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ディープスペースナイン エピソードガイド
第142話「記憶なきスパイ」
Inquisition

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・イントロダクション
※1コンソールで指示を出すベシア。「コンピューター、ファイルをパッド A-7 にダウンロードだ。早くしろう。」
コンピューター:『ダウンロード完了。』
「ありがとう。頼む。」 看護婦にパッドを渡す。
オドーが来ていた。「残業ですか?」
ベシア:「ああ、明日の朝出発するまでに仕事を片付けないと。学会で論文を発表するんだ。」
「なるほど。どこでしたっけ? ライサか、カスペリア・プライム※2ですか?」
「カスペリアだよ。何でわかった。」
「医者の学会は、いつも日差しまぶしいリゾートですよ。」
「きつい仕事だからね。たまには病気や死から解放されたいんだ。」
「ふーん、日焼け止め持っていくのをお忘れなく。」
オブライエンが肩を押さえながらやってきた。「ああ…。」 ウェットスーツを着ている。
オドー:「ああ、当てましょうか。肩を脱臼したんでしょう。」 医療室を去る。
ベシア:「おい、またか。」
オブライエン:「そのようだ。ああ…。」
「カヤック※3はやらないと約束したじゃないか。肩は一度ちゃんと治さないと。」
「ああ…すまん。やらずにいられなかった。ああ…川が俺を呼ぶんだ。」
「声がするにしても、『近づくな、また怪我するぞ』って言ってるんだ!」 勢いをつけ、脱臼を治すベシア。
「うわー! はー…ああ、よくなった。」
「2、3日は痛むだろうから、無理するなよ。」 ベシアはハイポスプレーを打った。
「ああ…。」
「痛みがひどくなったら、ナースのバンディ※4に言え。」
「ああ…悪いな、ジュリアン。カスペリアでゆっくりしてこい。」
「僕は学会に行くんだ。旅行じゃない。」
「そうしといてやる。」
「川の呼び声が聞こえたら、よく聞けよ。近づくな。」 出ていくベシア。
笑うオブライエン。肩を確かめる。

ベシアの部屋。
コンピューター:『時刻は、午前7時丁度です。』
ベッドで寝ていたベシア。「何? 冗談だろ。ああ…コンピューター、正確な時刻は?」
コンピューター:『時刻は、午前7時0分、11秒です。』
ベシアは起き上がる。「ああ…。ああ、どうやら今日はラクタジーノをガブ飲みだな。」

制服に着替えて、寝室を出る。
「ああ…。」
荷物をかばんに入れ、飾ってあるテディベアのクカラカ※5を見た。「2、3日で帰ってくる。うちを守っててくれよ。」
通信が入った。『こちらはシスコだ。士官は全員、直ちに司令室へ来てくれ。』
ベシア:「何なんだ。」 あくびをし、部屋を出る。

ターボリフトでもあくびを続けるベシア。
「長引くとシャトルに遅れちゃうよ。」
司令室に着くと、中は騒然としていた。上級士官が集まっている。
ベシア:「どうしたんだ。」
オブライエン:「内務監査局※6だ。」
「何しに来た。」
「まだわからない。」
ダックス:「教えてくれれば、歓迎パーティ開いたのに。」
キラ:「ただ挨拶に来たわけじゃあないわよね。」
ウォーフ:「大佐はどこだ?」
オドー:「中にいます。」
司令官室で、宇宙艦隊の男性と話しているシスコが見える。
ベシア:「深刻そうだな。」
オドー:「ああ、そのようです。」
男と一緒に出てくるシスコ。「みんな聞いてくれ。こちらは内務監査局のスローン※7副長官だ。連邦評議会の命を受けて調査に来られた。みんな副長官には全面的に協力するように。」
スローン:「…艦隊情報部※8が、このディープ・スペース・ナインから重大な情報漏洩があると主張している。何者かが、ドミニオンに情報を流している疑いがある。」
ダックス:「副長官、お言葉ですが…それは何かの間違いだと思います。」
「私もそう願っているよ、本心からねえ。だが、事態が明らかになるまで、手続きに則ってステーションの上級士官全員をそれぞれ隔離する必要がある。」
ため息をつくベシア。
シスコ:「たった今から、全員の任務を解き、各自自室で待機とする。」
キラ:「閉じ込めるってこと?」
「私も不本意だが仕方ない。」
スローン:「聴取はすぐ始めよう。私が一人一人事情を聞く。それまでの間、お互いにこの件について話し合うことのないように。何か質問は?」
ベシア:「あのー…その事情聴取はどれぐらいかかるんでしょう。」
「何ともいえないね、ドクター。だが心配ない、君が学会に参加できないことは、もう艦隊医療部には連絡済みだ。」
「そりゃどうも。ご配慮感謝します。」
「全員部屋へ連れて行け。」
スローンの部下の保安部員、チャンドラー中尉※9とケイガン少尉※10が近づく。
チャンドラー:「それでは、部屋の方へ。」
士官たちは出ていく。


※1: このエピソードは、ウォーフ役のマイケル・ドーン監督作品です。DS9 で担当した 3話のうち、第123話 "In the Cards" 「プレゼント大作戦」に続いて 2話目となります。参考

