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TOS エピソードガイド
第6話「惑星M113の吸血獣」
The Man Trap

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・イントロダクション
※1※2惑星※3に近づくエンタープライズ。
『航星日誌、宇宙暦 1513.1※4。惑星、M-113※5 を回る軌道に乗った。エンタープライズ※6の指揮をミスター・スポックに任せ、私はドクター・マッコイを伴って M-113 に降り立った。』
※7船長席のスポックは、スクリーンに映る M-113 を見る。

地上には遺跡がある。
カーク:『…古代文明の廃墟と化したこの星に住む考古学者ロバート・クレイター博士※8と、その妻ナンシーの健康診断を行うためだ。ナンシー・クレイターは、ドクター・マッコイがかつて愛したことのある女性である。』
※9巨大な石の建物がある。
カーク:「花でも摘んでこうか、ドクター。…昔のガールフレンドに会うんだから、それくらいはしないとね?」 草を手にした。
マッコイ:「いつもその手で機嫌を取るのか? 買収だぞ?」
笑うカーク。
マッコイ:「博士たちの影も形もないな。」
カーク:「そのうち現れる、我々が少し早く着きすぎたんだ。」
建物の中に入る。

部屋は発掘品で一杯だ。
カーク:「クレイター博士。博士? ナンシーさん?」 トリコーダーを使う。
もう一人のクルー、ダーネル乗組員※10も部屋を見る。
カーク:「ソワソワしてるようだな。」
マッコイ:「そりゃ当たり前だよ。私とナンシーは 10年前にさよならを言って、それ以来一度も会ってないんだ。もう私など忘れてるかもしれん。」
カークは笑い、マッコイの肩を叩く。
マッコイ:「やはり来なければよかった、ほかの者でも健康診断ぐらいできるのに…」
歌声が聞こえてきた。見ると、一人の女性が発掘品を持って入ってきた。「マッコイ。」
マッコイ:「ナンシー※11。」
「お久しぶり。」
手を握るマッコイ。「会えないかと思ったよ。」
ナンシー:「お顔よく見せて?」
「…全然変わってないね。」
カークを見るナンシー。
マッコイ:「ああ、これはエンタープライズのジム・カーク船長だ。」
するとカークには、ナンシーがマッコイの見たのとは違う姿に見えていた。白髪が交じり、明らかに中年だ。
カーク:「よろしく。お噂はドクターから。」
ナンシー:「悪い噂かしら。」
「いやあ…。」
マッコイ:「これは、部下のダーネル。」
ダーネル:「はじめまして、どうも。」
ダーネルには、顔さえ別人に見えている。金髪の若い女性※12だ。
カーク:「どうかしたのか。」
ダーネル:「あの失礼とは思いますが、こないだリグレー遊園地星※13で別れてきた女の子とあまりにもよく似てらっしゃるんで。…どう見ても彼女としか思えません。」
マッコイ:「ダーネル、口を慎みたまえ!」
「申し訳ありません、私は別にそんな。…こんなことあるはずないですから。」
カーク:「ダーネル、君は外で待機しろ。」
「はい。外で待機します。」
「私も外で待ってましょうか?」
ナンシー:「何です? …プラム※14と 2人だけになさるおつもり?」
「プラム?」
マッコイ:「そうだ。」
ナンシー:「…若かった頃この人につけたあだ名ですの。」 顔に触れる。
「いやあ、その。健康診断は博士が見えるのを待って一緒にやろう。」
笑うナンシー。「じゃ主人を呼んでくるわ。…一度掘り始めると寝るのも食べるのも忘れて夢中になってしまうのよ?」 独りで出ていく。
外で待機しているダーネル。
ナンシー:「ちょっと待ってて?」
若い女性としてのナンシーを見るダーネル。
ナンシー:「暑くて脱ぎたくなるわ?」
上着をダーネルに向かって放り投げるナンシー。ダーネルの方を振り返りつつ、歩いていく。
中を覗き込んでから、ナンシーについて行くダーネル。


※1: このエピソードは、米国で 1966年9月8日に初めて放送された TOS、つまりスタートレック全体でも最初の作品です。後年公開されるパイロット版 "The Cage" 「歪んだ楽園」、第2パイロットの "Where No Man Has Gone Before" 「光るめだま」も後の順番になります。ただしこのサイトでは TOS は基本的に製作順で考慮しているため、「初登場」や「〜以来」などの表記も放送順とは異なります

※2: ハヤカワ文庫のノヴェライズ版は、「宇宙大作戦 見えざる破壊者」収録「実体のないマッコイ」になります。邦題が原題の直訳になっていませんが、これは小説では当初のタイトルである "The Unreal McCoy" が原題になっているため

※3: 前話 "The Enemy Within" 「二人のカーク」のアルファー177 を使い回し

※4: 吹き替えでは「0401.5112」、予告編での宇宙暦は 1324.1

※5: M-113
一般的に天文学で M+数字はメシエ天体を指しますが、実際には M110 までしかなく、また星雲・星団や銀河につけられるのが普通です

※6: 吹き替えでは「エンタープライズ

※7: このブリッジのシーンは、TOS第3話 "The Corbomite Maneuver" 「謎の球体」の映像を使い回し。そのためウフーラがナビゲーター席に座っています。ほかにも廊下を走るカークなども

※8: ロバート・クレイター教授 Professor Robert Crater
原語では全て教授です

※9: この辺りのシーンで、画面が切り替わる度にカークがトリコーダーを肩に掛けていたり手に持ったりしています

※10: Crewman Darnell
(マイケル・ザスロー Michael Zaslow TOS第41話 "I, Mudd" 「不思議の宇宙のアリス」のジョルダン少尉 (Ensign Jordan)、映画第8作 "Star Trek: First Contact" 「ファースト・コンタクト」のエディ (Eddy/Eddie) 役。1998年12月に死去) 声:仲木隆二 (仲木隆司)

※11: ナンシー・クレイター Nancy Crater
(ジャンヌ・バル Jeanne Bal 1996年4月に死去) 声:水城蘭子。DVD・完全版ビデオ補完ではさとうあい、旧ST4 ウフーラなど

※12: ナンシーその3 (金髪ナンシー) Nancy III (Blonde Nancy)
(フランシーヌ・パイン Francine Pyne)

※13: Wrigley's Pleasure Planet
有名なガム「リグリー」のキャッチコピー、"double your pleasure" 「楽しさ二倍」が元ネタのようです

