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TOS エピソードガイド
第24話「宇宙の帝王」
Space Seed

dot

・イントロダクション
※1ブリッジ※2
操舵士のスピネリ大尉※3。「急速に接近中。」 ナビゲーターはハドレイだ。
スクリーンに映る宇宙空間。
カーク:「分析の結果を確認。」
スポック:「宇宙船の一種に間違いありません。」
「所属は。」
「不明です。しかし、地球のものではないでしょう。この辺まで飛んだ記録はありません。」
音が聞こえる。
ウフーラ:「信号が入ってきました。…船長、これは古いタイプのモールス信号です。」 ブリッジを歩くレズリー。
カーク:「そうらしいな。」
「C-Q、C-Q。」
「言われなくてもわかる。…地球の宇宙船ではないと言ったのは誰だね?」
スポック:「私がミスを犯すとなぜ嬉しそうな顔をするんです。」
「地球人の、感情的な欠陥だよ。…あれだ。」
宇宙船が映った。
カーク:「古いタイプの地球の宇宙船だ。DY-500※4 クラスに似てる。」
スポック:「もっと古くて、正確には DY-100※5 クラスですねえ。…船長。あのタイプは 1990年代に、製造中止になっています。」
「じゃ廃棄船で、信号は自動的にセットされてるのか。」
「それとも、宇宙人が拾って使っているかですね?」
「現状報告。」
クルー:『電磁スクリーン最高レベル。フェイザー砲準備よし。』
「生命探知機。」
マッコイ:『こちらマッコイ、生命探知機で心臓音をキャッチした。しかし非常に弱く一分に 4回なので人間とは思えん。』
スコープを覗くスポック。「分析機に反応、船内で何かの装置が作動しています。」
カーク:「全デッキ非常態勢。」
地球船に近づくエンタープライズ。横で静止した。


※1: ハヤカワ文庫のノヴェライズ版は、「宇宙大作戦 謎の精神寄生体」収録「宇宙種」になります

※2: 最初の操舵士の後ろ姿は、今回登場していないはずのスールーに見えます。他のエピソードの使い回しと思われます

※3: Lieutenant Spinelli
(ブレイスデル・マキー Blaisdell Makee TOS第37話 "The Changeling" 「超小型宇宙船ノーマッドの謎」のミスター・シン (Mr. Singh) 役。1988年2月に死去) 吹き替えでの階級は「尉」。声:小島敏彦、TOS・映画補完/DS9 マッコイ、DS9 2代目ブラントなど。水島敏彦となっている資料もあり

※4: DY-500
初言及

※5: DY-100

・本編
『航星日誌、宇宙暦 3141.9※6。謎の宇宙船を発見してから一時間が経過したが、我々が接近しても何の反応も表さない。分析機によれば何かの生命が存在し、装置が作動しているのだが危険はないようだ。』
ブリッジ。
カーク:「戦闘部門、戦闘態勢を維持。他のデッキは二次態勢で待機。」
ウフーラ:「…全デッキ確認しました。」
マッコイが来た。「何かの心臓音が絶え間なく聞こえてくるね。かすかにゆっくりとだが、私の計算では全部で 60 から 70個の心臓がありそうだ。」
カーク:「宇宙人のかな。」
「かもしれん。呼吸や新陳代謝の兆候は認められないからな。」
スポック:「船体は至るところに流星の傷がありますが、名前を読み取りました。『S.S.ボタニー・ベイ※7』です。」
カーク:「じゃ記録と照合できるな。」
「ところがリストにありません。何しろ当時の記録は断片的ですので。1990年代半ばは、いわゆる『世界大戦』の時代でした。」
マッコイ:「…優生戦争※8だ。」
「なるほど、優れた人種で人類改良を試みたんですね皆さんは。」
「ちょっと待ってくれ、皆さんってのは違うな。野心的な科学者が試みたんだ。タイプで言えば誰かのように理論優先で、感情は一切もたず…」
「私のせいでは…」
カーク:「議論している場合ではない。誘導光線を照射、相手の宇宙船にロックしろ。」
スピネリ:「誘導光線照射します。」
「ミスター・スポック、ブリッジを頼む。一緒に行ってみるかね、ドクター?」
マッコイ:「命令じゃなかったらあんまり気乗りは…」
「命令だ。…ああ 20世紀後半の、地球に詳しい者を連れて行こう。歴史家としては興味ある研究課題だと思うが。ああ何と言ったかな、えーっとマクギヴァーとか。」 ターボリフトに入るカーク。
スポック:「マクガイヴァーズ少尉です。」

頭部の像が置いてある部屋に入る女性士官。戦士の絵を描いているキャンバスもある。
通信が入った。『こちらスポック、次の者は至急転送ルームへ出頭。技術主任スコット、マクガイヴァーズ少尉。確認せよ?』
絵を描くためのエプロンを着けようとしていたマクガイヴァーズ※9は、コンピューターに触れた。「マクガイヴァーズ、出頭します。」
ほかにも絵や彫刻が置かれた自室を出るマクガイヴァーズ。

転送機を操作するスコット。「私達が行くのを待ってたようですねえ。船内の温度が上がり、酸素が増えてきました。」 隣にはカイル※10転送技師。
カーク:「面白いな。用意はいいか。」
マッコイ:「いや? 私は医者としてこの船に乗り込んだんだぞ? 変な装置で宇宙を行ったり来たりさせられるのは御免被りたいね。」
「年寄りには少しきついかな? 歴史家はどうした。」 転送室に入るマクガイヴァーズに言うカーク。「あ、早く来たまえ。えーっと…」
マクガイヴァーズ:「マクガイヴァーズです。」
「…転送。」
操作される転送機※11

