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TNG エピソードガイド
第95話「疑惑」
The Drumhead

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・イントロダクション
※1『航星日誌、宇宙暦 44769.2。科学交流プログラム※2で、数週間前からクリンゴン人の宇宙生物学者が乗艦しているが、連邦の機密流出が発覚し先日のワープエンジンの爆発※3と共に彼が容疑者として挙がっている。』
質問室。
ライカー:「宇宙暦 44758、推進システムのファイルにアクセスしましたね?」
中央にいるクリンゴン人。「バカを言うな。」
ライカー:「ですが、36デッキのコンピューター 12-B-9 では、コミュニケーターの周波数で使用者を記録するんです。」
「何かの間違いだ。」
トロイ:「ジダン中尉※4、ダイリチウム結晶室の設計図は、あなたがファイルを見た一週間後にロミュランの手に渡っているんです。それは確認済みです。」
ジダン:「私は何も知らない。」
ライカー:「それでは、時を同じくしてワープエンジンが爆発した※3ことも御存知ないと。」
「私には関係ないことだ。私がクリンゴンだから疑っているのか。」
横に立っているウォーフを見たトロイ。「クルーにもクリンゴンはおりますし、それは全く関係ありません。」
ジダン:「私が信用できないならクリンゴン星に帰せ!」
ライカー:「既にクリンゴン評議会に連絡しました。この調査が済み次第、故郷におかえしします。」
「もう何も言うことはない。」
「いいでしょう。ウォーフ、ジダン中尉をお連れしろ。」
ジダンについていくウォーフ。
ライカー:「どう思う。」
トロイ:「難しいわね。心を閉ざしてるわ? でも確かに何かを隠してる。」

ターボリフトのジダン。「クリンゴンではお前の名前は忘れられている。まるで存在しなかったようにな。戦士たる者なら耐え難い仕打ちだ。何の名誉も、栄光もなく、故郷に帰れる当てもない。」
降りる 2人。

廊下を歩くジダン。「私は故郷に、力をもった友人が多い。何なら口を聞いて、お前の名誉を回復してもいい。…私を脱出用シャトル※5に案内すればな。」
ドアを開けるウォーフ。
ジダン:「お前なら、誰にも知られずにそれくらいやれるだろう。」
ドアが閉まる瞬間、ウォーフはジダンを殴り始めた。壁に押しつける。「…お前がどうやってロミュランに機密を売ったのか、俺が必ず暴いてみせる!」
クリンゴン語で応えるジダン。「(クソ野郎※6!)」
ウォーフ:「調査の結果がクリンゴン評議会に渡って、貴様がどんな刑を受けるか楽しみだ。」 手を離し、出ていった。


※1: このエピソードは、ライカー役ジョナサン・フレイクスの監督作品です。TNG で監督した 8話中、第81話 "Reunion" 「勇者の名の下に」以来 3話目となります

※2: TNG第34話 "A Matter of Honor" 「錯綜した美学」などでも、士官交流プログラム (Officer Exchange Program) が描かれました

※3: 原語では、順に「ワープドライブのサボタージュ」、「ワープドライブを止める爆発があった」。エンジンの爆発は言い過ぎな気もします (船全体が失われそうなイメージ)

※4: Lieutenant J'Dan
(ヘンリー・ウォロニッツ Henry Woronicz VOY第65話 "Distant Origin" 「遠隔起源説」のフォーラ・ゲイガン (Forra Gegan)、第91話 "Living Witness" 「700年後の目撃者」のコーレン (Quarren) 役) 声:中庸助

※5: 原語では、単に「シャトルクラフト」のみ

※6: パターク (pahtk)

・本編
エンタープライズに近づいている、オーベルト級の宇宙艦※7
『航星日誌、補足。既に退役されたサティ提督は、3年前の反連邦エイリアンの陰謀※8を暴いた腕利きの調査官であり、その存在は最早英雄である。今回の調査も、お手伝いいただくことになった。』
転送室に 3人が転送されてきた。
中心の女性※9は、提督の制服は着ていない。「ピカード艦長。」
ピカード:「サティ提督、エンタープライズへようこそ。」
握手するサティ。「どうぞよろしく。私のスタッフを紹介するわ? 助手のサビン・ジェネストラ※10、ベタゾイド人よ? 秘書は、デルブ2号星※11のネルン・トーア※12。」
ピカード:「彼は本艦の副長、ウィリアム・ライカー中佐です。お部屋へ御案内しましょう。」
「宇宙艦隊司令部※13はこの事件を重く見ているからこそ、退役した私を呼んだのよ? 早速調査にかかるわ?」
「わかりました、副長は提督のスタッフを頼む。」
「まずはエンジンの被害状況を見せてください。」

機関室に来たピカード。「サティ提督、データ少佐とラフォージ少佐です。」
ラフォージ:「ようこそ。中には入れません。放射線レベルは落ちていますが、まだ危険ですから。」
コアへ通じる部分の壁が閉まっている。
ピカード:「後どのくらいかかる?」
データ:「現在のレベル低下スピードですと、49時間後には入室できます。」
ラフォージ:「提督、爆破の瞬間を御覧になりますか。」
サティ:「ええ。」
モニターを操作するラフォージ。「この記録は、4日前の午前3時のものです。」
突然ワープコアの一部が爆発し、警報が鳴る様子が映った。
ラフォージ:「この瞬間エネルギー封鎖フィールドが働き、強化シャッターが降りています。死者はありませんでしたが、2名が放射能焼けです。」
サティ:「今までに、何かわかっていることはあるの?」
データ:「爆発の様子をスロー再生してみたところ、結合フレーム※14が吹き飛んでいました。」
「エンタープライズから流出した設計図には、確かダイリチウム結晶室の結合フレームの部分もあったわねえ?」
ピカード:「それで、破壊工作の可能性も当たってみたんです。」
データ:「その仮説を裏づける証拠も発見しました。…センサーの記録を見直してみたところ、爆発の起こる 52ミリセカンド前まで、エンジンシステムには何の異常も示されていません。」
ラフォージ:「つまり、エンジンそのものには何も作動不良がなかったということです。」
サティ:「艦長。これから調査を進めるに当たって、一度打ち合わせをしましょう。」
ピカード:「その方がいいですね。」
コアを見るサティ。「データ少佐、ラフォージ少佐。大変な調査になると思うけど、頼むわね?」

