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TNG エピソードガイド
第141話「運命の分かれ道」
Tapestry

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・イントロダクション
ジャケットを着るクラッシャー。「集中治療ユニット※1をスタンバイさせて。」
医療部員:「了解。」
「ドクター・サラー※2に言って、ここが空くまで患者を第3医療室に回してもらって。」
通信が入る。『第4転送室から医療室。間もなく収容します。』
クラッシャー:「了解。そこの場所を空けて。」
医療室に転送されてくるクルー。フェイザーを向けたままの者もいる。
医療部員:「よーし、急いでかかれ。こっちを頼む。」
クラッシャー:「何があったの。」
ライカー:「会議が終わった途端、ルナリア人※3に襲撃された。」
ウォーフがベッドに寝かせたのは、ピカードだった。胸に血が付いており、意識がない。
クラッシャー:「心臓停止。呼吸補助ユニット※4を接続して。」
操作する看護婦。
クラッシャー:「内出血してるわ。人工心臓のバイオレギュレーターが破壊されて、肝臓と脾臓が傷ついてるわ。…どんな武器で撃たれたの。」
ウォーフ:「恐らく、圧搾テトリオンビーム※5です。」
「イノプロヴァリンを 40cc。」 ハイポスプレーを打つクラッシャー。
高い音が響く。
クラッシャー:「大脳皮質の活動が低下してる。刺激チップを。」 額にセットする。「始めて!」
ショックに跳ねる、ピカードの身体。
クラッシャー:「もう一度!」
ピカードに変化はない。
クラッシャー:「呼吸器系統が機能停止。大脳皮質の活動さらに低下。駄目だわ。…もう一度電気ショックの用意を…」

光に包まれる。
ピカードは周りが真っ白な空間にいた。辺りを見渡す。
制服には血の跡が残っている。
誰かがいる。近づくピカード。
白い服を着た人物は、ピカードに手を伸ばした。握手する。
それは、Q※6 だった。「ここは魂の集まる場所。死後の世界。」


※1: stasis unit

※2: ドクター・セラー Dr. Selar
TNG第32話 "The Schizoid Man" 「コンピュータになった男」など

※3: Lenarians

※4: pulmomary support unit

※5: compressed tetryon beam
初言及。吹き替えでは「圧搾テリオンビーム」と聞こえます

※6: Q
(ジョン・デ・ランシー John de Lancie) DS9第7話 "Q-Less" 「超生命体“Q”」以来の登場。TNG では第132話 "True-Q" 「TRUE Q」以来。声:羽佐間道夫

・本編
ピカードは手を離した。「これはどういうことだ。」
Q:「言っただろ。お前は死んだ。ここは死後の世界だよ。私は神だ。」
笑うピカード。「冗談も大概にしろ。」
Q:「罰当たりめ。神の怒りを買わないよう口には気をつけろ。わかってはいないようだなあ。君は今から 5分前に死んだ。最期の祈りの儀式はドクター・クラッシャーが執り行った。」
「……嘘だ。…これは幻だ。…死後の世界を支配するのがお前なんかであるわけがないからな。この宇宙がそこまで腐っているとは思えん。」
「よくわかった。その目ではっきりした証拠を見なければ信じられないと言うのならば納得がゆくまで見せてやろう。」
突然、男性の声が響いた。「ジャン・リュック。だからあれほどアカデミーには行くなと反対しただろう。」
老人が立っていた。
ピカード:「父さん!」
モーリス・ピカード※7は続ける。「宇宙艦隊なんぞに入ったら、ろくな死に方をせんと言ったはずだ。だがそれを聞こうともせんで、その結果がこれだ。殺されて、寿命を全うもできないで…」
ピカード:「もういい、やめろ。」
Q:「何がだ?」
モーリス:「どうしてわしの言うことを聞こうとせんかった。お前のためを思えばこそ反対したのがわからんのか。」
ピカード:「Q、終わりにしろ!」
「全くお前という奴は、いつまで経っても親を悲しませるようなことばかりしおって。」
モーリスは消えた。
Q:「君に一言いいたい者はまだまだいるぞ。」
たくさんの声が聞こえてくる。
『何でなのジャン・リュック、あんまりだわ!』
『艦長、あの人たちを見捨てていくおつもりなんですか?』
『ほかにも方法があるはずです、艦長。考え直してください。』
『無茶です、このまま進めば衝突します!』
『もう駄目です、船が大破しました!』
Q:「わかるかね、君が今までに殺してきた人々の声だ。」
ピカード:「私が殺した、どういうことだ。」
「都合の悪いことは忘れてしまったか? 君がある行動を取ったためにあるいは取らなかったために、死んだ人たちだ。もし彼らに言っておきたい詫びの言葉でもあれば今ここで言っておけ。みんな気が立っているから…きちーんと詫びた方がいいぞう?」
「言っておくがお前のお遊びに付き合うつもりはない。」
「何を言う、君のためなのに。過去の過ちを悔い改めて魂の平安を得るチャンスだ。」
「お前が私の魂を心配してくれてるとはとても思えない。」
「まゆっくり時間を掛けて理解し合おう、これから長ーい付き合いになるのだから。」
「長い付き合いだ? いつまで。」
「永遠にだ。…さて人生を振り返って心残りや悔やまれることはなかったかね、あったら今のうちに言っておきたまえ。後になってグダグダ泣き言を言われても困るのでねえ。」
「悔やむとしたら、死んでもまたお前と顔をつきあわせなきゃならんことだ。」
「随分なことを言うなあ。君が死んだのは私のせいではない。これのせいだ。」
Q の手に、球状の装置が現れた。
胸を見るピカード。「…それは?」
Q:「君の人工心臓だ。こんなチャチな作り物でなく本物をもっていれば、もう少し長生きできたのにな。」 投げ渡す。「そもそも、何で心臓をなくしたんだ?」
「…ヘマをやって。」
「悔やんでるんだな?」
「あの頃は後悔することだらけだ。」
「それはそれは。」 手を挙げる Q。
叫び声が聞こえた。異星人と、古い制服※8を着た宇宙艦隊士官が争っている。
その若い士官は異星人を倒したが、また別の者が襲ってくる。
相手をしている時、更に異星人がやってきた。後ろから長いナイフを突き立てる。
士官の胸から飛び出る刃。士官はひざを立てた。
ナイフを見て、なぜか笑い出した。そして倒れる。
Q:「ノーシカン人※9 3人を相手にするとは利口じゃないなあ。」
若い自分※10に近づくピカード。「お前の言うとおりだな。」
「オマケに笑っていた。君らしくないな、ユーモアのセンスがある。後ろから刺されて笑えるとはねえ?」
「…あの頃の私は今とは違う。強気で思い上がって…自分を抑えるということを知らない、愚かな未熟者だった。」 目を開いたままの若い自分を見るピカード。「お前に似ていたよ。」
「今より面白い人間だったろうに。変わってしまったんだ。」
「背中から突き刺されて初めて、自分の愚かさを学んだよ。最初に挑発したのは私の方だった。まだ血の気が多くて。…浅はかだったんだなあ? あの頃もっと自制心があればこんな物もいらなかった。」 ピカードは人工心臓を見る。「…後※11になって人工心臓の破裂で死ぬこともなかっただろうに。」
「ではもし、もう一度やり直せるとしたら。」
「…同じ間違いはしない。」
ピカードはいきなり頬を叩かれた。