※2: Casperia Prime
DS9第140話 "Change of Heart" 「至高の絆」より

※3: kayak
TNG第73話 "Transfigurations" 「輝きの中へ…」など

※4: Bandee

※5: kukalaka
ドクター・ベシアお気に入りのテディベア。DS9第96話 "The Quickening" 「星に死の満つる時」など

※6: Internal Affairs (Department)
原語では "Department" は使われていません

※7: Sloan
(ウィリアム・サドラー William Sadler 「飛べ、バージル/プロジェクトX」で映画デビュー。「ダイ・ハード2」、「ショーシャンクの空に」などに出演。NHK で放送中の SFドラマ「ロズウェル/星の恋人たち」のレギュラー、ジム・ヴァレンティ保安官役) 副長官=Deputy Director。階級章は大佐ですが、下部に線が入った特殊なものです。声:佐々木勝彦

※8: Starfleet Intelligence

※9: Lieutenant Chandler
(Samantha Mudd) 声:野沢由香里

※10: Ensign Kagan
(Benjamin Brown) クレジットでは「中尉 (Lieutenant)」になっていますが、階級章は明らかに一つ (少尉) です。名前は言及されていません。声:河相知哉

・本編
ベシアは自室でため息をついた。
レプリケーターに注文する。「バターつきコーン※11、モバ・ジャム※12、レッドリーフ・ティー※13。」 全く反応がない。「頼む。」
覗き込むベシア。「どうなってんだ…。いいよ。」
かばんからパッドを出すと、一緒に出したペンがソファーの下へ転がってしまった。床に伏せ、手を伸ばして取ろうとするベシア。「うーん。ああ…。うーん。」 チャイムが鳴った。「どうぞ!」
チャンドラーが入る。「一緒に来て頂けますか?」
ベシア:「ああ。」 ペンを取るのをあきらめた。「ああ。わかりました。」
チャンドラーについて部屋を出る。

ベシアはチャンドラーに尋ねた。「どこ行くんです?」
チャンドラー:「上級士官室へ。副長官がいくつか質問なさいます。」
声が響いた。「そこどいて!」 フェイザーライフルを持った保安部員が、廊下を走り抜けていった。何人も続く。
ベシア:「何だ、あれは。」
チャンドラー:「心配する必要はありません。こちらです。」

上級士官室に入ると、上着を脱いだスローンが待っていた。
チャンドラー:「ドクター・ベシアです。」
スローン:「……ご苦労。」
出ていくチャンドラー。
スローン:「ドクター・ベシア。」 握手する。「座って、どうぞ。学会に出席できないのは申し訳ないが、仕方なくてね。こういうケースでは、ルールに厳格にいかないと。」
ベシア:「ええ、わかってます。」
「逆に運がいいかもしれないよ。君は前回学会に出席しようとした時、ドミニオンに拉致されたから。」
「二度目は遠慮したいですね。」
「うーん、そうだろうねえ。5週間もドミニオンの収容所にいたとは。どんな状況か、想像もつかないな。」
「愉快ではないです。」
「報告書は呼んだ。私なら、あんな状況で耐えられるかどうか。実際、そうなってみないとわからないな。」
「耐えるしかありませんでしたから。生き残るためならどんなことでも。」※14
「ふーん。君の扱った症例を、いくつか読ませてもらった。実に素晴らしいね。遺伝子強化された患者たちを扱ったケースだ。見事の一言だね。」
「恐縮です。」
「君が治療を始めるまで、艦隊医療部では彼らを称して、『コミュニケーション不能で敵対的』といってる。それを君が初めて、彼らとの会話を成立させたんだからねえ。」
「私も彼ら同様、遺伝子強化を受けてますから、そのせいで心を開いてくれたんだと思います。」
「同じ立場というわけか。」
「ええ、そうです。」※15
「…うらやましい職業だねえ。人々の生活を良くするのに直接関われる。実は…私も医者を目指していた時期があるんだ。」
「優しい医者に、なられたでしょう。」 笑うスローン。「実は最初ここに呼ばれた時、明かりを顔に突きつけられて、問い詰められるんだとばかり思ってましたよ。」
「今回は違う。さて、これ以上時間を取る必要はないな。ご協力に感謝する。」 チャンドラーが戻ってきた。
「どういたしまして。」
「チャンドラー中尉が君を部屋へお連れする。悪いが、ほかの事情聴取が済むまで、部屋にいてもらわなきゃならないんだ。」
「誰かレプリケーターの修理によこしてもらえませんか。壊れてるんです。」
「実は、我々が停止させた。万一誰かが、通信機や武器を複製しようとすると困るからねえ。」
「…参ったな。朝食がまだなんですよ。」
「何がいいかね。すぐに部屋までもって行かせよう。」 パッドを手に取るスローン。
「じゃあバターつきスコーン、モバ・ジャムに、レッドリーフ・ティーを…お願いします。」
記録するスローン。「すぐ行かせるよ。」
ベシア:「すみません。」
スローンはベシアを呼びとめた。「ああ、ドクター、もう一つ。遺伝子操作を受けた患者の治療だが…医療部から依頼されたのかね。それとも志願して?」
ベシア:「志願しました。」
「なるほど。以上だ。」
ベシアは出ていった。