作戦室。
レプリケーターの前に立つピカード。「クリンゴンがロミュランに、我々の情報をリークするとは実に困りものですな。」 カップを取り出す。「ほかにも…何か司令部では、クリンゴンとロミュランのつながりを掌握しているのでしょうか。」
サティ:「そうねえ? …司令部内のことは最重要機密だから。私の言えることじゃないわ?」
「…エンタープライズは、今までにも…いくつか、その二大勢力が手を組んだのではないかと思える事件を経験しています。」
「それは司令部も承知しています。でも今は目の前の事件に専念しましょ?」
ドアチャイムに応えるピカード。「入れ。」
ウォーフ:「失礼しました、お客様とは。」
「いや、いいところに来た。紹介したかったところだ。サティ提督、こちらは保安部長のウォーフ大尉※15です。」
サティと握手したウォーフ。「艦長、その後ジダン中尉の調査を続けていましたが、ついにエンタープライズから機密をもちだした方法を突き止めました。」
サティ:「それはお手柄だったわね。」
「これが、その秘密です。」 ウォーフは道具を渡す。「彼がバルトマザール症候群※16の治療で使ってた注射器ですが、艦隊のアイソリニアチップを読めるように改良されたオプチカルリーダーが組み込んであったんです。奴はコンピューターからデジタル情報を取り出すと、アミノ酸の連結の中にコード入力し、それを注射液の中に混入していたんです。それを誰かに注射した。何も知らない第三者か…」
「知ってて注射された人にね。」
「情報は不活性のタンパク質となって血液中を流れるわけです。」
「人の身体そのものが最高機密を記したファイルになるのね。…ねえウォーフ大尉。後でジダンに話を聞くとき、あなたが質問者に立ってくれるかしら?」
「…光栄です、提督。では後ほど、失礼します。」 出ていくウォーフ。
「艦長。あの大尉は今度の調査で非常に重要な存在になるわ?」

質問室。
ジダンのそばにいるウォーフ。「あなたが乗艦してからエンタープライズを降りた全員の行動を追跡調査しました。そのうちの一人、ターカニア※17の外交官が…クルセス系※18の近くで突然姿を消し、以来行方不明です。」
ジダン:「何の証拠にもならんな。」
ウォーフはジェネストラから受け取る。「これは、あなたの部屋で発見した注射器です。」
ジダン:「持病のためだ、みんな知ってるだろ。」
「しかし持病の治療にオプチカルリーダーは必要ないはずです。この注射器は、普通の注射器ではない。コンピューターの情報を生化学的方法でタンパク質に置き換えるものです。」
「…それも全てクリンゴンの未来のためだ! 惑星連邦と同盟を組んでから我々の国は抜け殻同然。ロミュランは強い、彼らこそ我が同盟だ。クリンゴンを貴様のような腰抜けにはしない!」
近づこうとしたウォーフを制するサティ。「大尉。」 立ち上がった。「ではどうやってダイリチウム結晶室を爆破しました?」
ジダン:「その事件とは何の関係もない。」
「それでは結晶室の図面が盗まれた直後に、結晶室の破壊行為があったのは偶然だというのですか?」
「私は知らん、何の関係もないことだ。」
「罪を認めた今になって、なぜ嘘をつくの。」
「私は嘘などついていない!」
ピカード:「…ウォーフ。拘留室へ連れて行け。」
ジェネストラの隣に座るサティ。「手応えは?」
ジェネストラ:「真実を語っています。ファイルを盗んだことは認めましたがサボタージュは認めなかった。嘘を言ってるとは思えません。」
ピカード:「そうだとすると、共犯者がいる可能性がある。」
サティ:「私の勘では事件にはあのクリンゴン一人ではなく、この艦のクルーが何かしら絡んでいるわねえ。」


※7: 一部資料では、この船が U.S.S.コクレインとなっています。エンサイクロペディアや脚本でも名前はなく、実際には後に DS9第1話 "Emissary, Part I" 「聖なる神殿の謎(前編)」で登場します

※8: TNG第25話 "Conspiracy" 「恐るべき陰謀」での事件のこと。その際サティが登場したり言及されたりはしていません。吹き替えでは「反連邦の陰謀」となっており、同エピソードの内容を踏まえているようには思えません

※9: ノラ・サティー提督 Admiral Norah Satie
(ジーン・シモンズ Jean Simmons 映画「ハムレット」(1948) でアカデミー助演女優賞、「ハッピーエンド/幸せの彼方に」(1969) で主演女優賞にノミネート。ドラマ「南北戦争物語 愛と自由への大地」(1985) で、監督のフレイクスと (および、後に彼の妻となる Genie Francis も) 共演。そのほか "Dark Shadows" などに出演。スタートレックのファン) 名のノラは訳出されていません。声:谷育子、TNG ポラスキー (ちなみに「南北戦争物語」でも、シモンズの役を谷さんが担当したようです)

