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ヴォイジャー エピソードガイド
第73話「生命なき反乱」
Revulsion

dot

・イントロダクション
※11隻の異星人船。目を見開いた男が壁にもたれかかっている。壁には血。その遺体を、別の男が引っ張っていく。
男は扉を開け、遺体をその中へ入れた。
壁についた血をぬぐう男。ふいに体が揺らめいた。彼は映像なのだ。男は慌て、その場を離れる。
機械のスイッチを入れる。「交信可能域にいる全船に告ぐ。聞こえたら応答してくれ。私は HD-25※2、人型プロジェクション※3だ。事故が発生し、クルーは全員死亡、救助を請う。」 再び映像が乱れた。「頼む、助けてくれ。」

※1: このエピソードから、日本語版の制作が新体制になりました。詳しい変更点は掲示板 Nine Forward の記事を参照

※2: エイチディー・ツーファイブ

※3: isomorphic projection
名前は Dejaren (リーランド・オーサー Leland Orser DS9第30話 "Sanctuary" 「さまよえるスクリーア星人」の Gai、第67話 "The Die Is Cast" 「姿なき連合艦隊(後編)」のロヴォック大佐 (Colonel Lovok)、ENT第63話 "Carpenter Street" 「デトロイト2004」のルーミス (Loomis) 役) 声:牛山茂、TNG ローア、映画「ジェネレーションズ」 ソランなど

