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|  ※1廊下。  ダックス:「それじゃあ、ボディ艦長※2は?」  キラ:「ボディ艦長? あなたの部屋で食事するのに、彼誘えるわけないでしょう。」  「言ってみただけじゃない。」  ターボリフトのボタンを押すキラ。「ちょっとは考えてもの言ってよねえ。第1 に、あの人あなたの元彼。第2 にウォーフが嫌ってる。第3 にこのことは前に何度も言ったけど、彼の頭蓋骨、透明だったでしょう。」  「人の脳みそ見るの嫌いだったわね。」 ターボリフトに乗る 2人。  キラ:「司令室。」  話し続けるダックス。「じゃあ、ドクター・トラグトク※3は? 彼なら知的だし、たくましくていい身体だし、…頭蓋骨も透明じゃないわよ。」  キラ:「そうよ。だけどあの目がどうもダメ。」  「どの。」  「真ん中のやつ。」  あきれるダックス。「ネリスっていつもルックスばかり気にしてるのよねえ。」  「こっちこそ、あんたの趣味が時々怖いわ。」 司令室に着いた。  「そう言ってたってウォーフに伝えとく。」  司令室にいるウォーフ。「何をだ?」  「首突っ込まないで。じゃあ友達としてオドー誘えば?」  ため息をつくキラ。レプリケーターに注文する。「私もオドーも、まだそこまで吹っ切れてないの。今のは聞かなかったことにしてあげる。ラクタジーノ濃い目 2つに、カーヴァ・ロール※4 2つ。食事は独りで行くわ。いい?」  「わかった。席は 3人分ね。」  「あのワインもってく。」  オブライエン:「大佐、ちょっと来て下さい。」  オブライエンの言葉に注目するキラたち。  司令官室から出てくるシスコ。「どうした。」  オブライエン:「転送バッファーのパワーが上がっています。」  ダックス:「誰かが司令室に来ようとしている。」  「どこからだ。」  「わからない。転送可能域に船は一隻もいない。」  転送台に近づくキラ。  一人の人物が転送されてきた。かがみこんでいる。  キラ:「怪我はない?」  男は顔をあげた。手には銃を持っている。「ああ。だがそっちは俺の言う通りにしないと、怪我するぜえ。」  彼は、バライル※5だった。  キラ:「そんな馬鹿な。」 | ※1: このエピソードは、TNG ラフォージ役のレヴァー・バートン監督です。DS9 では第128話 "Behind the Lines" 「レジスタンスの苦悩」以来、9話目となります (参考) ※2: Captain Boday 宇宙艦隊士官。ガラマイト人 (Gallamite)。DS9第40話 "The Maquis, Part I" 「戦争回避(前編)」などで言及 ※3: Dr. Trag'tok ※4: kava roll 前話 "You Are Cordially Invited" 「花嫁の試練」でカヴァ・ジュース (kava juice) が言及 ※5: バライル Bareil (フィリップ・アングリム Philip Anglim) ベイジョー人の宗教的・政治的人物。DS9第20話 "In the Hands of Prophets" 「預言者の導き」で初登場。DS9第59話 "Life Support" 「バライルの死」で船の事故によって死亡。つまりこの人物は…。声:安井邦彦 (以前と同じ、2代目バライル) | 
本編
|  バライルに話すシスコ。「何が望みだ。」  笑うバライル。「速い船なんかいいねえ。」 キラを人質にとり、銃を向けている。  シスコは命じた。「保安部へ。司令室で人質事件発生。着陸パッドまで通路の人を退避させろ。承認コード、シスコ・7-1・グリーン※6。」  オドー:『7-1・グリーン、了解しました。』  「小型船※7をもってけ。」  バライル:「じゃあ行こう。」  「もし怪我をさせたら、二度とこの基地から出られないと思え!」  「つけてきたら女を殺す、わかったな。動くな!」 近くに置いてあったカーヴァ・ロールを口にするバライル。「いや…ターボリフトは使わないぞ。万が一パワーを切られて閉じ込められちゃ、困るからな。」  キラ:「じゃ、歩きね。」  2人はドアから出ていった。  キラを先に行かせ、廊下を歩くバライル。「あんた、軍服だなあ。こんなのは見たことがない。同盟軍の兵士じゃないな?」  「ここには同盟はないわ。」  「ヘ、じゃあ俺は平行宇宙に来たらしいな。一つ言うと、食い物は美味いよ。」  「あなた同盟軍から逃げてるの?」  