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ヴォイジャー 特別エピソードガイド
第143話「帰ってきたケス」
Fury

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・イントロダクション
作戦室。窓の外を見つめているジェインウェイ。チャイムが鳴る。「どうぞ。」
トゥヴォックが入る。「何か御用でしょうか。」
ジェインウェイは振り向かぬまま、質問する。「あなたとは何年の付き合いになる?」
「およそ、20年ですが。」
「同じ宇宙船に勤務するのは 3隻目※1。お嬢さんのコリナール※2にも出席した。あなたのことは親友だと思ってます。」
「私もあなたに対し、同様の評価を。」
ジェインウェイはやっとでトゥヴォックの方を見る。「私に隠しごとはないけど、あなたは私に隠してたことがある。」
「何のことでしょう。」
「わからない? 膨大な量のデータを、徹底的に調べてみたの。噂の類は排除してね。そしてついに真実を突きとめた。」
「艦長。」
ジェインウェイはレプリケーターを操作した。出てきたものを手に取る。それは一本のろうそくが立った、ケーキだった。「ハッピーバースデー。」 微笑むジェインウェイ。
受け取るトゥヴォック。「これは、どうも。」
「トゥヴォック、3桁の大台に乗るのももうすぐね※3。」
「いかにも。この『発見』について、誰かに知らせましたか?」
「心配はいらないわ。口は固いの。ほら、キャンドルを吹き消してくれなくちゃ。」
「ヴァルカン人の習慣ではない。」
「私のために。」
チャコティの通信が入る。『艦長、ブリッジへ。』
ジェインウェイはドアへ向かいながら、トゥヴォックに言う。「早く。」
火を吹き消すトゥヴォック。「火事の危険がある。」
笑うジェインウェイ。

2人はブリッジへ戻る。
チャコティ:「救難信号を受信しました。衝突針路にいる、小型船からです。」
ジェインウェイ:「生命反応は?」
キム:「1名、オカンパ人です。」
トゥヴォック:「呼びかけています。」
狭い船内※4が映し出される。年老いた女性が操縦していた。
ジェインウェイは、すぐに誰だかわかった。「ケス※5?」
『ジェインウェイ艦長。助けて下さい。……乗船許可を頂けないでしょうか。』 苦しそうだ。
「いいけど、何があったの?」
『お願い…早く乗せて。』 通信を切るケス。
「ドッキングポート用意。ドクターに待機させて。」
トゥヴォック:「船が加速しています。このままだと衝突を。」
向かってくる小型船。
ジェインウェイ:「ケス、聞こえる? エンジンを止めて。速過ぎるの。」
パリス:「衝突まで 5秒です。」
チャコティ:「トラクタービーム、ロック。衝突回避。」
大きな衝撃が走る。
キム:「第9デッキで亀裂!」
ジェインウェイ:「緊急フォースフィールド。」
「艦長、衝突前に転送収容しました。ケスのようです。」
廊下を歩くケス。その後ろでは、次々と隔壁が破れ、爆発を起こしていく。


※1: ヴォイジャーとビリングス (VOY第95話 "Night" 「暗黒の汚染空間」)、もう一隻はアル・バターニ (VOY第1話 "Caretaker, Part I" 「遥かなる地球へ(前編)」など) の可能性もあります

※2: Kolinahr
純粋な論理という理想を追求するため、残っている全ての感情を除去するためのヴァルカンの儀式。映画 TMP "Star Trek: The Motion Picture" 「スター・トレック」など

※3: VOY第44話 "Flashback" 「伝説のミスター・カトー」では、2293年時点で 29歳という言及があり、現在=2376年では 112歳になるため明らかに矛盾しています。単に設定が変わっただけとも考えられますが、トゥヴォックはヴァルカン人であることを考慮すると、ヴァルカン星の一年に換算してもうすぐ 100歳という説も成り立ちますね。トゥヴォックが地球の暦で祝っても意味がないわけですから。つまりヴァルカン星の一年は地球より長いということになります

※4: VOY第50・51話 "Future's End, Part I and II" 「29世紀からの警告(前)(後)」に登場した時空艦イーオンの内装の使いまわし

※5: Kes
(ジェニファー・リーン Jennifer Lien) VOY第2話 "Caretaker, Part II" 「遥かなる地球へ(後編)」でヴォイジャーのクルーになった、オカンパ人。ニーリックスの恋人 (後に別れた) であり、ドクターの助手としても活躍。VOY第70話 "The Gift" 「ケスとの別れ」で超生命体へと進化し、ヴォイジャーを去りました。同エピソード以来の登場。声: 小林優子 (レギュラー当時と同じ)

・本編
ブリッジにも衝撃音が伝わる。
キム:「11デッキで隔壁亀裂。セクション 17、18、19。」 音に続けて報告する。
チャコティ:「原因は。」
「不明です。」
トゥヴォック:「ケスを発見。今言ったセクションを通過しています。高レベルの神経エネルギーを放出中。」
ジェインウェイ:「ジェインウェイからケス。ケス、応えて。」
さらに衝撃音。キム:「セクション20で亀裂。」
ジェインウェイ:「フォースフィールド。保安部員は 11デッキへ。」

ケスの前にフォースフィールドが張られる。一瞬立ち止まるが、ケスはそのまま突き抜けてしまった。火花が散る。

キム:「フォースフィールド突破。」
トゥヴォック:「機関室へ向かっています。」
ジェインウェイ:「ブリッジから機関室。侵入警報。」

「そこを動くな!」 フェイザーライフルを持った、アイアラ※6たち保安部員がケスの前に立ちふさがる。それでも進もうとするケスにフェイザーが数発撃たれるが、少しひるんだだけで全く効果はない。
ケスはアイアラを睨みつけた。その瞬間、横の通路へ吹き飛ばされる。
まだ保安部員たちはケスにフェイザーを向けている。ケスが再び睨むと、アイアラとケスの間の隔壁が爆発を起こした。飛ばされる保安部員。これで追ってはこれない。ケスは歩き続ける。