※10: Sabin Genestra
(ブルース・フレンチ Bruce French VOY第1話 "Caretaker, Part I" 「遥かなる地球へ(前編)」のオカンパ人ドクター (Ocampa Doctor)、ENT第7話 "The Andorian Incident" 「汚された聖地」のヴァルカン人長老 (Vulcan Elder)、映画第9作 "Star Trek: Insurrection" 「スター・トレック 叛乱」のソーナ人士官その1 (Son'a officer #1) 役) 声:徳丸完。一部資料では矢田耕司になっていますが、実際の声から判断する限り間違いだと思われます

※11: Delb II
吹き替えでは「デブレ2号星」と聞こえます

※12: Nellen Tore
(アン・シー Ann Shea) 声はクラッシャー役の一城さんが兼任

※13: 吹き替えでは「連邦司令部」

※14: ダイリチウム結晶結合フレーム (dilithium crystal articulation frame) のこと

※15: 吹き替えでは全て「尉」。第3シーズン以降、ウォーフの階級は大尉です

※16: Ba'ltmasor Syndrome
吹き替えでは「バルタザール症候群」と聞こえます

※17: Tarkanian

※18: クルセス星系 Cruses System

サティの部屋。
レプリケーターからトレイを持ってくるサティ。「前に経験あるけど、宇宙船内で反乱で起こるのはほんとに恐ろしいのよ?」
ピカード:「うーん、間違いであることを信じたいですが。…でも提督に来ていただいて本当によかった。…この難問を解決できるのはあなただけです。」
「艦長。私あなたのことを、少し誤解していたようね。」
「と言うと?」
「ここに派遣されるに当たって、私に出された指令はあなたと一緒に対等な立場でってことだった。私は、父に人と組むなと教えられたわ? 結局はどちらかに偏るって。」
笑うピカード。「サティ判事らしい御意見ですねえ。」
サティ:「あなた父を知ってるの。」
「間接的にです。判事の本は、アカデミーで指定図書でした。」
「ほんとに素晴らしい人だったわ? …父は毎晩夕食の席で、私達に何かテーマを与えるの。兄と、私はいろんな角度から議論を闘わせたわ? 父はレフリー役。一人ずつ時間まで計ったの、簡潔に説明しろって。議論を尽くしたと父が認めるまで席を立つことは許されなかった。」
「あなたのことですからさぞ、お兄様たちを凹ませたでしょう。」
「フフーン、その通り。完璧な理論武装で兄たちをやっつけると、父はそれはもう喜んでねえ。フン…。ここまできたのも父のおかげ。偉大な父だった。」
「…惜しい方を亡くしましたね。」
「艦長。私はいつも独りでやってきました。独りなら間違えたときも、簡単に方向修正できますから。正直言ってあなたは邪魔だと思ってた。でも間違ってたわ。私達いいチームね。」
微笑むピカード。

観察ラウンジのウォーフ。「ジダンは付き合いの多い男ではありません。…接触した者は限られます。」
ジェネストラ:「君は実によくやってくれる。」
「私自身許せない事件ですので。」
「ああ、そのようだな? 君には悪いが正直、驚いたよ。お父さんのことを聞いててっきり。」
「父ですか。」
「そうだ。彼がクリンゴン人をロミュランに売ったという話もある。」
「真実を知らない者に、父を非難される筋合いはありません。」
「もちろんだ。ただ君がこうして働いているのを見るまで、多少不安があったというだけだよ。今や君は完璧な信用を勝ち得たことをわかってほしい。君には何の非もないよ。」
「…もし艦内に陰謀があるのなら、必ずや私が見つけてみせます。」
「よーし。君はこの船とクルーを知っている。クリンゴンのことにも詳しい。頼りにしてるぞ、大尉?」
「早速参考人を招集します。」

クラッシャーが質問室で座っている。
サティ:「ジダンはどのくらいの頻度で注射に来ていましたか?」
クラッシャー:「大体週一度です。」
「あなたが処方していました?」
「いいえ。」
「では誰が。」
「私の助手に任せていました。」
ジェネストラ:「ジダンは何か言いましたか。何でもいいんです、事件とは関係なさそうなことでも何か覚えていませんか。」
「いえ、何も。口の重い人でしたから。」
ピカード:「ありがとうドクター、質問は以上で終わりです。ウォーフ、次の者を入れてくれ。」
クラッシャーは出ていくときに、若い医療部員に触れていった。中に入るクルー。
ピカード:「ターセス※19か、そこに座って。記録のため、名前と所属を言ってくれるかな?」
医療部員:「サイモン・ターセス。第1級乗組員、医療技術士です。」
「前もって言っておくがこれは、正式な質問会とは違う。質問も、君を責めるものではない。しかし、弁護人を希望するならつけることはできる。」
ターセスの耳は少し尖っているように見える。「いいえ、その必要はありません。」
ピカード:「では君は、この艦にいつから乗務している。」
「宇宙暦 43587 からです。」
サティ:「ターセスさんは記録によると、出身は火星のコロニー※20となっていますが。」
「その通りです。」
「では地球人ね?」
「ええ、まあ。…父方の祖父がヴァルカンですが。」
「そのようねえ? では、クリンゴン人ジダンとの関係について話して下さい。」
「ああ…え…か、関係と言われても特にありません。注射しただけですから。」
「あなたが注射をしましたか?」
「何度か。…何人かいますから。わ、私がしたのは 2回です。」
ジェネストラ:「彼は何か事件に関するようなことを、言いましたか。」
「…いいえ、特に。話しませんでした。」
サティ:「医療室以外で彼を見たことは?」
「…1度か 2度、ラウンジバーで何人かといました。でも彼とは話しませんでした。」
「ありがとう、ターセスさん。質問は以上です。艦長。」
ピカード:「ご苦労だった。」
出ていくターセス。
ピカード:「ではウォーフ。」
ジェネストラ:「待て。彼は怪しい。明らかに怯えて何かを隠しています。」
「確かに怯えてたが、だからと言って何も…」
「私はベタゾイドです、テレパシーで感じた。何かを隠しています、それも何か重大なことを。どうやら彼ですね。」


