USS Kyushuトップ | hoshi.sa.to

エンタープライズ エピソードガイド
第90話「氷窟の民」
The Aenar

dot

・イントロダクション
ロミュランの司令室に来ているヴラックス。「あの領域で不和を起こすのが任務のはずだ。全く逆になってしまった。」 そばにいるレムス人。
ヴァルドア:「議員、批判は…」
「アンドリアとテラライトが同盟を結んだのだぞ。協力し合ったことなどかつてなかったのに。」
「破綻します。」
「議員仲間は、君のように楽観的ではない。ミッション中止の動議を出しているぞ。」
「大きな間違いです。」
「間違っていたのは、このミッションを支持した私だ。私の立場が、どれほど悪くなったかわかるのか。」
「これが終われば、第一執政官になれるんです。」
「これほどの失策を犯しては、命も危うい。」
「終わってはいません。まだこれからだ。地球人を片づけます。彼らがアンドリアとテラライトを接近させた。…第2 のドローン船の戦闘準備ができています。…2隻なら、攻撃力は遥かに上回る。…あのエンタープライズを見つけ、大破させます。」



・本編
ワープ中のエンタープライズ。
『航星日誌、補足。テラライトの大使は、別の船で母星に戻った。シュランは残り、攻撃船※1の捜索に加わる。』
会議室で飲み物を汲むアーチャー。
トゥポル:「あれは、テレプレゼンスで操縦されたドローン船です。どこか遠隔地から、あの船を操作しているということです。」
シュラン:「我々も以前実験はしたが、不可能だった。」
「パイロットは、何光年も離れた場所からドローン船を操作できるようです。」
リード:「あの船は、本当に無人だったのか。」
タッカー:「操縦してた奴は安全な母星にいたわけだ。」
トゥポル:「恐らくは。」
「きったないな。」
アーチャー:「その、テレプレゼンスを妨害できないのか。」
トゥポル:「少佐が持ち帰ったデータを分析していますが、テレプレゼンス装置は造れると思います。」
タッカー:「あれをハイジャックするのか?」
「そこまでは。…ただ、あの船の操縦を妨害することは可能でしょう。」
アーチャー:「始めてくれ。」
「一つ、問題があります。…収集データに、脳波パターンが含まれていました。パイロットのものと思われますが。」
フロックス:「非常に強い、テレパシーをもった固体ですね。」
「つまり、この装置の操作にはテレパシーが必要ということです。」
アーチャー:「ヴァルカンには、テレパシーがある。」
フロックス:「これほど強くはない。」
「種族を特定できるか。」
「データベースにはない種族です。ただ、最も近かったのはアンドリアです。」
その言葉に驚くシュラン。

報告するニジル※2。「地球船のせいで損傷が出ています。レシーバーアレイは全交換です。」
ヴァルドア:「人員は全て修理に回せ。」
「船体よりもっと心配なのは、パイロットです。」
「どうした。」
「船の操縦は体力を消耗します。」
「3日は休養をとらせよう。」
「不十分です。…精神的に極度に疲労している。1隻の操縦でも大きな負担なのに、2隻では。」
「興奮剤を増やせばいい。」
「今の投与量でも既に危険なんです。回復不能になる。…死にますよ。」
「ミッションの成功より、あの男の方を心配してるように聞こえるぞ。」
「パイロットなしでは、ミッション自体ありえません。」
「地球船を破壊するまでは何とか生かしておけ。その後はどうなろうと構わん。」

作戦室でドアチャイムに応えるアーチャー。「入れ。」
シュラン:「母星から連絡が入った。科学者が、例の脳波を特定したよ。」 ワープはしていない。
「それで?」
「我が星の者だが、普通のアンドリア人とは違う。イーナー※3だ。…連中はつまり、我々の亜種だ。目が見えず、氷窟に住む。神話の中の存在だと思われていた。ほら、子供のおとぎ話の類だよ。それが、50年前に北部雪原で発見されたんだ。彼らは外界と接触しない。イーナーを直接見たアンドリア人は、片手にも満たない。」
「あの船を造る技術があるのか。」
「いや、そんな技術力があるとは思えないな。2、3千人しかいないし、第一彼らは平和主義者なんだ。…暴力を嫌ってる。」
「一人だけ違う。」
「まあそのようだ。」
「そのパイロットを見つける必要がある。」
「同感だ。」
通信機に触れるアーチャー。「トラヴィス。」
メイウェザー:『はい。』
「アンドリアに向かえ。最大ワープだ。」

