USS Kyushuトップ | hoshi.sa.to

エンタープライズ エピソードガイド
第68話「フロックス船長の孤独」
Doctor's Orders

dot

・イントロダクション
※1エンタープライズは星雲のような場所にいる。ワープナセルは稼働していない。
無人のブリッジ。機関室も同じだ。
誰もいない食堂の窓から、外の現象が見える。

静かな廊下を、ポートスが歩いてきた。
フロックス:「ポートス! ああ、戻っておいで。」 追いかける。「ポートス! 待て。戻れ…ああもう、こっちへ来い! 来い! ああ、ポートス…。」 舌打ちした。
ポートスはドアを引っかいた。同じ動作を繰り返し、吠える。
フロックス:「そうか。ちょっとだけだぞ?」

ドアが開いた。中に駆け込むポートス。
ベッドではアーチャーが制服のまま寝ており、頭に小さな装置をつけている。ポートスが顔を舐めても、起きる素振りはない。
フロックス:「もういいだろう。また明日…会いに来ればいいさ。」 ポートスを抱えた。
自室で眠り続けるアーチャー。


※1: このエピソードは、VOY トレス役ロクサン・ドースンの監督作品です。ENT で担当した 10話中、第64話 "Chosen Realm" 「選ばれし領域」以来 8話目となります (参考)

・本編
フロックスの部屋。
ベッドでパッドを見ているフロックス。「ああ、なるほどねえ。イヌは縄張り意識が強い。ハ、だからいつも船長の部屋へ行きたがるのか。」 かたわらにポートスがいる。「ハハ…うーん、ん? 地球で、『スクラファー※2』という…犬がはぐれた飼い主のもとへ戻ろうと、3,000キロ旅をしたらしい。フン、ヘ! パイカン・スペースモス※3は、母星に帰ろうと 0.5光年も飛んだらしいぞ? でも名前は付いてなかった。ああ…散歩でもするか。行くか。」
部屋着のフロックスは裸足だ。パッドを持って出ていく。
「ドクター・ルーカス※4へ。」

話しながら廊下を歩くフロックス。「…返事が遅れて申し訳ありません。私もクルーも非常に忙しくしていました。」
ポートスも続く。

厨房に入るフロックス。「さあ入れ? 」 手紙の続きを始める。「ズィンディの攻撃で、同僚を亡くしたとのこと。心からのお悔やみを。私も胸が痛みます。デノビュラでの勤務打ち切りは残念だが、あなたは…地球で必要とされている。今回の任務が無事完了したときに、サンフランシスコで会いましょう。フン。この領域は、非常に興味深い場所です。」
棚から瓶を取り出すフロックス。手書きのラベルには「ドクター・フロックス所有/食べるな」と書かれている。「例えば数日前、奇妙な現象に遭遇し…」
ポートスは吠えた。
録音を止めるフロックス。「欲しいのか? ヘヘヘ、美味しくないぞう? …ヒルだからねえ。腸を掃除してくれる。船長には、内緒だぞ?」
投げられたヒルを食べるポートス。
フロックス:「ヘヘヘ。」 録音を戻す。「今、私は少々心細い…」 フロックスは舌を舐めた。「状況ではありますが、おかげで…こうして、返事を書く時間が…ハハ、できました。」
自分もヒルを食べるフロックス。

通常航行中のエンタープライズ。
「2日前に、とある異常現象に遭遇しました。」
司令室のトゥポル。「アザティ・プライム※5への、コース上です。」 モニターに赤く表示された領域がある。
アーチャー:「なぜ今までセンサーにかからなかった。」
「つい先ほど出現したんです。…数週間前に遭遇した現象※6と、似ているようですね。」
「超次元変動とか、いうやつか。」
「こう言っている間にも、空間が激しく変形しています。」
「迂回するのに、かかる時間は?」
「2週間です。」
リード:「…また回り道か。」
「いえ、大丈夫です。この区域の変動は始まったばかりで、完全には変形しきっていません。まだ無事に通過できるはずです。」
タッカー:「…この次元の生物は生きて出られないって、前言ってなかったか?」
「…ドクター。」
フロックス:「そうです。ただし、防ぐ方法はあります。…変動で人の脳は損傷を受けますが、新皮質の神経活動を弱めることで影響を止められます。…つまり…あ、イオン嵐から守るためにコンピューターを止めるようなものです。」
タッカー:「でも、脳の新皮質を一体どうやって『止める』んだ。」
「簡単です、ここを通り抜ける間全員を昏睡状態にするんです。」
顔をしかめるタッカー。
アーチャー:「通過するのに、何時間かかる。」
トゥポル:「ワープ4 で一時間未満です。」
タッカー:「ワープは気が進みませんね。…ワープフィールドに、どんな影響があるかわかったもんじゃない。インパルスで行く方が安全です。…クルーの昏睡状態は…最低 4日※7だな。」
リード:「…それでも、迂回するよりかなり早いですよ?」
アーチャー:「4日も可能なのか。」
フロックス:「問題はありません?」
「タッカー少佐は乗り気ではありませんでしたが、船長には納得してもらえました。」