・本編
ヴォイジャー食堂。たくさんのクルーが席についている。パリスが得意げに話している。「で、ハリーとセキュリティ・コンソールにイタズラしたんだ、トゥヴォックが内部センサーにアクセスする度、メッセージが流れるように。」 キムは手でヴァルカン・サインを作り、「長寿と繁栄を」と言った。笑いが起こる。「どのボタンを押しても、その度に『長寿と繁栄を』」というパリス。トゥヴォックは腕組みをしたまま、その話を聞いている。「もちろん僕たち以外の奴には直し方がわからない」というキム。「で彼はその日一日、自慢の忍耐力の限界に挑む羽目になった。」 「ブリッジの外にいても、歯ぎしりする音が聞こえたよ。」 「やっと地獄の 1日が終わって、彼は自分の部屋に戻った。ヴァルカン・ティー※4を頼んだレプリケーターの返事はもちろん…」 声を合わせるパリスとキム。「長寿と、繁栄を。」 一段と大きく笑い声が起こる。私なんて初対面で叱り飛ばされた、私が初めて指揮を執った任務の最中に、宇宙艦隊の提督 3人の前で戦略ミスを指摘されたと話すジェインウェイ。初めは人間のエゴで傷ついたけど、もちろん正論だったわという。うなずくだけのトゥヴォック。ジェインウェイは立ち上がり、あれから 9年※5たった今、洞察力に優れ、常に論理的な彼のアドバイスを心から頼りにしてると言った。「戦略兼保安士官の類まれなる功績を評価し、ここに謹んで昇格を認める。今日から少佐よ。」 トゥヴォックの襟に、3つ目の階級章が付けられた。一斉にクルーから拍手が起こる。ジェインウェイは握手し、おめでとうトゥヴォックといった。感謝しますというトゥヴォック。昇格は屈辱を伴うものと知っていれば辞退していたが、今回は喜んでお受けし、誇りをもって責任を果たすつもりです、といった。ヴォイジャーに乗船して 3年、皆さんの多くを尊敬するに至り、一部からは忍耐を学びました、といってパリスたちを見る。「保安部長として今後も地球への帰路の安全に尽力するつもりです。最後に、ヴァルカン人としてこのメッセージを。長寿と、繁栄を。」 再び拍手が起こった。ほんとにおめでとうトゥヴォック、しっかりねというジェインウェイ。トゥヴォックはクルーの祝福を受ける。
食堂を出たトレスを追いかけるパリス。2人は顔を見合わせ、苦笑いする。「こんなの不自然だよ、もう 3日も口きいてない」というパリス。「わかってる。ちゃんと話さなきゃね。」 「君が言ってたことなんだけど。つまり…君が俺を好きだって。あの時君は酸素欠乏で、意識障害を起こしてた。俺たち死んでもおかしくない状態だった。だからつい言ったんだろ、嘘を。」 「違うわ、あれは本気よ。でも同じ気持ちを返してもらおうなんて思ってないから。ほんと、あの…だから、私が言ったことなんてすっかり忘れちゃっていいの、ほんとに…」 「黙って。」 パリスはトレスと口づけを交わす。突然ドクターが「ミスター・パリス、そこにいたのか」と話しかけた。口を離す 2人。トレスはもう行かなきゃ、失礼といって歩いていった。「ああ…何か用かい?」と尋ねるパリス。「艦長から高度な医療訓練を積んだ新しい助手の任命を一任されてね。非常に残念だが、一番の適任者は君だ※6。」 「俺に看護婦になれって?」 「お望みならそれもいい。常勤ってわけじゃない。1週間 3交代制だ。6時に医療室へ出頭したまえ。トリコーダーと笑顔を忘れずに。」 食堂に戻るドクター。
キムとチャコティが話している。「改良っていいますと?」 「天体測定※7ラボを強化したいんだ。スペースドックを発って以来、手を入れてない。」 「では、早速。」 「セブン・オブ・ナインに手伝わせろ。ボーグとして得たこの領域の全航行データを、我々に提供することに同意したんだ。不都合でも?」 「いえ、別に。」 「仲間として接してやれ。」 「はい、もちろんです。」 キムの肩を叩き、歩いていくチャコティ。
ジェインウェイはニーリックスと話している。「アリシア人※8との交渉は順調?」 「そんな進んだ宇宙船と取り引きができるのかって、向こうは大喜びです。」 「ほんとによくやってくれたわ、ニーリックス。大使としての初めての公式任務として、評価すべきね。」 カルハン少尉※9からジェインウェイに通信が入った。『5光年の彼方から自動救難信号を受信しました。ドクターもご同行を』というカルハン。
メインスクリーンに映し出されている。『私は HD-25、人型プロジェクションだ。事故が発生しクルーは全員死亡、救助を請う。……頼む、助けてくれ。』 彼はホログラムです、助けなくてはというドクター。オペレーション席のカルハンに発信源を追ってくれという。カルハンはジェインウェイがうなずくのを確認してから、操作する。見つかり次第私が向かいますというドクターに、あなたを昇格させた覚えはないわというジェインウェイ。「ですが…ホログラフィック生物については、私が一番詳しい。」 「ドクター、あなたがヴォイジャーから離れるのを許可するわけにはいかないわ。モバイルエミッターは、まだ本調子じゃないんでしょう?」 「それはそうです。しかしこれがホログラムなら、言ってみれば私の同種族です。ぜひ彼に会って研究したい。トレス中尉※10を連れて行きます。エミッターには誰よりも詳しい。」 「明日アリシア人との会合があるの。戻り次第、参加してちょうだい。」 「ありがとうございます」と笑みを浮かべ、ドクターはブリッジから出ていった。
貨物室に入るキム。アルコーヴにはセブンはいない。キムが「セブン」と呼ぶと、「ここにいる」という返事が返ってきた。セブンは階段を降りてくるところだ。「お前と組むのか。」 「あの…いやあ、そうなんだ。早速ジェフリーチューブ B の 32に行って、天体測定センサーを強化したいんだけど、都合が悪ければいいんだ、また後で来るから。」 「どうしたキム少尉、怯えてるのか。」 「いや、まさか。」 「この前お前と組んだ時、お前を殴り、集合体と接触しようとした。」 「気にしてないよ。」 「あんなことはもう二度としない。」 「そりゃあよかった。」 「新しい航行センサーを設計した。ボーグ語も混ざっている。」 キムはパッドを受け取り、「それは良かった、ずっとボーグ語を勉強したかったんだ」という。 「とても信じがたいな。」 「冗談さ…冗談。その…ユーモアだよ。」
"I understand the concept of humor. It may not be apparent... but I am often amused... by human behavior."

「ユーモアの概念は知ってる。人間はしばしばおかしな行動をとるものだ。」
キムは笑い、セブンの後を追った。
9型シャトル。ドクターは中をうろうろしている。「落ち着いてドクター、船は必ず見つかるわ」というトレス。 「そんなことは心配しちゃいない。ミスター・パリスに医療室を任せて来たことを心配しているんだ。」 「トムなら大丈夫よ。責任感のある人だもの。」 「ほう、随分とよく知ってるんだな。」 トレスはドクターに向き直った。「それどういう意味?」 「随分と仲のいい、友達のようだ。」 「はっきり言わせてもらうわ。相手が誰だろうと、私の人間関係について詮索するような真似は許さない。私個人の問題よ。」 「済まない。神経に障ったら謝る。鎮静剤でも打つかね。」 コンピューターに反応があった。「見つかったわ。」 「例の船かね。挨拶しよう。」 「応答なし。」 「生命反応は。」 「エネルギー反応があるけど、不安定ね。推進およびメインパワーはダウン。」 「転送可能域に達してる。」 すぐにシャトル後部へ向かうドクター。トレスも続く。
転送される 2人。中は暗く、ライトが明滅している。トリコーダーを使い、作業に取り掛かるトレス。おい、誰かいるかと言いながら歩くドクター。助けにきたぞという。トレスは明かりを復旧させた。「生命反応はない?」と尋ねる。「まだない。」 「エミッターをチェックさせて。転送中に異常がなかったか。」 モバイルエミッターに機械が当てられる。「クリンゴンにしてはなかなかいい手つきだ。」 「どうも。」 その時、あの映像の男がハンマー状の道具を手にとっていた。それには気づかず話し続けるドクターとトレス。「ミスター・パリスはどんな手つきで患者に触るんだか。別に変な意味はないぞ、中尉。」 「ホログラフィックマトリックスは安定してるわ。今度はエミッターパワーセルのチェックを。」 「君も医療室で働く…」 ゆっくりと近づいていく男。だが映像が乱れて消え、ハンマーだけが床に落ちた。2人も音に気づく。それを手に取り、こんな物どこから、というトレス。男は 2人の前に姿を現した。「済まない、済まない、脅かすつもりはなかった。」 話しかけるドクター。「君が救難信号を?」 「そう、そう、そう、私が送った。君、君も人型プロジェクションか。」 「我々はホログラムと言っている。」 「ホロ…グラム。」