医療室に機械が持ち込まれている。タッカーは立ちくらみを起こしたようだ。
トゥポル:「休むべきです。」
タッカー:「…すぐに収まる。」
「休養すべきだと、フロックスが言っていました。」
「フロックス? 俺のこと聞いたのか?」
「話題に上っただけです。」
「へえ。…休んでる暇はないんだよ、早くこれを仕上げないと。」
「…私がやります。」
「ややこしい計算は得意だろうが、実際機械を組み立てるのは…」 トゥポルが取れなかった部品を外すタッカー。「君の手には負えない。デュラナイト※4のキャップは外した方がいい。その方が上手くいくんだ。」 渡した。
「覚えておきます。」
「こないだあの船にマルコムといたとき、生きては帰れないと思った。経験あるか。」
「エンタープライズの出航以来、全員何度となく死を意識したはずです。」
「死ぬかもしれないじゃなくてさ。もうこれで終わりだと、観念したことはあるか? 今なら、その時までまだ時間がある。」
「…デルフィック領域で球体41 を破壊しに行ったとき※5に、死を覚悟しました。」
「何を考えた。」
「非常用パワーをディフレクターに、回すべきかどうか。どうしてです?」
「…聞いただけだよ。」

エンタープライズは輪をもった惑星に近づく。複数の衛星がある。
リード:「イーナー居住区は、妨害フィールドで覆われています。中からは、船と連絡が取れません。軍事部隊を 2人ほど、同行させてください。」
宇宙艦隊のマークのついた防寒用ジャケットを着ているシュラン。「武力の片鱗でも見せたら、何も聞き出せなくなる。」
アーチャー:「我々だけで行く。」 2人の背中にはケース。転送台に立った。
リード:「船長、でも何の情報もないんですよ?」
「だから行くんだ。転送しろ。」

一面氷の大地。空には惑星が見えている※6
転送されてきたシュランは、息を吸った。「ああ…空気が美味い。」 笑う。「沸々と血が沸き立つねえ。」
シュランのスキャナーを見るアーチャー。「零下 28度?」
シュラン:「真夏で運が良かったな。」
アーチャーは息をつく。
シュラン:「入口は 20メートル先だ。ヴァルカンじゃ砂漠が人に忍耐を教えると言われてるようだが、氷こそが真に人を鍛える。」
アーチャー:「こんなところで生きられるのか。」
「楽じゃないさ。アンドリアの都市は全部地下にある。地熱を利用するためだ。」 氷の一部が色とりどりに光っている。「太陽を見たのは 15歳の時だ。」
よろめき、ひざをつくシュラン。
アーチャー:「気をつけろ、まだ本調子じゃないんだ。」
シュラン:「平気だ、ピンクスキン。ああ。このトンネルは、何千キロにも渡って広がってる。迷ったら大変だぞ。」 進んでいく 2人。

ニジルは外を見ているヴァルドアに近づいた。「12時間で、発進できます。」
ヴァルドア:「パイロットは。」
「休んでいます。」
「やれるのか。」
「できる状態にします。」
「兵士のセリフだな。」
「私は科学者です。」
「ニジル、全員が兵士だ。…生まれた瞬間からな。それを忘れると、悲劇が起きる。私が議員だったのを、知っているか。」
「いえ?」
「何年も前だ。ヴラックスと共に働いた。友人とまで思っていたよ。」
「どうしたんです?」
「バカなことに、無限の拡大という身命に疑問を呈した…質問をしたんだよ。征服が本当に、我々の最善の道ですかとな。それで追放されたんだ。」
「残念です。」
「同情でなく私の経験から、教訓を学べと言っているんだ。…議場から連れ出されたとき、同じ間違いは犯さないと誓った。決して目的を、忘れないとな。」
「わかりました。」
「さあ行くんだ。準備を続けろ。」
うなずき、出ていくニジル。