※14: Plum

・本編
※15遺跡。
『航星日誌、追記※16。我々は、惑星 M-113 で各々が別の女性を見ているとは気づかなかった。見る人によって、ナンシーは全く違った女性に見えたのだ。』
建物に入る男性。
カーク:「クレイター博士※17。カーク船長です、ああこちらは…」
クレイター:「英雄カーク船長と我らの健康を守るため宇宙を駆け巡る勇敢な大先生か。任務もほどほどにしてもらいたい、すぐに地球へ戻って下らんことを命令した上司に我々夫婦の邪魔をするなと抗議してくれたまえ。ここは温度が高いため、必要なのは塩だけで健康については何ら心配はいらん!」
マッコイ:「そう伺って安心しましたが、それを事実だと証明しなければなりません。」
「証明だと。我々を小馬鹿にしたような機械で身体をなで回し、勝手に喜ぶだけじゃないか。…帰りたまえ、医者に用はない。」
「自分の研究さえ捗ればいいんですか? 我々もあくまで自分の職務を遂行するだけです!」
カーク:「博士、『地球以外の惑星で研究調査に従事する者は一年おきに担当医の診断を受けなければならない』という規則を御存知でしょう? …私はエンタープライズの船長としてこの規則を実行する…」
クレイター:「袖の金筋を見せて歩きたいのかね、お偉くて結構だ。」
「ドクター・マッコイ、仕事をやりたまえ。」
マッコイ:「…座って深く息をして下さい。」
クレイター:「ドクター・マッコイと聞いたが本当かね?」
「そうです。」
「フン。」 座り、深呼吸するクレイター。「マッコイか。…ナンシーの口からよく聞く名前だね。」
「私が来たこともお聞きになったでしょ。」
「何? ナンシーに会ったのか?」
カーク:「先ほどお会いしました。」
「君もか、じゃドクターと一緒にかね?」
「ええ、何か。」
「いや、別に。ただ、昔の友達に会えてナンシーも嬉しいだろうと思ってね。何しろここは寂しいところなんだ。しかしわしはあれと違って孤独が好きだ。女というものが、君にはわかると思うが?」
マッコイ:「あまり若いので驚きました。12年前※18のナンシーと全然変わってませんよ。信じられんね、まだ 25 の若さだ。」
「いやあ、これはどうも失礼した。船長さんを立たせておくとはとんでもない。」
カーク:「お構いなく。」 座る。
マッコイ:「カーク、君も見たろ。彼女は昔そのままで白髪一本なかった。」
「嘘を言え、だいぶ白かったぞ。もちろん素晴らしい美人だとは思いますが。…とても 25 には。」
マッコイはカークを見る。
クレイター:「……君は昔に囚われてるから自然にそう見えたんだ。今度ナンシーに会ったときは、夢から覚めてそれ相当の年に見えるはずだよ。」
マッコイ:「とにかく絶対 30 以上には見えませんね。」
「かなりの熱だ。…まだそこまで、想っててくれるとはありがたい。『レオナルド』と言ったね。あれも幸せだな?」
「口を開けて?」
「今の機械だけでもう…」
「もちろん今の機械でほとんどわかりますが、この目で喉を見ないと安心できません。さあ、口を開けて。」
女性の悲鳴が聞こえた。フェイザーを手にし、外へ向かうカーク。
マッコイとクレイターも続く。止まらない叫び声。

岩場でダーネルが倒れていた。すぐそばで顔を押さえているナンシー。
カークはダーネルが口にしていた、緑色の物体に触れる。
汗をかいているカーク。「ドクター。」
マッコイ:「死んでる。何だろう、顔に赤い斑点がついてるな。」
「どうしました。」
クレイター:「君が連れてきたのは目につく植物の実ならテストもせず平気で食べるような迂闊な男らしいな。」
「死んだのは私の部下ですよ、何かあったんですか!」
ナンシー:「あの、私…」
マッコイ:「ナンシー、落ち着いて。事実を話せばいい。」
「…どこを探しても…主人がいないので、戻ってきたらその人に出会ったのよ。…だから私、さっきのこと何とも思ってないからって。覚えてるでしょ? …そしたら…毒のあるボルジョアの実※19を持ってる。注意しようとした。…あっという間に口に入れて、彼ったら。…ああ、そのまま…。…どうしたの、私が信用できない?」
「いや、そうじゃなくてちょっと別のこと考えてたんだ。」
口に手を当てるナンシー。
マッコイ:「あの、健康診断は急がないから後回しにしたらどうだろう。」
クレイター:「この通り元気なのにそんなもの必要ない。それより犠牲者を連れて帰ってだ…」
カーク:「任務に関しては口を出さないで下さい。…健康診断は明日行います。」 コミュニケーターを取り出す。「転送ルーム。」
転送部長:『こちら転送ルーム。』
「我々に焦点を合わせろ。3名帰還。」
『転送準備できました。』
ナンシー:「塩よ、もっと塩が欲しいって言ったの。」
クレイター:「食料のことは心配するな、引き受ける。」

エンタープライズ。
※20スポックに近づくウフーラ※21
スポックはクリップボードを持っている。「ミス・ウフーラ、亜空間通信記録の周波数の欄が間違ってるぞ。」
ウフーラ:「そう『周波数』『周波数』って言わないでくれます、今度その言葉を聞いたら私泣きますよ。」
「…泣く?」
笑うウフーラ。「話のきっかけに言ってみただけです。」 後ろにいるレズリー。
スポック:「…しかし、通信士官でありながら『周波数』という言葉に拒否反応を示すとは非論理的だ。理解できん。」
「そりゃわからないでしょ。私は非論理的なの。だんだん自分が通信システムの一部になったみたいな気がして。あなたから見て私って魅力的な女? 私の恋の話聞きたくない? あなたの話でもいいわ、ヴァルカン星の満月の夜ってロマンチックなんでしょうね。」
「…あいにくヴァルカン星には月はない※22。」
「あらそうなの、それは残念。」

転送部長:『転送ルームからブリッジへ、上陸パーティが一人死亡者を出し帰還するそうです。』
スポック:「ブリッジ了解。」
ウフーラ:「…ひどい、信じられないわ。」
「何がだ。」
「何がって、誰か死んだっていうのに平気で…座ってるなんて。もしかしたら親友のカーク船長かも知れないでしょ?」
「私が慌てふためいても、すでに起こったことは変えられない。もし転送ルームが私を必要とするならそのように連絡してくるはずだ。」
離れるウフーラ。