笑うバライル。「よくわかってるじゃないか。」  「船を手に入れたらどうするの?」  「どこに流れ着こうが、俺がいた向こうの世界よりずっとましだろうぜ。」  「それはわかる。向こうにいたことあるから。」  「ヘ! 戻ってきたときホッとしたろう。どっちだ。」  「そっちよ。」  階段がある。  バライル:「ところで、着陸パッドまで何階登るんだあ?」  「57階よ。」  「ああ…。」  パイロンの先に、小型船が係留してある。  疲れているバライル。  キラ:「着いたわ。」 エアロックの前に来た。「着陸パッド A。」  「開けろ。」  「それよりこうしない? ディスラプターをこっちに渡したら?」  「ああ…ここまで協力的だったじゃないか。殺したくなかったのに。」  「殺す気ないくせに。」  「へえ? そう思うか?」  「そのディスラプターじゃ、誰も殺せないわ。パワーセルが割れてる。」  首を振るバライル。「いつから知ってた。」  「司令室を出てから。」  「じゃあ、何で俺について来た。」  「運動したかったからよ。」  「逃げた方がよさそうだ。」  銃で殴りかかろうとするバライル。すぐにキラは手を取り、床に投げ飛ばしてしまった。エアロックからオドーたち保安部員が出てくる。  オドー:「大丈夫ですか?」  キラ:「平気よ。」  気を失ったバライルの顔を見るオドー。「気味が悪いほど、ヴェデク・バライルに似てますねえ。」  拘留室。  バライル:「こんな小奇麗な取調室、生まれて初めて見たぜえ。俺は数入ってるからなあ、フン。」  キラは手に小型の機械を持っている。「気に入ってよかったわあ。早速だけど、これどこで手に入れたの?」  「ああ、テランの反乱兵にもらった。」  「ふーん、多次元転送装置※8よ。ずいぶん気前のいい人ねえ。」  「…親友だったんだよ。…それで? 俺はいつ俺に会える?」  「何ですって?」  「何せここは平行宇宙だ、そうなんだろ? 全て同じで全て違う。ならここにもバライル・アントス※9が存在するはずだ。」  「いたわ。」  「いた?」  「死んだの。」  「知り合いだったんだろ? だから俺を見た時驚いたんだ。…どんな奴だった。」  「どうでもいいじゃない。」  「あんたと親しかったようだな。」  後ろを向くキラ。  「少佐!」  キラはバライルに向き直った。  「こんなこと頼める立場じゃないが、できれば聞いてくれないかなあ。…それ壊してくれ。」  「どうして?」  「そしたら送り返されなくて済む。」  「悪いけどできないわね。」  「頼む、あそこに行ったことあるんだろう? どんなとこか知ってるだろ。刑務所でも、収容所でも、どこでも入れてくれ。帰りたくない。」  シスコはキラに尋ねた。「いいか、もう一度聞くぞ、少佐。告訴しないと言うんだな。」  「そうです、人を傷つける気はなかったと思います。」  「じゃあ来たところへそのまま送り返すんだな。」  「いえ、向こうの世界へは帰りたくないと言っています。無理もありません。」  「君の気持ちはわかるよ。私も向こうでジェニファーに会った時、とても…複雑だったよ。妻と別人なのは重々わかってたが、…時々私に笑いかけたりしたときに、瞳が輝いて……ジェニファーそのものだった。少なくとも、そう信じたかったよ。」  「大佐、あの男がヴェデク・バライルでないのはわかってます。話し方も振る舞いも全然違う、全くの別人です。」  「それでも説明のつかない感情が湧き上がってくるんじゃないか?」  「…それは無関係です。」  「よし。ただ今後も気をつけてもらいたい。」 | ※6: 保安アクセスコード (security access code) の一つ。"Sisko 7-1-green" ※7: これまでは主に「シャトル」と訳されていたランナバウトのこと。第6シーズンで初めて言及・登場しました ※8: multidimensional transporter device DS9第65話 "Through the Looking Glass" 「鏡の裏のシスコ」などでも、鏡像世界と行き来するために使われました。名前が言及されるのは初めて ※9: Bareil Antos アントスという名は初めて言及されました。ベイジョー人なので、バライルが苗字でアントスが名前 | 
