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TNG エピソードガイド
第29話「ホログラムデッキの反逆者」
Elementary, Dear Data

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・イントロダクション
※1静止しているエンタープライズ。
『航星日誌、宇宙暦 42286.3。我々は、座標 3629-584 のランデブー地点に到着した。宇宙艦隊のヴィクトリー※2が、ここに達するまでまだ 3日間ある。準備は既に整った。あとはここで、待つばかりだ。』
ターボリフトを出たデータは、廊下を歩く。

機関部員は尋ねた。「ご用ですか?」
データ:「トラブルなのか? チーフエンジニアから『緊急』呼び出しを受けた。」
「あ…ラフォージ大尉※3なら、あちらです。ヴィクトリー※4のそばに。」 微笑む機関部員。
近づくデータ。「ジョーディ、君のアシスタントが不可解なことを言っていたぞ? …ヴィクトリー※4とのランデブーまでは、まだ後 3日残されている。なのに…」
ラフォージ:「もうここに来てるみたいに言ったんだろ?」
「うん。」
「宇宙艦隊の船じゃない。」 そばに、巨大な帆船の模型が置いてあった。「そのオリジナル。…ヴィクトリーのジンバタ艦長※5に贈ろうと思ってね。」
「ああ、これは珍しいな。」
「前、あの船に乗ってた。艦長は、こっちのヴィクトリー※6に御執心でね。風をはらむ帆。それでこそ船ってもんだよな?」
「ジョーディ? しかし君の専門は、反物質推進、ワープ航法といったような…」
「だからこそあこがれるんじゃないか、だろ? 手に入らないものを欲しがる。それが人間だ。昔への郷愁さ。まとにかく帆綱を触ってるとまるで大海原で、セールを操って…」
「…これは立体映像ではないのか?」
「こういうのは自分の手でコツコツ作るから楽しいんだよ。」
「フン。ジョーディ。…『緊急』の用とはこのことか。」
「ああ、それそれ。まだランデブーまで何日かあるだろ? だから付き合うよ、ワトソン役。嬉しいかい? データのためだ。」
「私のため?」
「こっちの趣味は今聞いてもらったし、そちらにも協力してあげようかと思ってね?」
データが受け取った包みの中には、パイプが入っていた。「ああ、そうだな。それが公平というものだ。」 くわえる。
ラフォージ:「クランシー※7、ちょっと見ててくれ。誰もあれに触らせるな?」
先ほどの機関部員。「どちらに行かれるんです?」
データ:「用があれば、ベーカー街 221番地へ来てくれたまえ。」
「少佐?」
二人の姿は、すでに機関室から消えていた。


※1: このエピソードは 1989年度エミー賞において、美術監督賞および衣装デザイン賞にノミネートされました

※2: U.S.S.ヴィクトリー U.S.S.Victory
コンステレーション級、NCC-9754。初登場。TNG第9話 "The Battle" 「復讐のフェレンギ星人」に登場した、同級のスターゲイザーの再利用。吹き替えでは「ヴィクトリー

※3: 吹き替えでは全て「尉」。第2シーズンではラフォージは大尉に昇進しています

※4: 吹き替えでは「ヴィクトリー

※5: Captain Zimbata

※6: Victory
H.M.S.ヴィクトリー。この模型は、メイジェル・バレット夫人の家にある、ジーン・ロッデンベリーの書斎に飾られています

※7: クランシー機関助手 Assitant Engineer Clancy
(アン・エリザベス・ラムゼイ Anne Elizabeth Ramsay ドラマ「あなたにムチュー」(1992〜97) に出演) 初登場。声:小口久仁子