ドアを開けるフロックス。「ああ。」 ポートスも入った。
メイウェザーが眠っている。
フロックス:「デノビュラ人はこの空間変動の影響を受けないため、私がクルーのチェックをしていますが…」 持っていた物を身体の上に一旦置き、装置を使う。「ここまでは、うーん…全く問題なしです。」

「船のシステムはコンピューター制御ですが、念のため簡単な手ほどきを受けました。」
操舵席に座っているフロックス。
「困難な状況ではありますが、その分やりがいもある。」 メイウェザーから指導を受ける。少し船が揺れた。「メイウェザー少尉に、尊敬の念も生まれました。」

機関室のタッカー。「最低でも、2時間ごとにチェックしてくれ?」
フロックス:「2時間ですね?」
「インパルスマニフォルドが詰まったら、エンジンはオーバーロードだ。そしたら、ヤバいからな。」
「そうでしょうねえ。」
「普通の状況なら、あ気を悪くしないでくれよ? 艦隊の訓練を 4年は受けてなきゃ、ここへは入れないぐらいだ。」
「普通の状況では、ありませんから。」
「…いいか? …手に負えないことが何か起きたら、俺を起こせ。」
「それはできません。…数分でも取り返しのつかない損傷を受けます。」
「俺か船全体かどっちを取る。…それなら、迷わずに済むだろ。いいな。」

ワープナセルが止められる。
道具の一つが取り出された。
アーチャー:「ほかのクルーはどうしてる。」
フロックス:「眠ってますよう? 船長だけです。…さあ、横になって?」
「ドクター…」
「ああ、勘弁してください。危険はないと言ったはずです。」
「それはわかってるが…」
「船長、何度同じ会話をしたことか。タッカー少佐、リード大尉。結局船の士官全員とです。『昏睡状態は気が進まない』、『持ち場に着いていないと、起きたままでいい』、もう無理なんです。…その必要もありません。全てお任せ下さい。」
「わかってるよ? …船長として私は、船の全員に対し責任がある。…その責任を安心して任せられる者はそうはいないが君なら…心配ない。」
フロックスは笑った。「…それは…恐縮です。」
アーチャー:「それだけ、言っておきたかった。眠る前にな。」 ベッドに横になる。「うん。ああ…。」
フロックスはアーチャーの額に装置をつけた。ハイポスプレーを打つ。
自室で眠り始めるアーチャー。
「ドクター・ルーカス、船長の信頼はありがたかった。」

異常現象内を進むエンタープライズ。
フロックス:「…実を言うと、責任の重さに少々震えがきていたところでした。ですが舵を預かって 2日、船は順調に進んでいます。」
機関室のコンソールを操作していると、遠くから物音が響いた。
録音を止めるフロックス。「誰かいるのか?」
人影はない。
覗き込む。「誰だ?」 また録音するフロックス。「あ、とはいえクルーを無事起こせるときがくれば、安堵のため息をつくでしょう…。」
コンピューターに触れた。「あと 2日と 16時間43分です。」

フロックスはデノビュラ語と思われる歌を唄いながら、廊下を走っている。ついていくポートス。

医療室に入った。
身につけているのは靴だけのフロックス。「あー、遅れて悪かったなあ。」 カゴに餌を入れ、笑う。
大きなパッドを腰に携えて歩く。
筒の覆いを外した。中の動物が騒ぐ。

映像※8の男は、銀色の服だ。『すりこぎつき器じゃなく、さかずきの方だ。』
赤い服の女性。『宮殿のさかずき?』
『うん?』
もう一人の黒い服装の女。『宮殿の形のクリスタルのさかずき。』
男:『じゃ宮殿のさかずきに毒薬が?』
『毒薬はすりこぎつき器よ…』
食堂で独り、ポップコーンを食べながら観ているフロックス。
ポートスが鳴き、フロックスは一つを投げる。
黒服の女性:『…宮殿のさかずきには醸造酒よ?』
赤服の女性:『今のは簡単に言えるわ?』
男:『ええ、そうかなあ…』
低く音が響いた。驚くフロックス。
ポートスを見ると、座った。
フロックス:「聞こえたか?」 動かないポートス。
フロックスはまたポップコーンを食べ始めたが、同じ音が聞こえた。
立ち上がるフロックス。「音声停止に。」 映画の音声が消えた。
音が響く。
フロックス:「妙な音だな。…調べに行った方がいいな、うん。」
座り続けるポートス。
フロックスはドアを開けた。「…独りじゃヤだぞ? …来い、ポートス。ほら!」 ため息をつき、ポートスを持ち上げた。「ピリシアン・コウモリ※9の方がマシだ。」
外に出す。

