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TNG エピソードガイド
第130話「エンタープライズの面影」
Relics

dot

・イントロダクション
※1ブリッジ。
データ:「艦長、信号を確認しました。…75年前※2この付近で消息を絶った連邦輸送艦、U.S.S.ジェノーラン※3の信号です。」 星図に位置が表示され、「シドニー級輸送艦※4」とも書かれている。
ライカー:「1・アルファ・0※5、遭難船発見。」
ピカード:「ワープエンジンを止め停止しろ。」
操舵士官のレイガー少尉※6。「了解。」
いきなり船が揺れた。
ピカード:「どうした。」
ウォーフ:「巨大な重力場の中に突入しました。」
データ:「…ナビゲーションチャートによれば、この付近に星はないはずなのですが。センサーの数字を見ますと、非常に強い重力を有する天体が存在するようです。」
ピカード:「その天体の位置を特定できるか。」
黒い球体が映し出された。
ライカー:「スキャンできたか。」
データ:「…干渉波があるので正確ではありませんが、天体の直径はおよそ 2億キロメートルにも及びます。」
「地球の公転軌道ほどもあるってことか。」
ピカード:「…なぜ今まで見逃していたんだ。」
データ:「星の質量が巨大になれば、発生する干渉波も相当な量になります。そのために、ワープ中はセンサーでも見逃していたんでしょう。」
「もしやこれは……ダイソンの天球※7ではないか?」
「確かに数値は、ダイソンの理論に当てはまりますね。」
ライカー:「ダイソンの天球?」
ピカード:「古くからある学説だ、聞いたことがなくても不思議じゃない※8。20世紀の物理学者フリーマン・ダイソンが提唱した宇宙の開発方式で、恒星を巨大な天球で囲みその中に住むのだ。そうすることで星が放射するエネルギーを余すところなく取り込める。つまり巨大な天球の内側に住んでいる者たちは、無限のエネルギーを利用できるというわけだ。」
「では、この中に人が住んでいると。」
データ:「かなりの人口になるでしょうね。天球の内部の表面積は、Mクラスの惑星 2億5千万個分を優に超える広さです。」
ウォーフ:「救難信号を受信しました。発信源は天球の北半球です。」
ピカード:「レイガー少尉、発信源の上空に移動してくれ。」
レイガー:「了解。」

ダイソンの天球に近づくエンタープライズ。あまりの巨大さゆえ、球のほんの一部しか目にできない。
データ:「ジェノーランを発見しました。天球の外壁に墜落しています。」
外壁が映し出されている。
ピカード:「拡大しろ。」
ジェノーラン※9の後ろには、不時着した跡が見える。
データ:「生命反応なし。しかし、微量のエネルギー反応が見られます。生命維持システムも、まだ機能しています。」
ライカー:「ライカーからジョーディ、至急第3転送室へ来てくれ。ウォーフも来い。」

ジェノーラン。
中に転送される 3人。
ライカー:「空気が薄いなあ。」
ラフォージ:「生命維持機能は、最低レベルです。」
「酸素レベルを上げてみてくれ。」
ウォーフ:「了解。」 奥へ向かう。
ラフォージ:「…副長! 転送装置がオンになっています。補助システムから動力を取ってるのか。」
ライカー:「転送パターンを再生する機能※10が切ってあるな。」
「何か変ですよ。フェイズ誘導装置は、エミッターに接続してあるし。オーバーライドはまるで効かない。パターンバッファは、分析モードのままロックされています。」
「わけがわからん。…どうして分析モードでロックしたりしたんだろう。物質の配列をバッファに送るだけなのに一体何のために…」
「バッファにパターンが残っています。」
「…無傷の状態でか。パターンの崩れが 0.003%※11しかないなんて信じられん。どうやったんだろう。」
古いコンピューターを操作するラフォージ。「わかりません。この転送機、あちこち手を加えてあるので。」
ライカー:「…75年も経った転送パターンを再生できると思うか。」
「…やってみましょうか。」
音が響き、転送台の上に実体化してくる※12。顔を見合わせるライカーとラフォージ。
そこに現れたのは、左手を怪我しているモンゴメリー・スコット※13だった。


※1: このエピソードは、単独話としては珍しく小説版が発売されています。邦訳もハヤカワ文庫から刊行 [Amazon.co.jp / スカイソフト / 楽天ブックス]

※2: 西暦 2294年、映画 ST6 "The Undiscovered Country" 「未知の世界」の一年後

※3: U.S.S. Jenolen
シドニー級、NCC-2010。脚本のロナルド・ムーアが、シドニーのコンヴェンションに行ったときに訪れた洞窟にちなんで。洞窟名の綴りは実際には Jenolan でモニター画面にもそう書いてありますが、エンサイクロペディアなどでは Jenolen とされています。また模型に書かれているのは Jenolin だそうです

※4: Sydney-class transport

※5: コード 1・アルファ・0 Code One Alpha Zero

※6: Ensign Rager
(ラネイ・チャップマン Lanei Chapman) TNG第91話 "Night Terrors" 「謎めいた狂気」以来の登場。声:高乃麗、前回は深見梨加

※7: Dyson Sphere
1960年代の理論。以前から登場させる案はあり、一連の模型は Greg Jein 製作

※8: 吹き替えでは「聞いたことがないのか?」

※9: 元のデザインは映画 ST6 "The Undiscovered Country" で使われた、ILM の John Goodson 製作によるシャトル。Greg Jein がワープナセルをつけ、上下逆さまになりました。シドニー級がシャトルや初期のランナバウトという表記は、窓やブリッジ部からすると誤りとされています。後に DS9第37話 "Playing God" 「宇宙の原型」などで、更に上下逆さまにして使い回しされます

