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エンタープライズ エピソードガイド
第1話「夢への旅立ち」(前)
Broken Bow, Part I

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・イントロダクション
※1※2※3小さな人形をコックピットに乗せた、宇宙船の模型。
少年※4が色を塗っている。「人類未到の地へ行くため。※5
近くにいる男性※6。「コクレイン博士※7が驚くな?」
少年:「スピーチは全部暗記してる。いつになったら飛べるの?」
「ペンキが乾いたら。」
「違う、パパの船さ。」
「当分無理だ。まだ完成してない、知ってるだろ。」
「大きいの?」
「そりゃでかい。」
「あのトンガリ大使の船より大きい?」
「大使の名前はソヴァル※8、偉い人だよ? その呼び方は失礼だぞ、ジョナサン※9。」
「でもヴァルカン人が秘密にしなきゃ、今頃ワープ5 で飛んでたって、ビリー・クック※10が…。」
「ヴァルカンにも事情がある。フン、人間※11にはわからんが。」

オクラホマ、ブロークン・ボウ※12。30年後。
一面に広がるトウモロコシ畑に、船の墜落跡がある。まだ火が上がっている。
背の高さほどもある畑の中を逃げ続ける異星人※13
それを追う、2人の別種族の男たち。発砲する。

家から出てきた農夫※14は、畑の火に気づいた。
銃声も聞こえる。

額に隆起のある男は、農場にあるサイロの中へ逃げ込んだ。

家から銃を持ってきた農夫。

追う無毛の異星人たちは、サイロの扉が閉まっていることに気づいた。
すぐに身体を低くし、わずかに空いた床との隙間から侵入していく。身体の構造を変えられるようだ。
まもなく完全に中に入り、もう一人の男のために鍵を開けた。
その直後、上の扉から大柄な異星人が地面へと飛び降りた。
その場を離れ、持っていた銃でサイロを狙う。
爆発するサイロ。
倒れた異星人は起きあがった。
そこへ自分のサイロを吹き飛ばされた農夫がやってくる。すぐに男に武器を向けた。「銃を捨てろ! 本気だぞ。」
髪の長い異星人は何かを口走った。「Roqnuh, pagh qoH! Mang juH!」
農夫:「何言ってるかさっぱりわからん。だが言うとおりにしないと撃つぞ!」
「HIch ghaH! Qagh DoQ!」 近づいてくる。
農夫は発砲した。
撃たれた勢いで飛び、意識を失う異星人。


※1: このエピソードは、ENT パイロット版 (シリーズ・プレミア) です。最近のパイロット版や最終話などの 2時間エピソードとは違い、明確な前後編には分けられていません (後編冒頭の「前回のあらすじ」やオープニング、および分割時に削られるカットシーンも全くなし)。ただし当エピソードガイドでは容量の関係もあるため、スーパーチャンネルの放送で CM を挟んだ箇所を、便宜的に前後編の区切りとしています

※2: 本国では小説版が発売されています Amazon.com / スカイソフト / Amazon.co.jp。また邦訳版も 12月中旬に「スター・トレック エンタープライズ エンタープライズ発進せよ!」というタイトルで早川書房から出版される予定です

※3: パイロット版は 2002年度エミー賞の特殊映像効果賞を受賞、またメーキャップ (装具) 賞、音響編集賞にノミネートされました

※4: 少年アーチャー Young Archer
(Marty Davis) 声:鶴博幸

※5: "Where no man has gone before."
脚注※43参照

※6: ヘンリー・アーチャー Henry Archer
(マーク・モーゼス Mark Moses VOY第126話 "Riddles" 「魂を探した男」のナロック (Naroq) 役) 声はヒューマノイドの姿役の森田順平さんが兼任

