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ディープスペースナイン エピソードガイド
第137話「夢、遥かなる地にて」
Far Beyond the Stars

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・イントロダクション
※1※2※3司令官室。
パッドが並べられたデスク。
キラ:「ディファイアントが該当区域を 6時間も捜索していますけど、生存者がいそうな痕跡は全くありません。」
シスコ:「コルテス※4はいい船だった。」
「…スワフォード艦長は友人でしたね。」
「私の紹介で結婚したんだ。」
「カーデシア境界のパトロールは、ますます危険になってます。いつジェムハダーの戦闘機に出くわさないとも限りません。」
「シャンパンのコルクを抜くのが早すぎたようだな。ディープ・スペース・ナイン奪還で誰もが、戦争は終わったと思った。ドミニオン軍をカーデシア領域に送り返したんだからな。」
「大佐も私も気を抜いてはいなかったでしょ?」
「わずかな油断で、コルテスの 400名が犠牲になったんだ。」
キラは出て行く。ジョセフ・シスコ※5がいた。「ああ! ミスター・シスコ。基地は気に入って頂けました?」
ジョセフ:「いやあ、とにかくもう…でかい。」
笑うキラ。ジョセフを残し、部屋を後にする。
ジョセフ:「クエンティン・スワフォード※6のことは聞いたよ。…気の毒にな。」
シスコ:「父さん、ここ 2、3日父さんをずっとほったらかしにしてて悪かったね。」
「忙しいのはわかってて来たんだよ。お前とジェイクの顔を見れりゃあいい。」
「でも…初めて地球を離れるのに、わざわざ戦時中を選ばなくてもよかったのに。」
「まあ…今じゃなきゃだめな気がしてな。それにお前が…心配だった。何度か連絡をくれた時、まるでアルファ宇宙域全体を独りで肩にしょってるような悲壮さだった。」
「時々本当にそう感じるよ。…父さん。」
「いいから言ってみろ。」
「どこまでやれるか、もうわからないよ。これから何人友人を失っていくのか。大勝利を挙げたと思った途端、次には必ずこんなことが起きて…結局何をしても無駄な気がしてくる。」
「それで、どうしたいんだ?」
「退くべき時かもしれない。重い責務は誰かに任せて。」
「そうか。お前は優秀な指揮官だが、代わりはいるさ。…お前はどう決めようと、私は応援する。だがまあ…もしスワフォードがここにいたら、いくつか言いたいこともあるだろうがな。」
「でも彼はいない。私はそれを言ってるんだ。」
「自分でもう少し考えた方がいい。私は可愛い孫と食事の約束がある。じっくり考えてみるんだな。」
その時、シスコはドアの外の人物に気づいた。こちらを見ている。
背広を着て、帽子を被った男は、首を振っている。
シスコ:「誰だ、あれは。」 すぐに部屋を出る。「どこ行った?」
ジョセフ:「誰が。」
「今ドアの前を通った男だ。」
司令室の中には見当たらない。
ダックス:「誰も見てないけど。」
シスコ:「今確かに…。」
ジョセフはシスコの肩に、手を置いた。

シスコと歩いているキャシディ・イエイツ※7船長。「何を心配してるの、ベン? 私の船はカーデシアの境界近くには行かないのよ。」
シスコ:「わかってるが、ドミニオンはますます大胆不敵になってるし、君の貨物船ではジェムハダーの攻撃機に敵わない。」
「絶対に捕まりっこないわよ。」
「ちっとも怖がってないんだなあ。」
「ええ、怖いもの知らずなの。知ってるじゃない。そこがいいところなんでしょ?」
「それは確かにそうだが…」
笑うイエイツ。
声が響いた。「よう、ベニー!」 野球ボールを片手にもち、グローブもつけたままの選手が歩いてくる。「試合来るのか?」
シスコ:「何?」
男はドアスイッチを押し、中へ入っていった。
シスコ:「誰だ、今のは。」
イエイツ:「今のって、何が?」
シスコは男の後に続く。
イエイツ:「ベン。どこ行くの?」

ドアの向こうは、道路の真ん中だった。
状況をつかめないシスコ。タクシーがクラクションを鳴らしながら向かってくる。
「うわあ!」 シスコは轢かれてしまった。人が集まる。
「誰か救急車を呼んであげて! ああ…」

ベシアが診察している。目を開くシスコ。
ベシア:「気がつきました。」
ベッドの周りに集まっているイエイツたち。「ベン、大丈夫なの?」
シスコ:「何とかね。」
ジョセフ:「よかったな。」
ジェイク:「一時はどうなるかと思ったよ。」
シスコ:「何が起こった。」
ベシア:「わかりません。シナプスに何か、不可解な電位が発生しています。神経パターンが去年の例の時のものと似てますね。」
「例の? 私がベイジョーの幻覚を見た時か。※8
ジョセフ:「幻覚? お前がいつも言ってる、預言者とかいうのと関係があるのか?」
イエイツ:「また手術する必要はないんでしょ?」
「何とも言えませんね。念のため、一晩ここで休んでもらいます。」
シスコ:「そんなことまでする必要があるのか。」
「この数値を見て下さい。」
渡されたパッドを見るシスコ。

「ギャラクシー」※9という雑誌を手に持っている。
露天売り※10が尋ねる。「買うのかい? 買わないのかい?」
雑誌を取り上げようとする露天売りの手を払う。
露天売り:「ああ、俺ならそんな雑誌買わねえな。宇宙船に空飛ぶ円盤に火星人。」
雑誌を見ていた男、ベニー・ラッセル※11は言った。「火星人のどこが悪い。」
「別に。でも全部が嘘っぱちだろ? 俺は…戦争ものが好きだね。『地上より永遠に』※12観たかい? バート・ランカスターが真珠湾の…真ん中に立ってるとだな、マシンガンがうなる。アアア! ゼロ戦から撃ってくるんだ。それが空飛ぶ円盤じゃしまんねえだろ? で、買うの買わないの。」
金を払うラッセル。
人通りから、パイプを持った男、アルバート・マクリン※13がやってくる。「ベニー!」
ラッセル:「やあ、アルバート。」
「あんたも編集部へ…行くのか? そうなのかなあと思って。」
「ああ、一緒に行こう。」
「そうだな。」
マッチを探すアルバートに、渡すラッセル。
「ああ、ありがとう。」 2人は歩き出す。「今日はいい天気だなあ。」
露天売り:「しんぶーん。しんぶーん。」