※4: Vulcan tea

※5: この発言より、ジェインウェイがトゥヴォックと初めて会ったのは西暦 2365年ということがわかります

※6: パリスは生化学をアカデミー時代に 2単位習得しています。VOY第3話 "Parallax" 「ブラックホールからの脱出」より

※7: Astrometrics

※8: Arritheans

※9: Ensign Culhane
エキストラ扱い。声:鉄野正豊

※10: 今までは「主任」などと階級を訳すのを避けてた場合があるので、正しく吹き替えされているのは嬉しいことです

トレスに尋ねる男。「君、君もホログラムか。」 「いいえ。」 「有機体か。」 「ああ…あなたの星の言葉で言えば。」 男の映像がまた乱れた。トレスはトリコーダーで調べ、私たちのホログラフィックテクノロジーとも互換性があるようだわ、という。 「プロジェクションコントロールにアクセスしたいんだけど。」 「なぜだ。」 「機能不全を起こしてるから、修理をしようかと。」 「ああそうか、それは感謝する。そこの、そこのコンソールからアクセスできる。」 教えてもらった場所で作業に入るトレス。ドクターは「何があった」と聞く。 「恐ろしいことだ、とても。8ヶ月前、セロス※11を発った。我々のホームプラネットだ。クルーは 6人。」 「全員人型プロジェクションか。」 「違う、私だけだ。HD-25 故障回避機能つきメンテナンスユニット※12。主な任務はリアクターコアの清掃や、反物質廃棄物の排出だ。医療機能は設定されていない、クルーが病気になっても何もできなかった。あ、あ、あ、あ。」 「落ち着くんだ。一つずつ順を追って話してくれ。」 「2人が惑星探査のため、船を離れた。戻ってきた時には、謎のウィルスに冒されてて、ものすごい速さでほかの有機体に移っていった。そして一人ずつ、死んでいったんだ。そのうち船が機能不全に陥ったが、私が制御するには限界があった。君たちが来てくれなかったら、どうなっていたか。」 プログラムを安定させたわ、今度はアイソマトリックスにアクセスしたいの、というトレス。男は最下層デッキを、と教える。「だが行かない方がいい」といった。「どうして?」 「危険過ぎる。反物質放射線※13に汚染されているんだ。有機体が浴びたら一たまりもない。私のアイソマトリックスなら、あそこのコンパートメントからアクセスすればいい。」 礼を言い、そこへ向かうトレス。ドクターはざっと診断させてくれるかね、といい男の体をトリコーダーで調べる。「名前は」と尋ねる男に、「名前はない。いろいろあってね。」 「聞かせて欲しい。君の全てが知りたい。」
ヴォイジャーのジェフリーチューブ内。「改良センサーの準備が完了した」というセブン。 「え? もう?」 「そうだ。」 トリコーダーを使って調べるキム。「私が信じられないのか」と尋ねるセブンに、「そうじゃない、通常の手順を踏んでるだけさ」という。 「もはやボーグほど完璧ではないが、能率かつ正確を期する態度は身についている。」 「オプチカルアセンブリの調整が狂ってる。」 「ありえない。」 「見てごらん。0.5度ずれてるよ。」 チェックしたセブンは言った。「私の中の人間が戻り始めているようだ。」 微笑むキム。セブンも微妙に笑みを浮かべ、「今すぐ直す」という。「それで、貨物室ではどうやって息抜きを?」 「息抜き?」 「リラックスの方法だよ。勤務時間外の楽しみさ。」 「アルコーヴで機能回復をはかり、宇宙艦隊の研究をし、自分の存在理由を考えている。」 「独りが好きみたいだね。」 「そうだ。アセンブリの調整は完了した。これから、メインパワーにアクセスする。」 「先、どうぞ。」 階段を降りていくセブン。
セブンは隔壁を開け、中の部分に触ろうとした。すぐに止めるキム。「何やってる。500万ギガワットの電流が流れてるんだぞ。」 手を見せるセブン。「この手の外骨格なら十分耐えうる。」 「たとえそうでも、ここでは僕たちの安全手順に従ってくれ。」 「お前たちの手順は時間の無駄だ。」 「かもしれない。でも僕は君の教育係だ。従ってもらうよ。いいね。」 「わかった。」 キムはセブンの両肩から手を下ろした。「じゃ、さっさと仕事を終わらせよう。」
ドクターに質問する男。「このエミッターでどこへでも行けるのか。」 「艦長命令で多少の制限はあるが、医療室からは出られるし、任務に加わることもできる。」 「実に素晴らしい。わ、私はこの船から出たことがない。事故が起こるまでは反物質貯蔵庫からも出たことがなかった。せ、狭い部屋に閉じ込められて一生過ごす気持ちがわかるか。ドアの中の世界しか知らず、私に会いに来る者も、話しかけてくれる者もいない。こき使われるだけだ。」 「もちろん非常によくわかる。
When I was first activated, I was regarded as little more than a talking tricorder. I had to ask for the privileges I deserved... the right to be included in crew briefings... the ability to turn my program on and off.... It's taken some time, but I believe I've earned the respect of the crew as an equal."