あわただしい機関部員。「そっちのコンソールにアクセス。修理は終わってるのか?」 「異常ありません。」
フェイザーを持ったトレスとセブンが機関室の入り口へ向かうが、既にケスが入ってきていた。
トレス:「ケス!」
何も言わず、息を荒げるケス。
フェイザーを向けるセブン。「目的を述べよ。」
再び超能力で 2人をどかすケス。そのまま歩き続け、ワープコアに近づく。
トレス:「全クルー退避!」
トレスとセブンが見ている前で、ケスは柵の中に入り、両手でコアに触れる。すると手を伝って、ケスの体に変動が現れた。目を閉じるケス。

パリスが異常に気づいた。「ワープパワーが不安定です。」

報告するトレス。「トレスからブリッジ。ケスがワープコアに接触しています。どうやらパワーを吸い取ってる模様。」

ジェインウェイ:「コアを守って。」

コンソールを操作するトレス。ケスは横目でそれを見る。次の瞬間、ワープコアからのエネルギーがトレスを襲った。吹き飛ばされ、倒れたトレスに近づくセブン。首の脈を取る。
ケスはそのままエネルギーを吸い取っている。そして光に包まれ、消滅した。

パリス:「ワープパワーが安定しました。」
チャコティ:「ベラナ、報告。」
セブン:『トレス中尉は死んだ。ケスは姿を消した。』
ショックを受けるパリス。

機関室を平常通りに行き来する機関部員。ワープコアのところに、ケスが姿を現した。周りを確認するが誰も気づいていない。
トレスの声が聞こえてきた。「マルカヒー※7はディフレクターコントロールにいるわ…」
ケスは自らの姿を、服装も含めて若い頃の自分に変えた。
トレス:「ジャンクション 12 の A にパワーを供給。それからハリーにエネルギーグリッドについて話があるって伝えて。」
部下に指示を与えたトレスは、ケスに気づいた。「迷ったの?」
「ううん、見学よ。艦長がもっとこの船になじんだ方がいいって。」
「質問があったら何でも聞いて。」
「ありがとう。」
出ていくケスに話しかけるトレス。「ああ、これからワープコイルアセンブリをチェックするんだけど、よかったら見てかない?」
「嬉しいけどもう医療室に戻らなくちゃ。」

機関室を出たケス。「コンピューター、ヴォイジャーはデルタ宇宙域に入ってどのくらい?」
『56日と 17時間です。』
微笑むケス。

医療室に入るケス。台の上に置かれていた器具類から、ハイポスプレーを手に取る。ドクターが話しかけてきた。「早かったな。薬草を取りに行ってたんじゃないのかい?」
ケスはハイポスプレーを後ろに隠す。「忘れ物をして。」
「ああ。」 ドクターはオフィスに戻る。すぐにケスはハイポスプレーのセッティングを行うが、またドクターが振り向いて話しかけた。隠すケス。
ドクター:「ピョン・コ※8だ。」
「何ですって?」
「名前をつけるべきだと言ってくれたろ。ピョン・コは癌細胞を抑制する遺伝子連鎖を発見した、21世紀の外科医の名前なんだ。彼によって地球の医療史が塗り替えられた。」
「ドクターにぴったりですね。」
「うん、ほかにも候補はある。シュヴァイツァー※9、ジャーヴィック※10、パストゥール※11。迷うところでね。どれも私にぴったりだ。」
ケスは後ろにハイポスプレーを隠したまま話す。「もっとよく考えたらいかがです? 急ぐことないんですから。」
「虚栄心から必要としてるわけじゃないんだ。結局、ホログラムなわけだから。でも名前があれば、クルーに『ドクター』とか、『おい君』とか、そう呼ばれるより敬意を払ってもらえるんじゃないかと……」
ドアの閉まる音がした。振り向くドクター。「ケス?」

空気栽培室で、過去のケスが植物の手入れをしている。
ドアが開く音がした。「誰?」
閉まるドア。人は見当たらない。
プランターに隠れ、若いケスを見つめる者がいる。作業に戻ったケスに背後から近づく。未来から来たケスは、ハイポスプレーを昔の自分の首に押し当てた。倒れる若いケス。コミュニケーターが盗られる。


※6: Ayala
(Tarik Ergin VOY第106話 "Bride of Chaotica!" 「侵略されたホロデッキ」のサタンのロボット (Satan's Robot) 役) 通常エキストラ扱いのマキ出身クルー。珍しくセリフがあります。クレジットでは「保安警護員 (Security Guard)」

※7: Mulcahy

※8: Pyong Ko

※9: Schweitzer
ドクター・アルベルト・シュヴァイツァー (Dr. Albert Schweitzer、1875〜1965)。神学者、音楽家、医師。VOY第12話 "Heroes and Demons" 「英雄伝説」で、ホロデッキ内でドクターの名前として使用したものの、その後は使っていません。よって、この過去の時間はその出来事の前といえますね

※10: Jarvik
恐らくロバート・K・ジャーヴィック (Robert K. Jarvik、1946〜) のこと。人工心臓の発明者

※11: Pasteur
ルイ・パストゥール (Louis Pasteur、1822〜1895) 化学者、微生物学者。TNG最終話 "All Good Things..." 「永遠への旅」に医療艦 U.S.S.パスツール (オリンピック級、NCC-58928) が登場

食堂で話すパリス。「ニーリックス、お前が考えて作った料理なら、自分の名前をつけたらどうだ? …ギトギト・ニーリックスとか、ダブルチーズ・タラクシア。」
「あ、そりゃいい名前だ、中尉。ありがとう。頭に入れとくよ。」
料理を渡すニーリックス。食堂に入ってきたケスに話しかける。「ケス、いつものかい?」
「お腹は空いてない。ただ、ジェインウェイ艦長にコーヒーをおもちしようと思って。」 厨房に入るケス。
「艦長、喜ぶよ。」 ポットを手に取るニーリックス。「今夜、楽しみにしてる。」
「それが、医療室の仕事が溜まってて。」
「でも、ホロデッキ予約しちゃったよ。オシオニア・プライム※12の月明かりの中を散歩しようって言ったじゃないか。」
「今度は絶対行くわ。」
「何かあったの?」
「まあね。」
「できることは?」
「ないわ。」
「俺も今日はついてない。今日のメニューがすごく不評なんだよ。レプリケーターのせいにしようと思ったけど、誰も信じちゃくれない。」 ケスの顔を見るニーリックス。「あれ? 今のは何だ? 保安部、応答せよ。ケスのしかめっ面が構造維持力を失っている。非常警報。笑顔を感知。」
ケスは少し笑顔を見せるが、どこかぎこちない。「コーヒーを。」
コーヒーの入った容器とカップを持ち、厨房を出て行くケス。

