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ディープスペースナイン エピソードガイド
第37話「宇宙の原型」
Playing God

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・イントロダクション
輸送船※1が DS9 にドッキングした。
パクレド人に続いて降りてくるベシア。「アージン※2、困ったことがあれば何でも言ってくれよ。」
隣を歩くトリル人の男性。「ええ、どうもありがとうございます。ダックスのことを聞いたら緊張が少し和らぎました。」
ベシア:「本当? 緊張する理由はないよ。※3きっと温かく迎えてくれるさ。とにかくジャッジアは優秀な女性だからね。君にはきっと勉強になると思うよ?」 エアロックを出る。
アージン:「噂に聞く、ほかのダックスとは、ずいぶん違いますねえ。」
「違うってどこが?」
「こう言えばいいかな、ダックスが僕の担当教官※4に決まったって聞かされた時、僕は…まさに絶望しましたよ。」
「冗談だろ。何で。」 ターボリフトのスイッチを押すベシア。
「ダックスは実習生を抹殺するんで有名なんです。」
「抹殺する?」
「ええ。記録も調べました。過去 200年で、ダックスは自分だけの判断で、合体の候補生※5を 57人もプログラムから消してるんです。」 到着したターボリフトに乗るアージン。「今から会いに行くなんてちょっと遅いんじゃないですか?」
「いや、大丈夫だよ。彼女は宵っ張りでね。コンピューター、ダックスの現在位置は?」
コンピューター:『ダックス大尉は、レベル7、セクション5 におられます。』
「だろうと思った。それじゃレベル7、セクション5 へ頼むよ。」 動き出すターボリフト。「やっぱりクワークの店で遊んでるよ。」

プロムナードに着くターボリフト。
アージン:「トレーニングプログラムに応募する候補生は、毎年 5,000人以上なんですが…それに対して共生生物は約300体だけなんです。小さなミスでふるい落とされる、厳しい競争なんですよ。合体審査理事会のお眼鏡にかなうには…」
騒いでいるフェレンギ人の中央で、ダックスがトンゴを楽しんでいた。「勝負よ。」 喜び、大声で笑う。
アージン:「…優秀で、完璧じゃないと。」
ダックス:「耳でわかるのよ、彼買いに出る時は必ず左耳の後ろを掻くの。こんな風にね?」
耳を触られたクワーク。「遊ばないで下さいよ! 本気ならいいですけどね?」
ベシア:「ジャッジア、君に御客様だよ。」
ダックス:「あーら、明日来る予定じゃなかったの?」
アージン:「そうなんです、でも一日早くスターベース41※6 を出ましたので。」
ベシア:「君のことは僕がよーく教えといたよ。船で席が隣だったんだ。」
ダックス:「あらそう。」
「もちろん、僕の知ってる範囲でだけどね?」 歩いていくベシア。
クワーク:「あんたトンゴやるのかい?」
アージン:「…トンゴ? …いえ、僕は。」
「ならとっとと出てってもらいたいね? 大尉、あなたが親ですよ?」
アージンに近づくダックス。「冷たいのね、クワーク。彼はトリル人※7の合体候補生なのよ? トンゴのやり方知ってるはずないでしょう?」
両手を合わせ、挨拶するクワーク。「ああ…申し訳ありません。」
ダックス:「だから教えるのよ。」
「ああ…心配ないよ、ルールは簡単だからね、金はいくらもってきた? ああほら、席を空けてやんな! お前帰れ!」 アージンをテーブルに座らせるクワーク。
アージン:「ああいえ、その僕は長旅でしたし、もう夜も遅いし…」
ダックス:「そうね、疲れてるわよね? じゃあお部屋へ案内するわ? 私は抜けるわ。」
クワーク:「ちょっと、そりゃないでしょ。」
「負け犬の遠吠えよ?」 ダックスは店を出て行く。
「卑怯ですよ、勝ち逃げなんて! だから女はね! ダア!」


※1: 後に DS9第104話 "Trials and Tribble-ations" 「伝説の時空へ」などでも同じシーンが使われますが、初登場はこのエピソードです。TNG第130話 "Relics" 「エンタープライズの面影」で登場した U.S.S.ジェノーラン (シドニー級) の使い回しですが、上下が逆さまになっているため同じクラスであるかは意見が分かれています。また、撮影用モデルでジェノーランの名前を書き換えた「U.S.S.ナッシュ (Nash)」の存在が確認されていますが、番号が "NCC-2010-5" とイレギュラーなものになっています (参考。さらにこのページ内の "U.S.S. Nash" 項目、"studio model" リンクでアップの写真を観られます)。ここでの「輸送船 (transport)」という表記は後のアージンのセリフから (吹き替えでは訳出されていません)