※10: 再物質化サブルーチン rematerialization subroutine

※11: 吹き替えでは「0.03」

※12: 音や映像効果は、TOS 当時のものが再現されています。実際には映画期に相当するので、変と言えば変ですが

※13: モンゴメリー・「スコッティ」・スコット Montgomery 'Scotty' Scott
(ジェイムズ・ドゥーアン James Doohan 映画 TMP "The Motion Picture" 「スター・トレック」のクリンゴン語・ヴァルカン語を担当) 映画 ST6 "The Undiscovered Country" 以来の登場、後に映画第7作 "Star Trek: Generations" 「ジェネレーションズ」にも (時代は前)。ゲーム "Strategic Operations Simulator"、"25th Anniversary Enhanced"、"Judgment Rites"、"Generations" でも声の出演。吹き替えではチャーリー・スコット。TOS では明らかに姓のスコットや愛称のスコッティがチャーリーにされていたはずですが、「モンゴメリー・チャーリー」ではありません (ただしチャーリー大佐となっている個所も。注釈※29 参照)。声:寺島幹夫、以前の吹き替えは小林修 (TOS 第1シーズン、旧 TMP〜ST3、新 TMP〜STG、DS9)、内海賢二 (TOS 第2・3シーズン)、神山卓三 (旧 ST4)、島香裕 (旧 ST5)、藤本譲 (旧 ST6・STG)

・本編
スコットは台を降りる。「ああ…助かったよ。…ああ、こうしちゃおられん。早くフランクリン※14を出さんと。」
ラフォージ:「まだ誰かバッファの中にいるんですか。」
「フランクリンがいる。一緒に入ったんだ。…クソー、どうなってる。誘導装置が効かん。物質ストリームを拾ってくれ。」
うなずくラフォージ。
スコット:「がんばれフランクリン、いま助けてやるからな。」 ブザーが鳴る。「ああ……駄目だ。パターンが 53%分解した。…手遅れだ。」
ライカー:「残念です。」
「全くなあ。いい奴だった。」
「…私はエンタープライズの、ライカー中佐です。彼はラフォージ少佐。」
「…エンタープライズ。そうだったのか。カーク船長がエンタープライズを引っ張り出して、捜索に来てくれたんだな?※15 モンゴメリー・スコット大佐だ。わしはどのくらい行方不明になっていた。」
「それは…」
ウォーフが戻ってきた。「副長。生命維持装置が復旧しました。酸素も、間もなく通常レベルに戻ります。」
自分を見ているスコットに気づくウォーフ。
ライカー:「彼は、保安部長のウォーフです。」
スコット:「クリンゴンが。」
ウォーフ:「…そうです。」
ライカー:「75年の歳月が過ぎてるんですよ。」
ため息をつくスコット。

エンタープライズ。
転送室に現れる 4人。
ライカー:「まず医療室に行った方がいい。ドクター・クラッシャーが診察…」
スコット:「共鳴装置の配列が変わっとる。」
「ジョーディ、お客様は船のシステムにはうるさいようだぞ?」
ラフォージ:「私が御相手しますよ。」
出ていくライカーとウォーフ。
奥へ向かうスコット。「デュオトロニック※16・エンハンサーはどうした。」
ラフォージ:「今はもう使ってません。最近は、アイソリニアチップが主流です。40年前から。」 パネルを開ける。「おっと、そいつはパワータップですよ。…さっきの話の続きですけど、ノルピン・コロニー※17へ向かう途中にワープエンジンが故障して墜落したんですか?」
外へ出るスコット。「そうなんだ。プラズマトランスファー・コンジットが一部、オーバーロードになってな。ワープエンジンを止めたところ、巨大な重力場があってバカデカい天体を発見したんだ。おおこれが、コンジットインターフェイスか?」
ラフォージ:「そうですよ? 『バカデカい』って、おっしゃいましたよね。ダイソンの天球ですか…」
「ああ、あれは紛れもなくダイソンの天球だ。知ってるか? あれは、設計するだけでもものすごい技術力を必要とするんだ。」
「見たときは驚きましたよ。発見して、まずどうしたんです?」
「そりゃあ、通常通り表面をスキャンしてみたさ。そしたらな? 初期スキャンもほとんど終わろうって時に、船尾のパワーコイルが突然爆発を起こした。」
「うーん。」
「船は天球の重力場に捕まっちまって、墜落したのさ。生き残ったのはわしとフランクリンだけだった。」
「…聞きたいんですけど、どうやったら思いつくんですか? 転送機のパターンバッファの中で、助けを待つなんて。」
「そりゃあ…ただ助けを待っていたんじゃ物資も底をつくから、何か考えんことには。」
「それにしたって、普通だったらとてもあそこまで考えつきませんよ。分析モードにしておけばパターンが崩れるのを防げるし、パワーもフェイズ誘導装置から取ってる。感動しちゃいましたよ。」
「誉めてくれるのはありがたいが、半分は失敗だ。フランクリンは、可哀想だった。」
「…24世紀の世界を、よーく見て下さい? ここ 80年の進歩には、目覚ましいものがありますよ。」
「ちょっと見ただけでもそれは、よくわかるよ。このエンタープライズは実にいい船だ。やあ、何だか圧倒されるねえ。」
ターボリフトに入り、笑うラフォージ。「驚くのは早いですよ。」