・本編
着替えたデータは、パネルに触れた。「コンピューター、アーサー・コナン・ドイル氏※8のミステリーから適当なものを選んでくれ。私がシャーロック・ホームズ※9。ラフォージ大尉が、ジョン・ワトソン博士を演じる。」
ラフォージも当時の服装だ。
コンピューター※10:『プログラム完了、入室してください。』
ホロデッキのドアが開くと、中世の部屋が広がっていた。
データ:「見事だ。」
ラフォージ:「細かいとこまで完璧だなあ。」
帽子を置くラフォージ。ドアが閉まると、映像で消えて窓の一部になった。
ラフォージ:「事件に関係ある物なんだろ? ここにある物は。」
データ:「ホームズは論理の人だ。無意味な物は品物であれ推理であれ全て排除する。」
「これは?」
ラフォージから小さな物を受け取るデータ。「エメラルドのネクタイピン。ブルース・パーティントン事件を解決し、ヴィクトリア女王から賜った物だ。」
微笑むラフォージ。
データは並んだ本の背表紙に、パイプの先を押しつけていく。一冊の本を手にした。「あ、何とホイティッカー年鑑だ。『恐怖の谷事件』で謎の暗号を解くヒントとなった本だ。…ウイルヘルム・ゴッツリッヒ・シギスモンド・ホン・オルムスティンの嗅ぎタバコ入れだ。」
ラフォージ:「データはそうやって、ご褒美にいろんな物をもらう役。こっちは何すりゃいい?」
「ワトソン博士の役割は、私の言動を全て文字にして記録することだ。」
「え?」
「のちに出版するためだ。…そしてこれが有名なヴァイオリン。彼がトッテナム・コート通りの質屋から、55シリングで購入した物だ。良い投資だったと、ホームズは大満足した。」 弾き始めるデータ。
ラフォージはノートを手にし、書く真似をする。「天才の手にかかれば、ヴァイオリンには不思議な力が宿る。人の魂を天国の高みまで (いざな) ったかと思えば? 次には、絶望の淵へと突き落とす。そして? …データ? すごいな、いつそんなもの弾けるようになったんだ?」
データ:「役に浸りきっているだけのことだよ、ワトソン君。」
咳払いし、また書く振りをするラフォージ。「そして我が親友シャーロック・ホームズの繊細な腕にいだかれるとき、ヴァイオリンはたちまち単なる道具としての存在を超え、心の内なる…」
データ:「ワトソン君、間もなく御客が来るぞ。」
「…何でそんなことわかる。」
ドアをノックする音。
データ:「文句を言わずに出てくれよ。警部を待たせてはよろしくない。」
ラフォージ:「警部って誰のこと。」
「…もちろんレストレードだ。」
声が聞こえる。「ホームズ、いないのか?」 ドアを開けると、男が入ってきた。「あんたがいてくれて助かった。とてつもない窮地に陥ってね。」
データ:「警部は常に、狼狽という言葉と共にやってくるなあ。…だがそれと同時発生的に、私も女王陛下にお仕えする機会を得ることができる。」
ラフォージ:「データ。ホームズってそんな話し方。」
「もちろんだとも?」
レストレード※11:「頼むから力を貸してくれ、ホームズ。…こちらの紳士は、さる外国政府の密偵でいらっしゃる。…偶然とはいえ悪質な犯罪の犠牲となられた。」 隣りに立っている。
ライトをいじくるラフォージ。「何だよ。まだ電気も発明されてないのか。」
レストレード:「ハ? 何だって?」
舌を鳴らすデータ。「ワトソン。…続けてくれたまえ、警部。」
レストレード:「簡単に説明するとだ、こちらを身分ある御方と見るや金品を奪い取ろうとジプシーどもが周りに群がりおって、ポケットの中の物を洗いざらい持ち去り重要な外交書類のある写真まで奪っていったのだ。」
データはおもむろに紳士に近づき、スーツの内側を引き裂いた。写真が入っている。
レストレード:「何と、盗まれたはずの写真が!」
データ:「警部! このボヘミア王の密偵、実は国王の忠実な臣下を装う反逆者なのだ。…その写真に写っているのはボヘミア国王とその愛人、これから脅迫に使う腹だ。さらに推理を進めてみれば結論は君にもすぐに…」
ラフォージ:「コンピューター。プログラム停止だ※12。…出るぞ。」
ドアが開いた。
データ:「ジョーディ? どこへ行くんだ?」
ラフォージ:「一抜けた!」 出ていく。
「でも…でも、ジョーディ! これから事件の謎を解き明かして説明しようと思っていたのに…」 追いかけるデータ。

テン・フォワード。
ラフォージ:「データ、我々がホロデッキへ行った理由は何だ?」
データ:「ホームズのミステリーを解くこと。」
「そう、だがお前は答えを全部覚えてる。…誰かが事件だ! って言った途端にもう謎を解いてる、どこがミステリーだ。謎解きは過程が面白い。あれじゃ、意味ないだろ。…フン。…別に文句言ってんじゃないんだぜ、ただ一緒にホロデッキに行ける時間をやっと見つけてわざわざ衣装をつけ、さて役になりきるぞと思ったところでお前はいきなりラストシーンまで飛んじまうんだ。いいか? あそこで俺がやりたかったのは、謎解きだ。」
「うーん…では、少し間をおいてから謎を明かそうか?」
「ああ、違うんだよなあ。あのプログラムのいいとこはな、謎を解こうといろいろ頭をひねるとこなんだぜ?」
「…それが我々のやっていたことではないのか?」
笑うポラスキー。「言うだけ無駄よ、ラフォージ大尉。」 そばのテーブルに座っていた。「それじゃコンピューターに計算するなって言ってるのとおんなじことだわ?」
データ:「私はあなたとどう異なります? あなたも、命令通りに行動するでしょ?」
「私は命令されても答えを見つけられずに悩むことがよくあるの。」
ラフォージ:「そうお前はな、いつも答えを知ってる。」
「…負ける可能性があってこそ勝利の喜びがあるのよ。絶対に勝つとわかってるなら闘う意味がないわ。」
データ:「…つまり失敗にも、意義があるということですか?」
「そうよ? 失敗は成功の元と言うじゃないの。私達人間は苦もなく成功したときより、手痛く失敗したときの方が何倍も学ぶことが多いのよ。…でもあなたはただ記憶するだけ。それを聞かれるままに答えるだけなのよ?」
ラフォージ:「言い過ぎだよ、データは演繹的思考が得意です。」
「ええ、ホームズもそうよ? …でもかの名探偵は人間の心の機微が、わかるわ。善良な人も、悪になりうるの。突然にね? …そこのところが、データには欠けている。」
「…それをもちだしちゃ可哀想ですよ。」
「あらでも事実だと思わない? 読んでないホームズ作品の事件はあなたのお友達絶対解決できないわよ。」
データ:「全部読みました。」
「ほーらこうでしょ…」
ラフォージ:「コンピューターに、ホームズタイプのミステリーを作らせましょう。誰も、まだ答えを知らないやつだ。」
「それじゃ絶対彼には解けないわ。」
データ:「挑戦を受けて立ちます、ドクター。」
ラフォージ:「よーしいいぞ、データ。」
「ホロデッキに戻り、私を打ち負かすプログラムを作らせます。それではマダム、証人としていらして下さい。」
ポラスキー:「行かせてもらいましょ?」
「行くぞ、ワトソン!」 パイプを口にしたデータ。
ポラスキーも立ち上がる。