※2: Arjin
(ジェフリー・ブレイク Geoffrey Blake) 声:平田広明、ENT ロストフ

※3: 吹き替えでは、アージン「でも、ダックスのことを聞いただけで何だか緊張してきちゃって」 ベシア「緊張? いや、大丈夫だよ」

※4: 指導教官、実習教官 field docent

※5: initiate

※6: 第41宇宙基地 Starbase 41

※7: 吹き替えでは「トリル

・本編
廊下。
アージンは部屋を探している。
深呼吸し、チャイムを押した。
異星人の男が立っている。「何かな?」
アージン:「ああ…すみません。ダックス大尉の、お部屋だと思ったんですけど。」
「今シャワー中だ。」
「ああ、ああそうですか。あ、それじゃあ…」
「約束してあるのか。」
「ええ。アージンと言います。8時に部屋に来るように言われて…」
ダックス:「あら、アージンなの? また約束より早いのね? 8時前よ?」
「出直してきます。」
「あらいいのよ、入って? すぐ仕度するわ? 女って身支度に時間がかかるのよ。」 ダックスはタオルを身体に巻いただけの格好だ。
異星人:「じゃあ失礼する。明日までにカロンディア4※8 に行かないと。」
「次に会えるのは?」
「来週には戻ってくるよ。」 手にキスする異星人。
「とってもよかった、疲れたけど。最高だった。気をつけてね!」 閉まるドア。「オレンジジュース※9でも飲みながら待ってて?」
アージン:「どうも、でも食事は済ませてきました。」
「私にはブラック・ホール※10ね?」
「…何ですって?」
「ブラック・ホール、フェレンギのドリンクよ?」 寝室に入るダックス。「百年の付き合いのバーテンがクルゾンに勧めた飲み物なの。それとも、リラ※11だったっけ。ああ、どっちでもいいけどね? 試しに飲んでごらんなさい?」
「あ、コンピューター。ブラック・ホールを。」 レプリケーターに黒い飲み物が出てくる。
「ああ…体中の筋肉が痛むわ。ガレオ・マナダ・スタイルのレスリング※12したことある?」
ブラック・ホールを臭い、不快な顔をしたアージン。「レスリング?」
ダックス:「朝のレスリングはいいわよう? 身体も頭もスッキリするしね。トラジョク※13に習うといいわ? 最高のコーチよ?」
「ああ…これどうぞ。」
制服を着て出てくるダックス。「うーん、美味しい。あなたはトンゴもしないし、レスリングもしない。…ここにいる間何をしましょうか。」
笑うアージン。「…何って、合体候補生が実習でやらなければならないのは…」
ダックス:「言わなくても知ってるわ? 私も実習は受けたもの。」
「はい、先生。」
「…アージン、あなたもしほんとに合体したいのなら、二度と『先生』なんて呼ばないで?」
「はい…大尉。」
「…いいのよ、ただの『ジャッジア』で。」
「…それで失礼でなければ。」
「そうねえ? 礼儀には反してるけど…私礼儀って大嫌いなの。」
ため息をつくアージン。

司令室の床の下から、オブライエンの声が響いた。「クソ!」
驚くキラ。
出てくるオブライエン。「異常なし!」
トリコーダーを使うキラ。「ああ…こっちだわ、チーフ?」 2人とも銃を持っている。
ため息をつき、パネルを開けるオブライエン。ライトを使う。「ああ…。…さあさあ、出ておいで!」
シスコ:「どうした。」
キラ:「…ハタネズミ※14です。」
「ハタネズミ?」
「カーデシアの置き土産ですよ。」
オブライエン:「今までネズミどもが住んでたエリアに人間が住むようになったせいでしょうね? 今じゃ…ステーション中に散らばっちまって。…どうも電磁場が好きみたいなんですよう。」 かじられた部品を渡す。「少佐、ちょっとこちらに。」
シスコ:「フェイザーで、気絶させるだけにしろ。できれば生け捕りにしたいからな。」
ターボリフトで来たダックス。「ベンジャミン? 彼がアージンよ、この前話した合体候補生の。こちらシスコ司令官。」
握手するアージン。「よろしく。」
お尻だけ見える 2人を説明するダックス。「左側が副司令官のキラ少佐で、右側テクニカル・チーフのオブライエン※15。何が壊れたの?」
シスコ:「カーデシアのネズミを捕まえてるんだ。」
「あらほんと? 私見たことないのよ。」
出てくるキラ。「あら…じゃ代わるわ?」
シスコ:「そうか、君が貧乏くじを引いたわけだ。」
アージン:「…え?」
「ダックスが実習教官なんて、悪夢以外の何ものでもないぞ。」
ダックス:「それはクルゾン・ダックスよ!」 フェイザーの音と、動物の鳴き声が聞こえた。「捕まえた! アージン、ほら!」
アージンは両手にやっと載る、巨大なネズミを渡された。

ワームホールに入るランナバウト。
内部の光景が前に見える。
ダックス:「どう、アージン。素晴らしいでしょう。」
アージン:「ええ、すごいですね。」
アージンを見るダックス。

ガンマ宇宙域に出る。
ダックス:「コンピューター、フレンショット※16をかけて?」
アージン:「フレンショット?」
「ロミュランの作曲家よ? 無名の作曲家が好きなの。」
「うーん。」
「あなた操縦してみる?」
「連邦のシャトルは操縦したことがないんです。」
「自動操縦だから平気よ、それに飛行経験は第3レベルでしょ?」
「いえ、実は先月第5レベルを修了したんです。」
「第5! 私が第3レベルを終えたのは…」
「訓練の最終年でしょ。」
「私のことよく調べたのね? と言っても責めてるんじゃないわよ? 私も教官が誰かわかった時、やっぱりリサーチしたもの。」
「教官がクルゾン・ダックスだってわかった時、どんな気持ちでした?」
「『吐き気を催した』とでも言えばいいかしら?」
「今の立場から言えば、ヒントは教えられませんよね。」
「ヒント?」
「どうやって教官にいい印象を与えるか。」
「あのねえ、一つだけ言っておくわ。私はクルゾンでもリラでもほかの誰でもない、ジャッジア・ダックスよ? 年だってあなたより 2、3歳上なだけ。…候補生を迎えるのも初めて。正直言って、今でもまだ候補生の気分が抜けないぐらいなのよ。厳しかった合体審査のこともまだはっきり覚えているわ? だからあなたに辛く当たるつもりはありません。そんなに構えないでもらいたいわ?」
「…わかりました。」
「ありがと。」
「でもどうやったんです? …あのクルゾン相手に。」
「別に何も? クルゾンは私を候補生から外すよう勧告したぐらいなのよ?」
アージンは驚く。
突然船が揺れた。
ダックス:「直ちに手動安定装置を始動せよ。全エンジンを停止。コンピューター、今の揺れの分析を。」
コンピューター:『今の揺れは、亜空間インターフェイズ・ポケット※17からの衝撃によるものです。』
「インターフェイズ・ポケットの性質は?」
『わかりません。』
「機体の損傷は。」
『右舷エンジンが作動していません。現在可能なパワーは 50%です。』
アージン:「ジャッジア。…ちょっとこれを見て下さい。」
コンピューターに映った右舷ナセルの先端に、何かの物体が見える。
ダックス:「…ポケットから出てきた何かが食い込んでるわねえ。コンピューター、右舷エンジンの上の物体は何?」
コンピューター:『わかりません。』
その物質は、青白く光っていた。


