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ディープスペースナイン エピソードガイド
第9話「宇宙囚人バンティカ」
The Passenger

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・イントロダクション
ランナバウト。
キラ:「あんなの見たの初めて。」
ベシア:「ん?」
「…あんなの見たの初めてよ。」
「さっきの患者?」
「死んでたのよ? だってトリコーダーにははっきり出てたのに…」
「ああ、トリコーダーってそうなんですよ。生きてる人間のスキャンは正確なんですけどね。死亡の判定には向かない。」
「…そう。それにしても感動したわ、ドクター。」
「うーん。ま、そうでしょうね。…僕も自分で感動しましたよ。ほかの医師だったら肩胛骨を見てすぐに寄生虫感染を疑ったかどうか。僕って直感が、すごいんですよ。何て言うか、目の前のことに惑わされずに核心をつくと言いますかね。…神が与えたもうた才能ですよ。医者は、僕の天職です。」
「……優秀なドクターがいてくれて心強いわ?」
「ええ、安心してて下さい。」
「…ねえドクター、あなたのその性格は…」
コンピューター:『最優先指定の救難信号が入ってきています。』
通信が流される。『こちらコブリアド※1の宇宙船レヤブ※2、SOS。セントラル・パワーリンケージが爆発。生命維持装置が故障。救援、お願いします。』
ベシア:「長距離センサーにて信号確認。コース 347、マーク 08。」
キラ:「大量のエネルギー漏れを観測。大事故だわ? 構造総合フィールドが崩壊していく。こちら惑星連邦のリオグランデ。ただちに救援に向かいます。」
向かうリオグランデ。

船内に転送されるキラとベシア。警報が鳴り響いている。
咳き込む 2人。トリコーダーを使う。
ベシア:「酸素圧※3が急速に低下。有毒ガスのレベルが上昇中。あと 10分以内で呼吸が不可能になります。」
キラ:「自動消火装置が働かなかったんだわ? セントラル・パワーリンケージを見てくる。」
ベシアは倒れている女性の異星人に、トリコーダーを打った。「落ち着いて。…僕はドクターです。」
コブリアド人:「私どうしたの。」
「意識を失っていたんです。さあ、しっかりして。ほかに乗組員はいないんですか、早く撤退しないと。」
「…パイロットは死んだわ…。」
「生命体の反応があるぞ。」
「…駄目よ、開けたら駄目。」
「ロックされてる!」
「中にいるのは囚人よ、護送中の。…そいつが逃げるために放火したの。」
「死にかけてる! ロック解除レバーはどこです。」
「駄目よ! …開けないで。」
ベシアはコンソールを押した。
コブリアド人:「やめて!」
燃えている部屋に入るベシア。
コブリアド人:「待って。中に入ったら危ないわ。…危険な男よ。」
倒れている男に近づくベシア。「いくら危険な男でも、こんな状態じゃ何もできない。」
キラが戻ってきた。「パワーリンケージは使い物にならないわ。操縦補助システムも動かない。」 手持ち型の消化器を使う。「何とか構造総合フィールドは回復させたけど、いつまでもつかわからないわ。早く牽引※4しないと。」
ベシア:「シナプスフィールドが消えつつある。神経反応もない。急いでシャトルの救急室に収容しないと。」
「コンピューター、4人を転送して!」
男はいきなり、ベシアの首をつかんだ。離そうとするキラ。
※5:「絶対に…私を…殺すな。」
やっとで手が離れた。意識を失っていく男。
ベシアのトリコーダーから、高い音が響いた。「駄目だ、もう死んでる。」


※1: Kobliad

※2: Reyab

※3: 吹き替えでは「エンジン圧」

※4: 吹き替えでは「撤退」

※5: レイオー・ヴァンティカ Rao Vantika
(ジェイムズ・ハーパー James Harper) 声はドラグ役の大川さんが兼任

・本編
DS9。
ベシアはコブリアド人にハイポスプレーを打った。
コブリアド人:「ここはどこ。」
ベシア:「宇宙ステーション、DS9 です。私はドクターのジュリアン・ベシア。」
「タイ・カジャダ※6です。コブリアド星から来ました。……ここが DS9。…あいつが行こうとしていた。彼はどこなの? ヴァンティカはどこですか…」
「あの囚人なら死にました。」
カジャダ:「ほんとに死んだの?」
「ほんとです。助かったのはあなただけです。」
「遺体はどこにあるの。」
「遺体安置室においてあります。」
「見せて下さい。」
「もっと具合が良くなったらね。」
「いいえ、今すぐ。」

ヴァンティカの遺体が出される。
ベシア:「予備検死の結果ですが、恐らくあの火事の最中に肺をやられ、呼吸不全に陥り、それが元で死亡したものと思われます。」
カジャダ:「この遺体はほんとにヴァンティカですか。」
「ええ、もちろんですよ。帰還してからはここで保管していましたし。」
そばの道具を手にするカジャダ。「レチナール※7のチェックはしてくれましたか?」
ベシア:「なぜそんな。」
カジャダはヴァンティカの両目にビームを当てる。「視覚皮質に生命反応がないことを確認するためにです。」
ベシア:「ミス・カジャダ、そんな心配はいりませんよ。彼は死んでます。」
「この男は特異体質の持ち主なんです。死んだと思って油断すると…こちらの命取りになりかねません。」
「殺人犯ですか。」
「フン。ただの殺人犯なんていう言葉ではとても言い尽くせないほど凶悪な恐ろしい男です。……大変優秀な科学者ですが、他人の命を奪って今まで生きながらえてきた男です。…私は 20年もこいつを追ってきたのです。」 カジャダはいきなり、ナイフをヴァンティカの胸に突き刺した。「検死解剖をして、DNA 照合スキャン※8で本当にヴァンティカか確認して下さい。」
「ああ…わかりました。」
「…それから私の船もスキャンして下さい。船に変形生命体が残っていないかどうか確かめないと。」
「…ほんとに、そこまでやるんですか?」
「ええ、もちろんです。」

