USS Kyushuトップに戻る

TOS エピソードガイド
第42話「新種クアドトリティケール」
The Trouble with Tribbles

dot

・イントロダクション
※1※2会議室。
スポック:「前進宇宙ステーション K-7※3 が、探知機の範囲内に入りました。」
カーク:「よし。ミスター・チェコフ、今回の飛行は経験と知識をうるのが目的だ。…現在コースを維持すればクリンゴンの前進基地にどの程度接近することになる?」 チュニックを着ている。
チェコフ:「はい、約3光年※4です。…臭いをかげそうですね?」
スポック:「それは非論理的だね? 臭いは真空の宇宙では伝わらんよ?」
「…ちょっと、冗談を言ったまでです。」
「非常に低俗な冗談だ。」
カーク:「…ミスター・スポック、該当宇宙の歴史を述べたまえ。」
「地球連邦※5と、クリンゴンとの争いは絶えません。太陽暦にして 23年前に戦われた、ドナテュー5号の戦争※6は、未解決のままです。」
「紛争地域は、どんなところだ。」
「未開発で、地球連邦、クリンゴン共にシャーマン惑星※7は自分の領土だと主張しています。我々に分がありますが。」
チェコフ:「この一画はロシアの有名な天文学者、イワン・バルコフによって、約200年前…」
カーク:「ジョン・バーク※8だ。」
「本当ですか? …そうじゃありませんよ。確かあれは…」
スポック:「当時ジョン・バークは、古代イギリスの王立学会で天文学主任を務めていたんだ。」
「ああ、王立学会の。…あんなもの。」
カーク:「君の歴史的知識はかなり不正確だね。…紛争の問題点は。」
「オルガニア平和条約※9では、惑星をより有効的に開発できることを証明した方に領土権が与えられます。」
「クリンゴン人は野蛮で攻撃的だが、その反面非常に有能だから、その点において強敵だ。」
「かつてロシアでは、ピーター大王※10が同様の難関に直面し…」
ウフーラの通信が入る。『船長。』
モニターに映すカーク。「カークだ。」
ウフーラ:『緊急チャンネルを通じて遭難信号をキャッチしました。宇宙ステーション K-7 から発信されています。』
「全速前進。」
チェコフ:「一級遭難信号※11です。何があったんでしょう。」
ウフーラ:『非常警報、総員戦闘配置につけ。非常警報。』


※1: このエピソードは、1968年世界SFコンベンションでヒューゴー賞にノミネートされました

※2: ハヤカワ文庫のノヴェライズ版は、「宇宙大作戦 地球上陸命令」収録「トリブル騒動」になります

※3: Deep Space Station K-7

※4: 原語では「1パーセク」

※5: 本文中では全てそのままにしていますが、原語では連邦 (Federation) としか言っていません

※6: ドナテュー5号星の戦い Battle of Donatu V
ドナテュー5号星は初言及

※7: Sherman's Planet
脚本を担当した David Gerrold の友人、Holly Sherman にちなんで

※8: John Burke
チェコフは Ivan Burkoff と勘違い

※9: Organian Peace Treaty
TOS第27話 "Errand of Mercy" 「クリンゴン帝国の侵略」より

※10: Peter the Great

※11: Code 1 Emergency
または Priority 1 (distress) call、Priority A-1 channel

・本編
エンタープライズの前方に、ステーションが見えてきた。
『航星日誌、宇宙暦 4523.3※12。宇宙ステーション K-7 が第一級遭難信号を発信した。これは単なる遭難信号ではなく、破滅が間近に迫っていることを意味する。クリンゴンが、ステーションを攻撃したのだろうか。』
チェコフ:「メインフェイザー砲、発射準備よし。」
スポックは、スクリーンに映った K-7 を見る。
チェコフ:「あ、あの…敵は見当たりません。ステーションだけです。」
カーク:「第一級遭難信号なのに、平和な時と全く変わりがない。」 スポックと顔を見合わせる。「ウフーラ大尉※13、通信禁止令を解除。宇宙連絡。」
ウフーラ:「はい。チャンネルオープンにしました。」
「エンタープライズのカーク船長から宇宙ステーション K-7 へ。何があった。」
すぐに返答がきた。『カーク船長、私は K-7 所長のルリー※14だ。遭難信号については謝らんといかんな。』
カーク:「ミスター・ルリー、通常遭難信号ではなくて一級ですよ? 緊急事態の内容を説明して下さい。」
ルリー:『あのう…よかったらこちらへ来てもらえんかなあ。できるだけ説明する。』
「何。できるだけ? それくらいではこちらは納得しませんよ? 以上です。スポックは来たまえ。チェコフ、戦闘体制を維持。ウフーラ大尉は、転送ルームに準備させたまえ。」
ウフーラ:「はい。転送ルーム、転送準備。」

エンタープライズは K-7 の近くに到着している。
部屋に転送されるカークとスポック。
カーク:「ミスター・ルリー、緊急事態が発生していないのになぜ一級遭難信号を発信したんですか。」
横に立っている男が応えた。「あれは私の命令だよ、船長。」
ルリー:「…カーク船長、シャーマン惑星開発計画の指揮官として地球から派遣されたミスター・バリス※15だ。」
カーク:「いたずらに第一級遭難信号を発信する資格はあるんですか。」
更に別の男性。「ミスター・バリスは地球連邦宇宙次官で、当宇宙における農業政策の最高責任者なんですよ?」
スポック:「ならば資格があるんですかね。」
カーク:「ハ。」
バリス:「これは助手の、アーン・ダーヴィン※16だ。」
「これは副長の、ミスター・スポックです。」
スポック:「よろしく。」
バリス:「よろしく。というわけでだ、保安部員を一人でも多くよこしてもらって、ここの貯蔵室を厳重に警備したいんだよ。」
カーク:「いま何と言いました? 貯蔵室を?」
ダーヴィン:「中にはクアドロトリティケール※17が、大量に貯蔵されています。」
「何が? 何、クアド何とかというのは。」
ルリー:「これだよ。」
容器から青い粒を出すカーク。「麦か、それが?」
バリス:「クアドロトリティケールは単なる麦ではないよ? 君やミスター・スポックが知らないのは当然で、それは期待しとらんがねえ。つまりクアドロトリティケールとは非常に…」
スポック:「非常に純度の高い穀物の一種ですね? 正確には小麦とライ麦の混血児で、多年生植物だったと思いますが? その元となった穀物をトリティケール※18と称しまして、先祖は遠く 20世紀のカナダへさかのぼることができます…」
カーク:「ミスター・スポック…その辺でいい。」
ルリー:「クアドロトリティケールは、シャーマン惑星で成長する唯一の地球穀物だ。今ここに大量にあるんだが、これをシャーマン惑星に安全に運搬しなければならん。ミスター・バリスの予測では、クリンゴンのスパイが妨害工作をするんだ。」
「たかが何トンかの麦のために第一級遭難信号を発信したんですか。」 外にエンタープライズが見える。
ダーヴィン:「たかが麦とは何ですか!」
バリス:「…もちろん君の立場もわかってるが…」
カーク:「ミスター・バリス、あなたは緊急事態ではないのにエンタープライズを呼んだ。全責任を取ってもらいますよ?」
「どういう意味だ!」
スポック:「第一級遭難信号の濫用は重大なる罪です。」
「私は第一級遭難信号を濫用した覚えはない! 穀物を守るのは務めだ。」
ルリー:「船長、警備に何人かよこしてもらえんかね。クリンゴンの船がしょっちゅうこの付近を通るんだよ。」
スポック:「それは適当な処置だと思いますね。シャーマン惑星問題は、地球連邦にとって重大なる意味をもっていますから。」
カークは迷った末に、コミュニケーターを取り出した。「カークからエンタープライズ。」
ウフーラ:『エンタープライズです。』
「戦闘態勢を解いてよし。そして…保安部員を 2名、いいか 2名だけだぞ? ルリー所長の下に出頭さしてくれ。勤務外の乗員は、全員休暇を取ってよろしい。」
『わかりました。』
「以上だ。」
バリス:「カーク船長、このような重大な警備をわずか 2人の人間に任せるとはどういうつもりだ! 司令部に報告して…」
「私は連邦政府要人の命令や人格を疑問に思ったことは一度もありませんでした。…これまではね。」