※8: カロンディア4号星 Calondia IV

※9: シトリスブレンド citrus blend

※10: Black Hole
DS9第21話 "The Homecoming" 「帰ってきた英雄 パート1」より

※11: リラ・ダックス Lela Dax
初言及

※12: Galeo-Manada style wrestling

※13: Trajok
(クリス・ネルソン・ノリス Chris Nelson Norris) クレジットでは「異星人男性 (Alien Man)」。声はクリンゴン人主人役の大川さんが兼任

※14: vole
DS9第23話 "The Siege" 「帰ってきた英雄 パート3」より。初登場。イラストレーター Ricardo Delgado と製作総指揮 Ira Steven Behr 考案、メーキャップ監修 Michael Westmore デザイン

※15: 吹き替えでは「テクニカル・チーフのオブライエン少尉」ですが、原語では「オブライエン主任機関士」としか言っていません。この時期は「准尉」が適当かも (参考:階級早見表)

※16: Frenchotte

※17: subspace interphase pocket

DS9。
司令室に入るオブライエン。「船体の内部に電磁波の通路を作って、ネズミどもを罠におびき寄せるってのはどうでしょう。」
キラ:「ああ、でもそれにはパワーシステムを全て止めないと。」
「…そうなんです。それに日数もかかるし、住民を退避させなくちゃなりません。んで、とりあえずこれを作ってみました。方向探知ソニックジェネレーター※18です。こいつをネズミには耳障りな周波数に設定して、一匹ずつ隠れ家から追い出す。手間がかかって非効率的ですけどねえ。」 道具を見せるオブライエン。
ターボリフトで来たクワークは、ハタネズミの死骸を置いた。「ダボ・テーブルの上を走ってたんだぞ!」
キラ:「何で死んだの? 料理を食べて?」
「フフフン…大家であるおたくらの責任なんだからなあ! すぐに害虫駆除をやらないんなら俺は!」
「出てくの? …お願い、『出て』ってちょうだい。あんたよりカーデシアのハタネズミの方がよっぽどマシよ。」 離れるキラ。
「嫌い嫌いも好きのうちって言うだろ…。」 笑うクワーク。「とにかく、ネズミどもを何とかしてくれよ。」
オブライエン:「安心しろ、クワーク。ネズミが悲鳴をあげて逃げ出す兵器を発明したところだ。」
「何だい、それ。」
「超音波で…」
オブライエンが起動すると、クワークは大声で苦しみだした。「ウワー、止めてくれー!」
オブライエン:「大丈夫か? …おい、大丈夫か。」
頭を叩くクワーク。「何?」
キラ:「チーフ、メコン※19がワームホールから戻ったわ。故障してるみたいよ?」
司令官室を出るシスコ。「チャンネルを開いてスクリーンに頼む。大丈夫か、ダックス。」
ダックス:『エンジンをやられました。牽引をお願いします。』
「どうしたんだ。」
『よくはわかりません。右舷エンジンに亜空間の海草のような物がくっついているんです。無理に取ろうとすると、船が駄目になるので。』
オブライエン:「全エンジンを止めて下さい。パッドD に牽引します。」
『チーフ、科学ラボに抑制室を造っておいてくれない? これが船から取れたら、制御された状態で研究してみたいの。』
「2時間かかりますが。」
『明日の朝でいいわ、そうすればアージンも私も休めるし。』
「了解です。」
シスコ:「報告は休んでからでいいぞ。」
ダックス:『通信修了。』

到着するメコン。
ダックス:「アージン、ディナーに行きましょ?」

クリンゴン・レストランでは、主人※20がアコーディオンのような楽器を演奏しながら歌い始めた。
最後の節を一緒に歌うダックス。「アクラ・ベラ・ドゥー※21」 笑う。
アージンに話すクリンゴン人。「今歌ったのはなあ、大尉に教わったんだ。クリンゴン人の俺も知らなかったんだぞ?」
アージン:「無名の作曲家が好きなんだってさ。」
クリンゴン語を使うクリンゴン人。「アク・ウン・ラテル※22? (新しい男か?)」
ダックス:「ドコ、ドコ、ウン・コレイ※23・トリル (違うわ。私の生徒)」
「…変な気を起こすんじゃないぞ。大尉は、俺のもんだ…。」 ダックスと一緒に笑うクリンゴン人。歩いていく。
席に戻るダックス。「全然食べてないじゃない。」
アージン:「いえ…そんなことは。初めてなので。」 後ろにボリアンのカップルが座っている。
「いかにも食べたように見せるためにかき回してるだけじゃないの。」
「いえかき回さなくても、勝手に動くんです。」
「…ラクト※24が食べたくないなら、ほかの物を頼めばよかったのに。」
「いえ、構いません。そんなにお腹も空いてないですし。」
「遠慮しないで自分の意見を言って? いいわね?」
「わかりました、努力します。」
「…誰の薦めで候補生に応募したの?」
「父です。」
「合体なさってるの。」
「いいえ? でも、子供にはすごく期待してました。父は 40年間、ゲデーナ駐屯地※25でパイロット養成の教官をしてたんです。去年亡くなりましたが。」
「それで飛ぶのが上手なのね?」
「父はほんとは姉に期待してたんです。でも候補生になったのに、姉は駆け落ちしてしまいましてね。父はカンカンに怒りましたよ。死ぬ時も姉は無視して僕の方を向いて、『お前を当てにしてるぞ』って言いました。…それが最期の言葉でした。」
「お父様は合体したら宇宙艦隊に入って、フライト技術を生かせと?」
「合体※26した後のことは何も言ってませんでしたね。合体すれば後は何でもいい、父の願いはそれだけで。」
「…あなた自身の願いは何?」
「…合体したら、いろいろなことが可能になります。…まだわかりませんけど…合体したら、共生生物が導いてくれるんでしょ? 違うんですか。」
「確かに共生生物の影響力はとても強いわ。でも本体はあなたよ? 意志を強くもって、共生生物とのバランスを取らなければ。…そうでないと、あなたの人格は押しつぶされてしまうわ?」
ラクトをつまむアージン。