目の前に女性がいる。
古い制服姿のピカードは、頬を押さえた。


※7: Maurice Picard
(クライヴ・チャーチ Clive Church) 名前は今回は言及されていませんが、TNG第114話 "Conundrum" 「謎めいた記憶喪失」でのコンピューター画面などから。声はノーシカンその1 役の小室さんが兼任

※8: いわゆる ST2型。TNG第63話 "Yesterday's Enterprise" 「亡霊戦艦エンタープライズ'C'」でのエンタープライズ-C のクルーと比べると、首元のシャツが少し見えるようになっており、ベルトも復活しています。ピカードの制服の色分けは、もちろん白 (司令)

※9: Nausicaans
初登場。この出来事も含めて、TNG第43話 "Samaritan Snare" 「愚かなる欲望」より。ギリシャ神話に出てくる王女ナウシカア、そして日本のアニメ「風の谷のナウシカ」にちなんで

※10: 若いピカード Young Picard
(マーカス・ナッシュ Marcus Nash) 声優なし

※11: 幸い吹き替えでは訳出されていませんが、原語では「30年後」と言っています。これだと心臓を刺されたのが 2339年頃ということになりますが、実際は後のセリフにもあるように、ピカードがアカデミーを卒業したのは 2327年です

出ていく女性。
男女の笑い声が聞こえる。部屋に宇宙艦隊士官が 2人おり、手を叩いている。
女性:「最高、やったわね。」
男性:「今のはよかった。」
ピカード:「…コーリー。コーリー・ズエラー※12か。」
ズエラー:「何だよ…強くぶたれて記憶が飛んだか? ま自業自得だな。」
女性:「何て顔してんのよ、ジョニー※13。彼女にも見せたかったわ?」 手をピカードの顔に触れる。
ピカード:「…マルタ・ベタニディーズ※14。」
ベタニディーズ:「…大丈夫?」
「ああ、大丈夫。…ただちょっと…一瞬何が何だか、わからなくなってね?」
ズエラー:「哀れっぽく同情を引こうとしてんだよ。…そうだ、俺たちこれからボーンステル※15のカジノに行くんだけど、お前も来る?」
「いや。…後から遅れていくよ。」
制服を正すズエラー。
ベタニディーズ:「本当に何ともない?」
ピカード:「大丈夫だよ、心配ありがとう。」
ズエラー:「こいつのことだ、別のデートでもあるのさ。」
ベタニディーズ:「なーんだ、そういうこと。…全く懲りない人ねえ?」 2人は出ていった。
制服を見るピカード※16
Q が現れた。いつもの 24世紀の制服姿※17で、棒を持っている。「気をつけい! なっとらんぞ、ピカード少尉。」
反射的に姿勢を直したピカード。「…Q。」
Q:「Q 艦長と呼びたまえ。新入り君。」
「何の目的があってこんな幻を見せるんだ。」
「幻だなんてとんでもない、これは現実だ。君は 21歳に戻ったんだよ。アカデミーを出たての、フレッシュな新人にね。」
鏡の前に立つピカード。「そうは見えないぞ。」
Q:「ほかの者には、若者に見えている。」
「…では、さっきは私は死んだと言ったくせに…今は生きてるというのか?」
「これだから無知は困るよ。どうしてそんな風に生と死は相容れないものだと思い込んでいるんだ? 君から命を奪うことだって、もう一度与えるのだって…私の指先一つさ。」
「…仮にそれが本当だとして、ここに連れてきたわけは?」
チェス台の前に座る Q。「君は後悔していると言ったからさ。やり直すチャンスをあげようというんだ。」
ピカード:「やり直す? 過去を変えるということか。…Q、お前には時をさかのぼる力があるかもしれないが、過去に少しでも手を加えればその影響で歴史が変わってしまう。あるべき未来が変わってしまうんだ。」
「ピカード! 自分が歴史の上でそんなに大きな役割を果たしたとでも思っているのか。…君が何をしようとそれで連邦が崩壊するようなことにはならないさ。はっきり言って、君はそれほどの重要人物じゃない。」
「…何と言おうと、過去を変えるつもりはない。」