私も最初は単に話すトリコーダーに過ぎなかったからな。そこで徐々に特権を要求した。クルーの報告会に参加する権利、自在に稼動させられる能力。時間はかかったが、今はクルーと同等の尊厳を勝ち取った。」
「同等の?」 「個人的興味の追及もしてる。芸術、音楽、文学。君にもきっとできるさ。」 「そんなこととても無理だ。セロスのプログラマーが許すはずない。」 「なら説得すればいい。この状況下で君がどのように対処したか知ったら、彼らは感謝するはずだ。考えてもみろ。君は既に自分のサブルーチンを超えてるじゃないか。」 ドクターは医療キットの箱のふたを閉めた。男はそこの今まで見えなかったところに、血がついているのを見つけた。慌てて手で拭き取る。「どうした」と尋ねるドクター。 「別に、何でもない。気がつくと滅菌してるんだ。ウィルスが生き残ってると困る。馬鹿げてると思うだろ。有機体でもないのに。」 「私も、理解不能の行動をとることがあるよ。」
トレスは引き続き修復作業を行っている。スイッチを入れると、その先の途中で切れたケーブルから、エネルギーが流れていることがわかる。トレスの背後に近寄る者がいる。「食事だ。」 驚いて振り返るトレス。ホログラムの男だ。「有機体は栄養物がいる。携帯食だが、クルーは気に入っていた」という男。「危ない!」と叫ぶトレス。男がケーブルの先に近寄っていたからだ。スイッチを切るトレス。「磁力コンジットよ。自分のマトリックスを乱す気?」 「ほんとだ、気づかなかった。来るべきではなかったかな。」 「いいのよ。休憩にするわ。ありがとう。」 食事を食べ始めるトレス。男は言う。「上品だな。魚みたいだ。」 「誉めてるのかしら。」 「もちろん。魚は見たことがない。本物は一度も。データベースで読んだだけだ。魚はほかの有機体とは違う。もっと受け身の生き物だ、ほとんどは。それに、清潔だし。うん、何か手伝えることはあるかね。」 「じゃあランチが終わり次第、マトリックスへのアクセスを手伝ってくれない?」 「喜んで。」 男はふと、切れたケーブルを見つめた。「どうかした?」と尋ねるトレス。 「この船が機能不全に陥ったのをみてると、な、なんだかこの船に、一種の同情のようなものを感じてしまう。私の存在はこの船においても、この船は私の体であり、魂だ。どうせ馬鹿にしているんだろう。」 「そんな。あなたの気持ちわかるわ。」 「有機体のお前に、私の気持ちがわかってたまるものか。お前は自由に存在してる。なのに、『あなたの気持ちがわかる』?」 「ごめんなさい。怒らせるつもりはなかったの。」 「不自由なのはお前らだ。私じゃない。お、お前らはその一生を肉と骨と血でできた生物学上の牢屋に閉じ込められて生きてるんだ。」 「そうね。私、ドクターのとこに行ってくるわ。」 男はトレスの前に立ちふさがった。「私は純粋なエネルギー体だ。だがお前らは食料と水がなけりゃ生きられない。正直言って吐き気がする。自分を見ろ。よく見るんだ! 植物や動物を端からその歯で食いちぎり、唾液を分泌して食道に通しては、その先にある穴に運び酸で消化する。だが自分じゃその行為を自覚していない。なんて残酷な生き物なんだ。その上常に皮膚や髪をまきちらし、あたり構わず脂っぽい汗をつける。なのにお前らは宇宙一知性があると思い込んでいるんだ。とんでもない。お前らは汚らわしい動物だ。ああ恥ずかしいよ、お前らの姿でいることが!」 男は急に我に返った。「済まない。どうかしていた。有機体に敵意を抱いているので、つい。君に言ったわけじゃない。この船のクルーに、ひどい仕打ちを受けていた。」 「それは気の毒に。でも、私たちはあなたを、助けにきたの。差し入れありがとう。」 トレスはその場を離れた。