※1: このエピソードは、シスコ役のエイヴリー・ブルックス監督です。担当した全9話のうち、第117話 "Ties of Blood and Water" 「父死す」に続いて 8話目となります。参考

※2: また、1998年度エミー賞の美術監督賞、衣装デザイン賞、ヘアスタイリング賞にトリプルでノミネートされました

※3: 更に単発エピソードとしては珍しく、ノヴェライズ化した小説が発売されています Amazon.com / スカイソフト / Amazon.co.jp

※4: U.S.S.コルテス U.S.S. Cortez 連邦宇宙艦。DS9第129話 "Favor the Bold" 「ディープスペース・ナイン奪還作戦(前編)」など

※5: Joseph Sisko
(ブロック・ピーターズ Brock Peters) 地球、ニューオーリンズ市のレストラン・オーナーで、ベンジャミン・シスコの父親。第125話 "A Time to Stand" 「明日なき撤退」以来の登場。声:城山堅

※6: クエンティン・スワフォード艦長 Captain Quentin Swofford

※7: Kasidy Yates
(ペニー・ジョンソン Penny Johnson TNG第165話 "Homeward" 「滅びゆく惑星」のドバラ (Dobara) 役) 輸送船の船長。DS9第108話 "Rapture" 「預言者シスコ」以来の登場。声:弘中くみ子 (継続)

※8: DS9 "Rapture" より

※9: ギャラクシー・サイエンス・フィクション Galaxy Science Fiction
1950〜80年代に出版された雑誌。実在しますが、エピソード中で映る 1953年9月号の表紙は、TOS で登場した Albert Whitlock, Jr. によるマットペインティングに、多少変更を加えたもの。表紙の下の方に "COURT MARTIAL by Samuel T. Cogley" と書いてあり、この絵の「第11宇宙基地 (Starbase 11)」が登場する TOS第15話 "Court Martial" 「宇宙軍法会議」と、その登場人物サミュエル・コグレーを意味しています

※10: Vendor
(エイロン・アイゼンバーグ Aron Eisenberg) =ノーグ (以下の解説でも=で示しているキャラクターの俳優が、その人物を演じていることを意味しています。もちろん 1953年の地球ですので、異星人のメイクはありません) 声:落合弘治

※11: Benny Russell
(エイヴリー・ブルックス Avery Brooks) =シスコ 声:玄田哲章

※12: From Here to Eternity
「地上 (ここ) より永遠に」。1953年、コロンビア映画から公開された映画

※13: Albert Macklin
(コルム・ミーニー Colm Meaney) 姓は言及されていません。=オブライエン 声:辻親八

・本編
ニューヨーク。
編集部にいる女性、ケイ・イートン※14は、水の中に粉を入れてかき混ぜた。「ほーら、ただの水があっという間にアイスティーに早変わりよう。」
パイプをくわえた男、ジュリアス・イートン※15。「信じがたい。『ホワイトローズ・レディ・ティー※16』か。ゾッとするね。」
「あら、ウェルズ※17なら好きだったかもよ。」
「疑問だね。イギリス紳士がまさか。」
「ああ。」
もう一人の男性、ハーバート・ロソフ※18が怒り出した。「パプスト! パプスト、来てくれ!」
別室から出てくる男、ダグラス・パプスト※19。「何だ、ハーバート。」
「当ててみたらどうだ?」
ケイ:「『ドーナツ※20の闘い』、第28ラウンド。」
パプスト:「またドーナツの文句で、わざわざあたしを呼んだのか。」
ロソフ:「また古いドーナツだ。」
一つ口にするパプスト。「美味いじゃないか。」
「こりゃあ 2日前のドーナツだ。知ってるだろ。」
「生まれてこの方ドーナツは欠かさないが、これは長くて…6時間しか経ってない。」
「限界だ、やめるぞ! ギャラクシーへ移る。ヘ!」
「あんなクズ雑誌に?」
「だが編集長はドーナツの味ぐらいわかる…」
ラッセルたちが編集部に入った。「どっちが勝つ。」
ケイ:「また引き分けよ。」
パプスト:「…ああ、だが向こうじゃお前の短編に一単語 4セントは払わんぞ。」※21
ジュリアス:「4セントも払ってるのか!」
「口を挟むな。」
アルバート:「俺、マッチをどこへ…」
ラッセル:「マッチなら君に渡したぞ。」
ジュリアス:「…不公平だな、僕は 2セントだぞ。」
ロソフ:「君の稚拙な作品で 2セントは法外だよ。」
「聞き捨てならないな。」
ケイはラッセルの雑誌に気づいた。「何それ。」
ラッセル:「ギャラクシーだ。」
手にするケイ。「みんな! ギャラクシーの最新号よ。」
ロソフ:「見せてくれ。」
ケイから奪い取る。「ああ。もう。」
ロソフ:「ハインライン※22。ブラッドベリ※23。スタージョン※24。勢揃いだ。ハーバート・ロソフを出せば完璧だな。」
パプスト:「明日出来立てのドーナツを差し入れるよ。」
「とても信じられん。」
「クルーラ※25も 2つ入れとこう。」
「…わかった、残ろう。」
ジュリアス:「僕らは、おこぼれね。」
パプスト:「よし、古い問題には…かたがついた。次の話だ。来月号の作品の割り当てを決めるぞ。ロイ、まだか!」
大きな袋を持った、ロイ・リッターハウス※26が入る。「みんな今日も待たせたな。企画のイメージ画が出来上がったよ。」
パプスト:「最初のは私がタイトルをつけた。『私も連れてって』だ。誰が書く?」 奇妙な宇宙人と、少女が出会っている絵を見せるリッターハウス。
ケイ:「うーん。どう、ジュリアス?」
ジュリアス:「僕たちでいいよ。」
ロソフ:「ああ、そうだろうな。陳腐な話が目に浮かぶよ。寂しがり屋な女の子が宇宙人と友達になり、笑顔が戻る。」
ケイ:「ああ。」
「だから本よりテレビが売れるんだよう。次は?」
リッターハウス:「パプストの旦那のお気に入り、『アンドラス星のハネムーン』。」 大きなカマキリの前で、女性が横になっている。
ケイ:「すごくありきたり。」
「ザワークラウト※27食い過ぎて、気持ちが悪かった晩に描いたんだよ。」
ロソフ:「理由が何だろうと、ゴミみたいな絵には間違いない。」
「ありがとよ。」
「もらおう。」
ジュリアス:「やっぱりゴミには親近感感じるだろ?」
「絵はゴミみたいでも、私が話を書けば…芸術になるんだよ。」
笑うケイとパプスト。
次の絵を見せるリッターハウス。
パプスト:「こいつのタイトルが浮かばないんだよ、誰かいいアイデアはないか。」
そこに描かれているのは、DS9 だった。
ラッセルは引き込まれる。「私が考えます。」 受け取った。
パプスト:「よーし、それじゃ次の仕事だ。読者が手紙で作者がどんな顔か知りたいと言ってきてる。」
ケイ:「物書きの顔だって返事したら? 貧乏だけど、とっても魅力的。」
「それが…社主のストーンさんのアイデアで、お前さんたちの写真を来月号に載せるんだよ。」
アルバート:「そんなことを…本当に…。」
「するのか? ああ、するんだよ。ケイ、その日は寝坊していいぞ。」
ケイ:「そうよね。K・C・ハンター※28が女だって知られちゃ困るものね。」
ラッセル:「私も寝坊すべきですか。」
パプスト:「…悪く思うなよ。読者はベニー・ラッセルは白人だと思ってる。そう思わしといてやろうや。」
ロソフ:「ああ、そうだな。世間は女流作家も受け入れないのに、黒人がタイプライターを叩いてるなんてもし知ったらパニックだな。『山へ逃げるんだ。文明が崩壊するぞー』ってね。」
ラッセル:「W・E・デュボイス※29や、ゾラ・ニール・ハーストン※30。ラングストン・ヒューズ※31に、ラルフ・エリスン※32、リチャード・ライト※33。『アメリカの息子』※34を読みましたか?」
パプスト:「あれは自由主義者と知識人の文学だ。うちの平均的読者が求めてるのは、純粋に楽しめる娯楽作品なんだよ。」
ロソフ:「何て世の中だ、いっそ殺してくれ。」
ジュリアス:「ああ、ここに銃があればな。」
パプスト:「私も世間が変わればと思うがな。」
ラッセル:「思うだけでは変わりませんよ。」
「ベニー、たかが写真じゃないか。」
ラッセルは静かに言った。「このことは忘れません。」
ロソフはパプストに言う。「あんたはクズだ。」
パプスト:「…立ち話は終わりだ、仕事にかかれ。」
タイプライターを打ち始めるジュリアス。パプストは編集長室に戻った。