ダーネルの遺体に布を掛けるマッコイ。「ボルジョアの実と言ってたね。」
カーク:「初めて見たな。」
スポック:『ブリッジから診療室※23へ。』
「どうした、スポック。」
モニターに映るスポックは、イヤーレシーバーをつけている。『ライブラリーテープで例の木の実 (このみ) を調査した結果、グループ3※24 の植物でナス科に似ていると判明しました。…所有する毒は M型※25の惑星によく見られるアルカリ性物質※26です。犠牲者の顔の表面に現れている異常な斑点は、この症状には説明がありません。』
マッコイ:「うーん、原因はその毒じゃないな。」
カーク:「待機したまえ。しかし食べたと言ってたな。」
「きっとナンシーの早合点 (はやがってん) だろう。彼には、アルカリ性の毒を食べた形跡はないよ。」
「だが口に入ってたじゃないか…」
「人の専門に鼻を突っ込むなよ。口には入っていても絶対に飲み込んでない、少しでも飲み込んでいたら必ず結果が出る…」
「じゃなぜ急に死んだんだ!」
「それがわかれば苦労せん。この男が死んだという兆候は何一つないんだ。全てのテストの結果から見て今起き上がって歩き出しても不思議ではない。」
ため息をつき、ダーネルの顔を見るカーク。
マッコイ:「不思議だよ、もう一度テストをやってみよう。目が疲れてて間違ったのかもしれん。…初めナンシーに会ったときも 10年前の姿と全然変わりなく見えたからなあ。きっと、言われたように昔の面影を求めてたからだろう。」
カーク:「君の色あせたロマンスなど私には興味はない。部下が死んだんだぞ! 原因を究明したまえ!」
「はい。」
医療室を出ていくカーク。


※15: このエピソードを含め初期の放送作では、オープニングテロップに微妙な差異があります。タイトルの下に第2シーズン以降のように「企画 ジーン・ロッデンベリー」と入り、シャトナーの上に「主演」の文字がありません。ただし旧国内オンエア&LD版では、オープニング全体が第2シーズンと共通の素材、リマスター版では他の第1シーズンと同じになっています

※16: 通常の "supplemental" 「補足」とは異なり、原語でも additional entry と言っています。そのほか原語では additional、continuing という言い方も

※17: ロバート・クレイター教授 Professor Robert Crater
(アルフレッド・ライダー Alfred Ryder ドラマ「0011ナポレオン・ソロ」(1965・67)、「原潜シービュー号 海底科学作戦 (原子力潜水艦シービュー号)」(66・67)、「巨人の惑星」(69) にゲスト出演。1995年4月に死去) ライダーは撮影当時、腕に怪我を負っていました。声:千葉耕市 (「耕」表記あり)、DVD・完全版ビデオ補完では糸博 (TOS第23話 "A Taste of Armageddon" 「コンピューター戦争」のアナン7 も、同じ新旧の配役)

※18: 吹き替えでは「10年前」

※19: Borgia plant

※20: TOS の旧国内オンエア分では、カット部分が存在しています。完全版ビデオ (第1シーズンの一部) および DVD には吹き替えつきで完全収録されており、このエピソードガイドでは色を変えている個所にあたります (CS版との比較)。LD では基本的に、その部分だけ字幕収録です

※21: 今回から、お馴染みの赤制服

※22: 映画第1作 "Star Trek: The Motion Picture" 「スター・トレック」では、ヴァルカン星のそばに大小 2つの天体が見えていました。ただし DVD のディレクターズ・エディション特別完全版でCG化された際、その天体は消えています。解釈としては大きな星は双子惑星で、小さい方はその衛星であるため、ヴァルカンの月ではないという説がありました。なお VOY第147話 "Unimatrix Zero, Part II" 「聖域ユニマトリックス・ゼロ(後編)」では、トゥヴォックが「ヴァルカニス・ルナコロニー」で生まれたことになっています

※23: 医療室は原語では通常の sickbay ではなく、dispensary と呼ばれています。吹き替えでは他のエピソードも含め、診療室と訳されることが大半です

※24: 原語では「炭素グループ3」

※25: 吹き替えでは「N型」とも聞こえます

※26: アルカロイドのこと

『航星日誌、宇宙暦 1513.4※27。依然として、惑星 M-113 周回軌道にある。私と共に上陸した部下は死亡した。原因は不明だ。毒によるものではないことだけは確かである。』
ブリッジ。
ウフーラ:「連絡です。我々が現れないのでコリント第4惑星※28の宇宙船基地※29が問い合わせてきました。補充物資を待ちわびていると、ドミンケズ※30司令官※31がおっしゃってます。」
カーク:「唐辛子※32はそう簡単には腐らんと言ってやれ。…メキシコ産の素晴らしい唐辛子を私が自分で手に入れたんだが、2、3日なくても死ぬことはない。…いいな?」
「わかりました。」
「どうだ。」
スポック:「テープにミスはありません。ボルジョアの実が含んでるのは、アルカリ性の毒だけです。」
カーク:「クレイター博士と奥さんは。」
「記録通りですね。…ここに到着したのは約5年前で、以後多数の船の訪問を受けこれまでかなりの量の美術品および報告書を提出しています。しかしなぜか去年から急に提出の量が少なくなったそうですね。」
マッコイ:『診療室より船長へ。』
カーク:「カークだ。」
『見つけたぞ。』
「何だ。」
『スピーカーでは言えない。』
ターボリフトに入るカークとスポック。

医療室のモニターを見るスポック。「驚いたな※33。」
マッコイ:「まさかと思って見逃すところだった。」
カーク:「何だ。」
スポック:「塩化ナトリウム※34が、全然なくなってます。」
マッコイ:「つまり身体に塩気が全然なく…」
「なぜか説明できるかね?」
「できんね。我々の身体にあるものが彼にはないってことが言えるだけだよ。」
スポック:「これなら死んで当然です。」
カーク:「しかし、身体に異常はなかった。」
マッコイ:「顔に赤い輪がついてたろ?」
「ただの斑点じゃないのか。」
「と思ったんだ。しかし、また私のミスだったよ。」
微笑むカーク。「ミスは誰でも冒すさ。それで? 頭を下げたいのか?」
マッコイ:「とんでもない。彼女のことを考えすぎた傾向はちょっとあったけどね?」
「大いにだな。それはともかく、クレイター博士が欲しがってたものを覚えてるか。」
「何だ、塩か。」
「スポック。…上陸班を編成しろ。クレイター博士を尋問する。」
考えるマッコイ。