※11: Seros

※12: HD-25 maintenance unit

※13: antimatter radiation

ドクターのところへ戻るトレス。「問題発生よ。」 「ほう。」 「例の人型プロジェクション、正常じゃないわ。エミッターのことじゃなくって。」 「つまり?」 「10分間も、たっぷりたまわってきたの。彼の有機体に関するご高説を。随分画期的な意見だった。あなたはどう? 私たち有機体は汚らわしい、下等生物の集団だと思う?」 「面と向かっては言えんよ。」 「いきなりがなり始めたのよ、有機体は下等だって。もう少しで飛び掛かってやるとこだった。」 「確かに社交性には問題があるようだな。」 「問題。あれは異常よ。」 「医療診断には使わない表現だな。」 「それだけじゃないわ。大嘘つきでもある。最下層デッキをスキャンしたのよ。放射線で汚染されてるって言ってたでしょ。でも異常なし。」 「なぜそんな嘘を。」 「さあね。私を避けるためかも。何かを隠してるとか。」 「君が心配するのも無理はない。私もさっき話をしたが、確かに行動には、少々問題があるようだ。だが考えてもみろ。貯蔵庫という狭い空間に閉じ込められ、有機体生物との交流はほとんどなかった。コミュニケーションに支障が出るのは当然のことだ。恨みもするだろう。私が起動し始めた頃のことを覚えてるか?」 「もちろんよ。悩みの種だった。」 「つまり私も、彼と同じように、疎外感を味わっていたんだ。2、3日はかかったよ、気に入られる方法がわかるまでに。」 「彼がホログラムだってことはよくわかってるわ。あなたが彼の味方だってことも。でも私は必要なら彼を消滅させてもいいと思ってる。」 「判断は慎重に頼む。」 うなずくトレス。「最下層デッキへ行ってくる。アイソマトリックスにアクセスしなきゃ。戻るまで彼を引き止めておいて。汚らわしい動物が周囲を嗅ぎまわってるって知ったら…」 突然音がし、男が現れた。「邪魔をしたかな。」 いいえ、丁度私も行くところだったの、といいトレスは去った。「紹介するよドクター、スペクトル※14だ」という男。手に持っている水槽の中に、1匹の魚が入っている。「ホログラムの魚か。」 「素晴らしいだろう。とても平和で、満ち足りてる。仲間が欲しくて作ったんだ。君にもペットが?」 「いや、私はもてんよ。医療室では飼えんからね。」 「私も無許可だ。隠れて飼ってる。」 「本物みたいだ。君にこれほどホロデザインの才能があったとはな。」 「そうか。私は何でもプログラムできる。」
ヴォイジャーの第2貨物室。作業を行っているセブンとキム。「ここに入ってるのがボーグの航行データだ」というセブン。「どうやって出す?」 「以前は胸部に器具が内蔵されていたが、ドクターに除去された。力ずくで取るしかない。」 「え?」 「引っ張り出すのだ。」 笑うキム。「手を貸せ」というセブンに、「わかった、3で行こう」という。「3?」 「3つ数えて、一緒に引っ張るんだ。」 「原始的だな。」 「1、2の、3!」 勢いよく部品が外れた。セブンの手から血が出ている。「ああ…損傷したようだ。」 「ああ、こりゃひどいや。医療室へ行こう。」 「同化された時は数秒で再生した。弱くなったものだな…。」 「これが普通なんだよ。大丈夫、行こう。送っていく。」 セブンをかばいながら、貨物室を出るキム。
手に医療機具が当てられ、傷が消えていく。あと 0.5ミリ深かったら、神経を傷つけてたというパリス。「手術するとこだ。もう機械じゃないんだぞ、主治医として忠告する、もっと慎重になるように。よし、治ったぞ。」 キムは貨物室へ行っててくれと言う。医療室を出ていくセブン。キムはパリスに言う。「何て口を聞くんだ!」 「何のことだ。」 「彼女は今弱気になってるんだ。神経を傷つけるとか、手術とか!」 「カッカすんなよ。雰囲気で言っただけだろ。気にしちゃいないよ。」 「いや、気にしてた。顔を見てりゃわかるよ。」 「随分かばうんだな。ちょっと前まで、同じ部屋にいるのも怖がってたのに。」 「それは…彼女がわかってきたからさ。みんなだって、もう彼女のことをボーグだとは思っちゃいない。ほんとは、とても繊細なんだ。」 「へえ、そうかよ。」 「ああ、そうなんだ。ユーモアのセンスさえある。ちょっと突飛で、わかりにくいけど。それに頭もものすごくいい。」 「元は人間なんだ。不思議じゃないだろ。」 「そうさ、人間なんだ。ボーグがどうとか、機械がどうとか、そういう冗談は言うな。 彼女は女だぞ。見ればわかるだろうが。」 「ヘ、ハリー、お前彼女に惚れちゃったのか。」 「惚れた? まさか。馬鹿いうなよ。……ちょっとそうかも。」 「お前が前に女に惚れた時も今と同じ目をしてたぞ。少しは相手を選べよ。前は誰だった? ホログラムか?※15 ボーグの女のことはよく知らん。だが俺からの忠告は、『やめとけ』だ。」 「仲間だってことを伝えたいだけさ。」 「仲間だってことをだと? チャコティみたいなことを言うな。いいか、彼女は美人だ。頭もいい。きっと、話し相手としての…その…そつがないんだ。だが 1ヶ月前までボーグだったんだ。お前はそれをわかってない。彼女を気遣ってやるのは構わない。だが気をつけろ。」 「忠告感謝する。」 キムは医療室を出ていった。「全然わかってない」とつぶやくパリス。