バーにいるカーク。「麦を守るために第一級遭難信号を発信して、パトロール艦を呼ぶとは驚いた。麦の貯蔵庫を守れだと?」 ウェイトレスが、フードスロットから出てきたグラス類を運んでいった。
スポック:「しかし、クリンゴン帝国は我々がシャーマン惑星で麦を育てると知ったら反感をもちますねえ。」
「…だろうな。」
※19入れ違いにウフーラたちが来た。
カーク:「休暇と聞いたら、全てを放り投げて飛んできたか。」
ウフーラ:「休暇の味を忘れましたので。」
チェコフ:「買い物の荷物持ちとしてついてきました。」
太った男、シラノ・ジョーンズ※20が入ってくる。「おーっと失礼、すみません。」
チェコフに容器を見せるカーク。「ミスター・チェコフ、これを知ってるかね?」
チェコフ:「おやあ? クアドロトリティケールですねえ。何かで読んだことはあるんですが、見たのは初めてですよ。」
「知らなかったのは私だけだったのかな。」
「そうじゃなくて、これはロシア人の発明なんです。」
「…ああ?」
出ていくカークとスポック。
声が聞こえる。「こないだもいらないと言ったじゃないか。君もかなりしつこいね。スピカの光る石※21は悪いけど本当にもういらないんだよ。君のおかげで一生売っても売りさばけないほど、倉庫に眠ってるよ。」 2人に近づくウフーラとチェコフ。
ジョーンズがバーテンダーの商人※22に話す。「宇宙中探してもこんなに綺麗な石はないんだけどね。」
商人:「あーあ。」
「しかしもっといい物がありますよ?」 もったいぶるジョーンズ。「どうだい、これなんか。アンタリアの魔法の水※23だ…。」
「光る石を磨くのに使ってますよ。」
「いちいちうるさい人だね、あんた。しかしだ、今日は遥か彼方の宇宙からいいものを持ってきたんだよ。これが嫌だとは…」
フワフワした毛玉のようなものを取り出した。
商人:「君のは高すぎるね。」
ウフーラ:「まあ何ですか? 生きてますの? …持たせてくれません。
まあ、すごく可愛い。…何ですの?」 その生物は、穏やかに声を上げている。
ジョーンズ:「何ですの、これを知らないとはね。トリブル※24ですよ。」
「…トリブル?」
「これほど可愛い動物はいないでしょうな。…もちろん、あなたにはかないませんけどね。」 笑う 2人。
「喉を鳴らしてるわ? 聞いてごらんなさいよ。」 チェコフの耳に近づけるウフーラ。
「あなたが好きだと訴えてるんですよ。」
「ここで売ってるの?」
商人:「ええまあ話によっては売ろうかと思ってるんですけどね?」 ジョーンズを叩く。
ジョーンズ:「よろしい、一匹 10クレジット※25なら無理のない値段だろ。この素敵なお嬢さんはたちまち大ファンになってしまった。売れること請け合いだ…」
「一匹 1クレジットだね。」
チェコフ:「でも、噛んだりしないでしょうね。」 クアドロトリティケールの容器を脇に置き、倒れて中身がこぼれている。
ジョーンズ:「人畜に害を与える動物を惑星間で持ち運ぶのはルール違反なんですよ。」 笑う。「第一、トリブルには歯がないの…。」
商人:「よーし大きく譲って倍だ、2クレジット。」
「まだまだ話になりませんな。」
ウフーラ:「あなたが買わないなら私が買っていくわ? すごく可愛い。」
商人:「4クレジット。」
ジョーンズ:「本気なの、それとも御冗談…」
「無論本気だよ。」
「ご冗談でしょ。」
「…5。」
「君はいい人間だからお望みに是非沿いたいんだけどな。ギリギリ負けて 8半、それ以上はちょっと無理だね…」 商人のお腹に触れ、笑うジョーンズ。
「私と商売したくないんならそれでいいよ? 6クレジット、それ以上はダメだ。」
「7 と半。7。…泥棒には負けた、6クレジットだ。」
「現物はいつもらえる?」
「ただいま。」
ウフーラ:「あなたはそれをいくらで売るつもり?」
商人:「えーとね、待って下さい? 元が 6クレジットでそれに必要経費をプラスして利益を考えて、ま 10%で結構ですからと 10クレジットです。」
宝石類を片づけたジョーンズ。「泥棒!」
商人:「よければどうぞ。」
トリブルが、クアドロトリティケールの上で動いている。
チェコフ:「あれ? 麦を食べてるよ。」
商人:「10クレジット頂きます…」
ジョーンズ:「いや、これはサンプル用だから私の好きにさせてもらうよ。私としてはこの素晴らしいお嬢さんにプレゼントしたいですな。」
ウフーラ:「まあ、ただなんて。…ほんと?」
「是非どうぞ。」
商人:「おいおい、商売の邪魔しないでくれよ?」
「…このお嬢さんがみんなに宣伝して歩いて下さるから目が回るほど忙しくなるぞ?」 微笑むジョーンズ。

エンタープライズ。
会議室で呼び出しに応えるカーク。「どうした。」
ウフーラ:『宇宙艦隊司令部から緊急連絡です。フィッツパトリック提督※26が出てらっしゃいます。』
「よし、映像を出したまえ。」
モニターに映るフィッツパトリック。『カーク船長。』
カーク:「カークです。」
『シャーマン惑星が、我が連邦にいかに重要な意味をもっているかは今さら説くまでもないと思う。…この争いの鍵はクアドロトリティケールが握っているのだ。惑星への輸送に慎重を期さねばならん。従って今後、バリス次官の要望に可能な限り応えるように努力したまえ。トリティケールの安全と輸送計画は…君の管轄とする。連絡を終わる。』
「誠にありがたい、ご託宣だ。」
スポック:「ある程度は予測されたことです。」
ため息をつくカーク。
またウフーラの通信。『カーク船長、カーク船長!』
カーク:「カークだ、どうした?」
『探知機がクリンゴンの戦艦をキャッチしました。ステーションに接近中です。』
「非常警報、ミスター・ルリーにすぐ行くと伝えろ。」