|  プロムナードを歩いているバライル。ベイジョー人たちは彼を見て、驚いて互いに小さな声で会話を交わしている。  バライルはキラを見つけた。「少佐! 偉いさんに口添えしてくれたんだってなあ。礼を言うよ。」  「これからどうするの?」  「どうするかなあ。こっちのこと調べてみたら、…俺の知ってるベイジョーとはまるで違う。」  「ベイジョーへ行くつもりなの?」  「まあ、それも…考えてる。今の見たか? みんな俺をジロジロ見てくる。」  「あなたと同じ顔の人は、大勢に愛されて、尊敬されてたからよ。ヴェデクだったの。」  「ヴェデクって?」  「宗教的指導者。」  笑うバライル。「俺が宗教的指導者とはなあ。ヘ!」  「笑ってればいいわ。私は礼拝に遅れるから。」  ベイジョー寺院へ入ろうとしたキラを呼び止めるバライル。「待てよ、馬鹿にしたんじゃないんだ。ただ俺が今まで送ってきた生活とは、ほど遠いからさあ。今まで寺院の中に入ったこともない。」  「いい機会じゃない、歓迎するわよ。」  「俺を? いや…やめとくよ。それに俺が来たら、みんな本当にヴェデク・バライルだって、思い始める。そりゃちょっと避けたいからな。」  「ええ、わかったわ。」  キラは寺院へ入っていく。入り口に立っているヴェデク※10が、バライルに向かって手を広げた。だがバライルは首をかしげ、立ち去る。  神殿の中で香が焚かれる。列をなして正座しているベイジョー人たち。  バライルがやってきた。キラの隣に座る。  小さな声で話すキラ。「何しに来たの?」  「神の導きでも受けてみようかと思ってねえ。」  「何の冗談?」  「大真面目だ。ここで人生やり直そうと思ってる。頼れるものは何でも頼るさ。」  中央に立っているヴェデクが話し始めた。「トラタ イパラ ノ タカシュー。我ら謙虚な気持ちでこの恵みを…受け取らん。」  笛を吹いた者を先頭に、発光体の箱が運ばれてくる。  ヴェデク:「ヴィシュヌ ヤヴァ ハ イクタショー。」  バライル:「箱の中身は?」  キラ:「預言と変化の発光体※11よ。」  「発光体?」  「預言者たちの恵み。未来を見せてくれるの。未来の可能性…かな。」  「預言者って誰なんだ。」  「私たちの神。そっちも宗教あるでしょ?」  「…もちろんあるよ。」  「自信なさそうじゃない。」  「そういうのには近づかないからなあ。向こうもほっといてくれる。」  「シーッ!」 ベイジョー人に注意された。  寺院を出るベイジョー人たち。  キラ:「で? 感想は?」  バライル:「ヘ、どうなのかなあ。儀式としては面白いけど、でも…」  「でも…何?」  「みんな真面目にとりすぎじゃないか?」  「どこがいけないの?」  「信じられるっていうのは、うらやましくもあるけどねえ。俺は何も信じないできた。そうすれば裏切られない。」  「ああ…そんな人生つまらないじゃない。」  笑うバライル。「そうだが、俺の人生だ。」  キラも笑う。  「とにかく…またあんたに会えてよかったよ。寺院も……ためになったしな。ありがとう、少佐。」  離れるバライルに、キラは言った。「バライル…クリンゴン料理は好き?」  微笑むバライル。  部屋で話すバライル。「で、クリンゴンの監守が俺の房へ戻ってきて、処刑前の最期の食事を持ってきたんだ。その時奴のメクレスを抜き取りシャツの下に隠した。その夜、まずメクレスでアラームを機能停止させて、イヤリングで鍵を開けたんだ。翌日奴らが気づいた頃には、パーッ! ヴェンダー星系※12がすぐそこだったよ。」 キラに、私服を着たダックスやウォーフがいる。  大きな声で笑うキラとダックス。  ダックス:「嘘みたいな話よねえ。」  ウォーフ:「みたいなんじゃない。嘘だ。」  バライル:「何だって?」  「面白おかしい話だが、実際に起こったことではありえないな。」  「何で断言できる?」  「クリンゴンの戦士からメクレスを盗むなんてことができるわけがない。」  ダックス:「ウォーフ、お客様を嘘つき呼ばわりはよくないわ。」  ウォーフは反論しようとしたが、その前にバライルが言った。「いや、別にいいんだよ、まあ多少は大げさに言ってたしねえ。」  皿のデザートをテーブルに置くダックス。「あなたが切り分けてくれる?」 ナイフをウォーフに渡す。  バライルはおもむろに立ち上がった。「ん、俺がやるよ。」  メクレスを取りだし、綺麗に 4つに分けるバライル。驚くウォーフ。  バライルは差し出した。「これはえーっと…あんたのかな?」  笑うキラ。  ウォーフは受け取った。  キラ:「何とか言ったらどうなの?」  ウォーフ:「どうやらバライルは、思ったより腕のいい泥棒らしいな。」  ダックスやバライルも笑う。  