地球人らしき女性が、区切られた部屋で眠っている。ほかにもたくさんの同じような区画が並ぶ。
転送されてくる 4人。
カーク:「スコッティ。」
スコット:「明らかに地球型の構造をもち、20世紀の船です。古いタイプの原子力に、ゴツい装置。『トランジスターユニット』と呼ばれてたもんでしょう。バラバラに分解して調べたいですねえ。」
マクガイヴァーズ:「これは冬眠用の宇宙船※12です。」
カーク:「人工冬眠かね。」
「はい。古い写真で見たことがあります。2018年までは宇宙旅行に要する時間が非常に長かったためです。ほかの星へ行くのに何年もかかった時代ですので。」
「うん。とすると、まだ生きてるかもしれんな。…何世紀も冬眠して。」
マッコイ:「理論では可能だが、実際にこんなに長く冬眠したのは聞いたことがない。」
スコットが操作すると、ライトがついた。
マクガイヴァーズ:「立派な人たちばかりですこと。」
トリコーダーを使うマッコイ。「カーク、新しい反応だ、光で何か変化が起こったらしいぞ。」
マクガイヴァーズ:「ここを見てください。」
カーク:「スコッティ。」
スコット:「…自分にもわかりません。」
男が眠っている。
マッコイ:「何かの影響で心臓音が大きくなった。しかも一分 8回に増えたぞ。同時に、呼吸の兆候も現れ始めた。」
スコット:「この男が最初に目を覚ますように、セットされていたんですかね。」
カーク:「リーダーかな。」
見つめるマクガイヴァーズ。
カーク:「リーダーか。少尉!」
マクガイヴァーズ:「…はい。多分リーダーではないかと思われます。リーダーが最初に目を覚まし状況を判断するのが一般的でした。」
マッコイ:「…鼓動が一分 40回に増えたぞ? それに、呼吸も次第に大きくなってきた。」
「…たぶん北インド地方の人でしょう。シーク族みたいだわ? 勇猛果敢な人種です。」
「一分 52回※13になってまだ増えてる。」
カーク:「ほかは。」
スコット:「変化はありません。人種は統一されてなくて、西洋、ラテン、東洋などが混ざってますね。」
マクガイヴァーズ:「20世紀の男性が生き返ろうとしてるんですわ。」
マッコイ:「どうかな? 鼓動が弱くなった。」
カーク:「回路がショートしてる。」
スコット:「ゴミのせいですか。」
マッコイ:「一分 30回にまで落ちてきたぞ。不安定になった、死ぬぞ!」
マクガイヴァーズ:「何とかしてください。」
カーク:「どうだ。」
スコット:「簡単に修理できません。」
「ここから出したらどうなんだ。」
マッコイ:「出さないとすぐに死ぬ。」
男の身体が震え始めた。
カークはガラスを割った※14。煙が吹き出している。
ケースを開けると、自動的に男の身体が前に出てきた。
息をつく男。声を出そうとしている。
耳を近づけるカーク。
男:「どの…くらい…。」
カーク:「どのくらい? 冬眠の期間か。…予想では 300年※15だね。」 コミュニケーターを取り出す。「カークからエンタープライズ、どうぞ。」
ウフーラ:『こちらエンタープライズ、船長どうぞ。』
「ドクター・マッコイに焦点を合わせろ。こちらで発見した患者を、至急連れて戻る。」
マクガイヴァーズ:「夢のようだわ。」


※6: 吹き替えでは「0401.7429」

※7: S.S. Botany Bay
撮影に使われたミニチュアモデルは、ワシントンDC のスミソニアン国立航空宇宙博物館に展示されています。書籍 "Star Trek Chronology" 用に、打ち上げ時のモデルを Greg Jein が製作。VOY第50話 "Future's End, Part I" 「29世紀からの警告(前編)」にて、SETI 研究所にあるレイン・ロビンソンの机に飾られています (1996年の世界)

※8: Eugenics Wars
初言及

※9: マーラ・マクガイヴァーズ Marla McGivers
(マドリン・ルー Madlyn Rhue 2003年12月に死去) 階級は原語では大尉と言っていますが、実際には階級章はないので少尉以下です。吹き替えでの姓は「マクガイヴァー」。声:赤沢亜沙子、DVD・完全版ビデオ補完では野沢由香里、FC ボーグ・クイーンなど

※10: Kyle クレジットでは転送技師 Transporter Technician
(ジョン・ウィンストン John Winston) TOS第21話 "Tomorrow Is Yesterday" 「宇宙暦元年7・21」以来の登場。セリフなし

※11: スコットも一緒に転送されるにも関わらず、操作する手のアップは明らかにスコットのものです (制服の色、階級章)。本来は隣にいたカイルにならないと変ですね

※12: sleeper ship

※13: 吹き替えでは「82回」

※14: ここでカークが腰につけたフェイザーを落としており、それ以降後ろにいるマッコイがしきりに気にしている様子がうかがえます

※15: 原語では全て「2世紀」または「200年」(該当する言葉がない個所もあり)。これでは現在が 22世紀になってしまいますが、この第1シーズン時点では設定が固まってなかったため。TOS第2話 "Where No Man Has Gone Before" 「光るめだま」での、S.S.ヴァリアントが打ち上げられた年代とも矛盾します。ただし原語ではカンの前でしか時代を言っておらず、嘘をついたという可能性もあります。さらに吹き替えでは「400年」で、24世紀になっています。「0401.…」といった吹き替えの宇宙暦は、400年後と言いたいのかもしれません (TOS第21話 "Tomorrow Is Yesterday" 「宇宙暦元年7・21」の脚注※19・57 参照)