警報が鳴る中、慌ただしく動く廊下のクルー。
カークとスポックはターボリフトに入った。

ブリッジに戻るカーク。「クリンゴン船の位置を確認。」
チェコフ:「K-7 から、100キロ地点で接近。停止しました。」
ウフーラ:「ミスター・ルリーにつながりました。」
カーク:「映像を出せ。」
「はい。」
スクリーンに映るルリー。
カーク:「ミスター・ルリー。ステーションから 100 地点に、クリンゴンの戦艦が現れました。」
ルリー:『ステーションを攻撃するつもりはなさそうだね。』
「なぜです。」
『問題の戦艦の艦長が、いま私のすぐそばに見えてるんだよ。』
ルリーのそばにいるクリンゴン人たちが映り、こちらを見ている。
カーク:「…非常警報解除。そちらへ行きます。」
ウフーラ:「保安部、非常警報解除。」


※12: この宇宙暦 (正確には直後の 4523.7) は、DS9第104話 "Trials and Tribble-ations" 「伝説の時空へ」で金曜日とされています。これは本国初放送当時、TOS が毎週金曜に放送されていたことに由来していると思われます。吹き替えでは「0403.4201」

※13: 吹き替えでは全て「中尉」。TOS では基本的に中尉は存在しないと考えられます

※14: ミスター・ルリー Mr. Lurry
(ホイット・ビッセル Whit Bissell 1996年3月に死去) 声:石森達幸

※15: ニルズ・バリス Nilz Baris
(ウィリアム・シャラート William Schallert DS9第30話 "Sanctuary" 「さまよえるスクリーア星人」のヴァラーニ (Varani) 役) 名のニルズは訳出されていません。声:嶋俊介、旧ST5 マッコイ。DVD 補完では小形満

※16: Arne Darvin
(チャーリー・ブリル Charlie Brill) 初登場。声:DVD 補完では樫井笙人、VOY ジョナスなど

※17: quadrotriticale
吹き替えでは「クアドトリティケール」

※18: triticale は日本語でライ小麦と言い、1954年からカナダのマニトバ大学で本格研究が始まりました。quadro は 4 を表す接頭辞で、原語ではスポックが前に「四分葉の混血児 (交配種)」とも言っています。吹き替えでは「それにできる実をトリティケール」。本文中ではそのままにしていますが、吹き替えではクアドロトリティケールのことを「トリティケール」と略している個所があります

※19: TOS の国内オンエア分では、カット部分が存在しています。DVD には吹き替えつきで完全収録されており、このエピソードガイドでは色を変えている個所にあたります (スーパーチャンネル版との比較)。LD では基本的に、その部分だけ字幕収録です

※20: Cyrano Jones
(スタンリー・アダムス Stanley Adams TOS第72話 "The Mark of Gideon" 「長寿惑星ギデオンの苦悩」の共同脚本。1977年4月に死去) 声:立壁和也 (現・たてかべ和也、DVD 補完も継続)

※21: Spican flame gem

※22: 商人/バーテンダー Trader/Bartender
(ガイ・レイモンド Guy Raymond TNG第64話 "The Offspring" 「アンドロイドのめざめ」のラル役、ハリー・トッドの義父。1997年1月に死去) 声:DVD 補完では肝付兼太と判明していますが、元々の担当も同じ方だと思われます。ということはシラノ・ジョーンズとの掛け合いはジャイアンとスネ夫!

※23: Antarian glow water

※24: tribble
初登場

※25: credit
連邦の貨幣単位。使われるのは稀

※26: Admiral Fitzpatrick
(エド・レイマーズ Ed Reimers) 吹き替えでは「パトリック提督」

『航星日誌、宇宙暦 4524.2※27。宇宙ステーション K-7 から、100キロの宇宙空間にクリンゴンの戦艦が停泊し、艦長が姿を現した。その意図は不明である。』
K-7。
ルリーのオフィスに転送されてきたカークたち。
クリンゴン人は立ち上がった。「おい、カーク船長じゃないか懐かしいなあ。」
カーク:「お互い様だな、コロス艦長※28。」
コロス:「弁明しとくが俺たちは戦うために来たのではない。ミスター・ルリーには既に話したんだが、俺たちが今日ここに現れたのは…休養を取るためだ。」
「休養。」
「船長、俺たちクリンゴン人は地球人※29ほど優雅ではないんだ。従って俺たちの船には、装備されとらん…遊び道具が。」
もう一人のクリンゴン人※30。「俺たちは宇宙に出て既に 5ヶ月だ。今の俺たちに一番必要なのは、リクレーションなんだよ。」
コロス:「一言付け加えておくが、オルガニア平和条約によるとだ。俺たちを追い返せんはずだぞ?」
カーク:「…ここで私は…決定を下す立場じゃない。ミスター・ルリーが、ここの最高責任者だ。」
ルリー:「…船長、ちょっと相談したいんだが。」 クリンゴン人から離れる。「困った。彼らの言うとおり追い返せる権利はないんだよ。」
「うん、こうなればできる範囲内で対処しましょう。親愛なるコロス艦長。…部下に休暇を与えてここによこすのも結構だが、一度につき 12名だ。しかも可能な限りトラブルを避けるために、その 12名に一名ずつ、こちらの警備員をつけさせてもらう。」
笑うコロス。「大袈裟だな。現在俺たちの政府の間では敵対行動を取るという宣言はなされていないはずだぞ? だから当然、俺たちの関係も平和的でなければならん。」
カーク:「…お互いにそれを忘れないように、務めたいもんだな?」
「……もちろんだ。」 コロスは礼をする。
出ていくクリンゴン人たち。

エンタープライズ。
娯楽室に入ったカークは、スコットが見ていたコンソールを覗き込んだ。「また技術専門誌を読んでるのか?」
スコット:「はい。」
「たまには遊んだら。」
「これが遊びですよ。」
微笑むカーク。
トリブルの声が聞こえてきた。クルーが集まっている。
マッコイ:「この動物はいつから飼ってるんだ?」
テーブルには、色とりどりのトリブルがたくさんいる。
ウフーラ:「昨日の午後からですが、今朝気がついたらこの通り。…子供がたくさん産まれてました。」
マッコイ:「いくらで買ったのか知らんが得をしたな。」
カーク:「保育所でも開くつもりか?」
ウフーラ:「まあ船長。実はあたくしもビックリしてるんです。いつの間にか増えてしまって。」
「…どこで手に入れたんだね、これは。宇宙ステーションか。」
「そうです。」
スポックも手にしている。「非常に変わった動物ですね? この鳴き声は、人間の神経組織に安らぎを与える作用があるようです。幸いにも、私の場合は…その影響を受けずに済みますがね。」
スポックを見る一同。スポックはカークと共に出ていった。
マッコイ:「大尉、一匹借りて研究室へ持ってっていいかな。ちょっと調べたいんだ。」
ウフーラ:「結構ですけど、もし解剖なさったらあたくしもう口を聞きませんわよ?」
「頭の毛一本傷つけないよ。…お尻かな?」
笑うクルー。
フリーマン※31:「ドクターに進呈するなら俺にも一匹くれよ。」
ウフーラ:「…いいわよ。親を離れても大丈夫らしいから。どうぞ?」 みんな持っていく。

