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TOS エピソードガイド
第48話「単細胞物体との衝突」
The Immunity Syndrome

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・イントロダクション
※1『航星日誌、宇宙暦 4307.1※2。我々は休暇を取るべく、第6宇宙基地※3へ向かうことになった。』
ブリッジ。
記録しているカークは、チュニック※4姿だ。「…長い作戦活動に、乗組員は疲労困憊している。我々はあの美しい惑星で休養するのが、何よりも…楽しみだ。」
ウフーラ:「船長。第6宇宙基地から連絡で、『イントレピッド※5』のことを言ってますが。電波が妨害されてよく聞こえないんです。」
スポック:「おかしい、この辺りには磁気嵐は見当たりませんが。」
カーク:「別のチャンネルで受けてみたまえ。」
ウフーラ:「はい。」
マッコイ:「イントレピッド※5はヴァルカン星人※6のだな。」
カーク:「ああ、そうだ。」
ウフーラ:「第6宇宙基地どうぞ。エンタープライズ※7より、第6宇宙基地どうぞ? 応答して下さい。」
突然、スポックが強いショックを受けたような表情をした。頭を押さえる。
近づくカーク※8。「スポック。」
マッコイ:「どうした、どこか痛むのか。」
スポック:「船長。イントレピッドはたった今、全滅です。……乗っている 400名のヴァルカン星人は、死にました。」
「…さあスポック、医務室へ行こう。」
「ドクター、原因はわかってます。」
カーク:「いいから行け。」
「…船長。」
「いやいや、命令だ。」
「…はい。」
ターボリフトへスポックを連れて行くマッコイ。チェコフが代わりにつく。
ウフーラ:「第6宇宙基地との交信が可能になりました。オーディオにつなぎます。」
カーク:「カークです、どうぞ?」
乱れた音声。『第39J作戦区※9へ急行してもらいたい。』
カーク:「…長官※10、我々はこれより休暇を取る予定であります。その作戦区にはほかの宇宙船がいるはずだと思いますが?」
『いないんだ! 救援に向かってもらいたい。…ガンマ7A太陽系※11とも、その付近にいるはずのイントレピッド※5とも通信が途絶えてしまった。あの作戦区には何かがあったらしい、すぐに行ってもらいたい。』
「了解しました、以上。」
不満そうなチェコフ、ウフーラ。
カーク:「カイル※12、命令を聞いたろ。ガンマ7A星系へ向かえ、ワープ5 だ。」
カイル:「はい!」
チェコフ:「船長! いま探知機のパワーを最大限に拡大してガンマ7A星系を見ましたが、全滅してます!」
カーク:「全滅?!」 スコープを覗く。「あれだけの惑星がどうして※13。数十億の人口があったんだ。」
「全部、死んでます。」


※1: ハヤカワ文庫のノヴェライズ版は、「宇宙大作戦 地球上陸命令」収録「欲休症候群」になります

※2: 吹き替えでは「0408.3048」

※3: Starbase 6
初言及

※4: 最後の使用

※5: Intrepid
U.S.S.イントレピッド、コンスティテューション級、NCC-1631。姿は登場しませんが、「400名」と言っていることからコンスティテューション級と考えるのが自然と思われます。エンサイクロペディアの船名一覧では NCC-1831 になっています。TOS第15話 "Court Martial" 「宇宙軍法会議」のリマスター版 (未放映・HD DVD でリリース) で、クラスと番号が公式に描かれました。船長の名前は Satak の予定だったそうです。吹き替えでは「イントレピッド

※6: これは「スポックが宇宙艦隊初のヴァルカン人である」という、本来はどこにも言及されていない設定を否定するものとも考えられます (全員がスポックより後に士官になったとは考えにくい)。実際、ENT 第4シーズンではトゥポルは正式に (地球の) 艦隊士官になりました。吹き替えでは「ヴァルカン

※7: 吹き替えでは「エンタープライズ

※8: 右側にカイルが映りますが、赤色の制服になっているのはこのブリッジのシーンだけです。以降は全て黄 (金) 色で、カイルが着るのは今回だけ。カーク側からスクリーンを見た使い回し映像のエキストラと、色を合わせるためです

※9: セクター39J Sector 39J
吹き替えでは「第39作戦区」

※10: 原語では "Sir" としか呼んでいないため、本来はどのような相手かは不明。TOS に多い設定からすると、「准将」あたりが適当でしょうか

※11: Solar System Gamma 7A
単に「ガンマ7A星系 (Gamma 7A System)」とも。吹き替えでは「惑星4号」

※12: カイル大尉 Lt. Kyle
(ジョン・ウィンストン John Winston) TOS第39話 "Mirror, Mirror" 「イオン嵐の恐怖」以来の登場。原語では、カークの発音が「カオル」になっているという指摘があります

※13: 原語では「4等級の恒星があった」

・本編
医療室。
ベッドで横になっているスポック。「特に、手当てされなくても大丈夫です。痛みはあの時だけで、もう消えました。」
マッコイ:「どうやら測定機にもそう出てるね。」 笑う。「ヴァルカン星人の身体は全くわからんよ。」
立ち上がるスポック。
マッコイ:「スポック、どうしてイントレピッド※5が破壊されたとわかった。」
スポック:「身体で感じました。」
「しかし直に接しなければわかるはずがないじゃないか。」
「ドクター、私も半分ヴァルカン星人です。ヴァルカン星人はどんなに離れていても、同胞が大量に死ねば嫌でも身体に伝わってきます。」
「しかしそれがイントレピッド※5の同胞かどうか、わからないじゃないか。」
「それはヴァルカン星人の直感と考えて下さい。しかしながら何が原因かは、乗組員にもコンピューターにもわかっていません。もしそれがわかっていれば、私にも伝わってきたはずです。」
「しかし、400人も一度に死ぬとは。」
「ドクターあなた方地球人は、百万人の死よりも一人の死の方が納得しやすいんです。しかし、ヴァルカン星人は客観的事実をそのまま受け止めます。…あなた方地球人の心は、狭いのです。」 出ていこうとするスポック。
「君らは理性的だと言いたいのか? …我々地球人は感情的で。」
「それはあなた方の歴史をみれば、言うまでもないことです※14。」

