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TNG エピソードガイド
第61話「DEJA Q」
Deja Q

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・イントロダクション
※1天体に近づくエンタープライズ。
『航星日誌、宇宙暦 43539.1。ブレール4号星※2を周回する月の軌道がずれ、衝突の危険が生じた。我々はブレールのコントロールセンターと協力して、月を調査してみるつもりだ。』
惑星軌道上だ。
スクリーンに映る異星人たち。
データ:「軌道がまた変わり、さらにブレールに接近しています。このままでいきますと、地上からの距離は 500キロメートル以下になります。」
ブレール人の博士※3。『ブレールの引力に引きつけられ、さらに距離は狭まるでしょう。』
隣にいる女性科学者※4。『軌道がなぜか変わったか、その原因はわかりましたか?』
データ:「いいえ、博士。通常考えられない現象です。」
ピカード:「大気との摩擦で燃え尽きることは。」
科学者:『月の構造からして燃え尽きることはありません。大気との摩擦に耐えうる、結晶体構造をもっています。』
ライカー:「爆発したらどうなる。」
データ:「爆発したところで、質量の合計は変わりません。広範囲に渡り隕石が落下するので、かえって被害が大きくなります。」
ピカード:「衝突までの時間は?」
「29時間です。…ブレールの西大陸に墜落し、半径 800キロに渡る地域が破壊されます。」
科学者:『私達が恐れているのはもっと別のことです。衝突のショックで、地殻に大変動が起こるでしょう。各地で大地震が発生し、津波※5も襲ってきます!』
博士:『衝突で発生した砂塵が惑星を取り巻き、気温の低下を引き起こします。…このままでは氷河期に突入しかねません。』
ピカード:「……ラフォージ少佐、エンタープライズの力で月を何とか元の位置に戻す方法はないのか?」

機関室のラフォージ。「それには一秒間に、約4,000キロメートルのデルタV が必要です。しかしトラクタービームにワープパワーを使ったとしても、せいぜい通常出力の 50%アップが精一杯でしょうから、アリが三輪車を引くようなもので望みは薄いですね。」

ライカー:「たとえ望みはわずかでも賭けてみるべきでは。」
ピカード:「やってみよう※6。」
「ウォーフ大尉※7。星域内の全ての船に呼びかけ、協力を扇いでくれ。」
ウォーフ:「了解。」
ピカード:「また後ほど結果を報告します。」

衛星にトラクタービームを発射するエンタープライズ。
ライカー:「もっとパワーを出せないか。」
ラフォージ:『もう限界です。これ以上出力を上げると、ビームエミッターが焼き切れます。』
データ:「…デルタV は、一秒に 92メートル。質量が大きすぎ、ビームの効果はほとんどありません。」
ブリッジに高い雑音が響き始めた。
ライカー:「…何の音だ。」
データ:「発信源は不明です。」

ラフォージ:「推進エンジンのパワーが限界値を超えそうです、あと数秒で自動停止します!」

ピカード:「エンジン出力ダウン、トラクタービームオフ。」
ライカー:「ウォーフ大尉、音の正体はまだわからないのか。」
ウォーフ:「センサーには何の反応もありません。」
その時ブリッジの隅が光り輝き、横になった裸の人間が空中に現れた。
ピカード:「…Q※8。」
床に落ちる Q。「非常警報。」 微笑む。


※1: このエピソードは、1990年度エミー賞の編集賞および特殊映像効果賞に、ダブルノミネートされました

※2: Bre'el IV

※3: 名前は Garin 博士 Dr. Garin (リチャード・カンシーノ Richard Cansino) ですが、言及されていません。「ガリン博士」としている日本語資料もあります。声は Q2 役の秋元さんが兼任

※4: Scientist
(ベティ・ムラモト Betty Muramoto) 声はコンピューター役の磯辺さんが兼任

※5: ちなみに英語でも tsunami

※6: "Make it so."

※7: 吹き替えでは全て「尉」。第3シーズン以降、ウォーフの階級は大尉です

※8: Q
(ジョン・デ・ランシー John de Lancie) TNG第42話 "Q Who" 「無限の大宇宙」以来の登場。声:羽佐間道夫

・本編
トラクタービームを停止しているエンタープライズ。
『航星日誌、補足。月の軌道のずれを元に戻す方法は依然として見つからないままだが、原因の方は見当がついた。恐らくこれも Q の仕業だ。』
ピカード:「ほかの手は。」
ラフォージ:「全ての方法を限界まで試してみました。時間とパワーが圧倒的に不足してます。多少乱暴な方法も考えてみますが。」
「やってみてくれ。」
ブリッジを出ていくラフォージ。
ライカー:「またお前の仕業か、Q。」
Q は服を着ている。「俺のセンスに合わん、ひどい服だな。それにライカーは何を騒いでる。」
ピカード:「人を死の恐怖に陥れ苦しむ様を見物するのがそんなに楽しいか?」
「何のことだ。」
「何百万ものブレール人が落ちてくる月に脅かされているんだぞ?」
「知らんよ、初耳だね。そんなことよりこっちはもっと重大な悩みを抱えてるんだ。Q連続体から追い出されてしまった。私の振る舞いに対する罰だと言ってな!」
「我々まで巻き込むな。」 艦長席に座り、裾を伸ばすピカード。
「宇宙に混乱を招いたのが罪らしい。罰としてパワーを剥奪された。…信じてないな? そんなみっともない嘘をつくと思うか。」
足を組むライカー。「そう言って裏をかくつもりだろ…」
Q:「違う、誓って真実だ。全てのパワーを奪われてしまった。今の私は何の力もないただの人間だ、君らと同じ不完全で下等な種族に成り下がったのだよ。」
トロイ:「人間になるというのが、あなたに与えられた罰なわけ?」
「…リクエストしたんだ、ほかにもいろいろあった。マルコフィアのウミヘビ※9や、ベルゾーディアのノミ※10や、好きなものになれたよ。不死身でないものに限るが? 考える時間もなくてパッと思いついたのが地球人さ。…でここに送ってもらった。」
「どうして?」
「なぜならこの宇宙に、友人と呼ぶにふさわしい男は君だけだからな。」
頭に触れ、Q を見るピカード。
データはトリコーダーを使っている。「艦長、身体の組織は人間です。」
Q:「さっきから言ってるだろ。」
トロイ:「彼の心の中には感情が存在しています。困ったような気持ちと、怯えた気持ちが入り交じって。」
「失礼な女だなあ。」
ピカード:「君の望みは何だ。」
「情けをかけてくれ。」
Q から目を逸らすピカード。
Q:「この船に、私をおいてもらいたいんだ。お互いに不本意なことではあるがな。」
ピカード:「代わりに月の軌道を戻せ。」
「私のどこにそんな力がある。今は無力な Q だ!」
「嘘つきで人間嫌いの Q だろ。」
「ゆき場を失った哀れな Q だぞ、一体何をすれば信じてくれる。」
ウォーフ:「死んでみろ。」
微笑むピカードとライカー。
Q:「おお、なかなかの御挨拶だな。君も御利口になったな※11。」
ピカード:「わかった、人間として扱おう。」
「そうしてくれ。」
「よかろう。ウォーフ大尉、Q を監禁しろ。」
制服の裾を伸ばすウォーフ。「喜んで、艦長。」
Q:「何の真似だ、ジャン・リュック。」
ウォーフは Q の腕をつかんだ。「歩かないなら引きずっていくぞ。」
Q:「それなら歩く方を選ぼう。…見損なったぞ、こんな男だったとはな。おい、私は閉所恐怖症なんだ。」 ターボリフトに入れられる。

