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TNG エピソードガイド
第102話「謎のタマリアン星人」
Darmok

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・イントロダクション
『航星日誌、宇宙暦 45047.2。我々は現在、エル・アドレル星系※1へ向かっている。ターマの子供たち※2として知られる、謎の種族が支配する領域との境界にある星系だ。』
観察ラウンジ。
船体図の前で話すピカードは、ジャケット※3を着ている。「タマリアン※4がエル・アドレル4号星※5へやってきたのは 3週間前くらいだろう。…彼らから連邦に亜空間信号が送られて来始めたのがその頃だからなあ。」※6
データ:「…信号は単なる数学的級数の羅列で、それ自体に特別な意味はありません。」
ライカー:「自分たちの存在は示してる。」
ピカード:「その通りだ。司令部では連邦との接触を求めてきたんだろうと見てる、そうだな?」
データ:「…過去 100年間に連邦の船とタマリアン船との接触は、7回記録されています。…武力衝突は一度も起こっていません。しかし、友好関係も結ばれなかった。…コミュニケーション不可能だったためです。」
ライカー:「なぜだ。」
「シクマル※7のシルヴェストリ艦長※8の報告によれば、タマリアンの言語が『理解不能』だということです。どの報告にも、そうあります。」
ウォーフ:「では連邦の領域を、脅かしに来た可能性もありますね。」
トロイ:「記録を見る限り好戦的な種族とは思えません。最初から喧嘩腰でかかるのは。」
ピカード:「そうだ、ウォーフ大尉※9の心配もわかるがね。…連邦でもこれは彼らが握手を求めているんだと見ている、友好的にいかんとな。」
ライカー:「…ターマの子供たちか。噂だけは聞いてましたがね。」
「しかし理解不可能というのは疑わしいぞ? …意思疎通というのは、忍耐と想像力さえあれば何とかなるものだ。…エンタープライズのクルーには、その 2つの資質が十二分に備わっている。」 微笑むピカード。

惑星軌道上の異星人船※10に近づくエンタープライズ。
スクリーンに映った中央の異星人、デイソン※11。『ライとジリは、ルンガへ。』
データとゲイツはピカードの方を振り向いた。
デイソン※12:『ロワニのライ。2つの月のロワニ。…ウンバヤのジリ。ウンバヤの十字路は、ルンガに。ルンガ、空は重い灰色※13。』 隣の副長※14と顔を見合わせる。『ライとジリは、ルンガへ。』
ピカード:「カウンセラー。」
トロイ:「とにかく敵意は全く感じられないのですが。」
「…データ少佐。」
データ:「タマリアン人が言及しているのは、何らかの人名と地名ではないでしょうか。」
「ああ、だが何の意味があるんだ。」
「全くわかりません。」
「艦長。あなた方には、我が連邦と不可侵条約を締結する用意があるということでしょうか。…そして更には、貿易関係を結び文化的にも交流を進めていこうと。…そういう意図で、我々をここへ呼んだのでは?」
相手からの返答はない。
副長:『モー・マティの下、カーディアー…※15』 笑う。
デイソン:『冬の川、テーマク川※16。』
頭を下げるタマリアン副長。
ピカード:「…どう思う。」
ライカー:「彼らなりに懸命なようです。」
「こっちもだ。通じないがな。」
デイソンは立ち上がった。「シャカ。…壁は崩れ落ちた。…ダーモク※17。』
副長:『ダーモク?』
『うーん。』
『ライとジリは、ルンガへ。』
『シャカ、壁は崩れ落ちた。』
『アンゾの、ジーナ。ジーナとバカール※18。』
『タナグラのダーモク※19。』
『シャカ、ミラブ。帆は上がっている※20。』
『ダーモク。』
『ミラブ。』
『テーマク!』
気をつけの姿勢をとるタマリアン副長。
デイソン:『テーマクの、川。』
副長は礼をし、引き下がった。デイソンは副長の胸元から、ナイフを抜き取る。
自分のも手に取り、両手に持った。『タナグラのダーモクと、ジラード※21。』
何も言えないピカード。
するとデイソンの姿が消えた。その直後、ピカードも転送される。
ライカー:「防御スクリーンで転送を阻止しろ。…最大範囲だ。」
ウォーフ:「間に合いません。」
「艦長はどこだ。」
データ:「タマリアン船の艦長と共に、エル・アドレル星に転送降下した模様です。」
「ライカーよりオブライエン。」
「副長、転送収容は不可能です。…エル・アドレルの電離圏に、タマリアン船が素粒子分散フィールドを張り巡らし妨害しています。」
スクリーンに映るタマリアン船。

地表※22のピカード。辺りは茂みが見える。
デイソンがいた。両手のナイフを掲げる。


※1: El-Adrel system
原語では「無人の」とも言っています

※2: Children of Tama

※3: 艦長用ジャケットと、その下に着ている灰色の制服が登場するのは初めて。艦長として際立たせるためのもので、Robert Blackman デザイン、スチュワートの提案によるもの。TOS のカークも、時折緑色のチュニックを着用していました

