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TNG エピソードガイド
第125話「超時空惑星カターン」
The Inner Light

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・イントロダクション
※1※2『航星日誌、宇宙暦 45944.1。パーヴェニアム星系※3の電磁波調査を済ませた後、我々は見たことのない物体に遭遇した。』
ワープを抜けるエンタープライズ。
スクリーンに、小さな物体が映っている。
ピカード:「拡大しろ。」 操舵席にいるゲイツ。
物体は自転している。
ピカード:「データ。」
データ:「ある種の探査機だと思われますが、この型のものは艦隊の記録にありません。」
ライカー:「スキャンされてるのか。」
ウォーフ:「いいえ。ですが一定の距離を保ち、同じコースを進んできます。」
データ:「外壁の成分は、パリシウム※4とタルゴナイト※5、セラミック合金です。」
ラフォージ:「ずいぶん遅れたものを使ってるなあ。」
ウォーフ:「副長。こちらに向けて低レベルのニュークリアンビーム※6が発射されています。」
ライカー:「防御スクリーン、フェイザースタンバイ。」
データ:「そのビームでスクリーンをスキャンしています。…奇妙な、素粒子ストリームを放射。」
ウォーフ:「ニュークリアンビーム、スクリーンを通過しました。」
ピカード:「速度アップ。」
探査機が光を発した。と同時に、ピカードが声を上げる。
揺らめき、倒れるピカードを支えるライカー。「どうしました!」
ピカードが見るライカーは、ぼやけている。「大丈夫ですか。艦長。」

目の前に女性がいた。「あ、目が覚めたのね?」 寝ているピカードの顔に手を触れている。「気分はどう? …ケイミン※7? 返事できる?」
ピカード:「ここはどこだ。」
女性:「まだ熱があるのね?」
「…コンピューター、プログラム停止。……プログラムを終了しろ。」
「ケイミン。」
ピカードはコミュニケーターに触れようとしたが、なかった。今までのジャケットではなく、質素な服を着ている。
ピカード:「ピカードより、エンタープライズ。」
女性:「まだ完全に治ってないのよ、寝てなくちゃ。」
「…教えてくれ。ここはどこなんだ。」
「あなたのうちじゃない、どうしたの。」


※1: このエピソードは、世界SF大会で 1993年度ヒューゴー賞 (映像部門) を受賞しました。TNG ではほかに最終話 "All Good Things..." 「永遠への旅」も受賞しており、スタートレック全体では TOS の 2話を含めて計4回となります

※2: また、1993年度エミー賞でメーキャップ賞にノミネートされました

※3: Parvenium System
エンサイクロペディアではパーヴェニアム星域 (Parvenium Sector) になっており、第218宇宙基地 (Starbase 218) へ向かう途中となっています。どちらも当初の脚本での設定で、ガスタフソン元帥 (Fleet Admiral Gustafson) に会うという言及もあります

※4: paricium

※5: talgonite

※6: nucleonic beam

※7: Kamin

・本編
後ろに下がるピカード。周りを見る。「私は捕虜なのか?」
女性:「あなた、高熱で 3日も眠り続けてたのよ? 無理をしちゃ良くないわ。」
家の中を歩くピカード。
女性:「ケイミン? ……まだ外に出ちゃ駄目よ。」
ピカードはドアのボタンを押し、外に出た。
女性:「ケイミン。お願い中へ戻って?」

人々の話し声が聞こえる。子供たちが駆けていった。
広場※8の中心で、一本の木が植えられている。
隅から見るピカード。
拍手が起こり、木を植えていた男が声を上げた。「ありがとう。今日ここに木を植えたのは、我々の決意の表明です。この水不足に屈せず、末永く栄える町を築くのです。何があろうと、この木を枯らせない。我々の命の象徴です。」 また拍手。
ピカードは近づく。
男:「ケイミン、起きられたのか。気分は。」
ピカード:「ここの責任者か?」
「…責任者…」
「私を今すぐ船へ戻すんだ。」
「…船って、何のことだ。」
「とぼけるな。…頼む、いいから教えてくれ。ここはどこだ。」
「うーん、熱のせいか。記憶がなくなったんだな。」
「…そうらしいんだ。…頼むよ、助けてくれ。」
「ああ、親友だろ?」
「私はケイミンか。」
「ああ。」
「君は?」
「…バターイ※9だ。…議会の議長だよ。」
「ああ。バターイか。私は寝込んでた?」
バターイ:「長い間な。病院に連れてけと言ったんだが、エリーン※10は自分で看ると聞かなくてねえ。」
「エリーン。」
「…君の女房だ。」 笑うバターイ。「忘れたなんて言ったらうちに入れてもらえなくなるぞ?」
一緒に笑うピカード。「それで…ここはどこなんだ。」
バターイ:「…やっぱり、医者に診てもらおう。」
「いや、大丈夫だ。すぐ、全部思い出すさ。」
「わかった。ここはレシク※11という町だ。州北部のな?」
「何という星だ。」
「…うちまで送るよ。」
「やめろ、病気なんかじゃない。答えてくれ、何という星だ。」
「…この星の名は、カターン※12。」
「カターン。…連邦内の星じゃない。…あ、私は…しばらく、散歩してくる。」
「病み上がりに良くないぞ?」
「…少し運動した方がいい。それに……あちこち見れば思い出すかもしれんしな。」
心配そうなバターイ。