Q は棒でチェスのコマをなぎ払った。「わからん奴だ! 自分が何かしたために時の流れを変えてしまいそうで怖いと言うんだろ。…それなら一つ私が保証してやろう。決して他人に悪影響を与えることはない。君のせいで歴史が変わってしまうようなこともない。変わるのは君の人生だけだ。これで安心したか? …さて信じる信じないは君の自由だが、昔の過ちを帳消しにするチャンスだぞ? どうするかは君の選択に任せる。ここはどこかわかるか?」
ピカード:「…エアハート宇宙基地※18。アカデミーを卒業したばかりで、配属が決まるのを待っているところだ。」
「その通り。君がノーシカンとやり合って心臓を刺される事件は 2日後。やり直したいことがあれば 2日以内にやれ。それからもし今回心臓を刺される事態を避けられれば、ま無理だとは思うが? もしそうなれば君は現在に戻って、生き続けることができる。心臓も本物だ。」
「死なずに済むのか?」
「いつかは死ぬさ。少し先に延びるだけだ。」
「…ではもし何もせず、事件を避けられなければどうなる。」
「君は死んだまま、永遠に私と過ごすことになる。」
「…最高だな。」
「喜んでくれるか? ところで聞きたいんだが、ジョニー? …なぜさっきの美人は君に平手打ちを食わせたんだ。何かしたのか?」
「…彼女はコリーナ※19だ。あ、それで…今日彼女とデートの約束をしてたんだが、実はそのデートの後にもう一人、別の女性とも約束してて。…それがバレてね? もう一人は……ペニーだ。…で当然まあコリーナは、おかんむりだ。」
「君にしちゃやるじゃないか。意外だねえ。」
「…コンピューター、いま何時だ。」
コンピューター※20:『現在時刻、16時11分。』
「…今頃、ペニーが待ってるはずだ。バーでな?」
Q:「じゃあ、早く行け。」

薄暗いバー※21
ペニー:「どうしたの、今日は静かなのね。夕べの、あのおしゃべりな少尉さんは一体どこへ行っちゃったの、ん? 次から次へと、情熱的な言葉で誉めてくれたじゃない。」
ピカードも笑った。「いや、ちょっと考え事をしてただけさ。」
ペニー:「ふーん。考え事、忘れさせてあげましょうか?」
「…ペニー、その…ゆっくり話をしないかい? 君のことを何にも知らない。どこの出身で、何が好きなのか。フルネームも知らない。」
「…出身はリゲル※22で、ペニー・ミュロック※23っていうの。それから好きなのは制服を着た男。…おしゃべりはもう十分じゃない?」
ミュロックは口を近づけるが、ピカードは拒否した。
ミュロック:「どうして。一夜明けたら私が嫌いになったの?」
ピカード:「ペニー、そんなこと言わないでくれ。君は素敵だよ、落ち着いてるし。」
「…落ち着いてる? それっておばさんを誉める言葉みたい。」
「…君はおばさんなんかじゃないさ…。」
ミュロックはグラスを手に取り、ピカードの顔に酒をぶちまけた。「人をバカにしないでよ。」 歩いていく。
顔を拭くピカード。
カウンターの中で、ウェイター姿の Q がカップを磨いていた。「何をボーッとしている。」 布を渡す。「こんな女好きだとは知らなかったぞ。」
ピカード:「そんなことはない。若い時ってのは誰でも、理性じゃなくホルモンに操られて動くものだ。」
声が聞こえてきた。
Q:「あっちでお友達が楽しんでる。行ったらどうだ。」
ズエラーが、ビリヤードに似たゲームを楽しんでいる。感心する客の中に、ベタニディーズもいる。
Q:「失礼。」 立ち去る。
ピカードは立ち上がった。
ズエラーが気になる様子の、対戦相手の異星人※24
ベタニディーズ:「勝ってるわ。」
ピカード:「知ってる。」
「…デートじゃなかったの?」
「…いいや? 振られてきたよ。」
笑うベタニディーズ。「残念だったわね。」
ズエラーはボールを穴に沈め、笑った。去っていく相手。
ズエラー:「皆さん、ご声援どうもありがとう。」 金※25を手にする。
ベタニディーズ:「すごかったわ、いっそのこと宇宙艦隊辞めてドム・ジョット※26で身を立てたら?」
「こんなの何でもないよ、ちょっとした三角法計算と手首の動きだけ。君でもできる※27、ただのゲームさ。」
呼ぶ声。「おーい、地球人。」 ノーシカン※28だ。「俺と勝負するか、地球人。」