ゆっくりと廊下を歩くフロックス。しゃがみ、ポートスに触る。「想像力がたくましすぎたか、うん? 先週タッカー少佐に勧められて、エクソシスト※10を観たせいだ。」
戻ろうとしたが、音がはっきり聞こえた。

発着ベイに入ったフロックス。「誰だ? ドクター・フロックスだ。」
妙な物音。ポートスは一声吠え、走っていく。
フロックス:「ポートス! …ポートス、戻ってこい。ポートス!」
音が繰り返される。見上げると、気体が吹き出していた。
そのせいでチェーンが金属に当たり、音を繰り返している。
ため息をつくフロックス。「全く、バカだった。」 ポートスをなでた。
足音に振り返った。トゥポルが来た。
フロックスは胸を押さえる。「…さっき声を、かけたのに。」
トゥポル:「点検をしていたんです。何か、手伝うことでも?」
深く息をしたフロックス。
トゥポル:「…今夜は映画会ではなかったんですか。」
フロックス:「あの音が食堂までして。」
「後で直すよう指示します。」
「フン。ああ、ギーギー…ガタガタ…。」 フロックスがレバーを操作すると、気体は止まった。「呪いの館かと思いましたよ。」
「大丈夫ですか? 動揺しているようですが。」
「心臓発作を起こすところでしたからねえ。」
「驚かせてすみません。…でもそれだけですか?」
「…変動内に入ってから軽い頭痛が、ハ。ヴァルカンや、イヌの方がデノビュラ人よりよく適応できるらしい。あなたは、うん? …ここ 2日、見てませんでしたが。」
「仕事がありましたから。…空いた時間は、自室で読書や瞑想をしていました。」
「なーら今夜は出かけるべきだ。一緒に映画でも?」
「点検を終えてしまいたいので。」
「…なかなか面白いですよ?」
「また今度。」
フロックスは呼び止めた。「トゥポル? …いえ…その、なら後で食事はどうですか。」
トゥポル:「構いませんよ?」 歩いていく。
力なく笑ったフロックス。

機関室。
歌を口ずさみながら、コンソールを見ていくフロックス。反応がある。
操作していると、小さな物音。「誰だ?」
無視して歌っていたが、また聞こえた。「トゥポル? 君か?」
見上げ続けるフロックス。
すると後ろで音がした。影が素早く移動していく。
フロックス:「止まれ! …フロックスよりトゥポル。」
トゥポル:『何です。』
「ドラクサン雲ヘビ※11のようにコソコソ動くのはやめて下さい!」
『ドクター?』
「ヴァルカン人が、こんな子供じみたゲームが好きとはねえ。」
『何のことですか?』
「いま機関室で何をしていたんです?」
『私は、今ブリッジですよ?』
フロックスは上を見た。


※2: スクラファーズ Scruffers

※3: Pycan space moth
モス=蛾

※4: Dr. Lucas
ENT第13話 "Dear Doctor" 「遥かなる友へ」より

※5: Azati Prime
ENT第66話 "Stratagem" 「策略」より

※6: 前話 "Harbinger" 「新たなる脅威の兆し」より

※7: ワープ4 で 1時間未満ということは、TOS スケールで約690億km 未満の距離。一方フルインパルスは光速の 4分の1 とされているので、4日で約260億km となり数値が合いません (脚注※19 も参照)。そもそも迂回したら 2週間なのに突っ切ったら 1時間って、ものすごく幅が薄いですね…

※8: "The Court Jester" 「ダニー・ケイの黒いキツネ」
1956年パラマウント映画。男=ヒューバート・ホーキンス (ダニー・ケイ/声:田原アルノ、DS9 2・4代目ロム、初代ブラント、旧ST6 スールー&サレク、旧ST4 カートライトなど)。赤服の女性=グウェンドリン姫 (アンジェラ・ランズベリー、ドラマ「ジェシカおばさんの事件簿」のジェシカ・フレッチャー役/声はサトウ役の弓場さんが兼任)。黒服の女性=グリセルダ (ミルドレッド・ナットウィック/声:田村聖子)