カップを差し出すクワーク。「アイス・ラクタジーノです、クリームたっぷりの。」
ダックス:「ありがとう、クワーク。」
「どういたしまして。いつでもどうぞ。」
「ありがとう。」 離れるダックス。
「可哀想になあ、彼女俺にメロメロに参ってるみたいだぜ?」
オドー:「ヘ、そりゃうぬぼれってもんだ。」
「うぬぼれのどこが悪いんだよう。自分に自信をもたなくちゃ人生やってられないぜ。それにさあ、大尉が俺を見る目つきってちょっと違うと思わないか?」 奥にはモーンがいる。
「うーん、思わずアレルギー反応が出ちゃうんじゃないか?」
「寂しいんだよ?」
「ダックスが? たとえ寂しいにしてもお前に頼られなくたって友達はいくらでもいるだろ。彼女にラクタジーノをおごるチャンスを狙ってる男はステーション中にいるよ。」
「まあね。でも店じゃ俺の目が光ってるからな。」 笑うクワーク。
「ダックスはああやって独りでいる方が好きみたいだな? その気持ち私にはよくわかるよ。」
「じゃ彼女お前さんにピッタリじゃないか。」
「私は人のプライバシーに立ち入ったりせんよ、誰かさんと違って。」
「情けない奴。そりゃお前は独りぼっちで惨めでもそれが好きだからいいよ。だけどな、お前にはわからないかもしれないが…人付き合いが好きな、人間だっているんだ。誰かの、声を聞くとホッとしたり。姿を見ると嬉しくなったりさあ? 温かくて、滑らかな…手を握れたらなあって。」
「お前ってどうしたんだ。」
「ものを欲しがるのは悪いことじゃない。」
「それが手に、入らないものでもか?」
「手に入らないからこそだよ。」
「じゃあ例えばデューリディウム※9とか。」
近くに座っていた宇宙艦隊士官が反応した。
クワーク:「デューリディウムだって? デューリディウムを入荷する予定があるのか?」
オドー:「私が見張ってるのを忘れるなよ?」
「見張られるなら美人がいいな。ジャッジアみたいな。」
ダックスが微笑みかけた。近づくクワーク。
話を聞いていた士官がオドーに近づいた。「面白いテクニックだ。…重要な任務の時は、そうやってブラックマーケットに情報をリークして事態を操作しているのか?」
オドー:「私が自分の仕事をどうこなそうと君とは関係ないだろ?」
追ってクワークの店を出る士官。「そういうわけにはいかない。私は宇宙艦隊セキュリティのプリミン大尉※10だ。ガンマ宇宙域から運ばれてくる予定のデューリディウムについて話をしておきたいんだが。」
オドー:「話すことなんかない、保安体制はもう整ってる。」
プリミン:「いやあその保安体制だが、一度私にチェックさせてもらいたい。…3週間もかけてここに来たのに、何もしないんじゃ何のために来たんだか。」
「…どうしてもって言うんなら、私のオフィスに 17時に来てもらいましょ。」

報告するベシア。「解剖の結果、やはり本人でした。指紋も大脳皮質スキャンも、レチナールパターンも全てカジャダのもっていたデータと一致しました。今回は振りではなく、本当に死亡したものと思われます。」
シスコ:「しかしなぜここへ。」
「コブリアド人なんです。」
ダックス:「デューリディウムだわ。」
キラ:「それどういうこと?」
シスコ:「コブリアド人は絶滅に瀕していて、細胞崩壊防止にデューリディウムがいる。寿命を延ばすためにね。」
ダックス:「連邦もデューリディウム確保には努力してるけど、ガンマ宇宙域から産出した分を配っても、全人口に行き渡るには足りないんです。希少物質なので不法に入手しようとする者も多いんです。」
キラ:「じゃあヴァンティカって奴は、それを狙って DS9 へ。」
「ええ、その通りです。」
シスコ:「カジャダは解剖の結果に納得したのか。」
ベシア:「…いえ、どうしても生きてるって不安をぬぐい切れないようです。」
ダックス:「カジャダは今までの人生のほとんどを、ヴァンティカ追跡に費やしてきたんです。…ある意味では、二人の結びつきは非常に強いものだったとも言えます。」
シスコ:「カジャダの心情を尊重して、なるべく要望には応えるようにしてやってくれ。船のスキャンぐらいならそう面倒でもないだろうし。…それよりヴァンティカの仲間が入り込んでいないかどうかの方が心配だ。ああ、プリミン大尉。丁度よかった、セキュリティの件で君に話があってね。」
キラ:「ああそれならオドーを呼びましょうか。」
司令室に来たプリミン。「ああいや結構です、少佐。必要なら私から伝えておきますので。」
ため息をつくキラ。