※4: Tamarians

※5: El-Adrel IV
「4号星」は訳出されていません

※6: 観察ラウンジの壁に飾られていた歴代エンタープライズの模型が、第5シーズンからは取り除かれています。映像内でわかるのは今回が初めてだと思われます

※7: Shiku Maru
映画 ST2 "The Wrath of Khan" 「カーンの逆襲」のコバヤシマルと同じく、日本風の船名ですね (→日本から来たスタートレック)。一部資料では Shika Maru になっています。吹き替えでは「シクマル

※8: Captain Silvestri
名前は訳出されておらず、「(シクマル号) 艦長」

※9: 吹き替えでは全て「尉」。第3シーズン以降、ウォーフの階級は大尉です

※10: タマリアン船は、タレリア観測船 (TNG第78話 "Suddenly Human" 「宇宙孤児ジョノ」) の改造

※11: Dathon
(ポール・ウィンフィールド Paul Winfield 映画 ST2 "The Wrath of Khan" 「カーンの逆襲」のクラーク・テレル艦長 (Captain Clark Terrell) 役。ドラマ「ジュリア」(1968〜70)、「ROOTS/ルーツ2」(79) に出演。2004年3月に死去) 声:今西正男

※12: デイソンの前にある丸いコンソールは、TNG第56話 "The Price" 「非情なる駆け引き」のフェレンギ・コンソールを使い回し

※13: "Rai and Jiri at Lungha. Rai of Lowani. Lowani under two moons. Jiri of Ubaya. Ubaya of crossed roads at Lungha. Lungha, her sky gray."

※14: タマリアン副長 Tamarian First Officer
(リチャード・アレン Richard Allen TNG第50話 "The Ensigns of Command" 「移民の歌」のキャントール (Kentor) 役。資料によっては俳優名がリチャード・ジェイムズ (Richard James) だったり、役名がキャントールになっていたりする誤表記が見受けられます) 声:小野健一

※15: "Kadir beneath Mo Moteh."
後にデイソンが使う際は、固有名詞の訳が微妙に異なっています

※16: "The river Temarc. In winter."
後にピカードが使う際は、「テマーク」と訳されています

※17: "Shaka. When the walls fell. Darmok."
原題が言及

※18: "Zima at Anzo. Zima and Bakor."
綴りでは Zima ですが、原語でもジーナと聞こえます

※19: "Darmok at Tanagra."

※20: "Mirab. His sails unfurled."

※21: "Darmok and Jalad at Tanagra."

※22: ロサンゼルス郊外のグリフィス公園にある、ブロンソン洞窟付近で 2日間のロケ撮影が行われました。パラマウントから 10分の距離で、「HOLLYWOOD」の看板で有名な丘の南側。TNG第103話 "Ensign Ro" 「流浪のベイジョー星人」、第160話 "Attached" 「混迷の惑星ケスプリット」、第165話 "Homeward" 「滅びゆく惑星」、VOY第17話 "The 37's" 「ミッシング1937」でも使用

・本編
エンタープライズ。
ライカー:「ライカーよりピカード艦長、艦長聞こえますか。…通じないのか。」
データ:「駄目です。タマリアン船が惑星の大気上部に素粒子捕捉ビームを放射しています。その結果、大気が超イオン化しており EMバンドと亜空間の通信信号が送信できません。」
「では向こうも交信不能なのか。転送降下も収容もできないはずだ。」
「その通りです。ですが、センサー周波数は妨害されていません。」
「つまり下の様子は把握できるというわけか。ウォーフ大尉、どういうことだと思う。」
ウォーフ:「これは多分、決闘でしょう。互いの艦長同士の一騎打ちだと思われます。」
「向こうは武器を持ってる。」

ピカードに近づくデイソン。「ダーモクと、ジラード。」
ピカード:「戦おうと言うのか? そうなのか。挑戦か。」
「ダーモクと、ジラード。」
「ダーモクとジラードが一体何を意味するのかは知らないが、ともかく君と争うつもりはない。」
「タナグラの、ダーモクとジラード。」 デイソンは、片方のナイフをピカードに向かって投げ置いた。
拾うピカード。だがすぐに返す。「戦う気はない。」
ため息をつくデイソン。「シャカ。壁は崩れ落ちた。」
拾ったナイフを納め、離れる。こちらを気にしつつも歩いていった。

報告するデータ。「センサーによれば、ピカード艦長とタマリアン人の健康状態は良好。およそ 20メートル離れた位置にいます。」
ライカー:「タマリアン船を呼び出せ。」
ウォーフ:「スクリーンオン。」
「艦長を解放しろ、今すぐにだ。」
副長:『タナグラのダーモク。』
「君たちの行動は敵対行動と見なされるぞ。」
部下に命じるタマリアン副長。『キテオ、目は閉じたまま。法廷のチェンザ! …沈黙の法廷※23。チェンザ!』
ライカー:「何とか意思疎通できないか。」
データ:「調査を進めない限りは。」
「ウォーフ、チャンネルオフだ。」
ウォーフ:「わかりました。」
「ウォーフ、保安チームを至急招集してくれ。シャトルで下へ降りてもらうぞ? 艦長を連れ戻すんだ。」
「はい、ただちに。」 ターボリフトに入るウォーフ。
データ:「副長、シャトルが攻撃を受ける可能性があります。」
ライカー:「それはわかってる。だが同じ妨害行為でも、通信妨害とシャトルへの攻撃とは訳が違う。彼らもそこまではしないだろう。」 艦長席に座った。