廊下を歩いているカークとスポック。
チェコフの呼び出し。『ブリッジから船長へ。』
コンソールに触れるカーク。「カークだ。」
チェコフ:『ミスター・バリスが、Eチャンネルでお待ちになってます。』
スポックを見るカーク。「わかった、ここへつないでくれ。」
チェコフ:『はい。どうぞ、お話し下さい。』
「ミスター・バリス、何の御用でしょうか?」

ルリーのオフィスにいるバリス。「カーク、ステーションはクリンゴン人で一杯だぞ!」

カーク:「わずか 12名のクリンゴン人で満員になるようなステーションだとは知りませんでしたがね。」

バリス:「カーク船長、とにかくクリンゴン兵がステーションを歩き回っているんだ。問題の穀物の安全を守ってもらいたい。」

カーク:「…貯蔵庫には警備員を配置してありますし、彼らに見張りもつけてあります。しかしこれは宇宙艦隊司令部の命令で、仕方なくやってるんです。あなたの命令ではありません。……その点誤解のないように、以上です。」 通信を終えた。
スポック:「船長。連絡はどこへしましょう。」
「診療所だ、頭痛がしてきた。」 向かうカーク。

医療室に入るカーク。
マッコイ:「よ、いらっしゃい。」
カーク:「ドクター、頭痛薬はあるか。」
指を鳴らすマッコイ。「原因はクリンゴンか? バリスか。」
カーク:「両方だ。ウフーラに、何匹もらってきたんだ。」
「一匹だよ。」
「どうしたんだ、11匹も。」 箱の中にたくさんトリブルがいる。
「驚いたかね? ほら、これで収まるだろ。」 薬を渡すマッコイ。
「どうやって、こんなに?」
「いやあ、まだ私にもわからないんだ。現在断言できるのは、この動物の新陳代謝の 50%は繁殖用のものだってことだ。…こいつにうんと餌を与えるとどうなると思う?」
「…太るのかな。」
「いや、腹を空かせた子供がどんどん産まれるんだ。」
「この際どうだ、いい機会だから…産婦人科を開設したら?」 出ていくカーク。

転送室のカーク。「休暇でステーションへ行ったら、グループで行動しろよ。クリンゴン人とは争うな。」
スコット:「出発前に注意します。」
「…君は。どうした、休暇を取らないのか。」
「取りません。」
「船長命令だ、ゆきたまえ。トラブルを起こさないように監督するんだ。」
「しかしそれは…。わかりました。」 転送台に乗るクルー。
「スコッティ。楽しんでこいよ。」

K-7。
バーに入るスコットたち。席につく。
出ていく保安部員たちに手を挙げた。
入れ違いにジョーンズが来た。「…いかがでしょう、可愛いトリブルなどお買いになっては?」
スコット:「いや、結構だね。」
「ああ。じゃ、こちらの方はいかが。」
取り合わないチェコフたち。
ジョーンズ:「ああ…。」 隣のテーブルに近づく。「ああ、クリンゴンの方ですな。」
いきなりトリブルが高い声を上げた。驚くクリンゴン人。
ジョーンズ:「どうです、可愛いトリブルをお買いになっては?」
クリンゴン人:「どこが可愛いんだ、向こうへ行ってろ!」
「ああ、すいません。どうしたのかしら、こういうことは一度もなかったもんですから。」
「ウジ虫をそばに持ってくるな、汚らわしい!」
「ウジ虫だなんて、こんな可愛い…」
「うるさい、どこへでも持ってけ!」
「はい。」 まだ騒いでいるトリブル。「いやあ、いたいた親友が。どうかね、この際もう一匹店においてみては。そのうちに買い手が押し寄せてきて…」
商人:「もう一匹?」
「ダメ…?」
商人はトリブルを次々に取り出す。「ほら。」 いつまで経っても終わりがない。
ウェイトレスがスコットたちにグラスを運んだ。
スコット:「いつになったらミルクを卒業するんだ?」
チェコフ:「これはウォッカです。」※32
「俺のクニじゃそんなのはソーダ水だ。これぞ、男の飲み物さ?」
「スコッチが?」
「そうだ。」
「それを作ったのは、レニングラードの婆さんですよ?」
「フン…。」
クリンゴン人がカウンターに近づくと、トリブルが激しく反応する。
クリンゴン人:「地球人はモコモコしたもんが好きらしいな。そうだろう?」
グラスをもらい、笑うジョーンズ。
クリンゴン人:「俺はなあ、地球人なんて大嫌いだ。…おめえらを見てるとレグラスのアカムシ※33を思い出すぜ?」 一緒に笑うクリンゴン人たち。
チェコフ:「ふざけやがって。※34
スコット:「そう怒るな、もっと心を大きくもて。」
クリンゴン人:「そうだ、いま思い出したぞ? そういやあそいつの面を見てもレグラスのアカムシを思い出さない地球人が一人だけいたなあ。…カーク船長だ。レグラスのアカムシは柔らかくてグニャグニャしてるが、カークさんは…柔らかくねえぞ? …カークは自意識過剰で、威張り腐った成り上がり者の独裁者で、自分が神様か何かだと勘違いしてやがるんだ。思い上がった野郎だよな!」
立ち上がるチェコフ。
スコット:「まあまあ落ち着けよ。何を言おうとそれは個人の自由だろ?」
クリンゴン人:「その通り。カークなんてのはなデニービアン・スライムデヴィル※35だぜ。俺は個人の自由でこう言いてえんだ。」
またチェコフを抑えるスコット。「余計なことはするな! これは命令だ。」
チェコフ:「あんなことを言われて平気なんですか!」
「気にするな、ケンカするほどのことじゃない。軽く聞き流せるだけこっちは上なんだ。さ、黙ってこれを飲め。」
違う飲み物を渡され、口にするチェコフ。
クリンゴン人:「カーク船長ほどの人物になりゃあ、あれくらいの船もって当然だよな? 俺たちもエンタープライズは好きだ、いやあほんとに好きなんだぜ? …あれはボロボロの木で作ったゴミ箱みてえなもんだ。」
スコットの動きが止まった。
クリンゴン人:「確かゴミ箱用に作ったんだろう? そりゃ宇宙中が知ってるぜえ。だからみんなクリンゴン語※36を習ってるんだとさ…。」
チェコフ:「ミスター・スコット!」
スコットはクリンゴン人に言った。「君、言い直したらどうなんだ? いま言ったことを。」
クリンゴン人:「その通り。言い直そう。エンタープライズはボロボロの木で作ったゴミ箱だってのは嘘でしたよ。そうじゃなくてゴミだから早いとこゴミ箱に捨てちまうといいって話だ。」
笑い続けるクリンゴン人。
スコットは立ち上がり、一緒に笑う。そしてクリンゴン人を殴り飛ばした。
テーブルを越えて床に落ちるクリンゴン。
立ち上がる他のクリンゴン人。チェコフたちもだ。
乱闘が始まった。クリンゴンに飛びかかるフリーマン。
商人はトリブルを片づける。逃げるように出ていった。
エンタープライズのクルーと、クリンゴン人が互いに戦う。
ジョーンズは喜び、カウンター内に入る。※37チェコフはクリンゴン人を何度も殴るが効き目がなく、逆に投げられた。
見物しながら酒を飲み続けるジョーンズ。勝手に機械を操作する。
フードスロットからまたグラスが出てきた。カウンターに飛ばされたクリンゴン人が来る前に、素早くグラスを上げるジョーンズ。
こぼさないようにしながら、バーの中を歩いていく。ドアのところまで来た。
保安部員が大挙して駆けつける。ジョーンズはグラスに口をつけようとしたが、最後に戻ってきた商人に取られた。
だがもう一杯、ポケットに隠していた。小指を立て、満足げに飲むジョーンズ。