司令官室に入るシスコ。「オドーとは、上手く協力してやっていけそうかな。」
プリミン:「確かにプロムナードを仕切るのは非常に上手にやっていますが。」
「しかし?」
「正直言って、デューリディウムの警備を任せるには不安がぬぐい切れません。さっきもフェレンギ人のクワークに、デューリディウムのことを話していました。私に聞こえたなら、ほかの者にも聞こえたでしょう。」
「ステーションでは宇宙艦※11とは違って機密を保つのは至難の業だ。」
「そりゃあわかりますが。」
「どうせデューリディウムのことはもう知れ渡っている。オドーはクワークに、わざとそう言うことで警告しているのかもしれん。」
笑うプリミン。「アカデミーではそうは教わりませんでしたが。私の意見では…」
シスコ:「君の意見など聞いていない。ここはベイジョーのステーションだということを忘れるな。アカデミーでもいき過ぎた干渉は絶対するなと叩き込まれたはずだ。自分のやり方に固執するより、オドーと協力して上手くやっていく方が利口だぞ。わかったか。」
「…はい、わかりました。」
「よし、では本題に入ろう。コブリアド人の一味が、デューリディウムを狙って入り込んでいる可能性がある。君はオドーと、カジャダの話を聞きに行ってこい。昨日到着したコブリアドのセキュリティ士官だ。」
うなずき、出ていくプリミン。

プロムナード。
プリミンは保安室に入った。「ああ…さっきは失礼した。無礼な物言いをしてしまったようで、すまなかったと思ってる。」
オドー:「気にしてませんよ。」
「ステーションのセキュリティの責任者が君だってことは肝に銘じたよ。許してくれないか。」 手を差し出すプリミン。
オドーは握手する。「…いいんですよ。」
プリミン:「宇宙艦隊の士官だからって、君に頭ごなしに指図はしないよ。…じゃあ、セキュリティプランを見せてくれ、一緒に検討していこう。」
「…もちろんプランは喜んでお見せしますけれどね。どんな事態が起きても対応できる完璧なものを作ったつもりですよ? とは言え…何か御提案があれば、お聞きいたしますがね。」
オドーが操作するが、画面には「データベース使用不能」と表示された。「何? …オドーより司令室。」
キラ:『どうしたの?』
「少佐、いまコンピューターにトラブルは起こっていませんか。」

チェックするキラ。「…アクティブメモリーの情報が全て削除されてるわ。」

オドー:「…そんなこと不可能だ。」
カジャダが来ていた。「不可能じゃありません。ヴァンティカはライジェル7※12 で全く同じことをしてのけたわ。」


※6: Ty Kajada
(ケイトリン・ブラウン Caitlin Brown TNG第156・157話 "Gambit, Part I and II" 「謎のエイリアン部隊(前)(後)」のヴェコール (Vekor) 役) 声:横尾まり、旧ST3 ウフーラなど

※7: レチナール画像スキャン retinal imaging scan
レチナール=網膜

※8: DNA reference scan

※9: deuridium

※10: ジョージ・プリミン大尉 Lieutenant George Primmin
(ジェイムズ・ラシュリー James Lashly TNG第77話 "Brothers" 「永遠の絆」のコッフ少尉 (Ensign Kopf) 役) 初登場。名のジョージは訳出されていません。声:西村知道、旧ST5 チェコフなど

※11: 吹き替えでは「艦」

※12: ライジェル7号星 Rigel VII
TOS第1話 "The Cage" 「歪んだ楽園」より

司令室。
カジャダ:「絶対ヴァンティカですよ、こういうことをやる男なんです。」
ベシア:「でもカジャダ、検死解剖もしましたけどヴァンティカが 2日前に死亡したことは確認されてるんですよ?」
「いえ生きてます。今もステーションのどこかにいます。そしてデューリディウムを奪うためにコンピューターにアクセスして、セキュリティのファイルを読み出そうとしたんです。絶対それに間違いありません!」
プリミン:「…もし生きてるにしても、たった一つだけのファイルのために…コンピューターのメモリーを全部削除するなんて道理が通っていませんよ。」
オドー:「いや道理は通ってますよ。もしファイルを一つだけ読み出そうとしていたんなら、私が設定しておいたロックアウトに必ず引っかかったはずです。」
カジャダ:「でも全システムのアクティブメモリーには、ロックアウトはないですもんね。」
キラ:「だってそんなことしたらコンピューターが使えなくなるのよ。」
「その弱点を突かれたんです。」
ダックス:「でもどうやってアクセスしたのかしら。」
「過去の手口では、亜空間シャント※13を使っていました。そしてサブシステムに接続するんです。サブシステムは全体を網羅してるけどセキュリティは甘いから。」
キラ:「つまり照明システムとか、レプリケーターとか。」
ダックス:「コンピューターシステムに認可を受けていないタップを発見しました。気温コントロールパネルです。レベル21、セクション10。」
オドーとプリミンは、同時にコミュニケーターに触れた。「保安チーム。」「保安チーム。」
オドー:「…レベル21、セクション10 へコンピューターシステムに亜空間よりクロスオーバー・リンクしてるものを探してくれ。」
保安部員:『了解。』
カジャダ:「気をつけて下さいね、ヴァンティカは亜空間シャントに自爆装置を仕掛けていると思いますから。」
キラ:「ずいぶん自信ありげに言い切るんですねえ、確認してもいないのに。」
「ヴァンティカを知ってますから。」
シスコ:「ミス・カジャダ。私はあなたの言うことを全面的には信じられません。」
「信じて下さらないと命取りになります。」
「…あなたの船には 3人が乗っていた。うち 2人は死亡が確認されました。となるとヴァンティカが幽霊になって…」
「からかうのはやめて下さい、司令官!」
「ヴァンティカ本人じゃなくて、一味の仕業かもしれない。」
「ヴァンティカは自分の命にすさまじい執着心をもっていました。寿命を延ばすために、薬や低温療法、臓器移植まで行ってきました。高機密刑務所の嘱託医師という立場を利用して、囚人を使って細胞の寿命を延ばす人体実験まで行っていたんですよ? そしてとうとう政府の研究所を襲い、生命再生の研究結果を盗み出しました。私の船に火事を起こしたのも、ちゃーんと生き延びる策あってのことだと思うんです。どういう策だったかはわかりませんが、彼はあの火事をちゃんと生き延びたんです。」
「ドクター。DNA 痕跡の分析結果が出るのはいつだ。」
ベシア:「昨日宇宙艦隊司令部に送ったんですが、コブリアドへ照会する必要があるでしょうから後…12時間でしょうか。」
「確認できるまでは、ヴァンティカが生きているものとして行動すること。用心してくれ。」
頭を下げるカジャダ。
オドー:「司令官。…お話があるんですが。」