※19: サイモン・ターセス乗組員 Crewman Simon Tarses
(スペンサー・ギャレット Spencer Garrett VOY第155・156話 "Flesh and Blood, Part I and II" 「裏切られたホログラム革命(前)(後)」のウェイス (Weiss) 役) 声:関俊彦

※20: Mars Colony
Martian Colonies とも。TOS第15話 "Court Martial" 「宇宙軍法会議」など

作戦室。
入るピカード。「提督。…先に言っときますが、ベタゾイド人の判断以外何の証拠もないまま、ターセスを犯罪者と断定するのはどうかやめて下さい。」
サティ:「サビンの勘は外れたことがないわ。私は彼を信じます。」
「こういう、ベタゾイドの使い方は疑問です。」
「あなたのカウンセラーもそうでしょう? 実力は十分わかってるはずよ?」
「カウンセラーと取調官では…状況も活用法も違います。」
「じゃあなたこういう時にあのカウンセラーに頼ったことはないの?」
「…ありますとも。でも何にせよ、私は彼女の意見だけで決断はしません。」
「フン。私もよ?」
「でもあなたは…あなたはサビンの感じた疑問だけに基づいて…ターセスの行動範囲を、制限しろとおっしゃった。」
「もしカウンセラー・トロイからこの船に危険な人物がいると言われたら、あなたはどう対処する? その人の行動に気をつけるんじゃない?」
「…確かにそうすると思います。そしてきっと後で、自己嫌悪に陥ります。」
「やめてちょうだい。話を元に戻しましょう。大切なのは艦内に潜む陰謀を暴くことです。これ以上の被害を防ぐこと。ターセスにその可能性がある以上、艦の重要部分への出入りは禁じられて当然でしょう? 過去の行動もさかのぼって調べた方がいいわ?」
ため息をつき、立ち上がるピカード。「では確かな証拠が出たら…」
サティ:「証拠ならこれから出るわ? サビンとウォーフ大尉が、非公式に調査を続けています。でもその証拠を待っていては、遅いかもしれない。」
「……いや。はっきりした証拠が出るまで、犯罪者扱いはしません。」
「そんなにのんきに構えていたら、二度目のチャンスを与えることにもなりかねないわ? 前回はハッチ※21のカバーで済んだけど、次はそれでは済まないわよ? 人が死ぬことだってありうる。それでも何もしないつもり?」
ラフォージの通信が入る。『機関部から艦長。』
ピカード:「どうした、ラフォージ。」
『艦長、機関部へ来ていただけますか。面白いことを発見したんです。』
「よし、すぐ行く。」

エレベーターで降りてくるラフォージ。「艦長、6時間前に結晶室に入ってからは新事実がぞくぞくと判明しています。」
データ:「X線で、ダイリチウム結晶室の断層撮影※22を行いました。ハッチから、爆発のパターンを読み取るためです。」
「それから爆発の際、破片を通ってきた化学物質の残気を分光計にかけてみたんです。」
サティ:「何がわかったの?」
「これが、ハッチのフレームです。この線に沿って、破裂しています。それでこの部分を測定すると、これです。」 トリコーダーをピカードに渡すラフォージ。
「どうも専門的すぎてわからないわ。噛み砕いて教えてちょうだい。」
ピカード:「メタルケースの部分に微少な割れ目があるんです。」
ラフォージ:「その通り。分子同士の結合が緩んでいるんです。」
サティ:「ええでも、それはどうして?」
データ:「その現象自体は単なる中性子金属疲労※23によるものです。…私の推測では、前回マッキンレー基地※24での検査の際に、ハッチケースを替えましたがそれに感知不能の傷がついていた。つまり我々の調査の結論としましては、爆発は故意ではなかったということです。」
ラフォージ:「考えすぎでした。これは、サボタージュでも何でもなかったんですよ。事故なんです。」
ピカードはサティを見た。

観察ラウンジのジェネストラ。「単なる事故。…そりゃ信じられませんな?」
ピカード:「私の部下がそう言うんですから、どうか信じて下さい。」
サティ:「問題の焦点がずれてるわ? サボタージュがなかったからといって、船から陰謀の疑惑が消えたわけじゃないのよ? スパイが乗っていたんですから。」
ジェネストラ:「共犯者もいました。」
ピカード:「そう言い切れますか。」
サティ:「もちろんよ。あなたはジダンが連邦最新鋭艦※25に単身乗り込んで、誰の助けも借りずにスパイをやってのけたと思う?」
「…困難だと思います。」 無言で記録ばかり取っているトーアが気になるピカード。「でも不可能ではない。」
ウォーフ:「今後もターセスの調査は続けるべきです。何を隠していたのか。」
ジェネストラ:「ピカード艦長。私も大尉と同じく調査は続けるべきだと思います。勢いターセスの無罪の証明にもなるでしょうし?」
ピカード:「いや待って下さい、元々彼は無実なんです。証明する必要などない。」
サティ:「もちろんそうだけど、サビンが言っているのはウォーフ大尉の力を借りて、その無実を確立しようってことよ。その方が彼自身のためだもの。」
「…なるほど? では早く無実を証明しましょう。」