部屋で待っているベシア。チャイムが鳴った。
ベシア:「どうぞ。」
ケイガン:「お待たせを。」
「助かった! 腹ペコだよ。」 料理を受け取るベシア。「乾杯だ。」
ケイガンは出ていく。「それでは。」
だが、ベシアが皿を開けると、そこにはうごめく虫が入っていた。「ああ…。」 ふたを戻す。「ガフ※16は遠慮したいね。」
一緒に置かれていたカードには、ウォーフの名前と部屋※17の位置が書かれている。
ベシア:「ウォーフ少佐。僕のスコーンはやるよ、ウォーフ。」
ソファーに戻った時、パッドがかばんの中に戻っていることに気づくベシア。
ソファーの下を探ると、落としたペンが見つかった。
部屋を見るベシア。壁に立てかけていたはずのクカラカが、横に倒れている。
コンピューターに呼び出し音が鳴った。
通信相手は、オブライエンだ。
ベシア:「マイルズ。士官同士しゃべるなって言われてるだろ。」
オブライエン:『どうしてるか、気になってなあ。』
「大丈夫だ。誰かが部屋をかぎ回ったようだけどね。」
『ありそうな話だな。スローンの聴取は受けたか?』
「さっき終わったよ。」
『どうだった。』
「何事もなかった。当たり障りのないことだけだ。」
『そんな呑気なこと言ってられないぞ。俺は 2時間ネチネチ聞かれた。』
「2時間も? 何のことを。」
『お前だよ。』
「嘘だろ。」
『ならいいけどな。全部おまえについての質問だ。…じゃ、連中に探知される前に切るぞ。気を付けろって言っときたくてな。』
「おい、待ってくれ。僕の何を聞かれた。」
『とにかく用心するんだ。奴ら…』 映像が乱れ、通信が終了した。
またチャイムが鳴る。
ベシア:「どうぞ。」
チャンドラーとケイガンが入る。
チャンドラー:「副長官が会いたいそうです。」
ベシア:「またか。」
ケイガン:「ああ、そうだ。」
従うベシア。


※11: scone

※12: moba jam
「モバ」はモバ・フルーツ (moba fruit) のこと。前話 "Wrongs Darker than Death or Night" 「憎悪を超えて」など

※13: red leaf tea
DS9第53話 "Civil Defense" 「暴徒制圧モード始動」より

※14: DS9第112話 "In Purgatory's Shadow" & 第113話 "By Inferno's Light" 「敗れざる者(前後編)」より

※15: DS9第133話 "Statistical Probabilities" 「封じられた最終戦略」より

※16: ガーグ gagh
クリンゴンの料理であるヘビ虫。TNG第34話 "A Matter of Honor" 「錯綜した美学」など

※17: レベル3、セクション27、ルーム19
指示によりダックスと分かれているはずなので、通常一緒に暮らしている部屋とは別かもしれません

上級士官室に戻るベシア。スローンがレプリケーターの前にいる。
チャンドラーに指示される通り、席につくベシア。チャンドラーはドアの前へ戻る。
レプリケーターからカップを取り出すスローン。「朝食は済ませたかね。」
ベシア:「ええ、まあ。」
「よし。メモを読み返していて、いくつかはっきりしない点があったから来てもらったんだがねえ。」
「はあ。」
「不都合でもあったかな?」
「いいえ。」
「まずはドミニオンと一緒だった時期だ。」
「『一緒』だったんじゃない、捕虜だったんです。」
「第371収容所だな?」
「そうです。」
「第6バラック?」
「ええ。」
「そこに 5週間いたね。」
「正確には 37日間。」
「日数に間違いはないのか?」
「はい。」
「第6バラックで、マートク将軍と一緒だった。」
「そうです。」
「彼によれば、ジェムハダーが君を連れ出したそうだが?」
「配給に文句を言ったんで、独房に入れられたんです。」
「なるほど。その間に誰かと会ったことは?」
「独りでした。」
「確かなのかね?」
「えっと…待って下さい。…独房に入ってましたから、ええ。独りでしたね。」
「ヴォルタと会わなかったか?」
「いいえ。」
「可変種とは。」
「いいえ。」
「君は 7日間、たった一人でいたというんだね?」
「7日間じゃありません、5日。5日です。」
「そりゃおかしいなあ、マートク将軍は 7日と言ってるんだがねえ。」
「違います、5日です。」
「どうして将軍が嘘をつくんだ。」
「嘘とは言ってません。」
「どちらかが嘘だ。」
「日数の感覚をなくしたんでしょう。あの状況じゃ無理もない。」
「君の方は。」
「監禁状態には、クリンゴンより地球人※18の方が適応力があります。」
「遺伝子操作を受けてればなおさらか?」
「どういう意味なんです。」
「収容所から脱走した時の話に移ろうか。君の報告書からの抜粋だ。『我々はバラックの生命維持システムを利用して、通信機を作った。それを使い、シャトル※19とコンタクトし転送で脱出した。』 申し訳ないが、とてもにわかには信じられないなあ。」
「事実ですから。」
「なぜドミニオンは、君らのシャトルを軌道上に放っておいたんだ?」
「コンタクトできると思わなかったんでしょう。」
「そうかなあ。…通信機も何の妨害もなく作れた。ドミニオンが君を逃がしたと考える方が普通じゃないかな?」
「そんな。なぜそんなことするんです!」
「君をスパイとして使うためだ。」
「僕はスパイなんかじゃありません。」
「そう言い切れるか?」
「何ですって。」
「君はスパイではないと、はっきり言い切れるのか? …『記憶痕跡の乖離※20』という言葉を聞いたことはあるかな?」
「聞き覚えは。」
「理論はこうだ。人によっては、十分に訓練をすることで、矛盾する情報を脳で分離することが可能となり、考えることと行動を切り離すことができる。君の脳は恐らくそれが可能で、ドミニオンはそれを見破り、利用することにした。連中は君を洗脳し、彼らに寝返らせ、そしてその記憶を閉じ込めたんだ。」
「つまり僕は自分でもわからずに、スパイをしてるって言うんですか。」
「こんな完璧なことはない。絶対に捕まらない。なぜなら君自身がスパイだと知らないんだ。君から情報を得るには、ただ記憶の引き金を引けばいい。」
「馬鹿馬鹿しい!」
「ドクター、私は君を助けたいんだ。それには君の協力がいる。君自身が心の壁を崩さなければならない。そして奴らから与えられた任務や接触相手について、記憶の断片をかき集めるんだ。簡単じゃないが、やってもらわなきゃならない。」
「…かき集めることなんてない。僕には記憶痕跡の乖離なんてありません。」 立ち上がるベシア。「艦隊に忠誠を誓った士官だ。正式な起訴でないなら、僕はもうこれ以上何も答えませんよ! その場合も弁護士の同席を要求します。」
「君の嘘はもう聞き飽きた、ドクター! 我々より優れていると思ってるんだろ。連邦のために命を懸けている、数百万の兵士も君にはただの愚鈍な連中か? あくまで否定するんだな。いいだろう。必ず真実を引き出してやる。そしてボロボロになったお前を、ムショにぶち込んでやるからな。衛兵!」
チャンドラーたちがベシアに近づいた。