夜になったエル・アドレル4号星では、焚き火のそばでデイソンが寝ていた。
少し離れた場所で、棒を使って火を起こそうとしているピカード。発火した。
息を吹きかけるが、消えてしまった。ため息をつく。
デイソン:「シャカ。…壁は崩れ落ちた。」 笑う。
ピカード:「何が言いたい。…私をどうする気だ、寝込みを襲うか。…その前に凍死しそうだ。」
立ち上がるデイソン。「…カンザのダーモク、キテウのジラード※24。」
ピカード:「…連邦のピカード! …エンタープライズのピカード。…地球のピカードだ。」
両手を挙げ、首を振るデイソン。「モ・マテイの下、カディア。」
座るピカード。身体を小さくする。
デイソンは座り、両手を広げる仕草を繰り返している。足下を見た。
そこから手にした物を、焚き火の回りに置いていく。その度に手を頭につけている。
ピカードの方を気にしている素振りもある。石の上に記号のように置かれていた。
横になるデイソン。ナイフの一本を手にし、目を閉じた。
寒さに耐えられないピカードは、ウロウロし始めた。
気づくデイソン。立ち上がり、火が点いた木を一本投げてきた。「テンバ。」
ピカード:「テンバ。何のことだ、火か。『火』のことなのか?」
「テンバ。広げた腕※25。」
「テンバは人だな。広げた腕? 人が、両手を横に広げる。それは、歓迎のポーズだ。つまり敵意はない、そういう意味か。」
「…テンバ、広げた腕。」
近づくピカード。デイソンは微笑む。
ピカードは木を拾った。「ありがとう。ありがとう!」
笑うデイソン。自分の焚き火に戻る。
火を大きくするピカード。


※23: "Kiteo. His eyes closed. Chenza at court. The court of silence."

※24: "Darmok at Kanza. Jalad of the Kituay."

※25: "Temba. His arms wide."

発進したシャトル※26
ライカー:『副長日誌、補足。艦長を救出するためにシャトルを送る。これは賭けだが、タマリアン人がフェイザーを撃つほど無分別でないことを祈る。』
シャトル内のウォーフ。「ポジトロンの濃度は、0.013。エレクトロンの濃度、7.95。素粒子の勾配、7分の4。シャトルの現在位置は惑星上空 250キロです。」 隣にいる女性保安部員のケロッグ。

データ:「副長、シャトルはエル・アドレルの電離圏『E』区域に到達しました。」
ライカー:「交信可能なのは後どれぐらいだ。」
「タマリアン船が作った信号攪乱層は、『D』区域の上部に集中しています。その区域に達するまで後 2分は交信可能です。」
「向こうの動きは。」
スクリーンに映ったままのタマリアン船。
データ:「変化ありません。シャトルを攻撃する様子は見られません。」
ライカー:「そんな力はないのかもしれん。ウォーフ、現状は。」
ウォーフ:『ナビゲーションシステム、生命維持システム、全て正常。主なシステムは妨害フィールドの影響を受けていませんが、通信にノイズが入ります。』

ライカー:『わかった、状況が許す限り交信を続けてくれ。』

データ:「副長、タマリアン船のプラズマリアクターが作動し始めたようです。」
ライカー:「ウォーフ大尉、回避作戦行動デルタに移るんだ。回避作戦行動デルタだ!」

操作するウォーフ。シャトルは向きを変える。
タマリアン船がビームを発射した。シャトルに命中する。
傾くシャトル。

データ:「副長、シャトルに命中しました。」
ライカー:「被害は!」
「右舷のエンジンが作動不能になった模様です。」
「それだけなのか。ライカーよりウォーフへ。報告しろ!」

ウォーフ:「…右舷のスラスター破損しました。着陸は可能ですが、その後離陸できないかもしれません。」
ライカー:『わかった、今すぐエンタープライズへ帰還しろ。』
「……了解。」

ライカー:「殺しはしないが星へは降りさせないか。」
データ:「そのようです。フェイザー砲は、スラスターを破損する程度の最低出力に抑えられていました。」
「…見事な腕だ。」 ライカーはタマリアン船を見る。

モニターに、惑星を取り囲むフィールドの図が出ている。
ラフォージ:「環状抑制ビーム※27の設定を変えて転送機の能力を高めることはできますが、作業に丸一日はかかりますねえ。」
トロイ:「それまで艦長が無事かどうか。」
ウォーフ:「そんな心配なら必要ない。…艦長は戦士としてずば抜けた能力をもっています。負けるわけがない。」
「あなたは決闘の儀式か何かだと思ってるようだけど、まだそうと決まったわけじゃないのよ?」
ライカー:「その通りだ。あくまで限られた情報からの推測に過ぎない。断定は危険だ。」
ウォーフ:「では何を待ってるんです。タマリアン船を攻撃すれば、素粒子分散フィールドなど蹴散らせます!」
「武力行使に出れば当然戦争になるんだぞ、その上艦長を救出できなくなる。」
「膠着状態は打破できます。」
「だがリスクが大きすぎる。とにかく武力行使は最終手段だ。彼らの目的は何か。理解し合う方法があるはずだ。」 図を見るライカー。
データ:「先ほども言いましたが、さらに研究を進めなければ…」
「急ぐんだ、ディアナも手伝ってくれ。9時までに結果を出して欲しい。」 観察ラウンジを出て行く一同。