質問室。
中に入ったピカードは、立ち止まった。部屋はこれまでと違い、クルーであふれている。
サティに小声で尋ねるピカード。「なぜ公聴会にしたんですか。」
サティ:「あまり長いこと密室で行うのも良くないわ。余計な噂を生みますから。」
「しかし提督、なぜ私に一言…」
「それにスパイやその仲間は、公聴会のような光の当たる場に弱いわ。何かの虫みたいに、暗く湿ったところが好きなの。」
制服の裾を伸ばすピカード。「…質問会を始めます。宇宙暦 44780。この会は、乗組員サイモン・ターセスへの質問を行うものです。ターセスさんの人権を守るため、こちらで弁護人を用意しました。ウィリアム・ライカー中佐です。」
ターセス:「感謝します、しかし弁護はいりません。…悪いことなどしてませんから。」
サティ:「ドクター・クラッシャー、彼がジダンと一緒にいるのを見たことがありますか?」
クラッシャー:「…そりゃ注射を頼んでましたから。」
「医療室以外でのことです。」
「…見たと思います、多分ラウンジバーかどこかで。」
「その時ほかに誰がいたか覚えていますか?」
「そんなの誰でもいいんじゃないですか? だってただの世間話をしてたんですから。」
「ただの世間話なら、なぜ名前を隠そうとするんですか?」
ピカード:「ありがとうドクター。」 サティに耳打ちする。「提督、ターセスを起訴したいのなら正式に裁判を起こして下さい。でなければ、この場で中止しますよ。」
うなずくサティ。
ジェネストラが立ち上がった。「ターセスさん。あなたは医療室内の薬品管理部に出入りできましたねえ?」
ターセス:「もちろん仕事ですから。」
「ジダンは盗んだファイルを運ぶのに注射液※26を使っていましたが、あなたの仕事はジダンの注射液を用意することですねえ。」
「私と何人かで用意していました。」
「あなたには、医療室内全ての薬品やファイルを扱うことが許されているのは、本当ですか。誰の許可も受けないでよかったとか。」
「だからといってそれで私が何か…」
「もしも私先日の爆発には、侵食性の薬品が使われていたと言ったらどうします。」 騒ぐ一同。「医療室にしかない薬品だと言ったら。」
「私には関係ありません。」
「どう信じればいいんです。とても信じられそうもありません。全て、嘘だ!」
ライカー:「異議あり、ターセスの発言を嘘だとする証拠はありません!」
ピカード:「認めます、調査官※27は…」
ジェネストラ:「艦長、証拠はこの後すぐ明らかになります。ターセスさんあなたは、艦隊に志願する際故意に虚偽を申告し先日の質問会でもまたその嘘を繰り返しましたねえ?」
ターセス:「何です。」
「では言いましょう! あなたの父方の祖父の種族です。ヴァルカンでなく、ほんとはロミュラン人でしょう!」
聴衆は騒ぐ。「ロミュランだって…」
ジェネストラ:「あなたはロミュランの孫で、ロミュランの文化を受け継いでいるんでしょう?」
ライカーは素早くターセスに近づいた。「この質問には答えなくていいぞ。」
ジェネストラ:「…どうです、答えて下さい!」
ターセス:「…回答を、拒否します。…その質問に答えることは、わ……私の不利を、ま、招くことになりかねませんので。」 顔を押さえる。
騒ぐ聴衆。ピカードはため息をついた。


※21: ダイリチウム結晶室ハッチ (dilithium chamber hatch) のこと。なお「室」と訳されている部分は、ワープコア内の一部区画です

※22: microtomographic analysis

※23: neutron fatigue
「中性子」は訳出されていません

※24: McKinley Station
地球マッキンリー・ステーション (Earth Station McKinley)。TNG第75話 "The Best of Both Worlds, Part II" 「浮遊機械都市ボーグ(後編)」など。その際にメンテナンスしたことを意味しています

※25: 原語では旗艦

※26: 正確には「デオキシリボースの懸濁液 (suspensions of deoxyribose)」

※27: 原語では「ミスター・サビン」と呼びかけています。姓はジェネストラのはずなので、厳密に言えば変ですね

観察ラウンジ。
保安部員に命じるウォーフ。「君とマーカス乗組員※28は、ターセスの行動記録を過去5年間に渡って調べてくれ。ケロッグ少尉※29、君はわかる限りの親戚のリストを作って欲しい。学校での友人関係もだ。それから脳内造影スキャン※30の手配もしておいてくれ。」
その様子を見ていたピカード。中に入る。「ウォーフ。」
ウォーフ:「…何でしょう。」
「…ちょっと話がある。」
「…では解散、レポートが集まり次第届けてくれ。」 出ていく保安部員たち。
「……私達が何をしているかわかるか。」
「…と言いますと。」
「これでは昔の、軍法会議※31になる。」
「…意味がわかりかねます。」
「500年ほど前に…軍隊が戦場で行った裁判で、軍規に反した者に対する刑を決めるものだ。判決は素早く刑は重い。反論は許されない。…有罪は最初から、決まっている。」
「でも確かに裏切り者はいるんです。ジダンも既に罪を認めました。」
「その通りだ、彼は裁判を受ける。」
「ターセスとて同じことです。」
「なぜ。」
「ロミュランの祖父に関する質問に回答しませんでした。」
「それは犯罪ではない。…それに答えないから有罪だと思うことも間違いだ。」
「艦長。真実を恐れない者であるなら、答えられるはずです。」
「それは違う。そういう考えを認めてはいけない。憲法※32第7憲章※33は…連邦が定めた最も大切な権利保障だ。それに反し我々が一人の市民の人権を踏みにじり、基本原理を曲げることなど許されない。」
「艦長、連邦に敵がいるのは確かです。その敵を探し出したいんです。」
「…そうだ。…それが始まりだった。しかしその後…見えない敵への恐怖が膨れ上がり、道をあまりにも急いできてしまった。我々はどうかしている。君も考えてみてくれ。」 出ていくピカード。