作戦室でジェインウェイに報告するチャコティ。「先の攻撃でインパルスドライブが停止寸前。しかしベラナが、ディフレクターからのパワー供給法を発見しました。」
「機関主任にしてはいい選択だと言わせてもらいます。」
「敵のデータですか?」
ジェインウェイの手元のコンピューターには、ヴィディア人※13の情報が映し出されている。「知り合いに会った気分よ。この話覚えてる? ライサ※14に行った男が、美しい女性に出会い、その夜彼女の家に泊まった。」
「翌朝目覚めてみると、彼の腎臓はなくなっていた。」
「初めて上陸任務につく者は必ずこの話を聞かされるのよね。これ以上恐ろしい話はないんじゃない?」
「ええ。ですがヴィディア人は普通のモンスターとは違います。フェイジ※15になるまでは、我々と非常によく似てました。」
「…それは同情ととっていいのかしら。」
「彼らと同じ状況に置かれたらどうします?」
チャイムが鳴る。ジェインウェイ:「どうぞ。」
コーヒーをもったケスが入る。
ジェインウェイ:「心が読めるのね。」 出て行くチャコティ。
コーヒーを入れながら、ケスは尋ねる。「ヴィディア人?」
「ええ、そう。新たに 2隻の船を探知したの。できる限りの予防措置をとっておこうと思って。」
「艦長なら切り抜けられます。」
「励ましてくれてありがとう。トゥヴォックが敵のシールドを突破する方法を見つけたの。次に攻撃されたら報復するつもりよ。」
「良かったです。」
トゥヴォックの通信。『艦長、ブリッジへ。』
ジェインウェイ:「すぐ行きます。あっ。」 ケスは注いでいたコーヒーをこぼしてしまった。
ケス:「あ、あの艦長…私ったらごめんなさい。」
「気にしないで。このデスクはコーヒー飲むの慣れてるから大丈夫。」
ジェインウェイが出て行くとすぐに、ケスは椅子に座り、コンピューターの操作を始めた。

ジェインウェイに言うトゥヴォック。「ワイルドマン少尉が、興味深い提案を。」
科学コンソールに座っているサマンサ・ワイルドマン※16。「さっきの攻撃から、ヴィディア人の生体記録を分析しました。彼らの免疫システムは非常に弱っています。恐らく、彼らを完全に麻痺させる神経剤を合成することができるかと。」
ジェインウェイ:「乗船してきたら撒くというわけね。」
トゥヴォックは作戦室から出てきたケスを見た。
ワイルドマン:「そうです。」
ジェインウェイ:「ドクターに言ってすぐに始めて。成功したら、環境システムを使って撒く段取りを。」
トゥヴォックはケスと目が合う。ケスはしばらくこちらを見つめていたが、そのままターボリフトに乗った。
ワイルドマン:「了解。」
トゥヴォックは不可解な顔をし、ため息をついた。

会議室。トゥヴォック:「先ほど探知した船は、既にセンサーから消えています。」
キム:「振り切ったのかも。」
トレス:「フン、そんなわけないじゃない。」
ドクターはモニターに映っている。『その通り。ヴォイジャーはこの辺で唯一の臓器バンクだ。』
チャコティ:「最初は攻撃を仕掛け、次はセンサーに現れ、我々にコース変更させただけで消えた。どこかに導かれてるようだ。」
パリス:「現行のコースを維持すれば、亜空間の穴で満たされた領域に突入します。」
トレス:「推進エンジンを切らなくちゃ。」
チャコティ:「待ち伏せするにはいい場所だ。」
「マキはよく、カーデシア人をバッドランドにおびき寄せたの。ガロア級の巡航艦に、逃げ場はないから。」
ジェインウェイ:「私たちもよ。ただし…トム、穴の密度はどのくらい?」
パリス:「領域の 70%を覆っています。」
「ドクター、失礼。」 医療室の映像を切り、地図を表示させるジェインウェイ。「ワープ速度での回避行動で、最初に習ったことは?」
パリス:「光より速く、左右はない。可能な限り直線軌道を維持する、コース変更は亀裂の原因に。」
「その通り。コースを変えるたびにワープを止めなきゃならない。ただし…ヴォイジャーに操縦させたらどうなる?」
キム:「艦長?」
「キロメーターごとにコース設定しとけば、コンピューターがターンを実行するたびに数秒しかワープを止めないで済む。」
パリス:「全て自動操縦で乗り切ると?」
「言いにくいけど、神経ゲルパックの方が、あなたよりコース計算が速いの。」
チャコティ:「ベラナ。」
トレス:「その領域を正確にスキャンしなきゃ。一つでも穴を食らえば命取りになるわ。」
キム:「シャトルを送りましょう。」
トゥヴォック:「デルタ・フライヤーを。センサーがより進化しています。」
みなトゥヴォックを見る。チャコティはジェインウェイと顔を見合わせた。
ジェインウェイ:「デルタ…何?」
トゥヴォック:「……すみません。ほかの宇宙船と、混同してしまったようです。」
「シャトルを用意して。トムが調査から戻るまでに、全システムの性能をピークにもっていくように。これに成功すれば、向かうところ敵なし。解散。」
立ちあがるトゥヴォック。まだ自分の発言に納得できていない。