朝になり、焚き火は消えている。目を覚ますピカード。
辺りを見て立ち上がる。「奴はどこ行ったんだ。」
デイソンの焚き火の跡に近づくピカード。石が並んでいる。「勝手に入って悪いが、失礼する。」
置かれた小さな物を手にした。四角いノートのような物もあった。
広げるピカード。

データの部屋で、タマリアン船の様子が再生されている。
デイソン:『タナグラのダーモク。』
副長:『シャカ、ミラブ。帆は上がっている。』
『ダーモク。』
『ミラブ。』
データ:「ストップ。…『ダーモク』。」
トロイ:「…『ダーモク』ねえ? とにかく、それがその 2人の議論の対象なんだわ。タマリアン船の船長が何かを提案したんだけど、副長は気に入らないのよ。」
「2人の感情の動きから見て、その推測は正しいでしょう。…ほかの用語の使われ方と比較すると、この単語は固有名詞と思われます。彼らには何か意味のある名前なんです。」
「コンピューター、『ダーモク』という単語を検索して。この星域の言語データベースの中からね。」
コンピューター※28:『検索中。ダーモクとは、カンダ4号星※29第7王朝の皇帝。シャンティル3号星※30の神話に登場する狩人。…マリンディ7号星※31の植民地。タズナ5号星※32の凍った砂漠。第…』
「…検索中止。コンピューター、後いくつあるの?」
『47 です。』
「…ここには、最新鋭の設備があるのよ? 宇宙翻訳機※33だってあるわ、それに言葉の通じない種族との接触は数え切れないほど経験してきたのよ。」
データ:「私の場合は宇宙艦隊で任務について以来、1,754 の種族と遭遇しました。」
「なのにこの人たちにこんにちはも言えないんだわ。」
「そうですね?」
「…たった一言が、悲劇の引き金になる。一言言い違えて誤解が起きただけでね。…私達の肩に掛かってるのよ。」
「タイムインデックス 144 をリプレイしてくれ。」
デイソン:『タナグラのダーモク。』
副長:『シャカ。』
データ:「ストップ。コンピューター、全データベースから『タナグラ』という単語を検索してくれ。」
コンピューター:『検索中。…タナグラ、ギャロス2号星※34の支配者一族。…レリシ4号星※35の儀式用飲料。シャンティル3号星の島状大陸。』
トロイ:「ストップ。シャンティル3号星? …コンピューター、さっきのダーモクっていう単語と合わせて関連する事項を検索してみて。」
『ダーモクとは、シャンティル3号星の神話に登場する英雄・狩人。』
「糸口がつかめたわ。」

ジャケットを脱いでいるピカード。「航星日誌か。」
ノートには絵のような文字が書かれている。
デイソン:「ダーモク!」 走って戻ってきた。「ダーモクとジラード、タナグラ。」
ピカード:「悪意はなかった、ただ…」
ノートを払い落とすデイソン。「シャカ、テンバ。…広げた腕、テンバ!」 ナイフを渡そうとする。
ピカード:「やめろ、戦う気はないんだ! やめろ…」
不気味な声が聞こえた。
周りを見るデイソン。「タナグラのダーモクと、ジラード。」
低い声は続く。


※26: 名前は言及されておらずはっきりとは見えませんが、「シャトル・マゼラン (Shuttlecraft Magellan)」という名称の 15号機。地球を初めて一周したスペイン人探検家、フェルディナンド・マゼランにちなんで。今後 VOY まで使われるこの 6型シャトルクラフトが登場するのは初めてで、内装と外装が一貫した実寸大セットが作られたのも初。映画 ST5 "The Final Frontier" 「新たなる未知へ」のガリレオ5 シャトルを改造したもので、Richard James、Nilo Rodis、Herman Zimmerman、Andy Neskoromny、Rick Sternbach デザイン、Greg Jein 製作。時系列的には逆になりますが、TNG第177話 "All Good Things..., Part I" 「永遠への旅」の過去のシーンでは、6型シャトルのガリレオが登場しています

※27: annular confinement beam
略して ACB、転送機の根幹技術。吹き替えでは「循環プラズマ抑制ビーム」となっており、後のライカーのセリフは「プラズマビーム」、レフラーのセリフは「プラズマ抑制度数」

※28: コンピューター音声 Computer Voice
(メイジェル・バレット Majel Barrett) 声はクラッシャー役の一城さんが兼任

※29: Kanda IV

※30: Shantil III

※31: Malindi VII

※32: 綴りでは Razna V ですが、原語でもズナと聞こえます

※33: 今回の universal translator (汎用翻訳機) の訳語。そのままで通用しないのは数少ない例

※34: Gallos II

※35: Lerishi IV

デイソンについていくピカード。声がした方を見ると、上方の崖の岩が少し崩れ落ちてきた。
ナイフを差し出すデイソン。「テンバ、広げた腕。」
声の方を見るピカード。「もらっとく。」
岩の動きはなくなった。

