことは絶対にないわ。私達はどのアンドロイドも自分の本当の子供のように愛してたわ。…ローアもよ? ローアがどんなに恐ろしく危険だとわかってても、この手で機能停止させるのは身を切られる思いだった! もしあなたがローアのようになったら、あなたも殺さなきゃならない! ……そんなことだけはしたくない。……自分のしたことを言い訳するつもりはないわ。…でもああするしかなかった。それを、わかって。」
「わかります。…答えてくださって、ありがとう。」 プランを見るデータ。

テン・フォワードでの演奏会に集まっている一同。テイナーは付け髪をしている。
弾きながら、テイナーを見ているデータ。聴き入るピカードたち。
演奏が終わり、全員立ち上がった。「ブラボー!」 「素晴らしいわ。」
互いに礼をするデータとテイナー。データは何かが気になっているらしい。

医療室に戻るクラッシャー。「テイナー博士の医療データを知りたいって、気になることでもあるの?」
ヴァイオリンを置くデータ。「転送の際のスキャン記録を見れば、健康状況もわかるでしょ?」
クラッシャー:「それはわかると思うけど、原則として理由もなく人の健康チェックをしたりはしないのよ?」
「ドクター。…こんなことを御願いするのは、それだけの理由があるのです。ただ今は、その理由を聞かないでください。」
「…わかったわ。」 クラッシャーはテイナーの情報を表示させる。「見たところ、特に悪いところはないわ? 高血圧気味だけど、これくらいの歳の女性ならまあよくあることよ。」
「…そうですか。」
「…どんな症状なのか、言ってみて?」
「ああいえ、具合が悪いわけではないのです。」
「じゃあなぜスキャン結果を見たがったの。」
「…彼女が、本物のテイナー博士とは思えない節があるのです。」
ライカーの通信が入る。『ブリッジよりデータ。』
データ:「何でしょう。」
『…空洞の内部で陥没事故があった。第2転送室へ行ってくれ。』
「わかりました。失礼します。」


※21: magnesite
菱苦土鉱。初言及

転送室に入るテイナー。「どうしたの?」
アトリア人に抱きかかえられるプラン。「プラズマ注入装置の最終チェックをしていたら、岩が崩れてきた。」
ラフォージ:「副長、周りのマグマの変動がかなり激しくなってきています。このままでは、空洞は崩れます。」
ライカー:『どれくらいもつ。』
「何とも言えませんが…せいぜい 12時間でしょう。」
テイナー:「…一刻も早く装置を起動して注入を始めないと、間に合わないわ。」

ブリッジのライカー。「今あそこに戻るのは危険です。」

テイナー:「ここが駄目だったら別の場所を探すのに、何ヶ月もかかってしまうわ。それじゃ手遅れなのよ。」
プラン:「そうだ、今やるしかない。」
ライカー:『わかりました。だができるだけ早く脱出するように。』
データ:「了解しました。」
プランに言うテイナー。「あなたは休んでて?」 データと共に転送台に立つ。
転送機を操作するラフォージ。

洞窟内に転送されるデータとテイナー※22。データは倒れているパターン強化装置※23を立て直す。
トリコーダーを使う。また地震があり、驚くテイナー。
岩場が落ち込み、上から小さな石が落ちてくる。
データ:「地殻変動が活発化しました。急ぎましょう。」

ライトを持ち、洞窟を進む二人。揺れは収まらず、砂が降っている。
装置のところまで来た。
天井の果てしない穴※24をチェックするデータ。「シャフトには、地殻変動による影響はありません。これを通じて、エンタープライズから操作可能です。」
テイナー:「…注入装置が壊れてる。もう一度最初からプログラムし直さないと。」
「エネルギートランスファー・マトリックス※25、OK。」
「素粒子ストリームバッファー※26、再設定。」
通信が入る。『ライカーよりデータ、聞こえるか。』
データ:「はい、副長。」
『地殻エネルギーの変動が激しくなってきた。』
「わかりました、大急ぎで作業を進めます。」
テイナー:「…できたわ。後は電解装置を調整するだけよ。」
揺れが激しくなる。
ライカー:『データ、無事か。』
データ:「…大丈夫です。完了次第、転送ポイントに向かいます。」
テイナー:「…できたわ、行きましょう。」
稼働し始める注入装置。

二人は洞窟を戻る。
驚き、立ち止まるテイナー。崖ができており、下ではパターン強化装置が全て倒れている。
テイナー:「パターン強化装置なしで転送できない?」
データ:「無理です。地表までの距離がありすぎます。」
「でもどうやって降りるの。」
「…足がかりになりそうなところもない。」 地震が襲う。「飛び降りるしかありません!」
「駄目よ! 高すぎるわ、絶対無理よ!」
「大丈夫!」
二人は飛び降りた。叫ぶテイナー。
データは無事着地した。だがその横で、テイナーが倒れていた。
かたわらには折れた腕があり、端に機械的な構造が見えている。