ドアの鍵をかけるラッセル。DS9 の描かれたイラストが、風に舞って飛んでしまう。
道にいた男が、その絵を踏みつける。ラッセルはしゃがむが、足を動かそうとしてくれない。
そのバート・ライアン※35は言った。「おいおい、おいおい! そう急ぐな。」
ラッセル:「私の絵です。」
「そうなのか?」
ライアンの隣にもう一人の男性、ケヴィン・ムルケイ※36がいる。「いいスーツだな。盗んだのか?」
ラッセル:「買ったんです。返してもらえますか。」
ライアン:「待てよ。」 刑事であることを示す。「俺ならそんな口の聞き方しないな。」
ケヴィン:「ここで何してるんだ。」
ラッセル:「仕事です。」
ライアン:「へえ、どこで?」
「ここです。」
「仕事は掃除か?」
ケヴィン:「それにしちゃ立派な格好だ。」
「この絵がお前のだって証拠は?」
ラッセル:「それは…宇宙ステーションなんです。」
2人の刑事は、同時に言った。「宇宙ステーション?」
ケヴィン:「待てまてまて、待て。」 絵を拾おうとする。「おい、足をどけろ。」
ライアン:「わかったよ。」
ラッセル:「別に…何の価値もないんです。私以外には。」
「逮捕して、前を調べた方がいいな。」
ケヴィン:「ああ…15分で署へ戻らないと。いいからもってけ。」 絵をクシャクシャにして、ラッセルに押しつける。「さっさと消えろ。」
ライアン:「おいおい。今回は済んだが、今度怪しいことがあったら、もうラッキーはないぜえ。」
「聞こえたろ、行け!」
歩いていくラッセル。
ライアン:「ケヴィン、ひでえなあ。この街はみるみるひどくなっていきやがるぜ。」
ケヴィン:「恐ろしいね。」 マッチを投げ捨てる。
「行こう。」

街角で牧師※37が話している。「主は言われた。『この言葉は信ずべき真実である。そして主は、聖霊と預言者たちの神は、天使を送られ、これから起きることを示された。』」 歩いていたラッセルを指差す。「主を称えよ。皆の目を開け、皆に見せよ。」
他の黒人たちの中で、立ち止まったラッセル。「私に…おっしゃってるんですか?」
「『私の言葉は書に記された。私の言葉は本となった。』 書き記すのだ、ブラザー・ベニー。これから起こる栄光を、人々に示せ。」
「『ベ、ベ、ベニー』? どうして私の名を。」
「行くのだ、そして真実を書き記せ。『人々を解き放つ』真実の言葉を。主の御言葉を称えよ、預言者の御言葉を称えよ!」
歩いていくラッセル。

家に帰ってきたラッセルは、ラジオ音楽を聴き始めた。ライトをつけ、DS9 の絵をもう一度見つめる。冷蔵庫から出したミルク瓶で頭を冷やし、ため息をついた。
すぐに机に向かう。タイプライターと、あのイラスト。紙をセットし、タイプし始める。
『ベンジャミン・シスコ大佐は、椅子に座り、窓の外を眺めた。』※38
ふと気になり、ブラインドを開けるラッセル。
窓に映っているのは、シスコだった。
眼鏡を取り、目をこする。ラッセルが映っている。
続きを書き始める。


※14: Kay Eaton
(ナナ・ヴィジター Nana Visitor) 姓は言及されていません。=キラ 声:小宮和枝

※15: Julius Eaton
(アレキサンダー・シディグ Alexander Siddig) 同じく姓は言及されていません。実際の俳優がそうだったように、夫婦の設定です。=ベシア 声:中村大樹

※16: White Rose Redi-Tea

※17: H・G・ウェルズ H.G. Wells
(1866〜1946) ハーバート・ジョージ・ウェルズ (Herbert George Wells)。VOY第118話 "Relativity" 「過去に仕掛けられた罪」の U.S.S.レラティヴィティは、ウェルズ級とされています

※18: Herbert Rossoff
(アーミン・シャイマーマン Armin Shimerman) =クワーク 声:稲葉実

※19: Douglas Pabst
(レネ・オーバージョノー Rene Auberjonois) 名の「ダグラス」は後に言及されますが、訳出されていません。冒頭にも登場。=オドー 声:加藤精三

