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ディープスペースナイン エピソードガイド
第28話「殺しの密告者」
Necessary Evil

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・イントロダクション
雷が鳴り響く。
家の中にいる女性、パルラ※1は言った。「私は殺してないわ。みんなそう思ってるみたいだけど。あの流動体生物もね? でも違うのよ。」 ベイジョー人だ。
クワーク:「そりゃあ随分昔の話だ。」
「そうね、あれはまだカーデシア人が幅を利かせていた時代だったわ?」 笑うパルラ。「もっと氷いる?」
「いや結構。」
「あなたは優しかった…」
「そうかい?」
「親切にしてくれたわ?」
「金さえ払ってもらえりゃ俺は何でもする。『親切』とは違うよ?」
「うーん、でも箱の中にはいつもおまけのジンジャーティーが忍ばせてあったわよ?」
「こんな話をするためにベイジョーに呼びつけたのか?」
「いいえ。…お願いがあるの。」
「昔のよしみで。」
「ええ、そうよ?」
「俺はいつでも親切だよ?」
「お礼はするわ。」
「話を聞こう。」
「私達が昔やってた薬局の壁に、夫が隠した箱があるの。それを持ってきて欲しいのよ。」
「何が入ってる。」
「他人に価値はないわ?」
「でも君には。」
「思い出の品物なの。」
「なら自分でステーションに取りに来ればいいだろう。正々堂々と。」
「夫が殺されたあの店には二度と足を踏み入れたくないのよ。」
「それとも、オドーに姿を見られたくないのかな。」
「…オドーは事件のことなんかもう忘れてるわよ。セキュリティシステムを解除できる?」
うなずくクワーク。
パルラ:「左側のパネルの壁の裏に隠してあるはず。入って 4枚目、下から 5枚目。」
クワーク:「入って 4枚目、下から 5枚目。」
「お礼はラチナムの延べ棒 5本でどうかしら?」
「5本?」
「それに心からの、感謝の気持ちと。」
耳をかくクワーク。「…1日か、2日でできる。」 笑い、家を出て行く。
微笑むパルラ。だが笑みは消えた。
部屋の中にベイジョー人の男※2がいた。ため息をつくパルラ。


※1: Pallra
(キャサリン・モファット Katherine Moffat TNG第106話 "The Game" 「エイリアン・ゲーム」のイターナ・ジョル (Etana Jol) 役) 声:弘中くみ子、DS9 イエイツなど

※2: 名前は Trazko (ロバート・マッケンジー Robert MacKenzie) ですが、言及されていません。「トラズコ」としている日本語資料もあります。声:伊藤和晃

・本編
DS9。
オドー:『ステーション保安日誌、宇宙暦 47282.5。シスコ司令官の指示によりこれから毎日法の執行についての記録を残すことになった。なぜかは私の理解の範囲を超えるところだが…恐らく人間には記録を残すことについての非常な情熱があるせいだろう。記録をミクロのサイズで残す保管法が発明されたからいいようなものの、でなければ全宇宙記録だらけになるところだ。宇宙艦隊が私の記憶だけでは心許ないのなら、これから毎日声による記録を残そうと思う。今日は特に異常なし、記録終了。』
プロムナードの明かりが消えていく。オドーはそれを見守り、保安室のコンピューターのスイッチも消した。

だがクワークが残っていた。「いいか、入り口に立ったらお前は壁にくっつくんだぞ。」
ロム※3:「ああ。」
「パルスロック※4なんだ、開けるのに 25秒かかる。」
「25秒? 人に見られちまう。俺が開けるよ。」
「お前が? ハハ…一晩かかっちまうよ。」
笑うロム。「一晩? フーン、フン。そんなことないよ、10秒で開くよ。」
クワーク:「パルスロックをどうやって 10秒で開けられるってんだい!」
「うちの倉庫も、パルスロックでしょ?」
「で!」
「時々、兄貴がいない時俺が、開けなきゃいけないこともあってさあ。」
「俺に黙って倉庫を開けたりしてたのか!」
「だってお客さんのためだもん。」
「10秒だと?」
「兄貴は留守が多いから。」
「10秒とはなあ。」 ドアの前に立つクワーク。「よし、解除ロッド※5を貸してやる。」
「ああ、いいよ。自分のがある。」
「何?」
「ノーグが作ったのさ。手先の器用な子でね。」
「貴様って奴は。」
「タイム計っててよ。すぐ開くからさ。」
ロッドを使うロム。言ったとおり、すぐにロックは解除された。
ロム:「ほーら、開いたろ?」
クワーク:「…泥棒! お前今まで倉庫から盗んでたんだな?」
「兄貴、俺はそんな…」
「明日の朝一番に、ロックは変更するからな!」 ライトをつけ、元薬局に入るクワーク。「入って 4枚、下から 5枚。ここだ! このパネルだな。…プロムナードを見張ってろ! 俺はパネルを焼き切る。」
「人に気づかれるよ、光が出るし。」
「ほかに方法があるか!」
「実はさあ、俺マグナサイト液※6を持ってきてるんだよね。」 容器を持っているロム。
「何だその、マグナサイト液って。」
「デュラニウムを溶かす性質があって、四隅に垂らせばパネルはすぐに外れる。」
「何で知ってんだ?」
「兄貴が、ガンマ宇宙域に行った時いい儲け話があってね。ちょっとラチナムが入り用になってさ、でも金庫の鍵はなかったから…」 液をかけていくロム。
「じゃ、俺の金庫を開けたのか! それで!」
金属に反応があり、小さな音を発した。落ちるパネル。
中には箱がある。
ロム:「兄貴が怒ると思って今まで黙ってたんだけどさ。でも、ちゃんと戻しておいたから大丈夫。」
クワーク:「何がちゃんとだ。」
「あれ、俺が取ろうか?」
「触るな! 二度と触るんじゃないぞ? 倉庫にも金庫にもだ!」 箱を取り出すクワーク。