『航星日誌、補足。S.S.ボタニー・ベイを発見してから 10時間が経過した。この謎の宇宙船はその間に技術および医学の専門家たちの手で徹底的に調査され、冬眠を続ける乗組員たちの復元は先に転送したリーダーと思われる男の容体を診た結果で行われることになった。この男は、恐るべき回復力をもっているようだ。』
医療室。
治療を行うマッコイたち。

ブリッジのカーク。「カークから調査班。」
スコット:『スコットです。』
「スコッティ、日誌か何か記録が残ってないか。」

ボタニー・ベイのスコット。「何もありません。出発したとき、既に冬眠してたらしいですね。」

カーク:「生存者は。」
スコット:『装置の故障のため、12名は死亡。残り 72名です。うち、女性 30名。』
「以上だ。…72名生きてる。1990年代の人間が 72名。こりゃ大発見になるかもしれんぞ。彼らによって当時の多くの謎が解かれるはずだ。」
スポック:「謎に満ちた暴力の時代ですか。S.S.ボタニー・ベイの記録はどこにもありませんね。この DY-100 クラスの宇宙船は太陽系内に留まる飛行に設計されたもので、簡単な原子力エンジンで太陽系を出ることは当時不可能と考えられていました。ほかの太陽系へ行ける、確率は一万分の一ぐらいしかなかった時代です。…なのになぜ記録がないんでしょう。」
「ボタニー・ベイか。確かオーストラリアの海岸にそういう名の流刑地があったよな? もしそれから取った名前だとしたら。」
「凶悪犯追放船かもしれないというわけですか。それはおよそ、非論理的な結論ですねえ?」
「ほう?」
「当時地球は暗黒時代下にあり、全人類はまさに抹殺されようとしていました。そんな時に最新型の大事な宇宙船を凶悪犯のために使ったりしますか、無駄なことですよ。」
「…そうか。じゃ白紙に戻して、君の理論を聞きたいな?」
「…理論を組み立てるには、時に事実が必要ですねえ。…ところがまだ、ありません。」
「だから落ち着かず、イライラしてるのか?」
「…イライラしてる?」 片眉を上げるスポック。
「そうだ。」
「そんな感情は、持ち合わせてません?」
笑うカーク。「それはどうも、失礼したな? …彼らは危険人物だと思うか。」
スポック:「証拠不十分は常に危険を招くものですよ。」
「では、まず証拠を集めよう。曳船準備。」
スピネリ:「わかりました。」
「第12宇宙基地※16へ向かう。」
スポック:「はい。」

医療室のモニターを見るマッコイ。「これで終わりだ。」 装置を男に近づける。
カークがやってきた。「どうだ。」
マッコイ:「助かるよ。」
「よくやった。」
「いやいや、私の腕のおかげじゃない。この男が死を拒否する力をもってるからだよ。見たまえ、今の状態でも彼の心臓弁膜は私達の倍も動いてる。…肺の効率も 5割高いね。」
マクガイヴァーズが入った。
カーク:「品質改良人間か。優生戦争の目的はこれだった。」
マッコイ:「片手で 2人ぐらい持ち上げるだろう。これで身体に比例した頭脳をもってれば大変だぞ。」
マクガイヴァーズ:「ドクター、どうですか。」
「何とか助かりそうだね?」
カーク:「ちょっと話がある。」 隣の部屋に出る。「少尉、今日の君の行為は調査班の一員としてだな…」
マクガイヴァーズ:「わかってます、すみません。」
「…今さら言うまでもないが、エンタープライズの運命は君たち一人の行為によって左右されることもある。…この場合もし君がだ、ある男性に個人的に惹かれて…」
「個人的にではなく職業的にです。私は御存知のように歴史家で、生きてる過去の人間を発見した場合には…当然、普通の人より興味をもちます。」
「なるほど。当時の男性は冒険を好み勇敢で、魅力たっぷりというとこか。」
「はい、それは認めます。」
「よし。…素直なのはいいが、あまり気を奪われないように。以上だ。」
「はい。」 マクガイヴァーズは出ていった。
※17マッコイ:「船長になったのは失敗だったなあ。心理学者の方が似合いそうだ。」
カーク:「そうかな、フン。」 去った。
身体を起こす男。目を押さえる。
手が震えている。腕を伸ばし、両手を合わせる男。
マッコイは気づいていない。「研究室。…新しい事実はわかったかね。」
その声を聞く男。
クルー:『特に変わりはありません。』
マッコイ:「よし、以上。」

男は壁に飾られている、古い医療器具を見た。
まだマッコイは男の様子に気づいていない。
ナイフを手にする男。
マッコイは病室に戻った。だが男は元通り横になっている。
男の目を確認するマッコイ。その時、男はナイフをマッコイの首元に突きつけた。
マッコイ:「…喉を絞めるのか切るのか、早くどっちかに決めろ。」
男:「アメリカ人か? 夢で会ったような気がしたが、ここはどこだ。」
「早く! …私は医者だ。患者が医者にナイフを突きつけてもいいのか。」
「俺の質問に答えろ。」
「私を殺すなら頸動脈を切るのが一番簡単だ。耳のすぐ下にある、やるんなら早くやれ!」
男は手を離した。「勇敢な男は好きだ。」
ナイフを取るマッコイ。「…早く何とかしてもらいたかっただけだよ。ここは連邦宇宙船※18エンタープライズで、君の船は曳船されてる。」
男:「かすかに覚えてるが、誰か言ったかね。俺が 300年も冬眠していたとか。」
「言ったよ。」
「…船長はどこだ、聞きたいことがある。」
通信機に触れるマッコイ。
カーク:『ブリッジだ。』
マッコイ:「患者が船長に何か聞きたいそうだぞ。」
『すぐ行く。』