ウォーフはボトルを手に取った。「ブラッドワインは?」  バライル:「もらうよ。」  キラは微笑んでいた。  廊下でキラと話しているバライル。「あんたは運がいいなあ。」  「どうして?」  「いい仲間がいる。」  「もうあなたもよ。」  「そうか?」  「ああ…そんなに意外なこと? 向こうに友達がいたでしょう?」  「一人いたかな。」  「……ああ…もしも話したくないんなら…」  「そう話すこともない。彼女は死んだ。」  「ごめんなさい。」  「いいんだよ、ずっと昔のことだ。」  キラはバライルを見つめた。また歩き始める 2人。  キラ:「私の部屋。悲しいこと思い出させて、ごめんなさい。」  笑うバライル。  「ちょっと寄っていかない? ラクタジーノ飲まない?」  キラの部屋。  ソファーに座って話しているバライル。「名前はリセア※13だ。イルヴィア※14の街で初めて見た時、…目を離すことができなかった。俺が釘づけになったわけは、腰から下げた財布だった。」  「盗んだんじゃないでしょうね。」  「イルヴィアであんな無造作に財布を下げてる方が間違ってる。柄の悪い場所だからな。後でわかったんだが、彼女ダコール地区※15の鉱山労働キャンプから出てきてすぐだった。」  「私もダコール出身よ。こっちでは農地だけど。」  「その頃あいつは、イルヴィアの歓楽街で働いてた。」  「それであなたがあそこから救い出したのね。」  「盗みのテクニックを教えた。それなのに俺に感謝なんかしてた。フン、命の恩人みたいにねえ。」  「そうだったんじゃない?」  「救われたとすれば、俺の方だ。ある晩一緒に飲み屋にいたら…喧嘩が始まって、酔ったカーデシア人がディスラプターをでたらめに撃ち始めたんだ。5年も付き合ってたんだ。…なのに一度も本当の気持ちを伝えなかった。」  キラはバライルの手を握った。「私も大事な人を亡くしたわ。」  「あの転送装置で、一体どこへ行けるのか…まるで予測もつかなかったよ。それがここであんたとこうして、話してる。」  「2日前まで、私は人を遠ざけてた。」  バライルもキラの手に触れた。「少佐。」  微笑むキラ。「ここはネリスって呼ぶべきだと思わない?」  二人は顔を近づけ、キスを始めた。 | ※10: Vedek Ossan (John Towey) 名前は言及されていません ※11: Orb of Prophecy and Change 9つの発光体のうちの一つ。「預言の発光体」、「変化の発光体」とも。DS9第61話 "Destiny" 「三匹の毒蛇」など ※12: Ventar system ※13: Lisea ※14: Ilvia ベイジョーの都市。DS9第108話 "Rapture" 「預言者シスコ」で言及 ※15: Dahkur Province 惑星ベイジョーの地域。DS9第51話 "Second Skin" 「恐るべき過去」など | 
|  ベッドに座り、口に食べ物を放り込んでいるバライル。「これ何て名前だっけ?」  まだ横になっているキラ。「アルヴァス※16。ベイジョー中に自生してる。」  「俺のベイジョーにはない。うーん。」  「まだ食べられるなんて信じられないわ。重たいクリンゴン料理の後は、普通 2日は食べられないわよ。」  「ここの食い物は何でも美味いからなあ。……何だよ?」  「別に。」 バライルの頬に口付けするキラ。  「あんたにとっては妙なんだろうな。同じ顔の俺が、こうしてるってのは。」  「…幸いなことに、彼には全然似てないの。」  「小食だったのか?」  笑うキラ。「アントスは…とても厳格な人だったわ。毎日の習慣は何があっても変えないしね、一日 2食しか食べなかったわ。粗食だったし、よく言ってた。体に贅沢をさせ過ぎると、魂が…」  言葉を引き継ぐバライル。「魂が、飢える。」  「どうして知ってるの?」  「ちょっと調べてみた。彼の死はベイジョーにとってかなりの痛手だったらしいな。」  「……彼を救えるなら、代わりに死んでもよかった。でもただ彼の命が消えるのを見てるしかなかった。」  バライルはキラの頭にキスをした。「疲れてるか?」  「もう平気。」  「早めの朝飯にしないか?」  大きな声で笑うキラ。「ええ、いいわね。」 また口づけをする。  司令室にベシアがやってきた。ダックスにパッドを渡す。「医療上の注意事項。」  ダックス:「コンピューターにダウンロードしとけばいいじゃない。」  「いやまあ、そうだけど…たまには足を伸ばして、司令室へ来るのもいいだろ?」  