エアロックからジェムハダーやカーデシア人と共に、ウェイユン※11たちが降りてくる。 
 ウェイユン:「ああ…キラ少佐。」 
 キラ:「ディープ・スペース・ナインにようこそ。」 
 「ずっとお会いしたかった。」 
 「私のアドバイスを聞いて下さる? ウェイユン。」 
 「ぜひとも。」 
 「私とあなたたちでゲームを一緒にするのは大歓迎だけど、シスコ司令官はねえ、大佐はそんな気分じゃないの。」 
 ダマール:「我々は和平交渉に来た。大佐もその気になって頂こうか?」 
 歩いていく 2人を見るキラ。
  
 ダマールは星図の前で説明している。「これが戦いが始まる以前の境界線である。現在我々が主張するのがこっちだ。」 連邦側の領域が広くなった。 
 パトリックはダマールに近づき、まじまじと見つめる。 
 ウェイユン:「この提案は、紛争星系に対し既に有効的な支配力をもつ方にとって、かなり有利です。いろいろ考慮し、我々は譲歩したのですよ。」 
 ダマール:「これを見てくれ…」 
 ジャック:「コンピューター、プログラム凍結。」 
 2人のホログラムの映像が止まった。 
 引き続き指示を出すジャック。「コンピューター、ああいいか…ネイティブ言語モード、タイムコード、リプレイ。7-6-1 から…7-6-9。フンフン…。」 
 ウェイユンの映像が巻き戻された。「イジャ マオナ ホーヴァ・バリ ジェンコラーダ セント。」 
 ジャック:「やった! 聞いたか? フンフン…受動態他動詞※12を使ったんだよ、フンフン。」 
 ベシア:「いつからドミニオン語を話す。」 
 「今朝からさ。あの言い回しは、何かを要求する時にしか使えないんだ。奴ら、何か企んでる。」 
 笑い出すパトリック。 
 ベシア:「どうした、パトリック。何かわかったのか。」 
 パトリックは手を振る。「いや。」 
 ベシア:「教えてくれ。」 
 「連中の狙いはカブレル星系だ。」 
 「どうしてわかる。」 
 「わざとそこだけ見ないようにしてる。」 
 「ほんとか?」 
 「視線を避けているんだ。」 
 ジャック:「何か企んでるといったろ? フンフン。」 
 ベシア:「プログラム終了。」 ウェイユンたち、そして周りのホログラムも消えた。「よし、狙いはわかったが、なぜだ。」 
 ローレン:「さあね。でも手に入れるためなら、何でもやる。ホルナ4※13 にあるミジナイト※14だけで、何年も造船所を維持することができるもの。」 
 ジャック:「その通り! 典型的なドミニオン戦略だ。真の狙いを隠して、別の価値あるものを差し出し、さらに価値あるものを手にする、フンフン。それが奴らの考えだ。先を見てる。明日のことより長いスパンで物事を考える。一年後、十年後、百年後のことを考えて行動する、フンフン…。」 
 ベシア:「カブレル星系には特別なものがあるのか?」 
 ローレン:「第1惑星※15には原生動物とトリ・ヌクレークの菌類しか存在しない。第2惑星※16にはコーマリンが埋まってるけど、平凡な物質ね。」 
 ジャック:「OKOK、何か理由があるのさ。戦略的価値はどうだ? フンフン。」 
 ベシアは、セレーナがパッドに何かを入力しているのに気づいた。 
 ローレン:「私だったら基地を作ろうとも思わないわね、フン。」 
 ジャック:「なぜなんだ。フンフン、完璧な場所だとは思うがねえ、フン。」 
 「とても完璧な場所だとは言えないわ。連星系だし、イオンを含む干渉が多く見られる。」 
 「わかった、忘れてくれ。」 
 ベシアはセレーナが置いたパッドを見た。「セレーナ、これは今の話と何か関係あるのかい?」 
 無言のままのセレーナ。 
 ベシア:「ちょっと貸してくれ。」 
 ジャックと話していたローレン。「…そういう証拠は何もないわ。」 
 ベシアはパッドをジャックたちに見せた。「どういう意味かわかるか?」
  