男は入ってきたカークを見る。
カーク:「ジェイムス・カーク。エンタープライズ※19の船長だ。」
男:「君が船長か。」
「…姓名は?」
「…先に聞きたいことがある。目的地はどこだ。」
「ガンマー400恒星系※20の惑星、第12宇宙基地へ航行中だ。そこに管轄司令部がある。態勢がつかめたかね?」
「…それで、部下は?」
「現在 72個の冬眠装置が作動している。」
「……復元してくれるな。」
「第12宇宙基地へ着いてからだ。」
「なるほど。」
「君の番だ。」
「…名前はカン※21だ。」
「姓はないのか?」
カン:「ない。」
「…出発した正確な日にちを教えてもらいたい、1990年代ということはわかるが。」
「気分が思わしくない、目まいがするぞ。先生、尋問は時を改めてまたにしてもらえないかな。」
「簡単なことを 2、3 聞くだけだ、すぐに終わる。例えば、飛行の目的とか。」
マッコイ:「カーク。…少し間をおいた方がいい。」
カン:「…休養をしている間に何か読むものでも貸してもらえないかな。…これでも昔エンジニアの端くれだったのでできることならこの宇宙船の説明書など読ませてもらえれば、ありがたいがね。」
カーク:「冬眠している間に…300年も経ったんだからな?」
笑うカン。「そうだ。」
モニターを近づけるカーク。「自由にどうぞ、スイッチを押せばスクリーンに映る。ライブラリーテープとの連動操作は、ドクターが教えてくれる。」
カン:「ありがとう、船長。協力的だな?」
カークはマッコイを見た後、医療室を出ていった。

ブリッジに戻るカーク。「私が予想していた 20世紀の人間とはだいぶ違う。」
スポック:「技術的なテープに随分関心をもってるようですね。」
「当然だよ、300年の遅れを取り戻すためには人並み以上の努力をしないと駄目だ。…どうだね。彼は優生学的に創り出された人間だと思うか。」
「その可能性はありますね? …年齢的に見ても。1993年に創り出された若いスーパーマンたちは、40以上の国を征服したという記録があります。」
「スーパーマンとは大違いだ。侵略的で傲慢で、ついには仲間割れを引き起こしてる。」
「科学者たちが一つ見落としたからですね。優れた才能が、大きな野望を生み出す事実を。」
「面白い話だな。彼らが創ったのは結局、アレキサンダーやナポレオンだ。」
「当時の記録を集めて検討した結果、私の推測では 80 ないし 90名の若いスーパーマンたちが行方不明になったと思われます。…集団失踪とでも言いますか。」
クリップボードを受け取るカーク。「そういうことは、歴史の本には出てない。」
スポック:「平和を愛する人々に、90名のナポレオンがまだ世界征服を狙ってるかもしれないと公表できたでしょうか?」
スポックを見るカーク。

医療室に入ったマクガイヴァーズ。「私はこの船の、歴史学者よ…」
カン:「マーラ・マクガイヴァーズだな?」
「ええ。」
「俺の再生を手伝ってくれたとか。」
「多少はね?」
「この宇宙船には素晴らしいものが乗っているのに、そのことが説明書には書いてない。」
「素晴らしいものって?」
「……美しい女。…私はカン。座って話をしよう。」
「…あなたの船の歴史を、少し調べたの。旅の目的とか…」
「どうして君はそんな引っ詰めた髪型をしているのかね。」
「…楽だから。」
「魅力的じゃない。」 近づき、マクガイヴァーズのあごに手を伸ばすカン。髪留めを取り、鏡の前に立たせた。「ほら。柔らかい。綺麗な髪なのに、もったいない。」
「私は仕事で来たんです。」
「俺といて楽しくないか?」
「私は…科学的な興味で、過去を知るために…20世紀の人間と実際に話がしたいと思って…」
「ほら。柔らかくて、自然だ。この方がいい。」
「出直してくるわ、あなたが話す気になった頃に。」
カンはマクガイヴァーズの腕をつかんだ。「嬉しかった。…また来てくれ。」

並べられていく料理。ウフーラがスピネリと話している。
礼服を着たマッコイが食堂に入る。「こりゃまたすごいね。宇宙艦隊の司令官でもお出ましか?」
スポックやスコットも正装だ。
カーク:「カンの歓迎会だよ。マクガイヴァーズ少尉のアイデアだ。少尉はどの程度、彼に…惹かれてるかな。」
マッコイ:「ロマンスを規制する規則はないはずだよ。」
「船長としての立場上気になるんだ。」
「彼は、磁力のようなものをもってる。それは君も感じたろ。そうでなくてもマクガイヴァーズは過去に夢中だから、かなり危険だね。」

女性士官に礼を言うカン。「ありがとう。」 着替えており、マクガイヴァーズの部屋に入る。「ディナーパーティの会場へ案内してもらおうと思ってね。」
カンは絵を見る。「素晴らしい、大した腕だ。」
マクガイヴァーズ:「フラヴィアスという剣士で、多くの決闘に…」
「俺の好きな髪型に変えたな?」 マクガイヴァーズの髪をなでるカン。「美しい。…どれも全て過去の勇士ばかりだ。リチャード、リューフ・エリクソン、ナポレオン。好きなのかね、彼らが。」 布が掛けられている絵を見ると、それは
描きかけのカンだった。「…光栄だな。…ありがとう。注意しておくが、勇士は欲しいものは必ず取るぞ。」
キスするカン。カンの背中に手を回すマクガイヴァーズ。