ターボリフトの中で腕を組む Q。「間違いだった、人間になるべきじゃなかった。最大の失敗だ。一生この中で暮らすのか。大体人間は何でこんな布きれで身体を隠さなきゃあならんのだ。暑かったり寒かったり不便だし、歳を取ればヨボヨボになる。髪も抜ける。病気にもなる。クシャミとか、鼻水、吹き出物、ニキビ。何てことだ。風呂にも入らなきゃならん。」
ウォーフ:「気の毒にな。」 廊下に出る。
「そうだ、クリンゴンになればよかった。君とは何だか馬が合いそうだしな。」 ウォーフの肩に手を載せたが、すぐ離す Q。「あ、すまん。本気で拘留室に入れるつもりじゃあないだろ? 閉所恐怖症には残酷すぎるぞ。今まで広い宇宙にいたのに、頼むよクリンゴン君。何とか艦長に取りなしてくれないか、一生恩に着るよ。ま一生といっても人間だから短いが…」
「いい加減黙れ! 黙らんならどこへでも消えてくれ!」
「消えろなんて無理な注文だ、君に美女になれと言ってるようなものだぞ。」
うなり、拘束室のドアを開けるウォーフ※12
Q:「まだ信じないのか。じゃあ一つ簡単な質問をしたいんだが君の単純な頭で答えられるかどうか。」 独房に入れられた。「いいかな? …問題だ、もし私にパワーがあるならなぜおとなしく監禁されている?」
ウォーフ:「お前はそうやって何度もだましてきた。」
「ああ、こりゃまたひどく嫌われたものだな。狼少年※13の話なら知っている、説明してくれなくてもいいぞ。」
「コンピューター、フォースフィールドを張れ。」
独房にフォースフィールドが現れた。
触れる Q。「おいこいつを消せ、クリンゴン。…私を拘留室から出せ、今すぐにだ。」
外へ向かうウォーフ。
Q:「化け物※14め!」
立ち止まったが、振り返りもせずに出ていくウォーフ。
Q:「やっぱりロミュランにすべきだった、クリンゴンはクズだよ。」

作戦室のピカード。「わからんな、一体今回は何を企んでいるんだ。」
ライカー:「いつもの悪ふざけでしょう。ギリギリまで追い詰めてから、月を戻す気ですよ。」
「…本当に何も知らないのかもしれん。」
「Q の言うことを信じるんですか?」
「信じているわけではないが Q には月を止める力はないという前提で、打開策を考えるしかないだろう。」
「黙って見物させとくんですか。」
「ほかにはどうしようもない。」 コミュニケーターに触れるピカード。「ウォーフ大尉。ブレールのコントロールセンターを呼び出してくれ。」
ウォーフ:『交信準備完了。』
コンピューターを操作するピカード。
博士:『何でしょうか、艦長?』
ピカード:「残念ながらトラクタービームで月の軌道を元に戻そうという試みは、失敗に終わりました。」
『……衝突まで後 25時間しかありません、艦長。』
ライカー:「今トラクタービームを強化する方法を検討中です。」
ピカード:「望みはあります。だが避難準備も進めてください。」
博士:『西大陸と海岸地域の住民には、すでに避難命令を出しました。』
「こちらもすぐに、次の手を打ちます。それでは。」 ピカードは通信を終えた。
ライカー:「ジョーディの方も行き詰まってるようです。」
突然、部屋の中が白く輝き始めた。
ピカード:「今度は何事だ。」

ブリッジに戻るライカー。「データ。」
データ:「ベアトルド光線※15が含まれていますね、放射電磁波の一種です。」
「害は。」
「ありません。放射線の量は 75レム以下ですから、診察に使われるスキャンと似たようなものです。我々をスキャンしているんでしょう。」
ピカード:「誰がだ。」
「センサーでは光線源が確認できません。光は四方から来ています。」

機関室も光っている。

拘束室では光が収まり、空中に白い塊が現れた。
それは保安部員※16の目の前でフォースフィールドを突き抜け、眠っている Q のそばで消える。


※9: マルコフィアン・ウミトカゲ Markoffian sea lizard

※10: Belzoidian flea

※11: 原語では「最近いい本を食べたのか」

※12: 拘束室の中から見える廊下のセットは、映画のエンタープライズ-A 用に使われたものを流用しています。そのためドアの形状などが本来の D のものとは異なります

※13: 原語ではタイトルの "The Boy Who Cried Wolf" をもじって、"The Boy Who Cried Worf" と言っています

※14: 原語では「ロミュラン」

※15: berthold rays
原語では「ベアトルド放射線 (berthold radiation)」とも呼ばれています。TOS第25話 "This Side of Paradise" 「死の楽園」より。当時の吹き替えでは「バーソルド光線」