※9: Pyrithian bat
ENT "Chosen Realm" など

※10: The Exorcist
1973年

※11: Draxxan cloud viper

厨房で、調味料の一つを手にするフロックス。「構いませんか? 厨房で、食事をしても。」 笑う。「食堂のホールは、どうも寂しくてね。全部空席で。」
トゥポル:「構いません。」
「ああ、5番目の祖母のレシピです。よく作ってくれた、ハ。シェフにも頼んだんですが、どこかが違う。あー、あー? あーっと。」
「そういえば、プロミーク・スープ※12もシェフのは何かが足りません。」
フロックスは皿を置いた。「やっぱりそうでしたか。そう思ってた、ヘヘ。」 料理をすする。「うーん、うん。…今日は本当に、機関室にいませんでしたか?」
トゥポル:「行ってません。…ドクターは何をしに? エンジンの監視は私の仕事です。」
「お互い助け合わないと、ヘ。2人で見るには大きすぎる船ですから、ヘヘ。」
「何か報告することは? ……ドクター?」
「ほんとに、誰かいたんですよ?」
「クルーですか?」
「いえ。我々以外は、昏睡状態ですから。」
「…では勘違いですね。」
「…そうですね、ヘヘ? デノビュラへ行ったことは、ないでしょ?」
「ええ。」
「ああ。デノビュラの都市は非常に混み合っていますが、そこがいい。共同社会が発達し、活気がある。」
「素晴らしいですね※13。」
「…つまり我々は、社交好きなのです。エンタープライズでこうして、2人きりというのは思っていた以上のストレスでして、ヘヘ。デノビュラ人は結婚相手も一人では、足りないんですから。」
「話し相手になれず、すみません。」
「いえそういう意味では。」
「わかってます。…でもたった一人の話し相手が私とは、皮肉ですね。…あなた方と違い、ヴァルカン人は独りになるためなら努力を惜しまない。…80人と共存するのは、私にとっては時に苦痛です。…特に不合理な人間とは。」
「うーん、例えばタッカー少佐?」
「…この 2日、私にとってはいい息抜きでした。」
「フフ、私の方は今後映画会でいい席が取れなくても文句は言いません?」
フロックスは食べ続ける。

医療室に戻ったフロックス。「ドクター・ルーカス、帰郷の原因はあの悲劇でも帰るのはやはり嬉しいでしょう、フフン? …私はエンタープライズの任務を受けたことは全く後悔していませんが、故郷のことが突然懐かしく…思い出されてきたのです、ハハ。」 廊下に出た。「ケイビン地区※14で一人や二人新しい女性に出会うときのときめきは、あなたも体験済みでしょう? 心さえ開けばすぐさま体も近づける、ハー。人間はほんとに素晴らしい種族ですが、今回の任務を達成しデノビュラへ帰れる日を私は…心待ちにしています。混み合っているほどいい。」
パッドの録音を止め、ドアを開けた。「午後の、回診でーす。具合はいかがです?」 アーチャーを調べるフロックス※15。「うーん、化学物質は問題なし。シータ波※16もよし。目覚めるときには、すっきりだ。」
物音。窓を見るフロックス。
まだ音は続く。窓に近づいた。
いきなり影が横切った。
フロックスは怯え、通信機に触れる。「フロックスよりトゥポル。」

各所の映像がモニターに表示されている。
トゥポル:「船内センサーには、不審な反応はありませんが。」
フロックス:「言ったでしょ、船の外に張りついていたんです。」
「…付近に生命体は感知していません。」
「異星人の船は?」
「ご覧のように、船影もありません。」
「…センサーに、空間変動の影響があるかもしれないと言っていましたよねえ。」
「ありえますが…ほかの理由を考えるべきでしょう。…ここ数日の孤独に適応するのが難しいと言っていましたね。」
「幻覚じゃありません。ほんとに見たんだ。」
「船の外に、張りついていた?」
「…機関室でも見た。」
「自分でスキャンしますか? 不審なものは何も見当たりません。」
司令室のモニターを見つめるフロックス。
トゥポル:「…この空間変動に入ってから、あまり寝ていないと言っていましたね。部屋に戻って休んだ方が、いいんじゃないですか。」
フロックスはトゥポルに向き直った。「回診がありますから。」 出ていく。