※12: コーティン・ズエラー Cortin Zweller
(ネッド・ヴォーン Ned Vaughn) 原語ではこの個所のみ本名のコーティンと呼んでいますが、吹き替えでは全て愛称のコーリー (Corey) です。制服の色分けは金 (機関・保安)。声:壇臣幸、TNG ヒューなど

※13: Johnny

※14: Marta Batanides
(J・C・ブランディ J.C. Brandy) 原語ではマルティ (Marty) と、愛称で呼んでいる個所があります。制服の色分けは青 (科学・医療)。声:吉田美保、DS9 ケイコなど

※15: ボーンステル娯楽施設 (Bonestell Recreational Facility) のことで、原語では後に Q が「ボーンステル施設」と言っています。初登場。これも TNG "Samaritan Snare" より。天体美術家のチェスリー・ボーンステル (Chesley Bonestell) にちなんで。U.S.S.ボーンステルという船も登場しました (DS9第1話 "Emissary, Part I" 「聖なる神殿の謎(前編)」)

※16: 後ろに宇宙船の模型が飾られており、TNG第89話 "First Contact" 「ファースト・コンタクト」でマルコリア・ワープ船として飾られていた小道具の使い回し

※17: 前回 DS9 に来た時は DS9型のに変えましたが、律儀に TNG型に戻しています

※18: Starbase Earhart
これも TNG "Samaritan Snare" より。由来となったアメリア・エアハートは、VOY第17話 "The 37's" 「ミッシング1937」に登場

※19: Corlina

※20: 声はクラッシャー役の一城さんが兼任

※21: 普段は使われない第10ステージで撮影

※22: ライジェル Rigel
これまで Mクラスとされたライジェル星系の惑星には、2号星、4号星、5号星、7号星、10号星、12号星があります

※23: Penny Muroc
(レイ・ノーマン Rae Norman) ペニーという名は、脚本のロナルド・ムーアがデートしたことのある女性にちなんで。声はクラッシャー役の一城さんが兼任

※24: この異星人を含め、DS9 のためにデザインされた異星人が何人もいます。その他アンティカ人とセレー人 (TNG第7話 "Lonely Among Us" 「姿なき宇宙人」) の姿も

※25: バーの食器類も、映画「十戒」(1956) で使われた小道具

※26: dom-jot
初登場

※27: 原語では「バローキー (barokie) だ」と言っています。ゲームの一種のようです

※28: ノーシカンその1 Nausicaan #1
(クリント・カーマイケル Clint Carmichael VOY第84話 "Prey" 「超獣生命体VS狩猟星人」のヒロージェン・ハンター (Hirogen Hunter) 役。ゲーム "Elite Force II" でも声の出演) 声:小室正幸、TNG/VOY アリドール、DS9 エディングトン、ルソット、VOY バーレー、ケオティカなど

応えるズエラー。「お誘いを受けちゃ無下に断るわけにもいかないしな?」
ノーシカン:「うーん。」 位置につく。
小声で話すピカード。「コーリー。やめた方がいい。」
ズエラー:「何で。」
「面倒なことになる。相手はノーシカンだ。負けたら怒り出して手がつけられなくなる。」
「俺もさ?」
「真面目に聞いてくれ。今ここで、奴と勝負しちゃ駄目だ。」
「何言ってんだ、お前。…始めるぞ。」
観客が集まる。「やれやれ。」
後ろに Q が座っていた。「あれが君の運命の相手か? ……まだ刺されてはいないようだな。」 背中を見る。
ピカード:「ガッカリさせて悪いな。」
笑う Q。
観客:「狙ってけよ、コーリー。よーしよし、いいぞ!」
Q:「コーリー君は健闘しているじゃないか。」
ピカード:「最後は負ける。イカサマをやられてな?」
「イカサマ? ノーシカンとは気が合いそうだ。」
「フン。このまま進んでいけば、コーリーは後でイカサマに気づいて…仕返しをしようとする。」
「それで君も片棒を担ぐわけか。親友に協力して。」
「その通りさ。……コーリーが勝負に勝てるよう、テーブルに仕掛けをした。」
「お前が? イカサマを。見直したぞ…」
「バカなことをした。…負けた、ノーシカンは黙って引っ込んではいなかった。仲間も一緒だ。私は、奴らにケンカを売られて…買ったのさ。」
「いい話じゃないか。胸にジンとくる。感動だ。」
ノーシカンが優勢に進めている。「ドム・ジョット、10 だ。」 また成功し、うなって笑う。
ため息をつくズエラー。
観客:「よしいけ!」
ノーシカン:「ドム・ジョット。さあ次はお前の打つ番だ。」 ズエラーに棒を投げた。