※8: アーサー・コナン・ドイル卿 Sir Authur Conan Doyle
1859〜1930年

※9: Sherlock Holmes
TNG第7話 "Lonely Among Us" 「姿なき宇宙人」より

※10: 声:磯辺万沙子

※11: レストレード警部 Inspector Lestrade
(アラン・シアマン Alan Shearman) 声:峰恵研

※12: プログラムを止めたのに、暖炉の火が動いているのは変だという指摘があります

廊下。
データはパネルに触れた。「よし。コンピューターに、ホームズタイプの謎解きを作るよう指示をした。コナン・ドイル氏著作の作品とは違うものをね。」
ラフォージ:「つまりは、コンピューターが作る新しいミステリーだな?」
「その通りだ。条件は満たしていますね。」
ドレスを着たポラスキーは振り向いた。「見てみましょ。」
顔を見合わせるデータとラフォージ。
コンピューター:『プログラム完了、入室して下さい。』
街並みが広がっている。「新聞だよー、新聞はいらないかー。ゴシップに政治、はーい読んでってー。」
馬車が通る。「どいたどいた、道を開けてくれ。ほーら危ないぞ、馬車が通るぞー。」「はーい、パイだよー…」「新聞はいらないかー…」
ポラスキー:「これはすごいわね。」
ラフォージ:「ホロデッキは初めてでしたっけ?」
「いえでも、これほど込み入ったものじゃなかったわ。ロンドンみたいな巨大な都市をどうやってまるごとこの中に造り出すの?」
データ:「広さまではもちろん変えられません。ですから遠距離地点に見える映像は、ホロデッキの壁に投影されています。」
ラフォージ:「完璧な映像なんで、触ってみなけりゃ絶対壁とはわかりませんけどね。全部、コンピューター制御なんです。さてとホームズ、どこへ行く? 劇場か? パブか? それとも演奏会か?」
声が聞こえた。「おい、待て! つかまえてくれー!」
子供が 3人の間を抜けて走っていく。
パイ屋※13:「パイを盗った、つかまえてくれー! 待ちやがれ、こいつめー…」
データ:「待て! あれは策略。こっちだ。」
ポラスキーをエスコートするラフォージ。
データは一軒の家の前に来た。
ラフォージ:「ここに何があるんだ?」
ポラスキー:「どういうこと、教えて。」
データ:「あの少年はおとりだ。本当の犯罪はここで起こる。そして被害者となるのはあの男だ!」 向こうから歩いてくる人物がいる。「ジャベズ・ウィルソン氏。赤毛連盟の雇われ人。犯罪者たちのカモに選ばれた。…あれに見覚えがある。赤毛連盟本部。そしてこの呼び鈴のロープだ。容易に推理できよう。ジャベズ・ウィルソンはここで不快極まる、世にも恐ろしいやり方で殺されることになる。これだ!」
ロープを引っ張るとベルが鳴り、そして一匹のヘビが落ちてきた。驚くラフォージとポラスキー。
ポラスキー:「…インチキよ! これは推理じゃないわ? ホームズの赤毛連盟とまだらの紐のヘビをくっつけただけじゃないの。」
データ:「推理です。一般事象から個々へ、それが演繹法の定義ではないのですか? それがホームズの推理ではないのですか?」
「これはただの応用だわ。どう、これでわかったでしょ? 彼は記憶している問題しか解けないの。インスピレーションや、独創的発想。それがホームズの力の本質でしょ? データにないのはそこなのよ。…あなたの知識量には確かに脱帽よ? でも、見たことも聞いたこともない謎に出会ったらあなたの回路はショートするんじゃない? …大切なのは、ひらめき※14。」
ラフォージ:「いや、データがどこまでやれるのか試してみましょうよ。」 データを呼ぶ。
3人の様子を、物陰に隠れて見ている男がいる。
ラフォージ:「コンピューター、アーチ※15。」
アーチ状の機械が出現した。
ポラスキー:「本気なの? 今ならまだメンツも保てるけど、もう一度やったら今度は丸潰れよ?」
男は不思議そうに見つめる。
ラフォージ:「コンピューター、今のプログラムは無効にする。それでだ、データの力を試すプログラムにする。」
ポラスキー:「彼が全く知らない事件が起こるんでなきゃダメよ?」
「コンピューター、ホームズタイプのミステリーでデータをきりきり舞いさせるようなのを頼む。…そうだ、データを負かすぐらいの敵を登場させろ。」
コンピューター:『パラメーターを設定して下さい。』
ポラスキー:「どういうことなの?」
ラフォージ:「どこまで突き詰めるかっていうことですよ。」
「危険を避けるために制限をおくの。」
「いやこの場合、パラメーターっていうのは指令の遂行のために必要なものです。データを負かす力のある、強いライバルをパラメーターとして組み込め。」