※20: doughnut

※21: このシーンで、ロソフが自分のカバンにロケット型のモニュメントを入れます。これはヒューゴー賞受賞者に贈られるもので、これによりロソフが受賞したことがわかります。このエピソードが 1953年に設定されたのも、最初にヒューゴー賞が授与された年であるためです。現実には小説部門でアルフレッド・ベスターの「分解された男」が受賞しました。撮影で使われたのは、イラストレーターの Rich Sternbach が貸した本物。スタートレック自体は、ヒューゴー賞の映像部門で 4回受賞しています (TOS第16話 "The Menagerie" 「タロス星の幻怪人」、第28話 "The City on the Edge of Forever" 「危険な過去への旅」、TNG第125話 "The Inner Light" 「超時空惑星カターン」、第177・178話 "All Good Things" 「永遠への旅」)。

※22: ロバート・A・ハインライン Robert A. Heinlein
(1907〜1988) 20世紀の SF作家。後に言及される「人形使い」など

※23: レイ・ブラッドベリ Ray Bradbury
20世紀の著名なファンタジー・SF 作家。スタートレックの創作者ジーン・ロッデンベリーの親友であり、彼の葬式ではブラッドベリが演説しました。24世紀の宇宙艦名称・クラスでブラッドベリという船もあります (NX-72307、TNG第72話 "Menage a Troi" 「愛なき関係」より)

※24: シオドア・スタージョン Theodore Sturgeon
TOS第17話 "Shore Leave" 「おかしなおかしな遊園惑星」と第34話 "Amok Time" 「バルカン星人の秘密」の脚本

※25: cruller

※26: Roy Ritterhouse (J・G・ハーツラー J.G. Hertzler) 姓は訳出されていません。=マートク 声:大山高男。彼のイラストや編集部に飾られている絵は、John Eaves、Doug Drexler、Jim Van Over、Anthony Fredrickson、Rick Sternbach によるデザイン。更に TOS の Matt Jeffries によるスケッチも含まれています

※27: sauerkraut
正確には「フランク (フランクフルト、frankfurter) のザワークラウト」

※28: K.C. Hunter

※29: W・E・B・デュボイス W.E.B. Du Bois
William Edward Burghardt Du Bois (1868〜1963) 社会学者

※30: Zora Neale Hurston
(1903〜1950) 20世紀の民俗学者・作家

※31: Langston Hughes
(1902〜1967) 20世紀の詩人・作家

※32: Ralph Ellison
最初で最後の小説、"Invisible Man" 「見えない人間」(1952) で有名な 20世紀の作家。訳出されていません

※33: Richard Wright
(1908〜1960)

※34: Native Son

※35: バート・ライアン刑事 Officer Burt Ryan (マーク・アレイモ Marc Alaimo) 名前は言及されていません。=デュカット 声:幹本雄之

※36: ケヴィン・ムルケイ刑事 Officer Kevin Mulkahey (ジェフリー・コムズ) 姓は言及されていません。=ウェイユン 声:内田直哉

※37: Preacher
(ブロック・ピーターズ) =ジョセフ 声:城山堅

※38: 原語ではラッセル (ブルックス) の声は入っていません

黒人の少年たちと一緒に、歩きながら歌っているラッセル。レストランの中へ入った。
カウンターにいるウェイトレスが声をかける。「はい、ベニー。」
ラッセル:「キャシー※39。」
「座って。いつもの?」
「…今日はスクランブルエッグにしよう。」
「あらあ、今日は冒険したい気分なのう?」
「人生最高の小説が書けたんだ。」 袋を見せるラッセル。
「ほんと、すごいじゃない。ね、あたしもいい知らせがあるの。夕べジャクソン夫人と話したんだけど、2、3年後に店から手を引こうと思ってるんですって。それならあたしたちに売って下さいって頼んでみたら、喜んでですって。」
「その話はもうしただろう? 仕事ならある、私は作家だ。」
「…その仕事でいくら稼げたっていうの?」
「本格的に始めて、まだ 2、3年だ。」
「2、3年ですって? 15年にもなるじゃない。海軍時代にもたくさん書いてたでしょ?」
「あんなのはアマチュアだ。」
「ああ、ベニー。あたしたちどんどん年取ってるのよ、わからない? こんなチャンスないわ、お金を稼いで結婚できるじゃない。未来のために書くってあなたはいつも言ってるけど、これがあたしたちの未来なのよ?」
店に来た男たちに、客が歓声と拍手を送る。立派な背広を着た一人、ウィリー・ホーキンス※40がキャシーに話しかける。「キャシー。試合結果、聞いたか? 4打数 2安打。スナイダーからホームラン。ここから聞こえただろ、観衆の叫ぶ声。」
ラッセル:「そりゃあ叫ぶさ。何でジャイアンツ※41が 5位低迷なんだ?」
「キャシー、こいつにそろそろよそへ行くように言ってやってくれないか。」
キャシー:「いいけど、彼が行っちゃうとあたしのハートも…もってかれちゃうのよ。」
「…勝手にしてくれ。俺に言わせりゃ、可愛いハートが泣いてるよ。」
「そんなことないわ。」
ラッセル:「ストライク、スリー。アウトだ。」 キャシーとキスをする。
ウィリー:「俺はめげないね。打席はまた回ってくる。ステーキ・アンド・エッグ※42ね。」
キャシー:「すぐ持ってくわ。ね、一つ聞いていい? どうしてまだアップタウンに住んでるの? 有名な野球選手なんだから、もっといい所に住めるのに。」
「住めるけどな、白人は俺がプレーするのにもまだ慣れてないのに、隣に引っ越したら、どんな騒動になるか。それにここなら街行く人みんなが俺を賞賛の目で見る。だがあいつらには、俺はカーブが打てる黒人ってだけだ。じゃ、失礼するよ。ファンが待ってる。」
あきれるラッセル。
テーブル席にいる女性たちのところへ行くウィリー。「どうも。」 子供たちがサインを求める。「ああ、いいよ。」
子供:「サインちょうだい!」
ウィリー:「名前は何て言うんだ?」
「僕も!」 「ありがとう。」
キャシー:「オーダー通してくる。」 奥へ行く。
礼を言う子供たち。「ありがとう…」
若い黒人が店に来た。「よう、ベニー! 時計買わないか?」
ラッセル:「それどうした。」
「拾ったんだ。いいだろ?」
「ジミー※43、そんなことばかりしてると、取り返しのつかないことになるぞ。」
馬鹿にするジミー。「何かあっても、ケツぐらい拭けるよ。」
「いつか必ず痛い目に遭うぞ。」
「カーッ、何でいつも俺に説教すんだ。」
「説教じゃない、力になりたいだけだ。」
「力になりたいなら、時計買ってくれよ。金になるからさあ。」
「何で働かない!」
「何して? レストランの出前か皿洗い?」 笑うジミー。「勘弁だねえ。人に使われるのは御免だ。時間に追われるのも。」
「ああ、ご大層な理屈だな。」
「あんたよりましだろ。月に住んでる白人の話なんか書いて、くだらないもいいとこだね。」
「それはやめた。主人公は私たち黒人だ。」 袋を見せるラッセル。
「…じゃあ俺たちが月へ行くってのか?」
「ああ、来月号を見てくれよ。」
「…俺たちが月にねえ。ヘ、それもいいかもなあ。でもまずは、現金を稼がないとな。」