ブリッジ。
戻るスポック。
カーク:「…君の言うとおり、イントレピッド※5から応答がない。…ガンマ7A星系も、呼んでみたが答えがない。本艦隊からの情報は。」
ウフーラ:「妨害電波が激しくて連絡が取れません。…ますますひどくて。」
カイル:「船長! デフレクターが破損しました!」
カーク:「ワープ3 に落とせ。」
「速度、ワープ3。」
スポック:「前方に、エネルギーの乱動現象が探知されます。分析不能です。こんなものを経験するのは初めてです。」
「……探知続行。」 宇宙空間を見つめるカーク。「拡大幅、3度にしてくれ。」
カイル:「拡大幅、3度にします。」
ウフーラ:「イントレピッドを破壊したものでしょうか。」
スポック:「かもしれない。あれだ。」
スクリーンの中央に黒いものが映った。不定形だ。
カーク:「…何だ、あれは。」
チェコフ:「恐らく、宇宙に漂う…チリでは。」
スポック:「そうではないらしい。」
カーク:「違うな、チリならそれを通して星が見える。…まるであれは、墨を流したようだな※15。分析はできたか。」
片眉を上げるスポック。「まだです。目下探知機が、コンピューターにデータを送っているところです。いずれにしましても、あれはイントレピッド※5とガンマ7A星系の近くに位置していることは最早明らかです。」
カーク:「……現在コースを維持、ワープ1 に落とせ。」
カイル:「速度、ワープ1。」
「チェコフ、あそこへ無人探索機を発射してくれ。…データはコンピューターに納めろ。」
チェコフ:「はい。発射用意、コンピューター収集へ切り換えます。」
「探索機発射。」
「探索機発射。」
すると高い音が鳴り響く。イヤーレシーバーを取るウフーラ。
スポック以外の全員が苦しむ。
カーク:「何だ!」
ウフーラ:「探索機からです。信号は何にも入りません。」 止められる音。
「スポック、どう思う。」
スポック:「わかりません、データ不足です。」
うめくチェコフたち。
ウフーラを支えるスポック。「大尉※16!」
ウフーラ:「…目まいです。大丈夫です、治りました。」
マッコイ:『医務室よりカーク、マッコイだ。』
カーク:「カークだ、どうした。」
『多数の病人が発生した。乗組員の半数が失神してる。』
「ウフーラも倒れそうになったが、すぐに治ったよ。そっちへやろうか。」
『治ったのなら結構だ、こっちは患者で一杯だよ。』

カーク:『どうしたんだ。』
マッコイ:「身体は何でもないらしいが、神経が一時的に麻痺したようだ。全く突然に起こったとみんなは言ってるんだがねえ。」 医療室ではクリスチン・チャペル※17もハイポスプレーを使った対応に追われる。
『治療はできるのか。』
「刺激剤を与えると元に戻りそうだ。大丈夫、何とかやれる。」

カーク:「よーし、連絡以上。」
部下の苦しそうな様子を見るカーク。
スクリーンのダークゾーンはそのままだ。
カーク:「カイル、現在コース維持だ。」
カイル:「はい!」
「スポック、あの黒いものの実体はわかったか。」
スポック:「まだデータが不足で、分析不可能です。」
「…いや不足不足って私はこれで 3度も聞いてるぞ? 『データが不足』と言えばそれで済むもんじゃあるまい。…君は科学技術担当の将校じゃないか、データだって今までに全然収集できないわけじゃあるまい。」
「それはそうですが船長。コンピューターも、あの現象は分析できないようです。我々の経験を超えたものですし、新しいデータが入っても分析できないんです。」
目を押さえるカーク。「手をこまねいているわけにはいかん。…何であるかわからなければ論理を逆に使えば、そうすれば推測がつくんじゃないのか?」
スポック:「まず液体ではないし、ガスでも固体でもありません。しかし我々の視界を遮るものです。」
「それだけじゃわからないな。」
「銀河系のコールサック※18のような星雲でもありません。こっちのデフレクターが反応するところをみると、ある種のエネルギーのように思われますが。我々の探知機では識別できません。」
「あれはもしかしたら、イントレピッド※5を破壊したということは考えられるか。」
「考えられます。」
頭を押さえるウフーラの肩に触れるカーク。「大尉。」
ウフーラ:「はい。」
「我々は、これより…データを集めるためにあの黒いものにもっと接近すると、本艦隊へ知らせてくれ。」
「わかりました。」
スポック:「船長。」
ふらつくカーク。「目標までの距離はどのくらいだ。」
カイル:「あと、10万キロしかありません。」
「よーし、速度を緩めろ。インパルスエンジンだけだ※19。」
「はい。」
スクリーンからはみ出るほどになっている暗黒エリア。
ウフーラ:「船長、本艦隊への連絡終わりました。」
カーク:「ご苦労。…あと時間は。」
チェコフ:「目標へ突入まで後、1分07秒です。」
穴はスクリーン一杯に見える。
カーク:「非常態勢。デフレクターフルパワー、フェイザー砲用意。」
チェコフ:「フェイザー砲用意、デフレクターフルパワー。」
また先ほどの音が響き渡る。
ウフーラ:「これは無電通信の音ではありません!」
カーク:「スポック!」
スポック:「目下、分析中です!」
チェコフ:「船長!」 音が消えた。「ほ、星が見えません。」
スクリーンは完全に黒一色だ。
カーク:「計器に異常はないか。」
スポック:「ありません。各計器とも、正常に作動してます。」
「だったらどうして星が見えなくなったんだ!」
「…わかりません、船長。」
「カークよりドクター。」
マッコイ:『マッコイだ。』
「患者の治療は片付いたか。」
『とんでもない、廊下まであふれてるよ。』
「ああブリッジのメンバーも早いとこ診てやってくれないかな。いざというとき倒れられたら困るんだ。」
『すぐに行く、連絡以上。』
「…カークより機関室、スコッティ。パワーの損失はどのくらいだ。」