※7: Dr. Cochrane
ゼフラム・コクレイン博士 Dr. Zefram Cochrane
脚注※42参照

※8: Soval

※9: Jonathan

※10: Billy Cook

※11: これ以降も地球人という意味で「人間」と訳している箇所がほとんどです。面倒なので、そのままにしています

※12: Broken Bow
原題

※13: クラング Klaang
(Tommy "Tiny" Lister, Jr.) 声優なし

※14: Farmer
(Ron King) 声:田中正彦、叛乱 ソージェフなど

・本編
宇宙空間に浮かぶ、惑星地球。太陽の光が差し込む。
飛んでいるポッドは、地球軌道上の宇宙ドックへ近づいた。
巨大な船の下へと向かう。
「NX-01」と書かれた帽子を被った男性は見上げた。
ポッドを操縦する、チャールズ・タッカー※15少佐。「腹部の装甲作業は 3日で終了するでしょう。」
男性:「ナセルと色を合わせるよう、念を押してくれ。」
「船に腰掛けて写真でも、撮るつもりかな?」
「いいねえ。」
笑うタッカー。
男性:「…綺麗だなあ。」
タッカー:「それに速い。木曜にはワープ4 ポイント 5 を出す。」
「海王星から 6分で戻ってこられる。」
「ホー!」
「ハ、側面のセンサーアレイを点検しよう。」
「お待ちを。」
船に近づく。
男性:「ゆっくり…そこだ。最終実験で、歪んだ箇所がある。補強が必要だなあ。」
その時、ポッドが船体に当たってしまった。警告音が鳴る。
皮肉を言う男性。「やったね。ペンキが禿げた。」
タッカー:「…すみません。」
笑う男性。通信の呼び出しが鳴る。
応えるタッカー。「オービタル6※16。」
『アーチャー大佐※17を。』
アーチャー:「どうした。」
『提督から、艦隊※18医療部に呼び出しです。』
2人は顔を見合わせた。

夜のサンフランシスコ。
部屋に入るウィリアムズ中佐※19。「誰に追われていた。」
ヴァルカン人の大使※20が答える。「わかりません。全て爆発で灰になってしまいましたからねえ。それに、農夫の話というのがかなり曖昧でした。」
隣の手術室では、あの異星人が治療を受けていた。
訪ねるレナード提督※21。「どうやって地球に? 船は。」
もう一人のヴァルカン人※22。「ある種のステルス技術を使ったのでしょう。現在センサーログを分析中です。」
ウィリアムズ:「記録を拝見したい。」
大使:「…クリンゴン側は、我々に速やかなる処置を求めています。」
レナード:「我々地球の問題です。」
ヴァルカン人:「それは的外れだ。」
フォレスト提督※23が言う。「大使、我々には事件の真相を知る権利がある。」
大使:「情報は随時適切にお知らせしてきました。」
ウィリアムズ:「適切な判断は誰がしてきたんです。」
アーチャーがやってきた。「提督?」
フォレスト:「ああ、ジョン※24。紹介はいらんな。」
「…どうでしょう。」 手術室を見るアーチャー。
レナード:「クリンゴット人だ。」
ヴァルカン人:「クリンゴンです。」
アーチャー:「どこから来たんです。」
ウィリアムズ:「オクラホマだ。」
フォレスト:「ムーア※25という農夫にプラズマ銃※26で撃たれた。正当防衛だったらしい。」
ヴァルカン人:「幸い我々ヴァルカンは、事件後クロノスと緊密に連絡を取り合ってきました。」
アーチャー:「クロノス?」
レナード:「クリンゴン人の母星だそうだ。」
フォレスト:「彼は密命を帯びていて、ある重大な情報を同胞にもち帰るところだった。」
大使:「その途中で人間に殺されかけた。」
「事件が片づくまで、出航は延期するべきだと、ソヴァル大使は考えている。」
アーチャー:「いや全く感心しますよ。出航を阻止する言い訳としちゃ、なかなか面白い話だ。」
ソヴァル:「皮肉はさておいてアーチャー大佐、わざわざクリンゴン人を敵に回す必要はないでしょう。」
ヴァルカン人:「我々がクラングの遺体をクロノスに届けると説得しなかったら、地球はウォーバード※27の大群に襲われるところだったんですよ?」
アーチャー:「遺体? 死人ですか?」 手術室の中に入る。「ドクター、彼は死んでるのか?」
異星人の医者、フロックス※28は答えた。「弾を受けて自律神経系はやられていますが一部の神経機能はまだ…」
アーチャー:「死にかけてるのか?」
「…とは言えません?」
「ああ…」 外に出るアーチャー。「はっきり言わせてもらう。あんたたちは、生きる見込みのある男の生命維持装置を外すつもりか。これが論理的やり方か?」
ソヴァル:「クリンゴンは死に名誉を見出す文化をもつ。あんな姿を見られたら恥を感じるでしょう。」
ヴァルカン人:「戦闘種族で、戦いでの死を夢見ている。恒星間外交の複雑さを、ご理解いただけるなら…」
アーチャー:「これが外交と言えるか? 相手の言うがままに、見殺しにするのが。」
「大佐の表現は野蛮だが、正確だ。」
「我々は野蛮でも、殺し屋じゃない。言いなりになっていいんですか。」
ソヴァル:「クリンゴン側は早急なる同胞の返還を求めています。」
「提督!」
フォレスト:「ヴァルカンの判断に従わなければ…」
「我々は百年間も従ってきたんですよ?」
「ジョン!」
「いつになったら…」
同行していた女性ヴァルカン人、トゥポル副司令官※29が口を開いた。「克服するまでです。」
アーチャー:「何をだ。」
「その野蛮な振る舞いと激しやすい性格をです。」
「激しやすい? あんたたちを蹴飛ばさないよう、地球人がどれだけ抑えているか。」
片眉を上げるトゥポル。
アーチャー:「…クリンゴン人は、同胞の返還を求めている。結構! 3日あれば、出航の準備が整います。私が届けます。生きたまま。」
ソヴァル:「あなたの倫理的信念を聞いている場合ではない。」
フォレスト:「ダン※30?」
レナード:「クルーはどうする? 通信士は今ブラジルだぞ。医療主任も決めていない。」
アーチャー:「3日で片づけます。」
ソヴァル:「…提督。」
フォレスト:「我々は百年も待ち続けてきました、大使。…今回の事件は、いいきっかけかもしれません。」
「お待ちなさい、提督は間違ってる!」
アーチャー:「理屈が通らないと声を荒げるのか? 地球に長居しすぎたな。」
出て行くソヴァルたち。トゥポルも続く。
フォレスト:「…やはり君とヴァルカンは、馬が合わない。失敗するなよ?」 部屋を去った。
アーチャーは手術室のガラスを叩いた。フロックスを呼ぶ。
ため息をつくアーチャー。