テーブルについているカーク。「迷惑だとは思うが、部下たちが君の体験談を是非聞きたいと言ってね。なぜ宇宙へ向かったんだ。」 グラスに注がれる酒。
スポック:「なぜ歴史に、載らなかったかも不思議ですね。」
カン:「冒険だよ、冒険を求めてだ。もう地球に魅力はなかった。」
「当時、戦いが行われたでしょ? 独裁政治を、打ち破るために。」
「独裁政治。人類統一を図る政治ではないかな?」
「人類統一。鞭一つで動く動物のようにですか?」
「……当時のことは全てこの俺が誰よりもよく知ってる。…人々が偉大な夢を描き、野望に酔いしれた。」
「多くの卑劣な、専制君主の下でですか。」
「終局的には、一人の下に統合できたはずだ。…シーザーのローマのように。ローマの業績を考えたまえ。」
「……つまりあなたは独裁者側の…」
「君は優れた戦略家だな、船長。まず適当に部下に攻撃させておいて、その間に敵の弱点を探るつもりだ。」
カーク:「君は軍事的に表現するのが好きなようだが、今夜はふさわしくないね。……ここは社交の場だ。」
笑うカン。「社交という名の下にいかに多くの戦いが隠されてきたか知っとるかね? …もっと心を開いて話し合った方がいいな、素直に。」
カーク:「何かが怖くて逃げたのかね?」
「怖いものなどない。」
「人類のために勇気が望まれていた時じゃないか。」
「我々は地球統一を提案した!」 テーブルを叩くカン。
「『我々』。」
「……結構だな。嬉しいか。」 カンはグラスを置いた。「では俺はこれで失礼する。諸君、また目まいがしてきた。部屋で休養したいのだが、構わんかな?」
カンを見るマクガイヴァーズ。カンは食堂を出て行った。

部屋を歩いていたカンは、ドアブザーに応えてボタンを押した。
中に入るマクガイヴァーズ。顔を背けるカン。
マクガイヴァーズ:「一言謝りたかったの。あなたをあんな風に扱って。」
カン:「彼らの気持ちはわかる。彼らにとって俺は謎の人物だからな。」
「私は別よ? あなたが誰か知ってるもの。」
「…本当か。」
「ええ。エリクソンや、ナポレオンに負けない勇士よ? …でも現代社会が果たしてお気に召すかしら。」
「気に入らなければ気に入るように変えるまでだ。」 近づくカン。
「それは駄目。」
カンはマクガイヴァーズを押しのけた。「行け! いるならいるで構わんが自分の意思をはっきりと表現しろ。全て。……どうする。」
マクガイヴァーズ:「もう少しいるわ?」
「あと何分ほどいていただけるのかな、女王様?」
「そんな意味じゃなくて…」
「不明瞭な表現は避けていたいならいさせてくれと、頼め。」
「もう少しいさせて。…お願い。」
カンはうなずき、手を差し伸べた。マクガイヴァーズの手を握る。
手を強く握られ、座り込むマクガイヴァーズ。
カン:「もっと心を開け。俺に心を開いてくれるか?」
マクガイヴァーズ:「はい。」
「俺はこの宇宙船を乗っ取る。…協力するか。」
「いくらなんでもそんなこと…」
「お前の協力が必要なんだ。」
「…誰も傷つけない?」
「俺に条件を出す気か!」
「いいえ!」
「では協力してくれるか。」
「お願い、それだけは許して…」
「なら用はない!」 突き飛ばすカン。「早く下がれ!」
目に涙を浮かべるマクガイヴァーズ。「嫌よ。…約束するわ。あなたのためなら何でもします。」
カンは微笑んだ。


※16: Starbase 12
初言及

※17: TOS の国内オンエア分では、カット部分が存在しています。完全版ビデオ (第1シーズンの一部) および DVD には吹き替えつきで完全収録されており、このエピソードガイドでは色を変えている個所にあたります (スーパーチャンネル版との比較)。LD では基本的に、その部分だけ字幕収録です

※18: U.S.S. の意味として、TOS第1話 "The Cage" 「歪んだ楽園」同様 "United Space Ship" と言っています。現在では "United Star Ship" とするのが一般的

※19: 吹き替えでは「エンタープライズ

※20: Gamma 400 star system

※21: Khan
(リカルド・モンタルバン Ricardo Montalban メキシコシティ生まれ。映画「闘牛の女王」(1947)、ドラマ「ファンタジー・アイランド」(78〜84)、"The Colbys" (85) に出演) 初登場。声:森山周一郎 (DVD・完全版ビデオ補完も継続)

会議室のモニターに映るカンの写真。
カーク:「名は、カンだ。彼は自分で名乗った。」 きちんとした服を着た、別の写真に切り替わる。「これは、カン・ノニエン・シン※22だ。」
スポック:「1992年から 96年まで、アジアから中東までを支配した独裁者です。地球の 4分の1 以上ですね。」
マッコイ:「最後まで頑張った独裁者だな?」
スコット:「今だから言いますけどね、私はこのカンを密かに尊敬してたんですよ。」
カーク:「優れた独裁者だったが、危険でもあった。ある意味では確かにスーパーマンと言えたな。強くて勇敢で野心的で積極的だ。」
スポック:「これは驚いた。凶悪な独裁者を讃えるつもりですか。」
「我々人類には野蛮な行為を好む血が流れてる。恐ろしいことだがこれは事実だ。」
スコット:「…それにカンは虐殺してないし…」
スポック:「自由はありましたか?」
マッコイ:「自ら仕掛けた戦いもないし。」
「待ってください。」
笑う 3人。
カーク:「君はどうも誤解してるようだね。我々はもちろん独裁政治には真っ向から反対だ。」
スポック:「…わかりませんね…」
「理論ではか。こちら船長。ミスター・カンの部屋を 24時間監視。ただちに実行しろ。」