※27: 吹き替えでは「0403.4204」

※28: Captain Koloth
(ウィリアム・キャンベル William Campbell TOS第18話 "The Squire of Gothos" 「ゴトス星の怪人」のトリレーン (Trelane) 役。ゲーム "Judgment Rites" でも声の出演) 初登場。コロスの巡洋戦艦は I.K.S.グロス (I.K.S. Gr'oth) ですが、DS9 "Trials and Tribble-ations" で名称や姿が設定されます。D-7 級が初登場するのは TOS 第3シーズンです。声:安田隆

※29: ここを含め、クリンゴン人は human ではなく Earther と呼んでいます。一種の侮蔑的な表現だと思われます

※30: 名前は Korax (マイケル・パタキ Michael Pataki TNG第16話 "Too Short a Season" 「大いなる償い」のカーナス (Karnas) 役) ですが、言及されていません。「コラックス」としている日本語資料もあります。声:加藤修

※31: Freeman
(ポール・バクスレー Paul Baxley TOS第17話 "Shore Leave" 「おかしなおかしな遊園惑星」の黒騎士 (Black Knight)、第38話 "The Apple" 「死のパラダイス」の原住民 (Native)、第43話 "Bread and Circuses" 「もう一つの地球」の警官その1 (Policeman #1)、第45話 "A Private Little War" 「カヌーソ・ノナの魔力」のパトロールリーダー (Patrol Leader)、第52話 "Patterns of Force" 「エコス・ナチスの恐怖」の兵士その1 (First Trooper)、第55話 "Assignment: Earth" 「宇宙からの使者 Mr.セブン」の保安主任 (Security Chief)、第60話 "And the Children Shall Lead" 「悪魔の弟子達」の保安部員 (Secutiry Guard)、第64話 "The Tholian Web" 「異次元空間に入ったカーク船長の危機」のデファイアント船長 (Defiant Captain) 役。スタント代役、スタント調整) クレジットではフリーマン少尉 (Ensign Freeman) になっていますが、階級章は大尉のものです。この役は当初、脚本の David Gerrold が演じる予定でした。Gerrold は後に DS9 "Trials and Tribble-ations" で、エキストラとして出演しています (映画 TMP "The Motion Picture" 「スター・トレック」にも出演歴あり)

※32: このシーンより後に何度か、画面が切り替わる度にチェコフのグラスを持つ手が替わっています

※33: Regulan blood worms
初言及。吹き替えでは「ウジ虫」、3回目は「ウジ虫やミミズの類」。この訳は ENT第25話 "Two Days and Nights" 「楽園での出来事」に従っています

※34: 原語では「あのコサックめ」

※35: Denebian slime devil
Denebians (デネブ人) は TOS第41話 "I, Mudd" 「不思議の宇宙のアリス」で言及。吹き替えでは「カークなんてのはなクズだぜ。身の程知らずの成り上がりもんだ」。スコットのセリフでは「身の程知らずのどうのこうのとしつこく言いました」

※36: Klingonese
この単語が使われるのは稀。吹き替えでは「だからみんなクリンゴン人が好きなんだとさ」

※37: カット版では、ジョーンズがカウンターに入るシーンがわずかに欠損しています

『航星日誌、宇宙暦 4525.6※38。宇宙ステーション K-7 で、エンタープライズ※39の乗員とクリンゴン人との間にトラブルが起きたため、双方の乗員の休暇を取り消さざるをえなくなった。』
エンタープライズ。
一列に並んだクルーの前で話すカーク。「始めたのは誰だ。言ってみろ。…フリーマン。誰が始めた?」
フリーマン:「知りません。」
「…そうか。チェコフ。…お前はどうだ? お前が始めたんじゃないのか?」
チェコフ:「いえ、違います。」
「じゃあ誰だ。」
「…それは知りません。」
「『知りません』、『知りません』か。最初に手を出したのは誰なんだ。…よろしい、誰が手を出したかわかるまで全員禁足だ。解散!」
クルーは一斉に左を向き、順番に会議室を出て行く。
カーク:「スコッティは残れ。…君はトラブルを防ぐために行ったんじゃないのかね?」
スコット:「…はい、そうですが。」
「最初に手を出したのは誰だ。」
「…あのう…。」
「何だ。」
「…自分であります。」
「何、君が手を出した。…何が原因なんだ。」
「我々を侮辱したんです。」
「よほどひどかったのか。」
「はい、そうです。」
「本当に、君が最初に手を出したのかね?」
「はい。チェコフがやりそうだったので自分が、止めました。」
「止めた。チェコフはなぜ手を出しそうになったんだ。」
「あの…あのクリンゴン兵が…これは記録に載りませんか。」
「いや当然載るだろうな。」
「実はですが、クリンゴン兵が船長のことを……自意識過剰で、威張り腐った成り上がり者の独裁者で神様だと思ってるとののしりました。」
「それだけか。」
「いいえ、船長をデニービアン・スライムデヴィル※35に例えました。」
「なるほど。」
「それだけじゃありません、さらに…」
「それだけ聞けばもうわかる!」
「は、はい。」
「彼らがそう言ったのを聞いて…君がまずパンチを出したのか。」
「いいえ。」
「…いいえ?」
「はい、違います。トラブルを防げと言われていましたので。」
「…なるほど。」
「何も、ケンカするほどの事態ではないと思いまして。それくらいは軽く聞き流せるだけこっちは、人間ができてます。…でしょう?」
「…では、彼らが何を言ったからケンカになったんだ?」
「あ…奴らはエンタープライズを『ボロボロのゴミ箱』だと言ったんです。ほんとです。」
「……そうか、それで君はカッとして手を出したか。」
満足そうなスコット。「そうです。」
カーク:「…クリンゴン兵を殴ったのはエンタープライズを侮辱されたからで、私じゃないのか。」
「これは、プライドの問題であります!」
「……よろしい、わかった。下がれ。ああ…それから、指示あるまで君も禁足だぞ。」
「はい。…ありがとうございます。おかげで、ゆっくり技術専門誌を読めそうです。」 出ていくスコット。
残念そうなカーク。