山腹を登るピカード。レシクの町並みを見下ろす。※13

独りで夕食を食べているエリーン。ドアを叩く音がした。
開けると、ピカードがいた。
エリーン:「あなた。」
家に入るピカード。
エリーン:「みんなに探し回ってもらったのよ。どうして心配させるようなことをするの? …食事は?」
ピカード:「ああ、腹ペコだし…疲れ切ってる。……ということは、夢じゃないわけだ。違うか?」
「夢だなんて。あなたの、うちじゃない。」
「私のうちはここじゃない。…それは確かだ。」
「…スープを温めてあるわ? …どこへ行ってたの?」
「ただ歩いた、何時間も。」
「…そんな無茶して。」
皿を受け取り、匂うピカード。スープを口にする。「美味いな。」
微笑むエリーン。「いつものあなたね?」
ピカード:「質問に答えてくれ、妙に思うだろうが頼む。」
「いいけど?」
「…この星系にほかの惑星は? ほかの星に行けるか。……わかった。ああ…通信システムはあるのか? つまり、ほかの家や町に…どうやってメッセージを送ってるんだ。」
「ボイス・トランジットコンダクター※14を使うわ? メッセージを送りたいの?」
「う、うんそうだ。で…それはいつ使える?」
「明日なら。……私達のことは聞かないの。」
「聞いておこう。…えー、何しろわからないことだらけだ。君は…その……妻だな。」
「3年前からよ。結婚式の日は私ほんとに幸せだったわ?」
「……ここでの私の、仕事は?」
「鉄工芸師。腕は町一番よ。…それから、あなたは笛が好きなの。」
「笛だって?」
「そうよ。」 引き出しから取り出し、渡すエリーン。
「私は吹けないぞ?」
「ええ、その通りよ。まだ練習中だわ。」
その縦笛※15を吹いてみるピカード。「そのようだ。……とにかく、いろいろと…助かったよ? メッセージの送信も手伝ってくれ。」
エリーン:「わかったわ? もう寝ましょう?」 ピカードの手を握る。
「ああ…私はここで寝る。」
「ケイミン、一緒に来て。」
「…病気だったし、寝返りを打って君が寝られんだろ。」
「…そんなこと構わないわ。」
ピカードはエリーンがつけているペンダントに触れた。あの探査機と同じ形をしている。「…これはどこで。」
エリーン:「あなたが、初めて私にくれた物じゃない。」

連絡するライカー。「ライカーより医療室。艦長が倒れた。」
倒れたままのピカード。


※8: 町並みは第16スタジオに建設

※9: Batai
(リチャード・リール Richard Riehle VOY第131話 "Fair Haven" 「愛しのフェア・ヘブン」などのホロキャラクター、シーマス (Seamus)、ENT第81話 "Cold Station 12" 「コールド・ステーション」などのジェレミー・ルーカス (Jeremy Lucas) 役) 声:円谷文彦、DS9 トゥメック

※10: Eline
(マーゴット・ローズ Margot Rose DS9第91話 "Hard Time" 「つくられた記憶」の K'Par Rinn 役。映画「48時間」(1982) でヤー役のデニス・クロスビーと共演) 声:吉田理保子