箱を焼き切るクワーク。開ける。
クワーク:「紙が一枚だけか。」
ロム:「宝の地図かもしれないよ?」
開くと、文字が並んでいる。
ロム:「何て書いてあるんだ?」
クワーク:「見当もつかんな、名前が 8つある。全員ベイジョー人だ。…箱に戻す前に一部、コピーしておこう。ホレ、コピー機※7を持ってこいよ!」
クワークの店を出て行くロム。すると奥から、パルラと一緒にいた男がやってきた。
気づくクワーク。「今夜はもう店は終わりだよ。」
無言で銃を向けるベイジョー人。
クワーク:「まあ、一杯ぐらいなら出すがねえ。」 紙を見せる。「…パルラに、言われて?」
ベイジョー人:「あんたがきっと箱を開けるだろうってね。」 紙を取った。
「ああ。」
「すまないな。」
「ああ…全くだよ。」
その時、ベイジョー人は発砲した。吹き飛ぶクワーク。
去る男。
ロムが戻ってきた。「兄貴!」 近づく。「兄貴? 兄貴。誰かー! 助けてくれー!」
目を見開いたままのクワーク。
ロム:「兄貴が殺されちまったー!」


※3: Rom
(マックス・グローデンチック Max Grodenchik) DS9第23話 "The Siege" 「帰ってきた英雄 パート3」以来の登場。声:山崎たくみ

※4: pulsatel lockseal

※5: desealer rod

※6: magnasite drops

※7: 原語では imager

クワークの店に入るシスコ。
ベシア:「コルトリン※8を 10cc に反重力リフトを大至急。皮膚再生装置もだ。どんな武器でやられたんだ、わからないのかロム!」
オドー:「探知機に引っかからなかったとすると圧縮テトリオンビーム※9を使った武器だ。」
「ああ、それならこの傷もわかる。ショックを与えてみよう。」
シスコ:「ドクター。」
「広範囲の神経損傷、それと胸部の裂傷です。いくぞ。」
クワークの身体に電気ショックが流される。
オドー:「ロムは強盗だって言ってます。」
シスコ:「何を盗られたんだ。」
「知らないって言ってますがどうですかねえ。」
キラ:「エアロックで検問を行ってますが、配置が終わるまで 5分かかったので逃げられたかもしれません。」
ベシア:「いいぞ、もう一度だ。」 またクワークの身体が跳びはねる。
シスコ:「出発を希望する船があれば、理由をつけてなるべく遅らせろ。」
「手術室へ運ぼう。担架へ乗せてくれ。」
オドーも手伝い、反重力リフトに乗せられる。
気を失ったままのクワーク。
ロム:「兄貴は死ぬんだ、もうダメだ! 兄貴が死んだらどうすりゃいい。」
オドー:「どうすりゃいいってお前が店を引き継ぐことになるんだろ?」
「店を引き継ぐって…俺が?」
「『妻は仕え、兄弟は相続する。』※10 金儲けの秘訣第139条だったぞ?」
笑うロム。「思いもしなかった。」
オドー:「ほんとか、嘘だろ。強力な殺人の動機だぞ?」
「そりゃ、そうだよね。邪魔な兄貴が死んでくれりゃあ、財産は棚ぼたで……ちょっと待って。まさか俺を疑ってるのか?」
「昔からお前には目をつけてたんだ、お前は見た目ほどバカじゃないしな?」
「ち、違うよ。俺が殺したなんて!」
シスコ:「おいオドー、それはないだろ。」
「実の兄貴だぞ?」
「いくら何でも…」
オドー:「司令官は黙ってて下さい、フェレンギ人は金※11のためなら身内だってためらわずに売るんですよ?」
「ノーグによればロムは、息子想いのとてもいい父親なんだ。」
「ノーグには親父はメルドラール1※12 の刑務所行きだって伝えてやるんですな? あの星は灼熱地獄だぞ?」
ロム:「俺じゃない! 俺はやってない! ああ…何て皮肉なんだい! 店が手に入るのに、兄殺しの濡れ衣を着せられるとは!」
肩に手を回すシスコ。「ロム。この際だ、もし何か知っていることがあれば言った方がいいぞ?」
ロム:「何かのリストだよ。犯人はリストを盗んでいったんだ。」
オドー:「リストって何の。」
「人の、名前のだよ。…8人のベイジョー人の名前が箱の中に、入ってた。」
「箱?」
「…尋問が上手いねえ?」
「うーん…。」