報告するウォーフ。「副長。艦長からそう遠くない位置に電磁波のゆがみを感知。…徐々に接近しています。」
ライカー:「分析しろ。」
「変則的な感応磁場です。…生命体かもしれません。」
「艦長とその磁場の距離は。」
「消えたり現れたりを繰り返していますので。ですが確実に接近しているようです。」
「襲う気か。」

ライカー:『ライカーよりラフォージ。』
機関室のラフォージ。「ラフォージです。」
ライカー:『転送機の改良はいつ終わる。』
「あと 2時間か、3時間です。」
『艦長を収容したい、すぐにだ。』
「今の段階では無理です。」

ライカー:「泣き言は聞きたくない。」

ラフォージ:「…レフラー※36、共鳴周波数はどうなってる。」
女性の機関部員。「標準プラス 0.34。」
ラフォージ:「何とかして数値を引き上げろ、最低でもプラス 0.53 までだ。…副長、それでは後 2分下さい。でも成功するとは保証できません。」

ウォーフ:「失敗した場合は。」
ライカー:「わかってる。その時はタマリアンを叩く、だが最後まで手を尽くしてからだ。」
「…わかりました。」
「ラフォージ、頼んだぞ。」
ラフォージ:『最善を尽くします。』
「ライカーより第1転送室。」

パネルから離れるマイルズ・オブライエン※37。「もう準備にかかっています。」
ライカー:『そのまま待機してくれ。』

ゆっくりと歩くデイソンとピカード。
背後に声の主※38が姿を見せた。透明で、辺りがゆがんで見える。
また消えた。
デイソン:「ミラブ、帆は上がってる。」
ピカード:「下がれ。」
「シャカ、壁が崩れ落ちる※39。」
今度はピカードの後ろに現れた。だがすぐ見えなくなる。
デイソン:「…シャカ、壁が崩れ落ちる。」
ピカード:「シャカ、前にも言ったな。火を起こせなかったときだ、失敗のことか? 困難な状況のことか。」
「ダーモクと、ジラード。」
「タナグラのな。」
笑うデイソン。
ピカード:「だが意味がわからんのだ、教えてくれ!」
また声がした。

ラフォージ:「マトリックスレベルは。」
レフラー:「循環収束値が、439.205。抑制度数が、0.527 です。」
「それじゃ駄目だ、温度入力の係数を一気に 150%まで上げてみてくれ。」
「係数アップ。」
ライカー:『ラフォージ、どうだ。』
ラフォージ:「あと少しで完了します。レフラー、オーバーロード分のパワーを第1転送室のフェイズ転移シークエンサーの回路に送ってくれ。」
レフラー:「わかりました。」
「ラフォージよりオブライエン。」

オブライエン:「指示して下さい。」
ラフォージ:『フェイズシークエンサーのパワーを確認しろ。』
「…パワー OK です。転送準備完了。」

身構えるピカードたち。デイソンの目の前に生命体が現れた。
デイソン:「ウザニ。」 ピカードを押しやる。「ラシュミールのウザニ軍※40。」
ピカード:「ラシュミール。そこでもこうだったのか。ラシュミールでも戦闘があったんだな?」
また消える生命体。
デイソン:「…ウザニ。ウザニ兵は拳を、開いた※41。」
ピカード:「…それは、何か戦略のことか。…違うのか?」
「兵は、拳を握った。」
「拳を握った。…兵は拳を開いた。油断させるためか。拳を握った。攻撃だ! …君らの言語はこれなんだな、例え話なんだろ。全て比喩だ。…ウザニの兵士が、拳を開いた! 距離だ。」
デイソンと距離をとるピカード。
デイソン:「スカス!」 天を仰ぎ、喜ぶ。「彼の目は開かれた!※42
一緒に笑うピカード。
だが生命体がピカードの背後に現れる。すぐにナイフを刺すピカードだが、弾かれる。
地面に落ちるナイフの刃が光っている。デイソンも攻撃するが、反撃された。
ナイフを拾うピカード。向かっていくが生命体は腕をなぎ払った。
ピカードは制服の腹を裂かれ、倒れる。同じく倒されたデイソンに、何度も攻撃する生命体。
立ち上がるピカード。その時、転送されていく。「駄目だ、やめろー!」

転送室に実体化されようとするピカード。
オブライエン:「副長、輪郭部分しか収容できません。」

ライカー:「抑制ビームを強めろ!」

レフラー:「標準プラス 1.57 です。」
ラフォージ:「現状ではこれが目一杯です。」

ピカードが非実体化しつつある前で、地面に転がるデイソン。生命体の攻撃はやまない。
白い血を流すデイソン。

ウォーフ:「タマリアン人は生命体に襲われているようです。生命反応が徐々に弱まっています。」
ライカー:「分散フィールドを弱めた様子はないなあ。一体何を考えてるんだ、自分たちの艦長を助けるつもりはないのか。」 動きのないタマリアン船。「ライカーよりオブライエン、状況は。」