部屋※29に戻るピカード。
ズエラー:「今まで山ほどプレーしてきたけど、あんなに風に都合良く落ちる球は一度も見たことないね。」
ベタニディーズ:「じゃあイカサマ?」
「ああ多分ベルトかどこかにマグネット装置を隠し持ってて、球をコントロールしてたんだ。」
「ひどいわ?」
「…この御礼はしてやる。」
「何考えてるの?」
「…目には目を、歯に歯をだ。そうだろ? …テーブルに仕掛けをして、マグネットコントロールできなくしてやるのさ。」
ピカード:「そんなことして何になる。」
「艦隊の士官を舐めるとどうなるか教えてやるんだよ!」
「…相手を挑発するだけだ。フフ…ノーシカンは、怒らせると派手に暴れるぞ?」
「相手になってやるさ。」
「一人ならいいが、相手が仲間を連れてかかってきたらどうする。」
「決まってるさ、その時は頼もしい親友が俺を助けに来てくれるんだろ?」
「…コーリー、もっと賢明なやり方があるはずだろ。」
「お前いつからそんな逃げ腰になったんだ。」
「自分の立場を考えろ、もう士官候補生じゃない一人前だ。…今までより、一段レベルの高い人間になるべきじゃないか?」
ベタニディーズ:「負けたのはシャクだけど、でももうほっときましょうよ。」
無言で出ていくズエラー。
ベタニディーズ:「わかってくれるわよ。」
ピカード:「…だといいが。」
微笑むベタニディーズ。
ピカード:「…何だ?」
ベタニディーズ:「何でもない。ただ、いつもなら仕返しを言い出すのはあなたの方なのに。」
「フフン、そうだな。らしくないと、そう言いたいんだろ。」
「そうね? でもあなたはほんとは責任感のある人だって何となくわかってたわ?」
「年を取って変わっただけだよ。」
笑い、ピカードのバッジに触れるベタニディーズ。「胸のバッジの重さを感じるようになったってことかしら? ピカード少尉。ベタニディーズ少尉。変な響きね…。」
ピカード:「…慣れるには時間がかかるんだ。」
「ずっと一緒にいられたらいいのにね。その…私達 3人で。」
「ああ、そうだな。」 ドアチャイムに応えるピカード。「どうぞ。」
蝶ネクタイをつけた Q が、花束を持ってくる。「お花ですよう! 宛先はえーと『ジョン・ラック・ピカード』さん?」
ベタニディーズ:「……きっと、あなたのガールフレンドの一人からね? …そういうところはちっとも変わらないみたいね。」 出ていく。
Q:「もしかしていいムードのところを邪魔してしまったかな。」
ピカード:「…私達はそんなんじゃない。」
「もったいない、あんなに可愛いのに。」
「いい友人だ、それだけだよ。」
「それも心残りの一つか? なるほどねえ。若い頃というのは後悔することが多いものだな。」
「私とマルタとの友情に後悔する点などない。」
「だが本当は友情以上のものを望んでた。違うか。やり直すチャンスだぞ。」
「私に何をさせたい。」
「…いいことを教えてやろう、コーリーは君のアドバイスに従わなかったぞ。いま彼はボーンステルのカジノにいる。ゲームテーブルに細工をしてるよ。説得力が足りなかったようだな。」
すぐに部屋を出るピカード。Q は微笑む。

誰もいないバーのテーブルで、道具を使っているズエラー。
ピカードが来た。「コーリー。」
頭をテーブルにぶつけるズエラー。「脅かさないでくれよ、ジョニー。支配人が来たかと思ったじゃないか。」
ピカード:「ああ、すまん。」
「…まあいいや。マグナスパナ※30を取ってくれよ。」
「手伝いに来たんじゃない。君のためを思って止めに来たんだ。」
「…おふくろみたいなこと言うな。」
「ノーシカンといざこざを起こすと取り返しのつかないことになるかもしれん。ここはグッと、抑えるべきだ。」
「お前俺のおふくろか?」 立ち上がるズエラー。「それじゃママ、奴らにどうぞ好きなだけイカサマやって下さいって言やいいのか?」
「ふざけてる場合じゃない。」
「わかったよ、まだやることが残ってるんだ。手伝ってくれるなら、どうぞ? 手伝う気がないなら帰ってくれ。」
ズエラーの手を押さえるピカード。「やめろと言ってるんだ。」
ズエラー:「…力ずくでやめさせるか?」
「いいや? …誰かがドム・ジョットのテーブルに細工したとカジノの支配人に知らせる。」
「わかったよ。好きなようにしな。ピカード少尉。」
ズエラーは立ち去った。ため息をつくピカード。

話すピカード。「説得したんだがわかってもらえなかったよ。」
ベタニディーズは上着を脱いでいる。「でも止められたんだからいいじゃない。」
ピカード:「それはそうなんだが…ずいぶんムッとしてた。」
笑うベタニディーズ。「大丈夫よ、コーリーだから。明日にはケロッと忘れてるわ?」
ピカード:「君の言うとおりだといいんだがな。コーリーとはこの先もずっといい友人だったから。」
「えー?」
「…いやつまり、そうありたいってことさ。…マルタ。…さっきから何笑ってる。」
「だって、こんなあなたを見るのは初めてだもの? こんな風に、真剣な顔。」
「…いつもと違って見えるか?」
「…きっとまだ、艦隊の制服を着たあなたを見慣れてないせいね。…ううん、それだけじゃないわ。やっぱり変わった。変わったって言っても…全然悪い意味じゃないの。いい意味で変わったわ?」
「本当に?」
「ええ。以前より…素敵になった。…ジョニー? 今まで、私を女として…見たことあった?」
「…いつも見てたよ。…ずっと前から君を想っていた。」
「…どうして言ってくれなかったの?」
「わからない。…なぜ言わなかったのか。今では後悔してるよ。」
ピカードの顔に触れるベタニディーズ。「やっと言ってくれたのね。」
二人はキスを始めた。