ベシアは手錠をはめられている。人々が騒ぐ中、プロムナードを歩かされていた。
シスコが前に立つ。「士官に手錠をかけて、プロムナードを引き回す必要があるのか!」
チャンドラー:「副長官からの命令です。」
ケイガン:「どいて下さい、大佐。」
キラ:「必ず助けるわ、ジュリアン。」
クワーク:「こんなの何かの間違いだ。…ですよね?」
シスコは道を譲った。保安部員たちは保安室へ入る。

椅子には宇宙艦隊の士官が座っていた。
ベシア:「オドーはどこだ。」
チャンドラー:「自室待機よ。当分我々が保安部を仕切ります。」
ケイガン:「こっちだ。」
奥へ連れて行く。

独房の前で、ベシアの手錠を外すケイガン。「きつかったか?」
ベシア:「少しね。」
「死にゃあしない。」
「ああ、仕事が楽しいようで僕も嬉しいよ。」
「…ドミニオンがタイラ星系※21に進軍した時、俺は第7艦隊※22にいたんだ。数時間で 98隻が大破した。仲間が大勢死んだ。」
「僕も仲間を失ってる。」
チャンドラー:「そうでしょうね。ジェムハダーの方の仲間でしょ? これは必要ないわ。」 ベシアのコミュニケーターを取り上げた。「入りなさい。」
ベシアが独房へ入ると、フォースフィールドが張られた。


※18: 「人間」と吹き替え

※19: またランナバウト (runabout) の訳が第5シーズン以前の「シャトル」に戻っています

※20: engramatic dissociation

※21: Tyra system

※22: Seventh Fleet
連邦の宇宙艦隊任務部隊。共に DS9第125話 "A Time to Stand" 「明日なき撤退」より

ベッドの上に座っているベシア。
チャンドラーの声が聞こえてきた。「すみませんが、大佐。保安部のオフィスでお待ち頂けませんか。スローン副長官が、すぐいらっしゃると思います。ご相談頂いた上で、許可を…」
シスコ:「相談することなど何もない! 私の部下と 10分だけ話がしたい、今すぐにだ。」
「わかりました。」 出ていくチャンドラー。
シスコはベシアに話しかけた。「オドーがいろいろ調べた。それによると、スローンは艦隊に息子がいた。輸送船のパイロットだ。ドミニオンの哨戒機に撃沈された。」
ベシア:「…僕が奴らに情報を流して、息子が殺されたと思ってるのかもしれませんね。」
スローンの声。「ああ、まさにその通りだ。」 姿を見せる。「息子の護送船団は、ワープを解除し、クリンゴン船とランデブーするはずだった。だがその代わりに、ドミニオンの戦闘機が 3機待っていたんだ。」
シスコ:「息子さんは気の毒だ。…だがそのことであなたは冷静さを欠き、捜査の障害になっているとは思わないか。」
「いいや。真実を突き止めるという決意となっている。用件は何だったかな?」
「私の部下の医療主任と話がしたい。2人だけで。」
「気持ちはわかる。…だが保安上の規則で、私の許可なしで囚人と話をすることは許されない。」
「スローン副長官。私の指揮権を剥奪しても構わないと、艦隊の許可を受けているのか。」
「いいや、受けてない。」
「であれば、ここでの指揮権は私にある。いつでもドクター・ベシアに会う権利がある。それから、今後は彼の権利を守るため、事情聴取には全て私が同席する。わかってもらえたかな!」
「…いいだろう。じゃあ、次の聴取は明日だ。心行くまでゆっくり話してくれ。」 スローンは去った。
ベシア:「助かりました、大佐。」
シスコ:「必ず事実をはっきりさせる。約束するよ。」