オブライエン:「フィールドでは、転送が妨害されています。完全には収容できません。」

ライカー:「彼らと交信する、チャンネルオン。」
ウォーフ:「了解。」
「君たちの艦長が攻撃されてるんだぞ、分散フィールドを解除しろ!」
副長:『カラシュ。立ち上がるとき※43。』 通信が切れた。
ウォーフ:「チャンネルを閉じました。」
オブライエン:『オブライエンよりブリッジ。これ以上維持できません。』

生命体は消えた。実体化するピカード。
デイソンに近づくピカード。
デイソン:「…シャカ。」
ピカード:「壁が崩れ落ちる。」
意識を失うデイソン。


※36: ロビン・レフラー少尉 Ensign Robin Lefler
(アシュレイ・ジャッド Ashley Judd 映画「ヒート」(1995)、「コレクター」(97)、「ダブル・ジョパディー」(99)、「ハイ・クライムズ」(2002) に出演。母のナオミ・ジャッド、異母姉のウィノナ・ジャッドは共に歌手) 初登場。ファーストネームは言及されていません。声はクラッシャー役の一城さんが兼任

※37: Miles O'Brien
(コルム・ミーニー Colm Meaney) 前話 "Redemption, Part II" 「クリンゴン帝国の危機(後編)」に引き続き登場。声:辻親八

※38: スタントのレックス・ピアソン (Rex Pierson) が演じています

※39: 原語では時制の区別はなく、全て現在形

※40: "Uzani. His army at Lashmir."

※41: "Uzani. His army with fist open."

※42: "Sokath! His eyes uncovered!"

※43: "Kailash. When it rises."

エンタープライズ。
ライカー:『副長日誌、宇宙暦 45048.8。ピカード艦長を転送収容する試みは失敗した。残る手は限られているが、私の忍耐も限界にきている。』
ライカーは観察ラウンジに入った。「艦長は今のところは安全だ、生命体からは数百メートル離れた場所にいる。」
クラッシャー:「艦長のバイオスキャン反応は安定してるんだけど、タマリアン人の方は弱いの。」
トロイ:「怪我したんだわ。」
ライカー:「もう一度あのエイリアン※44が攻撃してくれば艦長の身も危ない。」
ラフォージ:「ですが、転送はもう不可能です。タマリアン船は、分散フィールドを電離圏の『D』区域にまで広げました。…望みはありません。」
ウォーフ:「船を攻撃すれば済むことです。」
ライカー:「素粒子ビームの発射口だけを狙えるか。」
ラフォージ:「ビームは、エンジン後部の極性コイルジェネレーターから出てますがシールドで守られています。」
「フェイザーで突破できないのか。」
「…一発では無理でしょうねえ、数発撃てば何とか。」
「それでは駄目だ。…素粒子分散フィールドを一撃で叩き潰すんだ。向こうが体勢を立て直す前に、艦長を助け出す。」
「ジェネレーター本体でなく増幅経路を正確に狙い撃ちすれば、何とかできると思います。…しかも、フェイザー一発で。」
「設定にどれくらいかかる。」
「ウォーフと 2人で起爆室の調整をすれば、照準を合わせられます。2時間かな。」
うなずくウォーフ。
ライカー:「かかってくれ※45。…できれば平和的に解決を図りたい。話し合えるなら、それに越したことはないんだが。」
トロイ:「残念だけど簡単にはいかないようなの。」
「何かわかったのか?」
データ:「…タマリアン人の自我構造は、我々が通常考える自己認識とは全く異なっています。…非常に珍しい方法で対象を抽象化します。彼らは神話上の人名や地名、そういったものに言及することでイメージを伝えあい、コミュニケーションの手段としているのです。」
トロイ:「例えば、こう言うようなものなの。『バルコニーのジュリエット※46。』」
クラッシャー:「ロマンスのイメージかしら?」
「その通りよ? …彼らはイメージでコミュニケーションするの。…感情の表現も思考プロセスも、全てイメージを通してなんだわ? イメージで会話して、イメージで考えるのよ。」
ライカー:「そこまでわかっているんなら、彼らと話し合えるんじゃないのか?」
データ:「いいえ、我々は彼らの言語の文法を理解しただけで言葉の意味は全く判明していません。」
クラッシャー:「さっきの例だってジュリエットが誰で、バルコニーで何をしているのか知らなければ、イメージは全く伝わらないことになるわ?」
トロイ:「そういうことなの。…ダーモクという単語自体はわかったわ、英雄で狩人よ。そしてタナグラは島の名前だった。でもそこまでなの。…状況がわからなきゃイメージのもちようがないわ?」
データ:「…コミュニケーションするためには、彼らの星の神話の内容を知らなければなりません。…それは現状においては、不可能だと思われます。」
ため息をつくライカー。