移動するターボリフトの中で、歌を口ずさむフロックス。降りて廊下を歩き、部屋に入る。
音に立ち止まると、昆虫ズィンディがいた。眠っているサトウのすぐ脇だ。
フロックス:「ホシから離れろ!」
ズィンディは声を上げ、飛びかかってきた。廊下を走って逃げていくフロックス。
昆虫ズィンディの声が続く。フロックスは止まった。
前の廊下の壁に、ズィンディの影が見える。そばのコンソールに触れた。
赤い表示が青に変わり、ボタンを押す。中に入り、ドアが閉まっていく。
覗き窓からは姿は見えないが、昆虫ズィンディの声は聞こえ、ドアが揺れる。
影が離れていった。確認し、エアロックを出るフロックス。「フロックスよりトゥポル。」
トゥポル:『何ですドクター。』
「ズィンディです、船にいる…。」

兵器室のフロックス。「武器が必要です、2名いた。もっとかもしれない。」 フェイズ銃を持っている。
トゥポル:「センサーには出ていません。」
「ならセンサーが間違ってる。」
「ドクター? …フロックス! 休むはずでしたよね。」
「本当にいた! 見たんです!」
「本当なら、どうやって侵入したんです。」
フロックスはフェイズ銃を開けた。「あー!」
トゥポル:「外部ハッチもドッキングポートも封鎖されています。」
「転送で来たのかもしれない。」
「転送反応もありません。」
セルをセットするフロックス。「侵入経路など今更どうでもいいでしょ! …リード大尉や軍事部隊の者を起こせば数分で意識不明だ。数時間で死ぬ、我々で片を付けるしかないんです。」
差し出されたフェイズ銃を受け取らないトゥポル。
フロックス:「Gデッキ※17から始めて上へ行きます。たとえ独りでも奴らを止めてみせる!」


※12: plomeek broth
ENT第4話 "Strange New World" 「風が呼んだエイリアン」など

※13: "It sounds fascinating."

※14: Kaybin district
ENT "Dear Doctor" でケイビン・バー (Kaybin bar) が言及

※15: 医療室〜廊下〜アーチャーの部屋まで、ステディカムによるワンテイク撮影です

※16: theta wave

※17: 全7デッキということが初言及

MACO の相部屋。
フェイズ銃を持って中を確認するフロックス。素手のトゥポルも続く。
フロックスはため息をつき、外へ出た。

銃を構えたまま、貨物室をライトで照らしながら進むフロックス。トゥポルは首を振った。

廊下を歩くトゥポル。「4デッキ捜索しました。」
フロックス:「あと 3デッキある。」
「ズィンディが乗船しているなら、なぜ隠れているんです。」
「船を破壊する気かもしれない。こんなチャンスはありませんからねえ。」 スキャナーを使うフロックス。「生命体だ。」
「生命体は 80 以上います。医療室のペットは除いて。」
「人間じゃあない。」
「ドクターのペットでは。」
「…ロックオンできない。」
「干渉があるんでしょう。空間変動のせいですね。」
「センサーに影響はないんじゃ。」
「メインセンサーのことです。ハンド・スキャナーは出力が弱いのを知っているでしょう。」
「見つけた!」

スキャナーを見るフロックス。「すぐそこだ。」 昆虫ズィンディの声。
向こう側からポートスが歩いてきた。フロックスはフェイズ銃を発射する。
ポートスのすぐそばに当たった。
トゥポル:「ドクター!」
近づいてくるポートスは、そばで止まった。声を震わせるフロックス。
フロックス:「よかった。幸いにも、私は射撃が得意じゃない。」
トゥポル:「どうして廊下に。」
「それは私が、散歩に連れて行った後部屋に戻すのを怠ったんだと思います。」
「そのまま忘れたんですか。」
「いろいろ起きましたから。大体このスキャナーはズィンディとビーグルも区別してくれない!」
「適切に使えば区別はできます。」
「科学士官ならその辺は協力して下さいよ!」
「協力していないとでも? …あなたの想像の産物を捜索して、2時間無駄にしたのは何だと言うんです。」
「幻覚じゃありません。」
「確かですか? …サトウ少尉に言っていましたね、デノビュラでは幻覚を見るのは健康的なことだと。…ストレスの解消法でしょ※18、最近大きなストレスにさらされていましたね。」
「ありえないことじゃないが…」
「頭痛がしていると言っていました。…ほかに聞いておくべきことはありますか。」
「私は正気だ。」
「ポートスを撃ちかけたんですよ!」
「イヌの生体反応は除外するようセットしますよ! そして残りのデッキを、全て捜索します! …幻覚じゃない、証明してみせます!」 歩いていくフロックス。
フロックスは振り返りながら進む。
通信が入った。『サトウ少尉より、ドクター。』
フロックス:「ホシ? ホシ。」 走る。