編集部で原稿を回し読みするロソフたち。
アルバートはボンゴ※44を叩きながら読んでいる。
ガムを噛んでいる、若い女性。「アハハハ、お腹に虫が入っちゃうんだ! …やだ、気持ちわるーい。面白いけど、気持ち悪いわよねえ。」
アルバート:「えー、ところで君は…その…何ていうのか質問させてもらうと…君はその…一体…」
「パプストさんの新しい秘書のダーリーン・カースキー※45。これ書いたの誰?」
ラッセルを指すロソフ。
ラッセル:「私だ。」
カースキー:「あなた?」
「意外かなあ。」
「だってこれ、『人形使い』※46以来の傑作! SF よく読むの。」
ロソフ:「いい子だね、君は。」
ケイ:「あんたみたいな人が増えてくれなきゃ。」
アルバート:「ベニーの小説はほんとにその、えっと…その…どう言えばいいかな。えーっと非常にその…ん…」
カースキー:「感動的?」
「…そう。」
ロソフ:「実に画期的な素晴らしい作品だ。」 喜ぶラッセル。「『ディープ・スペース・ナイン』というタイトルも興味をかき立てる。」
ジュリアス:「お見事だ。」
「彼は舌っ足らずだね。君の才能の半分でもあればと、そう言いたかったんだよう。」
ケイ:「ねえ、ベニー。」 思わずラッセルは眼鏡を外した。ケイの姿が、キラ少佐に見える。「私この少佐が気に入ったわ。タフな女よねえ。」 目をこするラッセル。「SF にはもっと強い女が必要なのよ。いつもそう言ってたわよねえ?」 ジュリアスに尋ねるケイ。
ジュリアス:「耳にタコだ。」
リッターハウス:「このカーデシア人、絵心をそそるねえ。特に首のデコボコが。文章を元にスケッチを起こすよ。表紙に使える。」
パプスト:「時間の無駄だ。君も仕事に戻れ。」
カースキー:「はい、パプストさん。」
「ロイもだ。」
ロソフ:「パプスト、『ディープ・スペース・ナイン』に文句を言う気か?」
「いやあ、気に入ったよ。実にいい。だが雑誌には載せられない。」
ラッセル:「どうして。」
「わかってるだろ、ベニー。主人公は黒人の大佐なんだぞ。しかも宇宙ステーションの司令官ときた。」
「どこが悪いんです?」
「大衆が受け入れないんだよ、信憑性がない。」
ロソフ:「火星人には信憑性があるのか?」
「お前は口を出すな。いいか、ベニー。私は雑誌の編集長で、救世軍じゃない。世界を買えるのは私の仕事じゃない。雑誌を出すのが仕事なんだ。つまり社主や流通業者、卸売業者の期待に応えなきゃならん。彼らは誰も、お前の話を雑誌にしたいとは思わん。わかるだろ、人種暴動が起きかねん。」
「いやあ、全くお見事だね、パプスト。臆病さを合理化するための言い訳も、これまでいろいろ聞いてきたが、今のが一番だ。稚拙もいいとこだ。」
ケイ:「あら。彼を怒らせたわよ。」
パプスト:「ハ、ハーバートはスターリンが死んでから怒りっぱなしさ。」
ロソフ:「それどういう意味だ。」
「どういう意味かわかってるだろ?」
「アカだというのか?!」
飛びかかろうとするロソフを抑えるラッセル。「やめろ、落ち着け!」
ジュリアス:「暴力沙汰はやめたまえ。僕らは作家で、バイキングじゃない。」
ロソフ:「黙ってはいないぞ。こんな小心者のファシストに、シンパ呼ばわりされたままじゃな!」
アルバート:「パプスト、その…私の作品について…その、その…どう思うかな。」
パプスト:「最高だ。彼こそ王道だ、黒人でも白人でもなく、ロボットの話だけ書いてる。」
ロソフ:「そりゃ彼がロボットだからだ。…悪く取るなよ。」
アルバート:「うーん…ロボットが、好きなんだ。ロボットはよく…んん…ああ、働くし!」
パプストは別のイラストを見せる。「ほら、この絵がテーマの短編を書け。そしたら来月号に載せてやる。よく書けてれば、表紙にだってしてやる。」
ラッセル:「この作品はどうなるんです。」
「私の見る限りじゃ、燃やしちまうか人類が皆同じ色になるまで、何年でも引き出しに入れとくしかないな!」
「今読んでもらいたいんです。」
「よーし、本に載せたいか? 大佐を白人にしろ!」
「それじゃまるで違う!」
原稿を返すパプスト。「どっちか選べ。」
他の作家たちも、無言のままだった。