再び夜になり、眠っているデイソンに近づくピカード。
デイソンは声を上げ、目を覚ました。「タナグラのダーモクと、ジラード。」
ピカード:「…その 2人と同じ状況なんだな? それはわかったよ。だがそれだけでは、足りないんだ。もっと教えてくれ。ダーモクとジラードのことだ。頼む。…『テンバ』の意味をもう一度聞こう。『テンバ、広げた腕。』 そう言って、ナイフと火をくれた。敵意はない。味方になれってことか。…テンバ、広げた腕。…ダーモク、ダーモクのこと話してくれ。」
「…ダーモクは、海の上に。」
一つの石を示すピカード。「…ダーモク。」 地面に置く。「ダーモクだ。」
木の棒を拾い、石の周りを円で囲んだ。「海だ。ダーモクは海の上に。…比喩だな。独りということか? …孤立か。ダーモクは、海の上に。」
声を上げるデイソン。ピカードの差し出した手を握る。
ピカード:「大丈夫か?」
デイソン:「顔を濡らしたキアジの子…※47。」
「…テンバ、広げた腕。ダーモクのこと、もっと話してくれ。」
「タナグラは、海の上。タナグラの、ダーモク。」
「タナグラは…国なのか。…タナグラは海の上、島なんだな? …テンバ、広げた腕。」
「ジラードは、海の上に。タナグラの、ジラード。」
「タナグラのジラード。ああ、彼はダーモクと同じ島へ向かったんだな? …タナグラのダーモクと、ジラード。」
手をつかむデイソン。「タナグラの、魔物。」
ピカード:「魔物? タナグラに、その魔物がいたんだな? …タナグラのダーモクとジラードと魔物。…あ…2人は別の国から来た。…そして、2人は共に戦った。共通の敵、タナグラの魔物相手にだ。…タナグラのダーモクと、ジラード。」
「海の上のダーモクとジラード。」
「共に島を出た。…海の上のダーモクとジラード。」 微笑むピカード。
「海…ジンダ。…黒い顔と赤いまぶた。…あー…あーだ、バハールのカリマス※48。」
「君は、こうなるとわかっていたんだろ。…この星には危険なエイリアンがいることを知っていたんだ、それにダーモクの物語で共に戦った者同士は固い絆で結ばれることも知っていた。…タナグラのダーモクと、ジラード。…それは、エル・アドレルの君と私だ。」
「バシの、キラ※49。テンバ、広げた腕。」
「わかったぞ?」 笑うピカード。「私のことも、何か話せと言うんだな。…ああでも上手く伝える自信がない…。…シャカ、壁が崩れ落ちる。」
ため息をつくデイソン。
ピカード:「…いやいや、やってみよう。わかり合えてきたんだ。…それじゃ、話そう。地球の大昔の物語だ。ああ待てよ、思い出すからな? ギルガメシュ※50、王様なんだ。ギルガメシュ。ウルク※51の、国王。」
聴き入るデイソン。
ピカード:「英雄だったがひどい乱暴者で、家臣は困っていた。いつもこぼしていた。『誰かに王の御相手を任せたい。頑丈で辛抱強い男に。』 森のエンキドゥ※52。たくましい男が、街へ出てきた。王様と、神殿で闘った。街中でも闘った。ギルガメシュは、エンキドゥを負かした。そして、友情が生まれた。ウルクの、ギルガメシュとエンキドゥ。」
「エン…キドゥ。」 デイソンは身体を横たえる。
「そして? 二人は一緒に、砂漠へ出かけた。…そこでは、天から舞い降りた雄牛※53が人間たちを襲っていた。だがエンキドゥが雄牛の尻尾をつかまえた。ギルガメシュが剣でとどめを刺した。」
笑うデイソン。「ギルガメシュ…。」
ピカード:「二人は、勝ったんだ。…その時、エンキドゥが地面に倒れた。神の逆鱗に触れたんだ。」
目を閉じるデイソン。
ピカード:「ギルガメシュは、悲嘆の涙に暮れてこう言った。『冒険の日々も苦難の日々も、共に過ごした我が友よ。永遠なれ。』」
デイソンは動かなくなった。


※44: いきなり「エイリアン」と訳されていますが、原語では一貫して生命体 (entity) としか呼んでいません

※45: ライカーですが "Make it so."

※46: Juliet
ウィリアム・シェイクスピア作「ロミオとジュリエット」より

※47: "Kiazi's children. Their faces wet."

※48: "Zinda! His face black. His eyes red. Callimas at Bahar."

※49: "Kira at Bashi."

※50: Gilgamesh

※51: Uruk

※52: Enkidu

※53: Great Bull of Heaven
以上は「ギルガメシュ叙事詩」より

エンタープライズ。
ライカー:『副長日誌、補足。戦争の危険を冒しても、膠着状態を打破しなければならない時がきた。』
ブリッジに戻るウォーフ。「フェイザーほぼ準備完了です。」
ライカー:「よーし、ウォーフ。発射準備だ。」
データ:「副長。…バイオスキャンに、タマリアン人の反応がありません。死亡したようです。」
データを見るゲイツ。
ライカー:「向こうにもわかってるはずだな。ライカーよりラフォージ。」
ラフォージ:『ラフォージです。』
「フェイザーの準備はいいか。」
データ:「副長。…センサーがエイリアンを感知しました。ピカード艦長に徐々に接近しています。」

明るくなったエル・アドレルでは、ピカードがデイソンの遺体の上にナイフを置いた。両腕を組ませる。
生命体の声。
ピカード:「決して犬死ににはさせないからな。…だが力及ばずあのエイリアンに敗れたら…君のことを伝えられないな。」
生命体が一瞬現れた。ナイフを向けるピカード。
さらに近くに見える生命体。