スクリーンに映ったカーデシア人、ガル・イヴェック※27。『ああ、ハタネズミか。あれはしつこいぞ?』
オブライエン:「駆除の方法を御存知なら教えて下さい。」
『連邦のテクノロジーをもってしても駄目かね。』
「私はただ相互の友好的な関係を思って…」
『連邦のステーションだ、我らは関知しない。ああ、そうだ。ハタネズミの繁殖期まで、あと 6週間だぞ?』
「ご忠告どうも。」
『嫌ならベイジョーからは撤退することだな。』 映像は切られた。
ダックスに箱を渡されるオブライエン。「何です?」
ダックス:「ジュリアンからあなたによ? ネズミ狩りにはこれが一番効くって。」
開けるオブライエン。「『ハメルンの笛吹より』? フン…。」 本当に、ただの笛が入っている。「ふざけやがって。」
微笑むダックスは、司令官室に入った。
チェスをしているシスコ。「君の番だ。例の海草はちゃんと科学ラボに転送しておいたよ?」
ダックス:「あなたも見てみた?」
「うん。君の意見は。」
「シャトルでできるだけ分析はしてみたけど、全然スキャンを受け付けないの。明日またテストしてみる。」
「候補生のアージンの対応ぶりはどうだった。」
「上出来よ? 優秀なパイロットだし。」
「おっと。」
「何?」
「出たな、その顔。」
「どんな顔?」
「ほら、その顔だよ。こう言ってる顔だ。『こいつは見込みがない』ってね。」
「私のせいじゃないわ?」
「アージンに欠点でも?」
「…気にかかるのよ。」
「どういうところがだい?」
「合体するってことはねえ、お互いのレベルを高めるってことなの。でもアージンは中身が薄いし生意気だし。」
「そうかい?」
「確かにね? 私もそうかもしれないけど、王手。でもアージンは父親の期待に応えようってだけで、合体して何をしたいっていうビジョンがないの。」
「失格だって言ったのか。」
「そりゃあ私の仕事じゃないもの。」
「…そうかね。」
「私の仕事は、合体したトリルとしての仕事ぶりを見せることよ? それだけなの。規則でそういう風に決まってるの。」
「ふーん。」
「……私そんなに偉い人間じゃない。」
「…君はダックスだ。」
「ええ、でも私はクルゾンじゃない。クルゾンが私にしたことは繰り返したくないの。」
「それじゃあ……君はどうするつもりなんだ? ……欠点を指摘してやらなければ、アージンはずっとこのままだ。…違うか? 摩擦を避けたいからって黙ってたら、彼のためにはならないんだぞ? クルゾンはタフだった。きつい物言いでもそこには、愛情が流れていた。合体の候補生に対しては常に最高を要求していた。遠慮なんかしなかったね。」
「私もひどく扱われたわ。」
「でも見事にここまできたろ。」
「クルゾンのおかげじゃない。」
「そうかなあ。」

科学ラボに入れられた亜空間の物質。
フォースフィールドに包まれているが、ハタネズミが近づいた。
フィールドが乱れ、消えてしまった。物質は明るく輝き始める。


※18: directional sonic generator

※19: U.S.S.メコン U.S.S. Mekong
ダニューブ (ドナウ) 級、NCC-72617。初登場。DS9第33話 "Armageddon Game" 「最終兵器解体の陰謀」で破壊されたガンジスの代わり。DS9第34話 "Whispers" 「オブライエンの孤立」では言及のみ

※20: クリンゴン人主人 Klingon host
(ロン・テイラー Ron Taylor) DS9第26話 "Melora" 「エレージアン星人」以来の登場。前回のクレジットでは「クリンゴン人シェフ (Klingon chef)」。声:大川透 (継続)

※21: "Ak'la bella doo"
曲名

※22: lach'tel
=boyfriend

※23: Koliay
=student

※24: racht
DS9 "Melora" より

※25: Gedana post
吹き替えではこの部分は訳出されていません

※26: joined
合体した人物を示す言葉。「joined になったら…」

※27: Gul Evek
(リチャード・ポー Richard Poe) 後にも登場。クレジットでは「カーデシア人士官 (Cardassian officer)」ですが、イヴェックと同一人物としてよいと思われます (エンサイクロペディアでも同一項目)。声はクワーク役の稲葉実さんが兼任