スコット:「エネルギーの 5%が失われています。デフレクターも弱っています。」
カーク:『損失を補えるか。』
「はい、5%だけでしたら。しかし、原因がわかりません。」

カーク:「こっちはなおわからんよ、そっちで調べてくれ。連絡以上!」
マッコイと看護婦がブリッジに入り、ハイポスプレーを使っていく。
カーク:「何だ。」
マッコイ:「刺激剤。」
「ドクター、どんな状態だ。」
「全体の 3分の2 が神経をやられてる。」
「…なぜ。どうしてだ。原因は一体何だ。」
「それは君の方がわかるだろう。私は医務室にいるだけだ、わかるわけがあるまい。」
後ろにいたレズリーが倒れた。椅子に戻される。
マッコイ:「看護婦。」
カーク:「これはただごとじゃあないぞ。…またあの音に襲われる前に対策を考えなければ。…乗組員全員が、麻痺してしまうぞ。…スポック、パワーが落ちてきてるんだ。あの音の分析はまだ済まないか。」
スポック:「あれは限界層へ進入した時に起こる摩擦音と思われます。」
「何の限界層だ。」
「わかりません。」
「限界とは、何と何の限界だ。」
「過去にいた位置と、現在位置との。」
「ふざけてるのかね、君は。」
「そんなつもりはありません。」
「…すると全然、見当がつかんのか。」
「今のところはわかりませんが我々の生命や機械とは相容れないような、ある種のエネルギーゾーンに入っていることは確かです。…そのエネルギー源に近づくほど、我々は弱くなっています。」
「…対策はあるか。」
マッコイ:「私にはある。…犬死にすることはない。…脱出しろ。」 出ていく。
連絡するカーク。「カーク船長だ。…本船は危機にあるが、これが初めてではない。…これまであらゆる危機を乗り越えてきた。今度も任務を遂行せねばならない。身体も、機関部も安全の保障はない。だが我々はこの宇宙船と、勇気ある乗組員を誇りにしている。任務遂行まで頑張ってくれ、以上だ。」

機関室、医療室にも流れたカークの声。

連絡するマッコイ。「マッコイよりカーク。」
カーク:『カークだ。何だドクター。』
「カーク、生命インディケーターによるとエネルギーが減少してる。」

カーク:「それはわかってる。」

マッコイ:「生命監視機によると、我々は死ぬ。全員の死を示してるぞ。」

目をつぶるカーク。


※14: 原語では、マッコイ「『汝の隣人の死を悼め』か? それを我々に望んでるんじゃないのか」 スポック「そうだったら、あなた方の歴史は少しは残酷ではなかったかもしれません」

※15: 原語では「宇宙の穴みたいだな」

※16: 吹き替えでは「尉」。TOS では基本的に中尉は存在しないと考えられます

※17: Christine Chapel
(メイジェル・バレット Majel Barrett) 前話 "Obsession" 「復讐! ガス怪獣」に引き続き登場。声:島木綿子もしくは北見順子

※18: みなみじゅうじ座付近に実在する、暗黒星雲。吹き替えでは「コールタール

※19: 吹き替えでは「推進エンジンを切れ」。一部資料では、原語でもそのように言っていることになっています

エンタープライズは真っ暗な中にいる。
『航星日誌、宇宙暦 4308.8※20。暗黒の空間に突入し 10分が経過。我々はこれ以上のエネルギー損失を恐れエンジンを停止した。』
機関室に入るカーク。その時、船が大きく揺れた。
カーク:「大丈夫か、何だ。」
スコット:「いやあよくわかりませんが、再測定をしておりまして逆推進させました。」
「逆推進。前進の揺れだったのに。なぜ後退させてそうなるんだ※21。」
「それがわかりません。とにかく現在は…パワーが12%落ちて、なお下がりつつあります。このような経験は初めてです。」
スポック:『ブリッジよりカーク船長。』
カーク:「カークだ。」

スポック:「スピードが増してきました、この空間の中心部へ引かれて行っているようです。」
カーク:『何の力だ。』
「それはわかりません。スコットに、逆推進させるよう命令しては?」

カーク:「いま逆推進させたら、前方に揺れたんだ※22。」

スポック:「でしたら船長、前進させてみたらいかがでしょうか。」

医療室のモニターは、どの数値も低い。
チャペル:「ドクター。生命インディケーターがまた急に下がり始めました。」
マッコイ:「刺激剤だ。これじゃいつまでもつかわからん。」

尋ねるカーク。「前進させろと言ってるがどう思う。」
スコット:「さあ、どうですか。理屈からすればおかしいですね。」
「そりゃそうだ。もし駄目でも、スポックを責めることはできない※23。前進させてみろ。」
「しかし…」
「やれ。」
操作するスコット。「効きましたよ! スピードが落ちました! …しかし、止まりません。依然として、引かれて行っています。」
カーク:「部下の機関部員に測定機を見張らせろ。引力に抵抗する噴射を続けてみるんだ※24。」