プロムナードを歩くロム。「ベイジョーの誰かから取ってこいって言われたんだ。」
オドー:「誰だ。」
「そりゃあ知らない、言ってくれなかったんだ。兄貴は俺を信用してなかった。いつかは兄貴に認められたかったけど。」
「いいだろう、遺産が手に入りゃ。」
「ほんとに依頼人は知らないんだ。ただ、昔隠された箱としか。」
「昔っていつ頃だ。」
「わからないけど…カーデシア人がいた頃だよ。この倉庫が薬局だった頃。」
「…薬局だと?」
「そうだよ?」
「…ここか? ここで箱を見つけたのか。」
「壁のパネルの裏にね、場所を教えようか。…ここのドアなら、俺 10秒で開けられるよ?」
中を見るオドー。ロックにコードを入力し、解除した。

開くドア。暗いステーションの中に立っているオドーは、違う服装を模している。
後ろには銃を持ったカーデシア人。
部屋の中では、ガル・デュカット※13が酒を飲んでいた。
オドー:「私に御用で。」
デュカット:「そうだ、ああ入ってくれたまえ。…ガル・デュカットだ。以前会ったな。」
オドーだけが入る。「そうですか。」
デュカット:「覚えていないのも無理はない。ベイジョーの科学センター主催のレセプションに、招かれた時のことだ。確かあれは、2年前だ。」
「ああ、カーデシアの幹部を招待して開いた見学会ですね? 私の。」
笑うデュカット。「君は実に面白かった。」
オドー:「そうですか。」
「ああ、君がカーデシアの首芸※14をやったのには、一度絶句したよ。」
「あれをやったのは私を研究していたベイジョーの科学者のアイデアでして。何週間も練習させられたんです…カーデシアの首芸を。」
「ガル・ハダール※15に至っては、君を軍隊の慰問に派遣しようと言い出したぐらいだ。…だが私は、君を使うなら慰問などではなくもっとカーデシアにとって役に立つ使い方があるはずだと思った。…だからずっと、君を見張らせていたんだ。君が、ベイジョーの研究所から逃げ出して以来ね。」
「研究所の外の世界も見てみたかったんです。」
「広い世界を見て、人間の性質については随分詳しくなったろう。」
「…だが私に用ってのは何なんです。」
「…人の死体を見たことはあるか。」
「ええ…収容所でね?」
「ああ、あれは戦争でだが…これは……殺人だ。」 デュカットがかたわらに置かれた布をめくると、男の遺体があった。「この犯人を、君に捕まえて欲しい。」
「私? なぜです、探偵でもないのに。」
「ああ、でも君ならいい探偵になれるぞ? 姿を変えられるんだから、どんな場所にも忍び込めるしな?」
「…カーデシアのエージェントになるつもりはありませんよ。」
「そうは言ってないだろ。調査を頼みたいんだ。」
「同じことでしょ。」
「だが現にこうして死者が出た以上、ベイジョー人とはいえ放ってはおけない。ステーションには秩序と正義が必要なんでね?」
「ベイジョーを占領したカーデシアに正義があるとは思えませんが。」
「私を怒らせるなよ! …上は今回の事件の犯人として…ベイジョー人を適当に 10人選び、処刑しろと言ってる。…君が真犯人を見つけてくれば、そんな真似をしなくて済むんだ。…ベイジョー人は我々には心を開かないが、君のことは信用してるようだ。それに、食べ物だの毛布だのを巡って取り合いが起きた時などは、君に仲裁を頼むそうじゃないか。」
「ええ、中立だと思われているらしくてね?」
「その通り、君は特別だ。だからこそ、信用もされる。さて…今日も一つ、揉め事が起こった。ただ、依頼人が…私というだけのことだ。犯人を、見つけて欲しい。」
オドーはため息をついた。「目撃者はいるんですか?」

過去のパルラが部屋にいる。
やってくるデュカット。「ヴァトリック※16夫人、お待たせしました。こちらのオドーが、ご主人の事件を担当します。もしかしたら、お知り合いかもしれないが?」
パルラ:「薬局へいらしたことは?」
オドー:「いいえ? 私には薬は不要なので。」
デュカット:「この部屋を自由に使ってくれ。必要な物は届けさせる。マダム、失礼します。では頼むぞ。」 出ていく。
オドー:「……私で力になれれば。」
パルラ:「ありがとう。」
「……犯人に、誰か心当たりはありませんか。」
「ええ、心当たりはあります。」
「ほんとに?」
「口外しないで下さる?」
「ええ、もちろんですとも。」
「…ヴァトリックは浮気をしてました。…2週間前にこのステーションに来た女とね? 年甲斐もなくのぼせ上がったりして? なぜ男ってああなの?」
「あ…正直私にもわかりませんね?」
「2年間幸せだったのに。彼女が現れた。その途端に…」
「愛しておられたんですか。」
「ええ、もちろんよ。」
「それにしては一つ腑に落ちないことがあるんですがねえ?」
「何ですの?」
「2時間前に御主人が死体で発見されてから、あなたは泣いていませんね。」
「…何でそんなこと…」
「私は些細なことでも目につくたちでしてね? ベイジョー人※17は泣いた後、目の下の皮膚がたるむんですがあなたの目には全くそんな変化は見られない。」
「あ…あまりのショックで涙も出なかったんです私…」
「そうでしょうね? …では、あなたその浮気相手が御主人を殺したっておっしゃるんですね?」
「でも主人は何日か前にもう別れたって言ってたんです。」
「じゃ別れ話に激怒した彼女が御主人を?」
「そんなところでしょう。」
「名前は知ってます?」
「いいえ? でも顔はわかりますわ。」