装置で調べるクラッシャー。「上腕に、わずかにヒビが入ってますね。2、3日痛むけど、すぐ治りますわ?」
スコット:「ありがとう。…いやあ、このエンタープライズはいいな。何せドクターがこんな美人だ。」
笑うクラッシャー。
ピカードが医療室に来た。「はじめまして。」 握手する。「エンタープライズへようこそ、大佐。」
スコット:「どうぞ、スコッティと呼んで下さい。」
「身体の方は。」
「さあ、どうだか。…どんな、もんです?」
クラッシャー:「…打撲傷はありますが、147歳※18にしては健康体ですわ?」
「気持ちは、もっと若い。120歳ぐらいだ。」
笑うピカード。「それにしてもあなたが、ジェノーランに乗っていたとは知らなかったので驚きましたよ。クルーの名簿に、お名前がありませんでしたが。」
スコット:「それもそのはずだ。クルーとして乗っていたのではなく、ただの乗客で…。ノルピン・コロニー※19に行ってのんびり、隠居生活を送ろうかと思いましてな。」
「そうでしたか、せっかくお会いできたんですからいろいろお話を聞きたいものですが。特にあなたの時代のエンタープライズの武勇伝など。」
「ええ、いつでも。」
「楽しみにしてますよ、では。」
「じゃあ。」
「ラフォージ、至急ダイソンの天球のスペクトル分析を始めてくれ?」
ラフォージ:「すぐ、かかります。」
「頼むぞ。ではごゆっくり、スコッティ。」
スコット:「ありがとう。」
ラフォージ:「仕事がありますので、機関部に戻ります。」
「機関部か、そりゃわしの専門だ。」 スコットはベッドを降り、声を上げる。
クラッシャー:「大佐? まだ無理をなさってはいけませんわ。身体が本調子に戻るまで、焦らず休養して下さい。」
ラフォージ:「今は急ぐので失礼しますが、また今度ドクターのお許しが出たら艦内をゆっくり御案内しますよ。」
「誰かに部屋まで送らせますから。」
残念な表情を浮かべるスコット。「…ああ。」

スコットの部屋。
説明するケイン少尉※20。「フードディスペンサーにコンピューターターミナルです。」
スコット:「ああ、こりゃ一体…どういう部屋だ。」
「どうって、普通の客室ですがもっと広い方がよろしいですか?」
「もっと広い? とんでもない。昔は提督だって、こんな広い部屋はもってなかったぞ? …そういえば昔、イラス星のドールマン※21を船に乗せたことがあるんだが…うるさいの何の、客室が狭いの汚いのって文句ばっかり。」
「ホロデッキや、ジムやラウンジは御自由にお使い下さい。場所はコンピューターでわかります。何か御用があれば、あちらのパネルを使って呼び出して下さい。」
「なあ君、この部屋はまるでアルジェリアス星のホテル並みだよ。あの星に行ったときには驚いた。指を鳴らせば欲しい物が何でも出てくる。もちろん初めての訪問だったんだが、ちょっとトラブルに巻き込まれて※22。」
「申し訳ありません、任務に戻りますので。」
「ああ…。そうか。…ありがとう。」
出ていくケイン。スコットはため息をつき、周りを見渡した。


※14: マット・フランクリン Matt Franklin
名のマットを呼ぶシーンがありますが、訳出されていません。エンサイクロペディアでは階級が少尉となっていますが、実際には言及されていません

※15: 映画第7作 "Star Trek: Generations" 「ジェネレーションズ」で、スコットはエンタープライズ-B でのカークの「死」に立ち会っているので、矛盾します。もちろん製作は映画の方が後であり、スコットは単に混乱していたとも考えられます。もっともカークが死んでいることを知りながら (もしくは死んだとは未だに信じられず) 発言したというのが彼らしいかもしれません

※16: duotronic
TOS第53話 "The Ultimate Computer" 「恐怖のコンピューターM-5」より

※17: Norpin Colony

※18: 2222年生まれということが初めて設定

※19: この部分は、原語では惑星名のノルピン5号星 (Norpin V) と言っています

※20: Ensign Kane
(エリック・ウェイス Erick Weiss TNG第114話 "Conumdrum" 「謎めいた記憶喪失」のクルー (Crewman、同一人物?)、DS9第35話 "Paradise" 「自然回帰」のスティーブン (Stephen) 役) 名前は言及されていません。声:堀本等

※21: 「イラス星 (エラス) のドールマン」とは、エランのこと。TOS第57話 "Elaan of Troyius" 「トロイアスの王女エラン」より

※22: このアルジェリウス星 (アルギリス) の出来事は、TOS第36話 "Wolf in the Fold" 「惑星アルギリスの殺人鬼」より。この部分の吹き替えは「最初は、一体どういう魔法かとビックリしたんだよ」

部下のバーテル機関士※23に指示するラフォージ。「ワープエンジンを止めて、後方センサーを調整してくれ。側面センサーは、俺がやる。」
バーテル:「了解。」 奥へ向かったバーテルの声が聞こえる。「ご用ですか?」
相手はスコットらしい。「いやあ、ちょっと寄っただけだ。気を遣わんでくれ。」
バーテル:「こちらは関係者以外立ち入り禁止なんです…」
応対するラフォージ。「ああ、いいんだバーテル。構わないよ。スコット大佐、今はちょっと…」
スコット:「エンジニア同士だ。スコッティと呼んでくれ。」
「スコッティ、見学ならまた今度にして下さい。ダイソンの天球の調査をしてるところで。」
「誰が、見学に来たと言った。手伝いに来たんだ。」
「ああ、お気持ちはありがたいんですがそれには及びません。」
「わしは宇宙艦隊で、52年間エンジニアをやってたんだぞ? ラフォージ君。まだ腕は錆とらん。」
「…そうですね。それじゃ、お言葉に甘えてお力をお借りします。」
「よーし。早速始めよう。」

ブリッジのデータ。「この天球の中心部には、Gタイプの恒星が存在します。内部は空洞ですが、外壁付近には Mクラスの大気があります。」
ピカード:「内部に人が住んでいる気配はあるか。」
「まだわかりません。この環境であれば、十分生命体が生息できるはずなんですが。今のところ、生命反応らしきものは見つかりません。」
「データ少佐、探査機※24を何機か発射して天球の反対側を調査してくれ。何かわかるかもしれん。」
「了解。」