※14: Spectrum
地球のハリセンボンにそっくり

※15: マレーナ (Marayna) のこと。VOY第56話 "Alter Ego" 「ホログラムの反乱」より

セロス船※16。ドクターが男に説明している。「ここは操縦を行うところだ。」 「覚えられるだろうか。」 「大丈夫さ。この船の全システムを把握してなければ命に関わる。君も自立しなくては。ここでは環境制御と生命維持機能を整える。」 「クルーは全員死んだんだ。もうそれは必要ない。」 「今はな。」 「59.2%。」 「何がだね?」 「生命維持に要するパワーだ。半分以上のパワーを使い、奴らを呼吸させ、暖め、生かしている。」 「人間も少し改良すべきかもな。」 「その通りだ。私は常に奴らの尻拭いをさせられてきた。奴らがただ眠り、食らい、汚らわしい肉欲に身を任せている間だ。」 「これはセンサーグリッド。この装置の一番の利点は…。」 「私は奴らに利用されてたのだ。君のようなら良かった。君は私に、有機体の奴隷でいる必要などないことを教えてくれた。」
トレスは最下層デッキに入った。ライトで照らし、トリコーダーで調べながら、ゆっくりと進む。
「もう有機体にこの船は渡さない、奴隷に戻るのはごめんだ」という男。「いくらなんでもそれはやりすぎだ。」 「手を組もう。ヴォイジャーを去って自由を手にするのだ。2人でこの船に乗り、銀河を探索しよう。」 何も答えないドクター。
トレスは別の部屋に入った。コンピューターがある。操作し始めるトレス。まだ動くようだ。モニターにプロジェクションの男の情報が表示された。「これだわ」というトレス。更に操作すると、他のコンピューターにもライトが灯った。振り向いたトレスは驚く。壁の中に、遺体が入っていたのだ。更に操作すると、別の壁にも同じように入っている。
男のドクターへの話は続いている。「そう驚くなよ。このアイデアをくれたのは君だ。」 「私が?」 「私に自立すべきだと言ったじゃないか。」 確かに我々はクルーと同等に扱われるべきだ。だがエネルギーと光でできた映像に変わりはない。限界はある。」 「違う! 違う違う違う違う! 我々は食事をとらない。病気にもならない。生命体より高等なのだ。」
トレスが操作を続けていると、突然警報が鳴り響いた。
「何だ」というドクター。「最下層デッキだ。マトリックスにアクセスしようとしている。すぐ戻る」といい、男は姿を消した。ドクターも向かう。
コンピューターの画面に男の顔が映し出され、スイッチが反応している。その直後、トレスの前に姿を現した。殴りかかるトレス。しかし映像をすり抜けてしまう。男はトレスをつかみ、自分の手を彼女の胸部へ入れた。エネルギーが放出され、トレスは苦しむ。しかし攻撃を受けながらも、トレスは必死にコンピューターに手を伸ばそうとする。更に力を入れる男。ついにトレスの手がスイッチに届いた。「やめろ、やめろ…」 男は消えた。倒れ込むトレス。ドクターが到着した。「ベラナ!」