尋ねるクレイター。「人にしつこくつきまとうのが船長の仕事かね? ほかに何かあるはずだが。」
カーク:「ありますよ、そのために来ました。奥さんはどこです、話したいんですがね。」
「ちょっと待ちたまえ。何の断りもなく降りてきてわしの重要な仕事を…」
「奥さんはどこにいらっしゃいますか。」
「…外で掘ってるんじゃないかな? …君たちと違って自分の好きな…」
「探してこい。」
クルーのグリーン乗組員※35。「はい!」
カーク:「スポック。」
スポック:『スポックです。』
「スタージョン※36、木の実のサンプルをスポックに転送しろ。記録に載っている植物ではないかもしれんので、分析してもらう。わかったか。」 出ていくスタージョン。
『分析します。』
クレイター:「船長、君たちがわしの星へ何の許可もなく降りてきたという不愉快な事実を…」
カーク:「抗議は記録しておきます。博士、部下は理解できない何者かに殺されました。博士たちもいつ危害を加えられるかわかりません。」
「わしらはここにもう 5年近くもいるんだぞ? もし危険な者がおれば、真っ先にわしらが知っとるはずだ…」
「ドクター、検死の結果を博士に伝えろ。」
マッコイ:「部下の死因は塩の欠乏で、突然塩分がなくなりました。医学的には考えられないことです。」
「面白いことに偶然博士たちも塩を欲しがってらっしゃいましたね。」
クレイター:「なぜわしらが塩を欲しがっとるのか、その大先生にもわからんのかね?」
「暑くて乾燥した惑星では、特に塩を必要とすることはわかります。でもこの事件は、私の嫌いなミステリーだ。ミステリーと聞くだけでも胃が痛くなる。」
奥へ行き、
大きなケースを開けるクレイター。「初めは山ほど※37あったんだがね。もうこれしか残ってない。それでもまだミステリーと言うつもりかね。」
取り出された瓶を手にするカーク。
マッコイはひとかけらを舐めてみた。「塩だ。」
カーク:「うん。…このような場所で人命を守るのもエンタープライズ※6の任務です。博士と夫人を船内に保護させて頂きましょう。人殺しの犯人を見つけるまでです。」
クレイター:「バカな、何を言い出す。」
※38「いざとなれば強制します。」
「わしの仕事を妨害するのは許さん!」
「妨害? 5年もいたのに 2、3日ぐらい何でもないでしょう。」 コミュニケーターを使うカーク。「スポック。」
スポック:『はい。』
「クレイター博士と夫人に部屋を用意しろ。例の分析は済んだかね?」
『やはりボルジョアの一種でして、死因になったとは考えられません。』
マッコイ:「カーク! 逃げたぞ。」
追いかける 2人。

外にいるクレイターは、死んだスタージョンを目にした。やはり赤い輪が顔に出ている。
クレイター:「ナンシー!」
ナンシーは倒れたグリーンのそばにいた。
クレイターには場所がわからない。「おい! 塩だ。塩を持ってきた、やるぞ。塩だナンシー!」
カークの声が聞こえる。「クレイター博士! クレイター博士!」
逃げるクレイター。
カーク:「クレイター博士!」
立ったままのナンシー。
カーク:「どこですか! 博士!」
マッコイがスタージョンに気づいた。「カーク、カーク! スタージョンが。死んでる。」
カーク:「グリーンを探した方がいい。グリーン!」
グリーンも同じく、離れた場所で死んでいた。
カーク:「グリーン!」
遺体を冷たい目で見つめるナンシー。
カーク:「グリーン、出頭しろ。グリーン!」
するとナンシーの姿が変わり、グリーンになった。
カーク:「グリーン、どこにいる! …グリーン!」
歩いていく偽グリーン。
カーク:「グリーン、どこにいる!」
マッコイ:「犯人はクレイター博士だろうか。」
「わからん。グリーン!」 近づいてきた偽グリーンに話すカーク。「あ、これを見たか。」
偽グリーン:「はい。…発見したときは既に死んでいました。ですから付近を、捜査しようと思いまして。」
マッコイ:「顔に同じ赤い輪がついてる。…ナンシーを見たか。クレイター夫人だ。」
「いいえ? 廃墟の中には誰もいません。」
「どうしたんだろう、家にも仕事場にもいないとなると何かあったんだな。ナンシー!」
カーク:「博士!」
「ナンシー、どこだ!」
微笑む偽グリーン。
カーク:「ドクター、一度船に引き返して…」
マッコイ:「ナンシーを見殺しに!」
「惑星中を歩いて探すのは無理だ…」
「カーク!」
「ミスター・スポックを見習ったらどうだ、君の理性はどこへいった。エンタープライズ※6にはマッチ一本でも正確に探し当てる装置が備えてある。冷静になりたまえ。転送ルーム、カークだ。3名帰還!」

エンタープライズ。
転送機が操作され、カーク、マッコイ、偽グリーンが転送された。
カーク:「カークからブリッジ。」
スポック:『スポックです。』
「下に 2名残っているが地上走査装置で位置を探ってくれ。」
『了解。』
「スタージョンの死体も残してきた。」
転送部長※39:「すぐに引き上げます。」
「少し寝た方がいいぞ。」
マッコイ:「そうするか。」
周りをうかがい、外へ向かう偽グリーン。

廊下を歩くカーク。ターボリフトに入った※40。「ブリッジ。」


独り廊下をうろつく偽グリーン。
ジャニス・ランド※41が料理を持ち、ドアの前に立っていた。
口に手を当てる偽グリーン。
サラダを食べるランド。「あらグリーン、下で何があったの?」
振りかけられる塩を見つめる偽グリーン。
手を伸ばそうとするが、ランドにはたかれた。「変な真似しないでよ。」
またかじるランド。到着したターボリフトに乗る。
ドアが閉まる直前、偽グリーンも中に飛び込んだ。

ブリッジのスポック。「おかしいですね、船長。2名のはずでしょ。」
カーク:「クレイター博士夫婦だ。」
「反応は一人しか現れません。きっと博士です。何かを探してるように回ってますね。」
「走査半径を広げろ。」
「はい。」
スポックが操作すると、音が響く※42

到着するターボリフト。ランドに続いて偽グリーンも降りる。
ランド:「宇宙人のお尻を追っかけたらどう?」
廊下を通りがかる保安部員※43。「おいジャニス、それ俺にか?」
ランド:「夢でも見てるんじゃない?」 歩いていく。
転送部長:「美人だな、彼女は。」
保安部員:「俺もあんな美人に、サービスされる身分になりたいよ。」
ランドを追う偽グリーン。

「生命科学部/植物研究班」とある
部屋。ランドが入る。
中は色とりどりの植物で一杯だ※44
ランド:「スールちゃん※45!」
スールー:「植木※46に水をやってるんだ。」
「お食事よ?」
「ああ、ありがとう。君は正に、ミス銀河だな※47…」
「感激だわ? …ああ、こんにちはブルガード※48。本日の御機嫌はいかが、ダーリン?」
触ると音を上げ、動く植物。
スールー:「ガートルード※49だよ。」
ランド:「これは男の植物よ、女の感じでわかるの。」
「ま、男でも女でも大した違いはないさ。こちらに影響はないからね。」
「ところがそうじゃないの大ありよ※50。いつもジーッと見つめられてるみたいで。…そのうちいきなり手でも握られるんじゃないかと思って気が気じゃないわ?」
微笑むスールー。