部下に命じるラフォージ。「ディフレクター盤の周波数を調整してくれ。後部センサーと合わせてな…」
スコット:「おい、ワープフィールドの変動が 3%を越えてる。フェイズロックしないと。」
「何です?」
「フェイズロックだよ。あっ!」 ブザーが鳴る。
止めるラフォージ。「…マルチフェイズ自動抑制フィールドを使っていますから、3%を越えても平気なんです。」
スコット:「そうか。便利になったもんだな。」
バーテル:「あと 10分でエンジンを再始動します。」
ラフォージ:「ご苦労バーテル。」
スコット:「思い出すよ。昔、エンタープライズが螺旋状に旋回してコントロール不能になってな。」
パッドを部下から受け取るラフォージ。「ああ、ありがとう。」
スコット:「カーク船長はウォームアップなしでワープを始められないかと、わしに言った。…無茶だ。フェイズロックを使わなければ、30分はかかってしまう。」
ラフォージはため息をつく。
スコット:「『物理の法則は変えられません』と言ったんだが船長は聞かなかった。それでわしは、エンジンの原理を一から調べ始めたのさ※25。ダイリチウムの結晶が分解しかかっているのを知ってるか?※26
慌ててスコットに近づくラフォージ。スコットが出したワープコアの一部を収める。「今は昔と違って結合フレームの中で結晶の再合成※27を行っているんです。すいません、時間さえあればほかにも説明したいんですが、13時までにスペクトル分析を終わらせろって艦長の命令なんで!」
スコットはラフォージに近づいた。「……アドバイスしていいか。…艦長ってのはみんな、子供みたいなもんだ。思いつきをどんどん命令して人を振り回す。本当に必要なことを見極めてやるのも、部下の役目だぞ?」
ラフォージ:「でも一時間でやると艦長に約束したんです。」
「本当は何分かかる。」
「…一時間ですよ。」
「まさかバカ正直に、本当の時間を言ったのか…」
「当たり前でしょう。」
「しょうがないな。自分が優秀※28だってことをアピールするには、演出も大切なんだぞ? そういうときは…」
「スコット大佐※29! あなたに敬意を表して付き合ってきましたが、私にも仕事があるんです! あなたがいると、進まないんだ!」
「…わしは経験では、誰にも負けんぞ? お前の爺さん※30がオムツをつけてる頃から、宇宙船を動かしていたんだ。まだまだお前のようなひよっ子には負けん! …消えてやるからゆっくり仕事をするがいいさ。」
スコットは歩いていった。

テン・フォワード。
スコットがやってきた。中を見渡す。
カウンター席にいたデータは、スコットに気づいた。
スコットは独り微笑み、カウンターに座る。
ウェイター※31:「何にします?」
スコット:「うーん。そうだな、スコッチをもらおうか。」
スコットを観察しているデータ。
ウェイター:「…どうぞ?」
スコット:「ありがとう。」 口にする。「…こりゃ一体何て酒だ。」
「スコッチですが。」
「いいか。わしはお前さんが生まれる百年以上前から、スコッチを飲んでるんだ。そのわしが言うんだから間違いない。こいつは絶対にスコッチじゃない。」
近づいたデータ。「私から御説明しましょう。宇宙船では、化学合成アルコールを使うのです。」
スコット:「化学…合成?」
「そうです。…従来のアルコール飲料の代用品として作られたもので、外見も味も香りもアルコールを真似ていますが、アルコールより早く酔いが覚めるようになっています。」
「見たところ君は…人間じゃないな。」
「そうです。…私はアンドロイドで、データ少佐と言います。」
「ああ…人工のアルコールに、人工のクルーか。」
「…確かガイナンが、合成でないアルコール飲料も取ってあるはずです。それなら、お気に召すかもしれません。」
「ああ…。」
中に入り、グラスと瓶を出すデータ。その液体は緑色だ。
スコット:「こいつは?」
データ:「これは…ん…」 匂う。「これは……グリーンです※32。」
注がれた酒を飲むスコット。「ああ…。」 満足げだ。


※23: Engineer Bartel
(ステイシー・フォスター Stacie Foster) 階級は後に Lieutenant (吹き替えでは中尉) と言及されますが、階級章は少尉だそうです (確認できず)。声はトロイ役の高島さんが兼任

※24: 原語では「クラス4 (の)」と言っています

※25: この回想は、TOS第7話 "The Naked Time" 「魔の宇宙病」での出来事。訳出されていませんが、「サイ2000 に向かって」と惑星名も触れられています

※26: 吹き替えでは「どう分解するか知ってるか」

※27: 吹き替えでは「分解」

※28: 原語では「奇跡の職人 (miracle worker)」

※29: 吹き替えでは「チャーリー大佐」。本来英語では姓にしか階級はつかず、吹き替えでも前には「スコット大佐」と訳していたのですが…

※30: 原語では「ひい爺さん」

※31: Waiter
(アーニー・ミリック Ernie Mirich) 声はケイン役の堀本さんが兼任

※32: これは TOS第50話 "By Any Other Name" 「宇宙300年の旅」での、同じセリフへのオマージュになっています。ただし吹き替えでは次の通り。ケルヴァ人のトマール「何だ?」 スコット「あ? えーと… (匂う) うーん、酒かな」