※11: Ressik

※12: Kataan

※13: ここのみ、ブロンソン峡谷でのロケ撮影。町並みはマットペインティングによる合成

※14: voice-transit conductors

※15: レシクの笛 Ressikan flute
名称は言及されていません。横笛だと表情が見えにくくなるため、縦笛にされました

エンタープライズの前で静止している探査機。
トリコーダーでピカードを調べるクラッシャー。「脈拍、血圧正常。…線維形成活動の亢進が見られるわ、妙ね。」
ライカー:「どういうことです。」
「肉体的な外傷を受けた形跡は全くないの。生命反応はどれも正常。…ただ、神経伝達物質の生成が異常に増えてるわ。」
「多分あの探査機のせいだ。データどうだ。」
データ:「不明です。それにこの素粒子放射ですが、どうしても遮断できません。」
ウォーフ:「探査機を破壊すべきです。フェイザー発射準備はできてます。」
クラッシャー:「それは危険よ。艦長が倒れた原因を調べなきゃ。」
ライカー:「そうだ。フェイザーは一旦解除しろ。…その代わりに、探査機から離れる。エンジン始動、時速 100キロだ。ゆっくり行こう。」
ゲイツ:「了解。」※16
「データ。」
ライカー:「探査機は一定距離を保ち、我々の後を追ってきます。」
クラッシャー:「あれはきっと、艦長と…つながってるの。」
ライカーは探査機を見る。

後ろ髪が伸びたピカードは、小さな望遠鏡を覗いている。
エリーン:「またあなたが乗ってたって船のことを考えてるのね?」
ピカード:「…太陽の動きの変化を図にしてるだけさ。…雨が降らない原因を調べる。」
「…いいえ、あなたこの星の位置を調べてるんでしょ? そして船を探してる。未だに戻ろうとしてる。」
「……確かに、あれからもう 5年だ。…だが忘れられない。」
「…そんなに素晴らしい人生だったの? …今よりずっと幸せで、ずっと充実していて。こんな退屈な人生じゃ耐えられない?」
「…エリーン。」
「きっとそうだったんでしょうね。でもこれまでたくさん聞いた話の中に、私ほどあなたを愛した人は出てこなかったわ。」
「……夢じゃない。あれは現実だったんだ。…あそこで過ごした、あの日々を忘れろと言われても無理だ。」
「無理じゃないわ。…ずーっと待ってるのよ? あなたの別の人生も受け入れようとしたわ。話を聞き、理解しようとしてきたの。だけどいつになったら…あなたを取り戻せるの?」
「わかってる、わかっているんだ。…すまないと思っている。」
「もう忘れて? この人生をちゃんと生きて。…いつ家族をもてるの?」
バターイが来た。「ケイミン。エリーン。おはよう。」
ピカード:「おはようバターイ。」
「行くぞ、行政官がもう来てるんだ。」
「ああ、一緒に来るか?」
エリーン:「やめとくわ。私がいなくても平気でしょ?」 離れる。
バターイ:「怒らせちまったのか? ああなると頑固だ。」
ピカード:「私のせいだ。彼女は何年も苦しんできた。」
ピカードの肩を抱くバターイ。「それはお前もだろ。」

成長した広場の木を見ている男性。「バターイ、来たか。そこら中で作物が枯れていってるのになぜこの木だけ、青々と葉を茂らせてるんだ?」
バターイ:「この木は象徴ですから。我々の命の証です。枯らさないためにみんなが配給の水を少しずつやりに来るんですよ。希望さえもち続ければ、どんなことにも打ち勝てるということを証明するためです。日照りにもね?」
行政官※17:「なるほどな。町ごとに象徴の木を植えるよう提案してみるとしよう。それで? 今日は何かあるのか?」
「水の有効利用を進めるため補助を頂きたい。使った水を再利用する方法を考案しましたので。」
「バターイ、大袈裟に考えすぎだな。確かに水不足だが、配給制にして先の分まで確保されてる。」
ピカード:「このままの天候が続けばそんなことは言ってられません。水は底をつく。」
「彼は?」
バターイ:「ケイミンです。」
「ケイミン。…初めてだな。」
ピカード:「ええ、お話しするのは。」
「それで? 住民の話は聞くつもりだ。何か意見があるなら、言ってくれ。」
「…大気から水を作る空気コンデンサーの製作に、一刻も早く取りかかるべきです。」
「君のアイデアに文句をつける気はないが…空気コンデンサーの開発となると桁外れの大事業だ。そんなプロジェクトを支援する余裕はない。」
「それなら自分たちで何とかします。完成させれば、作物が枯れていくのを食い止めることができるんです。」
「とにかく、話だけは上に伝えよう。住民が参加することで、政府は成り立っているんだからな。…ではバターイ、また来月会おう。…君もな、『ケイニン※18』。」
バターイ:「気をつけてお帰り下さい。…上手くいったな、熱意は通じたようだぞ?」
ピカード:「…だがコンデンサーはなしだろうな。」
「一朝一夕にはいかんさ、だがきっとわかってもらえるよ。」
「…晩飯を食いながら話そう。私が…野菜シチューでも作る。自分たちでコンデンサーを造ろうじゃないか。」
「ケイミン。さっきの話しぶりを聞いて、ここ何年かぶりでやっと思えたんだ。お前が本当にこの町の人間に戻ってくれたってな。俺は嬉しかったよ。」
バターイの肩に触れ、歩いていくピカード。