宇宙艦隊の制服を着たカンの部屋に、カークが入る。保安部員が外で監視している。
瞑想していたカンは、カークに気づいた。「…申し訳なかったな、ちょっと…考え込んでたので。…どういうわけだね。ドアをロックして見張りをおいたりして。」
カーク:「カン・ノニエン・シンに対して失礼な行為かな?」
「…なるほど。ハ、コンピューターで私の素性を遂に読み取ったらしいな。」
「そろそろ答えてもらいたい。……まず、なぜ宇宙に脱出したかだ。」
「…新しい人生、新しい世界を求めてだ。まあ、ほかにもあるが君には理解できんだろう。」
「なぜだ。優生学的に創られた人間じゃあないからか?」
「優れた才能の持ち主であることは認めるが、私と比較すれば遥かに劣る。肉体的にもだ。実は 300年の間に人間がほとんど進歩してないのを見て驚いているところでね、もちろん…技術は超速の進歩を遂げたが、肝心の人間自体はほとんど変わっていない。……20世紀の人間でも、300年経った今でも十分生きていけそうだよ。」
立ち上がるカーク。
カン:「ほかに何か質問はあるか。」
カーク:「以上だ。…もう聞くことはない。」 カンの部屋を出て、ロックする。
保安部員が立つ※23
カンは立ち上がり、ドアの前で両手を合わせて息をする。端に手をかけ、一気に開けた。
殴り飛ばされる保安部員。

マクガイヴァーズはカイルにフェイザーを向けていた。「離れて。」 コンソールから離れるカイル。
転送室にカンがやってきた。カイルの首をつかんで倒す。
フェイザーを奪い、転送台に立った。操作するマクガイヴァーズ。

ボタニー・ベイ。
思い思いに身体を伸ばす男女※24たち。カンも当時の服装に戻っている。
声をかけるカン。「オットー※25。ホーキン※26。旅は終わった。再び戦いを始めるが今度は地球ではなく…宇宙征服だ。」 ホーキンにフェイザーを渡し、女性のカティ※27に声をかける。「頼むぞ。」

エンタープライズ。
スピネリ:「コース異常なし。速度、ワープ2。」
カーク:「よろしい。」 呼び出しに応える。「ブリッジ。」
クルー:『大変です。船長、カンが逃げました。』
「非常警報を鳴らせ。」
ウフーラ:「非常警報を鳴らします。通信用のチャンネルが故障してます!」
ターボリフトへ向かうカーク。だがドアが開かない。
スポック:「ターボエレベーターも故障です。…動きません。」
コンピューターを操作するカーク。「環境調整装置もやられた。」
スポックが見る。「駄目です、基本回路を調べないと。」
カーク:「技術部に。スコッティ、カークだ。」

通信に応えようとするスコット。「船長!」
だが機関室はカンたちに占拠されていた。スコットは殴り倒される。

カーク:「スコッティ、どうかしたのか。」

カン:「残念ながら君の質問には答えられない状態だ。…この船はもらったぞ。ブリッジに通じる生命維持装置のスイッチを切り、出口は全て閉鎖した。交渉に応じよう。」

カーク:「…全デッキに神経ガス放射。」
スポック:「駄目です。全てカンにコントロールされています。当船の説明書を夢中で読んでいましたからねえ。」
「…第12基地に連絡。」
ウフーラ:「チャンネルは全て閉鎖されて使えません。」
スポック:「見事だ。すでにあらゆる手を打ってある。」
カン:『そろそろブリッジの空気が薄くなってきたと思うが、どうだ降伏するか。』
カーク:「問題外だ。」

カン:「結果を考えたまえ、船長。降伏しないとブリッジにいる諸君は全員窒息する。」


※22: Khan Noonien Singh

※23: カークが部屋を出てドアを閉める時と、その直後に部屋の前に立つ時では、保安部員が違っているような? (髪の毛の量が…)

※24: 最後尾にいる女性のどちらかが、ボタニー・ベイ精鋭女性護衛 Botany Bay elite female guard
(ジョーン・ジョンソン Joan Johnson) だと思われます。ノンクレジット

※25: Otto
エキストラ

※26: Joaquin
(マーク・トビン Mark Tobin TOS第66話 "Day of the Dove" 「宇宙の怪! 怒りを喰う!?」のクリンゴン人 (Klingon) 役) 映画 ST2 "The Wrath of Khan" 「カーンの逆襲」でも、似た名前のヨアキム (Joachim) という部下が登場しますが、エンサイクロペディアでは別人扱いになっています (俳優も別)。声:神山卓三、旧ST4 スコットなど

※27: Kati クレジットではクルーの女性 Crew Woman
(キャシー・アート Kathy Ahart) 名前は訳出されていません。セリフなし

カーク:『宇宙暦 3142.8※28。エンタープライズ※19は、冬眠 300年の独裁者カンに奪われてしまった。ここブリッジの空気はもうほとんどない。』
ボタニー・ベイから離れるエンタープライズ。
何とか立っているスポック。
カーク:「…勇敢な部下たちも力尽きてしまった。」 クルーが倒れている。「ウフーラ大尉※29…第一級技術班員トウーリ※30、およびハリソン※31。…スピネリ大尉。…残るはスポックだけだ。…私はこの事態に全責任を…全責任を…」 床に倒れた。