※16: 保安部員が手前のパネルに触れたとき、簡単に位置がずれてしまっています

拘束室。
ピカードが来た。
ベッドに座っている Q。「謝りに来たのか、感心だなあ。許してやろう、文句も言うまい。」
ピカード:「黙れ、Q。何が起きてるか説明しろ。」
「私にわかるわけがないだろう、ずっと牢屋にいたんだぞ? 独りなすすべもなく、涙に暮れながら。」
「突然月が軌道を逸れたのも異常だが、それだけじゃない。たった今我々はベアトルド光線にスキャンされたんだ。」
「気がつかなかった。…嘘じゃないぞ。さっきまで私の身体は何か恐ろしい病気に冒されていたようなんだ。ほんの 2、3時間前だが、身体が自分の思うように動かなくなってしまった。…力が抜けて立っていられなくなり、ジワジワと意識が遠のき最後には気を失った。」
「それは眠りだ。」
「…ゾッとしたぞ。毎日あんなことをしてるのか?」
「フン…すぐ慣れるさ。」
「ほかにも何か、あるのか? 心構えだけでもしておきたい。」
「君と遊んでる暇はない。そんなに芝居が好きなら独りでやることだな。」
「待ってくれ、ジャン・リュック!」 フォースフィールドに阻まれる Q。「痛いじゃないか、私だって今は神経があるんだぞ。…月が軌道から外れていると言ったな。私ならあらゆる月を知っている。…大きいのも、小さいのも。エキスパートだ、知恵を貸してやってもいい。だから出してくれ。」
「何百万人もの命に危険が迫ってるんだ。パワーがあるのか?」
「パワーはないと初めから言ってるだろ。だが知識ならある、この原始的な脳味噌の中にな? 私の手を借りずに何とかなる状況かね?」
連絡するピカード。「データ、第3拘留室に来てくれ。」
データ:『了解、艦長。』
「…フォースフィールドを、消去しろ。」
フォースフィールドが消えた。
ピカード:「まだ信じたわけではないが協力してもらう。真面目に働かないと、元に戻すぞ?」
外に出る Q。「喜んで協力するとも。嫌われてるようだが、心底憎まれていないだけマシというものだよ。」
データがやってきた。
ピカード:「データ少佐、Q が滞在してる間のエスコート役に君を任命する。機関部に行き、ラフォージを手伝わせろ。」
データ:「了解。」
Q:「宇宙艦隊※17のユニフォームが欲しいな。」
無視して出ていくピカード。
Q:「何をジロジロ見てる。」
データ:「あなたが真実を述べているか、考えていました。…本当に人間か。」
「私にとっては恥ずべきことだ。愚かな種族に仲間入りとはな。」
「皮肉ですね。…あなたは人間になったのを恥じ、私はなりたくてもなれない。」
怪訝な顔をする Q。
外を示すデータ。

廊下に出た Q。「人間はありふれたつまらん生命体だぞ? 何にも知らんくせに宇宙を探検したがってる。」
データ:「人間は実に知識欲が旺盛ですからね? それが進歩の原動力なのです。」
「それだけ不完全だということだ、いいかいデータ君。宇宙から見れば人間など取るに足らん、うらやむことはない。」
「うらやんではいません。」
「そうか?」
「感情がないので。これが厄介なのです。好奇心は人間並みにある。だから、ある疑問が常に頭を離れない。笑いとはどんなものか。怒りとは。私には永久に理解できません。」
「フン。泣いたり笑ったり大騒ぎする方がどうかしてると思うがね。」
「フン。」

コンピューターに軌道図が表示されている。
ラフォージ:「月がブレールに最も近づくのは、10時間後だ。この時を狙って、トラクタービームをワープ9 レベルまで上げる※18。エミッターが焼き切れないように、冷却剤も増やす。計算では、7時間続ければいけるはずだ。だが、一つだけ問題がある。何だと思う?」
データ:「…ブレールの大気に近づきすぎるので危険だ。」
「その通り。」
Q:「信じられんことだ。」
「何かわかったか。」
動きを変えない Q。「腰が痛むんだ。ズキズキする。嫌な気持ちだ、こういう場合何て叫んだらいいんだ。」
データとラフォージは同時に言った。「アーウ。」
Q:「アーウ! 痛くて真っ直ぐ立てないぞ。」
データ:「医療班、機関部へ来てくれ。」
ラフォージ:「Q、時間がないんだ。早くしないとブレールの人たちが…」
Q:「ああ大したプランだよ、やってみろ。月も君たちの大事な船も、木っ端微塵になるだけだ。」
「ほかに手があるか。」
「私ならまず現象でなく、原因を突き止めることから始める。」
「それならもうやったが、原因がわからないんだ!」
「こういう現象が起こるのは何か巨大な天体が、星系に対しほぼ直角の方向に進んでいるときと決まっている。例えばブラックホールだ。」
データ:「その影響から逃れる方法は?」
「…簡単だ、宇宙の重力定数を変えるだけでいい。」
ラフォージ:「何だって?」
「宇宙の重力定数だよ! それを変えれば月や隕石の質量だって変わるだろうが。」
「重力定数だと、そんなもの変える奴がどこに…」
「いいからやってみろ! あー、ドクターはまだ来てくれないのか。」
データ:「…つまりジョーディは、我々の能力では重力定数を変えるのは不可能だと言いたいのです。」
「…ということなら、仕方ない。」
機関室にクラッシャーがやってきた。
Q:「おお、ドクター・クラッシャー。この船はまるで囚人の監獄だな※19。」
データ:「Q は腰が痛むそうです。」
クラッシャー:「あらそう。」 調べる。「信じられないけどほんとに人間ね。腰の痛みは、精神的ストレスによる筋肉の痙攣よ※20。」
Q:「環境の変化が激しすぎて、悩みが多いんだ。」
「うーん、でも同情すると思ったら大間違いよ。あなたには散々悩まされたんだから。」 ハイポスプレーを当てるクラッシャー。
声を上げる Q。「…ずいぶん荒っぽい治療をするドクターだ。君にかかったら寝ている患者も飛び起きて逃げ出すだろう。」 叫ぶ。
ラフォージ:「いけるかもしれない。宇宙の重力定数は変えられないが、月の重力定数だけならワープフィールドで月全体を覆ってしまえば変えられる。軽くなって動かせるぞ。」
「役に立っただろ。ああ? 変だな。」
クラッシャー:「何なの?」
「胃の調子がおかしい。」
「痛む?」
「変な音がするんだ。」
「…お腹が空いたんだわ? ん?」