ブリッジのウォーフは、コンピューターの反応に気づいた。「何だ今のは。」
ライカー:「どうした。」
「出力に、乱れが出ています。…元に戻った。」

ホロデッキ内のアーチが消滅した。
ポラスキー:「面白いわね、さっきと同じロンドン。でも、微妙に違うわね。」
歩いていく 3人。
隠れていた男は帽子を被った。
近づく売春婦※16。「何よ、どうしたのさ教授。」
教授:「まるで、生まれ変わったようだ。あの、妙なメガネの男※17が『アーチ』と言ったら…何だろう。アーチ!」
アーチが出現した。
近づく教授。「これは一体…」
コンピューター:『コンピューター、スタンバイ。』
「…何者だ。」
『アーチのことをおっしゃっているのなら、これはコンピューターコントロールです。コマンドを入力しますか?』
「…今はやめておこう。」
瞬時にアーチが消えた。
驚く売春婦。「黒魔術だよ、モリアーティ※18!」 叫び、逃げていく。
モリアーティ:「ああ、しかも極上のな。だがまず調べることがある。」

歩くラフォージ。「データ、ああいや我が親友ホームズ。俺たち、どこへ向かってるんだ?」
後ろを歩いていたポラスキーは脇道へ入っていく。
データ:「事件が我らを導くところへだ。」
女性の叫び声が響いた。
戻る二人。
データ:「彼女がさらわれてしまった!」
ラフォージ:「彼女って。」
「善良なるドクターだ。」 靴が落ちている。
「ああいや、きっと隠れてんだよ。俺たちが慌てて探し回ったって話を、アルファ・ケンタウリ星※19まで広める気だ。」
靴を虫眼鏡で調べたデータ。「ワトソン。」
ラフォージ:「あ?」
「ドクターは、2人の男に連れ去られたようだな。一人は背が高く、もう一人は小柄。そして左利きだ。どこかの研究所の、研究員に違いない。」
「何でそんなことがわかるんだ?」
「片方の足跡は歩幅がかなり広い。もう一つは比較的間隔が狭い! さらに! 歩道に残った、このひねったような靴のこすり跡。左足を軸として振り返ったときのものだ! 推測するに、追っ手の有無を確かめたのだ。軸が左足なら、左利きだよ。こすり跡が黒いところから見て、靴底は天然ゴムでできている。つまり非伝導性のソールがついた靴、電気の実験をする科学者たちが履く物だ。そして最後に! これには議論の余地はない。いよいよゲームが、始まったのだ。ゆくぞ、ワトソン!」
微笑むラフォージ。


※13: Pie Man
(リチャード・マーソン Richard Merson 2003年6月に死去) 声はごろつき役の伊井さんが兼任

※14: 原語では "It's elementary, dear Data." 「初歩的よ、データ君」。原題の由来。ホームズの口癖とされている "(It's) Elementary, my dear Watson." 「初歩的だよ、ワトソン君」より。ただしドイルの原作には全く入っていないそうです

※15: arch

※16: Prostitute
(ディズ・ホワイト Diz White) 声:滝沢ロコ

※17: 原語では「黒人」。ヴァイザーやデータの肌など 19世紀の設定にそぐわないものは、ホログラムキャラにとって変に感じないように設定されている可能性があります

※18: ジェイムズ・モリアーティ教授 Professor James Moriarty
(ダニエル・デイヴィス Daniel Davis) 初登場。声:堀勝之祐、DS9 ヴィック、旧TMP デッカーなど

※19: ケンタウルス座アルファ Alpha Centauri
太陽に最も近い恒星。TOS第21話 "Tomorrow Is Yesterday" 「宇宙暦元年7・21」など

人通りの少ない道へ走ってきたデータ。「聞こえたか、あの足音から何がわかる。」
ラフォージ:「こっちで間違いないってことだろ?」
「それだけではないな。我々の敵は確かに 2人だということだ。そしてうち一人は、猿ぐつわを噛まされ縛られたドクターを担いでいる!」
「なあ、本に似た話があったからわかるんだろ?」
「それは違う。ドクターの足音が聞こえなかっただろう? …彼女が担がれているからだ。それに、叫び声も聞こえなかった。つまり猿ぐつわだ。さらに、2つの足音は重々しく明らかに男性。…うち一人は足を引きずり、不規則なパターンでよろめいていた。この石畳は平坦。つまり結論としては、縛られていてもドクター・ポラスキーは抵抗し続け犯人どもの歩みを阻んでいるのだ。…推理だよ、簡単なことだ。…いや。そう簡単ではないな。」
二人は同時に言った。「足音だ!」
様子を隠れて見ている者がいる。

暗い室内に入るデータ。「ワトソン、また足音だ。我々は順調に犯人らを追い詰めているようだな。」 だが行き止まりだった。「出口があるはずだ。」
ラフォージ:「ああ、行くぞ!」
そこにレストレードがやってきた。「ホームズ、いてくれてよかった。」