ピカードの部屋。
お茶をくむピカード。「…気楽にしてくれ? レモンいるかな?」
ターセス:「いえ、これで結構です。」
「少し君のことを話してくれないか。火星で生まれたことは知ってるが。」
「わかりました。ずっと艦隊に入りたかったんです。…志願して、アカデミーの訓練プログラムに参加しました。医療技師として訓練を受け、前哨基地に勤務したんです。エンタープライズに配属が決まった日は人生最良の日でした。」
「そのままアカデミーに進む気はなかったのかね? 士官になる気は。」
「両親はそう望んでました。自分でも考えたんです。…アカデミーの教練場にある、大きな木の下で…」
「ニレの木だろ、ベンチのある。」
「ええ、その木です。」
「私もよく、あの木陰で勉強したものだ。」
「…私もベンチに座って、教練を見てました。自分の姿を重ねて。…そうなれば母も喜んでくれたでしょう、でも…」
「そうしなかった。」
「ええ。18歳でした。若かった。…あと 4年もあそこで、勉強するのは我慢できなかったんです。…すぐ宇宙に飛んで、星を旅したかった。…そんなにあこがれていたのに…こんなことになって。私の艦隊生活も終わりです。」
「無実なら終わりはしない。」
「関係ないです。私は嘘をつきました。…どうやってもその罪は、一生ついて回ります…。」
ため息をつくピカード。

トーアと共に廊下を歩くサティ。「ミスター・ウォーフが火星のコロニーにいるお兄さんを見つけたわ? 早速連絡して連れてこさせて。」
合流するピカード。「サティ提督。」
サティ:「それからターセスのアカデミー訓練生時代の友人関係も洗ってみてよね…」
「サティ提督。」
「あら艦長。」
「お話ししてよろしいですか。」
「もちろん。」
「2人だけで。」 トーアを見るピカード。「…それもオフレコで。」
「いいでしょう。私達パートナーですもの。」

作戦室のサティ。「まさかそんなこと本気でおっしゃってるの?」
ピカード:「本気です。今回の調査はいきすぎです。大体嘘を言うのはいけません。爆発と薬品は何の関係もない。」
「あれも作戦よ、真実を言わせるためです。」
「…下手をすると、冤罪になりますよ。」
「じゃああなたはどうしてあの男が無実だと思うの。」
「彼と話しました。」
「ハ、なるほど。彼が自分で僕は無実ですと言ったわけね? 潔白ですって。」
「いいえ。身の上を詐称したことは間違いを認めました。彼の罪はそれだけです。」
笑うサティ。「あなたって驚くほどナイーブな方ねえ。艦長。ここ 4年間の私の話を聞いて下さる? 辺境の惑星から前線の基地へ。家もないわ? 宇宙船とシャトルが私の家。家族にはもう何年も会ってない。友達もいない。でも目標があった。幼くてまだ毛布も手放せない頃から父はこう教えたわ。我々が住む惑星連邦は、人が考えうる最高の機能をもった共同体だって。それで決めたわ。私の使命は、この素晴らしい惑星連邦を守ることなの。だからあなたがこの調査を邪魔する神経がどうしてもわからないのよ。過去にも私を信じない者がいたけど、彼らは後悔したわ。」
ピカード:「……サイモン・ターセスの取り調べは中止します。必要なら司令部にも連絡します。」
「いいことを教えてあげるわ。司令部には一部始終を報告してるのよ。取り調べは中止になるどころか、逆に延長になりました。」
「何ですって。」
「陰謀は必ずや突き止めてみせます。クルー全員を取り調べることになっても構いません。これからの公聴会には毎回、宇宙艦隊保安部※34からトーマス・ヘンリー提督※35が同席して下さいます。提督はもうこちらへ向かってるわ。」
「私は聞いてません。」
「私が司令部に直接話しました。私はあなたの許可や、ご意見は必要ありませんから。」
呼び止めるピカード。「提督。あなたの行いは、間違ってます。道理に反する。…断固闘います。」
サティ:「何をするのもいいけど、覚悟してね。」

ブリッジ。
データ:「艦長、ワープエンジンが復旧しました。再スタートの準備が整いました。……艦長?」
ピカード:「何だ? ああ、そうだ進めてくれデータ。」
ブリッジにトーアが来た。
ライカーはピカードに尋ねる。「大丈夫ですか。」
座り、裾を伸ばすピカード。「ああもちろん、考え事をしてただけだ。」
トーアはピカードの前に立った。「サティ提督より艦長へ。明朝午前9時までに質問室へ来るようにとの、ご命令です。あなたが委員会に喚問されます。」 パッドを渡した。


※28: Crewman Marcus
階級は訳出されていません

※29: Ensign Kellogg
エキストラ

※30: 正確には「脳内造影ポリグラフスキャン (encephalographic polygraph scan)」。ポリグラフ=嘘発見器

※31: 原語では「これでは、略式裁判 (drumhead trial) になる」。原題の由来。もちろん宇宙艦隊にも (普通の) 軍法会議=court martial はあります