運ばれる料理。
Q はテン・フォワードに入った。「食べたことがないんだ、教えてくれ。」
データ:「まず自分が好きな食べ物を選んでください。」
「ああ、何が好きだ?」
「私は、食べ物を必要としません。時たま、半有機物栄養素を含んだシリコン溶液を摂取したりする程度ですから。」
「美味いか?」
「…味はわかりませんが、私のバイオ機能が潤滑に作動するという効果があります。」
「あまり美味そうじゃないな、ほかには。」
「あらゆる食べ物がありますよ? …複製機で好きなものを作れます。」
「何が好きかどうしてわかる。」
「うん。…私の見たところ、食べ物の選択は選ぶ人間のその時の気分で決まるようです。」
「私は暗い気分だ、何を選んだらいい?」
「カウンセラー・トロイの場合ですと、気分が暗いときはチョコレートですね?※21
「…チョコレート。」
「うん。…例えば、チョコレートサンデーなど。私自身が経験したわけではありませんが、心を安らかにする効果があるらしいのです。」
ウェイトレスに頼む Q。「チョコレートサンデーを 10個持ってきてくれ。」
ウェイトレス:「そんなに?」
データ:「10個も食べた人は、今まで見たことがありません。」
Q:「ものすごく暗い気分なんだ。それに何も食べてないのだから、10個ぐらいだろう。」
ドアが開く音がし、Q は振り向いた。「一番会いたくない奴が来たな。」
ガイナン※22が近づき、微笑んだ。「聞いたわよ、連続体から追い出されたんだって。」
Q:「人聞きの悪い、独立したと言ってもらえないかな。」
「独りじゃ何もできないくせに。」
「ところが私独りでも IQ は 2,000以上※23もあるんだ、悪かったな。」
データ:「人間になったと言っていますが、みんなまだ信用していません。」
ガイナン:「…そうなの。」 カウンターに置いてあったフォークを手にした。
それをいきなり、Q の手に突き刺す。
痛みの声を上げる Q。
ガイナン:「どうやらほんとみたいね。」
Q:「こいつがどんなに凶暴な生き物か知らんだろ。こんな奴をメンバーにしているピカードの気がしれん!」
「口の利き方に気をつけた方がいいわよ。怖いんでしょ、今まで全知全能だったのが何の力もなくなったんだから。」
「そっちこそ気をつけろ、私にはまだ仲間がいる。」
「ろくでなしの連続体ね? 今なら、犠牲になった者の気持ちがわかるでしょ。追い詰められる恐怖を、たっぷり味わうといいわ。」
「悪いがこれから任務で忙しいんだ。」
データ:「それはよい心がけです、Q。」
ガイナン:「データを見習うといいわ。」
Q:「ロボットに人間の心がけを教わろうとはな。」
データ:「ロボットではなく、アンドロイドです。」
「それは失礼。」
ガイナン:「その気持ちよ、あんたに必要なのは。」
「何だ。」
「懺悔よ。今までしてきたことを謝って、人間の慈悲にすがって生きていくしかないんじゃない。」 離れるガイナン。
レプリケーターから取り出された 10個のチョコレートサンデーが運ばれる。
Q:「ウエー、食欲はない。」

ブリッジのウォーフ。「艦長、センサーがエネルギープラズマをキャッチしました。座標 341、マーク 20※24、接近中。現在距離 12キロ。」
ピカード:「スクリーンへ。」
宇宙空間に、青いもやのような物体が見える。
ウォーフ:「有機的なエネルギーパターンをもっています。」
ライカー:「生命体か。」
ピカード:「コンタクトを取ってみてくれ。」
ウォーフ:「シグナルを受信。再生します。」
音が響く。
ライカー:「コンピューター、分析してくれ。」
コンピューター※25:『シグナルは一定パターンをもっていますが、いかなる解読マトリックスにも該当せず。翻訳は不可能です。』

生命体を見て騒ぐ、テン・フォワードの客。「何あれ。」「何だ。」 生命体は宇宙を移動している。
ガイナンはデータに言った。「カラマレイン※26よ。」
カラマレインは Q がいる側に近づくと、白い塊を生み出した。それは素早く窓を突き抜け、独りでいた Q の身体に入る。
逃げ出す周りの者。Q は全身が白くなる。
立ち上がっても変化はない。近づくデータ。

ウォーフ:「タキオンエネルギーのフィールドと衝突し、エネルギーが船内に突入! 位置は、第10デッキ前方※27。」
ピカード:「非常警報。」
ライカー:「ジョーディ、防御スクリーン出力アップ。」
ラフォージ:『出力、20%アップ。』
ウォーフ:「効果なし。」

ラフォージ:「40%アップ。」

ウォーフ:「効果ありません。」

データが Q に手を伸ばそうとすると、電流が走った。声を上げる Q。
Q は苦しむ続ける。それでも手を近づけようとするデータ。

ラフォージ:「パワー配分を、調整します。前方デッキに、出力を集中。」

ウォーフ:「タキオンエネルギーは全てシャットアウトされました。」

Q から光が消えた。倒れる。「助けてくれ、誰か助けてくれー!」
ガイナン:「落ちたものだわね。」


※17: 吹き替えでは「連邦」

※18: 本来科学的には、最も近い地点ではなく遠い地点で移動させる必要があるそうです。スタッフもミスを認めています

※19: 原語ではクラッシャーが来るのが遅かったことに対し、「宇宙艦隊は君をまた追放したようだな」と言っています。前回 Q が来た TNG "Q Who" の際には、クラッシャーが宇宙艦隊医療部づけでエンタープライズにはいなかったことを指したもの

※20: 原語では「これによると、典型的な腰の痛みね。筋肉の痙攣よ」

※21: TNG第56話 "The Price" 「非情なる駆け引き」より

※22: Guinan
(ウーピー・ゴールドバーグ Whoopi Goldberg) TNG第54話 "Booby Trap" 「メンサー星人の罠」以来の登場。声:東美江