話すカン。「最後に宇宙を支配するのは、我々英雄だ。」
意識を取り戻したウフーラたちは、カンの部下にフェイザーを向けられている。
カン:「確かに技術は改良されている。…その結果有効な機械が造られ生産能力が何倍かに増したかもしれん。しかし人間が改良されれば、うるところは計り知れない。」
会議室のテーブルには、マクガイヴァーズがついている。
カン:「私がそのいい例だ。協力しろ。後悔はさせん。…この船を自由に操れる者の腕が必要だ。」
スコット:「カーク船長はどこにいる!」
「もっと理解力のある男と思ったが。…通信関係の担当はお前だったな? スクリーンに映像を出してくれ。」
動こうとしないウフーラ。カンは合図する。
ホーキンによって、テーブルに座らされるウフーラ。ホーキンを睨むと、殴られた。
また目を向けるウフーラ。手を振り上げるホーキン。
マクガイヴァーズ:「やめて!」 ウフーラを座らせる。
カン:「…ゆっくりと御覧願おうか。ブリッジで共に窒息するとなると諸君の間に悲壮な団結心が生じたようだが、誰かがほかの場所で窒息するのを眺めるとなると事情は違ってくるはずだ。では映像を出したまえ。」
映像が映し出された。
カン:「当船には医療用の減圧室※32があることはもちろん知ってるな、ドクター。」

目盛りがついた機械。

カン:「それにあの計器のもつ意味もだ。」

下がり続ける数字。ゼロに近づいている。
そばの区画の中で、カークが苦しんでいる。
力なく腕を降ろすカーク。

カン:「船長は間もなく死ぬ。」
目を背ける女性クルー※33
カン:「ミスター・スポック、君が協力するなら船長を助けよう。…君の知識と才能およびエンタープライズ※19の協力で、適当な植民星を選びそこに住む人々を我々が正しく導くのだ。」
マッコイ:「征服すると言ったらどうだ。エンタープライズ※19さえあれば簡単に征服できるぞ。」
「貴様たちは一人ずつ順番にあの減圧室に入れ! …死ぬところをみんなに見せてやる!」
マクガイヴァーズ:「カン。私はそんなの別に見なくてもいいでしょ。」
「もっと強い女かと思ったがな。」
出ていくマクガイヴァーズ。
カン:「誰か協力する者はいないか! 誰でもいい! 助けてやるぞ。……なぜ無駄死にしたいのだ!」
音が響く。
ホーキン:「チャンネルが変わりました!」
モニターの映像が切れている。コンソールの前に座っていたウフーラ。
スイッチを扱うホーキン。「どうやれば映像が出る。」 また手を振りかざす。
カン:「映像などもう必要ない! 船長は死んだ。」
嘆くウフーラ。
カン:「次はミスター・スポックを連れて行け。」
部下に指示され、出ていくスポック。

「減圧室」と書かれた部屋。
マクガイヴァーズがカンの部下に話す。「協力を申し出るかもしれないから本人に確かめなさいって。」
中を覗く部下。その時、マクガイヴァーズは背後からハイポスプレーを打った。
部下は倒れる。マクガイヴァーズがコンソールを操作すると、目盛りが上昇していく。
スイッチを押し、ドアを開けた。空気が流れ込む音が響く。
出てくるカーク。ふらつきながらも部下のフェイザーを奪う。
マクガイヴァーズ:「船長、カンを殺さないでください。お願いです。」
ドアが開く音がした。隠れるカーク。
前を歩いてきたスポックはカークに気づいたが、そのまま進む。部下に飛びかかるカーク。
スポックがヴァルカン首つかみで倒した。「出迎えを受けるとは感激ですね。」
フェイザーを渡すカーク。「…君が来てくれてよかった。…カンはどうした。」
スポック:「スタッフを会議室に閉じ込め、要所に部下を配置してます。」
「コントロール回路を、妨害するよりないな。ブリッジで操作できないように。」
「通路に、断電装置があります。」
「ほかのデッキにガスを出そう。」
走っていく 2人。

会議室のカン。「兵器庫! カンだ、報告しろ! ……ロドリゲス※34! リン※35! …マクファーソン※36! 誰か現状を報告しろ!」
天井近くの通気口から、白い気体が入ってきた。すぐに口をふさぐカン。
逃げていく。スコットも部下を殴り、外に出た。
倒れていくクルーや部下。ウフーラは何とかコンソールを操作しようとするが、咳をした。

廊下で咳き込んでいるスコット。
カークがターボリフトを出て近づいた。「カンはどこだ。」
スコット:「知りません。ガスが出てきたら外に。」
呼び出しに応えるカーク。「カークだ。」
スポック:『技術セクションだけが、麻酔ガスが出ません。誰かがラインを閉じたと思われます。』
向かうカーク。