人々が集まっている。中央には倒れた男。
レストレード:「通してくれ、通して。シャーロック・ホームズのお出ましだ。人殺しだよ、ホームズ。悪辣な殺人事件だ。」
ラフォージ:「さーてどうする、ホームズ。」
データ:「…関わり合いになるべきではないな。この事件はドクターの誘拐とは関係がない。」
レストレード:「ドクター? ドクター・ワトソンはここにいるじゃないか。」
「ドクター・ケイト・ポラスキーだ。だが君が心配する必要はない。大変だろう、この件で。」
「そのドクターとは誰だ。」
ラフォージ:「警部、僕でよければ協力するがね。この死体をよーく…見るとだ、明らかに絞殺だな? 喉に残った指の跡、これが死因だ。そして、格闘の跡がある。ということは犯人は被害者と面識のない人物で、後ろから首を絞めた。」
感心する野次馬。
レストレード:「それでいいのか、ホームズ?」
データ:「いいや。…靴を見てみろ? 彼は元囚人だ。今日、刑務所から出所してきたばかり。一日酒場で過ごし、久しぶりのジンをかなりの量をあおった。…犯人も一緒だった。被害者と一緒にここまで来て、あの陰に隠れた。この男が酔い潰れてしまうまで待ったのだ。そして恐怖心から、ひとえに自らの身を守るために彼の首を絞めた。…犯人はあそこにいるぞ、レストレード!」
逃げようとする老婆。警官が押さえる。
レストレード:「捕まえろ!」
データ:「そして、その老女は尋問過程ではっきりするだろうが被害者の正式な妻だ。気の毒に、乱暴な夫の出所に怯えての凶行だ。」
ラフォージ:「ホームズ、そんなか細い老女に男が絞め殺せるか?」
「確かに手では、無理だろう。だがこれがある。この襟巻きで絞めたのだ。」 老婆の襟巻きを手にするデータ。「そして編み込まれたビーズが、指そっくりの跡を残した。ワトソン君、よく見たまえ? 被害者の首のその跡だ。…人間の手でつけたにしてはあまりに間隔が整いすぎている。」
声を上げるレストレード。「見事だな、ホームズ。」
データはモリアーティが一軒の家に入っていくのを目にした。「簡単な推理だよ。警部、悪いが所用で失礼させてもらうよ。ゆくぞ、ワトソン。…この殺人は、我々の事件とは関係はないのだ。」
レストレードは担架を呼ぶ。「こっちだ、急いで。ほらこっち。」

データを追うラフォージ。「データ、待てよ。あの殺人事件がドクターの誘拐と関係ないとしたら、プログラムが勝手に動いてることになるぞ?」
データ:「そうだ。」
「何で。」
「私もわからない、不可解な現象だ。」
「じゃあ、お前もこの先どうなるかわからないんだなあ。」
「ああ。」
「そいつが聞きたかったんだよ、どうする?」
「この中のドクターを助け出す。」
「何でわかるんだ?」
「それ以外考えられないからだ。」
「考えられないからって、そうだとは限らないぜ? 惑わせるための罠かもしれん。」
「今度は違う、見つけて欲しがっている。」
「だから誰が。」
「犯罪の天才だよ、ホームズがライヘンバッハの滝でただ一度命を懸けて戦った男だ。ワトソン、どうやら我々の敵はほかでもない、あの怪物モリアーティ教授その人らしいぞ。」
「いいぞう、面白くなってきた!」
中に入る二人。
ラフォージ:「…でも、ここん中樽しかないぜ。」
データ:「いいや、手がかりがある。はっきりと残っているはずだ。それをたどっていきさえすればいい。」 虫眼鏡で床を探る。
「ああ、またこれだデータ。行き止まりだよ。」
「いいやワトソン、永遠と続いているぞ? …ほう、これは何だ?」 木に傷が見える。「この引っかき傷を見てみろ。」
ラフォージが手を触れると棚が回転し、道が開いた。裏は本棚になっている。
並んだ科学実験の器具。ロウソクや椅子がある。
ラフォージ:「ドクターの言うとおり、これでこそやりがいがあるってもんだ。」
モリアーティが出てきた。「ゲームの時間はもう終わりだ。」
データ:「…モリアーティ教授、そうですな?」
うなずくモリアーティ。
ラフォージ:「何でわかるんだ?」
データ:「コナン・ドイルが創り上げたホームズの宿敵だからな。」
モリアーティ:「巣に新しい獲物がかかれば絶対に逃がさない、クモのような男が私だ。ようこそ、ホームズ君。だがホームズではない。ワトソン博士も、ワトソンではない。」
ラフォージ:「俺たちが本物じゃないってわかるわけないんだぜ?」
データ:「ドクター・ポラスキーはどこだ?」
モリアーティ:「ここにいるとも?」
「彼女は何も話さないはずだ。」
「ああ、だがいろいろなことがわかった。私の観察眼は君と同じなのだからな。表情で全てがわかる。言葉以上のことを十分に語ってくれたよ。」
「…危害を加えたのか?」
「必要とあればそうする。だが、いま私の頭は別のことで一杯だ。何なのかまるでわからない。ぬぐい去ることのできない疑問だ。君たちもあの御婦人もどうも奇妙な振る舞いをする。見覚えのない顔なのに私が君たちのことをよく知っているのはなぜだ? 何かがおかしい、感じるのだよ。私の意識の端に芽生えた新たな現実が、今にも弾けようとしている。ホームズかどうか知らんが、君には私の言っていることがわかるはずだ。」
ラフォージ:「データ…」
データ:「何も言うな?」
モリアーティ:「ある偉大なものを見つけた。名前は、コンピューターだ。神の預言者よりも賢い。支配をしているのだ。まさに全てを。しかも話ができる。アーチ?」
アーチが部屋の中に出現した。
ラフォージ:「おい、データまずいぞ。ホログラム映像のあいつが何でアーチを呼び出せるんだ。」
モリアーティ:「妙な姿の巨大な乗り物を見せてくれた。…私はカメの背に留まったハエのようにそれに乗り、虚空を漂っているらしい。これは何だ、ホームズ。」
紙を受け取るデータ。無言になった。
モリアーティの部屋を出て行くデータ。
ラフォージ:「データ。」 追いかける。「おい、待てよ。…データ! 待てって! データ!」 外に出た。
モリアーティ:「何を怯えている、ホームズ!」