※23: 原語では「2,005」

※24: 吹き替えでは「マーク210」

※25: 声:磯辺万沙子

※26: Calamarain

※27: 吹き替えでは「第10デッキから前方」

まだエンタープライズのそばにいるカラマレイン。
『航星日誌、補足。カラマレインと呼ばれるエイリアンの攻撃を受け、わずかながらダメージを負った。目的は Q への復讐だと思われる。Q に恨みをもつものはいくらでもいるだろうが。』
Q:「カラマレインはあまり友好的な種族とは言えない。姿はあの通り、イオンを帯びたガス体だ。」
ピカード:「彼らに何をしたんだ。」
「大したことでは。いつもの通り。」
ライカー:「苦しめたんだろ?」
「それは受け手の問題だ。苦しみとも取れるし楽しみとも取れる。…ユーモアのセンスがないのさ。どちらかと言えば君たちも、センスはない方だな。」
「Q を引き渡しましょう。」
「お、上手いジョークだ。君は素晴らしいユーモアをもってる。」
「本気だよ。」
ピカード:「もちろんだ。…こうなることは、わかっていたんじゃないのか?」
Q:「カラマレインのやることは予測不可能だ。知性はあるが気まぐれなんでねえ。」
「カラマレインに限らず君にはそこかしこに敵がいる。Q としての力を失ったと聞きつければ、襲ってこないわけがない。」
「…それは考えた。」
「ふーん、つまり『友人』だの何だのと言っていたが実は保護してもらいに来たと、そういうわけか。」
笑う Q。「君は頭がいいよ。私は人間をよく知っている。情にもろく哀れみや同情が、大好きな種族だ。何だって許してしまう。どんな相手でも。そこが人間の弱点だ。」
ピカード:「反対だな、それは強さだ。」
「好きなように呼ぶさ。とにかく守ってもらえると思った、たとえ迷惑でもな。」
ライカー:「君が恨みを買った敵など相手にしていたら身体がもたん。そんなことをする義務もない。」
ピカード:「その通りだ。たとえ君が人間でも断る。次の宇宙基地で降りてもらうぞ、なるようになるがいい。」
Q:「…待ってくれ、私をメンバーにすれば役に立つぞ。学習する、努力もする。」
データ:「彼は月の軌道修正の方法に関し、ジョーディに貴重なアドバイスを与えました。」
トロイ:「Q に弁護士がついたようね。」
「…ただ、事実を述べたまでです。」
ピカード:「ラフォージ、現状は。」
ラフォージ:『ワープフィールドの拡大率を変えるため、プログラムを変更中です。これほど大型の物体を包む設計になっていないので、パラメーターの修正が必要なんです。』

データ:『そうすると、フィールドの統合性が保てなくなる。』
ラフォージ:「そっちは、手動コントロールでカバーするよ。月の接近までの時間は、14分だ。」

ピカード:「データ少佐。Q と機関部へ行きラフォージをアシストしてくれ。ウォーフ。ブレールのコントロールセンターを呼び出せ。」
ウォーフ:『了解。』
観察ラウンジを出て行く一同。

廊下を歩く Q。「ピカードは私の腕を信じていないようだな。愚かな人間のやることなら何でもできるのに。」
データ:「あなたの能力を疑っているわけではありません。艦長が心配しているのは、その『愚かな人間』とあなたが上手くやっていけるかどうかということです。人間関係というものは非常に複雑ですからねえ。あなたは経験が少ないので、戸惑われるでしょう。」
「私は人間関係なんかに全く興味がない。ピカードに能力を認めさせたいだけだ。」
データはターボリフトに入る。「機関部へ。能力を発揮するためにはどんな場合でもそうですが、人間関係の形成が欠かせません。」
Q:「…面倒だなあ。」
「差し当たって大切なのは、チームで働く協調性です。」
「群れるのは苦手だ。パワーがあるときは独りで何でもしてきた。」

スクリーンに映る博士。『月の引力で海面が 10メートル上がりました、今もなお上昇中です。住民に危機感が広がりパニックを起こしかけています。』
ピカード:「月が最も接近した時点で次の作戦を実行します。」
科学者:『住民は既にシェルターに避難させました。でも月が衝突してしまったらどんなシェルターでも役に立ちません。…全てあなた方の肩に掛かっているのです。』
科学者を止める博士。『結果はどうあれ、あなたたちはよくやってくれた。…感謝してます。』
ピカード:「また報告いたします、それでは。」
ウォーフ:「艦長。カラマレインのプラズマエネルギーの出力が、アップしています。」
艦長席に座り、裾に手を伸ばすピカード。
ラフォージ:『ラフォージです。月が最短距離ポイントに達しました。今です、艦長。』
ライカー:「防御スクリーンも切らねば。」
ピカード:「わかった。ウォーフ大尉、外にいる Q の友達※28から目を離すな?」
ウォーフ:「わかりました。」

機関室に入る Q。「さあ、みんなこれからやるべきことはわかってるか?」
ラフォージ:「Q、みんな承知してる。わかってないのはあんただけだよ。出しゃばるな。」
「ラフォージ、私は知識でも経験でも君より優れている、遥かにな。当然だが? わかったら道を開けてくれ、悪いな。」
「その経験を生かして、ワープフィールドの統合性をマニュアルコントロールして欲しい。」
「バカを言うな、それでは能力の無駄遣いだ。」
「言われたとおりにしろ、やる気がないなら出ていけ! …データ、こっちでブリッジとの通信を頼む。」
データに話す Q。「命令するとは何様のつもりだ。」
データ:「この場の、指揮官のつもりでしょ? 間違っていません。」

命じるライカー。「機関部、月との距離を 640メートルに保て。」
データ:『ワープフィールド、オン。ワープコア、90%※29。』

ラフォージ:「フィールドコイル作動。トラクタービーム、スタンバイ。フィールド出力…」
コンソールに片肘をついている Q。
ラフォージは Q の腕を叩いた。「フィールド出力!」
Q:「217※30。」
ラフォージ:「推進エンジン全開。トラクタービーム、準備完了。」