 パッドの図を見るシスコ。「私は昔から、化学が苦手でねえ。何なんだ。」 
 ベシア:「ユリディウム・バイキアンタジン※17を作るための、三個核菌※18の分解法を示しています。ケトラセル・ホワイトの成分の一つです。ドミニオンがカブレルを欲しがるのはそのためで、アルファ宇宙域で薬を製造する気です。」 別のパッドを渡す。「計算によれば、ジェムハダーに無限に供給できる量の製造が可能です。」 
 「境界線を受け入れるよう連邦に進言するつもりだった。大きな犠牲を払うところだったな。」 
 「ですが大佐、カブレルは与えるべきです。」 
 「どうしてだ。」 
 「拒否すれば、ドミニオンは薬の備蓄がなくなる前に攻撃してくる。犠牲者の見積もりを出してみました。」 次のパッドを渡すベシア。「戦いに発展すれば、両軍に多大な犠牲者が出ます。」 
 「時間稼ぎを勧めてるのか?」 
 「防衛体制を整え直す時間が稼げれば、ロミュランを同盟に引き入れられます。」 
 「ロミュランを?」 
 「彼らの分析によれば…これです。」 またパッド。「ロミュランはドミニオンとの不可侵条約放棄を可決。来年の本会議ですが、その頃までにカーデシアとドミニオンの内圧が噴出すでしょうね。そして 3年半と…」 5枚目のパッド。「27日で、二国間の関係は悪化すると予測…」 
 「ちょっと待ってくれ、ドクター。なぜそういう結論になる。2日前、君は彼らが手におえないと話していた。なのに今日は情報部が一ヶ月かかる予測を、彼らがあっさりやってのけたと?」 
 「…そういうことです。もちろんこういう仕事をする資格がないことは承知していますし、我々が許される限界を…超えているといえるかもしれません。でももしも分析結果を詳しく説明させて頂けるなら、お役に立てます。」 
 シスコはパッドを台の上に置いた。「よし、聞こうじゃないか。」 
 「ありがとうございます。我々の戦略分析法を使えば、先へいけばいくほど正確な予測が可能です。一種の非線型力学※19に基づいていますので、小さな波動は要因として除外するとします。その結果…」 
 「待ってくれ、ドクター。もう一度最初に戻って、順を追って説明してくれないかなあ。もっと…わかりやすく。」 
 「…喜んで。」
  
 ベシアはシャンパンを開けた。「シスコ大佐は、我々の分析を司令部に伝えると約束してくれた。直ちにね。」 
 ジャック:「すごいなあ。宇宙艦隊司令部だぞお、ウンウン。」 
 ローレン:「信じられないわあ。」 
 パトリック:「さあ、お祝いだぞお!」 レプリケーターから取り出した、三角形の帽子を配る。 
 ベシア:「やったなあ!」 
 ローレン:「音楽がいるわね。」 
 「コンピューター、音楽を。オーケストラがいいな。」 
 ローレン:「ワルツよ。」 
 「美しく青きドナウ」が流れ始めた。 
 パトリック:「ああ…。」 踊り始める。 
 ローレンは手を差し出した。「踊らない?」 
 ベシアはボトルをジャックに渡し、ローレンと踊り始める。 
 ジャックはセレーナにゆっくりと近づく。「ああ…。」 セレーナは離れた。ため息をつくジャック。 
 踊りながら話すローレン。「弱虫。」 
 ベシア:「誘おうとした?」 
 「弱虫はセレーナ。」 
 ジャックはグラスをベシアに渡し、ローレンとダンスを始める。パトリックは独りで踊っている。 
 チャイムが鳴った。 
 ベシア:「どうぞ!」 工具をもったオブライエンが入る。「オブライエン。いいところに来たな。」 
 オブライエンは中の様子に驚いている。「あの……。パワーカップリングを交換しに来た。」 
 ベシア:「どうぞ、やってくれ。」 
 「ああ。」 
 踊っていたパトリックがオブライエンに近づく。 
 オブライエン:「やあ。」 パトリックは帽子をオブライエンに被せようとする。「ああ、僕はいい。」 
 パトリック:「パーティだよ!」 
 「僕は仕事をしに来たんだ。」 
 パトリックは泣き始めた。 
 オブライエン:「泣くなよ、パトリック。…僕はパワーカップリングを交換しなきゃならないんだよ。」 パトリックは泣き止まない。 
 ダンス曲が終了した。 
 ベシアが近づく。「パトリックに何をした。」 
 オブライエン:「何も。」 
 「どうした、パトリック。」 
 パトリック:「嫌われちゃった。」 
 オブライエン:「嫌ってないさ。…ほらね。」 帽子を被る。 
 ローレン:「チーフはみんなが嫌いなのよ。でしょ?」 
 「ドクター、俺は…」 
 ジャック:「ドクターと俺たちの関係に嫉妬してるのさ。」 
 ローレン:「奥さんと離ればなれで人恋しいのね。」 
 オブライエン:「そんなことないさ。」 
 「いいのよ、ドクター。お友達と遊んできたら、チーフ。」 
 ベシア:「僕でもいいかい? オブライエン。」 
 オブライエン:「……いや!」 
 ローレン:「いえ、そうよ。」 
 笑うベシア。「さあ、クワークの店に行こう。」 
 オブライエンはパトリックが触ろうとした工具を手にとる。「ああ、これは必要なんだ。」 
 パトリック:「いらないよ。パワーカップリングはどこも異常なしだ。」 
 「まあ…いずれ…交換が必要になる。いつかな。」 
 笑うパトリック。 
 ベシア:「行くぞ。」 
 オブライエン:「ああ、わかった。」
  