シャトル格納庫。
シャトルの中でケスが独りでいる。「コンピューター、オカンパの母星を映して。」 惑星が表示される。「ヴォイジャーの現在位置からのコースをお願い。」
パリスがやって来た。「ホームシックか?」
「中尉。」
笑うパリス。「トムでいい。気にすんな。クルーのほとんどがホームシックだから。」
「ずっとオカンパから離れようとしてたのに、どうして戻りたくなったのかしら。」
「故郷だからさ。俺の故郷は犯罪者用のコロニーだ。ここでは最新鋭の船を操縦できるし、提督の顔を見ることもない。」
「何してるの?」
「偵察任務の準備さ。」 パリスはモニター表示されたコースに気づいた。「どっか行く気だった?」
「いえ…、違います。ただ操舵装置を勉強しとこうと思って。」
「…シャトルを操縦できるのかい?」
笑うケス。「まさか。でも勉強したいの。」
「だったら、プロに習うといい。ホロデッキでクラス1 の操縦から始めよう。親父が乗ってたのと、同じタイプだ。」
「嬉しいわ。感謝します、中尉。……トム。」
ケスはシャトルを降りた。

パッドを読みながら廊下を歩くトゥヴォック。ターボリフトの前に来た。ボタンを押しドアが開けると、そこには笑顔を浮かべたナオミ※17が立っていた。
トゥヴォック:「名前を述べよ。」
「私よ。ナオミ・ワイルドマン。」
ターボリフトを降りたナオミは、そのまま廊下を歩いていく。追うトゥヴォック。ナオミは振り向きつつ歩いている。
ドアの音がした。貨物室だ。中に入るトゥヴォック。目の前の光景に、しばし立ち尽くす。
壁面にはボーグ・アルコーヴがあり、エザン※18、レビ※19、そしてセブン・オブ・ナインが再生している。
男が話しかける。「ご用でしょうか? どうかしましたか?※20」 コンソールで作業している、ケアリー※21大尉だ。
もう一度壁を見るが、そこには何もなかった。ため息をつくトゥヴォック。

ケスは部屋に入った。音楽が流れ、テーブルの上にはディナーの用意がされている。
置いてあったパッドを手にし、音声を再生させるケス。
ニーリックス:『やあ、ケス。勝手ながら、君の好物を用意させてもらったよ。レプリケーターにニーリックス・1 で入ってる。話し相手が必要なら、呼んでくれ。』
ケスはパッドを投げ捨て、テーブルの上の皿を払い落とす。「コンピューター、音楽停止。」
椅子を倒すケス。「暗号回線をつないで。今から打つ座標に信号を送って。」
ため息をつき、コンピューターを操作する。
コンピューター:『回線つなぎました。』
「私はケス。宇宙艦ヴォイジャーに乗船中。応答せよ。……聞こえてることはわかってるの。この船を捕獲しようとしてるらしいけど失敗するわね。ヴォイジャーのクルーを生け捕りにしたいなら今すぐ応答して、早く。」
船の映像の後、ヴィディア人※22が映し出された。『用件は何だ。』
「ジェインウェイ艦長は待ち伏せに気づいてる。あなたたちを回避する気よ。でも私がついてる。」
『続けろ。』
「シールドや兵器の戦術データを送るから、それさえあればこの船を捕獲できるのよ。」
『これは罠だ。』
「クルーが欲しくないの?」
『…報酬は。』
「私ともう一人を安全にオカンパへ帰して欲しいだけ。」
『なぜ自分の仲間を見殺しにできるのだ。』
「仲間じゃない。彼らは私を見捨てた。」


※12: Oshionian Prime

※13: Vidiian
デルタ宇宙域出身のヒューマノイド種族。VOY第5話 "Phage" 「盗まれた臓器」で初登場。よって、この過去の時間はそのエピソードの後ということになります

※14: Risa
美しい砂浜とリゾート施設で知られる、暖かい Mクラス惑星。TNG第67話 "Captain's Holiday" 「大いなるホリディ」など

※15: phage
ヴィディア人を襲った、致死性のウィルス。VOY "Phage" など。「病気」と訳されています

※16: Samantha Wildman
(ナンシー・ハウアー) ナオミ・ワイルドマンの母である科学士官。VOY第99話 "Once upon a Time" 「火山惑星からの生還」以来の登場。声: 石塚理恵 (以前と統一)

※17: ナオミ・ワイルドマン Naomi Wildman
(スカーレット・ポマーズ Scarlett Pomers) VOY第139話 "Child's Play" 「苦悩するボーグ・チャイルド」以来の登場。声: 永迫舞

※18: Azan
(Kurt Wetherill) 同じく VOY "Child's Play" 以来の登場。セリフなし

※19: Rebi
(Cody Wetherill) 同じく VOY "Child's Play" 以来の登場。セリフなし

※20: 原語ではこのシーンを含め、トゥヴォックを "Lientenant" (大尉) と呼んでいます。階級章は少佐のものです。VOY第13話 "Cathexis" 「幽体離脱」までの初期エピソードでは不一致があったのも確かですが、同エピソードで階級章が変わったパリスは既に中尉の物を着けています

※21: Carey
(ジョッシュ・クラーク Josh Clark) ジョセフ・ケアリー (カレイ) (Joseph Carey)。トレスと主任の座を争った機関部員。VOY第118話 "Relativity" 「過去に仕掛けられた罪」以来の登場。声:河相智哉