「キラならまだ来てないわよ。」  「キラ?」  「あなたの興味はわかってる!」  「何言ってるんだよ。」  ウォーフ:「キラのことを探りに来たんだろ?」  「キラのことを? 僕が? 医療上の注意事項で? 馬鹿言うなよ。」  ダックス:「ジュリアン? キラのプライベートに首突っ込まないの。」  そのキラがやってきた。  ダックス:「友達だからってプライバシーは必要よ。おはよう、ネリス。夕べはどうだった?」  キラ:「食事のこと? 楽しかったわよ。」  ベシア:「食事の後のこと聞いたんじゃないかなあ。でもプライバシーは大事だし、嫌なら答えなくていいよ。」  ダックス:「だけどもし話したいんなら、聞くわよ?」  キラ:「…その後も、よかった。」  うなずくベシア。  ダックス:「言ったでしょう?」  ウォーフ:「異議は唱えてないだろ。」  ベシア:「…それじゃ僕は、そろそろ医療室に戻るかな。だけど、もっと詳しく聞けるなら別だけど?」  キラ:「さようなら。」  「だめか。」  「ウォーフ、マートク将軍の哨戒機から、何か連絡は?」  ウォーフ:「境界付近にドミニオンの動きはないそうだ。」  「そのままだといいわね。」  ダックスは微笑み、キラに近づく。「今夜も彼に会うの?」  キラ:「ベイジョーの神殿でね。」  「何それ、ロマンチックじゃないわねえ。」  「彼が発光体体験をするの。」  「…あなたのアイデアでしょ。」  「いいえ、彼が言い出したのよ? ベイジョーの精神世界に興味があるって。彼には新鮮みたいね。」  「ホロスイートで真夜中に泳ぐ方がいいけど? あなたがよきゃいいわ。」  笑うキラ。  神殿で待っているバライル。「…ヴェデクはまだ来ないのかなあ。」  キラは座っている。「来るわよ。行ったり来たりしないで。別に今から死刑になるわけじゃないんだから。」  「…どうせやるなら、ちゃんとやりたいだけだよ。」  「ちゃんととか、そういう問題じゃないわ。」  「…わかってるさ。でも預言者たちには、何て言えばいいんだ。」  「何も言わなくていいし、しなくていいの。」  「ただ黙って、発光体を見るんだな?」  「というより、発光体があなたを見つめるの。」  ため息をつくバライル。  ヴェデクがやってきた。「よく来た、わが子よ。…心の準備はいいかな?」  バライル:「はい。」  バライルの耳をつかむヴェデク。「強いパールをもっている。預言者たちの意思を見ることにしよう。来なさい。」  ヴェデクはコンピューターを操作し、パネルに手を触れた。フォースフィールドが消え、中に発光体の箱が置かれている。  バライルが箱を開けると、光があふれ出した。発光体を見つめるバライル。  レプリマットでキラは食べ物をもってきた。もの思いにふけっていたバライル。「ああ…ありがとう。腹は減ってない。」  「すごい変化じゃない。」  「…君が初めて発光体体験をした時、理解できたか?」  「発光体体験を完全に理解できる人はいないんじゃないかしら。少なくとも最初はね。しばらくの間かみしめて、吸収するの。」  「それから?」  「…それで…ある日自然に、自分の一部になるの。あなた自身の。」  「未来を少し覗けるだけだと思ってた。だがそれ以上だ。人を変えるよ。あまりにいろんなものが見えて、全部思い出せない。彼がいた。ヴェデク・バライルだ。俺たち一緒に話をした。でも…ごちゃまぜになってて、俺が彼で彼が俺だった。…訳がわからないよ。」  「見たことを私に話さない方がいいわ。」  「…あんたに言えなきゃ、誰に言うんだよ。」  「誰にもよ。発光体体験は、自分だけのものなの。」  「……何日でも眠れそうだ。」  笑うキラ。「みんながみんなそう言うの。少し休むといいわ。」 席を立つ。  「そうする。ネリス?」  キラはバライルの顔に手を触れた。「大丈夫よ。」 キスをする。「それじゃ、明日ね。」  ゆっくりと廊下を歩くバライルは、部屋に戻った。椅子に座り、大きく息を吸って目を閉じる。  突然声が響いた。「戻ってくるのを待ってたのよ。」 そこに立っていたのは、鏡像世界のキラ・ネリス※17だった。  バライル:「お前何しに来たんだ!」  黒い服を着た鏡像キラは、バライルの上に座った。「わかってる。早過ぎたわ。だけど気になっちゃってしょうがなかったの。それに…私がいなくて、寂しがってると思ったら我慢できなくて。」 口づけする。「ねえ、どうなの? 私たちの計画、うまくいってる?」  「順調そのもの。予定通りだ。」  「その返事が聞きたかったの。」  またキスを始める二人。 | ※16: alva ※17: 鏡像世界でのキラ・ネリスの対照人物。DS9第92話 "Shattered Mirror" 「鏡あわせのジェニファー」以来の登場 | 