報告するチャペル。「ドクター、インディケーターが落ち着きました。」
マッコイ:「しかし危険な位置で止まってる。人命には耐えられん位置だ。一体何が原因だ。」

会議室。
マッコイ:「私の報告できることは、この黒い空域に入っていけばいくほど身体が弱まるってことだけでその理由はわからない。」 やはり体調が優れないらしく、椅子に座る。「…大丈夫だ、刺激剤が効いてる間は何とかもつ。」
カーク:「スコッティは。」
スコット:「パワーに関しては既に操縦とは反対の方向に作動しますが、パワーの低下は続いてます。静止※25テストによると現在、60%しかありませんし依然中心部へ引かれています。」
「スポック。」
スポック:「この黒い空域に存在する何かが、動力エネルギーや生物エネルギーを吸収しているように思われます。恐らくガンマ7A星系のエネルギーもイントレピッド※5のエネルギーも、それに吸収されたものと思われます。」
「この空間自体ではないんだな?」
「そうは申しません。分析した結果によると、この空間にあるエネルギーはマイナスです。理屈に合わないようですが、空間自体が犯人ではないと思います。」
「すると空間の中心に何かがあって、黒い空間はその防御物だな?」
スコット:「でも、何の。」
「それはやがてわかるだろうが、脱出した方がよさそうだ。スコッティ、インパルスパワーをエンジンに直結して※26その力で前進させれば弾みでこの空間から出られるかもしれないな?」
「はい、船長。しかし電磁スクリーンにも、エネルギーを残しておかなければ。」
スポック:「もし出られなければ電磁スクリーンがあっても、何の役にも立ちはしない。我々の死を延ばせるかもしれないが、ただそれだけのことだ。」
カーク:「…使用できるパワーは全部エンジンに注ぎ込んでくれ。…では位置に戻って、調査を続けてくれ。解散。」
立ち止まるスポック。「船長、イントレピッド※5も我々と同じことをして全滅したと思われます。」
カーク:「まさかそんなことはあるまい。君も言ったように、我々は必ずしも道理にかなった行動をしてるわけじゃあないからね。」
「そうです、しかし彼らと共通している点があります。我々と同じに、まさか全滅するとは思っていなかったんです※27。」
「どうしてだ。」
「ヴァルカン星人はこれまでに、征服されたことがありません※28。ですからほかの力によって征服されるということが思いつかないのです。全滅したときに、それが伝わってきました。」
「それというのは?」
「彼らの、気持ちです。」
「その時、彼らはどう感じたんだ。」
眉を上げるスポック。「…驚きです。」 出ていく。

機関室。
作業するスコット。「…これでいいはずだ。機関室より船長。」

カーク:「カークだが、何だ。」

スコット:「いつでも、始動できます。」

カーク:「一気に脱出できそうかね。」
スコット:『それはわかりません。』
「待機してろ。船長から、全員に告ぐ。…我々は今この黒い空間の中で未知の力によって中心部へ引かれて行っている。…そこでこれより我々はあらゆるエネルギーをエンジンに注ぎ込んで一気にこの空間からの脱出を、試みるつもりだ。了解してくれ。」 医療室、機関室にも流れた。「よーしスコッティ、始めてくれ。」

スコットは操作した。

重力に耐えるブリッジのクルー。

機関室も同じだ。

揺れが襲った。

チャペルを支えるマッコイ。

振り回されるスコット。はしごから落ちる機関部員もいる。

立っているのがやっとなチャペル。

カークはチェコフたちを椅子へ戻す。

落ち着いてきた。

カーク:「スコッティ!」
スコット:『やはり駄目です! 出力を全部出しても、現在位置を維持できるだけです!』
「パワーは依然落ちてるか!」

スコット:「落ちてます!」
カーク:『このままどのくらいいられる。』
「この分だとパワー低下を計算に入れて、2時間です。」

カーク:「現状を維持してくれ。…対策を考えるのは今の内だが、スポック。中心部で一体何が我々を引きつけているか、わからないか。」
スポック:「わかりません。ですがあるものが我々を、見つけたのは確かです※29。」 スクリーンを見る。
カークも気づいた。そこに色のついた複雑な物体※30があった。
こちらへ急速に接近してくる。カークを見るチェコフ。
カーク:「チェコフ、探索機発射用意。」
チェコフ:「はい。探索機発射用意。」
スポック:「大雑把な見当ですが、これがエネルギーを吸い取っている元であることに間違いはありませんね※31。」
カーク:「探索機発射。」
チェコフ:「探索機発射。」
スポック:「衝突※32まで、7.3秒と計算されます。」
カイル:「1秒、2秒、3秒、4秒、5秒、6秒…※33」 小さな揺れ。
カーク:「探索機からのデータは。」
チェコフ:「入ってます、ミスター・スポックへ直結しています。」
スポック:「いまチェックしています、船長。長さ、約16,000キロあります。幅、場所により違いますが 4,000キロから 5,000キロ※34です。外側の限界層には、排泄物が見られます。内部の構造は、えーっと。細胞をなしその構造の質はゼラチン状から、半液体状の塊となっています。…全体は、生物です。」
カーク:「……拡大率、4 だ。」
チェコフ:「拡大率、4 で出します。」
スクリーンからはみ出した。
スポック:「あれが我々を引きつけている生物です。イントレピッド※5もこうして全滅したんですよ。」
生物へ近づくエンタープライズ。


※20: 吹き替えでは「0408.3048」で、なぜか最初の数字 (脚注※2) と変わっていません

※21: 吹き替えでは、スコット「再測定をしておりましたら逆傾斜に入りました」 カーク「逆傾斜。前方傾斜だったのになぜ逆傾斜に入るんだ」

※22: 吹き替えでは「いま前方傾斜だったのが、逆傾斜に入ったらしい」

※23: 吹き替えでは「もし駄目だったら、スポックに何とかさせよう」

※24: 吹き替えでは「では逆推進で抵抗しろ。逆噴射を続けてみるんだ」

※25: 吹き替えでは「空電」

※26: 原語では「全てのインパルスとワープパワーを、一つの前進噴射にまとめて」

※27: 原語では、カーク「君も言ったように、この状況は全く非論理的だからね (理屈に合わないからね)」 スポック「そうです、彼らが何に殺されたかわからなかったのも事実です。彼らの論理では、まさか殺されるとは思っていなかったんです」

※28: TOS第13話 "The Conscience of the King" 「殺人鬼コドス」のマッコイのセリフと矛盾しますが、今回はスポックの発言ですからこちらの方が正しいと思われます

※29: 吹き替えでは「現段階ではわかりません。あるものが我々を、狙っているのは確かです」となっており、次のスクリーンを見る行動につながりません

※30: フランク・ヴァン・ダ・ヴァー (ヴァン・ダー・ヴィル) 製作

※31: 吹き替えでは「やはりエネルギーは中心部から出ていることに間違いはありませんね」

※32: 吹き替えでは「中心部への到達」

※33: 吹き替えではカウントアップしていますが、原語では当然カウントダウンです

※34: 原語では順に「11,000マイル (約18,000km)」「2,000マイル (約3,000km)」「3,000マイル」。このエピソードでは、キロメートル単位も併用されています