仕切られた区画から、ベイジョー人を出すカーデシア人。「立ち止まるな。さっさと歩けよ。早く出ろ!」
頑丈なドアが閉められる。
流される放送。『全員に告ぐ。全ての有機生命体は指示に従って、身体検査を受けること。』
オドー:「生きてる御主人を最後に見たのは?」
パルラ:「夕食の時。その後在庫整理をするからって、店へ戻ったんです。」
「…コミューンに住んではいないんですね?」
「ええ、運のいいことに個室をもらえたんです。薬局をやってるからでしょう。おかげでプライバシーはありました。」
「うーん。」
指さすパルラ。「いたわ。あの女よ。」
その配給を受けている女性は、キラだった。

現在のオドーは、過去のことを思い出していた。
キラ:「オドー。検問には不審者は引っかからなかったわ。これ以上検問を続けても。」
オドー:「恐らく武器はすぐに始末したんでしょうね?」
「クワークが見つけた、リストの入った箱だけど。」
「カーデシア占領時代に隠された物らしいんです。」
「殺されたヴァトリックと関係あるのかしら。」
「…私もそれを考えてました。」
立ち去るキラ。


※8: cortolin

※9: compressed tetryon beam
TNG第141話 "Tapestry" 「運命の分かれ道」でも言及

※10: No.139 "Wives serve, brothers inherit."

※11: 原語では (a) Cardassian groat。「カーデシア硬貨一枚」くらいの意味でしょうね

※12: メルドラール1号星 Meldrar I
原語では「衛星の刑務所」や「夜でも 200度」と言っています

※13: Gul Dukat
(マーク・アレイモ Marc Alaimo) DS9第25話 "Cardassians" 「戦慄のカーデシア星人」以来の登場。声:幹本雄之

※14: Cardassian neck trick
初言及。吹き替えでは「カーデシアに変身したのには」と訳されており、その後のオドーのセリフも「…科学者のアイデアでして。あの時、流動体の姿から…何かに変身することを覚えたんです」となっています。まずオドーは他のヒューマノイドに変身することはできませんし、2年前 (現在から 7年前) に初めて別形態になったというのも変な話です。後に首芸について触れるクワークのセリフも、「カーデシアに、変身できるらしいじゃねえか」となっています

※15: Gul Hadar

※16: Vaatrik
吹き替えでは「トリック」と訳されているような…。地球人じゃないんですから

※17: 原語では「ヒューマノイド」

オドー:『保安日誌、宇宙暦 47284.1。私の仕事には、終わりのない事件などというものはない。今回のクワークの事件は、私が決して忘れていなかった 5年前の事件を甦らせた。…忍耐という言葉は最近は流行らないが、私には大きな武器だ。』
プロムナード。
保安室では、オドーがロムと話している。
ロム:「ほとんど見てないんですよ! 悪いんだけど、名前は思い出せないな。」
オドー:「わかった。わかったから、少し…落ち着いて考えてみろ。」
「だけど、俺店があるんで。」
「ロム、まだクワークは死んでないんだぞ?」
「人工的な手段で生きるのは兄貴も嫌がりますよ。」
「いいや? しっかり自力で、命にしがみついてる。」
「…やっぱりね?」
「それじゃ、もう一度やろう。さあ目を閉じて? 深ーく息を吸って。」
言われたとおりにするロム。
オドー:「いいか、一切の雑念を追い払って。心を落ち着かせて? 深呼吸して? 深呼吸して? …さあ、何が見える。」
ロム:「店です。」
「それから。」
「ロムの店になってる。」
「おい、未来じゃないぞロム。過去を見るんだ。」
「ああ…。」
「箱は開いた。中には紙が一枚入ってる。」
「そうだ、見えてきたぞ!」
「クワークがそれを開く。」
「ああ…」
「名前が書いてある。ベイジョー人の名前だ。」
「そうだ。」
「一番上の名前に目が留まる。」
「ああ…。」
「その最初の文字は?」
「『C』だ。確か『C』だった。」
「よし、次の文字は?」
「ああ、ああ…」
「よーし飛ばして最後の文字でもいいぞ?」
「『O』だ! 『O』だった。」
「『C』から始まり『O』で終わる。」
「間には、チョンって記号が振ってあったな…」
「アポストロフィだな?」
「チェッソーだ!」
「ほんとか?」
「絶対だ!」
「ああ…」
「多分ね?」
「多分?」
「チェッソーみたいな名前だよ、と思う。」
「ああ…。」