ライカー:「防御スクリーン、解除。ビーム発射。」
エンタープライズはトラクタービームを衛星に向けて発射した※31

図を見るラフォージ。「ワープフィールド、拡大中。」
ピカード:『拡大はこれが限界か。』
データ:「限界です。月全体を包囲するには、足りません。」
『前進した方がいいか。』
Q:「これでは月の内部の圧力が不均衡になるぞ?」
ラフォージ:「待ってください。今フィールドを、変形してカバーします。」
「できるかねえ。」
「船を知らない奴は黙ってろ。修正完了、これで上手くいくはずです。ワープフィールドと、トラクタービームの出力をアップします。」
「失敗したら亜空間の圧力※32で月が粉々になるぞ、忠告はしたからな。」
「引っ込んでろよ!」
「そんな失礼な口の利き方は許せん!」
「データ。」
データ:「Q? あなたの協力を強く要望します。」
座り、腕を組む Q。
データ:「月の内部質量は減少しています。現在約250万メートルトンです。」
ラフォージ:「順調だな、動かせるぞ。推進エンジン、作動開始。」
インパルスエンジンで前進するエンタープライズ。

スクリーンにもワープフィールドの図が出ている。
データ:『月のフィールドの変化率は、現在 0.3%。0.4%。』
ウォーフ:「敵です、防御スクリーン。」
ライカー:「トラクタービーム解除。」
「カラマレインです。」
揺れるブリッジ。
ウォーフ:「タキオンエネルギー。スクリーンでブロックしました。」
ラフォージ:『今の攻撃で、ブレールの大気圏内に押し込まれました。』
降下していくエンタープライズ。大気圏に突入し、シールドが反応する。

データ:「船体温度上昇、2,000度※33。2,500度を超えました。」

ラフォージ:『推進エンジン、パワー全開!』
ウォーフ:「また攻撃してきました!」
揺れの後、白いベアトルド光線に包まれる。
ウォーフ:「防御スクリーンを突破。プラズマエネルギーが機関部に向かっています。」
ライカー:「ジョーディ、スクリーンパワーを上げられるか。」

ラフォージ:「今は大気圏からの脱出に全パワーが必要です。」
立ち上がる Q。音が大きくなった。
エネルギーの塊が、再び Q を襲う。足下の光を振り払おうとする Q。
それは全身に広がる。近づくデータ。
ラフォージ:「ストラクチャーフィールドでバリアを張れ。」
機関部員:「了解。」
Q の身体は上昇していく。それをつかむデータ。
2人の間には電流が発生し、エネルギーはデータの身体をも包む。叫び続ける Q。
ラフォージ:「効果なしだ。フィールドをマニュアルで調整しろ!」
電流が流れるデータの腕。
ライカー:『ラフォージ、船体温度は下がった。脱出したぞ。』
ラフォージ:「ただちに防御スクリーンにパワーを回します。」
光は消えた。落下する Q。
データも電流の名残を残しながら倒れ、動かなくなった。


※28: 吹き替えでは「データの友達」と誤訳

※29: 吹き替えでは「19%」

※30: 吹き替えでは「270

※31: 前のセリフでライカーが距離を 640m 取るように指示しており、エンタープライズの全長がほぼその長さであるにも関わらず、ここではかなり遠くからトラクタービームを発射しているように見えます

※32: subspace compression

※33: 吹き替えでは「2,200度」

医療室。
データの頭の回路が見えている。
ラフォージ:「ポジトロニックブレインの回路がやられました。」
ライカー:「修復できるか。」
「まず放電して、回路をセットし直してみます。…神経系統もつなぎます。」
クラッシャー:「流体システムへの過度の負担。電気ショック、人間なら死んでいるわ?」
Q はそばに立っている。「そんな大げさな言い方はよしてくれ、人間の私がこの通り生きているんだからな。…何だ、怖い顔をして。」
ピカード:「君はいつも自分のことだけしか頭にないようだな。命を救ってくれたデータのことが心配ではないのか。」
「大丈夫、助かるさ。」
ラフォージ:「浸透圧が上がりすぎてる※34。調整機をつけた方がよさそうです。」
クラッシャー:「皆さんしばらくこの部屋から出ていてください。」
出ていくピカードは、保安部員に命じる。「Q についていろ。」
Q を押しやる保安部員。
ライカー:「ジョーディ。」
ラフォージ:「はい?」
「月の軌道の方は。」
「…ちょっと外側に戻った程度でしかありません。次に接近したら、もう一度トライします。」
「防御スクリーンを消すと、またカラマレインが襲ってくるぞ。」
「副長。…それも Q のせいです。」

作戦室のピカードは、ドアチャイムに応えた。「入れ。」
Q:「君の言うとおりだ。自己中心的すぎたよ。だが昔はその方が都合が良かったんだ。」
「ここでも同じだと思うが?」
「…そんなに辛く当たらないでくれ。」 テーブルに腰掛ける Q。「君たちはいつか死ぬことを知っている。私は自分が死ぬなんて、考えたこともなかった。データがいなかったら、死んでいたかもしれない。…彼が飛び込んできてくれなかったらきっと死んでいた。…私は消滅し、誰も悲しまない。…そうだろう。…データは自分の身を犠牲にした。なぜだ。」
「それがデータの性質だ。人間性というものを学んだ結果だ。」
「自分に同じことはできるかと考えていた。だがきっと私には、できない。私は…自分が恥ずかしいよ。」
「私は、懺悔を聞く牧師ではないからな。何かの答えを期待しても無駄なことだ。…君が来てから悪いことばかり続いている。それに私はまだ疑ってるんだ、結局は全て嘘でこれもいつもの悪ふざけじゃないかとね?」
「悪ふざけさ、宇宙が私をからかっている。天国から地獄だ※35。…気分はどん底だよ。人間とは何か知れば知るほど自分が人間としては、何の値打ちもないのがわかってくる。パワーがなくては全ては恐ろしい。臆病だろう。惨めだよ。このままでは耐えられない。」 出ていく Q。
ピカードはカップのお茶を口にした。

データは起き上がっている。医療室に戻る Q。
クラッシャー:「大丈夫、直るわ。」
ラフォージ:「言語回路は修理中だからまだ話せないぞ。」
Q はデータに顔を近づけた。「君たちアンドロイドは、一番理想的な生き物だとよく言われるだろう。…感情も感覚もなく、痛みも感じない。…それなのに君は人間性を欲しがっている。もうもっているじゃないか。…人間らしいという点では、私より上だよ。」
出ていく Q。データはラフォージたちを見た。