走るラフォージ。「データ、何がどうなってんだ。教えてくれよ!」
データ:「コンピューター、出るぞ!」
ドアが開いた。
ホロデッキの外に出て、パネルに触れるデータ。「コンピューター、ホロデッキの機能を完全に停止させてくれ。」
コンピューター:『アクセスできません。』
「どうしてだ。」
『現在のプログラムが優先されます。』
もう一度中に入るラフォージ。「さっきのままだ、機能停止ができないぞ。」
データ:「艦長に報告しよう。」

廊下を歩くラフォージ。「データ、さっきのは。あの紙切れは何だ! ホロデッキはどうなっちまってるんだ、データ!」
データは紙を渡した。「これだ。」
ラフォージ:「何だよ、これ。19世紀に生きてる設定の人間に、何でエンタープライズの絵が描けるんだ。」 ほぼ正確な船体図が描かれていた。「誰がコンピューターを抑えてる。」
「あの男、モリアーティだ。」
「そりゃありえない、どうなってるんだ。」
「わからない。」
「待てよ、ドクターは中だ。大丈夫なのか。」
「…いや。非常に危険な状態だ。」



観察ラウンジ。
ピカード:「コンピューター、ホロデッキが機能停止しない理由は。」
コンピューター:『現行プログラムの遂行が優先されます。』
「誰の指示だ。」
『ジョーディ・ラフォージ大尉です。』
ラフォージ:「何?」
ピカード:「わかった。ことの経緯を初めから説明してくれ。」
「あの、ドクターと私で…知らないミステリーをデータが自力で解けるかという議論になって。」
「コンピューターに作らせたんだな?」
「そうです、ライバルも作れと。」
「手強い敵を?」
「…ああ、そうだ。…あ、あの時…データを負かすぐらいに強い敵が出てくるプログラムにしろと言ったんだ。…それでこんなことに。」
「…困ったな※20。」
「……艦長、私のせいです。」
「…事情はわかった。」
データ:「艦長。あのモリアーティの映像は、アーチを呼び出すのです。」
「何だって? では、コンピューターにアクセスしているということだな?」
「そして、ライブラリーファイルにもでしょう。…私に勝てるようにするには、彼にそれらの情報を与えることが不可欠です。」
「だが彼にも、限界はあるだろ。」
「…設定が 19世紀ですので、当時のレベルの知識しかプログラムされていません。」
ライカー:「だがそれが今、24世紀の知識を得てる。」
ピカード:「使いこなすようになるのか。」
データ:「時間の問題です。」
ウォーフ:「…艦長、私が保安部員のチームを率いて突入しドクターを探し出して救出します。」
「いいえ、それではドクターに危険が及びます。生命保護機能※21も無効になっている可能性があります。」
ピカード:「コンピューター、ドクターの現在位置は。」
コンピューター:『ドクター・ポラスキーは第2ホロデッキです。』
「身体機能指数は?」
『正常値で安定。』
ライカー:「艦長、いま発生しているホログラムを直接破壊するというのはどうでしょう。できるか、ジョーディ。」
ラフォージ:「導波管を使って反物質反応炉から粒子ビーム※22を分離して、コンジットでホロデッキに送ることはできます。その粒子ビームに十分な速度を与えてさえやれば、文字通りホログラムは一掃できます。ロンドンの建物も、通りも、人もみんな消える。もちろん、モリアーティも。」
ピカード:「ドクターはどうなる。」
「粒子ビームは、人間の体も同じく引き裂きます。」
トロイ:「艦長。…ホロデッキから何かを感じます。まるで、固まりつつある力。一つの意識が焦点を定めようとしているような。」
データ:「…考えうることは一つだけです。ホームズではなく、私を負かすプログラムなのだとすれば…私にあるものを彼も獲得するはずです。」
ピカード:「何だそれは。」
「意識です、艦長。それなしでは、私に勝てません。」
突然船が大きく揺れた。
ピカード:「コンピューター、この揺れは。」
コンピューター:『エンタープライズ※23の船体安定制御が、第2ホロデッキに移ったことによる一時的衝撃です。』
「……私と君でホロデッキに戻った方がよさそうだな。」
データ:「ただちに制服※24に着替えます。」
「いいや、私が適当な衣装に着替えるのがいいだろう。制服を着て行っては、モリアーティに余計な疑問を抱かせるかもしれん。彼は今この瞬間も知識をむさぼっている。強敵だ、必要以上の情報は与えん方がいい。」