トリブルが容器からあふれている。調べているスポックたち。
マッコイ:「どうした、スポック。」
スポック:「この生物ですがどうも気になるんです。」
「君も、感覚でものを言うことがあるんだな。」
「そうじゃありません。この生物は可愛がられるだけで、生産的な活動を行っていない。なのに食欲は旺盛です。実用的な価値が全くない。」
「実用的な価値などなくて結構じゃないか。フサフサして、柔らかくて、心地よい音を立てる。それで十分だ。」
「そんなものを飼って何が楽しいんですか。私には理解できません。」
「君には到底理解できないだろうが、人間は小さくて可愛い生き物が好きなんだよ。」
「人間の、性質ならよく存じ上げています。生活を共にしていると嫌でも目に入りますからね? ずいぶん辛抱強くなりました。」
「スポック、トリブルについてはまだ何もわからんが一つだけ言えることがある。」
「何ですか。」
「私は好きだ。…君よりもずっとね。」
「ドクター。」
「何だ?」
「トリブルにも一ついいところがありますよ?」
「何だね。」
「口を聞かないことです。…失礼します。」 医療室を出ていくスポック。

ブリッジに戻ったカーク。
あちこちにトリブルがいる。
船長席に座ると、甲高い声がした。トリブルの上に座ったのだ。
トリブルを手に取り、辺りを見回すカーク。コンソールを叩く。「ドクター・マッコイ、ちょっとブリッジへ来てくれないか。」
立ち上がるカーク。操舵席の上にもトリブルがあふれ、チェコフがなでている。
カークは取り上げた。手すりを歩いているトリブルに手を伸ばす。
スポックと目が合った。
カーク:「ウフーラ大尉、こんなに多くのトリブルがいつブリッジに入ったんだね?」
ウフーラ:「あたくしにはわかりません。船内至るところに入り込んでいます。」
マッコイがトリブルを持ってきた。
カーク:「ドクター・マッコイ。」
マッコイ:「どうした。私に何か用か?」 カークにトリブルを見せられる。「そんな目で見ないでくれよ。それより早く何とかしないとみんなトリブルの中にうずまってしまうぞ。」
「どういうことなんだ。」
「この動物は繁殖するために生まれてくるようなもんだよ。…生まれた時には既に子供が入ってる。」
「恐るべき繁殖力だな。」
「私の観察によれば、これは両性で自分の意思で自由に産めるんだ。…いい加減に休養してくれんかね。」
スポック:「彼らの繁殖率をコンピューターにかけたんですが、ドクターの見解に同意せざるをえません。答えは厳重な警戒を要するものでして、彼らは食料を浪費するだけで利益を与えてくれません。」
ウフーラ:「いいえ目に見えないものを与えてくれます。つまり愛です。…これを持ち込んだシラノは金銭で買い取れる愛はこれだけだと言ってましたわ?」 首元のシャツの中にもトリブルを入れている。
カーク:「しかし何事にも限度がある。愛と言えどもあまりにも多くてはかえって迷惑だ。」 ウフーラにトリブルを全て渡す。
「はい、そうですが。」
「管理部に、船内をくまなく掃除させろ。そして、ミスター・ルリーに連絡。これより私がステーションに行くと伝えろ。」
ペンを口にくわえたウフーラ。「わかりました。」
カーク:「犯人のシラノ・ジョーンズを探して出頭させるように。」
「はい。」
「…私のいないうちに、全部追い出すんだぞ。」
「わかりました。」

K-7。
ジョーンズ:「カーク船長、大声でわめかんで下さい。こんな扱いを受ける覚えはありませんよ、私には!」
カーク:「本当かね。」
スポック:「トリブルなる動物は、自分の意思で自由に繁殖できることはあなたも認識してたはずですよ? その乗数的繁殖力に制限を加えない環境に移した場合、どうなるか予測できたでしょ。」
ジョーンズ:「何ですって?」
「…トリブルを自然環境からステーションに持ち込んだことはです。例えるならば、魔法の壺のフタを取って中の魔法使いを逃がしたようなものですよ。」
「…つまり、どんどん子供を産むってことですか?」 笑うジョーンズ。「だからいつもストックがあるんですよ。動物を増やすなって法律はないでしょ。もちろん危険なのは別ですが。トリブルが、危険ですか?」
カーク:「繁殖力は殺人的だ。」
「それが一匹 6クレジットとは安いでしょ…。増やして売ったら儲かりますよ。では、失礼。」
「飼育に関する注意を書いたパンフレットでも出したまえ。」
「そんなことをしたら人間の探求心が損なわれますよ。では、船の手入れをしますのでさよなら…。」
入れ違いにバリスとダーヴィンが、ルリーのオフィスに来た。
ダーヴィン:「遠慮することはないですよ。」
バリス:「カーク船長、警備体制に対する君の態度は言語道断だ! 地球連邦にとって重要極まりないこの計画を、君はあまりにも軽く考えすぎとる。」
カーク:「とんでもありません。非常に重要な計画だと考えてますよ。あなたが気に入らんだけだ。」
「よくも言ったな、しかるべき筋を通して君を糾弾してやるから覚悟してろ。しかも君はクリンゴンのスパイの可能性が大いにある人物を、自由にこのステーションに出入りさせるというミスを犯しとる。」
「それは聞き捨てなりませんな、誰のことですか。」
「たった今ここを出ていった男だよ。」
「シラノ・ジョーンズが? クリンゴンのスパイ。」 笑うカーク。
「聞こえないのか。」
「聞こえてましたよ。」
スポック:「自分の耳を信じられないんでしょ?」
スポックを見たカーク。「…それを証明するような証拠でもあるんですか。」
バリス:「私の助手ミスター・ダーヴィンが、あの男を厳重にチェックした結果、非常に疑わしい行為を数多くしていることを発見した。先日起こった君の部下とクリンゴン兵との乱闘事件にしても、あの男が…」
カーク:「なるほど、ほかにどういうことがありますか。」
ダーヴィン:「彼の船の日誌を調べましたら、4ヶ月前にクリンゴン帝国の領域を通過したと思われる形跡があります。」
バリス:「彼は自由に行動している商人だよ。クリンゴンのスパイになる素質は十分に備えとるんだ。」
スポックに合図するカーク。
スポック:「※40
ミスター・シラノ・ジョーンズについては我々もチェックしました。彼は小惑星探検家としての免許をもち、法に背いて罪を犯したことは一度もありません。そして過去 7年間にわたり、珍しい商品を売り買いすることによって、快適な生活を送るだけの利益を十分に上げています。…問題になってるトリブルも、その商品の一つですが。」
バリス:「彼は私のトリティケールを狙っとる!」
カーク:「証拠がありますか。」
ダーヴィン:「彼のために大騒ぎになってるんじゃないですか。」
「トリブル事件はクリンゴンのスパイ容疑とは何ら関係のないことだ。商人としての勇み足に過ぎん。残念ながら…彼は何ら法に違反してはいませんよ。では失礼、私には大事な仕事がありますんで。」

