網を持って隠れているアーチャー。静かだ。 
 前から棒を持って近づくフロックス。その先には、紙でできた鳥がついている。羽根が動くのを確認する。 
 コウモリは台に置かれた餌を食べていた。 
 合図するフロックス。近づき、網を構えるアーチャー。 
 フロックスは紙の鳥を動かし、奇声を発し始めた。 
 それを見ていたコウモリは飛びだった。紙の鳥へ向かい、飛びついてくる。慌て、転ぶフロックス。 
 アーチャーは棚の物を振り落とし、必死にコウモリを捕まえようとする。 
 止まったところを狙ったが、逃げられた。倒れた缶の液体が、下にいたフロックスに滴り落ちる。 
 棚から飛び降りるアーチャー。「コウモリはその紙の鳥に怯えるんじゃなかったのか。」 
 フロックス:「そのはずでした。…ピリシアン・ムーンホーク※11は天敵です。……そっくりなはずなのになあ。鳴き声もずっと前に、マスターしたんだ。」 鳴いてみる。 
 「それ、毒物じゃないよな。」 
 「え?」 服の液体を舐めてみるフロックス。ひどい味らしい。「ああ! 大丈夫です。」 
 「どうする。」 
 「…捕まえるにはまず見つけないと。上の方にいます。」 鳥を捨てるフロックス。 
 探す 2人。 
 フロックス:「……その後考えてみましたか? トゥポルの意見が気になるわけを。」 
 アーチャー:「いま夜中の 2時半で、逃げたコウモリを探してる。今考えられるのはそれだけだ、ドクター。ポートスのこととな?」 
 「性的緊張です、間違いありません。」 
 「…通気口だ。見えるか。」 
 「あれはフィルター止めです。ここ 2、3ヶ月、副司令官との摩擦が高まっていますよねえ。私はそういう観察をする訓練を受けています。」 
 「ドクターの訓練には、敬服だが? 間違ってるね。トゥポルとは摩擦なんてない。余計なお世話だ。」 
 「相手に性的な関心をもっていることを不適切に感じると予想外の行動に出がちです。船とビーグル犬の比較に対して、過度に怒りを表したりしてね? 例えばですが?」 笑うフロックス。 
 「いいか、ドクター。」 ピリシアン・コウモリ※12が飛んでいく。「あっ! 性的関心なんてない!」 
 「降りてきますよ!」 
 サトウが医療室にやってきた。 
 フロックス:「あっ!」 
 アーチャーとフロックスは同時に言った。「閉めて!」 
 フロックス:「廊下に出さないで!」 
 飛んできたコウモリを、サトウはいともたやすくつかんだ。「大丈夫? おじさんたちに何されたの?」 
 受け取るフロックス。 
 アーチャー:「ったく…。」 
 サトウ:「クリタサンから連絡が。」 
 「…何だ。」 
 「例の儀式に関して、早急に返事が欲しいようです。」 
 「今真夜中だ。」 
 「あの、それもなんですが。船の時間を彼らの標準時に合わせろと言われました。」 
 「へえ?」 
 「必要ではないですが、礼儀の問題です。」 
 「…ご苦労、少尉。」 
 「…ポートスはどうです?」 
 「うん、教えるよ。2時間後にな。」 
 出ていくサトウ。 
 アーチャー:「大丈夫なのか。」 
 フロックス:「変化はなし。私が、ついていますので。」 
 「…頼む。」 
 「副司令官の件で話を続けたければ別ですが?」 
 カーテンを閉めるアーチャー。
  
 犬の墓が並んでいる。降り続ける雨。 
 フロックス:「今日ここに集まったのは、忠実にして優しい友に、最期の別れを告げるためです。」 
 傘を差し、集まっているクルー。みな暗い服装だ。アーチャーだけ雨に濡れている。 
 フロックスは話し続ける。「誰にでも、惜しみなく手を差し出してくれました。微笑みかけるだけで、または…チーズ一切れで。」 神父姿だ。 
 うなずくリード。参列しているタッカーやメイウェザー。 
 フロックス:「彼の名の由来、三銃士※13のごとく、我々はこの悲しみと共に闘いましょう。」 
 アーチャーは隣のトゥポルを見た。 
 フロックス:「『皆は一人のために、一人は皆のために。』」 
 傘を近づけるトゥポル。 
 フロックス:「相手に性的な関心をもっていることを不適切に感じると、しばしば…予想外の…行動に出がちです。」 
 トゥポルはアーチャーの手に、指を回してきた。 
 その手を見るアーチャー。
  