「グリーン」の瓶を持って、廊下をゆっくりと歩くスコット。パネルに触れる。
コンピューター※33:『プログラムを指定してください。』
「ここなら、昔のエンタープライズが見られるそうだな※34。見せてくれ。」
『情報不十分です。パラメーターを指定してください。』
「…エンタープライズのブリッジを、再現してくれと言ってるんだ。さっさと出してくれんか。」
『同じ名称の船は 5隻存在します。登録ナンバーで指定してください。』
「N、C、C、1、7、0 (まる) 、1。尻尾には『A』とか、『B』とか、『C』とか、『D』は、つかない。」
『プログラム完了。入室してください。』
ドアの前に立つスコット。開くと、初代エンタープライズのブリッジ※35が再現されていた。
音もそのままだ。中に入るスコット。
自分がいつもいた、機関コンソール席を見つめる。そこに立つと、スクリーンにどこかの惑星の一部が映っているのが見えた。
「グリーン」を注ぐスコット。「久しぶりだなあ。」 口にした。
椅子に座る。ドアが開く音がした。
ピカード:「お邪魔でしたかな? …時間が空いたので、お話でもと思って。」
スコット:「おお。それは大歓迎ですよ。一杯やりませんか、艦長。」
「ああどうも。」
「…何ていう酒か知らんが、本物なんで結構酔いが回る。」
ピカードは一気に飲み干した。「アルデバラン・ウイスキー※36。…私がバーに置いたんだ。」
スコット:「ああ…。」 笑い、船長席に座る。
「コンスティテューション級か。」
「そうです。…詳しいんですねえ。」
「博物館※37で見たことがありますが…この船は、エンタープライズですね?」
「エンタープライズは 2隻乗ったが、こっちが最初だ。わしが初めて技術主任として務めたのも、この船だった。…艦隊では、全部で 11隻の船に乗り組んだ。輸送艦に、巡洋艦に、宇宙船。だが懐かしく思い出すのは、こいつのことばかりだ。」
うなずくピカード。「私が初めて艦長に就任したのは…古い、スターゲイザーという船だった。…くたびれてパワーも出ないし、飛行中今にもバラバラになりそうだった。…誰が見てもどこから見ても、今のエンタープライズの方が優れている。だがもう一度…スターゲイザーを指揮できるなら、何もかも捨ててもいいな。」
スコット:「初恋の相手みたいなもんだからな。こんな風に愛せる女性には、二度と巡り会えない。…じゃあ、エンタープライズとスターゲイザーに乾杯。二度と会えない初恋の君に。」
直接ボトルから口にするスコット。
ピカード:「このエンタープライズの感想は?」
スコット:「素晴らしいよ、クルーもいい。」
「だが?」
「だが…わしの頃は、計器を見なくても船のスピードがわかった。デッキを歩いた、感触でな。…だがこの船では、わしはただの邪魔者だ。」
「75年は長いからなあ。……もし技術ファイルか何かを見て勉強したければ、その…」
「もう若くない。今から始めるのには無理があるよ。」 笑うスコット。「もう昔みたいに恋なんかできないってことを、認めなきゃならんさ? …潮時ってもんがある。わしは、ここのクルーじゃない。…このエンタープライズの、このブリッジが…わしの人生そのものだった。…だがこのブリッジも、コンピューターが造った幻に過ぎん。…わしは、思い出の中に逃げ込もうとしていた。コンピューター。この幻を消しちまってくれ。」
消えるブリッジ。
スコット:「これからは、自分の歳をわきまえるよ。」
無言で後を追うピカード。

作戦室。
ドアチャイムに応えるピカード。「入れ。」 やってきたラフォージに言う。「ラフォージ少佐。ジェノーラン※38は 75年前、墜落する前にダイソンの天球をスキャンして調査を行っていたそうだが…調査記録にはアクセスできたのかね?」
ラフォージ:「残念ながらジェノーランのメモリーコアは激しく損傷していて、情報はほとんど取り出せませんでした。」
「うーん、スコット大佐※29に協力を扇いだらどうだろうか。アクセスできるかもしれん。」
「…あの船に誰よりも詳しいのは大佐ですからね。…バーテルを一緒に行かせます。」
「ラフォージ少佐。」 立ち上がり、制服の裾を伸ばすピカード。「…できれば君に大佐と一緒に行って欲しい。」
「私に?」
「そうだ。ああ、これは命令ではない。私の個人的な頼みだから気が進まなければ断ってくれて構わないが……人間は自分が役に立っていると実感できなければ自信を失う。…スコット大佐※29は我々の偉大な先輩だ。何とかもう一度自信を…取り戻して欲しい。」
「…わかりました、やってみます。」
「…頼むよ。」

報告するデータ。「副長。天球の表面に、通信装置と思われる物体を発見しました。」
作戦室を出たラフォージは、ターボリフトに乗る。
データ:「我々の位置より南へ約40万キロ行った地点にアンテナ配列があり、そこから弱い亜空間信号が発信されています。」
裾を伸ばし、近づいたライカー。「交信できるか。」
データ:「この位置からでは無理です。アンテナは反対方向に向いています。」
「少尉。交信可能な位置に移動してくれ。艦長ブリッジへいらして下さい。」

転送室で待っているラフォージ。スコットが来た。
ラフォージ:「二日酔いですか?」
スコット:「ああ、調子に乗って飲み過ぎるもんじゃないな。だが、大丈夫。何とかなる。」
「じゃ、行きますよ?」 転送台に立つラフォージ。「転送。」
転送されるラフォージとスコット。

エンタープライズは、ダイソンの天球にある丸い部分に近づく。
スクリーンにも映っている。
データ:「センサーで調べたところ、あの巨大な円形の部分はエアロックです。天球の内部への入り口ですね。」
ライカー:「あそこが玄関か。行きますか?」
ピカード:「ウォーフ。通信機とチャンネルをつないでくれ。」
ウォーフ:「了解。」
その瞬間、いきなり船が揺れ始めた。
データ:「トラクタービームで引っ張られています。」
ライカー:「ビームを振り切れ。」
レイガー:「メインパワーが停止しました。補助パワーも 20%に※39ダウンしています。」
エアロックの四方からビームが発射されているのが見える。開き始めるエアロック。
ウォーフ:「中に引き込まれます!」
エンタープライズはそのまま、天球内に入っていく。閉まっていくドア。