氷のトンネルのあちこちに、小さな穴がたくさんあって光が差し込んでいる。
シュラン:「氷虫 (こおりむし) ※7だな。氷の中に棲み、化学反応で熱を出すんだ。一日二日前に大群が通ってる。」
アーチャー:「フロックスなら採集したがるだろうなあ。」
「近寄らない方がいい。…子供の頃、転んで巣に突っ込んだんだ。身体半分、3度の火傷だよ。」
ガケに近づいた。うめくシュラン。
アーチャー:「シュラン、悪いことは言わない。別の道を探そう。」
シュラン:「高所恐怖症か?」
2人は階段状の部分を降りていく。その時、シュランがバランスを崩して倒れた。
アーチャー:「シュラン!」
床まで転がり落ち、叫ぶシュラン。アーチャーも追いついた。
鋭い氷の棒が、シュランの右足を貫通している。青い血で濡れた氷。
シュラン:「足下の氷が割れた※8!」
抜こうとするアーチャーを止めるシュラン。「待て!」 自分で足を持ち上げる。
絶叫と共に、抜くことができた。
手伝ったアーチャー。「出血がひどい。」 医療キットを取り出す。「動くな。」
その時、洞窟の奥から 2人の様子をうかがう者がいた。白い肌をしている。


※1: ここだけ「撃船」という訳ではありません

※2: ニジル役の J・マイケル・フリンは、今回に限りノンクレジットです

※3: Aenar
原題

※4: duranite

※5: ENT第76話 "Zero Hour" 「最終決戦」より

※6: アンドリアが登場するのは史上初。映像からすると、アンドリア人は惑星ではなく衛星が母星だということがわかります。かつてアンドリア人の故郷が「アンドリア (Andoria)」のほかに「アンドア (Andor、DS9第140話 "Change of Heart" 「至高の絆」など)」とも呼ばれていたことを説明するため、衛星=アンドリア、ガス巨星=アンドアとする見方もあるようです。氷の星という設定は前話のユーシャーン同様、非正史の TRPG用ソースブック "The Andorians: Among the Clans" (1999) の表紙から影響されたもの

※7: ice-bore
bore=穴あけ道具、掘削機

※8: 「氷が下 (床) から貫いてる」の方が適切な訳かもしれません。氷が割れたので落ちないように急ぐ、という描写も特に見られませんので

うめくシュラン。「ああ…。」
アーチャー:「動くな。…血は止まった。だが動けばまた出血するぞ。」 包帯を巻き終えた。
「止まってはいられない。凍え死ぬ。」
「うん。」 アーチャーはコミュニケーターを取り出した。「アーチャーよりエンタープライズ。…アーチャーよりエンタープライズ…」
「ここは妨害フィールドの中なんだぞ。」
「試して損はないさ。」
シュランは洞窟の奥を見つめた。
アーチャー:「イーナーの場所は遠いのか。」
シュラン:「意外に近かったようだな。」
そちらを見るアーチャー。
一人の人物がゆっくりと進み出てきた。
周りの洞窟からも、次々と現れる。
服も白い異星人に話しかけるアーチャー。「こんにちは。…助けがいるんだ。…友人が怪我をした。」
イーナーの一人が近づき、シュランのそばにかがんで再び立った。
その女性、ジャメル※9は言った。「手伝いましょう。」

医療室で組み立てられるテレプレゼンス装置。
フロックス:「神経インターフェイスのデータが足りない。」
トゥポル:「それだけです。」
「テストは、やりますがね。危険ですよ。」
タッカー:「どの程度だ。」
「インターフェイスに誤作動があれば、神経溶解ショックが起き脳に損傷が出ます。」
「危険を、減らす方法はないのか。」
「注意深く観察するしかありません。」
トゥポル:「…いつ始められます。」
「明日には。」
タッカー:「俺が、実験台になる。」
トゥポル:「テレパシーがないのに? それでは装置を試すことになりません。」
「…脳に危険かどうかはわかる。」
「私が実験します。」
「今は船の指揮官だ、危険すぎる。」
「状況を考えれば、リスクは仕方ありません。」
「せめて船長が戻るまで待てよ。」
「船長が戻る前に装置を完成させるべきです。テストを、急がねばなりません。」
ため息をつくタッカー。
トゥポル:「話はこれで終わりです。……仕事に戻ってください。」
何も言わないフロックス。