※29: 窓の外に見える風景は、映画「2300年未来への旅」(1976) での街並みだそうです

※30: magnaspanner

制服が脱ぎ捨ててある。裸でベッドに入っているピカード。
後ろから耳に手が伸びる。目を覚ますピカードは、隣を見た。
そこには制服姿の Q がいた。「おはよう、ダーリン。」
驚き、毛布を引き上げるピカード。
Q:「…何をビクビクしてるんだ。何か、罪の意識か。」
ピカード:「罪の意識を感じることなどしてない。」
「そうか? 『ただの友人だ』とのたまったのは、どこの誰だったかな?」
「…今でも友人だ。」
「…それで? これからどうする?」
「…わからん。…だがもう運命は、変わってしまった。」
「…わかってるじゃないか。」 Q は消えた。

バーに入るピカード。
ベタニディーズの額にキスする。「おはよう。」
ベタニディーズ:「ジョニー。」
「……どうかした?」
「…何だか、夕べのことが信じられなくて。」
「マルタ。」 ピカードは手を握る。「夕べのことは真剣だ、後悔してない。君も後悔しないで欲しい。」
ベタニディーズは手を離した。「私、わからないわ。ずっといい友達でやってきたのに、それが…友情が壊れてしまいそうで怖いの。」
ピカード:「…じゃあ、昨日のことは…お互いなかったと思うようにして、これからは…」
「できそうにないわ。…でも明日にはみんな別れ別れね?」 涙をぬぐうベタニディーズ。「…今夜は最後だから、街へ繰り出して宇宙に出る前祝いをやろうって言ってたわよね。」
「もし君が辛いなら、無理して付き合わなくてもいいんだよ?」
「…約束だもの。行くわ。」 出ていくベタニディーズ。
Q:「がんばってるね。」 またウェイター姿だ。「今のところの進展は、女に引っぱたかれて、次は酒をぶっかけられ親友 2人も遠ざかった。まこんなもんかな? 後やるべきことは、心臓を守ることだな。」
手に持っていた野菜をかじる Q。

バーのテーブルで、無言のまま座っている 3人。
ピカード:「アジャックス※31に決まってよかったな。ナース艦長※32は素晴らしい人だと聞いてるし。」
ズエラー:「…らしいな。」
ベタニディーズはピカードから目をそらした。
ピカード:「じゃ、27年の同期に乾杯。」
ノーシカンたち※33がやってきた。
ズエラーを見つける。「ドム・ジョットをやるか地球人。…雪辱戦をしたいだろ。何ならハンデをくれてやっても構わんぞ。」
ピカード:「受ける気はないね。」
ノーシカン:「…怖じ気づいたらしいぜ。ウンダーリ※34、臆病者め。」 仲間と笑う。
ズエラー:「いま何ってった。」
「臆病者。宇宙艦隊の奴らは口じゃデカいこと言うが、グランバ※35のない奴ばかりだ。」
立ち上がるズエラー。「試してみたらどうだ。」
ピカード:「コーリー、バカな真似はよせ。ドム・ジョットの相手ならほかにいくらでもいるだろう。そっちはそっちで勝手にやってくれ。」
ノーシカン:「じゃあその女と遊ぶかなあ。楽しませてやるぜ?」
ズエラーはノーシカンを殴ろうとしたが、ピカードが押しやった。テーブルに倒れ込むズエラー。
笑うノーシカン。「宇宙艦隊の仲間割れか、笑っちまうねえ。」 歩いていった。
起き上がったズエラー。
ピカード:「すまなかった、向こうが武器に手をかけたんで。」
ズエラー:「お前は俺の知ってるジョニーじゃない。もう親友とは思わないぞ。」 立ち去る。
ベタニディーズもだ。「…さよなら、ジョニー。」
Q が近くにいた。「これで君の思い通りだ。上手くいったな。」

ウォーフは尋ねた。「呼んだか?」
青い制服のピカードが、エンタープライズのブリッジに立っていた。
ウォーフ:「私を呼んだんじゃないのか。」
ピカード:「…ウォーフか。」
ピカードの持っていたパッドを見るウォーフ。「これは担当が違う。機関部のラフォージ少佐のところへ持っていけ。」
ピカードは制服に気づく。「どういうことだ。」
ウォーフ:「どうかしたのか。」
「わからん。…教えてくれ、私の階級と役職は。」
「何を言ってる。階級は中尉、天体物理学のアシスタントだ。」
データ:「気分でも悪いのか?」
ピカード:「…この船の艦長は?」
「…トーマス・ハロウェイ大佐※36だ。…医療室まで、送っていこうか?」
「…いやあ大丈夫、独りで行けますから。失礼、少佐。」