プロムナードを走り回る、ベイジョー人の子供たち。
保安室を出るオドー。「何か思い出したらすぐに連絡してくれ。」
ロム:「ああ。」 歩いていく。
キラが近づく。「何かわかった?」 パッドを受け取った。「チェッソー。」
オドー:「ロムが思い出した名前です。当時ステーションにその名前の人間はいましたか。」
「…いいえ? でも、私は来たばかりだったから。」
「うん、そうでしたね?」
「あなたがいなかったら。」
「何を言うんです。」
「私は処刑されてた。」
「私の調査ではあなたは無実でした。」
「カーデシア人は無実でも殺すわ。」
「私が許しません。」

テロック・ノール内のコミューンに、ベイジョー人が戻っていく。
壁に張り付き、外側を見ている子供たち。父親が帰ってきたらしく、抱きつく。
中で食事しているキラ。
オドー:「座っていいですか?」
放送が流れる。『第4セクター掘削班は、ワークステーションへ集合せよ。』
オドー:「美人が独りで食事とはね?」
キラ:「フン。いくらお金や食べ物をくれたって、体は売らないわよ。」
「いやあ、そんなつもりじゃあない。すいません、言い方が悪かったな。誤解させましたね。」
「あなた警備の士官か何か?」
「なぜわかるんです。」
「やっぱりそうね。」
「…非公式にはそういうことになりますが。」
「非公式にはってどういう意味なの?」
「ガル・デュカットからヴァトリックってベイジョー人が殺された事件の調査を頼まれたんです。…ヴァトリックは知ってますね?」
「誰から聞いたの。」
「奥さんからです。」
パルラがそばで睨みつけていたが、立ち去った。
キラ:「…私が殺したって思ってるわけね?」
オドー:「事実ですか?」
「…いいえ?」
「ヴァトリックとは、愛人関係だったんでしょ?」
「…いいえ?」
「でも、言い寄られたんでしょ?」
「いいえ?」
「…不倫してたんじゃないですか?」
「まさか、冗談じゃないわ?」
「でも奥さんにそう言ったそうですよ?」
「なぜかは彼に聞いてよ。」
「…隠しても無駄ですよ、不倫してたんなら必ず突き止めてみせる。」
「ヴァトリックと知り合ったのは 2週間前、このステーションに来てすぐだったわ。パイレリアン・ジンジャーティー※18を御馳走してくれたのよ。…どうやって手に入れたのかは知らないけど、私ジンジャーティーが大好きなの。…で、友達になったわ。でもそれ以上の関係は、一度だってなかった。…なぜガル・デュカットはあなたに調査を頼んだの。」
「何か理由があるんでしょう。」
「なぜ自分の部下を使わないの?」
「ヘ、ベイジョー人が警戒するからでしょう。」
「…その気になれば拷問しても聞き出すくせに今さら笑わせないで欲しいわ。……理由は何かしらね?」
「…昨日はどこにいました?」
「……バーに行ったわ? フェレンギ人がベイジョー人を雇ってくれるって聞いてね? 鉱山よりマシだけ。」
「鉱山には入ったこともないくせに。」
「なぜわかるの?」
「その手です。」
「…いい目をしてるわね? その通りよ。私は今までレプリケーター工場にいたの。」
「何でこんなところに回されてきたんです?」
「上司を殴った※19の。さっきの、あなたみたいに言い寄ってきたもんだから。」
「…よかった、私は撃たれなくて。しばらくはステーションにいるんでしょうねえ?」
「いいえって言ったら私を拘束する?」
「ええ。」
「それならしばらくここにいることにするわ。」
立ち上がるオドー。
キラ:「一つ言っておくわ? あなたは今カーデシア人の側に立って動いてるけど、そのうちどちらにつくか選ぶ時がくるわよ。」
オドー:「私はどちらにもつかない。」
「ここにいる者はどちらかにつかざるをえないのよ。」

現在の家にいるパルラ。「何のことかわからないわ?」
オドー:「じゃリストのことも知らない。」
「何にも?」
「はあ。…なぜ御主人はベイジョー人の名前を書いた紙なんかを、隠したんです。」
「見当もつかないわ、ほんとに主人なの?」
「さあね?」
「カーデシア人が撤退前に隠したんじゃない?」
「フーン、クワークはベイジョー人からその箱を取ってくるよう依頼されたらしい。」
「お役に立てなくてすみません。クワークはいい人だったのに。」
「過去形は嫌だな、まだ生きてるのに。」
「あらでもさっき…」
「ええ重傷でしたがね、宇宙艦隊のドクターのおかげで助かった。」
「それはよかったわ?」
「『チェッソー』って名前に、心当たりはありませんか。」
「いいえ、知らないわ? 誰なの?」
「わかれば会ってみたいんですがね? どうも御邪魔しました。」
「…いいえ? 死んだ主人に関係あることならいつでもどんなことでも協力するわ?」
ドアから出ていこうとしたオドー。「ああ、そういえば一つありました。料金の支払いが滞ったせいでレプリケーターを止められていましたよね?」
パルラ:「…ええ、そうなの。」
「でも、今朝になって急に延滞料金を払い込みましたね?」
「プライベートなことまで詮索されるのは嬉しくないわ?」
「しかしそれが捜査の決まりですからね。どうやってお金を調達したんですか?」
「友達が、貸してくれたんです。」
「そうですか。…お友達の名前は?」
「…オドー、そんなこと今回の事件とはぜーんぜん関係ないわよ?」
「なら、名前を教えてくれてもいいでしょ?」
「…悪いけど彼は奥様のいる方なのよ。名前は出せないわ?」
「ああ…。」 出ていくオドー。
パルラはため息をついた。