医療室のモニターに映る顕微鏡の映像。
マッコイ:「アメーバー※35※36。」
※37カーク:「そうだ、習ったことを覚えてる。すると何か、あれは一匹の巨大な単細胞生物というわけだな?」
「まあ、そんなところだね。非常に単純な生命形態だ。見ればわかるとおり、あれはアメーバーの形にそっくりじゃないか。明らかに生物的有機体としてあらゆる機能を果たす形態を備えてるようだしね? …再生産もするし呼吸もし、ものを食う。何であるかはわからんがね。」
スポック:「我々のエネルギーを、餌にしています。…とすれば我々の宇宙を侵食し始めているんですよ。ヴィールスのように。」
カーク:「イントレピッド※5があれで全滅したとすれば、我々はなぜ生きているんだ。」
「多分イントレピッド※5は、あのアメーバーが腹を空かしているときにぶつかったんです。しかし危険なことは同じです。イントレピッド※5より多少、長生きするに過ぎませんよ。」
「それでは、この黒い空間は何だ。アメーバーが自分を保護するために、出したものかね?」
マッコイ:「それは調べなきゃわからんね、もっと接近して観察することだ。」
「近寄れば、余計エネルギーを奪われる。この距離でやっと我々は生き延びているんだ。」
「宇宙艇を出したらどうだろうな。…あれに、防御スクリーンをつけて…」
「人間が乗っていくのは危険だ。無人探索機でデータは集められるし、それを元に破壊作戦も考えられる。」
スポック:「私はそうは思いません。これまでも無人探索機を発射し、データを収集しましたがそれだけでは十分なデータではありません。これ以上探索機を出せば、無駄にエネルギーを消費するだけです。」
マッコイ:「一人乗っていけば、敵の弱点がわかるはずだ。」
カーク:「そのために人命が奪われたらどうなる。そんな命令は出せないね。」
「誰が命令しろと言った、志願者を募るんだ。私はもうその用意ができてるんだよ。」
「自殺するのも同じだよ。」
スポック:「アメーバーは何らかの攻撃的行動に出ると思われます。探索機を打ち込んだときはそうでした。だからこそ、こっちにまで大きなショックを感じたんです。」
マッコイ:「だったら、弱点を見つけてそこからゆっくり侵入すれば恐らく抵抗は少なくて済むさ。」
「殉教の精神に被れているだけです、あなたには資格がないと思います。」
「……何を言う! 私は研究のためにも、もっと接近して見てみたいんだ!」
「ヴァルカン星人が接近し、死んでいます。」
「それはやり方がまずかったからだよ!」
「私の方がまだやれそうです。」
カーク:「…何も君たちじゃなくてもゆける者がいる。」
マッコイ:「まさか君が。」
「…少なくとも私の方が宇宙艇の操縦は上手い。」
スポック:「しかし船長はここの指揮官です。それに、科学に関しては専門家ではありません。」
マッコイ:「カーク。あのアメーバーは、これから我々には考えもつかないような変化を起こすかもしれない。…もう少し見守っていてはどうだ。」
カーク:「我々の命は、もう先がない。このままでいれば、1時間と 35分ぶんのパワーしか残っていないんだ。」
「カーク!」
スポック:「船長、わたくしに…」
カーク:「待ってくれ、私が決める。」

自室のコンピューターのスイッチを入れるカーク。「航星日誌※38、宇宙暦 4309.2※20。イントレピッド※5とガンマ7A星系を、全滅させたのはあのアメーバーに間違いなかった。したがって単細胞でありながら、あの巨大な身体は他の生命にかなりの破壊力をもっているに違いない。ミスター・スポックも、ドクター・マッコイも本宇宙船を暗黒の世界から脱出させるべく単独で宇宙艇による探索に出ると申し出た。…ドクター・マッコイは医者であり、任務には適任である。だがスポックも、堅牢な身体と科学的知識をもっている。…これも適任だ。とすれば、どっちに死刑の宣告をすべきであろうか。」

カークの部屋。
※39カーク:「カーク船長だが、ミスター・スポックとドクター・マッコイを今すぐ私の部屋へよこしてくれ。以上だ。」

スコット:「機関室より、カーク船長。」
カーク:『カークだ。』
「パワーの損失度を、報告いたします。現在までに 50%低下しました。低下は続いています。今の推力も、あと 1時間15分しか出せません。」

スポックとマッコイが来た。
カーク:「わかった。宇宙艇の発進用意をしてくれ。」
スコット:『はあ?』
「搭載する物はドクターが指示する予定だ、連絡以上。」
喜ぶマッコイ。
カーク:「…すまんな、スポック。」
マッコイ:「…では早速、出発の準備をしよう!」
「君じゃない。…すまんがスポック、君の方が適任だと思う。」
スポックを見るカーク。

ターボリフトを出たスポック。「そんなに悩むことはありませんよ。頭に詰まった知識よりも先天的にもってる能力の方が、このような場合はいつも (まさ) っているんです。」
マッコイ:「そんなことはない。君はアメーバーの基礎的構造を知るために DNA 分析機を使わねばならんし、酵素レコーダー※40からの電波を読めなければ行っても無駄だ。」
「その計器は既に扱ったことがあります。」 マッコイにボタンを遮られたスポック。「無駄はやめてください、出発準備はできてるんです。」
「君は功績を独り占めにしようというわけか?」
「そのようなつもりはありません。…ヴァルカン星人の能力を、考えれば必然の結果です。」
「ヴァルカン星人の能力? そんなものは当てにも何もなりゃしない!」
「では運が悪かったと思って、あきらめて下さい※41。」
片眉を上げるスポック。ドアの前に立った。
スイッチを叩くマッコイ※42。片眉を上げたスポックは中に入り、シャトル・ガリレオ※43へ歩いていく。
マッコイが見つめる中、乗り込んだ。閉まるドア。
マッコイ:「帰ってきてくれ。」
回転するシャトル。