廊下※51を歩いてくる偽グリーン。植物室に入った。
スールー:「……グリーン、どうした。」
テーブルを見つめる偽グリーン。
ランド:「今日はしゃべらないそうよ。」
偽グリーンは塩を見る※52
ランド:「こっそりソーリアン・ブランデー※53でも飲んで酔っぱらってんの?」
突然、ブルガードが大きな声を上げ始めた。見つめる偽グリーン。
ブルガードの花は引っ込んでいく。両手を広げてドアを開け※54、出ていく偽グリーン。
ブルガードをなでるスールー。「おいおい、落ち着いて。何でもないんだよ。敏感なんだ。」
ランド:「どうかしてるわよ、彼。宇宙にいすぎて変になったんじゃない?」

廊下で音を出すパネルに興味をもつ偽グリーン。口に手を当てる。
ドアが開く音に驚いた。男性クルーが、ウフーラが出てくるのを見ている。
話しているウフーラ。「ねえ、お部屋のドアが開くときにガタガタ言うの。暇があるときに寄って直してくれないかしら※55。」
偽グリーンは姿を変え、黒人技師※56の姿になった。
ウフーラ:「それじゃ御願いね?」
偽技師は独りになったウフーラに近づく。
ウフーラ:「…あなた、私に用なの?」
偽技師:「よく見てくれ。俺のような男に会いたいと、思ってたろ。…君は寂しくて友達が欲しいんじゃないのか。」
「そう? 図々しくあなたが友達になって下さるの?」
「ニナクダニア、ムワナムケ、ムズリ※57。」
「ウナヒキーリ、フーユ。…スワヒリ語だわ?」 偽技師の固い顔を見て、ウフーラから笑みが消えた。
カークの通信。『ウフーラ大尉※58、ブリッジへ。』
近づく偽技師。ウフーラは柱で下がれなくなった。
偽技師は両手を近づける。
カーク:『ウフーラ大尉、ブリッジへ。』
植物室からランドが出てきた。「お盆返してくるわ。バイバイ、ブールガード。」
スールー:「あ待ってくれ、一緒に行くよ。」
カーク:『ウフーラ大尉、ブリッジへ出頭せよ。』
偽技師から離れるウフーラ。「ウフーラ大尉です、すぐ出頭します。」
スールーたちと一緒にターボリフトに入った。歩き始める偽技師。

下着姿で横になるマッコイ。起き上がった。「マッコイからブリッジへ、船長。」
カーク:『カークだ。』 モニターに映る。『その後進展がなく、ナンシーはまだ行方不明だ。少しは寝られたか。』
「いや。」
『私にくれた赤い錠剤を飲んだらどうだ?』 食べ物を口にするカーク。『効くぞ。』
錠剤のケースを手にするマッコイ※59

ターボリフトを出る偽技師。音がした方を見ると、特殊スーツ※60を着たクルーがパネルを操作している。
ついていく偽技師。

コンピューターを見るスポック。「どうもおかしい。船の探査装置が故障したのでない限り、地表※61にいる人間はただ一人だけです。」
カーク:「博士のところへ行こう。夫人に何があったのか、問いただすんだ。私達を見失わないように、モニターしててくれ。大声で叫ぶのが聞こえたらすぐに助けをよこせよ?」
ウフーラ:「了解しました。」
サラダの皿を船長付下士官※62に返すカーク。スポックと共にブリッジを出る。


廊下を歩く偽技師。「レオナルド※63・マッコイ/医師」の札を目にした。
偽技師はナンシーの姿に戻った。
部屋から出てくるマッコイ。「…ナンシー。…さあ、何してるんだ早く入りなさい。心配したぞ? …どうしてカークは一言も言ってくれないんだ。」
ナンシー:「よかった、あなたに会えて。だってほかの人たちはその、何となく冷たくて親しめないのよ。よく私を忘れないで下さったわ?」
「そりゃあ…」
「ねえ、私を独りにしないで。」 抱きつくナンシー。「そばにいると…ホッとするのよ。」
「ナンシー、あのう…」
「主人のこと? ああ、私はやっぱりあなたが好き。ずっと、好きよ。…疲れてるんでしょ? 少し寝なさい?」
笑うマッコイ。「カークと同じことを言うな。これを飲めって言われてね。」 錠剤を見せる。
ナンシー:「飲んだ方がいいわよ、水を持ってくるわ?」

廊下の真ん中で、特殊スーツのクルーが死んでいる。
通りがかり、驚くランド。「この顔見て!」
スールー:「スールーからブリッジへ、デッキ9 で事故発生。医療チームをよこせ!」
クルー※64の顔には、やはり赤い輪があった。


※27: 吹き替えでは「0401.5115」

※28: コリンス4号星 Corinth IV

※29: 原語でも starship base

※30: Dominguez
原語ではカークがファーストネームの「ジョゼ (Jose)」も使っています。吹き替えでは「ドミンケ」

※31: 原語では「宇宙司令官 (Space Commander)」

※32: 吹き替えでは「胡椒」

※33: "Fascinating."

※34: sodium chloride

※35: Crewman Green
(ブルース・ワトソン Bruce Watson) 声:仲村秀生。DVD・完全版ビデオ補完では坂東尚樹、TOS 現スールー、VOY 初代ケアリー、旧ST2 補完デヴィッドなど

※36: Sturgeon
TOS第34話 "Amok Time" 「バルカン星人の秘密」などの脚本、SF作家シオドア・スタージョンにちなんで。エキストラ

※37: 原語では「25ポンド (約11kg)」

※38: カークを後ろから映した時には腕組みしていますが、前からだと組んでいません

※39: Transpoter chief
(ラリー・アントニー Larry Anthony TOS第11話 "Dagger of the Mind" 「悪魔島から来た狂人」のバークレイ (Berkley) 役 (同一人物?)) 廊下でのシーンは、青制服になっています。ノンクレジット。声:矢田耕司、TNG スポックなど。DVD・完全版ビデオ補完では古田信幸、DS9 ダマール、VOY ホーガン、FC ホークなど

※40: 聞き慣れない作動音がしています

※41: Janice Rand
(グレース・リー・ホイットニー Grace Lee Whitney) 前話 "The Enemy Within" に引き続き登場。声:此島愛子、DVD・完全版ビデオ補完では榎本智恵子

※42: これも珍しいですね

※43: 保安クルーその1 Crewman guard #1
(ギャリソン・トゥルー Garrison True) ノンクレジット。こういった廊下での何気ない会話シーンは、後期エピソードではあまり見られなくなります。声:飯塚昭三。DVD・完全版ビデオ補完では納谷六朗、TOS代役/VOY スールー、TNG レミック、DS9 初代ウェイユンなど