上級士官室にいるベシアとシスコ。2人とも疲れている。
スローン:「2、3年前のボパク3号星※23の事件に戻ろうか。君の報告によれば、君とオブライエンはこの星に不時着し、その後ここにいたジェムハダーの一団と接触したとある。」
ベシア:「接触したんじゃない。捕まったんですよ。」
「そうだとすれば、なぜ逃げようとしなかったんだ?」
「チャンスがなかった。」
「オブライエンの証言では、君は逃げるより、ケトラセル・ホワイト中毒のジェムハダーの治療にこだわったそうじゃないか。」
「僕は医者です。苦しむ奴を見逃せない。」
「連中は敵だ。遺伝子操作を受けた、殺人マシンだ。」
「マシンじゃない、彼らにも感覚があります。死んでいくのを放っておけなかった。」
「なぜだ。奴らに同情したからか? 同じ遺伝子操作を受けた者として。」
シスコ:「本件とは関係ない! その件はドクターがドミニオンのスパイにされたとあなたが疑っている時期より、ずっと以前のことじゃないか。」
「関係がないとは言い切れない。既にドミニオン・シンパの兆候を見せていたということだ。だが、先へいこう。ドクター、君が基地に連れてきた、遺伝子操作された患者たちについて、昨日話をしたねえ。彼らの治療しようと思った理由は何なんだ?」
ベシア:「人生の大半を施設で過ごした人たちです。社会に適応する手助けができるかもしれないと思った。」
「崇高な目的だ。私がわからないのは、君が取った方法だ。物心ついた頃から、外界と遮断されていたような社会不適合者に、君はドミニオンとの戦争の情報を雨あられと降り注いだ。正直言って、…彼らが怯えて引きこもらなかったのが驚きだな。」
「現実に触れさせたかった。うまくいきました。」
「彼らが機密扱いの戦闘プランにアクセスできるよう、司令部に掛け合ったのもそのためか?」
「戦争に勝つために、司令部が僕らのアイデアを聞きたがったんですよ。」
「戦争に勝つために? 連邦は降伏すべきだと進言したなあ。」
「できるだけ戦死者を出さないという観点から出した結果だ。きちんと答申書を読めば、意図はわかるはずだ!」
「大佐。君はあの答申をじっくり検討したはずだ。」
シスコ:「……ああ。」
「彼らに賛成か?」
「…いや。」
「当然そうだろう。忠実な艦隊士官ならありえない。」
「彼が過去に何度か資質を疑われかねない決断をしたことは否定できない。しかしだからといって、裏切り者と断定するには無理がある! 今のところ、あなたが根拠としているのは状況証拠と、推測のみだ。」
「証拠隠滅の天才相手に、善戦してると思うがねえ。」
「全く議論にならん! わかってるだろ!」
「大佐。ドクター・ベシアが関わった疑わしい事件が一つや二つなら、あなたがうっかり見逃していたのもわからなくはない。しかし相当数の事件が、同じパターンで繰り返されている。これは到底無視できない。長く仕えてきた部下を疑いたくないという気持ちは私もよくわかる。よそ者の言葉より、彼の言葉を信じたいと思うのももっともだ。だが一歩引いてよく考えてみてくれ。この男は 30年以上も、自分が違法な遺伝子強化手術を受けたことを隠し続けてきた。嘘をついて、医師免許を取ったんだ。嘘をついて艦隊に入隊し、嘘をついてこの基地へ赴任し、君にもずっとその嘘を突き通した。」
「……だが最後には正直に、真実を話した。」
「ああ、そうだった。なぜだ? なぜ告白する気になったんだ。上官には真実を告げるべきだと、その時やっと思い立ったからか?」
ベシア:「いや。」
「だまし続け、罪悪感にさいなまれたからか?」
「いや。」
「じゃあどうして打ち明けた。」
「秘密が漏れたから。」
「もしも秘密が漏れていなかったら、自ら進んで大佐に真実を打ち明けていたと思うか。」
無言のベシア。
スローン:「どうだ。」
ベシア:「…わからない。」
「だろうなあ。」

独房に戻されたベシア。シスコも無言だ。
ベシア:「スローンは一つだけ正しい。最初から話すべきでした。」
シスコ:「ああ、そうすべきだったな。だがそれはもう過去のことだ。」
「あの男には何を言っても通じません! 嘘をついてるか、記憶を閉じ込めてるとしかとらないんだ!」
「嘘をついていないのはわかってる。」
「でも…」
「でも、聞かせて欲しい。ドミニオンが君を寝返らせ、その上で記憶を閉じ込めたというのは、医学的に可能性のあることじゃないのか。」
「理論的には可能でも、そんなことはなかった。」
応えないシスコ。
ベシア:「信じてないんですね。」
シスコ:「君が…嘘をついていないことはわかる。……もう遅い、少し眠るとしよう。明日の朝、また話そう。」
出ていくシスコ。
ベシアは床に腰を下ろした。