※39: Cassie
(ペニー・ジョンソン) =イエイツ

※40: Willie Hawkins
(マイケル・ドーン Michael Dorn) 姓は言及されていません。冒頭でも登場。=ウォーフ 声:銀河万丈

※41: Giants
冒頭でウィリーが着ていたユニフォームにも書かれていました

※42: steak and eggs

※43: Jimmy
(シロック・ロフトン Cirroc Lofton) 姓は不明。=ジェイク 声:鈴木正和

※44: ボンゴドラム好きという設定は、ノーベル物理学者リチャード・ファインマンからイメージされています

※45: Darlene Kursky
(テリー・ファレル Terry Farrell) =ダックス 声:佐藤しのぶ

※46: The Puppet Masters
1951年出版

働いているキャシー。「載せないだなんて、ひどいわよね。ほんとに。」
ジミー:「だから時間の無駄だって言ったろ? 黒人の大佐なんて。俺たちが宇宙に行けるとしたら、連中が靴磨きを欲しがるときだけだろうなあ。だよな、キャシー。」
「さあね。正直言って、百年後がどうなってるかなんてどうでもいいわ。今日が大事なの。」
「あんたに教えといてやるよ。今日だろうが百年後だろうが、何も変わりはしないんだよ。奴らにとっちゃ、俺たちは全く別の人間なんだ。」
ラッセル:「世界は変わる。変わらなきゃ。」
「そう思ってりゃいいさ。」
キャシー:「こうなったのも思し召しかもね。」
ラッセル:「つまり、神様が小説なんか書くのをやめて、レストランを始めろとお示しだと?」
「そうかもしれないじゃない。…ね、二人でやれば絶対に上手くいくわ。幸せになれるのよ。それに書くのを完全にあきらめなくたっていいのよ。アムステルダム新聞※47だとか、ほかの黒人向け新聞ででも、記事を書けばいいじゃないの。」
「私は記者じゃない、作家だ。小説家なんだよ。それにアムステルダム新聞は、今から 400年も未来の宇宙ステーションの話なんて、載せちゃくれないからな。」
ラッセルの肩をつかむ者がいる。「試合結果聞いたか?」 その男は、クリンゴン戦士の服を着たウォーフだった。
驚いて椅子から倒れるラッセル。「あ…。」
ウィリーはラッセルを起こした。「驚かせる気はなかったんだ。顔色が悪いな。具合悪いのか?」
ラッセル:「いや、大丈夫。」
キャシー:「裏で横になってる?」
「その空気を…吸えば平気だ。」
「今夜のデートはどうするの?」
「迎えに行くよ、10時頃。」 慌てて店を出て行くラッセル。
ウィリー:「10時までは何してる?」
キャシー:「あなたと一緒じゃないことは確かね。」
ウィリーは帽子を直し、出て行く。

夜道を歩いていたラッセルの前に、牧師が現れた。「やあ、ブラザー・ベニー。」
ラッセル:「またあんたか。私に一体何の用があるんだ。」
「預言者の道をたどるのだ。預言者と共に歩め、ベニー。道を示してくれ。」
「道って何の。何を言ってるのかまるでわからない。」
「書き記すのだ、ブラザー・ベニー。」 ラッセルは歩いていく。「いつかその言葉が我々を、暗闇から正しき道へと導くであろう! 書き記すのだ、ブラザー・ベニー! 書くのだ!」

帰宅したラッセルは、すぐにタイプライターへと向かった。

ラッセルの部屋。
キャシーはラジオのスイッチを入れ、椅子の上で寝ているラッセルの頭にキスをした。眼鏡を取る。「はい、ベニー。」
ラッセル:「ああ、キャシーか。」
「デート忘れてたでしょ?」
「ああ、デートか。ごめん。仕事してた。」
「ベン・シスコ? あの黒人の大佐?」
「うん。」
「どうしてまた彼の話を書いてんの? 前のも売れなかったんでしょ? また書いたって同じなんじゃないの?」
「多分そうだが、売れなくてもいいんだ。書かなきゃならない。」
「今はそれより、何か食べなきゃね。」
「腹減ってないよ。ああ…それより、今何時だ。」
「真夜中過ぎよ。あたしも帰って寝なきゃ。」
「ああ…。」
「でもその前に、ダンスフロアで一曲踊ってくれない?」
「いいねえ。」
抱き合う二人。音楽に合わせて踊り出す。
キャシー:「うーん、いい気分じゃない?」
ラッセル:「一生こうしてたいね。」

イエイツ船長は言った。「うーん、あたしも。こんな時にはドミニオンの名前、二度と聞きたくないわ。」
ラッセルは部屋を見渡す。「ドミニオン?」

意味がわからないキャシー。「何のこと? ドミニオンとか何とか、言わなかった?」

イエイツは尋ねた。「どうしたの、ベン? どうかした?」
踊り続けるラッセル。「別に…。頭がおかしくなりそうだ。」

ラッセルはピアノに倒れ込む。「ああ、ああ!」
キャシー:「どうしたの? 何か言って。」
「自分の話の幻覚が見える。自分が…シスコ大佐になったみたいに。」
「大丈夫よ、ちょっと休めばよくなるわ。大丈夫だから。大丈夫。あたしが…あたしがついてるから。落ち着いて。シーッ…」


※47: Amsterdam News

インクレディブル・テイルズ※48編集部。
部屋から出てくるパプスト。「ベニー! お前は正気か!」
ラッセル:「私も自分にそう聞きたいですよ。」
「短編を書くチャンスをやって、表紙に載せるとまで言ったのに、3週間後、6本も続編を書いてきた。はっきり、本には載せられないといった作品の続編を 6本もだ! お前も自分のことを疑問に思ったようだが、お前は…完全に正気じゃない!」
ジュリアス:「自費出版した方がいいと思うよ。小さな出版社を通して、部数も、50〜100部の限定版で。」
「名案だと思うね!」
ケイ:「それなら歩道にチョークで書いた方が大勢に読んでもらえるんじゃない?」
アルバート:「これならどうかな。……彼の話を全部そのう…夢にするんだ。」
ラッセル:「…夢って?」
「『ディープ・スペース・ナイン』のラストシーンを、主人公の見た…夢にする。」
「それで、どう変わるんだ?」
パプスト:「…いけるかもな。」
ケイ:「『かも』って?」
「主人公の立場次第だ。」
「夢を見るんなら、そうねえ…あんまり…希望がない人よね。いい未来を夢見る、靴磨きの少年なんかはどう?」
うなずくパプスト。「…でも黒人だ。」
カースキー:「そりゃあそうでしょう、黒人の司令官を夢に見るんだもの。」
ロソフ:「待った。夢なんかにしちゃ、話が台無しだ。」
パプスト:「お前は黙ってろ!」
ジュリアス:「もっと胸を打つと思うね。」
ロソフ:「続編はどうするんだ? 全部夢にはできないぞ。」
ケイ:「まず最初のを出版しましょうよう。後はそれから考えればいい。」
ジュリアス:「どう思う、ベニー。」
ラッセル:「…歩道に…チョークで、書くよりはいい。」