夜の家の前で、笛の音が響いている。ピカードが吹いている、「フレール・ジャック」※19だ。
飲み物を口にしながら聞いていたバターイ。「そいつを吹きながらずーっと考え込んでるな。」
ピカード:「…違うね。この音色に浸ってるんだ。」
「音色にね、フン。」
「…考えを整理しやすい。だがそれ以上に、この笛が好きなんだ。」
「それで結構上手くなったからビックリしちまうよな。」
エリーンが出てきた。「バターイ。」
バターイ:「はい奥様。」
「もう遅いわ。」
「はい奥様?」 笑い、器を返すバターイ。「おやすみ、ケイミン。」
ピカード:「ああ、またな。」
エリーン:「気をつけて帰ってね?」
また笛を吹き始めるピカード。
エリーン:「また脱ぎっぱなし。次はしまってあげないわよ?」 靴の砂を払う。
ピカード:「はい奥様。」
「……私ったら文句言ってばっかりね? ごめんなさい。」
「悪いのは私だ。…何もかも今朝君が言ったとおりなんだからな。…こんなに助けてもらっているのに、私は勝手ばっかりしている。」
「違うの。そうじゃないわ。あなたはいい夫よ? 私別に…」
笑うピカード。「いや、ちっともいい夫じゃない。時間があれば星図を作り、荒れ地の調査だと言っては何日もうちを空ける。…いつまで経っても引きずってる。昔をね。」
エリーン:「あなただって苦しんでるのに、ずっと私に優しくしてくれてるわ?」
「うちを建て増ししたいんだが構わないか。」
「…今まで、研究室だって何だって造ったじゃない。いちいち断ることないわ?」
「今度のは別なんだ。」
「…何なの?」
「…子供部屋だ。」
「……いいの。」
うなずくピカード。
エリーン:「ほんとに?」
ピカード:「ああだが、もちろん…君がもし玄関ポーチの方がいいと言うのならその方が簡単だしすぐかか…」
「いいえ。」
エリーンは抱き合い、キスをした。

尋ねるライカー。「ジョーディ、その後何か進展はあったか。」
ラフォージ:「ええ。外壁の付着物を検出しました。エンジンから排出されたものでしょう。推進力には、固体燃料を使ってるようですね。」 モニターに探査機の図が映っている。
「固体燃料だって?」
「放射性の、エミリストルの結晶※20です。放射線をたどれば来たコースがわかります。」
「ならこっちも探査機を出して、どこから来たのかまで突き止めよう。」
「すぐかかります。」
データ:「副長。ニュークリアンビームを分析しましたが、送られてくる素粒子を反射させることによって、あのビームを中和することは可能だと思われます。」
ライカー:「ドクター。」
クラッシャー:「ビームを止めるのはかえって危険かもしれないわ。」 ブリッジには医療器具が持ち込まれ、オガワ※21たちもついている。
「艦長の脳に侵入しているのを放ってはおけない!」
「人が刺された時、すぐナイフを引き抜くのが最善の処置とは限らないわ。そのままにしておく方がいい時もあるのよ。」
ウォーフ:「艦長は攻撃を受けている。手を打つべきです。」
ライカー:「今度は君に賛成だ。ドクター、艦長をモニターして下さい。データ少佐、準備にかかってくれ。ビームを断ち切るんだ。」


※16: このエピソードでは後ろ姿しか見えず、ここでも声だけですが、操舵士は (女性の) ゲイツ少尉です。ですが吹き替えでは、なぜかラフォージ役の星野さんが兼任で担当しています。原語でも女性の声です