※33: 声:磯辺万沙子

※34: 原語では「バーのアンドロイドによれば」と言っており、データに教えてもらったことがわかります

※35: 最初に見える全景は、TOS第25話 "This Side of Paradise" 「死の楽園」の一場面が合成されています。これまで予算の都合で実現しなかったブリッジの再現は、実際には機関コンソールの辺りとターボリフトまでに留まっています。船長席と操縦コンソールは、ファンが造っていたものに手が加えられました。映画版のブリッジを使う案もありましたが、ムーアはやはり最初のにしたがったそうです

※36: Aldebaran whiskey
初登場。アルデバランは、おうし座アルファ星

※37: 艦隊博物館 Fleet Museum

※38: 吹き替えでは「ジェノーラン

※39: 吹き替えでは「20%ダウン」

スクリーンに恒星が映っている。揺れ続ける船。
レイガー:「補助パワーも停止しました。」
データ:「共鳴周波数が合わないので、パワーを上げてもトラクタービームを振り切れません。ワープエンジン・通常エンジン連結部、オーバーロード。現在復旧作業中。」
そのままビームで押し出されるように進むエンタープライズ。天球の内側には、土地や海が広がっているのが見える。
ビームが消えた。
大きな揺れの後、収まった。
レイガー:「トラクタービームが解除されたようです。」
ライカー:「現在位置がわかるまで動くな。」
ピカード:「データ、フルスキャンだ。現在地は。」
データ:「中心の恒星からおよそ 9,000万キロメートルです。恒星の表面が、非常に不安定です。もしかすると…」
レイガー:「艦長! トラクタービームが消えた後も、慣性飛行を続けています。エンジンのパワーが戻らないので、停止することができません。このままでは星と衝突します。」

ジェノーラン。
壊れた装置に手を突っ込んでいるスコット。「よーし、これでメイン・データベースが動くはずだ。やってみろ!」
ラフォージ:「了解。…セントラルコアへのアクセスラインは 3本ですが…反応なし。」
「全く、役立たずのオンボロめが。」
「え?」
「古い船だと言ったのさ。お前さんのパワーコンバーターとはリンクできない。何せ設計が、大昔のだからなあ。…今じゃガラクタ同然だ。」
「そうですか? 結構機能的な船に見えるけど?」
「百年前のだぞ? どうしたって、時代遅れだ。」
「俺はそうは思いませんでしたよ? 基本的なシステムは、75年前からそう変わってない。だって、見て下さい。この転送装置の基本システムは、エンタープライズのものと同じでしょう。…亜空間通信やセンサーだって、同じ原理を使って動いてるわけだし。推進エンジンなんか 200年間変わっていない。故障さえしてなかったら、今でも立派に通用する船だ。」
「かもしれんな。…だが君のエンタープライズのような船を造れる時代に、一体誰がこんなオンボロ船に乗りたがる。」
笑うラフォージ。「さあね。でもこの船が動いたら、エンタープライズと肩を並べて飛べますよ? 古いからって、眠らせておく手はない。」
スコットは微笑んだ。「そうだ、昔はダイナミックモード・コンバーターを使ってた。エンタープライズから、取り寄せられないか。」
ラフォージ:「…その装置は見かけなくなって、ずいぶん経つなあ。でも確か、それと似たような物がありましたよ。ラフォージからエンタープライズ。…ラフォージからエンタープライズ、応答せよ。」
すぐにコンソールに近づく 2人。
スコット:「障害波か?」
ラフォージ:「船が消えた。」
ため息をつくスコット。

エンタープライズのスクリーンに広がる恒星。
データ:「あと 3分で恒星と衝突します。」
ピカード:「スラスターのパワーは。」
ライカー:「30%です、これでは静止できません。」
「だがそれだけあればコースを変えて恒星との衝突を避けられる。…左舷スラスターを前方、右舷スラスターを後方に全開。」
データ:「進路が変わりました。右に、10.7度旋回。まだ衝突は避けきれません。」
ライカー:「バーテル中尉、補助システムのパワーをありったけ軌道スラスターに回してくれ。」
バーテル:『了解。』
映っている恒星が、わずかに逸れた。
レイガー:「軌道に乗りました。現在高度は、恒星から 15万キロメートルです。」
微笑むライカー。「次はメインパワーの復旧だ。」 ターボリフトへ向かう。
ピカード:「頼むぞ。データ少佐、内部をスキャンして生命反応を調べてくれ。我々をここに引き入れた者を、突き止めろ。」
データ:「了解。」

コンピューターを操作するラフォージ。「軌道のどこを探してもいない。」
スコット:「ジェノーランと同じように墜落したんじゃないか?」
「…でも、墜落したんならバックグラウンド放射でわかるはずだ。」
「あと、考えられるのは…天球の中に入ったかだ。」
「ありうる。とにかく見つけ出さなきゃ。ジェノーランのエンジンさえ動かせれば、残留イオンを頼りに追跡できる。」
「気は確かか? メインドライブはメチャメチャだし、誘導装置は溶けちまってる。オマケに回路も、ブチ切れだ。まともに修理してたら一週間はかかる。だが、もう時間はない。となりゃ、グダグダ言ってても始まらん。来い! あるものだけで、何とかやってみよう。」

推測するデータ。「恐らく、住民は避難したんでしょう。…中心にある恒星は非常に不安定な状態です。放射線の量が増大し、有害なレベルに達しています。」 恒星の状態がモニターに表示される。
ピカード:「それで住めなくなったのか。…だが誰も残っていないなら、我々を引き込んだのは。」
「…恐らく天球の中に船を迎え入れるための、自動誘導装置が動いてしまったんでしょう。」
ウォーフ:「艦長。恒星の表面上に、大規模な磁気嵐が見られます。」
「フレアを起こしています。マグニチュード 12、クラス B。」
スクリーン一杯に映る、巨大なフレア。
ピカード:「防御スクリーン。」
ウォーフ:「出力が 23%しか出ません。」
データ:「恒星の表面活動が活発化しました。フレアの数、規模ともに増大しています。防御スクリーンでもちこたえられるのはせいぜい後、3時間でしょう。」
フレアは吹き出し続ける。