※32: 惑星連邦憲法 (Constitution of the United Federation of Planets) のことで、初言及。吹き替えでは「連邦」となっており、実質的には訳出されていません

※33: 第7保障 Seventh Guarantee
第7条による保障という意味だと思われます。黙秘権の行使を認めた、アメリカ合衆国憲法の修正第5条 (The Fifth Amendment) の「24世紀版」なんでしょうね

※34: 吹き替えでは「連邦司令部」

※35: Admiral Thomas Henry

エクセルシオ級の船とランデブーしているエンタープライズ※36
『航星日誌、補足。トーマス・ヘンリー提督が、オブザーバーとして到着した。彼は、サティ提督の元同僚で親友だ。』
離れる 2隻。
ジェネストラ:「フルネームは。」
ピカード:「ジャン・リュック・ピカード。」
「位と所属は?」
「艦長、エンタープライズ※37勤務。」
「現在の職務の経験は。」
「3年前、宇宙暦 41124 からです。」
「なるほど。提督。」
「初めに言いたいことがあるんですが。」
サティ:「発言するんなら質問の後で機会を作ります。」 同席している提督※38がいる。
ピカード:「統一連邦裁判法※39、第4章12条で質問前の発言の権利が保障されているはずですが?」
「…ではどうぞ?」
「…今回のことで非常に憂慮しています。…まず我々は、一人のスパイを逮捕しました。彼はその罪を認め、これから裁判にかかります。しかし追及は留まらずもう一人、サイモン・ターセス君を裁判にかけた。あれは裁判です。質問会とは、名ばかりでした。裁判での質問はほのめかしや…脅迫まがいで、ターセス君に対する何の証拠提出も行われなかった。…ターセス君のおじいさんは…ロミュランです。それだけの理由で、彼の将来が危うくされた。私達はいつから、臆病で疑い深くなったのでしょうか。なぜ一人の前途ある若者を、現在の敵の血縁というだけで恐れるのか。…提督。サイモン・ターセスを責めるのはやめましょう。彼に限らず、敵の孫というだけで人格まで疑ってかかったり、友人まで調べることは。お願いです、こんなやり方ではもう…先が見えている。やめましょう。」 聴衆は声を出す。
「あなたは艦隊の規則※40に納得していますか?」
「もちろんです。」
「規則を守ることが士官の条件でしたねえ、違いますか?」
「その通りです。」
「それが本当だとしたら、あなたがこの艦の艦長になってから何と 9回※41も規則違反があるのはどういうわけかしら。まさかあなたがそんな人だとは思わなかったわ。」
「それぞれ仕方なく違反したことであり、司令部へ報告書を出してます。」
「もちろんその報告書も読みました。細部にわたってとても念入りにね? それでもなお納得できない部分が多々ありますので、これからいくつか規則違反についての質問をします。」
声を上げる一同。
ジェネストラ:「宇宙暦 44390 (まる) に何が起こったか、詳しく教えて下さい。」
ピカード:「…もう一度。」
「ではこう言いましょう。ヴァルカン人の大使、ティペル※42が乗艦した日です。」
「私は指令通り、あの…大使と言われる方を、中立地帯へ送りました。」
サティ:「早速本題へ入ってちょうだい。」
ジェネストラ:「実際、その大使はヴァルカン人ではなかった。ロミュランのスパイでした。」
ピカード:「…その通りです。」
「あなたは敵のスパイを敵地へ送り届けた。」
サティ:「ピカード艦長。首尾よくその陰謀を暴き、ロミュラン船からあなたをあざ笑うスパイを見たとき、あなたはスパイを捕らえようとしました?」
ピカード:「いいえ?」
「なるほど。あなたはそのスパイが連邦の重要な情報をもって逃げたことを知っていたのになぜです。」
ウォーフは立ち上がった。「このエンタープライズまで捕獲されそうになったんです。…あの時はああする以外ありませんでした。」
サティ:「そうですか大尉。では今回の事件が起こる前あなたは何をしていたんです? 保安部はちゃんと機能しているの?」
ジェネストラ:「艦長はロミュランに寝返った裏切り者の息子は保安部長に適任だと思われますか。」
近づくウォーフを制するピカード。「ウォーフ!」
サティ:「…艦長にお聞きします、一度はボーグ※43に改造されたお体の調子はどうですか?」
ピカード:「…既に完璧に復調しました。」
「さぞ怖かったでしょうねえ。すっかり彼らの仲間になって、ボーグを助けるためにあなたの艦隊に関する膨大な知識を、提供するなんて。艦隊の船で失われたのは、39。犠牲者は確か、11,000 近くに達してます※44。そんなに大きく被害を出して、のうのうとしていられるものでしょうか。」
頭を押さえるピカード。
サティ:「私はあなたが信じられないのです。あなたの能力と、忠誠心を疑います。」 聴衆は騒ぎ出す。
ピカード:「私には、学生時代からの座右の銘があります。…『一つのつながりで鎖が生まれる。一つの非難の言葉が、一つの思想の制限を更に自由の制限を生んで、取り返しのつかないことになる。』 …この言葉は、アーロン・サティ判事※45が残された…我々人間への警告です。一度でも、ある人間の自由が…踏みにじられると、それは繰り返される。私は今日ここでその…」
「あなた何てことを! ロミュランと手を結んだ人間のくせに、自分の裏切り行為を正当化するのに私の父の名をかたるなんて! これは私達人類全員に対する侮辱です。父の言葉を、惑星連邦を転覆させる目的で使うなんて!」
ターセスも話を聞いている。
サティ:「私の父は偉大な人でした! 父の名は、正義と共に語られるべきものです! あなたが口にするだけで父の名が汚れる! 父は連邦を愛していた。でもあなたが堕落させた。あなたは連邦の正義を傷つけたのよ! 見てらっしゃい、その正体を暴いてやるわ。」
ヘンリーが立ち上がった。
サティ:「あなたより偉大な人たちを屈服させてきたんだから、ピカード※46!」
ヘンリーは何も言わず、誰の方も見ずに質問室を後にした。
唇を震わせるサティ。ジェネストラさえも声をかけない。
サティ:「私の発言は以上です。」 座った。
ジェネストラ:「……続きは明日行いましょう。閉会します。」
出ていくクルー。サティ独りが残された。