※22: 転送前はヒールの高い靴だったのに、転送後は低くなっています

※23: pattern enhancer
TNG第115話 "Power Play" 「亡霊反逆者」など

※24: Dan Curry によるマットペインティング

※25: energy transfer matrix

※26: particle stream buffer

眠っているテイナー。だがその額は開けられ、回路が見えていた。
ラフォージ:「基本構造はスン博士のアンドロイドと全く同じだが、誰が見ても人間だと思うように造ってある。」
クラッシャー:「…涙も出るようになってるし、汗も出るわ? 皮膚の下にはちゃんと毛細血管まである。」
医療室にはライカーも来ている。「なぜスキャンでわからなかった。」
クラッシャー:「スキャンされたときに、人間と同じ結果が出るようなシグナルを発しているのよ。」
ラフォージ:「老化プログラムもあります。データと同じように見た目は年々歳を取るし、身体機能も衰えるようになってる。」
「わからないのは、なぜ昏睡状態なのかよ。どこにも機能異常はないから、目覚めていいはずなのに。」
データ:「ポジトロニックマトリックスに、カスケード異常※27があるのでは?」
ライカー:「…お前は、はじめからわかってたのか?」
「…仕事を見ていておかしいと思っていました。非常に複雑な計算を、コンピューターなしでやってのけましたから。」
「計算が得意なだけかもしれん。」
「その時は、確信はありませんでした。…でも後で、博士の瞬きを見て確証を得たのです。…瞬きの間隔は一見不規則なように見えますが…あれは私と同じように、フーリエの公式※28を使ってファジー※29制御された動きです。」
「お前だから気づいたんだな。」
「…ヴィオラの演奏もそうでした。」
「何が。」
「練習したとき、毎回全く同じ弾き方をしていました。スピードも、抑揚のつけ方も完全に同じでした。…そんなことができるのは、機械だけです。」
「…プラン博士は知ってるのか。」
「まだ知りません。地上で、プラズマ注入作業をチェックしています。」
「知らせるべきかな。」
ラフォージ:「データ。これ見てみろよ。」 微少なチップを、テイナーから取り出した。
データ:「ホログラムインターフェイスがついているな。…何かの、メッセージ※30だ。」

アイソリニアチップにインターフェイスを取り付け、回路に挿入するデータ。起動される。
ホロデッキの中に、データそっくりの初老の男性が現れた。「誰か知らんが、ジュリアナの秘密に気づいたようだな?」
データ:「そうです。」
「このホログラムは君の疑問に答えるようにプログラムされておる。わしはジュリアナを創った、スン博士※31だ。」
「データです。」
スン:「データ。…そうか、見つけたのがお前でよかった。」 笑う。「…丁度いい。このプログラムはお前自身の疑問にも答えられるように作ってある。」 スンはデータの周りを一周した。「…元気にしてたか?」
「元気です。」
「…母親に会えて嬉しかっただろ。」
「…母親と言いますがテイナー博士は、あの設計の複雑さから見ても…私より後に創られたものでしょう?」
「そうだ。だが…生身の身体の、ジュリアナもいたのだ。…わしの妻で…共にお前を創った。」
「生きているのですか?」
「…コロニーが…襲われたとき、彼女もひどい怪我を負ってね? 何とか、テルリナ3号星※32までは逃げ延びたが…その後昏睡状態になって、回復が絶望的だと悟ったわしはアンドロイドを造った。もう必死で、自分のもてるありったけの力を尽くして※33眠っているジュリアナの頭の中にある記憶を、ポジトロニックブレインに移した。成功するかどうか、わからなかったが…最愛の女性を失うのは耐えられなかったのだ。…ジュリアナが死んで数日後にアンドロイドを起動した。……彼女はわしを見て、微笑んだよ。…わしがわかったんだ。成功だった。生まれたばかりだが、ジュリアナの記憶を受け継ぎわしのことも覚えていた。まるで本当に妻が、甦ったようだった。奇跡だよ。」
「本人は何も知らないのですか?」
「そうだ。幸せを壊したくなかった。ジュリアナのためにも…わしのためにもな。幸せだった。…別れたがな?」
「なぜです。」
「……わしが間違っていたんだよ。…愛していたのに、そのことをちゃんと伝えてやらなかった。それが原因だ。本物のジュリアナが生きていてもやはり、去っていっただろう※34。」
「もしあのジュリアナが、自分がアンドロイドだとわかれば…」
「彼女には知らせるな? …真実を知ったところで、ジュリアナが不幸になるだけなのはお前にもわかるだろう※35。…いいか。チップを頭の中に戻せば彼女は目覚めて、何も覚えていない。眠っていた間のことは適当に理由をこしらえてごまかしてやればいい。」
「…真実を知らない方がいいとお考えなんですか。」
「真実か? …彼女は、紛れもなくわしの妻だ。それこそが、真実なのだよ。……彼女は寿命を全うして死ぬように造ってある。残された人生を、人間として生きさせてやって欲しい。…悲しませないでくれ。頼む。」