指示するスコット。「ジューテリウムを、低温ポンプから補助タンクに流し込んでくれ。」
ラフォージ:「でも、そのタンク※40じゃ圧力に耐えきれないでしょう。」
笑い、コンソールの下から出てくるスコット。「何でまた、そう思ったんだ?」
ラフォージ:「何でって決まってるでしょう。…推進エンジンのスペックにそう書いてある。」
「エンジン規格、42-15※41。『IRC タンクの圧力許容範囲』か?」
「ええ。」
「…あれはわしが書いたんだ。…言ったろ? できるエンジニアってのは、ギリギリの数字は言わないもんだ。いいから第2遮断バルブをバイパスして、流し込め。大丈夫だ。」
「OK?」
「よーしこれで、作業完了だ。これでエンジンが息を吹き返すはずだが、どうだ? …きたぞ。」 ライトが復旧する。
「…ほんとだ! タンクは十分もってる。」
「…艦長、指揮をどうぞ。」
「そんな。大佐がやるべきでしょ。」
「わしは、階級こそ大佐だがな。エンジニア以外のものに、なりたいと思ったことは一度もないんだ。」
微笑むラフォージ。「……わかりました。」

恒星の軌道上を進むエンタープライズ。シールドが反応している。
揺れる船。
ウォーフ:「防御スクリーンにダメージ。出力さらに 15%低下。」
ピカード:「フェイザー砲で天球に穴を開けることはできるか。」
「無理です。外壁はカーボン・ニュートロニウム※42でできています。どの武器でも歯が立ちません。」
「…データ少佐、出口を探すんだ。…天球をスキャンしてほかに開いているハッチやエアロックがないか調べてくれ。」
データ:「天球の表面積は 10 の 16乗平方キロメートル※43あるので、全体をスキャンするには 7時間はかかります。」 スクリーンは真っ赤だ。「できるだけ、処理スピードを上げてみます。」
うなずくピカード。

ジェノーランは、ダイソンの天球のエアロックに近づく。
スコット:「エンタープライズの残留イオンはこのポイントに向かっている。」 図が表示されている。
ラフォージ:「エアロックか、ハッチみたいだ。」
「ああ、やっぱりエンタープライズは中にいるんだ。スコッチを 2本賭けてもいい。何かでこのハッチが開いて、中に入ったんだ。」
「間違いない。問題は、開け方だ。」
「この残留イオンの動きと分布を見てみろ。こういう動き方をしてるってことは、推進エンジンで…全力反転したんだ。」
「逃げようとしたんだ。…このアンテナみたいなのは、通信システムじゃないかな。」
「それなら 75年前にスキャンしたときにも、いくつも見つかったぞ?」
「通信してみた。」
「ああ。そうするのが、普通だったからなあ。その後すぐに、墜落した。」
「そうか。エンタープライズも同じことをしただろうな。…スコッティ。もしも、これが通信システムじゃなかったら。例えば、ある周波数の亜空間信号に反応してハッチを開け閉めするスイッチだとしたら。」
「通信したことでスイッチを押してしまったのか!」
「それだよ! エンタープライズも、あのアンテナを見つけて 75年前のジェノーランと同じように通信を試みた。」
「ああ。」
「ただ、今回はそれがきっかけになってハッチが開いて天球の中に引き込まれたんだ!」
「そう考えれば何もかも辻褄が合う。大したもんだ。」
「でも入り口はわかったけど、俺たちまで引き込まれちゃ何にもならない。」
「ハッチを開けるだけに留めて、中に入らずに済めば…。ハッチが開いたときに天球に近づきすぎなければ…中に、引きずり込まれずに済むかもしれん。そうだな。50万キロほど離れて、ハッチが閉まり始めたところで飛び込むんだ。ジェノーランをつっかえ棒にしてハッチを開けておいて、その隙間からエンタープライズを逃がす。」
「本気で言ってるんですか?! あんなでっかいハッチに挟まれたら、卵みたいに潰れちまう!」
「防御スクリーンを使えば、十分もちこたえられるさ。それぐらいのパワーは、この船から絞り出してみせる。」
「スコッティ、不可能ですよ…」
「ジョーディ。危険な目には何度も遭ってきたが、不可能を可能にする方法を見つけて乗り切ってきたんだ。わしを信じろ。同じエンジニアとして…やってみせるさ。」
「…わかった。」
笑うスコット。
ラフォージ:「やりましょう。」
スコット:「よーし。」

停止するジェノーラン。
ラフォージ:「距離、50万キロメートルに到達。」
スコット:「エンジン、準備完了。」
「OK。…いくぞ!」 ボタンを押すラフォージ。
天球からトラクタービームが発射され、ハッチが開き始める。
ラフォージ:「探してるな? 何もいないぞ? あきらめろ。」
ビームが止まり、今度は閉まっていく。
ラフォージ:「今だ! 推力全開。」
操作するスコット。
ジェノーランはエアロックの中心に向かい、横向きになった。シールドが反応する。

報告するウォーフ。「艦長。ラフォージ少佐から通信が入っています。」
ラフォージ:『ラフォージからエンタープライズ、聞こえますか。』
ピカード:「聞こえるぞ、続けてくれ。」