洞窟に巨大な都市が広がっている。
アーチャーがいる洞窟内の部屋に、別の女性イーナー※10がやってきた。シュランは治療を受けている。
イーナー:「治療は順調です。2、3時間で歩けるようになるでしょう。」
シュラン:「世話を掛けるな。」
うなずき、出ていく医師。
イーナー:「アーチャー船長ね?」
アーチャー:「心を読んだのかな。」
「厳しい法律があります。承諾なしに思考に入ることは許されない。アンドリアの総裁からあなたの名前を聞いたのです。」
「ここの責任者と話したい。」
「リーダーは必要に応じて選ばれます。今回は私が、スピーカーに選ばれました。」
「来たわけはわかっていますね。」
「総裁から聞いています。何者かに船を襲われ、我々を疑っているのだとか。」
「ことは、もう少し複雑なんですよ。」
「あなたの思考を読ませてくだされば、信用もしやすいでしょう。」
シュランを見るアーチャー。シュランは首を振った。
アーチャー:「…どうぞ。」
不満そうなシュラン。
イーナー:「…興味深い思考ですね。…多くの面がある。」
アーチャー:「どうも。」
「矛盾する面もいくつかあるようだわ?」
シュラン:「ああ、どうりでな。」
アーチャー:「シュラン。」
イーナー:「…証拠には疑問の余地がないようですね。船を操作していたのはイーナーのようです。」
「でも信じない?」
「我々は非暴力主義です。我が種族の者が多くの死者を出したというのは、恐ろしいことですから。」
「心当たりはありませんか、一体誰か。」
「…一つ心当たりが。」
シュラン:「誰だ!」
「一年前、氷虫を獲りに行き戻らなかった者がいます。事故で死んだと思っていましたが、遺体は見つからなかった。」
「行方がわかったな。」
「彼の意思とはとても思えません。」
アーチャー:「拉致されたのか。」
「それならありえます。」
シュラン:「そいつの意思かどうかなどどうでもいい! どう止めるかだ!」
「あなたの船で造っている装置は。」
アーチャー:「襲撃船をコントロールする、シグナルを妨害するためだ。」
「我々しか操作できません。」
シュラン:「そのぐらいの手を貸すのは、当然のことだろ。」
「ほかの者たちと相談します。」 イーナーは出ていった。

エンタープライズ。
食堂に入るタッカー。カップを装置に入れた。「コーヒー、濃いやつ。」

コーヒーを持って廊下に出たタッカー。
前からトゥポルがやってきた。「少佐。」
タッカー:「やあ。」
「トリップ。……心配してくれたことには、感謝します。」
「ただ、副長に何かあっちゃ困るだろ。」
「個人的感情が、仕事に影響しています。」
「仕事は問題なくやってるよ。心配してるのも、任務上の理由だ。」 タッカーは歩いていった。

暗い部屋。
ジャメルが立っている。
立ち去ろうとしたとき、シュランが声を出した。「そんな風に足下に立ってられちゃあ、よく眠れないな。」
ジャメル:「お邪魔してごめんなさい。」
「ま、起きてたけどな。…何なんだ?」
「ブルースキンは初めて見た。」
「見えないのに、なぜ俺の肌が青いとわかるんだ?」
「説明は上手く、できないの。科学は苦手よ。」
「俺もだよ。」
「あなたの住むところでは、気温零度以上になるってほんと? 時には何週間も。」
微笑むシュラン。「数年に一度は、熱波も来る。気温が水の沸点のほんの少し下っていう星にも、行ったことがあるぞ。俺はな。」
ジャメル:「そんな場所想像もつかない。」
「俺も忘れたいよ。…体重が 2日で 10%も減った。」
ジャメルは笑う。だが何かに気づいたように息を呑み、少し離れた。「謝りに来たんです。」
シュラン:「…何を?」
「あなたを初めて見たとき、思考を感じてしまったんです。わざとじゃないの。」
「…俺の考えなんて、大抵透けて見えてるよ。」
「愛する人を失うのは辛い。…ゲイレブ※11が、行方不明なのは。私の兄よ。」
「…気の毒にな。」
「兄は故意に人を傷つけたりしない。」
「そう聞いてるよ。」
「兄は苦しんでいる。」
「知る術はない。」
「よく悪夢を見るの。ゲイレブが縛られて檻に閉じ込められ、私を呼んでいるの。助けに来て欲しいんだわ。」

ロミュラン司令室に、ゲイレブが連れてこられた。今まで通りロミュランの制服を着ている。
パイロット席に座る。
近づくニジル。「許してくれ。」 ハイポスプレーを打った。