司令官室に入るシスコ。「どういう話だ。」
オドー:「辞任したいんです。」
「そう思い詰めるな。」
「じゃあもうあいつとのことを御存知で。」
「ああ、プリミン大尉から聞いたばかりだ…」
「私に、ステーションの保安体制を任せるって言ったのは中佐※14でしょ? 何も私が頼んだわけじゃない。」
「当然だろう、ここを一番よく知ってるのは君だ。」
「そりゃまあね。そう言っていつも丸め込むんですね、もうウンザリだ!」
「丸め込んでるつもりはない。キラ少佐だって君を評価してきたし…」
「ご機嫌取りなんかしないで下さい。私に全権を与えてくれないんなら即刻辞任します。」
「…君を信頼してる。仕事ぶりは文句なしだし…君に失望させられたことは一度もない。君が必要なんだ。プリミン大尉には決して君の代わりは務まらない。」
「そりゃ当たり前ですよ。」
「しかし宇宙艦隊が士官を送り込んできたのは今回のことがベイジョーだけではなく、惑星連邦全体の利益に関わるからなのだ。」
「それはわかります。」
「何とかプリミンと上手くやってくれ。もちろん責任者は君だ、オドー。」
「そう言って下さいよ。」
「もう言っておいたよ。」
「…じゃ任せていただけますね。」
「もちろんこういう緊急事態なんだ。…君に任せる。」
うなずくオドー。「辞任は取り消します。」 出ていった。

シスコは科学ラボに入った。「何かわかったか。」
ダックス:「まだ断言はできませんが、カジャダの船のスキャンは終わりました。生命反応はありませんが一つ妙なことがあるんです。」
「妙なこと。」
「誰かが貨物室に侵入した形跡が。」
「ドッキングした後か。」
「ドッキング中、貨物室には何のダメージも受けなかったとキラ少佐は言っています。」
「何が目当てかわかるか。」
チップを手にするダックス。「恐らくこれでしょうね。ヴァンティカの手荷物に入ってたんです。」
シスコ:「何だそれは。」
「地図です、人間の脳のね?」
脳の構造図が表示される。

クワークの店の片づけをしているフェレンギ人たち。
クワークも 2階におり、手を床についている。「…ほんとに掃除したのか? 上の階だけでもう 3つもコインを拾ったぞ、もっとちゃんと目を開けて見ろ! もしかしたら宝石なんかが落ちてるかもしれないじゃないか。…わかったよ、もう頼まねえよ! 俺が自分でやらあ。その代わり全部俺のもんだからな。帰れ!」
逃げるように去るフェレンギ人。
クワーク:「全く最近の従業員ときたら。」 またラチナムを見つけ、喜ぶ。
いきなり、クワークは後ろから首をつかまれた。
男の声。「準備はちゃんとできてるんだろうな。」
クワーク:「準備って…何の準備だよ。」
「デューリディウムを頂く準備さ。お前が段取りをつけておいてくれる約束だったな。」
「ああ、だけど…あ…あんたがヴァンティカのはずはない。」
「必ずこの時刻に現れると予告しておいただろう。」
「ああ、だからあんたが来ると思ってちゃーんと腕っ節の強い奴らを手配しておいたんだよ。…だ、だけど死んだって聞いてさ。」
「危なかった。だが私は不滅だ。」
解放されるクワーク。後ろを振り向くが、既に人影はなかった。


※13: subspace shunt
シャント=分路、分流

※14: 吹き替えでは「佐」と誤訳

カジャダは診療室に入った。「私に御用ですか?」
保安部員を治療していたベシア。「カジャダ、ちょっと待って下さい? …さあいいよ、でも次に重い物を持ち上げる時は、反重力装置を使うことだ。どうぞこちらへ。DNA スキャンの結果が出たんで、お呼びしたんですよ。…昨日の夜連絡したんですが、通信バッジに応答がなかったので。」
カジャダ:「ああ…私あまり、寝付きが良くないんです。昨日の夜は特になかなか眠れなくて、アルファ波誘発剤※15を服用したもので。」
「あの薬は気をつけないと。常用はよくありませんよ。」
「それよりもスキャンの結果を。」
「ああ、すいません。二倍性変異体の痕跡もありませんでした。クローンってこともないし、まず間違いありませんよ。ヴァンティカ本人です。」
「いいえ、絶対そんなはずありません。」
通信が入る。『ダックスよりベシア。』
ベシア:「何だい、ジャッジア。」

ダックス:「あなたに聞きたいことがあるの。ラボに来てもらえる?」
ベシア:『ああ、すぐに行くよ。』

ベシア:「頼りにされてる。…ヴァンティカが死んだことに間違いありませんよ?」

脳の図が表示されている。
ダックス:「私の推測だけど、身体は死んでも意識は生き続けるのよ。」
ベシア:「別人の脳で?」
「ありえるわ?」
「人の脳に自分の意識を転移する神経転移※16みたいに? あれができるのはヴァルカン人だけだ。」
「でもこれを作ったのは絶対ヴァンティカよ。ファイルには 70以上ものコンピューターシミュレーションが入ってる。全て神経エネルギーのパターンを識別し、脳の様々な部分に蓄えるためのものなの。」
「…確かに人間の脳は、使われていない部分の方が多いからね。」
「その使われていない部分に他人が侵入したらどうなる?」
「あくまで推測だが、デューリディウムが到着するまでの間、ヴァンティカの意識がほかの人間の脳を乗っ取ってしまうってこともありえるな。でも誰の。…カジャダか。」
「コブリアド人同士だし。敵対関係にあった相手なら絶好のカモフラージュだものね?」