※18: Pyrellian ginger tea
「パイレリアン」は訳出されていません

※19: 吹き替えでは「撃ち殺した」。原語では hit ですが、それは言い過ぎなような…。テロック・ノールが刑務所ならわかりますが

DS9。
オドー:『保安日誌、補足。クワークは、ラチナムにしがみつくように命を保っている。今の私にとってクワークは大切な存在だ。何しろ、唯一の目撃者なのだ。』
目を開いたまま、ベッドに横になっているクワーク。
ベシア:「あと 5、6時間が峠だな。できるだけのことはした。もう待つだけだよ。」
キラが診療室に入る。「まずいいニュースから言うわ? チェッソーを見つけたわよ。」
オドーが受け取ったパッドには、男性の顔写真が表示されている。「何者です。」
キラ:「ベイジョー人の鉱山の技師よ、戦争孤児の援助にも熱心だったとか。」
「なぜこいつだってわかるんです。」
「まず名前がチェッザーロ※20で似ていること。仕事柄よくここへ来ていたこと。で、悪いニュース。…夕べ自宅の池で溺死していたそうよ。」
「…私の責任だ。」
「何で?」
「ヴァトリックの未亡人に名前を教えてしまった。彼女が先手を打って自分へつながる手がかりを消したのかも。保安チームは治療室へ。」
保安部員:『了解。』
「お願いがあります。検死官には恐らく他殺だということを頭においた上で、チェッザーロの遺体の解剖をしてもらって下さい。それから過去 52時間のヴァトリックの未亡人の通話記録。それから、中央銀行に後で私が口座の照会をする旨連絡しておいて下さい。」
キラ:「誰の口座?」
「それはまだ。」
やってきた保安部員に命じるオドー。「クワークに 26時間※21の警護をつけろ。誰も入れるな。」
保安部員:「了解。」

笑っている過去のクワーク。「ホロスイートですか? ビール※22 2つね、一つはおまけ。うん。」 カーデシア人と話していた。
店に来たオドー。「この店の経営者を探しているんだがね。」
振り向くクワーク。「金の取り立てか?」
オドー:「いいや?」
「じゃ逮捕に来たの?」
「いいや?」
「それを聞いて安心したぜ。クワークだ、お見知りおきを。…最初のドリンクは店のおごりだ、それがカーデシアの習慣なんだと。」
「私は飲まない。」
「おお。じゃジュースでいいかな?」
「何も飲まないんだ。」
「どうりで店で見かけないと思ったぜ。」
「ヴァトリックっていうベイジョーの薬剤師が殺された件で少し聞きたくてね。」
「ちょっと待ってくれよ? じゃあんたが、流動体生物? …ガル・デュカットの部下なんだってな。」
「私は部下ではない。…ただ調査を頼まれただけだ。」
「ああ、噂には聞いてるよ。カーデシアの首芸ができるらしいじゃねえか!」 首もとを示すクワーク。
「…もうやらんよ。」
「うちでやってみる気はないか?」
「実はベイジョー人の若い女のアリバイを知りたいんだがね。赤毛で、キラ・ネリスっていうんだ。夕べ来たか?」
「ああ、仕事をくれって来たよ。」
「どれくらいいた。」
「ずいぶん長くいたよ?」
「ずいぶん長くって?」
「おーい、わかるだろ。」
「いやわからんね、教えて欲しいな。」
「彼女の熱意を…見せてもらったんだ。」
「それは体の関係をもったってことか?」
「こういう御時世だからね? …いい仕事を手に入れるには…それなりに努力しないとな。」
オドーはいきなり、クワークの襟をつかんだ。
クワーク:「おい、あんた! 何するんだよいきなり!」
オドー:「お前が嘘をつくからだ。」
「違う、誤解だよ。」
「正直に言え、それともガル・デュカットの前に突き出されて尋問されたいのか?」
「わかったよ、濡れ衣を着せられちゃたまんねえよ。それほど、金はもらってねえしな。」
「…アリバイでっちあげに、金をもらったのか。これを聞いたらガル・デュカットがどんな顔をするか楽しみだな。」
「カーデシアン・エール※23を一ケースは取られるな。」
デュカット:「いや 2ケースはもらいたいね。」 近づく。「アリバイでっちあげか、調査は順調らしいな。犯人に目星でもついたのか?」
オドー:「いえまだです。」
「急いでくれ、上層部は焦ってるからな。」
「犯人だって確信がもてたら名前をお教えします。」
「…私相手に今の口を聞いたか、クワーク。」 笑うデュカット。「君には怖いものはないんだな、この私ですら恐れない。…私の見込んだとおりだ…。この仕事に、君は適任だよ。」
クワーク:「なあオドー、俺たちの出会いは…あんまりいいもんじゃなかったけど、埋め合わせさせてくれよ。…何か好物は、ああジンジャーティーとか。ああ飲まないんだっけ。じゃあ、チョコレートは。それとも、美女がいいかな?」
笑うデュカット。クワークも一緒に笑う。