科学ラボ。
アクセストンネルから出てくるオブライエン。「…エネルギーラインが、ネズミにかじられてました。あれじゃあセキュリティフィールドは動きません。」
シスコ:「つまり保安システムは動かないってことか。もし今緊急事態が起こったら、どうするんだ。」
ダックス:「とにかく、一刻も早くネズミを駆除しましょう。」
「いつまでもネズミに振り回されてたまるか。14時からミーティングを開くぞ。フェイザー・ガンの目盛りを上げてもいい。甘い顔はおしまいだ。」 オブライエンも出ていく。
ダックス:「アージン、あなた天体物理学の成績は?」
アージン:「いいですよ、得意なんです。だからここに派遣されたのかもしれない。」
「じゃあ重量マイクロプローブ※28をセットして? エネルギー断面を測定したいの。」
「ジャッジア…昨日僕自身の願いは何かって聞かれた時、上手く説明できなかったんですけど。」
「いいえ、あなたの言いたいことはわかったわよ?」
「合体した後の目標をもってないって誤解されたんじゃないかと思って。僕は宇宙艦隊に入るつもりです。フライトには自信がありますし。」
「艦隊のパイロットは職業に過ぎないわ。それと合体とは関係ないわよ。」
「おっしゃる意味がわかりませんが。」
「そうね、わかっていないようね。」
「わかってないって?」
「…あなたの考えてることぐらいお見通しよ?」
「それはどういう意味です?」
「あなたは昨日私と別れてからいろいろ考えたんでしょうねえ? 何かまずいこと言ったらしいって。だから今それを取り繕うとしてるだけなのよ。」
「いや、あ…僕は今自分が思っていることをはっきりさせようと…」
「気持ちはよくわかるわ、私も同じものだったから。下手な言い訳はやめてちょうだい。」
「…僕は失格?」
「フェイズ分散度の分析をして? ……私はあなたが心配なの。」
「心配?」
「…合体に対する心構えができてないから。」
「…なぜそんな。まだ一日半しか経ってないのに!」
「失格とは言ってないでしょ、いい? あなたは今まで自分に要求されるであろう課題を予測して、前もって準備することで好成績を上げてきた。」
「…ええ、そう自負はしています。」
「だけどこれから先はねえ、アージン。それだけじゃ通用しないのよ?」 コンピューターに映し出された構造を見るダックス。「高度に構築されてるけどどういう法則に則ってるのかしら。コンピューター、スペクトル分析※29をやってみてちょうだい。」
コンピューター:『…スペクトル分析終了までには 7分かかります。』
アージン:「僕からも…一言言わせて下さい。今すごく裏切られた気持ちなんです。何て言うか…教官から親しげに『ジャッジアって呼んで』なんて言われりゃあ、誰だってこりゃいけるって思うでしょ…」
ダックス:「あなたの傷ついた気持ちはわかるわ。でも合体を認められるには、定められた基準をクリアしなければ。共生生物を受け入れる度量のない候補生に合体を許可することはできないわ。」
「…じゃ、なんですか。僕は度量がないと。」
「それはまだわからないわ? ただ今の時点では賛成できないってことを言っておきたかったの。」
「…そうですか。…こんなこったろうと思った! 最初から落とすつもりだったんでしょ。あんたはダックスだ。何が『定められた基準をクリア』だ! あんたからそんなことを言われたって信じられないね。今まで何人か合体した人に会ったけれど、あんたほど基準に満たない人はいませんでしたよ、先生! …クルゾンが候補生から外そうとしたのも当然だ!」 出ていくアージン。
ダックスはため息をついた。

司令室。
ダックス:「ついに電磁フラックスを解読したわ。高密度プラズマがものすごい速さで膨張中です。」
シスコ:「その速度は。」
「蓄積されたエネルギーはもう抑制室一杯です。あのエネルギーの塊は、一定期間分裂を行うと噴出するということの繰り返しで…コンピューターはその特殊な成長パターンを認識しました。」
キラ:「何のパターンだったの?」
「宇宙の膨張のパターンなんです。」
「…ええ?」
オブライエン:「宇宙?」
ダックス:「あの海草のような物は非常に初期の段階にある宇宙の原型※30だったんです。このまま成長を続ければ、私達の宇宙も飲み込んでしまいます。」
シスコ:「元あった場所に戻せないのか。」
「あのエネルギーの塊は、私達の宇宙の自然の法則には従ってないんです。…動かせばどうなるか、全く予想もつきません。ワームホールに戻したらどうなるかも。でもワームホールに入れば、ワームホールのヴァーテロン※31交点とこの原型宇宙のエネルギーの波動とが相互作用することで、大爆発を起こすかもしれません。そうなったらこの星系は吹き飛びます。」
ベシア:「でも放っておいたら、星系どころかこっちの宇宙はおしまいだ。」
オブライエン:「何とか抑制できないんですか。」
ダックス:「破壊しなければ無理ね。」
キラ:「こういう状況なら破壊するのが当然だと思うけど。」
「原型宇宙をフォースフィールドの中に入れて、一定時間以上抑圧できれば、圧力が高まり爆発的な波動が生まれ、自爆するはずよ?」
シスコ:「次の膨張が起こるまでどれぐらい?」
「約3時間です。爆発の際の衝撃波で、ラボは全壊するでしょう。」
「…あと 3時間で抑制フィールドを作れるか。」
オブライエン:「できます。」
「セクション14 の住民は退避させよう。では解散。」

グラスを飲み干したアージン。モーンは女性と話している。
クワークがアージンに気づいた。「お代わりは?」
アージン:「…どんどん注いでくれ、今夜は酔うぞう。」
「悩みでもあるのかい。」
「悩み? いや、ついさっき人生を放り捨ててきたんだ。大したことはない。」
「ホロスイートで遊んできなよ、どんな悩みで綺麗に消えるぜ?」
「トリル人を信じちゃダメさ。」
笑うクワーク。「何でだ?」
アージン:「…二重人格さ。」
「トリル人はみんなか、虫のいる奴だけか。」
「…ダックスって奴はみんなだ。」
「大尉に振られたのかい。」
「……何?」
「俺もだよ。ドクター・ベシアも一日おきにうちに来ちゃあ、オイオイ泣いてるぜ。大尉に振られた男は山ほど…」
「違うよ、誰があんな女なんか。僕の将来、僕のキャリア、僕の人生…」
「ちょい待ち! あんた失格を言い渡されたのか?」
「まだ合体の心構えができてないって言われたんだ。」
「きついねえ? でも大尉の意見ってだけだろ、気にすんな。」
「指導教官から悪い点をつけられれば、道は断たれたも同じだ!」
「なあ若いの。おりゃああんたぐらいの年頃、この地区の副ネーガス※32の…助手に任命されたのさ。…そりゃあもうゴマでも何でもすったぜ? おかげで副ネーガスにも気に入られてな、輝かしいエリートの未来が俺を待ってるはずだったのさ。それが突然ボツだ。」
「何で。」
「金儲けの秘訣第112条。『上司の姉妹とは寝るな。』※33 …で、クビになった。一文無しで、またゼロからやり直しになったのさ?」
「どうやって、立ち直ったんだい?」
「立ち直ってねえよ? 仲間が宇宙を飛び回って商売してるのに、俺はワームホール・ジャンクション※34にあるこんなちっこい店で商いしてる。…一度出世の階段※35を踏み外したら二度と登れねえ。失敗したら…おしまいなんだ。あんたの気持ちわかるよ?」
「…どうもありがとう。」
「…いいってことよ。」 離れるクワーク。
アージンは首をかしげた。