※17: Administrator
(スコット・ジャック Scott Jaeck VOY第1話 "Caretaker, Part I" 「遥かなる地球へ(前編)」のキャヴィット少佐 (Lieutenant Commander Cavit) 役) 声:小室正幸、TNG/VOY アリドール、DS9 エディングトン、ルソット、VOY バーレー、ケオティカなど

※18: 名前を間違えて Kanin と言っていますが、DVD 英語字幕では Kamin のまま。吹き替えでは判別できません

※19: "Frere Jacques"
TNG第105話 "Disaster" 「エンタープライズ・パニック」より。そのエピソードでは「朝の鐘」と訳されていました

※20: crystalline emiristol

※21: アリサ・オガワ看護婦 Nurse Alyssa Ogawa
(パティ・ヤスタケ Patti Yasutake) TNG第122話 "Imaginary Friend" 「イマジナリィ・フレンド」以来の登場。声:栗山微笑子

少女が遊んでいる。笛の音が聞こえる。
家の中では、年取ったピカードが演奏していた。地球の曲ではない※22。隣には赤ん坊を抱いたエリーン。
テーブルには料理が並べられ、人々が集まっている。
エリーン:「メリボー!」
呼ばれた少女は、家に戻った。エリーンの隣に立つ。
エリーン:「メリボー? 弟の命名式なのよ? いい子にしてて?」
ピカードの演奏が終わった。歓声と拍手が起こる。
ピカード:「去年亡くなった、友人の名をもらうことにした。彼の思い出は、この子と共に生きます。」
エリーン:「息子を、バターイと命名します。」
列席者から声が上がる。
ピカード:「大勢に祝っていただき、息子は幸せだ。…さあどうぞ召し上がって下さい?」
食べ始める一同。「ケイミン、おめでとう。」※23
握手するピカード。「ありがとう。」
エリーン:「メリボーの命名式がつい昨日のことのようなのに、早いものね? …さあ行って。」 離れるメリボー。
ピカード:「緊張して…あの子を落としそうになったな。」 笑う二人。「もう小さなレディだ。」
「…レディなもんですか、あなたについて一日中山を歩いて。泥だらけになって土のサンプルを集めてばかり。お父さんの真似ばっかりして。」
「私の人生に子供は必要ないとずっと思っていたが…あの子は私の宝なのだ。」
微笑むエリーン。
その時、ピカードは息を荒げ始めた。
エリーン:「ケイミン? どうしたの?」
倒れるピカード。
エリーン:「お医者様を、早く!」

エンタープライズでも、ピカードが苦しんでいた。
オガワ:「呼吸器系統の痙攣が起こっています。脈拍不安定、弱まってます。」
クラッシャー:「危険だわ。」
「ソマトフィジック、異常※24が出ています。」
「デラクトヴァイン※25。」 注射するクラッシャー。
ライカー:「ビームを元に戻せ!」
オガワ:「同種皮質※26に異常な反応を発見。神経反応が落ちています。」
クラッシャー:「電気ショック※27最大強度。」 ピカードの心臓にショックが与えられる。
「血圧どんどん下がってます。70-20。」
「データ、ビームを元に戻して!」
データ:「今やっています、もう少しです。」
オガワ:「同種皮質、反応ありません…」
クラッシャー:「大脳刺激チップ※28。」 ピカードの両こめかみにつける。「10%から始めて。」
データ:「ニュークリアンビーム、回復。」
すぐにピカードの息が収まってきた。
オガワ:「血圧、90-40 にアップ。…さらに上昇。」
クラッシャー:「同種皮質の機能は安定したわ。生命反応も正常に戻ってきてる。」 ため息をついた。