現在のクワークの店で、笑い続ける客。
シスコ:「親友を亡くしたような顔をしてるぞ、オドー。」
ダックス:「クワークの具合は?」
オドー:「今は安定してます。」 パッドを渡す。
シスコ:「何だこれは。」
「リストです。」
ダックス:「見つけたの?」
「いいえ、ヴァトリックの未亡人の通信記録を調べたら、この 8人と頻繁に話をしてるんです。でも妙なことに通話し始めたのは 2日前からでしてね。」
シスコ:「リストが盗まれてからか。」
「その上このリストに載っている全員が、過去 26時間に未亡人の銀行口座に 10万ベイジョー・リタ※24を振り込んでるんです。」
「脅迫か。」
「でしょうね?」
「脅しのネタは何だ。」
「占領時代それだけの金を貯め込めたのは一握りです。」
ダックス:「カーデシアに協力してた人ね?」
「ええ、金のために同胞を売ったんです。密告者ですよ。フェレンギ人でもそれはやらない。これで辻褄も合います。」
シスコ:「証拠はそろってるのか。」
「まだです。でもベイジョー当局に要請し、尋問のため未亡人の身柄をステーションへ移送してもらいます。」 パッドを受け取り、出ていくオドー。
店にモーンが入る。
カウンターに、クワークを撃ったベイジョー人がいた。店を出る。


※20: Ches'sarro
DS9第5話 "Babel" 「恐怖のウイルス」でもベイジョー人ディーコン・エリグの顔として使用した、映像効果製作 Dan Curry の写真を再利用

※21: 吹き替えでは「24時間」。「常に」という原語がこう訳されていますが、このエピソードでの他の言及 (26時間、52時間) からもわかるように、DS9 (ベイジョー) の一日は 26時間です

※22: 原語では「(ホロスイートの) プログラム」

※23: Cardassian ale

※24: lita

プロムナードにいるオドー。
オドー:『私は誰かから「正義感※25」を教えられたわけではない。生まれつきのものなのだ。多分私の種族の特徴なのだろう。強い正義感が私とほかの種族との大きな違いなのだ。こんな感想は、宇宙艦隊の記録にはそぐわないだろうか。』

保安室に戻る。
オドー:『正義の前には、親子も、友情も、愛もない。正義こそが、何よりも優先されるべきもの。そう信じていた。でも今はそう言いきれない。』

過去のキラ。「確かに、嘘をついてたのは認めるわ? でも私じゃないのよ。」
オドー:「彼が殺された時どこにいた。」
「…寝ていたわ、独りで。」
「コミューンなら誰かが見ているだろう。」
「コミューンじゃないの…廊下の、角のところで。」
「嘘をついてるね?」
「そんな!」
「無駄だよ、顔を見ればわかる。フン、正直な人だ? 嘘は下手らしいね。」
「…ありがとう。」
「今度は本当のことを言って欲しいね。」
「…でもあなたはどっちの味方なの。」
「よせよ、またその話か。」
「でもどっちにつくか選んでくれなきゃ。」
「いや私はどっちにもつかない。だからこそみんな私に揉め事の解決を頼みに来るんだ。私は常に第三者で公平だ。信じるのは正義だけだ。君が無実なら釈放するが、有罪ならカーデシア当局に引き渡す。二つに一つしかないんだ。」
「……私は殺してない。…犯行の時刻には、レベル21 にいたの。」
「21。鉱石加工場か。」
「調べてくれればわかるけど、夕べ 21 では騒動があったの。」
コンピューターを使うオドー。
キラ:「私はレジスタンスをしてるの。カーデシアに対する破壊妨害活動をするためここへ派遣されて来たのよ。」
オドー:「…鉱石加工機が、夕べ 25時にサブ・ニュークレオニック装置によって破壊され、修理には 2週間かかるとある。」
「これで労働者がしばらく休めるわ。信じないなら、サブ・ニュークレオニック装置の構造を説明するけど。」
「それでクワークに偽のアリバイを頼んだのか。」
「でもあなたが通報してしまえば、私は処刑されるわ? …カーデシア当局はヴァトリック殺しの犯人より、反逆者の方をずっと喜ぶでしょうよ。」 言葉を止めるキラ。
デュカットが保安室に入った。「…この女か。」
オドー:「犯人がわかったらすぐ知らせます。」
「この女なのか?」
オドーを見るキラ。
オドー:「いいえ? 帰っていい。」
出ていこうとするキラの腕をつかむデュカット。「…嘘をついているんじゃないだろうな。」
オドー:「私のことを知っているんなら私が決して嘘をつかないことも知っているはずだ。」
デュカットを見ようともしないキラ。
オドー:「彼女はヴァトリックを殺した犯人ではありません。」
キラを離すデュカット。