※16: Serosian ship

「キム少尉個人日誌、宇宙暦 51186.2。セブン・オブ・ナインとの任務に支障が出はじめている。トムの言う通りだ。友情以上の気持ちを抱くべきではない。だが彼女のことが頭から離れない。」
食堂。パッドを扱っているキム以外には誰もおらず、照明は薄暗くされている。セブンがやってきた。「何か用か。」 「天体測定プロジェクターの改良について、いい考えが浮かんだんだ。もしかして、もう進めてたりして。」 「いや、まだだ。」 「これがデータだ。意見を聞きたい。君のものの見方は、新鮮だから。」 「いいだろう。」 差し出されたパッドを受け取るなり読み始めるセブン。「座ったら?」というキム。「立ってる方がいい。」 「座った方が楽だと思うけど。」 「楽をする必要などない。」 「そっか。」 「随分薄暗いな。」 「でもリラックスできない? 仕事の疲れがとれる。ヴォイジャーはジェフリーチューブと貨物室だけじゃないんだ。決めた。この後、ホロデッキへ行こう。クタリアン・ムーンライト※17・シミュレーションがあるんだよ。美しいよ。」 「美など必要ない。」 何も言わないキム。セブンは言った。「お前が我々の関係を変えたいなら別だが。」 「っていうと?」 「私は個人には慣れてないが、人間の行動に無知ではない。お前は下らない会話で私の気を引こうとしているし、私の体を見る時お前の瞳孔は拡張する。」 「何馬鹿なこと言ってるんだよ。」 「私をホロデッキに誘ったのは、明らかにロマンティックなムードを作るためだ。私に恋したのか?」 「いや、違うよ。」 「結合が望みか。」 「違う! 僕はただ…自分でもわからないんだ。」 「なぜ必死に嘘をつこうとしているのだ。人間がこんなに複雑な生き物だとはな。中でも性行為は特に複雑だ。ボーグに性行為は必要ない。個々に受精する必要はないからな。狙った種族を同化していくだけだ。
I'm willing to explore my humanity. Take off your clothes."