科学ラボで光り続ける原型宇宙。士官たちが測定している。
ダックス:「エネルギー体内部の局部限定エントロピーは減少してる?」
コンピューター:『減少しています。』
「過去一時間の減少数値はどれぐらい?」
『局部限定エントロピーの数値は、過去 58分間で 12%減少。』
「そんなはずないわ。まさか熱力学構造が変化したのかしら。量子計測プローブ※36を作動。フィルター測定機をチェックしてみて?」
『フィルター測定機、チェック完了。』
「エネルギーフラックス分解を 0.1マイクロダインに設定。高解像のエネルギースキャンを開始。…きっと異常作動してるセンサーがあるはずよ。コンピューター、全体をスキャンして測定機の誤作動の有無を確かめて?」
『測定機は正常に作動しています。現在再チェック中。』
「倍率計の配置※37にフィードバック偏差はないかしら。」
『ありません。』
「フィードバックの数値は?」
『フィードバック数値はゼロです。…再チェック完了。センサーは全て正常に作動。』
ダックスは立ち上がった。

司令室に通信が入る。『オドーより司令官。』
シスコ:「どうした、オドー。」
『セクション14 の退避は完了です。』
「ご苦労だった、チーフはどうだ。」
オブライエン:「今、終わりました。」
「シスコよりダックス。抑制フィールドの準備が整った。その間ラボから出ていてくれ。」
ターボリフトで来たダックス。「私ならここにいるわ。でもあれを破壊していいものかどうか。」
シスコ:「なぜだ。」
「内部に生命が存在していることを示す数値が出たの。」


※28: gravimetric microprobe

※29: スペクトル線形状分析 spectral line profile analysis

※30: 原型宇宙 protouniverse

※31: verteron
DS9第19話 "In the Hands of the Prophets" 「預言者の導き」など

※32: sub-nagus
吹き替えではこの個所だけ「ネーガス」と誤訳 (グランド・ネーガスは一人しかいません)

※33: No.112 "Never have sex with the boss's sister."
姉妹=「あねいもうと」

※34: Wormhole Junction
DS9 のこと。吹き替えではこの部分は訳出されていません

※35: ラチナムの階段 latinum stairway

※36: quantometer probe

※37: 倍率アレイ dynametric array

原型宇宙の構造図が表示されている。
ダックス:「熱力学の数値はノンランダム。パワー消費も不規則。間違いないわ、これは生命の兆候よ。」
キラ:「ちょっと待ってよ。一口に生命といったって、ほらいろいろあるじゃない。…単細胞の微生物だって生命だし、ハタネズミだってそうでしょ?」
「だけど高い知性をもつ生命体かもしれないわ?」
「そんなことありえないわよ。…だってこの宇宙はまだごく初期の段階なんでしょ?」
ベシア:「ありえなくはないよ。我々の宇宙とは時間の速さが違うとしたら、もうごく初期とはいえないかもしれない。もしかしたら既に何億、何兆年も経ったのかもしれない。」
オドー:「この数時間で種の進化が起こったという可能性もあるんですよ?」
「その通りだ。」
通信が入る。『オブライエンより司令官。』
シスコ:「どうした、チーフ。」

科学ラボに来ているオブライエン。「抑制フィールドの中に閉じこめるなら急がないと。あと 2分でまた膨張します。」
シスコ:『スタッフを引き上げさせてくれ。抑制フィールドは中止しろ。』

オブライエンは応えた。『了解。』
キラ:「中止してもまた問題を先送りするだけです。」
シスコ:「警戒警報を出してくれ。修理班を部署に待機させろ。」

原型宇宙は膨張し、科学ラボの抑制室が爆発した。
その余波は、DS9 外部にも火が噴き出すほどだ。原型宇宙からの光が見える。※38
コンピューターの報告が司令室に流れる。『船体の外殻が破損。レベル22、セクション14。』
シスコ:「シスコよりオブライエン、セクション14 を閉鎖。修理班を投入せよ。」
オブライエン:『了解。』
「次の膨張まで何時間だ。」
ダックス:「大体 5時間です。」
「どれぐらい膨張するんだ。」
「約300%。次の膨張でセクションが、明日にはステーションが消えるわ?」
ベシア:「外にビーム転送したら。少しは時間稼ぎになるでしょ。」
キラ:「破壊したら問題は解決するのよ? 遅くなればなるほど危険になるわ。悪いけど、こっちだって宇宙の命運がかかってるんだから。」
オドー:「…文明を破壊なんて許されません。大量虐殺になりますよ?」
「でもアリを踏みつぶすのと同じよ?」
「私はアリだって踏んだりしません。…自分とは関係ない命だからって殺していいことにはならない。」
「それじゃどうしろって言うの? …ほかに方法は?」
シスコ:「一時間考えて決める。待っててくれ。」

シスコ:『個人日誌、記載追加。一時間。一時間後に一つの文明の運命を決めなければならないとは。我々の生死もだ。思い出すのはボーグ人のことだ。ボーグ人が人類絶滅を企んだ時、私はその傲慢さを憎んだものだが、しかし「自分の住む宇宙を守るために、ほかの宇宙を犠牲にしようとすれば、それは同じことではないのか。」』
DS9 のドッキングリングからは、光が漏れている。
プロムナードを歩くシスコ。