部屋に入るフロックス。水の音が聞こえる。
ベッドは空だ。
フロックス:「少尉?」
湯気が見える。シャワー室に入るフロックス。
中に人影が見える。
フロックス:「ホシ?」
こちらに気づいた。
フロックス:「何をしている。すぐにベッドに戻れ、脳に取り返しのつかない損傷を受ける。」
シャワーから出てきたその顔は、醜く変貌していた。白い目。制服のままだ。
フロックス:「…ホシ?」
サトウ:「ドクターのせいよ。」 泣く。手も変質している。
「何?」
「安全だと言ったのに。」
「医療室へ行こう。」
「そう言ったじゃない!」 近づいてくるサトウ。
驚き、倒れるフロックス。すると、ベッドにサトウが寝ていた。
異常はない。フロックスは起きあがりシャワーを見るが、使われた形跡もない。
脇に落ちたタオルを手にしたフロックス。「トゥポル。…医療室へ来て下さい。」
サトウの部屋を出て行く。

廊下をフラフラと歩くフロックス。
ターボリフトを開けると、アーチャーが立っていた。「どこにいた。…呼んだんだぞ?」
フロックス:「…船長。なぜ起きて。」
「トゥポルに起こされた。…問題が起きたってな?」
「…何が何だか。」
「幻覚を見たんだって?」
うなずくフロックス。
アーチャー:「ズィンディが、船に乗ってると思ってるのか?」
フロックス:「…心配じゃないんですか。」
「君の方が心配だ。」
アーチャーを指さしたまま、後ずさりするフロックス。
アーチャー:「ドクター、君に期待しすぎたな?」
フロックス:「幻覚だ!」
「部屋へ戻ったらどうだ、休め。後は任せろ。よくやった方だ。」
「幻覚だー!」
トゥポル:「ドクター?」
振り返るとトゥポルがいた。
アーチャーは消えている。
息をつくフロックス。

医療室で、頭の状態を見ているフロックス。「クルーのモニターに忙しく、自分の神経スキャンを取っていなかったんです。…影響は軽微で、検知しにくい新皮質の深部に…損傷がありました。やはり…幻覚を、見てました。」
トゥポル:「…命の危険は?」
「…取り返しのつかない、傷はない。しかし明らかに判断力に影響が出ています。こうなっては私も、クルーと共に眠るべきでしょう。後は頼みます。」
「…私に医学知識はありません。」
「その科学知識をもってすれば大丈夫。」
「私自身の責務もあります、独りでは無理です。」
「…ほんのしばらくだ、6時間で空間変動を脱出する。…トゥポル、どうか御願いです。」
「できません。」
「どうして!」
「…船内を捜索したとき、ドクターにいらつきました。」
「幻覚でしたからね?」
「そうではありません。…感情のコントロールを失いかけたのです。…空間変動は私にも影響しています。」
「…なぜ黙ってたんです。」
「抑えられると思いました。…ですが、そう簡単にはいかなかった。…あなたが残る方が安全です。」
「私は、ポートスを殺しかけたんですよ? 幻覚でエアロックを開けたり、生命維持を止めたらどうします。」
「ありえません。」
「どうして!」
「あなたの任務は、クルーの安全を守ることだからです。なぜ船長が全てを託したと思うんです。タッカー少佐の反対も押し切って。…信頼しているからです。…私もです。」
「自分が信頼できない。」
「後ほんの数時間です、ドクター。」

「ドクター・ルーカス、この数日は大変でしたがトゥポルも私も間もなくこの冒険が終わるとホッとしています。」
ブリッジ。
操舵席に座るフロックス。「空間変動を出たと確認できた時点で上級士官を起こして、次は医療部員です。…彼らに手伝ってもらって…」 スクリーンを見つめた。
まだ同じ色が広がっている。
フロックス:「30分前に脱出しているはずじゃ。」
トゥポル:「恐らくナビゲーションに、多少の誤差があったんでしょう。」
「宇宙飛行は、精密なんだと思ってましたよ。」
「そうとは限りません、センサーチェックを。」
「やるところです。」 司令室のモニターを星図に切り替えるフロックス。「多少の誤差じゃありませんよ!」
「そんな馬鹿な。…まだ 4分の1光年近くあります。」
「この速度だと空間変動を出るまで、2ヶ月半※19だ。」


※18: ENT第58話 "Exile" 「孤独な亡命者」より

※19: 原語では 10週間。0.25光年=約2.37兆km。一方フルインパルス (光速の 4分の1) で 10週間進んでも約4530億kmにしかならず、5倍以上の開きがあります。そもそも最初は長く見積もっても約690億km だった距離 (脚注※7) が、0.25光年ということは 30倍以上になった計算になるわけで… (脚注※21 も参照)