 ダーツをやっている。 
 オブライエン:「すまなかった。彼らを動揺させたくはなかった。」 
 ベシア:「ああ、心配ないさ。パトリックがあれほど感情的になったのは、君が好きだからさ。」 
 「彼が?」 
 「みんなそうさ。」 
 「僕がノイズを取り除いたからか?」 
 「いや、それだけじゃない。君と一緒にいると居心地がいいのさ。ジャックがよく使うだろ、わかりやすいって。」 
 「…わかりやすいか、フーン。」 
 「ああ、連中の洞察力はすごいよ。僕らが気がつかないことに気づくんだ。」 
 「そしてみんなが言わないことを言うか?」 
 「ああ。彼らは率直だ。」 
 「ああ、確かになあ。」 
 「不思議なんだが、連中と一緒にいることが楽しい。」 
 オブライエンはベシアの立ち位置に気づいた。「おい、何をしてる。下がれ!」 
 後ろに下がるベシア。「なあ、どう思う。宇宙艦隊司令部はあの 4人を、アドバイザーチームとして認めるかな。」 
 「どうかな。連中が提督たちと一緒にいるところなど、想像できないよ。ダンスを教えるならわかるけど。」 
 笑うベシア。「お祝いしてたのさ。」 
 「ああ、そうだろうな。」 
 「でも、とにかく彼らは優秀だ。一緒に仕事をして実感した。見事だったよ。互いの波長が同じだから、言い終えないうちに相手の気持ちがわかるんだ。あんな経験初めてさ。」 
 「彼らと一緒に過ごしてみると、僕たち普通の人間の単純さがよくわかるんだろ?」 
 「いやあ…何も単純だとは言ってないさ。少し、遅いだけ。」 
 「はあ、イライラするだろうね。」 
 「…気にならない。優越感に浸れる。」 
 「そりゃよかったよ。」 
 「感謝してるさ。普通の人々と付き合うのが難しいときも。」 
 「ああ、僕らには期待しないのが一番かもしれない。」 ダーツの盤が点滅する。「ほーら、そうすればこれからも君たちを驚かすことができる。」 
 ベシアはダーツを投げようとしている。 
 オブライエン:「まだやるか?」 
 「ああ、この位置から投げてもいいだろ?」 
 「いや、今のはまぐれだったんだよ。こっちのレベルに合わせて下がってくれなきゃ。」 
 「僕だって勝ちたい。君らと同じさ。」 
 仕方なく後ろに下がって、ため息をつくベシア。ダーツを投げつける。
  
 話すベシア。「いい知らせだ。司令部は僕らの分析に感心して、宇宙艦隊の戦闘準備に関する機密情報に、アクセスする許可をくれた。」 
 ジャックたちは無言だ。 
 ベシア:「どうかしたのか?」 
 ジャックはパッドを渡す。「新しい長期予測が出た。ちょっと…見てくれ。」 
 ローレン:「気に入らないかもね。」 
 パッドを読み、ベシアは驚く。
  
 貨物室。 
 ベシアはたくさんのパッドを見ていた。 
 ジャック:「さて、それで?」 
 ベシア:「…全てチェックした。」 
 ローレン:「欠陥は見つからなかったのね。」 
 「ああ。」 
 ジャック:「あんたも同意見ってことか、ウンウン。」 
 「致し方ない。惑星連邦がドミニオンに勝つ方法はない。残念だが……降伏するしかない。」
 
 
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※11: Weyoun (ジェフリー・コムズ Jeffrey Combs) DS9第130話 "Sacrifice of Angels" 「ディープスペース・ナイン奪還作戦(後編)」以来の登場。声:内田直哉
  
※12: passive voice transitive 「受動音声移行」と吹き替え
  
※13: Holna IV
  
※14: mizainite 鉱山物質。DS9第11話 "The Nagus" 「宇宙商人フェレンギ星人」より
  
※15: カブレル1号星 Kabrel I
  
※16: カブレル2号星 Kabrel II
  
※17: yridium bicantizine
  
※18: 先ほどは「トリ・ヌクレークの菌類」と訳されていたのに…?
  
※19: nonlinear dynamics
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