ブリッジのスコット。「宇宙艇発進用意完了です。」
カーク:「宇宙艇発進。」
カイル:「宇宙艇、発進します。」

生物へ向かうシャトル。
コンピューター※44を操作するスポック。

カーク:「ウフーラ大尉、送られてくるデータは直接コンピューターで受けてくれ。」
ウフーラ:「はい船長。」
乱れたスポックの音声が届く。『宇宙艇より本船。』
カーク:「本船だ。」

スポック:「エネルギーが大量に奪われております。」

カーク:「チェコフ。」
科学コンソールに向かうチェコフ。ハドレイが代わりにつく。
スポック:『補助パワーを防御スクリーンに注入しますが、パワーのある限り通信は続けます。』
スコット:「船長、スクリーンにパワーを使えば戻ってくるパワーがなくなります。」
カーク:「スポック。」
スポック:『聞こえました。その可能性は十分にありますが、しかしデータは絶対に必要です。』

カーク:『突入まで後どのくらいだ。』
スポック:「スピードを落としていますから、突入までは後 18.3秒かかります。」
窓から見える生物。
スポック:「つかまっていて下さい。突入の際そちらにも大きなショックがあるはずです。…突入、6秒前です。」

無言のカークとマッコイ。

窓一杯に広がる生物※45
衝撃が走り、スポックは椅子から投げ出された。

エンタープライズにも伝わる。
カーク:「大丈夫か、スポック。……応答しろ。」
スポックの音声は更に乱れている。『こちらは、損害はありません。…スコットに知らせて下さい。防御スクリーン安定のために、3%のパワーを消費しました。もはやスペアはありませんが、探索を続けます。…ああ、ドクター・マッコイ。あなたならもちませんでしたよ。』
マッコイ:「そうかな?」

スポック:「現在さらに速度を落とし、アメーバーの核と思われる中心部へ侵入中です。」
窓には色とりどりの模様が広がっている。
操作を続けるスポック。

チェコフ:「船長、ミスター・スポックは生命維持装置へのエネルギーを最低限に落としています。」
カーク:「スポック、スクリーンへのパワーは取っておけ。」

スポック:「防御スクリーンへのパワーは後47分しかもたないはずです。…ただいま染色体の部分を発見することができました。それによるとこのアメーバーは新しい細胞を、これより産み落とそうとしているようです。」

カーク:「すると 2つになるわけか。」
スポック:『宇宙艇をコントロールするのが難しくなってきました。』
「…スポック、聞こえるか。おい、こっちが聞こえるか!」
『そちらの声はよく聞こえません! …染色体の位置を報告しますから、記録しておいて下さい。』

「スポック、どうした。聞こえないが。」
ウフーラ:「途絶えました。」
しばらくした後、わずかに通信の乱れた音と共に揺れた。
船長席を叩くカーク。「生きてるぞ! …スポックは横腹を蹴って※46知らせてきた。」
ウフーラ:「船長。信号で入ってきました。」
「チェコフ、信号を読み取ってくれ。」

ブリッジ。
マッコイ:「スポックからのデータによると、核の中に 40以上の染色体があってそれが新しい細胞を産み落とそうとしてる。」
カーク:「もしアメーバーが、もう一つ増えたらエネルギーも 2倍吸収されて我々は助からんよ。」
「我々だけじゃない。この調子でもし増えていくとすれば、アメーバーは銀河系の宇宙に存在する全てのエネルギーを吸収しやがて全滅させてしまう。」
「だからスポックは染色体の位置を知らせてきたんだ。アメーバー※47を破壊することだ。」
スコット:「船長、アメーバーの引力は増大しています。電磁スクリーンのパワーがどんどん、食われていってますが。」
「後どのくらいもちそうだ。」
「一時間ももちません。」
「補助パワーの方をスタンバイしておけ。電磁スクリーンへのパワーは最優先にしてくれ。」
「はい。」

エンタープライズは生物に更に接近している。
ウフーラ:「船長、ミスター・スポックから連絡が入ってます。…パワーが非常に低いんですが、でも聞こえます。」
カーク:「オーディオに頼む。」
「接続します。」
スポック:『こちらスポック。防御スクリーンと、生命維持装置のパワーが次第に失われています。』 苦しそうだ。『私の計算によると、アメーバーのエネルギーは外側の…身体を…保護する…皮膜に全て集中しています。したがって、内部にはほとんどエネルギーがありません。いま、内部へ攻撃を加えれば…破壊することが、できます。ドクターに伝えて下さい。あなたじゃなくてよかったと※48。』


※35: amoeba

※36: 吹き替えでは「アメーバーのようだな」。どう見てもマッコイが用意した映像でしょう

※37: 左側にある装置は、TOS第41話 "I, Mudd" 「不思議の宇宙のアリス」のマイクロビジョンの使い回し

※38: 原語では「船長個人日誌」

※39: TOS の旧国内オンエア分では、カット部分が存在しています。DVD には吹き替えつきで完全収録されており、このエピソードガイドでは色を変えている個所にあたります (CS版との比較)。LD では基本的に、その部分だけ字幕収録です