※22: ヴィディア人船長 Vidiian Captain
(ヴォーン・アームストロング Vaughn Armstrong TNG第20話 "Heart of Glory" 「さまよえるクリンゴン戦士」のコリス司令官 (Commander Korris)、DS9第3話 "Past Prologue" 「スペース・テロリスト ターナ・ロス」のガル・ダナー (Gul Danar)、第171話 "When It Rains..." 「嵐の予兆」などのカーデシア人セスカル (Seskal)、VOY第7話 "Eye of the Needle" 「ワームホールの崩壊」のテレク・ルモール (Telek R'Mor)、第122話 "Survival Instinct" 「ボーグの絆を求めて」のトゥー・オブ・ナイン (Two of Nine)=ランサー (Lansor)、第155話 "Flesh and Blood, Part I" 「裏切られたホログラム革命(前編)」のアルファ・ヒロージェン (Alpha Hirogen)、第171話 "Endgame, Part I" 「道は星雲の彼方へ(前編)」のコラス (Korath)、ENT第1話 "Broken Bow, Part I" 「夢への旅立ち(前編)」などのアーチャーの上司フォレスト提督 (Admiral Forrest)、第14話 "Sleeping Dogs" 「名誉に生きる者」のクリンゴン船長 (Klingon Captain)、第22話 "Vox Sola" 「漂流生命体の叫び」などのクリタサン船長 (Kreetassan Captain) 役。ゲーム "Armada II"、"Bridge Commander"、"Starfleet Command III"、"Elite Force II" でも声の出演) ヴィディア人が登場するのは VOY第57話 "Coda" 「霊界からの誘い」以来。声:楠見尚己

医療キットを持ったケスが空気栽培室にいる。プランターの一つを操作すると、若いケスが寝ている底部が出てきた。
トリコーダーで状態を調べ、若い自分の髪の毛を優しくなでる。
再び底部をプランター内に収めた。コンピューターに近づき、指示するケス。「ヴォイジャーの戦術データベースにアクセス。」
コンピューター:『上官の許可が必要です。』
ケスが画面の端に触れると、しばらく表示が乱れた。
コンピューター:『アクセス許可。』
データが次々と表示される。

「ナオミ・ワイルドマン?」 トゥヴォックに尋ねるジェインウェイ。
「クタリア系の、顔立ちです。」
「少尉の御主人はクタリア人よ。ディープ・スペース・ナインで会ったことがある。」
「もう一つ。第2貨物室に行ったのですが、女性と 2人の子供を見ました。3人とも、顔にインプラントが。」
「ボーグ?」
「説明が尽きません。幻覚を見たことはありますが、深い瞑想状態の時だけです。今回は鮮明過ぎて、いつになく不安感を呼び起こします。」
「つまりは、悪い予感がするってことね。」
「そうです。」
「ヴァルカン人も予感することがあるの?」
「ありません。だから気になるのです。」
「コンピューター、トゥヴォックの周辺を継続的にスキャンして欲しいの。半径 10メートルよ。全センサーを使って。…また何か見るかもしれない。」
「論理的対策です。」
チャコティの通信が入る。『ブリッジから艦長。』
ジェインウェイ:「続けて。」
『穴に接近中です。』
「すぐ行きます。」

ヴォイジャーは亜空間の穴で満たされた領域に入っていく。ブリッジに戻るジェインウェイたち。
チャコティ:「引き返す最後のチャンスです。」
ジェインウェイ:「真夜中に墓をうろついてる気分ね。ヴィディア人の影は?」
「ありません。でも必ずいますよ。」
パリス:「軌道に入りました。脱出まで、3時間12分11秒かかる予定です。216回コースを変えながらね。」
「出発しましょう。」
「ワープ8 で発進。では皆さん、楽しい旅を。」
細かな揺れが伝わる。キム:「穴の一つが位置を変えました。コースを調整中です。」
パリス:「ワープ停止。2.3度、右舷へ。ワープ6 にジャンプ。」
チャコティ:「コース変更、あと 215回です。」
ジェインウェイ:「医療室にいます。」 出ていくジェインウェイ。
パリス:「ワープ再度停止。針路 030※23、マーク 2。」
トゥヴォックのコンソールが警告音を発する。「船が接近中。衝突針路です。」
トゥヴォックの方を見るパリス。「船なんて見当たらない。」
チャコティ:「どうした?」
苦しそうなトゥヴォック。「少々休憩を。気分が…優れないもので。」
「いいとも。」
トゥヴォックはターボリフトに乗った。

「分子構造は安定してるようだ。よし。」 医療室でワイルドマンと作業しているドクター。
ジェインウェイが入る。「報告。」
ドクター:「ヴィディア人の運動機能を、一時的に抑制する神経剤ができました。後遺症はありません。」
「よろしい。これ以上彼らの健康を害したくはないの。ヴォイジャーを守りたいだけ。」
ワイルドマン:「戻ります。」 隣の部屋で作業を続ける。
ジェインウェイはワイルドマンを見つめながら、尋ねた。「ドクター。ワイルドマン少尉を最後に検診したのは?」
「6週間前に、定期検診を行いました。」
「何か異状はなかったかしら。」
「健康そのものでした。」
「変なことを聞くようだけど、妊娠してるかどうか知りたいの。」
「…患者の情報を漏らすわけにはいきません。医師と患者の秘密ですので。」
「艦長命令だとしたら?」
「すみません。この件に関しては、医療規約の方が、勝ります。」
「この船が危険にさらされてるかもしれないの。」
小声でいうドクター。「…本人が言うといってました。」
「性別は。」
「女です。御主人がクタリア人なので、妊娠期間は通常の倍になります。なぜそれを。」
無言で出ていくジェインウェイ。
ドクターは言った。「無視には慣れてる。」

廊下を歩いていたトゥヴォックは、幻聴を耳にする。
チャコティ:『救難信号を受信しました。』
ジェインウェイ:『生命反応は?』
辺りを見回しても誰もいない。
キム:『オカンパ人です。』
ジェインウェイ:『ケス?』
ケス:『乗船許可を…』
何かの音が聞こえた。そちらへ向かう。
トゥヴォック:『船が加速しています。このままだと衝突を。』
キム:『第9デッキで亀裂!』
ジェインウェイ:『緊急フォースフィールド。』
トゥヴォック:『機関室に向かっています。』
セブン:『目的を述べよ。』
ケス:『乗船許可を…』
トゥヴォック:『船が接近中。衝突針路です。』
ジェインウェイ:『フォースフィールド。』
チャコティ:『救難信号を受信…』
『ブリッジから機関室。侵入警報。』
機関室に入るトゥヴォック。幻聴は続く。
『このままだと衝突…救難信号を受信しました…機関室に向かっています…緊急フォースフィールド…目的を述べよ…第9デッキで亀裂…機関室…生命反応は…』
トレスが話しかける。「どうしたの?」
トゥヴォックはワープコアを見る。
ワープコアに手をついた年老いたケスからエネルギーが発射され、トレスに当たった。叫び声をあげて倒れるトレス。
トゥヴォックは頭を抑え、よろめいた。
トレス:「ちょっと!」
苦しみ、倒れるトゥヴォック。
トレス:「トレスより医療室。緊急事態発生。」