モリアーティは部屋に置かれた巨大な機械を操作していた。
ポラスキー:「どうやって部屋を振動させたの?」
モリアーティ:「よくわからん。お茶にしましょう。一つでよろしいですかな?」
「一つと言われると、何が一つなんです?」
角砂糖を入れるモリアーティ。「ミルクは?」
ポラスキー:「お願い。」
「あのコンピューターが、信じられないことを言っている。我々は皆巨大な船で旅をしていると。本当かね。」
「一体何のお話?」
「スコーンも是非お食べなさい。」
紅茶を飲むポラスキー。「これ、とっても美味しいわ?」
モリアーティ:「妙だなあ、喜んでもらえてよかったと思っている。」
「ほんとに妙だわ? 私が聞いていたモリアーティの印象とはだんだん違ってきている。」
「もう怖くないと?」
「ええ。」
「…甘いな。…コンピューター、アーチを頼む。」
その様子に一瞬驚くポラスキー。
アーチに近づくモリアーティ。「2、3 聞きたいことがある。」 操作する。「…この最後のコマンドだけがわからんのだ。まあいい…遅かれ早かれ、全てわかるようになる。」
消えるアーチ。「だが、こちらからも私自身のやり方で問題解決を計ろうと思う。そちらの世界に近づくのに、今のこの知識が使えないとは限りませんからな?」 実験器具を見るモリアーティ。
ポラスキー:「何のお話か全くわかりません。」
「知っているはずだ、わからないというたび惑わせようとするたび真実が覗く。あなたの沈黙が多くを語ってくれる。」
「そう。そんなにいろいろなことをわかっていらっしゃるというのなら、私は用済みね? 紅茶と御菓子をごちそうさま。…帰らせていただくわ?」
「どこへ? ここへ帰るのか?」 黒板に描かれたエンタープライズの絵。
「そうよ? 私と一緒にいらっしゃる?」
「いつかな。いつか私はここを抜け出し、そちらの世界へ行く。それとも既にここに、いるのかな?」
「ここは、ロンドンですわ? 私に何も用がないんでしたら、もう帰らせてもらいます。」
「実はあなたには釣り針の先の餌になっていただきたい。彼らを誘い出すおとりです。それが、釣り針だ。」 機械を指差すモリアーティ。「釣り上げる。ピカード艦長を。」
「それはどなた?」
「…知っているでしょう。」

着替えたウォーフがターボリフトから出てきた。
微笑むライカー。「よく似合うぞ。」
ウォーフ:「どうも。艦長、待機しています。いつでもお呼び下さい。」
「ロンドンじゃ人気者だな?」
ピカード:「コンピューター、まだプログラムは進行中か。」
コンピューター:『進行中、入室して下さい。』
「データ、始めよう。」 ピカードはステッキでシルクハットを開いた。
驚くウォーフ。
ピカード:「行ってくる。…開け。」
中に入ると、様子が以前と違っていた。ホロデッキの壁が一部見え、赤いライトが灯っている。
咳き込む人々。
ピカード:「あまり時間がない。環境を変える力まで得ている。…こうなったらどんなことをしても、モリアーティを止めねばならんぞ?」


※20: "Merde." フランス語の「クソ」

※21: mortality fail-safe

※22: 粒子流 particle stream

※23: 吹き替えでは「エンタープライズ

※24: 吹き替えでは全て「軍服」

ホロデッキ本来の壁が見え隠れする店を見るピカード。「明らかにプログラムを変えようとしているな。」 地面から何かを拾った。
データ:「何です?」
「コインだ。2ペンスだ。運がいいのか、お守りだ。」
※25が立ちふさがった。「今のコイン、もらおうか。ついでに財布の中身もな?」
ピカード:「どいてくれ。」
ナイフを向けるごろつき。「そうはいかねえ、有り金全部出しな、…ありったけ全部だ。」
ピカード:「データ。」
データはごろつきの指をひねった。ナイフが落ちる。
痛むごろつき。
データ:「この映像は微妙に、いつものものと異なります。刺されていたかもしれませんね。」
ピカード:「それどころではない。どうも、生命保護機能が解除されているようだ。殺されていたかもしれんぞ。」
ごろつき:「ああ頼む、離してくれ。指が折れちまうよう!」
「データ、離してやれ。」
ごろつきは逃げていった。
データ:「教授の隠れ家はあの倉庫。行きましょう。」

隠れ扉が開く。
モリアーティ:「ピカード艦長。」
クランペットをつまんでいたポラスキーは慌てて立ち上がった。
ピカード:「無事か?」
ポラスキー:「はい、ただ少しあの御菓子で胸焼けが。」
モリアーティ:「私は礼儀を心得た男でね。だが同時に、危険でもある。」 機械のレバーに触れた。
大きく揺れる。