エンタープライズ。
カークたちが娯楽室に入ると、やはりトリブルだらけだ。壁にもくっついている。
フードスロットから出した料理にまで、トリブルが載っている。
トリブルが入ったコップを手にするカーク。「サンドイッチとコーヒーも占領された。…私は何を食べていればいいんだ。」
スポック:「驚異だ。※41
「一刻も早く船外へ追い払え。手の空いている者を総動員するんだ。」
スコットがトリブルをたくさん抱えてやってきた。「船長、トリブルはあらゆるところにいます。多分ほかの食料加工装置にも入り込んでいるでしょう。」
カーク:「どこから。」
「通風口からと思われます。」
スポック:「船長、宇宙ステーションにも同様の通風口があります。」
カーク:「確か貯蔵庫に通じていたな。」 コンソールに近づく。「カークだ。…ミスター・ルリーとバリスに連絡。貯蔵庫前で落ち合うように伝えたまえ。これからステーションへ行く。スポック、来たまえ。」

トリブルをなでている転送部員。
カークとスポックが来た。足の踏み場もないほどトリブルだらけだ。
カークはあきれながら、転送台の上のトリブルを手にした。「転送。」

K-7。
転送されるカークとスポック。その足下に、一緒に転送されてきたトリブルもいる。
ルリー:「どうした。」
カーク:「中で重大事件が起こってるらしいですよ?」
バリスもオフィスを出る。

保安部員たちが見張っている。
カーク:「そのドアは閉めたままか。」
保安部員※42:「はい、誰も開けていません。」
「よし。では、開けたまえ。」
操作する保安部員。「壊れたんでしょうか、動きません。」
カーク:「ん? 私がやろう。」 やはり開かない。
上のドアを操作するカーク。すると開き、中から大量のトリブルが落ちてきた。
カークの頭の上に降り注ぐ。あきらめるカーク。


※38: 吹き替えでは「0403.4208」

※39: 吹き替えでは「エンタープライズ

※40: このカットシーンの後、LD版では「ミスター・シラノ・ジョーンズについては」の吹き替えは含まれません

※41: "Fascinating."

※42: 護衛 Guard
(デイヴィッド・ロス David Ross TOS第12話 "Miri" 「400才の少女」などのギャロウェイ大尉 (Lt. Galloway)、第14話 "The Galileo Seven" 「ゴリラの惑星」の転送部長 (Transporter Chief)、第66話 "Day of the Dove" 「宇宙の怪! 怒りを喰う!?」のジョンソン大尉 (Lt. Johnson) 役) ギャロウェイと同一人物としてもよいと思われます

山と積もったトリブル。中からカークの頭が飛び出した。
まだ時々上から落ちてきている。
一匹のトリブルを手にするスポック。「満腹のようですね。」
バリス:「満腹?! 大事なトリティケールを。カーク、この責任は君に取らせるぞ! …何千匹といるじゃないか。」
カーク:「万を数えるでしょう。」
スポック:「全部で、177万1,561匹になります。…これは一匹のトリブルが平均 10匹を産むとして、12時間ごとに繁殖期がくると計算した場合の、過去 3日間の合計です。」
「トリブルがここへ入ったのを、3日前と予測してか?」
「それに、ここに貯蔵されていたクアドロトリティケールの質と量を考慮に入れてです。」
バリス:「…何てことをしてくれたんだ! この重要な計画が悲劇的な結果に終わったのはひとえに君の責任だぞ!」
カーク:「ミスター・バリス。」
「君の弁解など聞くつもりは毛頭ない! 私を侮辱し私を無視したからこのような重大な結果になったんだ! 自分の権力を濫用し、私の要請を拒否したからだ。見たまえ! この無惨な答えを!」
「ミスター…」
「この責任は君一人にとってもらうぞ!」
「ミスター・バリス。黙らないと強制手段に訴えますよ。」
マッコイも来た。「カーク。ついにわかったぞ? 食料を与えなければいいんだ。そうすれば自然に繁殖をやめる。」
カーク:「…ありがたい話だ。」
スポック:「これは死んでますよ。こちらのも。」
トリコーダーを使うマッコイ。「ずいぶん死んでるな。生きてるのもいるが、長くない命だ。」
スポック:「トリティケールに何か入っていたと予測されます。」
カーク:「そうだ。ドクター、トリブルもトリティケールも全て分析して…なぜ死んだかを究明するんだ。」
マッコイ:「どうしてまだ生きてるのがいるのか不思議だな。…よーし、何かわかったらすぐに知らせるよ。」
バリス:「これは君に何のプラスにもならんぞ? この計画は挫折したんだ。宇宙艦隊司令部に提訴してやる! そうなれば君は軍事裁判にかけられ、徹底的に吊し上げられることになるんだ。」
カーク:「いやしかし…」
「私も出席して君が吊し上げられるのを見てうんと笑ってやる!」
「有罪になるまでは私はまだ船長だ! 船長として 2つのことを命令する。まずシラノ・ジョーンズを探せ。…これを閉めろ。」

ルリーのオフィス。
トリブルを片づけている保安部員。
ジョーンズが連れられてきた。「…私がどんな悪いことをしたって言うんですか、船長…」
カーク:「少し聞きたいことがあるだけだよ、興奮するな。」
「冗談じゃありませんよ。」
コロスも来た。「カーク船長!」
カーク:「何か用かね。」
「クリンゴン軍総司令部へ謝意を表明してもらいたい。俺の留守中に部下を勝手に処罰するとは何事だ。君にそんな権利はないはずだぞ。立場は対等だ。」 クリンゴン人もついている。
「謝意を表明?」
「そうだ。君は俺の部下を侮辱し、犯罪人のごとくに扱った。君のその態度は必ず問題になるぞ。外交問題に発展さしたくなければ謝意を。」
バリス:「カーク! それを口実にしてシャーマン惑星で有利な立場に立つつもりなんだ。」
スポック:「血気にはやるクリンゴンの、艦長一人が何を策そうとこれはそれほど重大問題ではありませんよ。」
コロス:「ミスター・スポック。ことシャーマン惑星に関する限り、カーク船長は大きな黒星をつけたな。」
カーク:「それは、面白い見解だな? しかし公式な態度を表明する前に、この事件の真相を究明したいんだ。貯蔵庫の中にトリブルを入れたのは一体誰か。彼らをくやしたのは何か。」
「カーク船長。話を進める前に一つ要求がある。」
「何だ。」
「その嫌な動物を追い出してくれ。」
ジョーンズが持っていたトリブルが取り上げられる。
ちょうどそこへダーヴィンがやってきた。保安部員※43が持ったトリブルが激しく反応する。
驚くダーヴィン。
スポック:「面白い。」
カーク:「ちょっと待て。トリブルは誰にでもなつくんじゃないのか。」
ジョーンズ:「そうですよ。でも驚いたことに気が合わないのもいるらしいんです。バーの時でも。」
「バーの時の相手は。」
「クリンゴンです。その男ですよ。」 クリンゴン人を指さすジョーンズ。
カークはトリブルを手にし、クリンゴン人の近くを通りかかった。やはり反応する。
カーク:「なるほど君の言うとおりだ。クリンゴン人は嫌いらしい。」
マッコイが入る。
カーク:「ヴァルカン人は好きと見えるな。君ももっていたとは知らなかったね。」
スポック:「トリブルはなかなか鋭い知覚能力をもっています。」
「そうらしい。…ミスター・バリスは好きらしい。地球人ならいいらしいな?」
だがダーヴィンに近づけると、また声を上げた。
カーク:「ミスター・ダーヴィンは嫌いだと言ってるぞ、おかしいな。ドクター?」
トリコーダーでダーヴィンを調べるマッコイ。「心臓の鼓動が違う。それに体温も。こりゃクリンゴン人だ!」
バリス:「…クリンゴン人?」
カーク:「宇宙艦隊司令部が何というか楽しみですな。トリティケールはどうだった。」
マッコイ:「…ああ、そうそう毒が入ってた。」
バリス:「毒が?」
「そう、ヴィールスを注入してあったんですよ。それが血液中に入ると一種の抗体になり、トリティケールを食べれば食べるほど抗体が増えるんです。その結果、2、3日後には血液から養分を吸収できなくなるというわけですな。」
カーク:「…つまり、食べれば食べるほど養分を吸収できなくなって、腹を空かして死ぬわけだ。」
「そういうことになるね?」
ダーヴィンにトリブルを押しつけるカーク。ダーヴィンも嫌がる。
カーク:「言いたいことはあるか?」
ダーヴィン:「何もないね。」 またトリブルを近づけられた。「わかった! 毒を入れたのは俺だ、どけてくれ。」
「トリブルは一切関係なしか。」
「関係あるわけないだろ? そいつを見てると寒気がしてくるよ。そんな下等な動物はもう一生見たくないね。」
バリス:「見られないところへ入ってもらおうか。連行しろ!」
ダーヴィンを連れて行く保安部員。
バリス:「あ、船長。ちょっと失礼するよ。」
カーク:「さて、コロス艦長。例の謝意の件だが。」
コロス:「何だ。」
「6時間以内に地球連邦の領域から出て行きたまえ。」
鳴くトリブルから離れるコロス。礼をし、オフィスを出て行った。
部下のクリンゴン人も続く。
カークはトリブルをなでる。「おー、よしよし…。ああ。」 笑う。「私もトリブルの大ファンになってきたぞ?」
ジョーンズも笑った。