治療するドクター。「レクトラジン※24、20ミリグラム!」
トゥヴォックの震えは収まらない。
ドクター:「スティミュレーター※25。」
それをトゥヴォックの頭に取りつけるケス。だがドクターが後ろを向いている隙に、機具の設定を変更する。
ドクター:「20ミリジュールからだ。」
ケス:「了解。」
「始め!」
トゥヴォックは大きく目を見開き、震えが大きくなる。
ドクター:「ショック状態に入った。どうしてだ!」
トゥヴォックを見つめるケス。

医療室。眠ったままのトゥヴォックを見るジェインウェイ。「話していい?」
ドクター:「今は安静にさせるのが一番かと。」
ケスは作業をしながら、2人の話を聞いている。
ジェインウェイ:「発端はいつ?」
ドクター:「今日の午後です。機関室で。」
「時間は? 正確な時間を教えて。」
「トレス中尉から連絡を受けたのが、14時22分です。」
ジェインウェイは壁面のコンピューターに近づく。「コンピューター、トゥヴォックの 14時22分のスキャン結果を、すぐにディスプレイしてみて。」
グラフが現れる。棒の一つだけ突出している。ため息をつくジェインウェイ。
ドクター:「艦長?」
「タキオンだわ。」
「何ですって?」
「トゥヴォックが倒れるちょっと前に、タキオン粒子が急激に増加してる。」
「それが原因かもしれん。しかし発生源は。」
「通常は時間のゆがみによって引き起こされる。」
「タイムトラベル。」
「容態が変わったら知らせて。」
ジェインウェイはケスに言う。「ケス。あなたのテレパシー能力で、ここ何日かいつもと違った何かを感知しなかったかしら。幻覚とか、予感とか。」
ケス:「いいえ、何も。」
「あったら知らせてくれる?」
「もちろんです。」
出て行くジェインウェイ。
ケスは厳しい表情を浮かべた後、オフィスのドクターに言う。「神経安定剤がわずかなので、レプリケートしてきます。」 医療室を出るケス。
ドクター:「早く頼む。」

モニターに映ったヴィディア人。『約束の戦術データはまだか。』
暗い自室にいるケス。「ダウンロード中よ。あなたがこっちに着き次第、送信する。」
『今すぐ送信しろ。』
「ジェインウェイが疑ってるの。今送信すればこの計画はすぐにばれてしまう。」
『それはお前の問題だ。』
「あなたの問題でもあるはずよ。」
何も言わないヴィディア人。

ブリッジでジェインウェイは指示する。「みんな、タキオン粒子をくまなくスキャンするように。」
キム:「タキオン?」
「早く。」
チャコティ:「具体的な問題でも?」
「まだわからない。」
船が大きく揺れた。
チャコティ:「報告!」
パリス:「攻撃を受けました。ヴィディア船が、接近中です。」
ジェインウェイ:「戦闘配置につけ。」
ヴォイジャーに向けて、次々と魚雷を発射するヴィディア船。


※23: なぜか「0301」と吹き替え

※24: lectrazine
薬品。VOY第35話 "Lifesigns" 「ドクターの恋」など

※25: 正確には皮質スティミュレーター (cortial stimulator、皮質刺激機)。TNG第125話 "The Inner Light" 「超時空惑星カターン」など

ヴィディア船は攻撃を続ける。
キム:「ワープドライブ、武器システム、ダウン。」
チャコティ:「シールドを破ってきた。再調整。」
「やってるんですが、周波数を全て読まれてます。」
「エンジンは生きてるぞ。」
パリス:「彼らに操られてます。コース設定、不能。」

ケスはコンピューターを操作した。画面には「送信進行中」の文字。

ぴったりとヴォイジャーの上部に陣取ったヴィディア船から、3本の太い管が降りてくる。ヴォイジャーの船体に達した先端が、がっちりと食い込む。
チャコティ:「乗船を強行する気だ。第3デッキを緊急封鎖!」
ジェインウェイ:「ブリッジから医療室。神経剤の準備は?」
ドクター:『万全です。』
「第3デッキに散布用意。」

医療室のドクター。「了解。50ミリリッター※26でいいだろう。」
コンピューターを操作するワイルドマン。だが様子がおかしい。「ドクター!」
連絡するドクター。「こちらドクター。環境制御装置が反応しません!」

ジェインウェイは尋ねる。「ハリー、どういうこと?」
キム:「システムがロックされています。」
「ロックってどういうこと?」
「コマンドリレーが飛んだようです。」
「奴らの仕業ね。シールドの周波数を見破り、システムを止めた。」
大きく揺れるブリッジ。
キム:「侵入者です!」
チャコティ:「EM波を感知しました。何かの送信波です。」
ジェインウェイ:「場所は?」
「空気栽培室。」
「誰がいるの?」
「2名の生体記録を探知。センサーの機能不全でしょう。両名ともケスです。」
「…保安部員、空気栽培室へ。そのセクションのコントロール機能を遮断して。私も向かいます。どうやら敵はヴィディア人だけじゃないようね。」

コンピューターの表示が乱れ、消えてしまった。
ケスはすぐに、若いケスが入っているプランターの底部を開けた。「コンピューター、サイト・トゥ・サイト転送。プログラム、ケス・ベータ 6。」
『応答不能。コントロール機能が遮断されました。』
ケスはトリコーダーを使い、若い自分に打った。目を覚ます。
静かにさせるケス。「シー、シー、シー。故郷へ帰りましょう。」
若いケスを起こす。