|  鏡像キラは口を離した。「ねえ、話して。ここに来てからのこと、何から何まで。」 バライルに抱きつく。  バライル:「うーん、後でな。疲れてるんだよ、今は。とにかくベッドへ行きたい。」  「うーん、なおさらいいわ。」  「…疲れてるって言っただろ?」  「そんなこと言ったことないじゃない。」  「今日はいろいろあった。」 ため息をつくバライル。  「ああ…会えて嬉しそうじゃないわねえ。…ああ、そうだ彼女でしょう。」  笑うバライル。  鏡像キラも笑い出す。「少佐を好きになっちゃったんでしょう。」  「おい、馬鹿なこと言うな。」  「ああ、あんたが少佐に惹かれない方がガッカリよ。だって彼女は私なんだものね。」 鏡を見る鏡像キラ。「私の方がいい女だけど。それで? 少佐はどうだった?」  「お前はイカレてる。」  「私のことはわかってるからいいの。彼女よ。」  「そんな話をする気はない。」  「ねえ、お願い。お願い。ものすごく知りたいの。」  「……最高の女だ。」  手を挙げた鏡像キラ。バライルはその手をつかんだ。  笑みを浮かべる鏡像キラ。「わかってたわ。あんたにはもったいない。私もだけど、あんたなんて所詮ただのこそ泥だもの。」  「自分のことは知ってる。」  「それだけ? 反論もしないの?」  「疲れてるだと言っただろ?」  「ああ、少佐がさぞ激しく…」  「少佐とは何の関係もない。今日……俺は、発光体を見た。」  「そうなの! それはすごいじゃない! で? 発光体はいつ手に入るの?」  「ヴェデクたちは神殿に 26時間の警護をつけてる。明日の夜まではまず一歩も近づけない。それに…発光体は暗号でロックされたフォースフィールドの向こうだ。」  「開けられるんでしょ?」  「フン、それが仕事だからな。」  「まあ…今日は泥棒だけど、明日になればあのお土産を持ち帰れるわ。あなたは発光体を手に入れるの。崇められるわ。同盟軍と戦う民を、あなたがまとめるのよ!」  「ヴェデク・バライルと呼んでくれ。」  「富も権力も思いのまま。神様になれるわ。」  「発光体の威力を信じてるんだな。」  「ベイジョー人ならみんなよ。うー、きっとこれから楽しい人生になるわよお。ああ…ほんとに疲れてる。休んだ方がいいわね。」 バライルの肩をつかむ鏡像キラ。「そして明日、キラ少佐に会ったら…」 また、ねちっこいキスをする。「今のを渡して。私から。よく寝なさい。」  バライルは寝室に入った。  クワークの店。  バライルは酒を飲んでいる。その様子を周りのベイジョー人が見ている。  バライル:「お代わり。」  クワーク:「はい、今すぐ。」  バライルはベイジョー人に言った。「何見てるんだよ。…お前ら、みんなそうだ! 俺はヴェデク・バライルじゃない! …頼むからほっといてくれ。」  クワーク:「聞こえたろ、旦那に構うな。悪かったね、礼儀知らずが多くて。昔、ヴェデクと少佐がプロムナードを歩いているのをよく見かけたが、店には来なかった。ダボはお好きじゃなかったらしい。けどま、瓜二つだな。あんたにローブを着せたら、誰も区別がつかない。」  「残念だな、まるで別人だ。」 笑うバライル。  「だが金にはなるね。」  「俺に仕事をもちかけようってのか? 言ってみろ。」  「あんたがだ、ローブを着てここに座れば、ヴェデク・バライルに会えるならいくらでも払うってベイジョー人が列をなすぜえ。握手してやりゃいい。」  「さっきも言ったが、俺はヴェデク・バライルじゃない。」  「厳密に言えばそうだが、この世で一番ヴェデクに近い存在だ。人気者になれるぞ。」  「何しゃべりゃいいかわからん。」  「しゃべらなくていいのさ。時々うなずいて笑ってやればいいんだ。慈悲深くな、簡単だよ。徐々にコツが飲み込めてきたら、祝福の一つでもしてやりゃいいだろ? どう思う?」  「ヘ、俺の周りはお前みたいな連中ばかりだった。強欲で、薄汚く、金のためだったらどんなことでも喜んでするんだ。…お前の考えは読めてる。」  「あんたも同じように考えるからだろ?」  バライルは立ち上がり、笑った。「俺はヴェデク・バライルよりよっぽど…あんたの方に…似てるようだな。」  「いいね。じゃのるかい?」  