医療室に入るピカード。「ビヴァリー、診てくれないか。何だか自分が…」
Q がいた。「あらあらあら。」 20世紀風の医者の格好だ。「どこが悪いのか言ってごらんなさい? ピカード中尉。」
ピカード:「何をしたんだ。」
「最初に約束した通りさ。現在に戻してやったんだ。」
「これは私のいた現在じゃない。何も変わらないと言ったじゃないか。」
「言ったとも、何一つ変わっていないさ。…君以外はね。これは君が選んだ道だぞ? 若い頃の自分を変えたかったんだろ? そして変えた。その結果の君があるわけだ。さぞかし満足だろう? 胸には作り物でない本物の心臓。危険とは縁のない平和な人生。毎日実験と、分析を繰り返すだけ。人の下で働いていれば、責任も少ない。」 Q は消えた。
ため息をつくピカード。


※31: U.S.S.エイジャックス U.S.S. Ajax
アポロ級、NCC-11574。TNG第6話 "Where No One Has Gone Before" 「宇宙の果てから来た男」より。吹き替えでは「アジャックス

※32: Captain Narth

※33: セリフのない 2人は、スタントマンのトム・モーガ (Tom Morga、TNG第136話 "Chain of Command, Part I" 「戦闘種族カーデシア星人(前編)」のグリン・コラック (Glinn Corak)、DS9第48話 "The Search, Part II" 「ドミニオンの野望(後編)」のジェムハダー兵士 (Jem'Hadar Soldier)、第81話 "The Sword of Kahless" 「カーレスの剣」の Soto、VOY第30話 "Alliances" 「平和協定」のミニス (Minnis)、映画 TMP "The Motion Picture" 「スター・トレック」のクリンゴン人クルー (Klingon crewman)、ST6 "The Undiscovered Country" 「未知の世界」の野獣 (The Brute) 役、VOY のスタント代役、映画 ST2 "The Wrath of Khan" 「カーンの逆襲」、ST3 "The Search for Spock" 「ミスター・スポックを探せ!」、ST5 "The Final Frontier" 「新たなる未知へ」、第10作 "Star Trek Nemesis" 「ネメシス/S.T.X」のスタント、ENT第63話 "Carpenter Street" にも出演) と、ニック・ディミトリ (Nick Dimitri、TNG第134話 "A Fistful of Datas" 「ホロデッキ・イン・ザ・ウエスト」の子分 (Henchman)、第175話 "Emergence" 「知的生命体“エンタープライズ”の Taxista 役) が演じています

※34: undari
吹き替えでは訳出されていません

※35: guramba

※36: トーマス・ハロウェイ艦長 Captain Thomas Halloway
当初は TNG第136・137話 "Chain of Command" 「戦闘種族カーデシア星人」に登場した、エドワード・ジェリコにする予定でした

テン・フォワードに入るピカード。
ライカーとトロイがいるテーブルに近づく。「失礼。お邪魔でしょうか。」
ライカー:「いや。座れよ。」
「すいません。お話がしたいんです、今後の私の仕事についてですが。」
「構わんよ? …ジャン・リュックだったな。」
トロイ:「外しましょうか。」
ピカード:「いいえ、いて下さい。カウンセラーの意見も聞きたいんです。お二人とも、率直に忌憚のない意見を言っていただきたいのですが。私に対する評価は、どの程度のものですか。」
「…そうねえ、あなたの業績記録は常に優秀よ? 仕事は細かいし、熱心だし。」
ライカー:「真面目で、信頼できて……きっちりしてる。」
ピカード:「そうですか。それでは、仮に…もし私が今よりもっと責任のある仕事をこなす自信があると言ったら、どう思われます。」
「そういう話なら次の査定の時に話そう。」
「そこを何とか今考えていただきたい。ああできることなら、私は…天文物理学の調査以外の仕事がしたいんです。例えば、機関部とか保安部とか。もっとリーダーシップを発揮できる仕事を。」
「率直に、言ってだな…それは難しいものがある。」
「なぜです。」
トロイ:「やっぱり、ここでそういう話をするのはどうかと思う…」
「私には重大なことなんです。自信はあるんです、チャンスを下さい。」
「…そこがあなたの問題だったのよ。これまでだって何度も、ステップアップのチャンスはあったはずよ? なのにあなたは一度も行動を起こそうとしなかったじゃない。」
「…中佐もカウンセラーと同じ意見ですか?」
ライカー:「カウンセラーの言ってることは正しい。上を目指すなら、人より抜きん出たところを見せて実力をアピールしなければ駄目だ。」
「…わかります。」
「だが、君は優秀だし大切なクルーだ。」
「だが人より抜きん出てもいないんでしょ。」
「…ラフォージ少佐と相談して、配置換えを検討してみよう。」
「昇進の道は?」
「それは…様子を見て。」 微笑むライカー。
データの通信が入る。『上級士官は、全員作戦室に集合して下さい。』
思わず身体が反応するピカード。
ライカー:「了解。」
トロイ:「また今度よく話し合いましょう?」 2人は出ていった。
ため息をつくピカード。「もう十分だ、Q。…よーくわかった。…Q。」
通信だ。『ラフォージからピカード中尉。分析結果はまだか。早く持ってきてくれ。』
ピカードは応える。「今すぐ行きます。」

クルーに道を開け、独りターボリフトに入るピカード。「機関室へ。…そこにいるんだろ、Q。一生うだつの上がらないまま、単調な仕事を繰り返す私の姿を見て笑っているんだろう…。」