独房のライトが点り、ベシアは体を起こした。
スローン:「起こして悪かったな、ドクター。君にはちょっと旅行に行ってもらわなきゃならない。」
ベシア:「どこへ連れていくんだ。」
「今後、尋問は第53宇宙基地※24で行う。」
「シスコ大佐は知ってるのか。」
「彼には関係ない。これからはな。」
「こんなことする権利はないはずだ。」
「いいや、あるんだよ。」 チャンドラーからパッドを受け取るスローン。「艦隊特別指令 66715※25 が下った。ディープ・スペース・ナインの機密保全のため、どんな手段も行使できるという権限を正式に委譲されたんでねえ。ドクター、君はこの戦争が終わるまで、最高監視レベルの刑務所に入ってもらう。ただし…」 次のパッド。「この自白調書を認めるなら別だがなあ。多少書き換えてもいい。優秀な君にふさわしくない表現があればな。」
「そんな物はその辺りのエアロックから、外へ投げ捨てるんだな。」
「…強情な男だ。シャトルへ連れてけ!」
フォースフィールドを解除するチャンドラー。
ケイガン:「両手を前に出してもらえますか?」 手錠を準備する。
手を差し出すベシア。その瞬間、体が転送で消えていく。
スローン:「脱走するぞ! 止めろ!」
チャンドラーたちはフェイザーライフルを構えるが、既に遅かった。

ベシアが転送されたのは、カーデシア艦内だった。
ウェイユン※26:「こんばんは、ドクター。」
ベシア:「ウェイユン!」
「おかえりなさい。」


※23: Bopak III
DS9第76話 "Hippocratic Oath" 「苦悩するジェム・ハダー」より

※24: Starbase 53

※25: Special Order 66715
宇宙艦隊一般命令・指令 (Starfleet General Orders and Regulations) の一つ

※26: Weyoun
(ジェフリー・コムズ Jeffrey Combs) 第137話 "Far Beyond the Stars" 「夢、遥かなる地にて」以来の登場。声:内田直哉

ウェイユンは言った。「何とか間一髪助けられましたねえ。…大丈夫ですよ、仲間のもとへ戻ったんです。拷問されたんですか。怪我はないようですが。」
ベシア:「なぜここへ連れてきた。」
「仕方ないでしょ。我々のスパイだとバレてしまったんですから。」
「僕はスパイじゃない。ドミニオンのスパイなんかじゃない!」
「もしや、本気でそう信じてるんですか。そうなんでしょ。だからこそ優秀なスパイなんです。」
「嘘をつくな。」
「…ああ、またですね。」 笑うウェイユン。「いつもこの会話からやり直さなければならない。毎回、毎回。最初は戸惑い、次第に怒り出し、全てを否定する。でも最終的には心の壁が崩れて、真実を受け入れることになる。いつもね。」
「真実って何だ。収容所で僕を洗脳したのか。」
「我々は文明人です。拷問はしていませんよ。ドミニオンに勝てる見込みは万が一にも…ありえないと、教えてあげただけのことです。あなたは何十億という連邦市民が無駄に命を落とすのを見るに忍びなく、戦争を早く終わらせるために我々に情報提供することに応じたんです。どちらの味方かなどという下らない問題を超越し、倫理的な決断を下したんです。…驚くこともないでしょう。あなたは医者なんですから。」
「僕が裏切り者?」
「ハ、裏切り者。英雄ですよ。言葉の問題だ。ディープ・スペース・ナインの仲間は責めるでしょうが、歴史は…あなたを偉大なる英雄だと判断するでしょうねえ。この銀河で、最も悲惨な戦争を終結させた、先見の明ある人物として。」
「…そんなはずはない。僕はそんなこと何も知らない。」
「当然ですとも。記憶は閉じ込められ、区分けされている。素晴らしい能力だ。ただ毎回この会話をしなきゃならないのが、厄介ですけどね。」 笑い、部下に指示する。「さあ、何か食べて。満腹になると毎回、意識統合も早い。」
ジェムハダーが持ってきた皿には、スコーンがのっていた。
ウェイユン:「最初に収容所でスコーンを勧めたこと、覚えてますか?」
ベシア:「いや。」
「…思い出して。細かな出来事がキーになる。私があなたを独房から出した。あなたは腹ペコだったが、ガツガツと食べるところを絶対私に見せまいとした。…思い出しましたか?」
「…覚えてない。そんなことはなかったんだ!」
「…すぐ思い出しますよ、さあもう一度。よく考えれば思い出します。」
「僕はドミニオンのスパイなんかじゃない!」
「今回はこれまでで一番手がかかりそうだ。」
「無実だ! あんたやスローンがどう言おうとね。」
ため息をつくウェイユン。
ベシア:「ちょっと待て。……どうして君ら 2人が、同じ嘘を信じさせようとするんだ。そうか…君ら 2人は、グルだな。」
ウェイユン:「ドクター、何を馬鹿なことを言ってるんです。」
「裏切り者はスローンだ。」
通信が入った。『戦闘配置につけ。敵機接近中。』
ウェイユンがコンピューターを操作すると、ディファイアントが映し出された。「シスコだ。」
ディファイアントが攻撃してきた。揺れる船内。
ウェイユン:「あなたからの情報は後で聞くことにしましょう。」 ジェムハダーを連れ、部屋を出ていった。
攻撃が続き、ベシアと護衛のカーデシア人は倒れた。
部屋にキラとウォーフが転送されてくる。
カーデシア人に突っ込むベシア。
反撃しようとするカーデシア人だが、キラたちに撃たれて倒れた。
ベシアに近づく 2人。
ベシア:「喜ぶべきかな。」
キラ:「ディファイアントへ。確保しました。」
3人は転送される。