データ:「9メートル、さらに接近中。エイリアンのエネルギーレベル、2倍に増加。6メートル。」
ラフォージ:『ラフォージよりブリッジ、フェイザー準備完了。』
ライカー:「撃て!」
操作するウォーフ。
エンタープライズはフェイザーを発射した※54
タマリアン船に全て命中する。
ウォーフ:「素粒子ビーム発生装置、完全に破壊しました。」
データ:「素粒子分散フィールド消失。」
ライカー:「オブライエン、転送しろ。」

生命体が目の前にいる。ナイフを掲げるピカード。
その時転送が始まった。生命体が襲いかかる直前、非実体化する。

転送室に現れるピカード。
オブライエン:「無事収容しました。」
ピカードはすぐに転送台を降りる。

ライカー:「防御スクリーンオン。」
ウォーフ:「了解。」
タマリアン船は攻撃を始めた。
ライカー:「非常警報!」
ウォーフ:「右舷防御スクリーン、出力半減。船首スクリーン、消失。」
「全速で脱出だ。」
データ:「全速脱出不可能です。…右舷のエンジンに、フェイザーの直撃を受けました。ワープエンジン、作動不能です。」
「通常エンジンだ、退却しろ。」
ウォーフ:「タマリアン船もエンジン始動、攻撃してきます。」
「…ウォーフ大尉、応戦しろ! フェイザーフルパワー!」
「発射します!」
フェイザーがタマリアン船に注がれる。
ウォーフ:「タマリアン船被害ゼロ。また攻撃してきます。…防御スクリーン消失。」
データ:「副長、あと一発受ければ大破です。」
ピカードがやってきた。「タマリアン船を呼び出せ。」
ウォーフ:「了解、艦長。」
副長:『ジンダ! …黒い顔と、赤いまぶた。』
ピカード:「テマーク! テマーク川! …冬の川。」
『タナグラの…』
「ダーモクと、ジラード。」
ピカードを見るデータ。
ピカード:「海のダーモクと、ジラード。」
副長:『スカス! 彼の目は開かれた。』
「タナグラの魔物。ウザニの、兵士たち。…シャカ、壁が崩れ落ちる。」
タマリアンの部下たちはナイフを取り、その刃に続いて額に触れた。頭を下げる副長。
デイソンのノートを見せるピカード。副長は部下に合図する。
ノートは転送され、タマリアン副長の手に収まった。『エル・アドレルのピカード、そしてデイソン。…ミラブ、帆は上がっている※55。』 部下は互いの方を向いた。
ナイフを示すピカード。「テンバ、お返しする※56。」
副長は手の平を見せた。「テンバ、その手に※57。」
ピカード:「ありがとう。」
明るくなるライト。
データ:「パワー、回復しました。」
タマリアン副長が部下に合図すると、通信は終わった。
ライカー:「わかり合えたんですね。」
ピカードは艦長席に座る。「さあ、どうかな?」 ナイフを見た。「だが彼らは敵ではない。」

ワープ航行に戻ったエンタープライズ。
作戦室に入るライカー。「お邪魔でしたか。」
本を読んでいたピカード。「いや、構わんよ? 何だ。」
ライカー:「今回の被害状況の報告です。」
「すまんな。」
ライカーはピカードが置いた本を目にした。「ギリシャ語ですか。」
ピカード:「ああ。ホメーロスの詩※58だよ、人類の豊かなる比喩表現の宝庫だ。」
「次に会うときのための準備ですか?」
「うーん役には立たんかもしれんが、もう少し自分たちの神話にも通じておこうと思ってな。……彼らは全クルーの命を危機にさらした。我々とのつながりを、必死で作るために。そしてようやく扉は開かれた。命を懸けて、彼らは任務を果たしたんだ。…ご苦労、ライカー。」
出ていくライカー。
ピカードはパッドを置き、贈られたナイフを手にした。窓のそばに立つ。
その刃に続いて、額に触れた。外の宇宙を見つめる。


※54: フェイザーが、本来は光子魚雷の発射口であるはずの場所から打ち出されています。後にももう一度同じミスが見られます

※55: 英語字幕や脚本では前 (脚注※20) と異なり、"With sails unfurled." となっています

※56: 原語では前と区別なく「テンバ、広げた腕」

※57: "Temba at rest."

※58: Homeric hymns

・感想など
良くも悪くも小さい頃から英語漬け状態になってしまう日本人にとって、他言語の理解というのは誰もが当たる「壁」だと思いますが、その苦労を具現化したようなエピソードです。他種族の船長との一対一の対峙といえば "Arena" 「怪獣ゴーンとの対決」ですが、そちらが非常に TOS らしいのに対し、こっちの皮肉なまでに TNG らしい展開も好感がもてます。本来なら「壁が崩れ落ちた」という部分さえ理解不能になるわけですが、そこはまあ目をつぶるとして…。
原案は何年間も保留されていたもので、バーマンは乗り気ではありませんでした。DVD「ピカード艦長ボックス」にも選出されたとおり、ST2 テレル役の故ウィンフィールドとの掛け合いはお見事の一言。後にメインヒロインとして再登場し、今や大女優の仲間入りを果たしたアシュレイ・ジャッドが端役で初出演しています。


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