「自叙伝 キャスリン・ジェインウェイ」 先行レビュー

 ※特別に提供いただいた原稿のレビューとなります。最終版ではありません。

データ

タイトル: 自叙伝 キャスリン・ジェインウェイ
発売日: 2021年10月
著: キャスリン・M・ジェインウェイ
編: ウーナ・マコーマック
訳: 有澤 真庭
発行: 竹書房
定価: 3,850円 (10%税込)
通販: Amazon.co.jp

レビュー

「ピカード」「カーク」に続く、スタートレックのキャラクターによる自叙伝シリーズの3作目です。原語版は2020年10月に発売されています。

もともとはスポック版の発表が早かったのですが、こちらが先に刊行されました。順番的に言うとDS9のシスコになりそうなところ、まさかの、あのキャスリン・ジェインウェイ。
もっとも最初もピカードでしたし、ヴォイジャーが放送開始25周年だったことも関係しているのかもしれません。今後に期待ですね。

自叙伝という名の通り、生い立ちから時系列で追う形になっています。
当然ヴォイジャー本編では全く描かれていない幼少期については、作者の創造を読み手も新たに想像しながら進めることになります。ある意味とっつきにくいですが、あのジェインウェイがどういう子供だったか、どうやって形成されていったか、納得できる展開です。

海外のレビューでは、放送初期に出版された小説 “Mosaic” との矛盾を見出している人もいるようです。この本は、ヴォイジャーのクリエイターであるジェリ・テイラーが執筆したとても人気の作品。その性質上、正史と見なす向きもあります。もっとも本編で描かれていないという点では厳密な正史ではなく、そこは他の創作物同様に作者の裁量に任されるべきだと思います。ウーナ・マコーマック自身も、キャラクターの名前をテイラーの小説から採用したことを認めています (TrekMovie.com のインタビュー)。

その後もスタートレック世界での時代背景を踏まえながら、U.S.S.ヴォイジャーでの航海に入ります。
ジェインウェイの過去といえばパッと思いつく要素はもちろん、本編ではたった一回しか言及されていない赴任艦のシーンを広げるなど、懐かしい記憶との突き合わせに浸れます。
あまり覚えていなかったところも、改めて一部の本編を見直してみるときちんと深く扱われていることもあり、合わせてシリーズを復習するのもお勧めです。

ちょっと気になったのが、明らかにジェインウェイにとって大きな出来事だったはずなのに、全く触れていないエピソードがある点。それも機密扱いなんでしょうかね。
もちろん本編が終わった「その後」の部分もありますが、思ってたよりあっさりしていました。

新作が考えられないほど続々と公開され、ヴォイジャーを含む旧作も気軽に観られる時代となりました。日本でのヴォイジャーはCSでのパイロット版先行放送に始まり、途中で終わったLDのほか、「まるごと○○時間」や当時はまだ元気だった地上波深夜で毎週楽しんだ方も多いと思います。宇宙大作戦や新スタートレックといった偉大なる先輩と、勢いのある新作に挟まれやや肩身の狭いDS9・ヴォイジャー・エンタープライズ。特に日本ではとうの昔に小説も止まってしまった中、ヴォイジャーの関連本を日本語で楽しめるのは大変貴重です。
新作でも回顧としてヴォイジャーに目が向けられる機会が増えてきている中、唯一無二のキャラクターであるジェインウェイを、あの頃の記憶と共に振り返ることができる自伝でした。

著者…は今まで通り「本人」という体ですが、編集者つまり実際の執筆者はこれまでのデイヴィッド・A・グッドマンからウーナ・マコーマックに交代されています。
グッドマンはスタートレック:エンタープライズ本編の脚本家、そして資料本である “Star Trek: Federation – The First 150 Years” の著者でした。
それに対しマコーマックはDS9などの小説家であり、最近ではディスカバリーやピカードも手がけています。

原語版はジェインウェイ役のケイト・マルグルー自らが朗読するオーディオブックが発売されており、省略なしの完全版です。