フロックスはコンピューターのスイッチを押した。テレプレゼンス装置に座っているトゥポルの頭は、機械に覆われている。
声を上げるトゥポル。タッカーが見ている。
フロックス:「気分は?」
トゥポル:「…すぐ慣れます。」
タッカー:「…ゆっくりでいい。」 モニターを見る。「変化が出た。ドクター。」
フロックス:「ここまで順調です。」
「ちゃんと動いてるぞ。」
ブザーが鳴り、トゥポルは息をついた。
タッカー:「大丈夫か。」
フロックス:「シナプス反応が不安定。」
トゥポル:「大丈夫です。」 だが声が大きくなる。
「悪化しています!」
タッカー:「もういい、中止だ。」 マスクを上げる。
フロックスはスキャナーを使った。「問題ない。」
タッカー:「…成功だ。」
トゥポル:「…少し休んで、もう一度試しましょう。」

イーナー居住地。
アーチャー:「ゲイレブは、恐らく拉致されたんだろう。そうだとしたら、彼を助けたくないのか?」
イーナー:「暴力は使いません。」
「暴力を止めるためなんだ!」
何とか立ち上がるシュラン。
イーナー:「善をなすためなのはわかっていますが、決定は変わりません。」
シュラン:「船長、もういい。自衛のためですら、戦わない連中だ。」 荷物をアーチャーに投げ渡した。「時間の無駄だったよ。」
アーチャーも続く。

報告するニジル。「準備完了です。」
ヴァルドア:「では発進しろ。」
操縦するゲイレブ。
ロミュラスのそばの衛星をかすめ、2隻のドローン船がワープに入った。


※9: Jhamel
(アレクサンドラ・リドン Alexandra Lydon ドラマ「24 -TWENTY FOUR-」第3シーズン (2004) のジェーン・サンダース役) 声:斉藤梨絵

※10: 名前は Lissan (アリシア・アダムス Alicia Adams) ですが、言及されていません。「リサン」としている日本語資料もあります。声:一木美名子

※11: Gareb

ふらつきながらトンネルを歩くシュラン。
ジャメル:「休むべきだわ。」
シュラン:「休み飽きたよ。」
スキャナーを使うアーチャー。「じき、妨害フィールドを出る。」
シュランはため息をつく。
ジャメル:「待って。」
シュラン:「どうした。」
「…氷虫。」
「何もいないぞ。」
すぐ前の天井から、音と共に水が滴り落ち始めた。穴が空き、何匹もの管状の虫が出てくる。
落ちてくる氷虫。
シュランは少し後ろに下がった。
ジャメル:「何分か待てば通り過ぎるわ。」
氷虫は地面にも穴を開け、消えていく。
ジャメル:「ゲイレブとよく追いかけたわ。…2時間追って、何百匹も捕まえたことも。地表近くまで行ったわ。…家族はとても心配してた。私を心配するでしょうね。」
シュラン:「本当に、構わないのか。」
「兄を見捨てたりできない。」
うなずくシュラン。
ジャメル:「あなたの船は、どんな?」
アーチャー:「あったかいよ?」
ジャメルは微笑んだ。

医療室で装置を見ているトゥポル。
タッカーは離れ、フロックスに近づいた。「またやると言ってる。大丈夫か。」
フロックス:「トゥポルもリスクは、わかっています。…少佐。…仕事なんですよ?」
「…だけど万一。」
「副長も、納得済みです。」
「医者がそんなこと言っていいのか? …みんなおかしくなっちまってる…。」
「…みんなじゃない。」
「ああ、俺の方かな。」
「わかりますよ。…仕事と恋愛を切り離す術を会得した種族は、どこにもいませんから。」
「ドクターには言われたくないね。神経マッサージ勧めたろ。」
「不眠症には効くんです。」
ため息をつき、トゥポルの様子を見るタッカー。「どうすりゃいいんだよ。」
フロックス:「恋の病は…全宇宙的に治せません。堪え忍ぶしかない。」