年老いたピカードは声をかけた。「メリボー※29。」
成長したメリボー。「いい日ね、父さん?」
ピカード:「…おい、土ばかりいじってどうする。」
「父さんが教えてくれたのよ? 私、科学者になるかもしれないわ?」
「…その科学者さんは、何をしてる?」
「土のサンプルの分析。」
「うん?」
「どれにも全然バクテリアがいないわ? 土が死んでるの。…ほんとに水不足が続いてるだけなの? 10年以上記録をさかのぼって調べたわ。父さんは 15年以上のデータを見てきたんでしょ? 私と同じ結論に達してるはずだわ…」
「結論など何も出ちゃいない。科学者は勝手な憶測などしないものだ。」
「科学者とは合理的な仮説を立て、それを証明または否定する者のことだ。そう言ったわ?」
「…それより、ダニク※30とデートでもしたらどうだ?」
「父さん、はぐらかさないで。」
「そうじゃない、仮説を立てたんだ。…お前に惚れてるぞ。」
笑うメリボー。「真理を追究しろって、父さんが教えてくれたのよ? …知らない振りはできないわ。…この星は死にかけてる。」
ピカード:「……おしゃれをするとかそういった娘らしいものに興味をもたせるようにすべきだったな。」
「本気じゃないくせに?」
ピカードは笑う。「図星だ。…ただ…可哀想でな。お前は……変えようのない、運命をしょい込むことになる。」
メリボー:「…父さん? 私、ダニクと早く結婚した方がいいのかしら? どう思う?」
「今を大事にしろ。この瞬間をな、一瞬一瞬を味わい尽くすように生きるんだ。…時は二度と戻らない。」
「…愛してるわ、父さん。」

ライカーに話すクラッシャー。「何とかもちこたえてるわ。あれから生命反応はずっと安定してるの。」
ラフォージ:「…ライカー副長。こっちの探査機から、調査結果が入りました。」
ライカー:「どうだった。」
「正体不明の探査機は、1光年以上離れた場所からの発射です。」
「どの星からかわかったか。」
「シラリア星域※31内の恒星系のようですねえ。カターンです。」
「初耳だな。データ。」
データ:「星図には、記載されていない星系です。※32
「住民はいるのか。」
「現在はいません。新星爆発のせいです。全ての生命体が、およそ 1,000年前に死に絶えています。」
ライカーは、再びカターンの探査機を見た。


※22: ST作曲家、Jay Chattaway 作曲。スチュワートが実際に演奏しています

※23: ここで話しているのはエキストラで名前・クレジット共に実際には存在しませんが、LD にはラフォージ役星野充昭さんの兼任でナイマン、タリエルという 2人のキャラクター名が掲載されています。格闘家のハンス・ナイマン、ビターゼ・タリエルから (勝手に) つけた名前だと思われます。もう一人は後に登場するエキストラの医者か、注釈※16 で触れた声だけの (性別を誤った) 操舵士のどちらかを指していると思われますが、医者の方は星野さんではないようにも聞こえます

※24: somatophysical failure

※25: delactovine

※26: isocortex

※27: 心臓誘導 cardiac induction

※28: 皮質刺激器 cortical stimulator

※29: Meribor
(ジェニファー・ナッシュ Jennifer Nash) 声:吉田美保、DS9 ケイコなど

※30: Dannick

※31: Silarian sector

※32: 原語では「6つの惑星からなる星系」とも言っています。また、星系の名前や位置はわかっているわけですから、unmapped は「星図には記載されていない」というより「未探査の」の方が適切かもしれません

大きな望遠鏡を覗き込むピカード。
家から出てくる、老いたエリーン。「また靴が脱ぎっぱなし。」
ピカード:「ああ、悪かった。」 メモを取る。
「30年の間に、時々これを覗いてみたけどあなたが夢中になるわけが未だにわからないわ?」
「構わんさ。それより、そこに座って休んでいなさい。」
「そんなに重病人扱いしないで。大したことないんだから。」 ピカードをはたくエリーン。
笑うピカード。すると、笛の音が聞こえてきた。
エリーン:「バターイだわ。…あの子音楽が好きなのよ…」
ピカード:「音楽だけじゃないようだぞ? 先週は植物学者になると言い、その前は彫刻家だ。ああ…しっかり目標をもってくれればな。」
「もってると思うわ? …話をしてみたらどう?」
「バターイ!」
笛がやみ、青年となったバターイ※33が出てきた。「呼んだ?」
ピカード:「母さんの様子からすると話があるのか。」
バターイを見るエリーン。
バターイ:「…そうなんだ。…言う時期を見ようと思ってたんだけど、早い方がいい。…僕は学校を辞める。」
ピカード:「辞める? 許さんぞ。」
「音楽だけに集中したいんだよ。僕は音楽家になるんだ。」
「去年は数学者になると言っていたな? 一昨年は植物学者…」
「全部やって、音楽が残ったんだ。…父さんもわかってただろ? …悔いのないように生きたいんだ。」
「…そうか、じゃあ…考えてみよう。」
「…ありがとう。」
「うん。」
家に戻るバターイ。
エリーン:「何十年経っても、やっぱり結婚してよかったって思うわ?」
ピカード:「本人が望むことを邪魔する道理はない。」 エリーンの横に座る。「第一…我々に残された時間はあまりないんだ。」
「…やっぱり、明日行政官に話すつもりなの?」
「うん、議会から追放されるかもしれんがな。」
「口をつぐんでいればいいのに…」
「できん、状況は明らかだ。黙ってはおれんよ。」
「そう言うと思った。」