※44: 医療室を改装したセット

※45: 吹き替えでは「カートちゃん」となります

※46: 原語では weeper (泣く者)。ブルガードのような動く植物のことを指しているようです

※47: 原語では "May the Great Bird of Galaxy bless your planet." 「君の星に銀河の巨鳥の御加護がありますように」。Great Bird of Galaxy というのは、ボブ・ジャストマンがジーン・ロッデンベリーにつけたニックネームです。TNG第3話 "The Naked Now" 「未知からの誘惑」などのオクダグラムでジョークとして、制服姿のオウムの身体にロッデンベリーの頭をつけた絵が入っています

※48: Beauregard
ブルガード人形師 Beauregard puppeteer として演じているのはボブ・ベイカー (Bob Baker)。明らかに「手」です。ノンクレジット。メーキャップアーティストのフレッド・フィリップス (Fred Phillips) のミドルネームにちなんでかもしれません

※49: Gertrude
どちらもただの愛称で、ブルガード=男性名、ガートルード=女性名

※50: 原語では、スールー「どうしてみんな無生物を『彼女』って呼びたがるのかな。例えばそう、『彼女は速い船だ』とかね」 ランド「彼は無生物じゃないわよ」

※51: このシーンなどで、珍しくズボン姿の女性士官が歩いています

※52: 料理のアップになったとき、ボウルだった容器が皿になっています

※53: Saurian brandy
前話 "The Enemy Within" より。吹き替えでは「ブランデー」のみ

※54: ドアが開くときに「ガラガラ」と、まるでスタジオの音のようなものがそのまま入っています。ただし原音のみで、吹き替え側では御丁寧に修正されています。最後のブリッジのドアも同様

※55: 原語ではボビーと呼びかけています。エキストラ

※56: 乗組員 (ウフーラの部下) Crewman (Uhura's crewman)
(ヴィンス・ハワード Vince Howard) 声:田中信夫。資料では保安部員その1 (脚注※43) の声優と間違えています

※57: 「美人な君のことを想っている」という意味

※58: 吹き替えでは「尉」。シリーズ中一貫して、ウフーラの階級は大尉です

※59: 後ろにある 3本の筒は、TOS第4話 "Mudd's Women" 「恐怖のビーナス」でも使われたもの

※60: 珍しいスーツで、アウターリミッツ「大爆発」に登場したものに似ています

※61: 原語では「半径 100マイル (約160km)」とも言っています

※62: エキストラの Jeannie Shepard

※63: 字幕ではレナード

※64: スールーがバンハートに触れたとき、反射的に目が反応しています

『航星日誌、宇宙暦 1513.8※65。部下が何か不思議な生物に殺されたことは、今や明らかである。』
マッコイの部屋※66
横になっているマッコイは、ナンシーにあごをなでられている。「心配したよ。博士の態度はおかしいし…部下は死ぬし。」
ナンシー:「可哀想に、疲れてるのね。お休みなさい…」
ウフーラの通信。『医療部に非常警報、関係者は待機して下さい。』
起き上がろうとするマッコイを止めるナンシー。「大丈夫、何でもないわ? 安心して寝て。あとは任せてちょうだい。」
ナンシーはマッコイの額をさすり、手についた汗を舐めようとする。
ウフーラ:『ドクター・マッコイ、ブリッジへ。…ドクター・マッコイ、ブリッジへ。』
眠りに落ちたマッコイのそばには、睡眠薬が置いてある。
ナンシーは立ち上がった。マッコイを見つめ、口に指を運ぶ。
ウフーラ:『ドクター・マッコイ、ブリッジへ。』
ナンシーは今度はマッコイの姿になっていた。
部屋を出る偽マッコイ。

『航星日誌、追記。身体の自由が利き、しかも武装した部下がこうも簡単に殺されるのは不思議だ。私はもう一度クレイター博士を尋問するため、ミスター・スポックを伴って惑星 M-113 へやってきた※67。』
M-113。
カークは隠れているクレイターを発見した。「クレイター博士!」
クレイター:「帰れ、君たちに用はない!」
「博士。奥さんはどうなさいました、何かあったんですか。」
「来ると撃つ、早く帰れ!」
「…博士、奥さんはどこですか!」
「お前たちには関係ない!」
「万一のことがあったらどうします! …いいんですか! 冷静に考えて早く我々に…」 呼び出しに応えるカーク※68。「カークだ。」
スールー:『犠牲者が出ました! バンハート※69の死体がデッキ9 で発見されました、同じ症状です。』

付近を歩いていたスポックは、クルーの遺体を見つけた。「船長、こちらスポック。左のアーチの外へ来て下さい。」

カーク:「ミスター・スールー、待機しろ。スポックが呼んでる。」

駆けつけるカーク。
スポック:「グリーンです。」
カーク:「我々と帰還したはずだぞ。」
「本人でしょうか。」
カークはグリーンの遺体を見た。「…カークから、エンタープライズ。」
スールー:『スールーです。』
「部下のグリーンに変装して何者かが潜入した。戒厳令を敷け、非常警戒第3態勢。」
『了解、発令します。』

廊下に流れるスールーの通信。『戒厳令発令、何者かが潜入した。非常警戒、第3態勢を取れ。』
急ぐクルー。
※70スールー:『戒厳令発令、何者かが潜入した。非常警戒、第3態勢を取れ。』
誰もいなくなった廊下で、保安部員が組んで歩き始めた。

報告するウフーラの声。『非常警戒第3態勢に入りました、救援班を派遣しましょうか。』
スポック:「博士が犯人を知ってます、連れて戻りましょう。」
カーク:「その必要はない。我々の動きに注意しろ、以上。…捕まえよう。」
クレイターが銃を撃ってきた。壊れる遺跡。
クレイター:「お前たちには用はない!※71 …邪魔は許さん! いざとなればお前たちを殺す! カーク、聞こえたか! 殺すか殺されるかだ、いつでも相手になってやる!」
スポック:「生け捕りにするのはかなり難しそうですね。」
カーク:「フェイザーを使え※72、私はまだ麻酔ビームにしておく。」
「下手すると殺されますよ。」
「本気じゃない、脅かしてるだけだ。博士に人は殺せん。」
「あそこです。」 態勢を低くしたまま、後ろに下がるスポック。