揺れるジェノーラン。
ラフォージ:「ジェノーランの防御スクリーンを使って、ハッチを止めています。もちこたえてる間に逃げてください。」

ピカード:「了解した、針路を変更しろ。」
恒星を離れるエンタープライズ。

ハッチは止まっている。
スコット:「プラズマ冷却機がいかれた。エンジンオーバーヒートだ!」 火花が飛ぶ。
ラフォージ:「操縦が利かない。ラフォージからエンタープライズ、ジェノーランが動かないのでエンタープライズの通る道を開けられません。この船を破壊して、脱出してください!」

ピカード:「後どれくらいでハッチに着く。」
データ:「推進エンジンの出力が 60%なので、到着まで 1分40秒です。」
「ブリッジから第3転送室。転送可能距離に入り次第、ジェノーランから 2名転送だ。」

ハッチが閉まろうとする音が響く。
崩れ始めるジェノーランの船内。
スコット:「崩壊し始めた、もう手の打ちようがない!」

急行するエンタープライズ。
ウォーフ:「光子魚雷、発射準備完了。」
データ:「…転送可能距離に、到達。」
ピカード:「第3転送室、今だ!」
転送部員:『了解※44。』
「…光子魚雷発射!」
光子魚雷によって、ジェノーランは爆発した。すぐに閉まり始めるハッチ。
エンタープライズが向かう。
スクリーンに閉まっていくエアロックが映る。
エンタープライズは真横に向きを変え、抜けきった。
外部に出た直後、ハッチは完全に閉まった。

転送台を降りるスコット。「どうだ、悪くないアイデアだったろう?」
笑うラフォージ。

『航星日誌、宇宙暦 46125.3。ダイソンの天球を調査するため、2隻の科学船が派遣された。我々は、第55宇宙基地へ向かう。』
廊下。
ラフォージ:「でね、そのでっかいエイリアンの赤ん坊がエンタープライズをママと間違えて吸いついて離れなかったんですよ。」
スコット:「そんな嘘みたいな話があるのか。」
「…あるんだなあ、オマケに船のパワーをミルクと勘違いして吸い取っちゃって、で俺とブラームズ博士は考えに考えた末、パワーの出力周波数をほんのちょっと変えてやったんです。」
「おっぱいを苦くしたんだな?」
「その通り※45。」 笑う 2人。
「いやあ、君はいい経験をしてるよジョーディ。こんないい船で機関部長として働けて。今が、人生で一番輝いているときかもしれん。今この時を、大事にしろよ? さーてと、バーで一杯おごってくれる約束だったなあ。」
「もっといいものを、プレゼントしますよ?」
中に入る。シャトルの前に、ピカードたち上級士官が勢揃いしていた。
スコット:「まさかこのシャトル、わしにくれるのか?」
ピカード:「無期限で大佐にお貸ししますよ。我々を救うために犠牲にされた船の代わりです。」
ライカー:「小粒ですけどね。」
スコット:「いやいや、どんな女性にもそれぞれ魅力がある。それを見つけてやればいいのさ。」
ラフォージ:「足は遅いけど、ノルピン・コロニーまでは行けますよ? もちろん、別の星にもね。」
「ノルピン・コロニーは引退した老人※46が集まる星だ。いつかはわしもあそこで暮らすだろうが、今はまだ早い。」
握手するピカード。「では、よい旅を大佐。」
スコット:「いろいろ、お世話になりました。」
データ:「お元気で。」
トロイ:「さようなら。」
スコット:「さようなら。」 キスする。
ライカー:「お元気で。」
「ありがとう。」
クラッシャー:「お気をつけて。」
「うーん。」 抱き合ったスコット。
ウォーフとは目を交わしただけで、「ゴダード※47」と名の書かれたシャトルに向かうスコット。「いいクルーだね。」
ラフォージ:「そうでしょ?」
「名前に恥じない最高の船だ。だが、船の本当のよさというのは面倒をみてくれるエンジニアの腕で決まる。その意味で言えば、エンタープライズは幸せ者だ。」
ラフォージは微笑み、握手した。「お気をつけて、よい旅を。」
スコット:「ああ。」
閉まっていくゴダードのハッチ。


※40: 吹き替えでは「タンク」のみ

※41: 規則 42-15 Regulation 42/15
宇宙艦隊一般命令・規則 (Starfleet General Orders and Regulations) の一つ

※42: carbon-neutronium

※43: 直径 2億km だと表面積が約1.26×10^17平方km になるので、10^16 だと一桁少ないような…。内部の直径が約5,600万km となってしまい、天球の厚さがそんなにあるようには見えません

※44: 次の爆発シーンでもわかりますが、シールドが上がったままなのに転送しています。周波数を合わせて転送したとも考えられますが、脚本のロナルド・ムーアは単なるミスだと語っています

※45: TNG第90話 "Galaxy's Child" 「ギャラクシー・チャイルド」より

※46: 吹き替えでは「人」

※47: シャトルクラフト・ゴダード Shuttlecraft Goddard
液体燃料ロケットを発明した科学者、ロバート・H・ゴダード (Robert H. Goddard、1882〜1945) にちなんで

・感想など
マッコイ、スポックに続く (レギュラー以外ではサレクも)、TOS キャラクターの登場です。これまでの人物と違うのは、実際に時を飛び越えている点ですね。脚本のロナルド・ムーアもファンだというスコットは TOS では 4番手に当たりますが、実際には中心となることはほとんどありませんでした。でも憎めない性格は、人気があります。映画で恰幅が良くなってからの方が、印象が強いかもしれませんね。
初代ブリッジの再現という目玉もあり、同じ手法は後のシリーズでも踏襲されます。他にも TOS 関連のセリフが多いのが嬉しいですね。DVD が発売された今はまだしも、日本でもっと (近年も含めて) 再放送されていれば、さらに評価は上がったと思うのですが。
スコットがガイナンやトロイと話すシーンはなくなりましたが、ノヴェライズ版では含まれています。DS9・VOY を含めて 22話を監督した Alexander Singer は、今回が最初でした。


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