シスコは部屋に入る。「ジェイク。」
ジェイク:「おかえり。今日は早いんだね。」
「顔が見たくなってな。」
「…あのこと聞いたの。」
「あのことって?」
「もうひどいや、チーフ! 約束したのに。」
「何か言いたいことがあるなら聞いてやるぞ?」
コンソールを切るジェイク。「…彼女が好きなんだ。」
シスコ:「…そうか。」
「彼女は僕の理想の女性なんだ。」
「可愛い女の子なんだろうな。」
「女の子じゃないよ、女性だよ。そう呼ばれるの嫌がるんだ。見下されてるみたいな気がするって。絶対今の境遇じゃ終わらないって。」
「今の境遇?」
「ダボ・ガールだよ。」
シスコは立ち上がった。「おい、ダボ・ガールと付き合ってるのか?」
ジェイク:「ちょっと待って、チーフから聞いてきたんじゃないの?」
「いいや、違うね。何て娘なんだ、年はいくつなんだ、ジェイク?」
「ああ…まずったな。でもパパに話しても、許してくれないって思ったから。」
「だからパパに黙っていたわけか?」
「じゃ許してくれるの?」
「もちろんダメだ! …ああ…マーダ※39だな? そうだろう。…お前が昆虫学※40を教えたあの娘だろ?」
「一度彼女に会ってみてよ。」 微笑むジェイク。
「ああ、ぜひ会ってみたいね。」
「今夜食事に呼んでもいい?」
「うん…今夜は無理だが、そのうちな。」
「どうもありがとう。すごくいい娘だよ?」 出ていくジェイク。
シスコはため息をついた。

ダックスは話しかけた。「何をそんなに見てるの?」
グラスの液体を見つめるアージン。「僕の将来ですよ。」
ダックス:「グラスを覗いて見える未来なんて当てにならないわよ?」
「やるんならさっさとやって下さいよ。下手に苦しまないように、一気にやっちゃって下さい。」
「あなたは私をわかってないのよ。候補生時代のファイルは調べたでしょうけど…それには合体前の私がどんな人間だったかは載ってないもの。…私はとにかく無口で、内気で、目立たない地味な女の子だった。成績は、優秀だったけど。人生の意味をわかっていなかったの。候補生としての生活だけで、現実の世界を全く知らなかった。そしてクルゾン・ダックスに会った。クルゾンは一目で私の欠点を見抜いたわ? クルゾンとの 2週間はほんとに辛かった。毎晩毎晩泣きながら眠ったものよ? …憎しみさえ覚えた。でも実習が終わってクルゾンが自分を候補生から外すように勧告したのを知って、私は生まれ変わったの。自分の意見を主張するようになり、訓練にも意欲をもって取り組んだ。悔しかったのよ。そのおかげで、合体の許可を認められたってわけ。」
「でも何でダックスと共生生物を。」
「クルゾンの死期が近いことを知って、私が自分から当局に希望したの。」
「だけど、クルゾンは拒否したでしょ。」
「いいえ? 今でもその理由はわからないけど、クルゾンは…ブラックユーモアのセンスに恵まれた人だったから。…私に譲るっていう皮肉が気に入ったのかもしれない。…ジャッジア・ダックスはクルゾン・ダックスじゃない。でも私はダックスだわ? 最近、そのことの意味がようやくわかってきたの。賭け事やレスリングも好きになってきたし…候補生にきついことも言わなくちゃならない。それが結局は候補生のためになることだから。」
「じゃあ、もう一度チャンスをくれるんですか?」
「チャンスをあげられるのはあなた自身なのよ? 人の期待に応えるためにあなたの人生を送ってはいけないの。お父様のためでも、指導教官のためでもない。自分のために自分がどういう人生を送りたいかを考えなくちゃ。」
シスコが近づく。「大尉。原型宇宙はワームホールへ戻す。すぐ準備できるか。」
ダックス:「…ヴァーテロン交点からの放射線を遮れるように抑制フィールドを強化しないと、ワームホールは通れないわ。2時間かかるわね。」
「すぐ始めてくれ。」
立ち上がるダックスは、アージンに言った。「第5レベルのフライトの腕を見せて?」
一緒にクワークの店を出ていくアージン。


※38: 実際に穴の空いた部分のモデルが作られました。特殊効果監修 Gary Hutzel が監督

※39: Mardah
DS9第30話 "Sanctuary" 「さまよえるスクリーア星人」より。DS9第52話 "The Abandoned" 「捨て子の秘密」で登場

※40: entomology

ランナバウトが、科学ラボの場所に近づいている。
司令官室を出るシスコ。「チーフ。」
オブライエン:「抑制フィールドの準備は整いました。で、まだヴァーテロン抵抗度をテストしてないんです。」
「しかし急がないと、あと 1時間でまた膨張してしまうぞ。」
「確かにこれ以上強いフィールドは作れませんから。テストしてもしなくても、関係ないといえば関係ないですが。」
「それならテストはパスだ。シスコより、リオグランデ。報告を。」
ダックス:『システムチェック完了。補助パワーはシールドへ。こちらの準備は全て OK よ?』 スクリーンに映る。
「転送機準備。」
オブライエン:「抑制フィールドにロックオン。」
「転送せよ。」

リオグランデの後部に、原型宇宙が転送されてくる。
ダックス:「チーフ、フェイズに異常が発生したようよ。」

操作するオブライエン。「待って下さい。エネルギー波動が転送機を混乱させてるんです。」

原型宇宙は実体化した。
ダックス:「転送完了。」

指示するオブライエン。「転送機のモードは固定に切り替えて。数値は安定。」
シスコ:「頼むぞ、ダックス。」
ダックス:『そーっと出てよ、アージン。』
アージン:『反動推進エンジン噴射。』

DS9 を離れるリオグランデ。
オブライエン:『抑制フィールドのエネルギー数値は安定。』
ダックス:「時速は 50キロにして?」
アージン:「了解。ワームホールまで 17秒※41です。」
「時速 50キロを維持。」