ターボリフトが到着すると、また白い空間が広がっていた。
再び白い服の Q。「私は人生をやり直すチャンスを与えてやったんだぞ。普通ならできないことだ。それなのに君ときたら、文句を言うだけだ!」
ピカード:「こんな人間として生きるのは耐えられん! 情熱のない人間に成り下がって。…これは私じゃない。元に戻してくれ!」
「どうしてだ。君が望んだ姿だぞ。若い頃と違って思い上がったところもなく、自分を抑えることを知っている。君がなりたかったジャン・リュック・ピカードはノーシカンとの戦いを避けて通り、君の歩んだ道とはまるで違う人生を送った。」 近づいてくる Q。「死の危険と直面することもなく、命のはかなさを実感することもない。だから命あるこの一瞬一瞬がどんなに大切なものかなど考えもせずに、人生をただ成りゆきに任せてのらりくらりと受け身のまま過ごし、これといった目的もなく…ただ与えられた仕事だけをこなす。目の前にチャンスがぶら下がっていても手を伸ばそうともしない。ミリカ3号星※37で大使を救出する活躍もしなければ、スターゲイザーの艦長が殺されたときに代わって指揮を執ることもない。君は誰からも期待されていないのさ。ただひたすら、危険を避けて通り…最期まで、一度も、注目を浴びることなく終わっていく。」
また離れていく Q。
ピカード:「…よくわかった。確かに人生をやり直すチャンスに飛びついたのは私だ。だが間違いだった。今わかった。」
Q は振り返る。「何か頼み事でもしたいようだな。」
ピカード:「人生を全て元に戻したい。もう一度チャンスをくれないか。」
「医療室で死ぬことになるぞ? それでいいのか。」
「いま見た人生を送るくらいならば、以前の自分のまま死にたい。」
ピカードを見る Q。

ピカードはボーンステル娯楽施設のカジノにいた。
ノーシカン:「臆病者。宇宙艦隊の奴らは口じゃデカいこと言うが、グランバのない奴ばかりだ。」
近づくピカード。「何だって?」
ノーシカン:「聞こえなかったか? 臆病者だって言ったんだよ。」
「確かにそう聞こえた。」
ピカードは振り向きざまに、ノーシカンを殴った。ズエラーもケンカを始める。
向かってきたノーシカンに抵抗するベタニディーズ。
だが倒された。
ズエラーもだ。
ノーシカンの一人が、長いナイフを取りだした。
ピカードの後ろからナイフを突き立てる。
ピカードの胸から飛び出る刃。ピカードはナイフを見て、笑い始めた。

ベッドで寝たまま、笑っているピカード。制服は赤色に戻り、胸には血の跡が残る。
クラッシャー:「生命反応が安定してきたわ。艦長? ジャン・リュック。」
目を開けるピカード。
クラッシャー:「気がつきました? もう大丈夫、安心して下さい。」
ピカードはまだ、笑い続けた。

観察ラウンジ。
ピカード:「未だによくわからないんだ。…あれは夢だったのか。…それとも Q の仕掛けたイタズラか。」
ライカー:「生死の境をさまよった人間が奇妙な体験をした話はよく聞きますが、そこまで細かい内容だと。」
「…しかし、奴の仕業だとするとどうもしっくりこない点がある。最後にもう一度チャンスをくれたことだ。奴があんなに良心的なはずはない。…だがもし Q なら…礼を言わなければならんな。」
「…なぜです、ひどい目に遭わされたのに。」
「…私の若い頃は自慢のできるものじゃない。だが、そこを切り取ったら…人生というタペストリー全体がバラバラにほどけてしまう。過去を含めて、今の自分があるんだと…そのことを Q に教わったような気がするよ。」
笑うライカー。「…目に浮かびますねえ。…自分の倍ぐらいもあるノーシカンを相手に、無鉄砲に食ってかかるあなたが。…その頃のジャン・リュック・ピカードを見たかったな。」
ピカード:「いや正直言うとだな? …ノーシカンどもを相手にやり合ったのはあれが初めてじゃないんだ。」
「ほんとに?」
「ああ、忘れもしない。…2年生の時にな? 訓練でモリキン7号星※38に行ったんだが、あの星のそばの小惑星にはノーシカンの前哨基地があってな。…いつだったか…」
ピカードは、話し続ける。


※37: Milika III

※38: Morikin VII
吹き替えでは「モリン7号星」と聞こえます

・感想など
Q の TNG 7度目の登場となる、とても哲学的・啓発的な名作。こちらにも「鶏口となるも牛後となるなかれ」ということわざがありますね。もっともエンタープライズの艦長は鶏口というより「牛口」でしょうが…。天体物理学の助手が駄目な仕事というわけではなく、人生を無為に過ごすことが問題だと解釈したいです。
ノーシカン事件については、第2シーズンの "Samaritan Snare" 「愚かなる欲望」でのセリフそのままに再現されていますね。大学を中退して脚本家になったムーアは、自伝的な部分がある「クリスマス・キャロル」だと語っています。カーク船長がアカデミー時代は本の虫だったのに対し、「ジョニー」は正反対だという設定も面白いですね。Q のエピソードで「Q」が原題に含まれないのは、パイロット版以来となります。


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