うなりながらトンネルを進むシュラン。
アーチャーは天井を気にしている。氷虫の通過跡があった。「前に通ってる。」
ジャメル:「…堂々巡りしているわ。…邪魔が入っているの。」
「邪魔?」
「地表への道を隠されたの。」
シュラン:「隠すって、どうやって。」
女性イーナーの声※12が聞こえた。「戻ってきなさい。」 いつの間にか前に立っていた。
姿が時々乱れる。ホログラム映像だ。
ジャメル:「嫌です。」
イーナー:「戦争になるのよ? 手を貸す気ですか?」
「私は兄を助けに行くんです。」
「暴力を、拒否することが救いになるわ。」
アーチャー:「本人の考えがある。」
「同胞への裏切りです。」
「それは違う。…自分自身の良心に従っているだけだ。」
「とても良心とは思えません。」
「なぜわかる。…心を読んだのか? 承諾がいるんじゃなかったのか。」
「…ジャメル?」
ジャメル:「…読んで下さい。」
触角を向けるイーナー。「……本当に行きたいのね。」
ジャメル:「はい。」
イーナーは微笑んだ。「いいでしょう。」 ホログラムは消え、洞窟の一部も消えて外へつながった。
スキャナーを使い、うなずくアーチャー。

ワープに戻ったエンタープライズ。
『航星日誌、補足。エンタープライズに戻ると、貨物船タイコンデロガ※13が行方不明との連絡を受けた。』
廊下を歩くアーチャー。「長距離センサーに反応は?」
トゥポル:「まだ何も。」
「到着予定は。」
「貨物船が最後にいた場所に、6時間後。」
「ターゲットスキャナーのアップグレードを急がせろ。またあの襲撃船が来たら、一発も外せないからな。」
「了解。」 歩いていくトゥポル。

そのままアーチャーは医療室に入った。「報告。」
タッカー;「準備、できてます。」
テレプレゼンス装置に、ジャメルが座っている。
アーチャー:「…用意はいいかな?」
ジャメル:「…いつでもどうぞ。」
タッカーはマスクを降ろした。見守るシュラン。
モニターに変化が起きた。
タッカー:「出力がいきなり、50%です。」
アーチャー:「大丈夫なのか?」
静かに息をし、何も言わないジャメル。
シュラン:「好きなときにやめていいんだぞ。」
ジャメル:「いいえ。心地いいぐらい。」
数値が一気に上がる。
タッカー:「最大値です。」
ジャメル:「…いいこと?」
アーチャー:「とてもね。」
「ほかにもテストはあるの?」
タッカー:「コース変更のテストが。」
うなずくアーチャー。
ジャメルの椅子が傾き始めた。
突然ブザーが鳴り、ジャメルはマスクの中で声を上げた。
フロックス:「シナプストラブル!」
身体を震わせるジャメル。マスクの中で光が明滅している。
シュラン:「止めろ!」
タッカーがマスクを上げ、フロックスはハイポスプレーを使った。
意識を失うジャメル。

『航星日誌、補足。タイコンデロガが、最後に確認された場所に到着した。』
ワープを止めるエンタープライズ。
スコープを覗くトゥポル。「残骸を感知。船体の破片に、エンジンカバー。遺体が数体、地球人です。」
スクリーンを見つめるアーチャー。「スキャン継続だ。襲撃船のワープサインを見つけろ。」
トゥポル:「…医療室から報告は?」
「彼女は助かった。だが、これ以上続けるのは危険らしい。遥々アンドリアへ行ったのは、無駄だった。」 アーチャーは船長席に座り、ため息をついた。

暗い医療室で立っているシュラン。
ジャメルはふいに目を覚ました。「どうなったの。」
シュラン:「痙攣を起こした、もう心配ない。」
「夢を見たわ。ゲイレブの。…失敗したのね。」
「バカを言うな。君の勇気には、頭が下がるよ。…俺は防衛軍の司令官だが、あんな機械には近づきたくもない。」
微笑むジャメル。「タラスは幸せだったわね。」
シュラン:「…それは俺の方だ。」
「兄は、死ぬんでしょうね。」
「そんなことを言うんじゃない。」
「強くはなれない。」
「十分強いさ。」 シュランはジャメルの手を握った。「弱気になるなよ。俺のためにも。」

報告するトゥポル。「船を一隻感知。テラライトの輸送船のようです。」
アーチャー:「戦術警報。呼びかけろ。」
操作するサトウ。
アーチャー:「…エンジンを狙え。」
トゥポル:「…本当に輸送船だったら。」
「…応答は。」
首を振るサトウ。
メイウェザー:「……距離、100キロです。」
アーチャー:「……撃て!」