司令官室のシスコ。「それじゃあ筋が通らない。カジャダは最初から、あれほどヴァンティカは生きているって主張していたじゃないか。…カジャダがヴァンティカなら、わざわざ注意を喚起したりはしないだろう。」
ダックス:「カジャダが完全にヴァンティカなわけじゃないんです。」
ベシア:「これは単なる推測ですが、理論的には…カジャダはヴァンティカの存在には気づいていないと思います。」
「船の密航者のようなものです。船底に潜んでいれば、乗組員には見えないんです。」
シスコ:「脳をチェックすれば乗っ取られているかどうかわかるのか。」
ベシア:「いえ、チェックの方法すらわかりません。まずは、意識の転移の方法を突き止めなければ。」
オドー:「部下を一人カジャダの監視に回し 26時間※17完全監視体制のもとにおきましょう。」
プリミン:「無理ですよ、デューリディウムの警備で人手が足りないんだから。コンピューターにカジャダの行動を見張らせ、警戒区域に近づいたら警報を出させればいいでしょう。」
「とにかくこちらのプランがカジャダに漏れるのだけは、まずいですね。」
ベシア:「きっと怒るだろうな?」
シスコ:「しかしほかに方法がない。」
ダックス:「でも何て言うんですか?」
オドー:「言わなくていい。もし文句を言ったら、私のところによこして下さい。」

保安室。
カジャダ:「コンピューターのセキュリティコードが変わっていて、アクセスを拒否されました。なぜですか?」
オドー:「私がそう命令したんです。」
「あなたは救いようのないバカだわ。」
「お気に召さなかったんならすいませんね。」
「ヴァンティカのことを知ってるのはここでは私だけなのに。」
「申し訳ないが、現時点においてセキュリティファイルへのアクセスを許されるのは 4人だけに限定したんです。私と、プリミン大尉、キラ少佐に、シスコ司令官です。」
「……デューリディウムの到着はいつなんですか?」
「あなたに教えるわけにはいきません。」
「ハ!」 外を見るカジャダ。「ではあのフェレンギ人は。クワークとかいう。」
「クワークが何です。」
「噂では、クワークは裏の世界に通じているそうですね? 彼は監視してるんですか?」
「あいつのことはいつも見張っています。」
「ならいいけど。ヴァンティカが真っ先に声をかけるのはああいう男でしょうからね?」 出ていこうとするカジャダ。
オドーはドアを開けた。

暗い店の中で、クワークが話している。「そのことなら大丈夫だ。」
男:「もしトラブルが起きたらどうすりゃいいんだい。」
「トラブルぐらい自分で何とかしろよ。前金は受け取ってんだろ?」
「殺されるかもしれねえんだぞ。」
「覚悟の上だろ、グズグズ言うんじゃねえや。」
「お前は斡旋するだけだからな。気楽なもんさ。※18で、いつそのコブリアド人と会えるんだ。」
「会う時は向こうから指定してくるってよ?」
「それじゃあいつ支払ってもらえるんだ。まだ半金しかもらってねえんだぜ。」 話している異星人のほかに、ベイジョー人 2人の姿も見える。
「残りの金は仕事が済んだらだ。」
「そいつは受けられねえな。俺たちゃ前金で 7割もらわねえと仕事はやらねえ。」
様子を隠れて見ているカジャダ。
クワーク:「ドラグ※19。このクワーク様が頼んでんだぜ、疑うのかよ。」
ドラグ:「もう昔の借りは全部返したはずだ。」
カジャダは 4人に近づく。
クワーク:「何を言ってやがる。俺がいなきゃお前は今頃まだカーデシアの刑務所の中…」
叫び声が聞こえた。
クワーク:「ん?」
カジャダが手すりにつかまり、落ちそうになっている。
そのまま落ちてしまった。気を失う。


※15: alpha-wave inducer

※16: シナプスパターン転移 synaptic pattern displacement
映画 ST3 "The Search for Spock" 「ミスター・スポックを探せ!」でのスポックとマッコイのことを指しています

※17: 吹き替えでは「24時間」。原語では「常時監視」としか言っておらず、DS9 の一日は 26時間です

※18: 原語でははじめのクワークのセリフからここまで、次のようにやり取りしています。クワーク「全て手はずは整ってる」 ドラグ「ヴェナー7号星 (Vener VII) での仕事の時もそう言ったな」 「ヴェナー7号星のことじゃ感謝してもらわないとな。金は入ったんだろ?」 「俺たちは殺されるところだった」 「お前らの仕事にはつきもののリスクさ」 「お前に頼まれる時にはつきもののリスクだ。確かにな」。そのため吹き替えにある前金も実際には受け取っておらず、後の「半金しかもらってねえんだぜ」や「残りの (金)」という表現も原語にはありません

※19: Durg
(クリストファー・コリンズ Christopher Collins TNG第34話 "A Matter of Honor" 「錯綜した美学」のカーガン艦長 (Captain Kargan)、第43話 "Samaritan Snare" 「愚かなる欲望」の Grebnedlog、DS9第39話 "Blood Oath" 「血の誓い」の護衛長 (Head Guard) 役) 声:大川透、DS9 ガラックなど