エンタープライズは依然として空間変動内を進んでいる。
フロックス:「オートナビゲーションもエンジンも問題ない。原因は何だ。」
トゥポル:「空間変動の膨張です。」
「計算済みでしょ。コースと速度は補正されるはずです。…トゥポル?」
「…膨張率が加速したようですね。…速度を上げなければ。」
「…フルインパルスなんですよ?」
「これでは遅すぎます、ワープを使わないと。」
「…タッカー少佐は、ワープは危険だと言っていました。」
「ではどうします。クルーを 2ヶ月半眠らせておくんですか。」

機関室のフロックス。「よし、まず何から?」
トゥポル:「私はあまり力にはなれません。」
フロックスはワープコアを見上げている。「また言わせますか、科学士官でしょう。」
トゥポル:「集中するのが難しくなってきているんです。」
「たとえ体調が最悪でも私よりはワープの操作に向いていますよ。」
「体調が最悪どころの話ではないんです。」
「私は医者だ、機関士じゃない!※20
「…科学の学位がいくつもあるでしょ。」
「ワープ理論のじゃありません!」
「……リアクター再起動の手順は、データベースに入っています。」
「ハ! マニュアルを読めと言うんですか。」

次々と表示される図。
フロックス:「ここだ。出力は 300 から 312ミリコクレインに抑え、ダイリチウム鉱石の核融合を防ぐこと。」
トゥポル:「そこは簡単ですね。」
「……空間圧縮指数が 5.62%以上、もしくは船が Cクラスの歪曲…重力フィールドから 2パーセク以内の場合…」
「難解なのは、よくわかってます。」
「難解? 理解不可能ですよ、古代クリンゴン語でも読む方がまだ意味がわかる。……すみません。」
「私がもっと力になれればいいのですが。」
「…助かっています。起動シーケンスを始める前に、プラズマリレーを閉じてもらえますか。」
離れるトゥポル。
隣にタッカーがいた。「何をしてるんだ。ワープエンジンは触るなと言っただろ。」
フロックス:「相手をする暇はない。」
「暇を作ってもらおうか。言っただろ、空間変動の中ではワープリアクターは使えないんだって。」
「難しいだけで不可能とは聞いていない!」
「ワープってのは空間をねじ曲げる。運動の法則に反するんだ。ほんのちょっとでも間違えれば、ワープフィールドは崩壊し船は吹っ飛ぶんだ。」
「警告をどうも。」
「あんたにはできっこない!」
「寄るな!」
「みんなを殺す気か!」
「忙しいんだ!」
トゥポル:「ドクター! …大丈夫ですか。」
フロックス:「…ええ。」
「ドクター…どれですか、プラズマリレーは。」
「ああ…私がやります。」

ワープコアを操作するフロックス。「デューテリアム圧は正常。…反物質圧縮コイルもオンラインだ。…速度は? ワープ2※21 で?」
トゥポル:「試しましょう。」
コアが起動した。
フロックス:「インターミックス安定。ああ…フィールド生成中だ!」 笑う。
ブザーが鳴り出した。
トゥポル:「何でしょう。」
フロックス:「ああ…わ、わかりません。」
明滅するワープナセル。
フロックス:「…全部手順通りですよ? どうしましょう。」
トゥポル:「…もしや…。」
「何? …何です、助けて! も、もしや、素粒子密閉かな?」
「数値を上げて!」
「ど、どうやってです。」
言葉が出てこず、宙を見つめるトゥポル。
フロックス:「ああもう!」 コンピューターに駆け寄る。「素粒子密閉。素粒子密閉は?」
火花が散った。
トゥポル:「ドクター! タッカー少佐を起こすべきです。」
首を振るフロックス。「死んでしまう。」
トゥポル:「このままでは全員死にます。」
「わかってる。」
「…任務を達成できなければ、地球の数十億人が死ぬ。一人犠牲が出ても、数十億を救うのが論理的です。」
「まだ犠牲にしたくないんです! …素粒子密閉だ! 磁気制限コイルのパワーを上げて!」
コンソールに向かうトゥポル。だが操作せず、座ってフロックスの方を見る。
フロックス:「トゥポル? …どいて!」
爆発が続く。操作するフロックス。
音が収まってきた。
トゥポル:「フィールドが安定してます。」
フロックス:「…維持してる。」
「ワープに入りましょう。」
「…エンジン始動。」 レバーを上げていくフロックス。
エンタープライズはワープに入った。
図を読み上げるフロックス。「1 ポイント 1。…ポイント 2。」 またブザー。「船外圧力増加中。」
トゥポル:「何をするんです?」
「リード大尉に、防御プレートのパワーアップを教え込まれた。…念のためにね。」
モニターの数値が一気に安定した。
フロックス:「…上手くいったようだ。1 ポイント 8。」 数値が上がっていく。「1 ポイント 9! …ワープ2ー!」 喜んだ。