年老いた行政官。「ケイミン、一体どういうつもりなんだ。この星は終わりだなどと噂を流せばパニックだ。」
ピカード:「証拠ならある、これがどういうことかわかる者に見せてくれ。」 手帳を手にしている。
「騒ぎを起こすような真似はさせんぞ。」
「…どうしても嫌だというなら自分でこれを…」
周りの住民に気を遣い、離れる行政官。「観察結果がどう出たかはわかってる。2年前科学者が同じ結論にたどり着いた。…だからどうしろと言うんだ、公にするか、どんな結果になると思う。」
ピカード:「科学の力でほんの少しでもこの星を救うことができるはずだ。ああ例えば? …数人でも避難できるかもしれん。」
「避難してどこへ行く。今の我々の科学では、小さなミサイルを打ち上げるのがやっとだ。」
「なら遺伝子サンプルだけでもいい、何でもいい。このままでは我々の歴史が無に帰してしまうんだ!」
「やめんか。……進行中の計画がある。それ以上は、教えることができんのだ。」
バターイ:「父さん!」 走ってきた。
ピカード:「どうした。」
「母さんだ、急いで。」

横になったエリーンに、医者がついている。
帰ってきたピカード。「先生!」
医者:「ケイミン、残念だ。」
エリーン:「ああ、私…あなたの気を引くためなら何でもするの。」
ピカード:「私を驚かせるのが得意だな。」
「先生ありがとう。」 家を出ていく医者。
エリーン:「バターイ…しばらく二人っきりにしてちょうだい。お父さんに、話が。」
立ち去るバターイ。
エリーン:「…行政官に、証拠を見せた?」
ピカード:「必要なかった。彼ら知ってた。」
「じゃあ、追放にはならないのね?」
「ならん。」
「…よかった。」 ピカードの顔に触れるエリーン。「ちゃんと、靴を片づけてね?」
「約束する。」
エリーンは、目を閉じた。
エリーンの身体に顔をうずめるピカード。


※33: Young Batai
(ダニエル・スチュワート Daniel Stewart パトリック・スチュワートと最初の妻の間に生まれた、実の息子。オーディションで選ばれ、親子初共演となります) エンサイクロペディアなど一部資料には、もう一人 "Young Batai" 役でローガン・ホワイト (Logan White) という俳優が掲載されています。もしかすると命名式での赤ん坊のバターイかもしれませんが、そうすると幼いメリボーの俳優名も載っていないと変ですね。ホワイトのクレジットは映像内には含まれません。声:藤原啓治、DS9 初代ベシア

小さな子供を這って追いかけるピカード。「待てー、いま行くぞ。ほーらつかまえた。…ほらー、つかまえた。」 笑う子供。
家に入り、帽子を脱ぐ女性。「大騒ぎしてるのは一体どこの子供たちかしらー?」
ピカード:「長く外にいちゃいかんぞ、身体に悪いんだ。」
「父さんのスキンプロテクターを塗ってる。」
子供とじゃれるピカード。「お前はどうだ、外で遊ぶ時はスキンプロテクターを塗ってるか、どうだ。よーし。」
バターイが帽子を持ってきた。「みんな、用意はいいかい。打ち上げを見に行くよ。」
ピカード:「打ち上げ、何のことだ。」
メリボー:「今日は打ち上げの日よ? みんなで見に行くの。」
「わしはどこへも行かんぞ。」
男の子を呼ぶバターイ。「行くよ、ケイミー※34。急いで。きっとすごいぞ?」 一緒に出ていく。
ピカード:「…不憫でしょうがない。」
メリボー:「誰が?」
「孫を見るとな。…やりきれんよ。」 何とか椅子に座るピカード。「豊かな人生を送って当然の子なのに。」
帽子を差し出すメリボー。「…父さん、行きましょう?」
ピカードはメリボーの手を借りる。「…打ち上げなど聞いとらんぞ。」
メリボー:「もう。」