保安部員と共に廊下を進むジェインウェイ。
前から来たヴィディア人が撃ってきた。反撃しながら横道に隠れる。
保安部員に合図する。ジェインウェイも撃ちながら進む。

キムが報告する。「武器システム、回復。」
チャコティ:「フックを狙えるか。」
「この距離じゃ船体上部を傷つけます。」
パリス:「解剖されるよりマシだ。」
チャコティ:「船体の極性を逆転。奴らを揺さぶろう。」

若い自分を抱きかかえ、貨物室を後にしようとするケス。だがそこにジェインウェイが入ってきた。「一人は侵入者ね。多分あなただと思うわ。トゥヴォックの予感は当たってた。未来から来たのね。」
ケス:「その未来を変えるために。」
「どうしてヴィディア人になんか手を貸したの。」
ケスはジェインウェイを睨みつけた。壁にまで吹き飛ばされ、フェイザーを落とすジェインウェイ。
出て行こうとするケスだが、廊下では保安部員とヴィディア人の応酬が続いている。「おい! 危ない! 撃て!」
出ることができず、中に戻るケス。
フェイザーを取り、立ち上がったジェインウェイは言った。「なぜこんなことをするの。」
ケス:「この子を守るためよ。」 ケスは若い自分を床に寝かせた。
「私は何もしてない。」
「連れ去ったじゃない。故郷から。この子は囚人同然よ!」
「この船に囚人はいないわ、ケス。」
「あなたは子供だった私を、洗脳したのよ!」
「どういうこと?」
「宇宙の探索、発見。私はすぐだまされた。」
衝撃音が伝わる。

ブリッジのキム。「かなり揺さぶってますが、離れません。」
チャコティ:「これからだ。ディフレクターにつなげ。船体に沿って、反重力子パルスを発射。慣性制動機作動。ピッチを制御しろ。」
船が揺さぶられ、ヴィディア船のフックも上下する。

説明するケス。「3年後、この子はより進化するためにヴォイジャーを去ろうとする。あなたに勇気づけられて。自分のテレパシー能力を高めようとするの。でも早過ぎた。気づいた時には、制御できなくなってた。恐ろしかった。…行く所もない。オカンパに戻ろうとしたけど……私は変わり過ぎた。恐れられるに決まってる。受け入れられるわけない。でも彼女なら別。」
ジェインウェイ:「この船を破壊する必要はないはずよ。力を貸すわ。」
「やめて。もう信じられない。」
「ケス。」
「嫌よ!」 再びジェインウェイを吹き飛ばした。倒れるジェインウェイ。

揺れはさらに大きくなり、ついに前方のフックが外れた。
キム:「外れかけています。」
パリス:「トラクタービームを、ロックしようとしています。」
チャコティ:「スラスター、リバース。フルパワー。」
キム:「船体が崩壊します。」
「いいからやれ!」
フックが船体もろとも、無理やり引き剥がされた。破壊した部分から火が吹き上がる。
チャコティ:「光子魚雷、連続発射用意。」
キム:「用意。」
「発射!」
ヴィディア船に全ての魚雷が命中する。

ジェインウェイは何とか立ち上がった。また能力を使おうと、近づいてくるケス。だがジェインウェイはフェイザーで撃った。
ひるむケス。まだジェインウェイへの攻撃はやめない。
フェイザーを調整するジェインウェイ。「殺人にセットしたわ。」
近づくケス。ジェインウェイはフェイザーを撃った。
叫び声をあげ、倒れるケス。「あ…。」
ジェインウェイはすぐに近寄る。既に息はない。そしてケスは、年老いた姿に戻った。
コムバッジを叩くジェインウェイ。「ブリッジ、状況は。」
チャコティ:『ヴィディア人は、撤退中です。そちらは大丈夫ですか。』
「今は。」
立ち上がり、2人のケスを見るジェインウェイ。


※26: 「ミリメーター」と訳しているような…

機関室のワープコアの前にいるトゥヴォック。手をかざす。「ケスがここに。私が倒れる前です。年を取っていて、疲れた顔をしていました。」
ジェインウェイ:「何をしてたの?」
「ケースに手を押し付けてました。まるで、エネルギーを吸い取っているように。」
「ここにはタキオンが集中している。タイムトラベルをするのにコアが必要だったのね。」
「それが本当なら、また現れるはずです。」
「いつになるかはわからないけど、準備をしておかなきゃ。」
医療室から通信が入る。『ドクターから艦長。』
「どうぞ。」
『ケスが意識を回復しました。』

ケスに尋ねるトゥヴォック。「覚えていることは?」
「空気栽培室で突然めまいがして、気がつくと自分を見てました。」
ドクター:「自分を?」
ジェインウェイ:「コンピューター、EMH 停止。」
消えるドクター。
ケスはジェインウェイの前に立った。「これから言うことは 3人の秘密よ。いいわね。」
「わかりました。」
「恐ろしいことが起こってる。いいえ、これから起ころうとしてるの。それを防ぐにはあなたの力を借りるしかない。」

そして、作戦室。
ジェインウェイ:「膨大な量のデータを、徹底的に調べてみたの。噂の類は排除してね。そしてついに真実を突きとめた。」
トゥヴォック:「艦長。」
ジェインウェイはレプリケーターを操作した。出てきたものを手に取る。それは一本のろうそくが立った、ケーキだった。「ハッピーバースデー。」 微笑むジェインウェイ。
受け取るトゥヴォック。「これは、どうも。」
「トゥヴォック、3桁の大台に乗るのももうすぐね。」
「いかにも。この『発見』について、誰かに知らせましたか?」
「心配はいらないわ。口は固いの。ほら、キャンドルを吹き消してくれなくちゃ。」
「ヴァルカン人の習慣ではない。」
「私のために。」
チャコティの通信が入る。『艦長、ブリッジへ。』
「すぐ行きます。」 ジェインウェイはドアへ向かいながら、トゥヴォックに言う。「早く。」
火を吹き消すトゥヴォック。「火事の危険がある。」
笑うジェインウェイ。