※12: この声は原語ではホログラム映像なので処理されていますが、吹き替えでは普通に聞こえます

※13: Ticonderoga
ENT第46話 "Horizon" 「兄弟の地平」のホライゾンなどの貨物船同様、ECS シリーズかもしれません。U.S.S.タイコンデロガが、映画第9作 "Star Trek: Insurrection" 「スター・トレック 叛乱」のカットシーンで言及

フェイズ砲でテラライト船※14と撃ち合うエンタープライズ。相手は本当の姿を見せた。
爆発するブリッジ。
アーチャー:「武器を狙え。」
リード:「動きが速すぎます。…ロックできません!」

揺れに耐えるフロックス。
ジャメル:「何なの?」
シュラン:「攻撃されてる、ブリッジへ行ってくる。」
「待って。」
起き上がるジャメル。「兄を感じるわ。」 ベッドから降りた。
フロックス:「どこへ行くんです。」
「あの装置をもう一度試すわ。」
「許可できません、死ぬところだったんですよ。」
「兄と話ができる。私が止めるわ。」
シュラン:「やらせてみよう。」

ニジル:「エンタープライズ、被害甚大。」
ヴァルドア:「第2ドローンにも攻撃させろ。攻撃ベクトル、177。」
「その必要はないかもしれません。」
「命令に従え!」
「…はい、提督。」
操縦を続けるゲイレブ。

リード:「…もう一隻接近中! …方位 016、マーク 12! アンドリアの戦艦です。」
アーチャー:「トゥポル。」
トゥポル:「パワーサインは、異なっています。」
「両方狙え。」
「船長、医療室からエネルギーサインが出ています。テレプレゼンス装置です。」
「アーチャーより医療室、何をしてる。」

フロックス:「ジャメルが装置を試します。」

アーチャー:「本人の意思か?」

フロックス:「やると言って聞きません。」
テレプレゼンス装置にジャメルが戻った。

スクリーンを見るアーチャー。
アンドリア戦艦はロミュラン・ドローン船の姿に戻った。2隻でエンタープライズを攻撃する。

フロックス:「皮質に波動。…発作の危険がある。」
シュラン:「…ジャメル。」
ジャメル:「やれるわ。」
フロックス:「装置を外して。早く!」
「駄目!」
シュラン:「彼女ならやれる!」

ニジル:「敵はワープ不能。」
ヴァルドア:「さらにエンジンを狙うんだ。」
「何者かが、遠隔操作アレイに侵入。」
ケイレブは動きを止めた。

ゲイレブの心の声。『ジャメル?』
微笑むジャメル。『私よ。』
ゲイレブ:『そんなバカな。どうやって。』
『兄さん、今すぐやめて。』
『どこにいる。』
『兄さんが撃っている船よ。』

ゲイレブの手が動かなくなった。
モニターを見るヴァルドア。「ドローンが 2隻とも止まったぞ! …このままではやられる!」

静かになったエンタープライズ。
リード:「攻撃が中断。」

ゲイレブ:『死んだと思ってた。イーナーはもう、僕しかいないと聞いたんだ。』
ジャメル:『全部嘘よ。』
『…大勢殺してしまった。』
『兄さんのせいじゃない! 彼らがやらせたのよ。…止める方法がある。兄さんならできるわ。』