「…やめとくよ。」  「何で?」  「自分にもあんたにも、虫唾が走るんだ。」 バーを出て行くバライル。  クワークはため息をついた。「こんなおいしい儲け話を逃すなんて、もったいないや。」  店を出たバライルは、寺院の入り口を見つめた。相変わらずベイジョー人がバライルのことを話している。  貨物室にいるキラ。  クワーク:「少佐! うちのソーリアン・ブランデーどこに届いてるか知りません?」  「そっち。」  部下のフェレンギ人に指示するクワーク。「聞こえたろ!」 パッドを投げ渡し、キラのパッドに指紋を押す。「新しい彼氏が今日来ましたよ。」  「へえ、そう。」  「奴は…ちょっと違うようですねえ。」  「何と?」  「今までの少佐の好みとはね。…誤解しないで下さいよ、ヴェデク・バライルもシャカールもいい奴だった。だが、あの 2人はどうにも真面目過ぎた。人にも厳しいし、いつも冷静で、退屈だった。だがこのバライルは…何をしでかすかわからない。」  「つまり彼を気に入ったってことね。」  「奴がというより…少佐の肩の力が抜けたのがね。……だけど一つ言っときますよ。覚悟しないと、波乱含みになる。」  「何の話してるの?」  「おりゃもう長ーいことバーテンやってる。いろんな客を見てきたんだよ。悲しいの、幸せなの、複雑なの。」  「それでバライルは? 彼はどうなの?」  「奴は苦悩を抱えた男だねえ。」  「苦悩を? それはないと思うけど。あんたも発光体体験して、どんなか知ってるでしょ?」  「うーん、発光体体験したのか、面白いな。」  「もう、どういう意味よ!」  「奴はバーを出た後、ベイジョーの神殿の周りをうろついてた。2時間近くはいたかな。」  「まだ混乱してるのよ、頭の中を整理しに行ったんじゃない?」  「もしくは、盗みに入る手順を考えてたのかも?」 立ち話をしている部下に気づいた。「何だ! 組合の会合か! さっさと行け。おしゃべりできてよかったよ。あんたたち二人、仲良くやってくれ。」  キラはクワークの言葉を考えていた。  部屋に戻るバライル。  そこには、ベイジョーの制服を着た鏡像キラが立っていた。手には、今までの頭飾りを持っている。「ねえ、どう思う?」  「へ、俺でも区別がつかないねえ。」  「少佐の制服を着たら彼女になった気がしてきたわ。認めなさいよ、この格好すごくそそるでしょ? 二人で一緒にいるみたいだものねえ。」  「ああ…余計なことは考えるな。いいな、どっちもやることがある。」  「そうね、お祝いは後でね。通信バッジ手に入れた?」  両手に一つずつ手にした、コミュニケーターを見せるバライル。  「さすが、手先が器用。盗み出したらすぐ連絡して。」  「…ああ。」  「あなた王冠を被ったら、きっと素敵よ。」 鏡像キラは鏡の前に立つ。 | 
|  神殿の中に入る独りでバライル。周りの様子を伺い、セキュリティロックを操作し始める。  鏡像キラは、ドアの前に立っている保安部員※18に話しかける。「特に異常なし?」  「はい、少佐。」  「そう。」 中に入ろうとする。  「すみません、レベル6 の承認コードを。」  「ああ、そんなもの必要だった?」 笑う鏡像キラ。  「新しい規則なんです、戦争で。」  「そうなの。ああ…。」 肩を押さえる。  「どうかなさいましたか?」  「ホロスイートでエクササイズして、筋を痛めちゃったみたい。一日肩が痛くて。悪いんだけど、ちょっとマッサージしてもらえない? 命令してもいいんだけど。」 背中を向ける。  保安部員は肩を揉み始めた。  「あはは、うーん、もうちょっと強くお願い。おお、あなた力あるのねえ。熱いソマッタ・オイル※19が欲しいわあ。うーん、もっといいと思わない?」  「ええ、まあ…」  その瞬間、鏡像キラは肘で保安部員を殴った。そのまま意識を失わせる。  鏡像キラ:「下手なマッサージしてんじゃないわよ。」  パネルを操作し、貨物室のドアを開ける。保安部員を中へ入れ、転送台のコンピューターに近づく鏡像キラ。足に隠しておいた多次元転送装置を使う。  バライルはロックを解除した。発光体に近づく。  「泥棒はやっぱり、泥棒なのね。」 銃を持ったキラが立っている。  バライル:「何しに来たんだ?」  「あなたこそ、ここで何してるの?」  バライルは、彼女が鏡像キラでないことに気づいた。「ネリス。」 振り返る。「どうしてわかった。」  「わからなかったわ。完全にだまされた。罪をあがなおうとしてる泥棒だってね。」 笑うキラ。「信じたいじゃない? 