診療室のベシア。「…しゃべれますか。」
手術台にいるカジャダ。「…押されたんです、ヴァンティカに。」
ベシア:「もう鎮静剤で眠らせないと危険です。身体を動かしすぎれば、一生麻痺が残る恐れがあります。」
シスコ:「彼女の後ろに誰かいたか。」
クワーク:「いやあ、悲鳴が聞こえてから上を見たもんでねえ。バルコニーから落ちてきたんだよう、あんなとこで何をしてたのかねえ。」
カジャダにハイポスプレーを打つベシア。
オドー:「お前がデューリディウムを狙ってる悪党の手先じゃないかってとても心配してたからな。」
クワーク:「俺がまさか…」
「今までが今までだから説得力はないぞ?」
シスコ:「バーにはほかに誰かいたのか。」
クワーク:「誰もいません。」
「カジャダが墜落した時もか。」
「ええ、私だけです。店を掃除してたんスよ。それじゃ失礼して掃除を終わらせないと。」
オドー:「そんなに急ぐこともないだろう。お前に証拠を片づけられてしまう前に 3階を改めさせてもらうぞ?」
「ああどうぞどうぞ、でも言っておくけど彼女は独りだったぜ。それに俺に断りもなくあんな風に忍び込むなんて不法侵入だ、あっちが悪いよ。」
出ていくクワークとオドー。
シスコ:「どう思う、ドクター。自殺しようとしたんだろうか。」
ベシア:「自殺を示唆するような行動は全然見られませんでしたがでも、他人の意識が脳にある影響かもしれませんね。」
「その件については確証が欲しいところだ。」
「脳のスキャンをする前に怪我の治療が必要です。それに、ヴァンティカの意識がどうやって転移したのか、それを突き止める方が先ですよ。」
「コンピューター、ダックス大尉の現在位置は。」
コンピューター:『ダックス大尉は遺体安置室です。』

ヴァンティカの爪の部分から、何かを取り出すダックス。
シスコが来た。「手の爪に何かあったのか。」
ダックス:「まだ、わからないわ。」
「何を探してる。」
「…私の推測を裏づける証拠よ? 私が気になるのはね、なぜ生体電気の電荷を神経膠細胞※20に誘導したかってことよ。」
「そのことは私も気になっていたんだ。」
「でも他人の神経システムの神経膠細胞を通じて、脳までバイオコード・メッセージを伝達しようとしたなら説明がつくわ。ヴァンティカの目論見はまさにそれだったと思う。」
「手の爪を使ってかい?」
「生命コードメッセージを伝達するのにほかの方法があったとは思えないもの。…あまり強い電荷は使えなかったはずよ? だってカジャダの船のセンサーに探知されちゃうでしょ? 理想的には、犠牲者の皮膚に直接生命コードメッセージを注射するのがいいわ。」 モニターに物質の拡大図が表示される。「でも船には注射針やハイポスプレーは落ちていなかった。」
機械的なものが映った。
ダックス:「マイクロジェネレーター※21だわ。」
シスコ:「じゃあこの中にヴァンティカの意識が蓄えてあるのか。」
「自分の神経パターンで生体電気パルスをコード化したのよ。きっと何ヶ月も前に爪の下に仕込んでおいたに違いないわ。緊急事態になって身に危機が迫った時のためにね? 死ぬ前の最期の手段として。」
「そしてカジャダに乗り移った。」
「後は、カジャダの神経膠細胞をスキャンしてみれば答えはすぐ出るわ?」
「容態が安定したらすぐに検査をさせよう。よくやってくれた。」

廊下で指示するキラ。「配電増幅機をチェックして、100%効率になってるかどうか確認しておいてちょうだい。もし 0.03%以上の減少があったら、交換しておいて。ああそれから、パワーウェイブガイド・プラグが駄目になっていないかどうか、ダブル・チェックして。」
オドー:「これがラストですよ、あと一時間しかない。…プリミンはどこです。」
「あなたと一緒じゃないの?」
「ドッキングエリアの最終チェックを手伝えって少佐のところへやったんですけれど。」
「いいえ、今朝から私は会ってないわよ?」

廊下を歩くクワーク。「俺は一緒には行かねえよ。俺は間に入っただけの、斡旋人だからな?」
ドラグ:「上前をハネやがって。」 他の仲間もいる。
「それが役得だよ。」
「…でもどうやって惑星連邦のシャトルなんか手に入れたんだよ、クワーク。」
「そりゃあ俺の手柄じゃねえや。雇い主がセキュリティにアクセスなさって下すったってわけよ。」
「で、その雇い主はいつ姿を見せるんだ。」
「伝言によりゃシャトルでお待ちだそうだ。」 エアロックに入るクワーク。「ああ…」
ベシアがいた。
クワーク:「ああいやその、すいませんでしたドクター。道を間違えたみたいで。お邪魔しちゃって申し訳ありませんでした、ドクター。」 笑う。
近づくベシア。「…いいや、このシャトルでいいんだ。…来てくれるのを待っていたぞ。」


※20: glial cells

※21: microscopic generator

診療室に戻るダックス。「ジュリアン? …コンピューター、ドクター・ベシアの現在位置を。」
コンピューター:『ドクター・ベシアは診療室にいらっしゃいます。』
ダックスは、そばにコミュニケーターが置かれているのに気づいた。