ディファイアントのブリッジへ、ベシアが連れられてくる。
シスコ:「ドミニオンが君を脱走させたことについて、納得のいく説明を聞きたいねえ。」
ベシア:「どう見えるかわかっています。」
「連中の望みは何だ。」
「ウェイユンは僕がスパイだと信じさせようとした。彼とスローンはグルだと思います。」
「いい加減にしろ。他人に罪を擦り付ければ、自分の疑いを晴らせると思っているのか。」
「もしくは可変種がスローンに摩り替わってるものと。とにかく彼ら 2人が僕をはめようとしているんです!」
ウォーフ:「言い訳になっていないな、ドクター。」
「信じてもらうしかない。僕は無実だ。」
シスコ:「君の嘘はもう聞き飽きた、ドクター。」
「大佐、ちゃんと調べて下さい。僕の推測通りなら、スローンが艦隊にどんな…」
「ブリッジから引きずり出せ!」
キラ:「行くわよ、ドクター。」
ベシア:「ジャッジア! 君は信じてくれるだろ。」
ダックス:「あなたどうしてこんなことしたの?」
「マイルズ。君は。」
肩にかけた、ベシアの手を振り払うオブライエン。
ベシア:「肩は…大丈夫か。」
オブライエン:「ああ、何ともないよ。」
「でも昨日脱臼したじゃないか。……スプリングボールやってて。」
「だから? もう良くなった。」
「スプリングボールのせいじゃない。ホロスイートでカヤックをやって、脱臼したんだ。……マイルズじゃない。……お前もシスコ大佐じゃない。大佐なら話を聞いてくれるはずだ。これは現実じゃない、絶対に違う。」

周りの映像が消え、ベシアはホログリッドの中に立っていた。
スローンがコンソールの前にいた。全身黒ずくめの制服を着ている。同じ服を着た部下も立っている。
スローン:「その通りだ、ドクター。現実は一つもない。私以外な。まだ終わってないぞ?」



スローンはベシアに言った。「おめでとう、ドクター。バレることは滅多にないんだがねえ。」
ベシア:「これで僕がドミニオンのスパイじゃないって信じてもらえましたか。」
「信じつつあるというところだなあ。だが完全に疑いを晴らすには、もう一つ最後のテストを受けてもらう。」
「これ以上あんたのゲームに付き合う気はないぞ!」
「はっきり言うが、これは…ゲームじゃない。」 スローンは取り出した小型機械を、部下に渡す。部下の手を払うベシアに、スローンは言う。「心配ない。何もしやしないよ。右耳の後ろに取りつけたインプラントを外す。そうだな、自分で外したらどうだ? 彼に渡せ。」 受け取ろうとしないベシア。「大丈夫、ただの神経シナプスリレー※27だ。」
「僕の神経電気反応を記録してたのか。」
「ああ、そうだ。今からその数値をチェックしたい。結果の予想は既についてるがねえ。恐らく君は無実だ。だから早く装置を外したまえ。こっちでやろうか?」
ベシアは機械を受け取り、耳の後ろから小さなインプラントを取り出した。
リレーを受け取るスローン。「すまないねえ。すぐに済むからな。」 トリコーダーで調べる。
ベシア:「ゆっくりどうぞ。どこに逃げられるわけでなし。」
「ユーモアのセンスが戻ったようで嬉しいねえ。いい兆候だ。」
「何のです?」
「リラックスしてるってことだ。正確なテスト結果を得るため、我々は君を大きなストレスにさらしたねえ。だが、良かったな。君に有利な結果が出た。艦隊への忠誠心には、文句のつけようがないようだ。」
「僕にはまだ疑ってるように聞こえるんですけどね。」
「まあ率直に言って、あの状態でもう少し長く観察を続けたかったんだ。残念ながら、我々はオブライエンの怪我のことを知らなかったんだ。プログラムに組み込むべきだったよ。」
「僕が部屋で眠ってる間に、このホロスイートへ転送したんですね。」
「1時間は睡眠を取らしたぞ?」
「疲れてるのも無理ないな。…睡眠不足の方が、相手の精神状態を操りやすくなるからでしょ。」
「昔ながらのやり方ではあるが、効果的なのは間違いない。」
「それで! あなた一体何者なんです。何の仕事をしてるんです?」
「わかってるじゃないか。君と同じ惑星連邦の仕事だ。艦隊のね。」
「まだ内務監査局だって、言い張るつもりじゃないでしょうねえ。」
「そんなことはしない。内務監査局は優秀な組織だが、限界がある。」
「じゃああなたの仕事はどこです。」
「宇宙艦隊情報部の、別部局…とだけ言っておこうか。部署の正式名称は、セクション31※28。」
「聞いたことないな。」
「目立たないようにしてるからなあ。その方が何かと仕事がはかどるんでねえ。」
「セクション31 の仕事は何です。艦隊士官の誘拐以外に、どんなことを?」
「連邦に対する脅威を探し出し、突き止める。」
「突き止めた後は。」
「処置するんだ。」
「どうやって。」
「極秘裏に。」
「じゃあ僕がスパイと見なされてたら、どうなってたんです?」
「まあ、ここでこんな風に話してはいないだろうなあ。」
「艦隊司令部はそれを認めてるんですか!」
「いちいち報告書は上げない。それに、作戦ごとに許可を求めるわけでもない。我々は独立した組織なんだ。」
「誰の権限で動いてるんです?」
「セクション31 は、宇宙艦隊憲章に規定されてる。」
「それなら、200年も前じゃないか! じゃ、それ以来ずっと独自の行動を取ってきたって言うのか。誰からの命令もなしに。誰に報告する義務もなしに?」
「いかがわしいことのように言うねえ。」
「違うのか? もしあなたの言ったことが本当なら、あなたは裁判官で陪審で処刑者だ。一人にそんな権力を与えるのは危険過ぎる。」
「卓越した能力と理想をもつ者でなければこなせない。惑星連邦全体の利益のために、全てを捧げられる者だ。君のようにな。」
「僕?」
「君にはセクション31 のメンバーとして、立派にやっていける資質がある。」
「ついさっきまでスパイだと言ってたくせに、今度は勧誘ですか。」
「君は知性があり、機知に富み、以前からずっと諜報活動に興味をもっていた。いつまでもクワークのホロスイートで、スパイごっこをするだけで満足なのかね。」
「本気なのか。」
「我々は似たもの同士だ。惑星連邦の市民が信ずるのと同じ、原理原則を固く信じてるじゃないか。」
「でもあなたたちはその原理原則を平気で破ってる。」
「連邦を守るためだ。」
「詭弁ですね。目的は手段を正当化しはしません。」
「そうかな。……君は医者としてこれまで何人の、命を救ってきた。」
「何の関係があるんです。」
「数百、数千か? 彼らは君が艦隊に入隊する時、嘘をついたことをとがめると思うか? ……とがめないだろう。惑星連邦の存在を危うくする脅威を…取り除くのが、我々の使命だ。我々がこれまで何人の命を救ったか知れば、目的は手段を正当化すると君も認めるだろう。非常事態で規則を曲げる必要があれば、私は躊躇しない。君も同じだと思うよ。」
「見込み違いだな、スローン。」
「そうは思わない。…いずれ私に賛同するさ。」 部下がベシアに近づく。
「期待はしないでもらいたい。」
「ディープ・スペース・ナインに戻ったら、冷静に考えてみてくれ。私の言ったことをな。」
「僕が告発したらどうする。」
「…気にしていてはこの仕事はできないよ。」
その瞬間、部下がベシアの首元にハイポスプレーを打った。目の前が暗くなっていく。
ベシアは気を失った。