現在のオドー。
何かを考えている。

眠り続けるクワーク。保安部員が護衛している。
撃った犯人が花束を持ってやってきた。「クワークさん。」
保安部員:「申し訳ないが、面会謝絶です。」
「では花だけでも花瓶に御願いします。」
「いいえ、それは…」
突然、ベイジョー人は花束を押しつけた。落ちる花。
保安部員の身体に、ナイフが突き刺さっている。倒れた。
男はベッドの治療装置を止め、近くにあった枕を手にした。
クワークの顔に押しつける。
ロムが診療室に入った。「あっ!」
犯人はロムにつかみかかる。叫び続けるロム。
棚に向かって突き飛ばされた。逃げる男。
だがオドーたちがやってきた。
犯人を壁に押しつけるオドー。「オドーよりベシア、すぐ治療室に来て下さい。」 別の保安部員は、クワークの装置を再起動させる。
ベシア:『すぐ行く。』
まだ叫んでいるロム。
オドー:「もういいんだロム、もういい! 君は英雄だ。」
ロム:「…ほんと?」
「兄の命を救ったぞ?」
笑うロム。だがまた叫びだした。
寝たままのクワークの口元が、わずかに緩んだ。

拘束室。
独房に入っている男を見たパルラ。「あんな人一度も会ったことないわ?」
オドー:「妙だな。おたくの通話記録によれば何度か彼に通話をしているし、彼からも通話がきています。」
キラ:「それにあなたは 2日前、彼の口座に大金を振り込んでるじゃないの。」
パルラ:「…弁護士を呼んで相談したいわ。」
オドー:「いいですよ、すぐ来てもらうように手配しましょう。待つ間、お互いに自己紹介でもしたらどうです?」 別の独房のフォースフィールドを解除した。
つかまれたキラの手を振り払うパルラ。だがキラは再びつかんだ。
パルラ:「あなたが何をどう思うかは勝手にすればいいけど、私が主人を殺したとは証明できないはずよ? 私じゃないもの。」
フォースフィールドを張ったオドー。「わかってます。」
キラはオドーを見た。

保安室へ戻るオドー。
続いてキラも入る。「…いつ気づいたの。」
オドー:「あなたのチェッザーロの割り出しがあまりにも早かったからです。…きっとレジスタンス時代からチェッザーロは密告者じゃないかってうたぐっていたんでしょうね? …盗まれたリストに載っていた 8人が、カーデシアへの協力者だとわかった途端に、ヴァトリック殺しの…謎が解けた。ヴァトリックも密告者だったんですねえ? ジンジャーティーを買う金もあったし、個室も与えられていた。…今まで殺しの動機が全くわからなかったんです。…妻には贅沢をさせていたから妻が夫を殺す理由はない。それでは、密告者を殺す理由があるのは誰か。…レジスタンスの運動家ならたっぷりある。」
「…鉱石加工機を破壊する任務は別の仲間がやったのよ。私の任務はヴァトリックだった。」
「初めから殺す気だったんですね?」
「いいえ? 任務はリストの方よ。密告者のリストを手に入れることだったの。ヴァトリックがガル・デュカットにつながっていることはわかっていたから。」
「ああ…それでガル・デュカットは私に調査を依頼してきたんだろうな? 事件からなるべく離れていないと、せっかくの密告者のネットワークを危険にさらすことにもなりかねなかったんだ。」
「私はリストは見つけられなかった。…でもヴァトリックの薬局で探していた時、彼が入ってきたの。仕方なかったのよ。」
「私が間違ってたな? あなたは思ったより嘘が上手だったわけだ。」
「当時あなたはカーデシアの手先だったからよ。」
「でもそうでなくなってもう一年になる。本当のことを話してくれても、よかったでしょう。」
「それこそ何百回も打ち明けようって思ったわ? ……でもあなたがどう思うか…それを考えると。……怖かったのよ。」
「友情が壊れると思ったんですか。」
うなずくキラ。
オドー:「……そんなことはないのに。」
キラ:「……これがあなたにつく最初で最後の嘘よ。」
互いを見る 2人。オドーはうなだれた。


※25: 原語では "justice trick" と言っており、カーデシアの首芸 (neck trick) と掛けています

・感想
傑作 "Duet" 「謎のカーデシア星人」と同じ監督・脚本コンビによる、過去と現在が交錯する名エピソード。原題の「必要悪」と対照的に、邦題は "The Collaborator" 「密告者」と被っていることもあってかいまいち印象に残りにくいですが、オーバージョノーも名作と認めています。確実に殺人用の武器でも撃たれても死なない、クワーク…。
「刑事コロンボ」を意識したというミステリー (家を出て行く前に「そういえば一つありました」なんて、まさにですね) の会話劇はもちろんのこと、「第三の男」(1949) といった古典映画を模したテロック・ノールの描写もお見事。製作総指揮のマイケル・ピラーは、以前 "Simon & Simon" という刑事ドラマにも関わっていたそうです。過去の暗いステーションは、ずっと後に "Things Past" 「秘められた過去」でも登場します。


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