私もおめでたいわね。だけど、クワークは芝居に引っかからなかったわ。祭壇から離れなさい。」 銃を向ける。  「そうしたいところだが、だめなんだ。もう引き返せない。」  「残念だけど無駄足だったわね。」  もう一人のキラの声が響いた。「ネリス! ああ…あーやっぱりね、すごく美人じゃない。」 この鏡像キラも武器を手にしている。  キラはバライルに銃を渡した。「ほんとに驚かせてくれる人ね。」  鏡像キラ:「わかるでしょ。このバライルは私のバライルなの。」  バライル:「かたがつくまで転送パッドで待ってるはずじゃなかったのか。」  「ああ、心配しないで。このリモコンに転送キーがあるのよ。このキーさえ叩けば、あっという間に…一緒に帰れるわ。それに…『私』に挨拶しないで帰るなんてねえ。転送センサーを見たら神殿にあんた独りじゃなかったから、ネリスだと思ったの。バライルは利口よ。でもあなたが上。私たちって、ほんとよく似てる。」  キラ:「彼女に発光体渡さないで! 危険よ。」  「そんなこと言ったって無駄よ。アントスと私はチームなんですからね。二人で大仕事を成し遂げる運命。」  バライル:「行くなら行こう!」  キラ:「嫌ならやめたら?」  鏡像キラ:「あら、優しいじゃない。彼女まだあなたの魂救おうとしてるのよ。そんなものないのに。」  バライル:「その通りだ。救う価値はないよ。」  キラ:「どうしてそう決め付けるの?」  鏡像キラ:「見なさいよ。よーく。見てみなさい。あなたになら、こいつの本当の姿が見えるでしょう?」  「見えるわ。…それじゃあ、発光体を盗むために私を利用してたの。そう思っておけばいいのね。」  バライル:「好きに思えばいい。」  鏡像キラ:「やめてよ、ネリス。恥ずかしいじゃないの。あなたはだまされた。バライルにしてやられたのよ。なのにその上、下手なこじつけして彼は本気だったと思おうとするなんて。忘れなさい。」  キラ:「忘れないわ。嘘じゃなかった、あなたもわかってるはずよ。ここへ発光体を盗みにきて、別のものを見つけた。」  「私より思い込みが激しいみたいね。言ってやりなさいよ、彼女を利用したんだってね。何から何まで嘘だったんだって。彼女に触れながらずっと…私のこと考えてたって。」  キラはバライルを見つめた。  バライル:「ああ…。」 銃を鏡像キラに向け、発射した。倒れる。「目が覚めた時、なだめるのが大変だろうなあ。」  キラ:「発光体をもってなかったら、殺される。」  「かもな。ハ、最初は間違いなくそうわめくなあ。だが今までもうまく丸め込んでご機嫌をとってきた。ああ…何とかなるさ。」  「…これでさよならってこと?」  「それが一番いい。」 バライルはキラに近づく。「……発光体を覗いた時、何が見えたと思う? …俺とあんただ。一緒に、ベイジョーで…暮らしてた。家族がいた。」  「それがいけない?」  「フン、いや…いいかもしれない。しばらくはな。だがいつかきっと俺がぶち壊す。ハ、俺はこそ泥だ。」 鏡像キラをあごで指す。「あいつがお似合いさ。」  「早く行って。」  バライルはうなずき、鏡像キラの持っていた転送装置を手にした。2人は消え、キラだけが取り残された。 | ※18: Security Guard (Scott Strozier 映画第8作 "Star Trek: First Contact" 「ファースト・コンタクト」の保安部員役) ※19: Somata oil | 
感想
|  前シーズンにはありませんでしたが、一シーズンにつき一話ほどある、鏡像世界に関したエピソードです。これまでのは「あちらの世界」で展開され、鏡像キャラクターも次々登場して派手目な内容になることが多かったですが、今回は全く違っています。  原題にもあるバライルの「復活」という目玉はありますが、悪く言えば退屈な、良く言えば DS9 らしい会話中心の仕上がりですね。昔のキャラクターを再登場させること自体は、ファン向けで良いのですが…。  冒頭で人質を取られたのに、キラ自身も含めて誰もほとんど慌てていないのが印象的です。よりによってキラが相手では、うまくいくわけありません。 | 

|  第131話 "You Are Cordially Invited" 「花嫁の試練」 | 第133話 "Statistical Probabilities" 「封じられた最終戦略」  | 
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