遊んでいる黒人の少女たち。「…6…7…」
ラッセルは近づいた。「入れてくれる?」
笑う少女。
通りかかったジミーに話しかけるラッセル。「ジミー、やったぞ。私たちは宇宙へ飛び立つんだ!」
落ち着きのないジミー。「そんなのどうでもいいよ。」
「おい、昼飯おごれ。詳しく教えてやる。」
「後でな。仕事で忙しいんだ。」
「どんな仕事だ?」
「…でかい。それしか言えない。」
「おい、ちょっと待てよ! 危なくないのか?」
「心配するな、大丈夫。全部うまくいってんだ!」
「え?」
「それじゃ、またな。」 歩いていくジミー。

店のキャシーに話しているウィリー。「7回の裏だ、また打席に立った。2ストライクからカキーン…外野席一直線だ。120メートルはいっただろうな。」
キャシー:「知ってるわ、ウィリー。あたしも新聞ぐらい読むもの。」
「でも全然違うだろ? 本人から聞くのとじゃさ。」
ラッセルが駆け込む。「キャシー!」 笑い、カウンターの中に入る。
ウィリー:「試合結果聞いたか? 4打席 2安打だ。」
「ああ、すごいな。だけど私も満塁ホームランだ。」
キャシー:「え?」
「シスコ大佐の話が雑誌に載る!」
「ああ!」
「一単語 3セントだ。」
「ああ!」
「3セントだぞ!」
「ほんと、すごいじゃない!」
「だから今夜はお祝いだ。踊り明かすぞ。」
「ああ…あたし赤いワンピース着る!」
「そうだな。」 キスを繰り返す二人。ラッセル:「それがいい。3セントだ。3セントだ!」
笑うキャシー。ウィリーも微笑む。

賑やかな夜のダンスホール。
店の前でトランペットを吹いている者がいる。
出てきたラッセルたち。「さあ、さあ行こう!」 曲を口ずさむラッセル。
笑うキャシー。「あー、足が痛いわ。早く結婚してくれないと、あたしおばさんになっちゃう。」
「ますます綺麗になってるよ、毎日ね。」 歌い出すラッセル。「幸せさ。君とこうして、ただ…いられればー。」
牧師が現れた。「ブラザー・ベニー。」
ラッセル:「会いたいと思っていたところだ。やりましたよ、作品が出版されるんです。」
「『主の光は主の道にある』。ブラザー・ベニー。これは、あなたの旅の終わりではなく、始まりだ。預言者たちの道は、時として暗闇や苦悩に続いている。」
キャシー:「ベニー、この人何言ってるの? …あなた誰?」
「私の言葉は預言者たちの言葉。」 牧師はラッセルの耳を握った。離した後、彼の手には血がついている。「預言の中では、希望と絶望が手を取り合っている。」
ラッセルも自分の耳をつかむが、手には何もつかない。
後ろに下がる牧師。消えるように去った。
キャシー:「この人が言ってること、わかる?」
突然、遠くで大きな音が何回も響いた。
キャシー:「今の銃声?」
向かう二人。

ジミーが目を見開いたまま、倒れている。
ライアンとケヴィンが、タバコを吸いながら遺体を見下ろしている。
走ってきたラッセルが、2人にぶつかる。
ケヴィン:「おい! だめだ、止まれ!」
ライアン:「何のつもりだ!」
ラッセル:「何があった!」
「関係ないだろ。」
「知り合いなんだ!」
「そうか、こいつは車のドアをこじ開けようとしてたんだよ!」
「じゃあ車上狙いだけで殺したのか?!」
ケヴィン:「武器を持ってた!」
「バールが?」
「ああ、下がってろ。」
ライアン:「行け!」
ラッセルは押し戻そうとするケヴィンを殴り、ライアンにつかみかかる。
ラッセルを殴り出す 2人。
叫ぶキャシー。「やめて! やめてー!」
もはや無抵抗なラッセルを殴り、蹴り続ける刑事たち。
キャシー:「離して。お願い、やめてー。」 警官につかまれる。「離してよう。やめて、彼死んじゃうわ。…死んじゃう、やめてよ!」
街の者が見つめている。
キャシー:「やめて、お願い…やめて。」
ラッセルを殴るライアン。ウェイユン※49。デュカット※50。ケヴィン。デュカット。ウェイユン。
執拗に蹴り続ける 2人。
キャシー:「やめてー! ああ…」


※48: Incredible Tales
ラッセルたちの雑誌の名前。後に言及されますが、訳出されていません

※49: Weyoun
(ジェフリー・コムズ) DS9第135話 "Waltz" 「不滅の悪意」以来の登場

※50: ガル・デュカット Gul Dukat
(マーク・アレイモ) 同じく DS9 "Waltz" 以来の登場

ラッセルの部屋。
キャシー:「あなた、この部屋に何週間もこもりっぱなしだったんだから、編集部へ行くのはいいことよ。」
ラッセル:「ああ、その通りだな。それに今月号の一冊目が届くときに、その場にいたいからね。」
「当然よ。精魂込めて書いたんだから、印刷されたの最初に見なきゃ。だけど喜んで飛び跳ねたりしないでよ。せっかく治りかけてるんだから。」 帽子を被せるキャシー。
「満足げに微笑むだけで、我慢しておくよ。」
「もうあのおかしな幻覚は見てないんでしょ? どう?」
「大丈夫だ。」
ラッセルにサングラスをかけ、キスをするキャシー。
ラッセルは杖をつき、部屋を後にする。