機関室でコンピューターを操作するカン。
スポックの声が流れている。『船長、確認しました。やはり技術セクションだけがガスが出ません。多分…』
スコット:『こちらスコット、船長は技術セクションへ向かった。危険なので私も…』
『駄目だ、ガスが残ってるうちに船を奪い返す。兵器庫へ来てくれ。まず兵器庫を確認する、以上!』
それを聞き、カンはドアのそばに隠れた。入ってきたカークの手をつかみ、フェイザーを奪う。
そしてカークの目の前で、フェイザーをへし曲げた。床に捨てる。
コンピューターが音を発し始めた。
カークを牽制するカン。「読んだ説明書によると、これでオーバーロードになるはずだ。あと数分で貴様の船は太陽が爆発するように飛び散るぞ!」
カークはコンソールに素早く近づこうとしたが、カンに突き飛ばされた。カンに跳び蹴りし、操作しようとするカーク。
音は止まらない。ワープコア近くの網につかまり、足でカンを締めようとするカーク。
2人の争いは続く。音の間隔が短くなってきた。
カン:「俺は貴様の 5倍の力をもってるんだ。…勝敗は明らかだ。」
カークは密かに、後ろのコンソールからレバーを引き抜く。襲いかかってきたカンを、それで殴り続けた。
倒れるカン。カークがコンソールを素早く操作すると、音は収まりライトが切り替わった。

航行中のエンタープライズ。
『航星日誌、宇宙暦 3143.3※37。エンタープライズは、我々の手に戻った。あとはカンと部下たちをどう扱うかだ。今さら、彼らを再教育センターへ送り込んでも無駄だろう。それに、カンの魅力に取り付かれたマクガイヴァーズ少尉はどう処分すればいいのか。』
正装のカークたちに続いて、カンや保安部員、そしてマクガイヴァーズが審理室に入った。
ウフーラ:「レコードテープ、記録準備できました。」
ベルを鳴らすカーク。「これより審問会を開く。…宇宙艦隊司令長官から与えられた権限により……今回の事件に関する全ての告訴を撤回することを宣言する。」
マッコイ:「…カーク。責任者としてそんな処置は…」
「ミスター・スポック、我々は今セティ・アルファ恒星系へ向かっていると思うが?」
スポック:「はい、向かっています。セティ・アルファ恒星系の第5惑星※38は、少し荒れていますが何とか住めるでしょう。」
「オーストラリアの、ボタニー・ベイ流刑地よりはずっと条件的にいいはずだ。…これから住む惑星は少し荒れてるそうだが、楽園にできるかな?」
カン:「…ミルトン※39の小説を読んだことがあるかね?」
「…読んだ。…期待しよう。…マーラ・マクガイヴァーズ少尉。」
マクガイヴァーズを見るカン。
カーク:「軍法会議か、カンと共にゆくか。…どちらかを選びたまえ。」
カン:「…楽ではないぞ? はじめは生きるために食べ物を探すだけでも大変だろう。」
マクガイヴァーズ:「…カンと一緒に行きます。」
「…勇敢な女だ。連れて行こう。…わしは星を手に入れることを望んでいた。惑星を征服し、立派な帝国を築いてみせる。」
カーク:「……審問会を終わる。」
出ていくカンとマクガイヴァーズ。
スコット:「優秀なスコットランド人が認めるのは恥なんですが、ミルトンには詳しくないんです。」
カーク:「ルシファーが地獄に堕ちたときの言葉だ。『天国で仕えるより、地獄を支配したい。』※40
スコットは笑った。
スポック:「カンに任せた第5惑星は是非天国にしてもらいたいですね。今日蒔いた種が、どんな実を結ぶことになるか見たいもんです。」
カーク:「同感だな。いずれ訪問しよう。」
みな、審理室を出ていった。


※28: 吹き替えでは「0401.7438」

※29: 吹き替えでは「尉」。シリーズ中一貫して、ウフーラの階級は大尉です

※30: Thule

※31: Harrison
どちらもエキストラ。ただし役職に該当する赤制服 (機関部員) は、一人しか映っていません (もう一人の赤シャツはレズリー大尉)

※32: decompression chamber
初登場

※33: 資料によってはアンジェラ・ベイカー Angela Baker (バーバラ・バルダヴィン Barbara Baldavin TOS第9話 "Balance of Terror" 「宇宙基地SOS」などのアンジェラ・マティーニ (Angela Martine) 役) というキャラクターが登場していることになっており、ここにいる 2人のどちらかかもしれません。ただしアンジェラ・マティーニと同一視している場合もありますが、俳優の顔も異なるようです

※34: Rodriguez

※35: Ling

※36: McPherson

※37: 吹き替えでは「0401.7443」

※38: セティ・アルファ5号星 (Ceti Alpha V) のこと。初言及。Ceti というのは、くじら座を意味します。ただし、くじら座アルファ星のメンカルのことなら "Alpha Ceti" と表現すべきなので、別の恒星かもしれません。吹き替えではセティ・アルファが「アルファー」となっています

※39: Milton
ジョン・ミルトン (John Milton、1608〜74年)。イギリス人

※40: "It is better to rule in hell than serve in heaven."
失楽園」(1667) より。吹き替えでは、スコット「どこまでも自信たっぷりな男ですね。自分が勝ったみたいな感じだ」 カーク「人の下につくのは我慢できないんだろう。天国で仕えるより、地獄で支配したいタイプだ」

・感想など
15年後にスクリーンに登場することになる、優生人間カン (映画ではカーン) の導入エピソードです。長い年月をつむいでいく、スタートレック・サーガの原点とも言えますね。劇場版初の悪役キャラということもあり、現在でも最も人気があると言ってもいいかもしれません。このエピソードでもさすがにモンタルバンが若く、声優は今でも大御所の森山さんということもあって、ST2 に負けず劣らずの魅力をもっています。「カーンの逆襲」での大木民夫さんも悪くはないのですが、最近発売された特別版 DVD では統一してもらいたかったという気もします。
原題や最後のスポックのセリフにある「種」は、ボタニー・ベイという名前を意識しているのかも (botany=植物学。オーストラリアに上陸したキャプテン・クック一行が、さまざまな新しい植物を発見したことからボタニー湾と命名)。


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