眠ったままのマッコイ。

偽マッコイはターボリフトを出た。ブリッジだ。
スールー:「デッキ5、7、および 10※73 は、第3態勢を確認せよ。どうぞ?」
ウフーラ:「補給部にも見当たりません。」
「じゃあ機関部、関係者を全員ファイルと照合しろ。」
「はい。」
保安部員:『こちらデッキ5、グリーンは自分の部屋にもいません。目撃者なし。』
スールー:「注意しろ? もしいたとしてもグリーンじゃない、グリーンは既に死んでる。」
ランド:「そうよ。さっき後をつけられたとき、何だかおかしいなって感じたのよ。」
「グリーンだけじゃなく、君の部下にも変装するかもしれんぞ?」
ウフーラ:「それじゃ彼もそうかしら。だってあの時だいぶ様子がおかしかったもの。」
偽マッコイは静かに言った。「彼との隠れんぼはどっちが勝ちそうだね。」
スールー:「彼って?」
「部下殺しの謎の人物のことだ。…どこまでわかってる。教えてくれ。」

遺跡に隠れながら、近づくカーク。
スポックも別方向から向かう。
這って進むカーク※74
コミュニケーターを取り出すスポック。
カークは応えた。「セット。」
スポック:「了解。…博士!」
振り向くクレイター。
カークはフェイザーを発射した。
クレイターに命中する※75
2人は近づき、クレイターの武器を奪った。
カーク:「奥さんはどこにいます。…博士、奥さんはどこです。」
クレイター※76:「…あれは、最後の一匹だったのに。」
「……最後の一匹?」
「…最後の一匹だ。…地球の歴史を覚えてるか。…北アメリカのワタリバト※77や、野牛※78や…うーん変な気分だ。」
「麻酔です、すぐに治りますから。」
スポック:「…地球の野牛が、どうしました。」
クレイター:「昔は、何百万頭といた。草原が野牛で真っ黒になるほど見渡す限りいて、移動する足音は雷のようにとどろいた。」
「それが今はいない、という意味ですか?」
うなずくクレイター。「あれも同じだった。…昔はここに何百万といたのに、残ったのは一匹だ。ナンシーはわかってくれた。」
スポック:「…全て過去形ですね※79。」
カーク:「…奥さんは今どこにいます。」
クレイター:「死んで、丘に埋めてある。あれに殺された…」
「いつです!」
「去年、一昨年か。」
「…エンタープライズ。」
スールー:『こちらブリッジ、スールーです。』
「潜入者は、自由に姿を変えることが判明した。つまり、私や君にもなれるわけだ。」
『了解しました。』
「第4態勢。」
『第4態勢に入ります。』
クレイター:「あれに悪意はない、生き長らえようとしてるだけだ。」
カーク:「カークから転送ルーム、3名帰還。」
「生きるために塩が必要なんだがなくなってしまって、あれは最後の一匹だ。…地球で滅びた野牛と同じだよ。」
「野牛とは違います! 野牛は人殺しをしなかった!」


※65: 原語では「0401.5118」

※66: 唯一の登場

※67: 原語では「私はもう一度」の個所から、「どうやら人殺しは、近づく時に相手を止めることができるらしい。恐らく何らかの催眠術、もしくは麻痺させる力をもっているのだろう。答えはクレイター博士が握っている」

※68: コミュニケーターを開く音が入っていません (後でスポックの呼び出しに応えるときも)

※69: Barnhart
エキストラの Budd Albright

※70: 一部は TOS "Where No Man Has Gone Before" 用に撮影された映像を使用しているため、制服も古いものです

※71: クレイターはエンタープライズのクルーとは異なり、第1話 "The Cage" などで使われたレーザーと同じ銃を使っています。レーザーなのか、古いフェイザーとして意図されたものかは不明

※72: 原語では「(出力) 4分の1で」とも言っています

※73: 吹き替えでは「5 および 7」

※74: 腰につけているコミュニケーターのフタが、開いたり閉じたりしています

※75: 弾丸の音を加工した、変わった素材が使われています

※76: 原語では麻痺したことを表すため、声が低く加工されています。この描写からすると、かなり弱い麻痺設定だったようですね

※77: リョコウバトのこと。1914年に絶滅

※78: バッファロー (アメリカバイソン) のこと。絶滅しかけましたが、現時点では個体数は回復傾向にあります

※79: 吹き替えでは「理解できませんね」

エンタープライズ。
『航星日誌、追記。エンタープライズ※6は危機に晒されている。変幻自在で誰の姿をも借りられる恐るべき人殺しが、船内に忍び込んでいるのだ。』
廊下を歩く保安部員。
スールー:『セクション3 デッキ5、セクション3 デッキ5、報告せよ。』
保安部員:「デッキ5、異常なし。第4態勢確認。」

まだ眠っているマッコイ。

報告するウフーラ。「成果なしです、乗組員全員をチェックしましたが例の男は見当たりません。」
カーク:「ランドはその『グリーン』に何分ほどつけられた。」
ランド:「ほんの少しです。多分私が持っていた塩を狙ったんでしょう。」
「スポック。」
スポック:「現在全てのデッキで、塩を餌におびき寄せようと配置を済ませましたが、まだ何者も接近した兆候はありません。」
「ドクター・マッコイ。」
偽マッコイ:「…ああ。」
「医療部の報告をしたまえ。」
「ああ。そのう…ただ塩を欲しがってるなら与えたらどうですか、そうすれば人殺しはしませんよ?」
偽マッコイを見るクレイター。
スポック:「しないという確証はありますか、すでに何人も殺されてるんだ。」
クレイター:「十分に与えてやれば危険はない。」
偽マッコイ:「そう、誰にでも化けうる才能を利用してただ生き長らえようとしているだけで、敵意はない。」
「カメレオンが保護色を使うのと同じように、原始的な頃からもち続けている一つの能力と言えるだろう。原始時代の人間の牙が犬歯として残ってるのと同じだ。また我々人間のある筋肉は、獲物を獲るために発達したもんだがいざとなれば筋肉も昔のような使い方をするはずだ。」
「それに人間のように、知性のある動物だ。だから、野獣を追うような真似はしなくても。」
スポック:「非常に面白い仮説ですね?」 呼び出しに応える。「会議室だ。」
モニターに映るスールー。『ホールを全て封鎖し、武器の数を確認してロックしました。各部第4体制を維持していますが、未だに手がかりはつかめません。』
カーク:「船長了解、捜査を続けろ。博士、相手が何者か見当もつかないんです、協力して下さい。」
クレイター:「だから、仕事の邪魔をせずに帰れと言ったのに。」
「あなたが見ればそれだとわかりますか。…博士。これまでのことは水に流してもいい。だがその生物が船に侵入した以上必ず捕らえる。…反抗する者は許さん、どこにいる!」
「……わしはナンシーを深く愛した。二人といない女性だった。…そのナンシーは今わしの夢の中に生き続けているんだ。」
「頼めばその生物がナンシーになってくれるか?」
「ナンシーに化けられるからかばうんじゃない。塩と同じように愛情を必要としとるんだ。ナンシーが襲われたときそいつを殺しかけたんだが、単なる野獣じゃない。知能をもっていて、しかも最後の一匹だ。」
「我々凡人には通用しないな。…そういう気高い物語は。…付き合ってみたらその生物はあなたに天国を与えてくれたんで、手放せなくなったんだろ。奥さんにもなってくれるし、恋人、親友、聖人、愚か者、奴隷にも何でも好きなものになってくれる。面白い暮らしじゃないか、何でも自分の望みがかなって自分が世界一偉いんだからな。」
「君は誤解しとる。」
「それが誰に姿を変えても、自分が見ればわかるのか。」
「わかる。」
「では協力したまえ!」
「…悪いができんね。」
スポック:「…自白液を打ったらどうでしょうか。」
カーク:「ドクター。」
偽マッコイ:「…そりゃあ、あまり使いたくないがこの場合…しゃべってもらうにはそれしかない。」
「連れて行け。」
スポック:「…私も行きましょう。」
偽マッコイ:「ああ、どうぞどうぞ。」
外に出る 3人。