エンタープライズは空間異常を抜けている。
ヒゲが少し伸びたアーチャーの額から、装置が外された。
ハイポスプレーによって、目を覚ます。「ドクター。」
フロックス:「あー、ジッとしてえ? 新皮質をウォームアップしてからでないとねえ。」
「もう、変動は抜けたか。」
「はい、間もなくほかのクルーも起こします。」
起き上がるアーチャー。「何か、トラブルは?」
フロックス:「ヘヘ、まあ些細なことが少々。記録しておきました。…気分が良ければ、相棒が。」 ポートスに触れた。
ベッドに上がってくるポートス。
アーチャーはなでる。「やあ。…ご苦労、ドクター。」
うなずくフロックス。

廊下を歩くフロックス。「ご気分は?」
タッカー:「ボーッとしてる。」
「そうでしょうねえ、4日も食べてませんし。食堂へ行った!」
「アイアイサー。」 歩いていくタッカー。
トゥポル:「……起こすのを手伝いましょう。」
フロックス:「必要ありません。気持ちはありがたいが、休んで下さい。部屋へ、送りましょう。」
「命令※22ですか?」
「ええ。」

部屋に入るトゥポル。「ありがとう。」
フロックス:「うーん。2、3時間したら、また様子を見に来ます。」※23
フロックスは、ふと目を留めた。
ベッドではトゥポルが眠っていた。服装も異なる。
振り返ると、一緒に部屋に来たはずのトゥポルは消えていた。
もう一度トゥポルを見るフロックス。

「ドクター・ルーカス。この手紙は削除して、録音し直そうかとも考えました。ほとんどは、明らかに幻覚なのですから。…しかしそれも一興なのではと思い直し、このまま送ります。それでは、身体にお気をつけて。あなたの友人、フロックス。」
食堂。
料理を持ってきたフロックス。「ご一緒しても?」
トゥポル:「…もちろん。」
フロックスは座る。
トゥポル:「タッカー少佐が、ワープの調整に数日かかると嘆いていました。」
フロックスは笑った。「さんざん言われましたよ。」
トゥポル:「こうも言っていましたよ? 『独りでやるとはすごすぎる』。」
うなずくフロックス。
通りかかったクルーがフロックスにぶつかった。「ああ、すいません。」
トゥポル:「…独りの船は、快適だったでしょうね。」
フロックス:「思ったよりは、にぎやかでしたよ?」
トゥポルは、フロックスを見た。


※20: "I'm a physician, not an engineer!"

※21: ワープ2 は TOS スケールで光速の 8倍に過ぎませんから、0.25光年を抜けるには約11日もかかります。ところが後のセリフにもあるように、最初の予定である 4日しか (全部合わせて) かかっていません。ワープ5 を出したとしても、約18時間かかるんですけどね…。「光年」という単位を安易に使ったからでしょうが、結局脚注※19 といい、幻覚内のセリフということで片づけられちゃうんでしょうか (でも脚注※7 は回想シーンなので、その言い訳は使えませんけどね)

※22: Doctor's orders
原題

※23: 窓から見える星が左から右に流れているため、トゥポルの部屋は右舷側にあることがわかります。ただし ENT第55話 "Extinction" 「突然変異」では左舷側だったはずですが…? 移動したのでしょうか

・感想
意図してか意図せずか邦題にも「孤独」と入っていますが、要は VOY "One" 「放射能星雲の孤独」のリメイクです。続編という形ではなくストーリーをほぼそのまま流用するのは、スタートレックでは珍しいですね。元のエピソードを佳作とする向きもありますが、私としてはさほど…だったので、今回の話もそれなりという評価になってしまいます。長い ST の歴史において、わずか 6年前のものを流用する必要はなかったような気もします。オチは多少面白いんですけどね (そのことを頭に入れてもう一度観てみてもいいかも)。
Breezy (遠景では Windy という別の犬も) が「演じて」いる、ポートスが久しぶりに多く登場しました。今シーズンのドースン監督は 3度目、共同製作総指揮 Chris Black が関わる脚本は 4話目です。本筋ではないエピソードでしたが、何事も本流がしっかりしたものであれば、脇も自然と引き立つものです。


dot

previous第67話 "Harbinger" 「新たなる脅威の兆し」 第69話 "Hatchery" 「トゥポルの反乱」previous
USS Kyushuトップ | hoshi.sa.to | ENT エピソードガイド