観察ラウンジ。
独りでいるピカード。
ウォーフが入る。「艦長、お邪魔ですか。」
ピカード:「いや構わんよ、ウォーフ。」
近づくウォーフ。「…終わりました。ヘンリー提督が、本件に関する質問会の中止を決めて。」
ピカード:「よかった。」
「…サティ提督は、既に本艦を離れています。」
「…文明が発達して、昔あった魔女狩りや拷問はなくなったと思っていたが、今でもふと気がついてみると目の前でその恐怖が甦っていた。」
「私は、彼女を信じました。協力さえしました。彼女がしていることを見ていませんでした。」
「いいかウォーフ、いかにもな悪人というのは見つけやすいんだ。良い行いを身にまとっている者は、隠れるのが上手いのさ※47。」
「そうですね。あんなことがあっては、彼女を信じる者はいなくなるでしょう。」
「恐らくな。…しかし彼女や似たような者は、常に我々の近くにいる。正義という名の下に恐怖を撒き散らすために、いい機会を待っているんだ。…警戒だ、ミスター・ウォーフ。いわば代償を、我々も背負い続けなければ※48。」
2人は、部屋を出る。


※36: TNG第68話 "Tin Man" 「孤独な放浪者」でのシーンの使い回し。このヘンリーを運んだ船は名前不明

※37: 吹き替えでは「エンタープライズ

※38: トーマス・ヘンリー提督 Admiral Thomas Henry
(アール・ビリングス Earl Billings) 階級章は三つ星。セリフなし

※39: Uniform Code of Justice

※40: 吹き替えでは今回、単なる「規則」となっているためわかりにくいですが、「艦隊の誓い (Prime Directive)」のこと。次のサティのセリフは、原語では「つまり、宇宙艦隊の一般命令第一条でしたねえ?」

※41: 艦隊の誓いを破った 9回というのは、TNG第8話 "Justice" 「神からの警告」、第14話 "Angel One" 「奪われた女神達の惑星」、第41話 "Pen Pals" 「未知なるメッセージ」、第44話 "Up the Long Ladder" 「新たなる息吹」、第50話 "The Ensigns of Command" 「移民の歌」、第52話 "Who Watches the Watchers?" 「守護神伝説」、第60話 "The High Ground" 「異次元テロリスト」、第80話 "Legacy" 「革命戦士イシャーラ・ヤー」、第89話 "First Contact" 「ファースト・コンタクト」を指すようです

※42: TNG第85話 "Data's Day" 「ヒューマン・アンドロイド・データ」より

※43: Borg
TNG第74・75話 "The Best of Both Worlds, Part I and II" 「浮遊機械都市ボーグ(前)(後)」など

※44: ウルフ359 (Wolf 359) での犠牲数が明らかになるのは初めて。吹き替えでは「艦隊の仲間で失われたのは、39。一般市民も合わせると、11,000 近く」となっており、船と人という本来の意味とは異なっています

※45: Judge Aaron Satie

※46: 吹き替えでは「そのために司令部からヘンリー提督を呼んだんだから」

※47: 吹き替えではウォーフの「彼女のしている…」から、次のように訳されています。「名声のために人を陥れるとは」 ピカード「いいかウォーフ、彼女は自分を見失ってしまったんだ。周りから英雄だと崇められ、感覚が麻痺してしまったのさ」

※48: 吹き替えでは「しかし、これだけは忘れてはならないことだ。ファシズムや戦争といったものはいつでも、正義という名の下に行われるんだ。…歴史が証明している。我々も成長していかなくては」。前の部分といい、どちらかといえば原語の方が非常に辛辣なことを言っています

・感想など
第4シーズン 2話目のフレイクス監督作は、絵に描いたような低予算エピソード。私も子供だった初見時に、地味な話としては記憶していました。それなのにこの高評価ぶりは、予算や特撮などは (もっと言えば宇宙を飛んでいるか否かということも) ストーリーの本質ではないことを明確に語っています。ある意味ではスピンオフの DS9 にも通じる非常に暗いテーマを、VOY の企画者の一人でもあるジェリ・テイラーが書いているのが興味深いですね。
テイラーや監督、俳優陣も満足していますが、当初は "Shades of Grey" 「悪夢の果てに」のように回想型になる予定でした。以前のエピソードの言及が多いこともそうですが、普段は無視されがちな下士官についてきちんと描かれるのも見所ですね。お馴染みの (?) 傲慢な女性提督には、他のキャラは全く演じていないと思われるポラスキー谷さんが再起用され、まさに鬼気迫っています。最後に内容とは全然関係ないですが、2文字の邦題は最短タイですね (他に DS9「過信」、VOY「反乱」があり)


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