Q はターボリフトに入った。「シャトル格納庫は。」
コンピューター:『シャトル格納庫は第4デッキです。』
「そこへ行け。」

報告するウォーフ。「艦長、予定外のシャトルが一機発進しました。」
ピカード:「…メインビューワへ。」
船の後方へ向かうシャトルが見える。
ピカード:「交信を取れ。」
ウォーフ:「交信できます。」
「シャトルに無断で乗っている者は誰だ。」
Q が映った。『わけは聞かないでくれ、ジャン・リュック。』
ピカード:「Q、今すぐ船に戻ってこい!」
『命令に従うのには慣れてないもんでね。』
ウォーフ:「艦長、カラマレインがシャトルに向かっています。」
『そりゃあよかったなあ、私がいなくなれば奴らに邪魔されることもないだろう。』
ライカー:「シャトルに防御スクリーンを張る、準備しろ。」
『おいおい、また人間の性分で困っている者を見たら助けずにはいられないなんて言うんじゃないだろうな。助けてもらっては迷惑だ。…このまま人間でいたら劣等感で打ちのめされる。ここで死ねば、少しは名誉になるだろう。』
ピカード:「Q、自殺することは名誉ではないぞ。」
『そうかもしれんな、臆病者が死ぬだけなんだ。どうでもいいさ、もう人間に飽きたんだ。』
通信は終わった。

シャトル※36の後方から、カラマレインが近づく。


※34: データの頭がアップになる前後で、ラフォージの使っている道具と持ち手が突然変わっています

※35: 原語では "The king who would be man."。ラドヤード・キプリングの短編「王様になりたい男」(The Man Who Would Be King、「王になろうとした男」で 1975年に映画化) から

※36: セリフでも言及されるとおり 1号シャトルということから、TNG第33話 "Unnatural Selection" 「D.N.A.」のシャトル・サハロフ (Shuttlecraft Sakharov) だとわかります

シャトルに迫るカラマレイン。

ピカード:「この判断が適切かわからないが。第3転送室、1号シャトルを格納庫に収納しろ※37。」
転送部員:『了解。』
ライカーの視線に気づくピカード。「気に入ってたシャトルなんだ。」
転送部員:『艦長、転送できませんでした。なぜかシャトルをロックオンできないんです。』
ライカー:「ウォーフ、カラマレインは妨害波を出してないか。」
ウォーフ:「いいえ、ですがシャトルに接近しています。」
「ジョーディ、1号シャトルに防御スクリーンを張れ。」
ラフォージ:『防御スクリーン拡張。…防御スクリーンが、動きません!』

ライカー:『原因は。』
ラフォージ:「…わかりません。」
『トラクタービーム、ロックオン。』
「…トラクタービームも、作動しません。」

ライカー:「一体どうなってるんだ!」

Q の乗ったシャトルに、声が響いた。『邪魔するぞ?』
壁を突き抜け、Q と同じ服装になっている男が現れた。「なるほど? …ああ、久しぶりだ。」
Q:「Q!」
もう一人の Q、Q2※38 は言った。「ハー! …人間のために犠牲になるって? 改心したのかな、ほーんのちょっぴりだけ。」
Q:「おだてるなよ。さっさと終わりにしたいだけさ、こんな惨めな人間の一生は。」
「フーア、みすぼらしい服だなあ。」
「ああ。何しに来たんだ。」
「ああ、ずっと監視してたのさ。」
「君がいるのはずっと感じていたよ。」
「バレてたのか、ハハ。君を追放したのは俺なんだ。」
表情を変える Q。
Q2:「人の言うことも聞かないで、宇宙のあちこちで騒ぎを起こすからだぞ? おかげでこっちは、謝ってばかりだ。ウンザリしたんだよ!」
Q:「人のことが言えるのか? デルティヴェド小惑星※39をばらまいたのは誰だったかな?」
「おい、話を逸らすな。俺だって帰りたいんだ。だが誰かが見張っててお前が悪さをしそうになったら、止めないとな。…たとえ今はこんな…下等な、存在でも。」
「そう言って、楽しんでいたんだろ。」
「怒るぞ? だが、人間ってのは面白いもんだなあ。お前の気持ちもちょっとはわかる気がするぜ。あれだけ自分たちを苦しめた Q を助けようとするんだから。」
「そこが人間という種の弱さだ。」
「今もそうさ。お前をほら、うーんそのビーム転送とやらで連れ戻そうとしてた。」
「そうか?」
「ああ、俺が止めてやった。」
「カラマレインが早く私を始末してくれれば君も帰れるのにな。」
「うーん、残念だがそっちも俺が止めたよ。自分を犠牲にする、行動をとったとあっちゃな。死ぬのを覚悟でカラマレインをおびき寄せるっていう犠牲的行動に出たのは、俺が助けると踏んでたからだろ? うん?」
「いや、犠牲になるつもりだったさ。」
「ああやってくれたもんだよ、これじゃ助けるしかないだろ。自分を犠牲にして死にましたなんて連続体に言えるか? 責められて質問攻めにされるのは、この俺だ。」
「私の罰は終わりかい、Q?」
「軽々しくものを言うな? …みんな見てる、みーんな聞いてる。…うーん、まあうーん、パワーを返してやるか!」
指を鳴らそうとする Q。
Q2:「もう面倒は起こすなよ?」 消えた。
指を鳴らす Q。服が宇宙艦隊の制服になった。
手の平を見つめる。「そういえば誰か私を殺したがっていたな。」
外のカラマレインが消え、Q の手の上に小さくなって現れた。
Q:「カラマレイン、あんなつまらんことで恨んでるのか。じゃあこんなことをしたらどうなるのかな?」
Q2 の声。『Q。』 壁から頭だけを突き出し、見ていた。
Q:「君がまだいるかどうか試しただけさ。」
息を吹く。カラマレインは飛んでいった。
うなずく Q。Q2 は消えた。