完全にトリブルに支配されたバー。商人が埋もれている。
入り口に来たジョーンズ。「船長、私はもう行ってもいいでしょう?」
カーク:「まだダメだ。」
「ああ?」
「君に見せたいものがある。」 中に入るカーク。「人体に有害な動物を持ち運んだらどういう処分を受けるか君は知ってるかね?」
「ヘヘ、船長さん。たかがトリブル一匹が、有害? …船長さん、まさか私に何かしようってんじゃないでしょうね。でしょう?」
スポック:「有罪なら再教育センターで、まず 20年間だ。」※44
「うーん
カーク船長、友達じゃないですか。こういうことは友達としてほら、話し合いでいきましょうよ。だって、トリブルのおかげで麦に毒が入ってることもわかったし…それにクリンゴンのスパイがわかったのも、トリブルのおかげでしょ。みんなの、命の恩人じゃないですか…。」
カーク:「一つ君にして欲しいことがあるんだがね…」
「何です。」
「…宇宙ステーションのトリブルを、一匹残らず集めたまえ。そうすれば、ミスター・ルリーに掛け合って宇宙船を返してもらってやる。」
元気なく笑うジョーンズ。「何年も、かかりますよ。」
スポック:「正確には 17.9年になるね。」
「17.9…年後。」
カーク:「その間失業しなくて済む。」
「船長は冷血動物だ。」 連行されそうになるジョーンズ。「ああわかった、もう負けたよ。」
「やるんだな?」
スポック:「当然。」
ジョーンズ:「やりゃいいんでしょ。」
残されたジョーンズは、トリブルを服に詰め始めた。

K-7 を離れるエンタープライズ。
カークはブリッジに戻った。
スポック:「船長。宇宙艦隊は例の輸送船をよこしました。」
カーク:「よし。これでクアドロトリティケールは、予定よりわずか数週間※45遅れで惑星に着くな。」 船長席に座る前に確認する。「ああ? トリブルの姿が見えないな。」
マッコイ:「見たくてももうこの船ではお目にかかれないぞ?」
「ドクター、どこへやったんだ。」
「人の手柄を横取りできませんからね。スコッティがやったんだ。」
「スコッティ。トリブルはどこだ。」
スコット:「それが、実はその…ミスター・スポックの、アドバイスに従ったまででして。」
「なるほど。スポック。」
スポック:「私はコンピューターの分析に従ったまでですよ。周囲の状況を判断しまして?」
「お互いの立場を尊敬して、誠に麗しい光景だがトリブルは一体どこなんだ?」
マッコイ:「…スポック、言いたまえ。」
スポック:「…実際の、技術的な面を担当したのはミスター・スコットですので。」
カーク:「…ミスター・スコット? …トリブルを、どこへやったんだね?」
スコット:「実は、転送装置を使いました。」
「転送装置を。」
「はい。」
「どこへ転送したんだ。」
答えないスコット。マッコイもスポックも、目をそらす。
カーク:「まさか、宇宙空間へ捨てたんじゃないだろうな?」
スコット:「船長、いくらなんでもそれはないですよ。」
「どこへやった。」
「新しいうちを与えたんです。」
「どこだ!」
「クリンゴンの宇宙船です。」
「クリンゴンの船へやった?」
「そうです。向こうがスピードを上げる前に一匹残らずエンジンルームへ転送してやりました。素晴らしいプレゼントです…※46。」
一同は笑い始めた。
カークは、スコットの腹を叩いた。


※43: このカットシーンの後、LD版では「カーク船長」の吹き替えは含まれません

※44: Security guard
(エディ・パスキー Eddie Paskey TOS第2話 "Where No Man Has Gone Before" 「光るめだま」などのレズリー大尉 (Lt. Leslie)、第5話 "The Enemy Within" 「二人のカーク」のコナーズ (Connors)、第7話 "The Naked Time" 「魔の宇宙病」のライアン (Ryan) 役) 右側の人物で、レズリーと同一人物としてもよいと思われます。クレジット・セリフなし

※45: 吹き替えでは「2時間」

※46: 原語では原題のようにトリブルとトラブルを掛けて、"...where they'll be no 'tribble' at all." 「全く問題はないでしょう」

・感想など
スタートレックを代表する生き物、トリブルが大活躍というか大繁殖するエピソード。そこかしこに引っ付いている様子はコミカルで、何となくシュールでもあります。いろいろと面白いことが起こるのに、本人たちは至って真面目というのがまた愉快ですね。さすがは後に DS9 "Trials and Tribble-ations" 「伝説の時空で」で、栄えある「共演」の元エピソードとして選ばれただけはあります。"Blood Oath" 「血の誓い」でのクリンゴン三人衆の一人、コロスも姿を見せています。
旧題は "A Fuzzy Thing Happened to Me..."。脚本家の David Gerrold はこの話にまつわる顛末を描き、脚本も収録した書籍を著しています。現在 Benbella にて無料で読めるようです。


dot

previous第41話 "I, Mudd" 「不思議の宇宙のアリス」
USS Kyushuトップ | 「未踏の地」エピソードガイド