2人はブリッジへ戻る。
チャコティ:「救難信号を受信。衝突針路にいる、小型船からです。」
ジェインウェイ:「生命反応は?」
キム:「1名、オカンパ人です。」
ジェインウェイはトゥヴォックと顔を見合わせた。「……忘れてたわ。」
トゥヴォック:「呼びかけています。」
「非常警報。シールドを張って。」
チャコティ:「艦長。」
「戦闘配置につけ。11デッキのクルーは緊急退避。繰り返す。11デッキのクルーは緊急退避。」

機関室のトレス。「聞こえたでしょ。急いで!」
セブンや機関部員たちと共に外に出る。
「早く!」

命じるジェインウェイ。「回線をつないで。」
狭い船内が映し出される。年老いたケスが操縦していた。
ジェインウェイ:「ケス。」
『ジェインウェイ艦長。助けて下さい。……乗船許可を頂けないでしょうか。』 苦しそうだ。
「いいけど、何があったの?」
『お願い…早く乗せて。』 通信を切るケス。
トゥヴォック:「船が加速しています。このままだと衝突を。」
パリス:「衝突まで 5秒です。」
ジェインウェイ:「トゥヴォック。」
チャコティ:「トラクタービーム、ロック。衝突回避。」
衝撃が走る。
トゥヴォック:「シールド、保持。ケスの船も無事です。」
キム:「艦長、衝突前に転送収容しました。ケスのようです。」
廊下を歩くケス。その後ろでは、次々と隔壁が破れ、爆発を起こしていく。

キム:「11デッキで隔壁亀裂。セクション 17、18、19。」 音に続けて報告する。
チャコティ:「なぜ予知を。」
ジェインウェイはトゥヴォックに言う。「行くわよ。」 続けて指示。「ワープコアを遮断して。ブリッジをお願い。」
ジェインウェイに続いて、トゥヴォックもターボリフトに乗る。

誰もいない機関室に警告音だけが鳴り響いている。ケスはワープコアに近づく。コアの活動が停止していく。
状況をつかめないケス。
「私を覚えてる?」 突然、声がした。
すぐそばに、若いケスが立っていた。「あなたが助けようとしてくれたケスよ。あなたは艦長を責めるけど、選んだのはあなた。あなたがオカンパを去るって決めたのよ。ヴォイジャーを去るって決めたのもあなた。あなたはあなたを心配し、助けてくれた人たちに復讐しようとしてるの。そんなのあなたじゃないし、私でもない。お願い、やめて。故郷へ戻って。ジェインウェイ艦長がきっと手を貸してくれるわ。」
近づく若いケスから逃げるように動くケス。
「昔のあなたを思い出して。私を思い出して。」 そう言うと、若いケスは消えた。
ジェインウェイとトゥヴォックが入る。
ジェインウェイ:「覚えてない? この事態を防ぎたくて、あなたが自分でホロ・レコーディングしたのよ。3年前※27、あなたは過去に現れた。そして、彼女を連れ戻そうとしたの。その上私たちクルーを、ヴィディア人に引き渡そうとまでした。でも成功しなかった。私があなたを撃ったからよ。今あなたを止めなければ、同じことが繰り返される。あの恐ろしいことが起こる前に、あなたは行く場所がないといった。そんなことはない。ここにいればいいわ。」
「無理よ。私の居場所はここじゃない。同胞のもとに帰りたいの。」
「帰ろうと思えば帰れるって言ったわ。ただオカンパ人が受け入れてくれるかどうかが心配だって。」
ため息をつくケス。「……思い出した。」
「何? 何を思い出したの?」
「ホロ・レコーディングをした時のことを。あなたはお互いを救うためだといってたわ。」
笑うケス。「やっと私、昔のことを思い出したみたい。この何年か私の心は混乱し、……怒りに満ちてた。いい思い出が…たくさんあったのに。」
ジェインウェイはケスに近づいた。「それでも帰る気は変わらないの?」

転送室。
ケスに包みを渡すニーリックス。「旅の途中で食べてくれ。今も好きだろ。レオラ・ルート※28。」
「ありがとう。」
ニーリックスはケスを見つめた。
ケス:「何?」
「見てるんだ。」
「誰かほかにいる?」
「…君だけだ。」
ケスは転送台の上に立った。
ジェインウェイ:「さよなら、ケス。」
「艦長。」
トゥヴォックに合図するジェインウェイ。
転送されながら、ケスはニーリックスを見た。消えた後もしばらく見つめていたニーリックスは、部屋を後にした。
トゥヴォック:「ほかのクルーには何と。」
「…道に迷ったから、帰り道を聞きに来たって。」
2人も出て行く。
ケスの乗った船は、ヴォイジャーから離れた。


※27: ケスが現れた過去はヴォイジャーがデルタ宇宙域に来て 56日後なので、3年前というのは明らかにおかしく、5〜6年前になるはずです

※28: レオラの根っこ leola root
ビタミンとミネラルがとても豊富な、苦い味のする黄オレンジ色の塊茎。VOY第11話 "State of Flux" 「裏切り者」など

・感想
あの元レギュラーのケスが帰ってくるということで、どうしても期待せざるをえないエピソードです。TNG では、ヤー (もしくはシーラ) やウェスリーが何度も登場しており、名作が多かったものです。しかしながら、この話はケスを再登場させるということ自体に力が入りすぎ、奇をてらい過ぎた感じがします。私はそうでもありませんでしたが、レギュラー当時や今もケスのファンである人は特に辛いでしょう。
冒頭でトレスが死んだことで、「ああ、これはまた『なかったこと』になるパターンだな」とストーリーが読めますし、通常は面白いことが多いタイムパラドックス問題も都合のいい部分だけ使って、依然として矛盾だらけの感があります。ワイルドマン、ケアリー、ヴィディア人、そしてドクターの扱いなど、過去ならではの描写もありますが、脇に過ぎません。ケスのファンが『なかったこと』にしたくなる理由もわかりますね。ストーリーだけではなく…。


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