編集部で話しているケイ。「『それは宇宙から来た』ってどう?」
ジュリアス:「最高のタイトルだと思うよ、僕もあやかりたいね。」
ラッセルが入ってきたことに気づき、みんな静かになる。
ロソフ:「…やあ、ベニー。久しぶりだね。」
ラッセル:「…届いてるか?」
ジュリアス:「まだだ。パプストが、まだ印刷所にいる。」
ケイ:「私たちも今か今かと待ってるとこ。」 微笑む。
アルバート:「君は…君はその…ひどい目に…」
「刑事にやられたんですって?」
ラッセル:「…もう平気だ。」
アルバート:「…歩けるようになって、出て…こられて、よかった。」
カースキー:「…彼にも教えたら?」
ロソフも手を挙げる。
アルバート:「あ…大したことじゃない。」
ケイ:「大したことよ。ノーム出版※51に小説が売れたんだからすごいわ!」
喜ぶラッセル。「小説? アルバート、おめでとう!」
アルバート:「ありがとう。」
「ロボットか?」
「ほかにない。」
みんな笑う。
パプストが戻ってきた。
ジュリアス:「やっと来たか。」
ロソフ:「…パプスト、今月号は?」
パプスト:「今月号はない。発売中止だ。ストーンさんが全部廃棄処分にした。」
ラッセル:「そんな馬鹿な。」
「社主だからな。何だってできるんだよ。彼いわく、『今月号はいつもの高い水準を満たしていない』ということだ。」
「でも…一体どういう意味なんです?」
「気に入らないってことさ。ハ…つまり、私たちの素晴らしい作品を待つ大衆には、今月我慢してもらうしかないってことだ。」
「でも、何が気に入らなかったんです。アートワークですか、レイアウトですか? 『高い水準』って、具体的に何のことなんです?」
ケイ:「落ち着いてよ、ベニー。」
「そうか……私の、私の作品だ。結局そのせいなんでしょ?」
ため息をつくパプスト。
「私の作品を世に出したくなかった。理由は明らかだ。あの主人公が、黒人だからでしょ?」
パプスト:「おい! この雑誌はストーンさんのものだ。彼が今月は出さないと言えば、ないんだよ!」
「良心が痛まないんですか!」
「人の良心を、とやかく言うな! そんなもの関係ないんだ。こりゃビジネスなんだからな! …すまないがベニー、まだ悪い知らせがある。これもストーンさんの決定だ。もうここで働いてもらう必要はない。」
ロソフ:「何?!」
カースキー:「ああ…」
ラッセル:「クビですか。」
パプスト:「私に決定権はない、社主の判断なんだ。」
「そうか、クビにはできないぞ。辞めてやる! 地獄へ…落ちろ。あんたも、社主もだ!」 杖で机の物を払いのけるラッセル。
ジュリアス:「ベニー、落ち着いて。」
「いやだ、もう黙らないぞ。黙ってても何も解決しない。」
パプスト:「ベニー、その辺にしておかないと、警察に通報するぞ!」
「すればいい! 通報しろ! 誰でも呼べばいい、それでも私は黙らないからな! もういやだ、誰にも屈しないぞ! ……私だって…私だって、同じ…人間なんだよ。否定したきゃ、勝手にすればいい。でもベンジャミン・シスコは否定できない。彼は存在する。未来に…あの宇宙ステーションと、仲間たちが存在するんだ! ここにな。」 頭に触れるラッセル。「私が彼らに命を与えたんだ。皆知ってるはずだ、読んだろ? 存在するんだ、私の言ってることがわかるか? 雑誌は処分できても、一度生まれた…想いは、ここにある! それまで消すことは、誰にもできない。人の想いは、絶対に…消せないんだよ! 私が想いつき、生み出し、存在する。それがわからないのか…ああ、あれは現実だ。私が生み出したんだ! あれは現実だ! 現実なんだよう……。」
崩れ落ち、泣くラッセル。ケイたちが支える。

ビルの前に救急車が到着している。
「ゆっくり。」 意識を失ったラッセルが、運ばれていく。「ほら。1、2、3!」
アルバートはラッセルの上に杖をおいた。他の編集部の者たちも見守る。

ラッセルの肩に手を触れる者がいる。眼鏡をかけるラッセル。
救急車に一緒に乗っていたのは、牧師だった。「ゆっくり休め、ブラザー・ベニー。預言者の道を歩み始めたのだ。これ以上の栄光はないぞ。」
ラッセルは、自分が宇宙艦隊の制服を着ていることに気づいた。「教えて下さい。私は誰なんだ。」
牧師:「知らないのか。」
「教えてくれ!」
「お前は…夢見る者であり、夢そのものだ。」
ラッセルは外を見る。星々が、軌跡を描きながら後ろへと流れ去っていた。この救急車は、ワープしている。

トリコーダーで診察されているシスコ。
イエイツ:「ベン。ベン?」
目を開くシスコ。起き上がる。「どのぐらい、寝てた?」
ベシア:「ほんの 2、3分です。」
ジョセフ:「一生に思えたねえ。」
「変ですね。どういうわけか、神経パターンが正常に戻ってます。」
ジェイク:「それっていいんだよねえ?」
「ああ、もちろんだよ。ただ…どうしてなのかが、わからないんだ。」
ため息をつくシスコ。

ジョセフはシスコの部屋に入った。「気分はどうなんだ?」
レプリケーターからカップを取り出すシスコ。「もう大丈夫。」
「荷造りしたよ。輸送船は明日の朝 8時に出る。」
「もっと、いられるといいのに。」
「ハハ、そろそろレストランに戻らんとな。客が待ってる。こんなに長く店を閉めたことはない。だがお前は…これからどうするんだ?」
「…できることをやるだけだ。ここに残り、やりかけた仕事を終わらせるよ。もしできなくても…」
「『私は、勇敢に戦い…道のりを終えた。私は信仰を貫いた。』」
「聖書の引用なんて珍しいねえ。」
「なんせ何が飛び出すかわからんだろ? …お前もそうだ。お前が見た奇妙な夢が心の整理に…役立ったようだな。」
「ああ、そうらしい。でもふと思ったんだけどね、夢じゃなかったのかもしれない。つまり…今の私たちの人生が、この全てが…父さんも、全てのものが…私たちのこの世界こそが全部…幻かもしれない。」
「だとしたら、恐ろしいな。」
「そうだ、本当に。だけどもしかしたら、夢なのはベニーじゃなく…こっちで、私たちはみんな、ただ彼の空想の産物なのかもしれない。世界の全てが…今この瞬間、どこか遠く美しく輝く星々の遥か彼方で…ベニー・ラッセルが、見てる夢かもしれない。」
シスコは窓を見つめる。そこに映っているのは、ラッセルだった。
※51: Gnome Press
現実には、アイザック・アシモフの "I, Robot" 「わたしはロボット」などの初期作品を出版しました

・感想
普段はメイクしている俳優たちも含め、全く別の役を演じるということで話題になったエピソードです。「全く別」とはいえ、ある程度設定的にリンクしている部分もあるのが面白いところです。
ストーリー的にも単に俳優の素顔や 1950年代のニューヨークという見た目だけではなく、人種差別問題を鋭く取り扱っています。最後のベニー・ラッセルのセリフは、もちろん吹き替えも素晴らしいですし、原語のブルックスの演技でも堪能できます。
「夢落ち」を逆手にとったようなストーリーで、これまでにあったような単なる夢やホロデッキではなく、現実とリンクしているのが本当に上手いですね。DS9 だけではなく、スタートレック全体でも絶対に欠かせない一本だと感じました。
シスコにとってベニーは夢、でもシスコの物語を観ている私たちからすれば、ベニーの方が現実に近いわけで…。


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