では私の中の人間性を探求する。服を脱ぐのだ。」
「ああ、セブン…。」 「怯えるな。傷つけはしない。」 「待ってよ。ちょっと性急すぎないか。僕はただ…君を仲間として迎えたいだけだ。とにかく今は、やめておこう。」 「わかった。また私に用ができたら呼んでくれ。」 食堂を出ていくセブン。キムは大きくため息をついた。
セロス船。ハイポスプレーが打たれ、トレスは目を覚ました。「もう大丈夫だ、心配ない」と声をかけるドクター。「あいつは?」 「さっき君が停止させた。」 「エミッターは全部切ったの。」 「懸命な処置だったよ。このデッキから 6体の遺体が見つかった。君で 7体になるところだ。」 痛みに声を上げるトレス。「あいつ、私に何をしたの。」 「胸郭内に手を入れ、心臓をつかんで第4心室に穴を空けた。」 「上等。」 「心膜は安定させたが、内出血が心配だな。」 「どうなるの?」 「大丈夫だ。ヴォイジャーに戻れればな。だが転送装置にトラブルが生じてる。」 「あいつがコムリンクを不能にしたのよ。司令室へ連れてって。」
コンピューターで確認するトレス。「妨害シールドを張ったみたいね。消せることは消せるけど、コントロールパネルを開かなくちゃ。工具一式がコンソールの上に。」 取りに行くドクター。「ベラナ、エミッターは全て切ったと言ってたな。」 「そうよ。どうして。」 「どこか見逃したらしい。」 ドクターの前には、あの魚が入った水槽が置いてあった。ドスン、と物音がした。ドクターが見ると、倒れたトレスの横にハンマーを持った男が立っている。「助けに来たと言ったのに。」 「それを下に置け。」 「嘘つきめ。私をだましやがって。友達だと思ってたのに。」 「君のために言ってるんだ。プログラムを修理した方がいい。故障しかけている。非常に不安定だ。」 「違う違う違う! それはお前の方だ。有機体の頭をもつ偽ホログラムめ。」 ドクターに殴りかかる男。すり抜ける。ドクターも持っていた道具を投げるが、やはり突き抜けてしまう。「何度やっても同じだ」といい腕を組むドクター。だが男はモバイルエミッターを狙った。ドクターの映像は揺らいで消え、床にエミッターが落ちた。男はそれを拾い、「自由を」とつぶやいた。トレスが起き上がる。頭から血を流している。「ああ、船中血だらけにしやがって。今度はお前を停止させてやる」という男。逃げるトレスを追う。襲いかかる男から辛うじて逃げ、部屋に入って扉のロックをかけるトレス。倒れ込む。だがすぐに、中に男が現れた。座り込んだまま後に下がるトレス。ケーブルがある。トレスはスイッチを入れた。強力な磁力が端から発生する。それを男に突き刺した。声にならない声を上げる男。みにくく歪む映像。そして消滅した。
トレスはモバイルエミッターを再起動させた。そこからドクターが現れる。「奴は?」 「停止させたわ。」 「君は?」 「早くここを出たい。」 2人は立ちあがった。
チャコティの私室。チャイムが鳴り、キムが入る。「ラボの改良案が完成しました。」 「もうか。セブンも君も休み返上ってわけか。」 「彼女がせっかちなもので。」 「なるほど。すぐに工事にかかってくれ。」 「ここからは……機関室に任せた方がいいと思うんです。」 「好きに指示したまえ。」 「いえ、そうじゃなくて、全権を委任した方が。」 「見届けなくていいのか? 君の子供のようなものだろ。」 「そうです、ただそれでは、勤務に偏りが生じると思いまして。」 「シフトなら組み直して構わんが。」 「私が言いたいのはそういうことじゃなくて、セブン一人でいいんじゃないかと。」 「ハリー、彼女と何かあったのか?」 「そんな、違いますよ。」 「良ければ、話してくれ。」 「いやだなあ、何もありませんよ。本当です、副長。あの…お仕事中、失礼しました。」 背を向けるキムに言うチャコティ。「キム少尉、言いたまえ。」 「少々……誤解が生じまして。」 「というと?」 「大したことじゃないんです。ボーグと人間の文化の違いって言うか…」 笑うキム。チャコティは「そうか、おかしいな」と言った。「おかしいって、彼女と話したんですか?」 「仲良くやってると言ってた。君はその、合理的かつ優秀で、人間特有の複雑な相互交流について教わってると。何のことかわかるか?」 「いえ、さっぱり。」 「君らはいいコンビだ。引き続き、任務の遂行を。」 「ですが……。はい、副長。」 「今後も頼むかもしれん。仲良くな。」 キムは無理矢理笑みを作った後、部屋を出て行った。笑うチャコティ。
内出血も止まったし、神経も心配ない、第4心室も元通りだとトレスに話すドクター。パリスもいる。「これで、治療も掃除も済んだかな」というドクターに、「ごめんよドクター、掃除する時間がなかったもんで」という。今日は大忙しだったんだ、骨折 2人に腹痛 1人、手の裂傷患者 1人というパリス。じゃあ疲れて来られそうもないわね、私の部屋へ、というトレス。パリスは、君こそ心臓は大丈夫なのと言った。ドクターはトリコーダーを使いながら言う。「ホルモンレベルが急上昇中だ、このまま上がるようならば、ドクターストップも考えねば。」 もう行くよ、ハリーの様子を見に行くよ、最近参ってるみたいだから、話せば長いというパリス。ドクターはそう急ぐなと呼び止めた。医療室を隅から隅まで滅菌しなくちゃならないんだ、ハイポスプレーには片っ端から脂ぎった体液を残し、コンソールは分泌物だらけだという。だが「なんてね。実際、この潔癖症を変えようと思ってるんだ」というドクター。持っていたハイポスプレーを床に落とす。医療室をもっと有機体仕様にすべきだ、そうすれば患者もくつろげる、といいオフィスへ入った。「どうしちゃったわけ?」とパリスに尋ねられ、「話せば長いわ」とトレスは言った。ドクターは足をテーブルの上に投げ出し、パッドを読み始めた。

※17: クタリアの月の出 Ktarian moonrise
ホロデッキプログラム。「クタリアン」は訳出されていません。TNG第106話 "The Game" 「エイリアン・ゲーム」に登場した種族

・感想
道具としてだけしか扱われなかったホログラムの話。最初から彼がクルーを殺したことはわかっていますし、結果的にも普通の終わり方で、意外性はあまりありませんでした。それより日本語版の変更点の方が気になって…。

メイン・ストーリーより面白いのがキムとセブンの関係で、ある意味「率直」なセブンの発言には笑わせられます。TNG 初期のデータにも通じますね。そして、おめでとうトゥヴォック少佐!


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