※40: 吹き替えでは「エンチウムレコーダー」

※41: 原語では「ではあなた方の迷信でも利用して、幸運を祈って下さい」。次のマッコイのセリフも「幸運を」

※42: マッコイは半袖のはずでしたが、この手のアップは長袖になっています

※43: Shuttlecraft Galileo
TOS第14話 "The Galileo Seven" 「ゴリラの惑星」など

※44: TOS第16話 "The Menagerie, Part I" 「タロス星の幻怪人(前編)」の第11宇宙基地のものを再利用

※45: よく見ると、生物の身体がシャトルの壁部分から透けて見えています

※46: 吹き替えでは「ショートさせて」

※47: 吹き替えでは「染色体」

※48: 原語では「幸運を祈ってくれたはずだと」。脚注※41 に関連して

『航星日誌、宇宙暦 4309.4※49。アメーバーを破壊するために、我々は内部へ※50突入することにした。スポックはその具体的な方法を知っていたようだが、その内容を聞く前に肝心の通信が途絶えてしまった。』
カークの部屋。
装置を持っているカーク。
マッコイ:「調子は?」
カーク:「ああ。どうかしたか。」
「スポックのことだ。柄にもないんだが、なぜかスポックが今もあの細胞の中で生きていると信じたい気持ちで一杯なんだ。」
「スポックは危険を承知の上で行ったんだ。…あの細胞は一体何なんだ。今は知能はないが、この先は。」
「まるで、病菌みたいだな。銀河系に感染した、ヴィールスのようだ。」
「…確かにそうだな。…人体にある細胞の数は。」
「無数※51だ。」
「こいつは、このヴィールスは巨大な単細胞生物だ。その数が、無数に増えたとしたら我々の方がヴィールスになってしまうぞ。」
「だが、こうも考えられるぞ。銀河系では、我々は抗体なんだよ。抗体はヴィールスと闘う。…皮肉なことだが、それが我々の運命だ。」
「抗体か。」 マッコイの頬を叩くカーク。「それだ、抗体だよ。
ブリッジ。」
スコット:『スコットです。』
「パワーは後どのくらい残ってる。」

スコット:「43%に※52下がってまして、依然としてアメーバーの力に引っ張られています。この調子でずっと向こうの引力に抵抗していくならば、あと 40分ぐらいしかもちません。」

カーク:「ではそのパワーを全部…前方防御のため電磁スクリーンに移したらどうなる。ただし、インパルスパワーだけ残して。」

スコット:「エンジンを切るんですか。そしたら怪物の中に、すぐに吸い込まれていくだけです。」

カーク:「そうだな。では命令したらパワーを移してくれ。以上だ。」 コンピューターの上に突っ伏す。
調べるマッコイ。
カーク:「どうかしたか。」
マッコイ:「どうってことはないが、疲労してるようだ。刺激剤を打つのもいいが、それだけじゃ十分でない。2、3分でも横になった方がいいな。」
「そんな暇はありゃしないよ。…これから突入だ。行こう。」

ブリッジ。
カーク:「船長より全員に告げる。…これより前方の怪物へ、強行突入を敢行するつもりである。補修班は各デッキの配置につき、損害の補修に当たってくれ。連絡、以上。」 船長席に座った。「いいか、スコッティ。」
スコット:「インパルスを除き、パワーをスクリーンに。エンジンパワーはゼロ。よし!」
大きく揺れ始める。
生物に近づいていくエンタープライズ。
カイル:「突入まで 5秒※53!」
さらに近づく。
衝撃が襲う。いつまでも止まらない。
生物の内部を進むエンタープライズ。
衝撃は消え、スクリーンに内部構造が映っている。
チェコフ:「突入、成功です。」
カーク:「知らせなくても全員わかっただろう。」
ウフーラ:「…補修班から連絡で、損害は軽微だそうです。補修を開始してます。」
カーク:「よーし、わかった。」
スコット:「船長、パワーは後 26%しかありません。」
「インパルスパワーはあるな。」
「それは蓄えてありますが、それだけでこっから脱出できるかわかりませんよ。」
「一応成功だ。」
「何がですか。どうするつもりなんです。…フェイザー砲のパワーもありません。」
マッコイ:「あっても使えやしない。同じ穴の中で火薬に火をつけるようなもんだ。」
カーク:「それよりフェイザーのパワーを食われてしまうだけだ。」
スコット:「じゃあ一体。…申し訳ありませんが、どうするつもりです。」
「これはスポックが言おうとしていたことだが、連絡が途切れてしまった。」
「相手を破壊するパワーがないんですよ?」
「アンチパワーだ。」
マッコイ:「何?」
「この怪物のエネルギーは、マイナスだから全て逆に作用する。反物質を使えばいい。」
スコット:「ああ、なるほど。それなら吸収されません。」
「チェコフ、探索機用意。スコッティ、マグネティックボトルが必要だがどのくらいかかる?」
スコット:「すぐに、用意します。」 ターボリフトに乗る。
「チェコフ、探索機に時限起爆剤が必要だからセットしてくれ。」
チェコフ:「はい!」
「カイル、核への到着までは何分だ。」
カイル:「7分です。」
マッコイ:「どこまで接近するんだ。」
カーク:「核の中まで入り火薬をセットし、引き返す。」
「何もそんなに接近しなくとも。」
「しかしこの細胞の中には、流れがあって探索機が何千キロ流されるかもしれない。もし一回で目標に命中しなければ、二度やるパワーはないんだ。…ドクター。…刺激剤の時間だよ。」
「そんなにやったら身体に毒だぞ。心臓が破裂する。」
「あと 7分だけもたしてくれ、それだけでいい。」

スポックは手を動かした。「個人日誌…エンタープライズ※7スポック記す。現在私はエンタープライズ※7がどこへ向かっているか、また何をしようとしているかわかっている。もしこの日誌が残るとすれば、こう知らせたい。カーク船長以下、それぞれの部署を守る将校らは今回の作戦で勇敢に行動した。宇宙船も立派に活動した。」

記録するカーク。「我々は現在、アメーバーの核内にある染色体に到着した。もしここで破壊に失敗したならば、永遠にこの細胞の中からは出られない。もしこの記録が残れば、次に述べる将校の特別な表彰を推薦したい※54。ドクター・マッコイ、ならびにモンゴメリー・スコット※55少佐※56以下各将校。チェコフ、カイル、ウフーラ。特に勇敢に己の任務を果たしたスポックについては、心からの称賛を送りたい※57。」
チェコフ:「目標へのセット終わりました。探索機、準備完了。」
「スコット、インパルスパワーでここから脱出するにはどのくらいの時間がかかる。」
スコット:「6分から、7分ぐらいですが。」
「ミスター・カイル、探索機の爆発時間を 7分後にセットしてくれないかな※58。」 連絡する。「全てのパワー源はカットしてくれ。通信機や探知機のパワーも、インパルスエンジンに回せ。探索機の火薬が爆発する前に、脱出しなければならない。スコッティ、頼むぞ。」
「はい。」