 除菌室で、サトウがトゥポルにジェルを塗っている。 
 トゥポルはアーチャーに塗っている。 
 アーチャーはポートスに塗っている。 
 呼び出しに応えるサトウ。「はい。」 
 フロックス:『ホシとポートスは出て構いませんが、ほかの2人は残って下さい。』 青いライトが消える。 
 アーチャー:「問題があるのか。」 
 『病原体を拾ったようです。別の除菌ジェルを試しましょう。』 
 ため息をつくアーチャー。 
 ポートスを抱え、出ていくサトウ。「お大事に。」 
 再びライトが灯り、ジェルを手につけるアーチャー。 
 振り返ると、トゥポルの背中が見える。下着を脱いだトゥポルも振り向く。 
 アーチャーに近づき、ジェルを塗り始めるトゥポル。 
 フロックスの通信が入る。『どうです船長、その後考えてみましたか。トゥポルの意見が気になるわけを。』 
 顔を近づける二人。 
 フロックス:『最後に女性と、親密な関係をもったのは?』 
 互いの口が合わさる。
  
 目を覚ますアーチャー。 
 午前 2時49分。 
 アーチャーはカーテンを開けた。「…夢を見た。…ポートスが死んだ。」 
 フロックス:「正夢でないといいですね。」 
 「……二度目の薬はその後、効果ありそうなのか。」 
 「あまり上手くいっていませんね。」 
 しゃがみ、ポートスを見るアーチャー。「昔の彼女の母親が、可愛いビーグルを飼ってた。その彼女と別れた後も、よく遊びに行ったよ。子犬が産まれた時、すぐ電話をくれた。…オスが 4匹だった。四銃士ってわけだ。ポートスは生後 6週間から、育てたんだ。…子供の頃から…いつも犬と一緒だったな。……ドクターはペットはいたのか。」 
 フロックス:「ペットという概念はないんです。」 
 「…でも、言ってたじゃないか。デノビュラ・キツネザルは、珍重されるんだろ。」 
 「ええ、そうです。腎臓が珍味とされてまして。」 
 トゥポルが料理の皿を持ってやってきた。「…お腹が空きませんか?」 
 フロックス:「これは嬉しいなあ、ハハ。」 
 アーチャー:「連中から謝罪は満腹の時にしろって指示でもあったか?」 
 トゥポル:「…通信文は読まれたはずです。」 
 「うん。すまん。ちょっと…気が立ってるんだ。あまり寝てないが、バストいやベストは…尽くしてるつもりだ。」 
 フロックス:「…うーん。」 
 トゥポル:「わかっています。…私とサトウ少尉で、和解要求を分野ごとに細かく記録しました。もし御覧になりたければ…」 
 アーチャー:「今はポートスのことが第一だ!」 
 「お邪魔して失礼しました。」 
 「いやあ…いや、いいんだよ…。…君がブリッジへ戻ったら、送ってくれ、キス…いや記録を。記録だ!」 
 医療室を出ていくトゥポル。 
 フロックス:「30秒で無意識の失言※14が二度。面白い。」 
 またアラームが鳴った。 
 アーチャー:「どうした。」 
 フロックス:「薬が効きました。部分的には。免疫系は安定したんですが、脳下垂体がひどく損傷を受けてます。ほとんど崩壊してる。2段目の棚から、グレーのケージを持ってきて。青いふたのです。」 
 フロックスは巨大な円筒を運んでくる。 
 ケージを運ぶアーチャー。「中身は。」 
 フロックス:「カルリシアン・カメレオン※15です。ここに水を入れて? DNA 変換はしますが、このカメレオンと犬の脳下垂体は非常に近い。」 
 「まさかトカゲから移植するっていうんじゃあ。」 
 「代案があれば聞きますよ? 私もしたくありません。このカメレオンが分泌する毒素は、呼吸器の感染症治療に役立つ最後の一匹だ。」 
 「このタンクは。」 
 「移植時の、肺へのショックを最小限にするために、ポートスを高度に水和させる必要があります。」 
 「溺れさせるのか?!」 
 「ほんの一時間だけですよ。移植が済めば、蘇生には何の問題もないはずです。」 
 「…この手術、今まで何度やった。」 
 「…一度も?」 
 水を止めるアーチャー。「どこかで前例は?」 
 フロックス:「聞きませんね。」 
 フロックスをつかむアーチャー。「実験動物に移植するんじゃないんだぞ、ポートスだ、私の友達だ! さっきの話じゃ、ドクターの星で一番ペットに近いのは、タマネギと食い合わせのいい奴だけなんだろ!」 
 フロックス:「…その通りです。私は船長とこの動物の絆に、無神経かもしれません。…決断はお任せします。ただ、どうするにしても、急いで下さい?」 離れた。
 
 
  | 
※11: Pyrithian moon hawk
  
※12: Pyrithian bat ENT第3話 "Fight or Flight" 「死のファースト・コンタクト」など。初登場。原語では "she" などと言っているのでメス
  
※13: 放送開始前から由来が三銃士であることが出回っていましたが、劇中で触れられたのは初めて。普通はポルトスと訳されます。オスと判明したのも初めて…かも?
  
※14: 原語では「ピラリア的失言 (Pillarian slip)」。フロイト的失言 (Freudian slip) という言葉があります。失言の内容は breast と best、lips と list
  
※15: Calrissian chameleon 原語では "she" と言っているのでメス
 |