ゲイレブは再び手を動かし始めた。
ニジル:「ドローン1 が 2 を狙っています。」
ヴァルドア:「武器をオフラインにするんだ。」
「アクセスできません。」

ドローン船 2隻が撃ち合っている。
リード:「互いに撃ち合ってます。」
アーチャー:「なら手を貸そう。…光子魚雷、一斉攻撃だ!」
「了解。」

ヴァルドアは銃を抜き、ゲイレブに突きつけた。「やめろ、今すぐに。」
ニジル:「駄目です!」 ロミュランに止められる。
「攻撃するのはあの地球船だ!」

ゲイレブ:『僕を忘れないでくれ。』
ジャメル:『ゲイレブ!』

姿勢を失った片方のドローン船は、もう一隻の攻撃により爆発した。

モニターから消滅するドローン船の図。
ヴァルドアは銃を発射した。
声を上げるゲイレブ。

悲鳴を出すジャメル。
マスクを上げるシュラン。
エンタープライズの光子性魚雷によって、残りのドローン船も消えた。

無言のヴァルドア。ゲイレブは姿勢を崩した。
マスクを外すニジル。息絶えていたゲイレブ。

装置から降ろされたジャメルは、シュランに抱きついた。

ワープ航行をやめるエンタープライズ。
『航星日誌、補足。付近に襲撃船の影はない。シュランとジャメルを、アンドリアへ送り届ける。』
アンドリアへ近づく。
アーチャー:「感謝している。」
ジャメル:「私の方こそ。兄は孤独に死ぬところでした。…さようなら。」
「さようなら。」
転送台に立つジャメル。
シュラン:「ここ、何日かでいろいろ誤解があってすまん。」
アーチャー:「私もだ。」
「…当分、自分の船はもたせてもらえないだろうしな。しばらくは会えないだろう。」
トゥポル:「口添えが必要なら、連絡して下さい。」
「気持ちはもらっておくよ。先のことはわからんさ。」 シュランはアーチャーと握手し、ジャメルの隣に立った。「当分危ないことはするな。」
うなずくアーチャー。2人はトゥポルの手により、転送される。

※15ニジルは窓の外を見ている。パイロット席に座っているヴァルドア。
ドアが開く音がし、ヴァルドアは顔を向けずに言った。「議員。私を逮捕に来られたんでしょう?」
ヴラックス:「私も逮捕された。」 すぐそばにいるレムス人。
ヴラックスを見るヴァルドア。「では、また共に『お務め』をしましょう。」
無言のヴラックス。レムス人の片方がヴァルドアに近づく。
ヴァルドア:「ニジル。さらばだ。」
ニジル:「失敗は私の責任です、提督ではない。」
「それこそ兵士の言葉だ。」
うなずくニジル。連行されていくヴァルドアを見た。


エンタープライズはワープに戻っている。
ドアチャイムに応えるアーチャー。「入れ。」 タッカーに言う。「お前の報告書を見た。自分に厳しすぎるぞ。」
タッカー:「ごまかせません。テレプレゼンス・エミッターに、誤差があった。」
「フロックスによれば、ジャメルの痙攣と関係はないそうだ。」
「確証はありません。ミスはミスですから。」
「プレッシャーの中での作業だ。」
「上の空だったんです。」
「そうなら、今こうしてはいられなかっただろうな?」 酒を取り出すアーチャー。
「…転属させて下さい。」
「…どこへ。」
「コロンビアへ。…熟練者が必要です。」
「2度も打診を断ったのに、なぜだ。」
「役に立てると思いますので。」
微笑むアーチャー。「ここでも必要なんだよ。」
タッカー:「向こうでもです。」
「…本当の理由は。」
「もう言いました。」
「とても納得できるような理由じゃないな。」
「……理由はそれだけです。」
「それだけか。…で、それを受け入れろと言うのか?」
うなずくタッカー。
アーチャー:「認めないと言ったらどうする。」
タッカー:「船長。友人として頼みます。お願いです。」
「それなら私も、友人として頼む。ここに残ってくれ。」
「…できません。」
「…わかった。」
「感謝します。」
「下がっていい。」
アーチャーの部屋を出ていくタッカー。机の上には 2つのグラスが、空のまま置いてある。


※14: ENT第37話 "Precious Cargo" 「眠る女の謎」に登場した、レテリアン船の使い回し

※15: 色を変えている個所は、撮影はされたものの放送版からは削除されたシーンです (SCENE 66)。DVD に特典として収録されており、日本語版は字幕のみ。どの部分に入るはずだったのかという点については、ストーリー展開やシーン番号から推測しただけで、確実なものではありません

・感想など
今シーズン 3つ目となる、三部作が完結しました。前回までの連邦的な流れが一旦打ち切られているので、テンションが維持されているとは言い難い面があります。とはいうものの、アンドリアの初登場、そして新種族イーナーというスタートレック元来の見所はありましたね。シュランが相変わらず活躍してくれました。
それにトゥポルとタッカーの件を混ぜた感じです。とりあえずは最後で一つの変化を入れてきたようですがねえ…。


dot

previous第89話 "United" 「ロミュランの陰謀」 第91話 "Affliction" 「クリンゴンの苦境」previous
USS Kyushuトップ | hoshi.sa.to | ENT エピソードガイド