チェコフ:「セット終わってます。発射用意よし。」
カーク:「発射の加速はゼロにしろ。離したら、あとは引きつけられていく。」
カイル:「加速ゼロにします。」
チェコフ:「探索機発射。」
揺れが起こった。
マッコイ:「中は無感覚と言ったがそうでもないらしいな。」
チェコフ:「探索機命中。染色体の近くの、核の中に入りました。」
カーク:「ミスター・カイル、いま来たコースを戻るんだ。ミスター・チェコフ、まっすぐ最短距離を取って皮膜の外へ脱出だ。」
カイル:「引き返します。」
逆進するエンタープライズ。
チェコフ:「あと 6.37分※59で、脱出します。」
カーク:「よーし。」
「船長、外部に金属製の反応があります。」
マッコイ:「スポックだ!」
カーク:「大尉、大至急スポックの周波数に合わせてくれ。」
ウフーラ:「合わせました。」
「スポック、聞こえるか。…おいスポック、聞こえるか! …応答しろ! …スポック! …スコッティ、トラクタービームだ。」
スコット:「そんな時間はありませんよ。53秒しか余分な脱出時間はないんです※60。」
「いいからスコット、トラクタービームを宇宙艇に合わせてくれ!」
「わかりました。トラクタービームだ。」
スポックの通信が届く。『船長、どうか脱出の方を急いで下さい。私のために宇宙船全体が危険になります。』
マッコイ:「何を言うか、君を助け出すぞ!」 うなずく。

スポック:「それはどうも、マッコイ船長殿?」

微笑むカーク。
移動し続けるエンタープライズ。
カイル:「もう少しです、皮膜まで到着しました。」
カーク:「爆発まで後何秒だ。」
チェコフ:「57秒※61です。」
「トラクタービームで、宇宙艇を牽引してるか。」
スコット:「しております。しかしパワーがありませんから爆発まで牽引していられるか、どうですか。…パワーが急速に下がってます。」
「……この分だとどこまで行けるかわからないな※62、スコット。」
衝撃が襲った。

倒れるスポック。

しばらく続いた後、揺れは止まった。
起き上がり、制服の裾を伸ばすマッコイ。
カーク:「メインスクリーンに出してみろ。」
真っ暗な空間が広がる。そのすぐ後、星が見えてきた。
暗黒空間や生物は見えない。
カーク:「チェコフ、どうだ。」
チェコフ:「怪物は、完全に破壊されてます。…爆発で皮膜が破れて、放り出されました。」
スコット:「パワーが回復してきました!」
「宇宙艇は。」
「わかりませんが、そばにいると思います。」
スポック:『宇宙艇より本船へ。宇宙艇より本船へ、これより帰還しますが許可を願います。』
微笑むマッコイ。
カークはスイッチを叩いた。「スポック! 生きてたか。」

スポック:「もちろんですとも。しかも貴重な※63データを収集してきました。」

マッコイ:「そんなに強がりを言うな、こっちはどんなに心配したかしれないんだぞ!※64
カーク:「まあ、そう怒鳴るなよ。」 スコットと共に笑う。「スコット、宇宙艇を帰還させてやってくれないか。」
スコット:「はい!」
カイル:「宇宙艇帰還用意よし。」

ハンガーデッキに入るシャトル。

カイル:「宇宙艇帰還! 格納庫閉鎖。…ハンガーデッキ、圧力調整。」
カーク:「ミスター・チェコフ、第6宇宙基地にコースを取りスピードはワープ5 だ。今度こそあの美しい惑星で十分に休養を取ることができそうだな?」 クリップボードにサインし、女性士官に返した。「君もね?」
マッコイとスコットも笑う。
向かうエンタープライズ。


※49: 吹き替えでは「0402.3048」と、なぜか最初の数字 (脚注※2) より小さくなっています

※50: 旧吹き替えでは次のカット後の時間も含め、『航星日誌、宇宙暦 0402.3048。スポックからの連絡は途絶えたが、彼の意見通り内部へ突入することにした』

※51: 吹き替えでは全て「何百万」。原語でも確かに "millions" と言っていますが、実際には 60兆個とされています

※52: 吹き替えでは「43%」

※53: 吹き替えでは「25秒」

※54: 吹き替えでは「昇進を推薦し表彰状を与えてもらいたい」

※55: 吹き替えでは「チャーリー・スコット」。通常 TOS の吹き替えではチャーリーが姓として (もしくはスポックやウフーラのように姓名区別なしに) 扱われ、階級をつけた呼び方でも「チャーリー少佐」とされています。今回のようにチャーリーがファーストネーム扱いとなっており、スコットという本来の姓まで使われているのは珍しい例です。TNG第130話 "Relics" 「エンタープライズの面影」のフルネームの訳し方でも、そのような解釈になっていました

※56: 吹き替えでは「佐」

※57: 吹き替えでは「表彰のほかに 2階級の特進を御願いしたい」

※58: 吹き替えでは「7分だけ延ばしてくれないかな」

※59: 吹き替えでは「秒」

※60: 吹き替えでは「あと 53秒で脱出しなきゃあならないんです」

※61: 吹き替えでは「47秒」

※62: 原語では、スコット「パワーがなくなりました」 カーク「君はたった今、我々の墓碑銘を書き記したかもしれないな」

※63: fascinating

※64: 原語では「(アメーバーに対する) アセチルコリン (acetylcholine) のテストをしくじったぞ!」

・感想など
宇宙におっきな単細胞生物がいました、というお話。その肝心の部分を邦題でネタバレしているのは残念ですが、まあいつものことですね。特撮のせいで予算が限られており、ゲストらしいゲストが誰もいません (レギュラーとサブレギュラーのクルーのみ)。スポックの頑ななまでの「データ不足です」は観ているこっちまでイライラしそうになりますが、途中からのマッコイとのやり取りはなかなかです。
脚本の Robert Sabaroff は、TNG 初期の 2話にも関わっています。日本語版では特にクライマックスのところで不適切な訳が多いために、そのままだとちょっと状況を把握しづらいかもしれません。巨大な生物を誤って傷つけてしまい、助けるという今回とほぼ逆のストーリーが、VOY "The Cloud" 「星雲生命体を救え」でした。


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