話しかけるオドー。「ここで何してるんだ、ドッキングエリアをチェックしろと言っておいたはずだぞ?」
プリミン:「…思いついたことがあってね。」
「一体何をだ。」
「この前ヴァンティカがコンピューターのメモリーを、ダウンさせた時君はこう言った。個別のファイルではなく、システムを狙われたって。」
「どういうことかわからんね。」
「ヴァンティカは、我々がドッキングエリアに厳戒態勢を敷くだろうことぐらいは知っているはずだ。」
「だから?」
「考えたんだ。ヴァンティカはまたきっと同じ手を使ってくるだろう。だから、ステーションの防御システムを全部ダウンさせるような穴がないかどうか調べてみた。」
「それなら私もダブルチェックしたよ。」
「ああ、防御システムには穴はなかった。でも、バックアップシステムを調べてみたら…どうにも説明がつかないグリッチがあった。それを追跡していったら廃棄物再生システムにたどり着いた。廃棄物再生システムなんて、誰もわざわざ調べやしない。そしたらこれがあった。」 小さな部品を見せるプリミン。
「亜空間クロスオーバー・シャントだ。この前ヴァンティカがコンピューターをタップするのに使ったのと同じだ。」
「何と初期コマンドと制御機能へフィードバックするようにセットされているんだ。」
「…これじゃ一時間はシステムがダウンするな。」
「それだけあれば、デューリディウムの輸送船を奪って…逃げるのに十分だ。」

ワームホールから、輸送船が出てきた。
シスコ:「どうした、少佐。」
キラ:「ノルコヴァ※22がワームホールから現れました。ドッキングの許可を求めています。」
「ただちに警戒態勢に入れ。どのドッキングセクションを使う予定だ。」
「第8区です。」
「オドー。第8区の保安クルーは、そのままで待機させろ。ドッキングは第2候補地で行うことにする。第12区だ。」
プリミン:「では、第12区にクルーを派遣しておきます。」
オドー:「司令官、プリミン大尉のおかげで大失態から免れましたよ。亜空間クロスオーバー・シャントを見つけてくれたんです。放っておけばシステムがダウンするところでした。」 部品を渡す。
キラ:「オドー。ノルコヴァをエスコートさせるのにシャトルを出したの?」
「いいえ?」
「…じゃ何でリオグランデが出ていったわけ?」
シスコ:「スクリーンオン。」
リオグランデがノルコヴァへ近づいていく。
ダックスが司令室へ来た。「司令官、ジュリアンがいません。」
シスコ:「いないって?」
「通信バッジは診療室にあったけど、彼本人はどこにもいないの。」
「コンピューター。リオグランデへ、アクセスをしたのは誰だ。」
コンピューター:『搭乗許可アクセスコード、4-1-2-1。ドクター・ジュリアン・ベシアです。』

ノルコヴァにドッキングするリオグランデ。
ノルコヴァのブリッジ※23で働くクルー。
そこへ、ドラグたちが転送されてきた。
女性船長をはじめ、次々と撃たれるクルー。
コンピューターに触れるドラグ。「片づきましたぜ。」
ベシアが転送されてきた。「シールド、アップ。」
ドラグ:「完了。」
船長席に座るベシア。「船全体を制圧しろ。クルーは 12人いるはずだ。もし抵抗する者がいれば、殺してしまえ。針路を変えろ。」
ドラグ:「了解。」 船が揺れた。「クソー、ステーションのトラクタービームに捕まったぜ。」
「そんなことがあるはずがない。システムはダウンしているはずだ。」
「だけど、ダウンしてませんぜ? ステーションから呼びかけられてる。※24
「呼びかける? 我々を? エンジン全開、フルスピードだ!」
「トラクタービームに捕まっちゃあ何したって無駄さ。」
「さっさとやれ!」
「エンジン全開でフルスピード。…ダメだあ、振り切れない。」
「しかしステーションまで引き寄せる力はないんだ。」
「ここで座って待ってるわけにはいかねえ。これからどうするつもりだい?」
「…チャンネル、オープン。」
スクリーンにシスコが映った。『ディープ・スペース・ナイン、司令官のシスコだ。』
ベシア:「レイオー・ヴァンティカだ。はじめまして。」

シスコと顔を見合わせるキラ。

ベシア:「無論君たちは、もう私のことを知っていただろうがね。」
シスコ:『ドクター・ベシアと話がしたい。』
「それは残念だなあ、ベシアは今は出られないんだ。」
『彼は無事なのか。』
「彼の肉体は、何と表現すればいいかなあ…実に若々しくていいよ。頭脳が私になって、肉体も喜んでいるさ。」
『彼の脳に一体何をしたんだ。』
「しばらくの間彼には、意識を失っていてもらわなければならないんだが。しかし、彼の身体から出て君たちに彼を返してやらないこともない。…だがその前に、トラクタービームを解除してもらいたい。」
『いや、それはできない。』
「解除しないなら、この状態のままでワープに入る。」