真っ白な強い日差しの中、帽子を被った人々が集まっている。
メリボーと出てくるピカード。「わし以外はみんな知っとったのか。わしは…そこにいる。座っていよう。…お前は行ってこい。今さら打ち上げなど役に立つかどうか知らんが行って見てくるといい。何を打ち上げる。」
座るメリボー。「父さんは知ってるわ? もう見てるんだもの。」
ピカード:「もう見た? 何を言ってる。今日初めて見るんだ。」
男の声が聞こえた。「いいや見てるだろ、忘れたのか?」
振り向くピカード。元気な頃のままの、バターイ議長がいた。
ピカード:「バターイ!」
バターイ:「ここへ来る直前に見てるはずだ。我々は未来へ向かって探査機を打ち上げた。知恵を授けてくれ、この星のことを語り継いでくれる者にな。」
「ああ…私か。…そうなんだな。それが私だ。…私を見つけるための…そのための探査機だった。…未来のどこかで私を…探すためだ。」
エリーン:「そうよ、あなた。」 若い姿だ。
ピカード:「エリーン!」
2人の子供と手をつなぐエリーン。「この星は 1,000年前に消滅したの。ここでの暮らしを忘れないで? そうすれば、あなたの中で生きられるわ。」
立ち上がり、帽子を脱ぐピカード。「エリーン。」
音が響いてきた。手をかざすピカード。
宇宙へ向けて、一つのミサイルが立ち上っていく。
エリーン:「私達のことを、語り継いで? 愛してるわ。」

ブリッジで声を上げるピカード。
クラッシャー:「変化が起きてる。」
データ:「探査機が、ニュークリアンビームの放射をストップしました。」
クラッシャー:「脳の機能が安定し始めてるわ。」
ライカー:「ミスター・ウォーフ※35、トラクタービームで探査機を拿捕しろ。シャトルベイで調べる。」
ウォーフ:「わかりました。」
ピカードは目を開けた。「何だ。」
クラッシャー:「…艦長ゆっくり起き上がって下さい。」
「……艦長。……エンタープライズだ。…私はピカード。……どのくらい。」
ライカー:「20分か 25分です。」
「…25分だって?」
クラッシャー:「ええ。」
立ち上がるピカード。
ライカー:「さあ。」
クラッシャー:「医療室へいらして下さい、全身きちんと検査したいんです。」
ピカード:「…ああ頼む。」
ターボリフトに入る前、ピカードはブリッジを振り返った。

ピカードの部屋。
部屋の置物を手にしていたピカード。飾られている絵を見て、部屋をゆっくりと歩く。
ドアチャイムが鳴った。
ピカード:「……入れ。」
ライカー:「いかがです、具合の方は。」
「ああ。…もうすっかりいい。…だがまだ…自分の居場所なんだという実感が湧かなくてな。」
「…探査機を分解して調べましたが、艦長に向けられていたビームは、自動停止するようセットされていました。…中にこれが。」 ケースを渡すライカー。
開けてみるピカード。ライカーはそのまま出ていった。
ピカードはケースから、レシクの笛を取り出した。胸の前で握り締める。
笛に手を添え、吹き始めるピカード。バターイの命名式での曲だ。
その音色は、静かに響き続けた。※36


※34: Kamie

※35: 吹き替えでは「ウォーフ中尉」。第3シーズン以降、階級は大尉です

※36: この曲は TNGオリジナルTVサウンドトラック Vol.4 や、ベスト・オブ・スタートレック Vol.1 に収録されています。エンディング用にオーケストラ版も用意されましたが、この静かな終わり方になりました

・感想など
TNG ですら数少ないヒューゴー賞の受賞作であり、現在まで含めた中でも ST最高傑作と考える方も多いエピソードです。Episode Promenade の点数ランキングで、断トツのトップとなるのは当然でしょうね。当時地上波で初めて観た際、次の日までこのエピソードのことがしばらく頭から離れなかったのを覚えています。この話だけをいきなり観てもそれはそれで感じるものはあるでしょうが、今までの宇宙艦隊でのピカードを知っていればいるほど、感慨深くなります。エリーンの死、探査機の秘密、そして最後の笛。それぞれが涙を誘いますね。
6時間もかかるメイクのために深夜1時入りしていたというスチュワートにとって、演技するのは挑戦でもあり楽しいものだったそうです。映画版も含めて、最も時間のかかったメーキャップだと語っています。監督の Peter Lauritson は製作者でもあり、演出したエピソードはわずかです。


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