廊下。
スールーの通信。『船長、診療室へ。船長、診療室へ。緊急事態。』
走るカーク。

医療室の入口は保安部員が守っている。
ベッドに寝かされるスポック。「ドクターではなくて、例の生物でした。…フェイザーガンを盗られて。態度がおかしいんで…変な予感がしたんですが。」
ランド:「船長。」
クレイターが塩を摂られて倒れていた。
ランド:「クレイター博士だわ。」
カーク:「死んでる。…君はどうしたんだ。」
スポック:「人類と違って私は別の星で生まれましたからね。血液の塩分が違うんです。」

部屋に入る偽マッコイは、ベッドの本物のマッコイを見た。
姿をナンシーに戻す。「…お願い、起きて助けてちょうだい? …ねえ助けて! 私を殺すつもりなのよ、お願い、やめさせて…」
目を覚ますマッコイ。「何? どうしたんだ、急にそんなこと言い出して。」
ナンシー:「ほんとよ、助けて早く。」
フェイザーを持ったカークが入った。「ドクター、離れろ。」
マッコイ:「どういうつもりだ、それは。」
「それはナンシーじゃない。」
フェイザーを向けるカーク。
マッコイ:「何をバカなことを。」
カーク:「博士も殺された。5人目だ。」
「何?」
「怪物だぞ、人殺しだ。…塩を吸い取るんだ、女から離れろ!」
「嫌だ!」
「もっと塩が欲しいはずだ、どうだナンシー?」
白い錠剤を見せるカーク。「…取りに来い。」
マッコイ:「バカな真似はよせ!」
「塩がなければ、死ぬ。見てみろ。」
ナンシーは塩から目が離せない。「お願い、私が好きなら追っ払って。」
カーク:「どうした、欲しくないのか? やるぞ、取りに来い。ここまで来い!」
※80「お願い、助けて…」
マッコイ:「いい加減にしろ…」
カーク:「邪魔するな、いま私が証明してやる…」
「出ていけ、出ていくんだ!」
「これはナンシーじゃない、怪物だぞ!」
ナンシー:「殺されるわ、レオナード助けて…」
マッコイはカークからフェイザーを奪った。同時にナンシーは塩を口にする。
ナンシーは身構え、カークに手を近づけていく。見ているだけのマッコイ。
動けないカーク。その顔に手を這わせるナンシー。
スポックが来た。「船長が殺される! ドクター、早く撃て!」
マッコイ:「嫌だ!」
スポックはマッコイからフェイザーを取ろうとしたが、抵抗された。「バカな!」
ナンシーを押しのけるスポック。「船長を殺すつもりか、早く撃て!」
マッコイ:「ナンシーを撃ったりできん!」
ナンシーを殴り始めるスポック。「まだわからんのか、ナンシーだったらこんなことをするわけはない!」
マッコイ:「やめろ! スポック、やめろ! …やめろ!」
ナンシーが一度手を払っただけで、スポックは壁まで吹き飛んだ。
スポック:「…これでもナンシーなのか。」
マッコイ:「いや。」
再びカークに手を近づけるナンシー。
マッコイ:「やめろ!」
ナンシーの姿は、異星人※81のものになった。
吸盤のついた手をカークにつける異星人。叫ぶカーク。
マッコイはフェイザーを撃った。異星人はカークから離れる。
顔を押さえるカーク。
異星人はナンシーの姿に戻った。「マッコイ。駄目、助けて。」 近づいてくる。「助けて。お願い。」
マッコイ:「神よ、許したまえ。」
フェイザーを受け、ナンシーは倒れた。異星人の姿になる。
全く動かない異星人。
カーク:「ありがとう※82、ドクター。」

ブリッジ。
スールー:「軌道離脱、準備できました。」
スポック:「…どうかしましたか。」
微笑むカーク。「…野牛のことを考えてたんだ。」
スポックはわずかに微笑んだように見える。
マッコイを見るカーク。マッコイも笑みを見せた。
カーク:「ワープ1 で離脱!」
スクリーンに映る M-113。
スールー:「ワープ1、離脱します。」
惑星は、急速に小さくなっていく。


※80: この個所の全員が一斉にしゃべる個所は、DVD・完全版ビデオ補完では吹き返し直されています。旧吹き替えでは、マッコイのセリフで「本当に気でも狂ったのか」と聞こえる個所があるためと思われます

※81: M-113 の生物 (怪物) M-113 creature
(シャロン・ギンペル Sharon Gimpel) 正式な呼称は言及・設定されておらず、ファンの間では「ソルトヴァンパイア (Salt Vampire、いわば吸塩鬼)」として知られています。スタッフは Salt Sucker と呼んでいました。ワー・チャン (Wah Chang) デザイン・製作で、悲しんでいる顔がイメージされています (LD ではフレッド・フィリップス (脚注※48) がデザインと掲載)。TOS第18話 "The Squire of Gothos" 「ゴトス星の怪人」で、トリレーンの屋敷に M-113 の生物の剥製が飾られています。セリフなし、ノンクレジット

※82: 原語では「残念だ」

・感想など
記念すべき本国放送における第一話。SFドラマとしては普通すぎるほどオーソドックスにまとまっているために選ばれたのかもしれませんが、スタートレックらしいかといえば少し別問題でしょうか。日本では、きちんと「光るめだま」を第一話にしたのは正解でしたね。とはいえマッコイの過去や恋愛が触れられるという、他の全エピソードを含めても珍しい内容になっています。そのほかにも初期ならではのポイントが数多くあり、スールーの植物好きなんかもそうですかね。
旧題の一つには、"Damsel with a Dulcimer" 「ダルシマーを持った乙女」というものもありました。Marc Daniels の初監督作品です。


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