シスコ:「そうすればトラクタービームで船は破壊され、君たちは全員死ぬ羽目になるぞ。」
ベシア:『その通りだ。もし、ドクター・ベシアの命を助けたいと思うのならば…トラクタービームを解除しろ。決めるまで、一分間だけ待ってやろう。』 映像は消えた。
「…彼をこっちへ転送できないか。」
プリミン:「駄目です、シールドが上がってます。」
「何か案はないか。」
キラ:「…シャトルみたいな小型の船なら向こうへ近づいてフェイザー砲でシールドジェネレーターに負荷をかけられるかも。昔カーデシアの輸送船相手によくやった作戦です。」
オドー:「でも、もし船体に穴が開けば積んであるデューリディウムが流出する。」
シスコ:「オドーの言うとおりだ。デューリディウムの流出だけは避けなければならない。そうなればこの星系に人が住めなくなる。ダックス、ベシアの精神をヴァンティカのコントロールから解けないか。」
ダックス:「ヴァンティカの神経エネルギーのパターンは正確にわかっていますから、もしこのパターンを攪乱する電磁パルスを作ることができれば、ジュリアンが復活するかも。…どちらにしろ向こうに行かないと。」
「トラクタービームに乗せて送れないか。向こうのシールドと、同じ周波数で。」
「パルスをシールドと共振させて、向こうの船の内部に電磁フィールドを作るってわけね?」
キラ:「呼び出しだわ。」
「時間を稼いで下さい。」
シスコ:「できる限り努力してみる。スクリーンオン。」
ベシア:『どうだ、決めたか?』
「君の要求を呑むとして、ドクターを返してくれるという保証はちゃんとあるのか。」
『おやおや司令官、いきなり条件つきの降伏ときたか。救出計画でも練っているのか? 違うか。』
「私はただドクターを助けたいだけだ。」
『私を見くびるのもいい加減にしてもらおう。ワープの準備を。』
「生き延びるためにあれほどの努力をしてきた君が、自殺行為に踏み切るとは思えない。」
『それを言うなら、君こそ。デューリディウムをこの星系全体にばらまくような愚かな真似をするとは、私には思えないんだよね。』
シスコはダックスを見る。首を振るダックス。
ベシア:『ワープエンジン始動の、準備にかかれ。』
ドラグ:『おい冗談じゃねえよ、俺はまだ死にたくねえんだ!』

ベシアはフェイザーを取り出すと、ドラグを撃った。

ベシア:『ではさらばだ、シスコ司令官。交渉は、終わりだ。』
ダックスはシスコに向かってうなずいた。
ベシア:『さあどうする気なんだ?』
シスコ:「いいだろう。トラクタービームをこれから解除する。ダックス。」
ダックス:「OK です。」
「今だ!」

トラクタービームを通じて、パルスが送られる。
ノルコヴァのシールドを通過し、影響が及ぶ。
頭を押さえ、苦しむベシア。
シスコ:『ドクター・ベシア。聞こえるか。ベシア!』
周りを見渡すベシア。「…はい…。何ですか。」
シスコ:『ドクター、シールドを下げろ。早く!』
「何ですって? …シールドって、何のですか。どこですここは。」
『説明は後だ。シールドを下げろ、早く!』
操作しようとするベシア。だが苦しみ始める。
何とか指がスイッチに触れた。

オドー:「シールドが下がった。」
シスコ:「すぐに転送しろ。」
プリミン:「転送開始。」
転送台に現れるベシア。シスコはフェイザーを向ける。
ベシア:「大丈夫ですよ。ほら…僕です…。」 顔をしかめる。
シスコはベシアを撃った。倒れるベシア。

気を失ったまま、運ばれるベシア。
ダックス:「ヴァンティカの神経エネルギーパターンをもつ神経膠細胞は、全て取り除くようにしてあります。取り出した細胞は、ジュリアンからマイクロ貯蔵フィールドに転送します。」 小さなエネルギー貯蔵セル※25を設置する。「多分これで元に戻るとは思うんですが。」
ベシアの頭を転送ビームが包む。
吸い取るようにビームが上方に消え、逆に装置の上に降りてきた。
稼働するフィールド装置。
トリコーダーを持って近づくダックス。「…ヒトの神経エネルギーパターンだけだわ。もう大丈夫よ。」
ハイポスプレーが打たれ、ベシアは目覚めた。「ああ…あんなひどい痛みは、生まれて初めてだ…。」
笑うダックス。

診療室。
フィールド装置が置かれている。
カジャダ:「…ドクター・ベシアにはほんとに御迷惑をかけてしまって。」
ベシア:「あなたの方が正しかったんですね。ヴァンティカは生きてたんだ。」
「でもまさか意識を他人に移すとは思いませんでした。」
「何も覚えていないんですよ。…何だかすごく惨めな気持ちです。」
シスコ:「誰も君を責めてやしないよ。」
カジャダ:「ドクターのせいじゃありません。犯人はあれよ?」 フィールド装置を見る。
ダックス:「あれをどうするつもりですか?」
「私が護送中だった囚人をお返し願えますでしょうか、シスコ司令官。」
シスコ:「ええ、もちろん。身体はありませんがね。」
「ありがとう。」 カジャダはいきなり銃を手にすると、装置を撃った。
消滅し、焼け跡が残る。
出ていくカジャダ。
残された 3人は、互いに顔を見合わせた。


※22: Norkova
TNG第20話 "Heart of Glory" 「さまよえるクリンゴン戦士」に登場した、バトリスの改装。後にイエイツ船長のゾザとして色違いで再利用

※23: 明らかにコンピューターは連邦のデザインで、クルーも宇宙艦隊ではないものの共通の制服を着ています

※24: 吹き替えでは「ステーションに引っ張られてく」となっており、次のベシアのセリフも「引っ張る?」

※25: energy containment cell

・感想
まだ 9話目にして、シディグ・エル・ファディル (当時はこの名前でしたね) が ST でお決まりの「乗っ取られ」を演じることになりました。ベシアというかシディグのファンには必見でしょう。一応どんでん返しとはいえ、ヴァンティカに直接触れられたのは一人しかいませんでしたから、途中で気づいてしまった人も多いかも。
原案・共同脚色の Morgan Gendel は、あの「超時空惑星カターン」にも関わった方です。クワークは今回、かなり悪い役になってますね。もっとも事件解決後は、オドーにこっぴどくやられるんでしょうが。2話連続登場のプリミンがいる代わりに、オブライエンは今週もお休みです (ちなみに次回も)。


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