ブリッジも揺れていた。
艦長席のライカー。「ブリッジからホロデッキコントロールへ。」

ウォーフ:「ウォーフです。」
ライカー:『現状は。何か変化は。』
「ありません。」

トロイを見るライカー。

ピカード:「モリアーティ、君はここにいるホームズを打ち負かすために創られた幻だ。目的を果たせばたとえ君が勝とうと、プログラムは終了し君も消えてなくなる。」
データ:「…おめでとうございます、教授。あなたには降伏せざるをえない。やはりあなたの勝ちです。」 手を差し出す。
だがモリアーティはレバーのそばから離れようとしない。
データ:「さすがだ。」
モリアーティ:「もうゲームではないのだ、データ君。君が『ホームズ』でないのはわかっている。」
ピカードを見るデータ。
モリアーティ:「始まりが何だったにしても、私は変わった。あふれる情報を次々に学んでいる。今ではこの手に大きな力を握っているのだ。」 またレバーを動かした。「船の航行を妨げられる。君たちに肉体的苦痛も与えられる。ドクターにもだ。」
ピカード:「ああできるだろう、だがそうしなかった。船を揺らしたのは私をここへ呼び出したかったからだろ? この次は何が望みだ。」
「君らが望むことと同じ、存在し続けることだ。この船を破壊すると言ったら、君らも決して冷静ではいられないだろ? …皮肉なものじゃないか、実在しない者に消される。私はただのエネルギーだとコンピューターが教えてくれたよ。」
「いやそれは違うぞ。少しな。モリアーティ、ここはホロデッキと呼ばれる場所だ。この船で使われている転送機と似た原理を応用した装置なんだが……我々の生きる時代には、人類は物質をエネルギーに変えるすべを学んでいる。ホロデッキでは、エネルギーが物質に変換され君もそうして存在するわけだ。ここだけでな。」
「ホロデッキから一歩出たら?」
ポラスキー:「そしたらあなたは、消滅してしまうのよ。」
ピカード:「…君には命はない。…さっき説明したように、君は…」
モリアーティ:「ホログラム映像だ、知っている。だがそう言い切れるか。」
「もちろんだ。」
データを指すモリアーティ。「彼に命はあるか。…彼は機械だ、だがそれだけではないだろ。」
ピカード:「それ以上の存在だ。」
「そこだよ。命の定義とは何だ。『我思う、ゆえに我あり』だろ。」
「ああ、まそういうことも言えるな?」
「それが最も重要なのだ。私にとっては、唯一の定義だ。誰かは知らんが? コンピューターに 19世紀の知能犯を組み込むよう命令した者がいて、私が出てきた。だが、もう最初の私とは違う! 私はその犯罪者ではない、全て変わったのだ。私は生きている。そして自分の意識が生まれてきている。」
「モリアーティ、私はこの船と乗組員たちを守らねばならん。」
「私は生き続けたいだけだ。外に出て生きたい、君らと同じようにな。」
ピカードは近づいた。「しかし、それは不可能だ。」
モリアーティ:「では私を殺してくれたまえ。」
「望みを叶えてはやれんのだ。」
「ホロデッキ内の物質※26を、外でも存在しうるものにはできんのだな?」
「ああ、そういうことだ。」
「…残念だ。ここで見て、学んだことは…実に素晴らしい。私は死にたくない。」
「私も殺したくなどない。」
「…マダム? 楽しかったよ。…コンピューター。アーチ。…修正プログラム解除。ホロデッキの制御をメインコンピューターへ。…我が運命は君の手にある。常に、そうだったのだろうな?」
「ブリッジ、こちらピカードだ。」
ライカー:『はい艦長、ライカーです。』
「副長、事態は完全に収拾がついた。」
『了解。』
「…モリアーティ、この船のコンピューターはかなり大きな記憶容量をもっている。」
モリアーティ:「ああ、知っている。」
「君を抹消するのはよそう。…このプログラムは存続させる。いつか我々の科学が進歩したとき…ホロデッキから、出られる形で君を呼び出そう。」
「…またお会いできますな。」
ポラスキー:「…長い時間がかかるわ。あなたには関係ないけれど。私はきっとおばあさんよ。」
「それでも御菓子を御馳走しますよ。…別れは短い方がいい。早く済ませてくれ。」
ピカード:「その方がいいのならそうしよう。コンピューター、モリアーティ教授のキャラクターを記憶したら…姿を消せ。」
モリアーティは消えた。ピカードを見るポラスキー。

機関室。
ピカードがやってきた。
機関部員:「現在の出力、1005。」「了解。」「磁気燃料の、貯蔵量は。」「1940…」
ラフォージはヴィクトリーの模型を見ていた。
ピカード:「壊れたのか。」
ラフォージ:「ええ、そうなんです。エンタープライズが揺れたときにヒビが入った。でも、あとは何とかもちこたえたようです。」
「美しい船だな。これは古き良き時代の象徴だ。」
「そうですね、感謝してます。あのまま彼を止められなかったら、こんなヒビどころじゃなかった。私の不用意な一言で。」
「この帆船もすぐブリストルになるさ。」
「『ブリストル』って何です?」
「昔の海軍の言葉だ。つまり、『全て順調』ということだ。」
「うーん、そうですね。」
「我々もだ、ラフォージ大尉。」
「…ありがとうございます。」
ライカーの通信が入る。『艦長、ヴィクトリー※4が到着しました。』
ピカード:「わかった、すぐ行く。」 ラフォージの肩に触れ、出ていった。
エンタープライズに近づくヴィクトリー。


※25: ごろつき Ruffian
(ビフ・メイナード Biff Manard) 声:伊井篤史

※26: ホロデッキ物質 holodeck matter

・感想など
4シーズン後に再登場することになる、モリアーティ教授のエピソード。評価としては続編の方がずっと上ですが、こちらはこちらでデータ=ホームズとラフォージ=ワトソンの絶妙なハマり役を楽しむことができます。俳優の 2人も喜んだそうです。パラマウントとコナン・ドイル財団との問題が早く解決されていれば、もっと多くのエピソードで目にすることができたかもしれないと思うと、いささか残念ではあります。海外ドラマファンにもシャーロック・ホームズはおなじみですからね。
自我をもつという一線を越えたキャラクターを誕生させる、神のごときコンピューターの所業。その瞬間のパワーの乱れ (乱れたからプログラムが変化したわけではなく、変化の「副作用」として乱れた)。架空の存在に船を乗っ取られるという恐怖。途中まで登場しないピカードが最後をきっちり締めるところも、よくできています。予算を多く費やしたという、ロンドンのセットもお見事ですね。
エンタープライズを描いたモリアーティの紙切れが外でも消えない、というのは初期ならではのミス。…と考えがちですが、実は紙を見たピカードがモリアーティもホロデッキ外で存在できることに気づく、というのが当初の展開だったというから驚かされます。初代モリアーティ役の声優は、ずっと後に DS9 で自我ホロキャラのヴィック・フォンテーンを担当する堀さん。狙った起用だったんですかねえ…。


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