報告するオブライエン。「ワームホールまで後 10秒。」
キラ:「ニュートリノ活動の数値が高くなっています。」

ダックスは言った。「早いとこワームホールに返してきましょ? ダックスより司令室。あと 5秒で通信は切れます。じゃ行ってきます。」

スクリーンに、リオグランデがワームホールへ入るのが見えた。
キラ:「了解、リオグランデ。…預言者のお導きあれ。」

ワームホール内部を通るリオグランデ。
フォースフィールドが乱れている。
ダックス:「フィールドの安定度が 85%に低下。ヴァーテロン交点を通過するたびに、中のエネルギー体が共鳴してるわ?」
アージン:「20秒でここから出ます。」
「とても無理だわ。フィールドの安定度は 65%に低下。このまま前進するのは無理よ。」
「全エンジン停止。」
「安定度 38%、さらに低下。26%※42。」
「コンピューター、反動推進エンジンを 2秒間逆噴射。…エンジン停止。」
視認するダックス。「安定が戻ったわ。フィールドの安定度は 27%。…26%で低下が停止。」
ため息をつくアージン。
停止したままのリオグランデ。前には、たくさんの交点が広がっている。
アージン:「どうします?」
ダックス:「ここにはいられないわ。あと 42分で次の膨張が起こる。爆発してヴァーテロン交点を巻き込んだら、すさまじいことになるのは、火を見るより明らかよ。」
「でもこんなに低下したフィールドで、ヴァーテロン交点は通過できない。」
「それでも進むしかないのよ。」
「でもどうやって。…進めば、ヴァーテロン交点にぶつかるんですよ? もし今度ぶつかったら、もうフィールドはもちこたえられないから、大爆発だ。」
「ヴァーテロン交点を避けて飛ぶの。」
「まさか、ワームホールの中でマニュアルで飛べって言うんですか? 前代未聞ですよ。」
「あなたならできるわ?」
「ジャッジア。」
「私はレベル3 だけどあなたはレベル5 よ? そりゃ私だってできるものならやりますけど?」
「……ヴァーテロン数値を測定して下さい。交点から 50メートルは離れたい。」
「わかったわ。コンピューター、操縦室内部のスキャナーでヴァーテロン放射の数値を測定して? 超音波方向指示機を作動。ヴァーテロン放射のレベルは安全圏内だわ。」
「とりあえず、エンジンを一機だけ吹かして惰性で進みましょう。そうすればフィールドも、少しは長くもちます。」
「エンジン準備完了。」
「揺れ防止装置をオフにさせてもらいます。揺れますけど、この方が反応時間が稼げますんで。エンジン噴射。」
リオグランデはゆっくりと進み始めた。すぐにエンジンを切る。
ダックス:「速度は秒速 40メートル。」
コンピューター:『警告。抑制フィールドが 10%に低下。』
「ガンマ宇宙域まで 60秒。右舷に交点。コース 037、マーク 7。」 窓の外に広がる、球状の物体。
アージン:「了解、右舷エンジン噴射。」
リオグランデは交点を避ける。
コンピューター:『警告、抑制フィールドが崩壊しました。』
原型宇宙が露わになる。
アージン:「もうミスは許されないな。」
ダックス:「ガンマまで 45秒。左舷に交点。コース 030、マーク 51。」
「わかりました。」
また避けるリオグランデ。
ダックス:「ガンマまで 35秒。ヴァーテロンのレベルは安全圏。」
アージン:「ジャッジア、これは無理です。」 前は交点だらけだ。「とても通り抜けられない。」
「通過コースを探索。コースを変更、130、マーク 47。」
「了解。」
「センサーには真っ直ぐだって出てるわ?」
「ほんとに真っ直ぐ?」 目の前に近づく交点。
「コースを維持して!」
「でもぶつかります!」 ギリギリで抜けていく。「ああ、ここか。でも幅が 17メートルしかない。」
「リオグランデの幅は 14メートルよ、3メートル余裕があるじゃないの、大丈夫よ!」
進んでいくリオグランデ。
ダックス:「ヴァーテロンのレベルが危険域※43に。」
原型宇宙が反応し始めている。
ダックス:「ガンマまで後 5秒。」
抜けるリオグランデ。そのままガンマ宇宙域へ出た。
ダックス:「…このことはちゃーんと実習記録に書いといてあげるわ?」
うなずくアージン。
ダックス:「さあ、これを元あった場所に戻しましょう。※44
向かうリオグランデ。

ターボリフトを降りるアージン。「どうしても、言っておきたいことがあるんです。あなたにひどいこと言ってしまって、本当にすみませんでした。」
ダックス:「それまでのあなたは退屈ないい子ちゃんだったわ?」
「…僕は合体すれば、誰でも完璧を手に入れられるんだって思ってたんです。落ち着きと、何世代もの知恵と。」
「私は違ったわけね?」
笑うアージン。「いや僕の予想とは…あなたは全然違ってたから。」
ダックス:「私だって自分でそう思うもの。自分の中に何人もの人の記憶があるって、合体して初めてわかることよ? 怖いほどの欲望や、ほかの人の夢やあこがれが残ってる。誰にでも勧められることじゃないけど、あなたなら…大丈夫かもしれないわ? もう少ししたら。」
エアロックのドアを開けるアージン。「いい勉強になりました。」 握手した。
頬にキスするダックス。「がんばってね?」
アージン:「ありがとう。」 中へ入り、ドアは閉まった。
ダックスは、微笑んだ。「私はクルゾンじゃない。」


※41: 吹き替えでは「70秒」

※42: 吹き替えでは「28秒」

※43: redlining

※44: 吹き替えでは「任務は終わった、さあ戻りましょう」。原型宇宙を亜空間インターフェイズ・ポケットに戻すのが目的です

・感想
ダックスとトリル合体候補生のアージン、オブライエンたちを悩ませるカーデシア・ハタネズミ、そして原型宇宙という 3つのストーリーが描かれます。互いに微妙に関係しているのが上手いですね。ダックスのキャラクター性を描くトリル人ネタは今後も何度か扱われますが、特にジャッジアとクルゾンの関係は "Facets" 「クルゾンの秘密」で詳しくわかります。
実際に穴が空く DS9 やハタネズミなど、映像的な面白さもありますね。特に「ヴァーテロン交点」は、普段のワームホール内部とは全く違った印象を受けます。


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