DS9。
オドー:「そのスローンって奴、かなりの切れ者なのは確かです。学会への出席と合わせて、ドクターの拉致を計画した。それなら姿がなくても怪しまれませんから。」
ベシア:「ああ、切れる男だ。」
キラ:「ジュリアンの部屋を調べましたが、転送信号の痕跡はありませんでした。別の方法でステーションから連れ出したか、私たちには検知できない転送技術があるかですね。」
「大佐、艦隊から何かスローンのことは言ってきました? セクション31 のことは。」
シスコ:「……艦隊のどの組織にも、スローンという男の記録は全くない。セクション31 については、これは…ちょっと複雑でね。艦隊本部は、その存在を認めてはいない。だが否定もしないんだ。調査して、報告するとしか言わなかった。」
「いつです。」
「わからないな。」
キラ:「うやむやにするつもりかしら。」
ベシア:「連邦がこんなことを黙認してるなんて、信じられないな。」
オドー:「私としてはむしろ当然という気がします。どの政権にも必ず、こういう裏の機関があるもんだ。ロミュランにはタル・シアー※29。カーデシアにもオブシディアン・オーダー※30があった。」
「でもそれを認めていいのか。生き残るためには僕らは原理原則を捨てて、どんな汚いことでもするのか!」
シスコ:「私にはまだ答えは出せない。」
キラ:「そのスローンって男のことを、私たちで独自に調査した方がいいんじゃない?」
オドー:「簡単にはいきません。彼の言う通りならセクション31 は連邦創設当時から存在してて、これまで正体は明かされてないんですから。」
シスコ:「追う必要はないさ。きっと向こうから来る。……君をメンバーに誘ったと言ったな。」
ベシア:「断りました。」
「断ったからといって、おとなしく引き下がるような男とは思えない。スローンが君にもう一度仲間になれと言ってきたら、その時は『イエス』と答えろ。」
オドー:「まあ、よかったですね、ドクター。思う存分スパイごっこができるんですから。でもこれは、現実です。」
考えるベシアを残し、みな司令官室を出ていった。


※27: neurosynaptic relay

※28: セクション31 (サーティワン) Section 31
ホロプログラム名「セクション31 テスト」 "Section 31 test"

※29: Tal Shiar
精鋭のロミュラン帝国情報部局。TNG第140話 "Face of the Enemy" 「ロミュラン帝国亡命作戦」など

※30: Obsidian Order
冷酷で驚くほどに能率的なカーデシア内部秘密警察。DS9第42話 "The Wire" 「義務と友情」など

・感想
ついに導入された「セクション31 (サーティワン)」 (どのような訳になるかと期待していましたが、やはりそのままでしたね)。執拗に続くベシアへの尋問、ウェイユンの登場、そして全てがホログラムだったというオチまで、ずっと引き込ませてくれます。セクション31 の設定といい、今回もまた「DS9 らしくて素晴らしい」というフレーズが当てはまりますね。
スローンは俳優のサドラーが、まさにハマリ役。セクション31 の説明だけで最後の部分を全て使っており、気合が違いますね。今後のストーリー的にも絶対欠かせないエピソードと言えそうです。


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