ブリッジのデータ。「艦長、カラマレインが消えました。シャトルもです。」
ライカー:「スキャンしてみろ。」
「しました。」
ピカード:「では…これが Q の最期ということか。」
席に戻ろうとするピカードとライカー。
だが、ブリッジに Q が現れた。「とんでもない、帰ってきたぞー!※40」 メキシコ風の格好で、ほかに楽器を持った者※41も並んでいる。
Q:「カーム、バーック!」 トランペットを吹く。
一緒に演奏を始めるマリアッチ・バンド。
無言のピカードとライカー。
Q が指を鳴らすと、2人の口に葉巻がくわえられた。
Q:「力が戻った。」
葉巻を取るピカードとライカー。
Q:「Q連続体の兄弟たちが許してくれたのだ。…私はもう不死身だ! 何一つ怖くない!」
ライカー:「めでたいな。」
「もっと喜べよ、ライカー。私の喜びを君に分けてやるぞ?」
ライカーの左右に、肌が露わな女性が現れた。身体をなでる。
ライカー:「余計な御節介だ、Q。」
Q:「鈍感な奴だなあ。昔※42はそうじゃなかっただろ。」
無言のライカー。
Q:「…いいだろう。」
消える女性たち。直後にウォーフのところに現れた。
ピカード:「Q!」
Q:「お祝いしたい気分なんだ。」
「ふざけるな!」
「…わかったよ。」
女性は消えた。
ピカード:「…全部消せ。」
Q:「あーあ。」 バンドもなくなり、Q は制服に戻った。
「…ほんとは文句など言いたくないんだが…」
「わかっている、また悪のりしてしまった。…人間の時は礼も言えなかったが、今なら言えるよ。ピカード艦長に感謝を込めて。」 Q は投げキッスした。「また、会う日まで。ああ、だが消える前に…借りを返しておかないとな。私の人間の先生に。データ、君に贈り物がある。スペシャルプレゼントなんだ。」
データ:「私を人間にしてくれると言うのなら…」
「いやいやいやいやいや、君を人間におとしめたりするものか。何だと思う? お別れに是非受け取ってくれ。」
わからないデータ。Q は消えた。
その直後、データの表情が変わった。嗚咽を抑えるような仕草を繰り返す。
そして突然、大きく笑い出した。胸を押さえ、笑いは止まらない。
見つめるクルー。
ラフォージ:「データ?」
データは急に表情を戻した。だがまた笑い出す。
微笑むトロイ。
ラフォージ:「何で笑ってるんだ?」
ラフォージを見るデータ。声が収まり、表情が戻っていく。「……わかりません。…いい気持ちでした。楽しくて。」
ウォーフ:「艦長、ブレールからの通信です。」
ピカード:「スクリーンに映せ。」
博士:『ピカード艦長、お見事でした。』
「…何です。」
科学者:『月です、どうやって軌道を戻したのですか? とにかく御礼を言います。ありがとう。』 腕を組み、礼をする 2人。
通信は終わった。
ライカー:「ほんとか、ウォーフ。」
惑星と衛星の関係図が表示される。
ピカード:「データ、分析してくれ。」
データ:「現在、月の高度は 5万5千キロメートル。正常軌道に戻りました。衝突の危険はもうありません。」
「……少尉※43。コースをニガラ4号星※44にセットしろ。」
操舵士官:「了解!」 操作する。
艦長席に座り、制服の裾を伸ばすピカード。「感謝の心が、Q の中に芽生えたのだと思うことにしよう。…少尉、発進…」
振り上げたピカードの指の間に、葉巻が現れた。
煙の中に裸の Q がいる。『君は甘いなあ。』 Q は消えた。
ワープに入るエンタープライズ。


※37: シャトル並みの大きさであっても、そのまま転送できることが初めて言及

※38: Q2
(コービン・バーンセン Corbin Bernsen ドラマ「L.A.ロー 七人の弁護士」(1986〜94) のアーニー・ベッカー役。「犯罪捜査官ネイビーファイル」(99〜2004)、「新アウターリミッツ」(00)、「ザ・ホワイトハウス」(01) に出演) 「Q2」という名前は区別するために脚本でつけられているだけで、実際には Q連続体のメンバーは誰もが互いに Q と呼んでいます。Q2 役には、TOS でコロスやトリレーン (!) を演じたウィリアム・キャンベルも候補に挙がっていました。声:秋元羊介

※39: Deltived Asteroid Belt
吹き替えでは「デルタ小惑星」

※40: 原語では "Au contraire, mon capitaine!" とフランス語を使っています。ピカードを mon capitaine と呼ぶのは、初登場の TNGパイロット版 "Encounter at Farpoint" 「未知への飛翔」でもありました

※41: 本物のミュージシャンですが、音楽は事前に録音

※42: 原語では「ヒゲを生やす前」

※43: 吹き替えでは「データ」となっており、次のセリフもデータのものとして訳されています。データは操舵士でもナビゲーターでもないのに、いつも「主任パイロット」と誤訳されるせいかもしれません。なおピカードの最後のセリフは、正しく「少尉」となっています

※44: 正確には「ニガラ4号星基地 (Station Nigala IV)」

・感想など
4度目の Q 登場エピソードは、これまでの悪役のイメージを変える転機となりました。力を失ったと言われても、視聴者同様に信じていないクルー。でもそれは事実で、コメディ色が強く出てきます。さらにデータとの関わりを通して、非常に完成度の高いストーリーとなりました。人間としての体験を話す Q、ガイナンとの確執、ガス状生命体カラマレイン、Q2 の登場と、ファンの間でも語り草になるシーンが多いですね。撮影が大変だったと語るデ・ランシーは、冒頭のシーンでは実際に全裸になったそうです。今回の件は VOY で Q が登場した時にも触れられています。
脚本の Richard Danus は TNG・DS9 で 4話のみ関わり、単独で担当したのは今回だけです。タイトルは「デジャヴ」をもじったもので、Q のエピソードに多いそのまま邦題になるのは初めて。原題の表記でフランス語風に "Déjà Q" と書かれている場合がありますが、実際の映像内ではアクセント記号はついていません。カラマレインとの確執はオリジナル小説 "The Q Continuum" で描かれているそうです。また、このエピソードは「亡霊戦艦エンタープライズ'C'」「アンドロイドのめざめ」と共に、CD-ROM ソフト「英語上達スタートレック」の題材に選ばれました。


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