観察ラウンジのデータ。「テイナー博士がアンドロイドであることを…果たして本人に告げた方がいいのか、このまま黙っていた方がいいのか。……決めかねています。」
クラッシャー:「なぜスン博士は黙っていろと言い張るの?」
データ:「…もし真実を知れば、彼女が不幸になると考えているのです。」
ピカード:「君はどう思う。」
「わかりません。…父の気持ちは理解できるのですが…どちらが母にとって本当に幸せなのか、そのことを第一に考えて決めたいのです。」
クラッシャー:「本当の自分を知らずに生きるより、真実を知った方がいいと思うわ。」
トロイ:「私は反対だわ。ずっと自分は人間だと信じてきたのよ、真実に耐えられないかもしれないわ。」
ピカード:「今は隠しても、この先事故か何かで真実が露見することがないとは限らない。」 座り、制服を伸ばす。「それなら今君の口から話した方がいいのでは?」
クラッシャー:「…もし私だったら、真実を知らされるなら…知らない人の口から聞かされるよりは、息子から聞きたいわ。」
データ:「…私にとって嬉しいことが、母にとっても嬉しいのかどうか…それがわからないのです。」
トロイ:「どういうこと?」
「アンドロイド同士ならば…わかりあえるでしょうし。私も孤独ではなくなります。」
「……あなたの気持ちも理解できるけど、人間であることはあなたの夢でしょ? その夢を御母様から奪ってしまってもいいの? …よく考えて。」
ピカード:「…難しい選択だ。君が最善と思って下した決断なら、我々は支持する。」

テイナーにチップが戻され、額が閉じられた。
すぐに目を覚ますテイナー。「ああ…。データ。…私どうして…崖から飛び降りて、その後どうなったの?」
データ:「落ちたショックで、気を失ったのです。…腕の骨が折れましたが、ドクターが治してくれました。……もう、大丈夫です。」

『航星日誌、補足。アトリア4号星のプラズマ注入作業は無事に完了した。マグマの状態も今後、数百年は安泰だろう。』
転送室。
テイナー:「また会えるかしら。」
データ:「今度の休暇には、会いに行きますよ。」
「…楽しみにして待ってるわ。…もう、行くわね。」
「…知っておいて欲しいことがあります。…父が言っていました。…生涯で、愛した女性はただ一人だが、そのことを相手に告げずに後悔していると。…その、女性というのはあなたのことです。」
「……聞いてよかったわ。…アトリアのことわざではね、愛し合った両親から産まれた子供は、良い心しかもってないって言われてるの。…だからあなたが生まれたのね?」
テイナーは、データの頬にキスした。
転送台に立つ。「元気でね、データ。」
データ:「お元気で、母さん。…転送。」
転送されるテイナー。

エンタープライズは宇宙空間を進む。


※27: cascade anomaly
ラルもカスケード欠陥により機能異常を起こしました。吹き替えでは「ポジトロニックマトリックス、カスケード異常」

※28: フーリエ級数 Fourier series

※29: 原語では単に「ランダム」。当時の家電の流行を吹き替えに取り入れ?

※30: エンサイクロペディアでは「ホログラム情報モジュール (holographic information module)」

※31: Dr. Soong
ヌニアン・スン博士 (Dr. Noonien Soong)。TNG第142話 "Birthright, Part I" 「バースライト(前編)」以来の登場。以前の 2度 (最初は "Brothers" 「永遠の絆」) と同じ服装です。声:千田光男、前回は原語と同じくデータ役の大塚さん (最初は鈴木泰明)

※32: Terlina III

※33: 原語では「シナプススキャン (synaptic scanning) 技術の完成を目指して」

※34: スンがジュリアナを造ったのは当然二人が別れる前で、なぜその件をホログラムに盛り込むことができたのか変といえば変ですが、ジュリアナの行動に応じて一種の自己成長ができるんでしょうね

※35: 原語では「真実が明らかになる場合は、シャットダウンするように彼女を設計した」。腕が取れた後、機能停止したままである理由を説明しています

・感想など
最終シーズンも半ばに差し掛かる頃になって、データの過去の数々が明かされます。こういう場合、単に矛盾が増えてファンを困らせることも多いのですが、逆に過去の説明不足を補っている形になっています。さすが脚色に Rene Echevarria が加わっているだけはありますね。第7シーズンでクルーの母を扱うのは、ラフォージ、トロイに続いて 3人目です。
ジュリアナ役は先に DS9 でクレストロン人を演じているほか、ENT ではヴァルカン人として戻ってきます。意図してかせずか、「アンドロイドの母親」というのはダブルミーニングですね。TNG エピソードガイドも 10分の1 が終わってくると、もう誰もがすぐに思いつくような傑作は済んでいて、いぶし銀といった雰囲気の隠れた名作が出てきます。私自身も次に何を手がけるのか楽しみです。


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