軌道上の宇宙ドック。
出航の準備が進んでいる。
順番を待つトラヴィス・メイウェザー少尉※31。「いよいよ、生物転送の許可が出たそうですね。」
隣にいるマルコム・リード大尉※32。「フルーツと野菜の転送だろ?」
メイウェザー:「いいえ? 武器士官と、操舵士ですよ。」
「自分の分子をデータストリームに変換させるなんて御免だね?」 クルーの操作によって、台の上に物体が実体化した。
「安全らしいですよ?」
「信用できない。ま、船長※34が我々を転送させないことを祈ろう。」
「大丈夫。船長は自分のペットも転送させないって言ってましたから。」
「ああ…。」 届けられた中身を確認するリード。「ああ、参ったなあ。プラズマコイルを頼んだのに、バルブ密閉材を送ってきたよ。3日で武器を使えるようにするなんて無理だ。」
「負傷者を故郷に送り届ける任務に、武器はいりません。」
「クリンゴン人に関するレポートを読んだか?」
「いえ。」
「戦いの前には全員、ピカピカに牙を研ぐらしい。」
笑うメイウェザー。だが笑みが消えた。

溶接が行われる廊下。
リード:「機材は明日までに届くとタッカー少佐が約束してくれるだろう。『のんびりいこうぜ、大尉。』」
メイウェザー:「何だか、人工重力が重く感じられませんか?」
「いやあ、別に? 海面レベルだ。」
「父はいつも、0.8G にしてました。その方が、軽くていいって。」
「地球に戻った時、靴に鉛が入ってるように感じただろうな?」

巨大なエンジンが横たわる機関室。
タッカーが指示を出す。「いいぞ、そこでロック解除。」 部下の肩を叩き、制服の裾でエンジンを拭く。
リード:「汚れですか。タッカー少佐、トラヴィス・メイウェザー少尉です。今着きました。」
タッカー:「『宇宙ブーム世代』か。」 握手する。
メイウェザー:「少佐、最高速度は。」
「ワープ4 だ。木星を通過したら、もう 0.5 出す。君にやれるかな?」
「ワープ4 ポイント 5 か。」 笑うメイウェザー。
リード:「でも少佐、ディフレクターを調整しなければ、最初に出くわした宇宙の塵に、こぶし大の穴を開けられますよ?」
タッカー:「のんびりいこうぜ、大尉? 機材は明日には届く。」
リードはメイウェザーと顔を見合わせた。

緑の中の施設。
ホシ・サトウ少尉※34がヴァルカン語の授業を行っている。「グルンギット、タク、ネクリート。」
真似する生徒たち。
サトウ:「いいわよ? グルンギット、タク、ネクリート。」
生徒の反復練習が続く。
サトウ:「カルロス※35? ルントゥリキ、クルル…ット。」
カルロス:「ルントゥリキ、クルル…」 ぎこちない。
「クルル…」
「クルル…」
「しっかり巻き舌で? クルル…ット」 アーチャーが近づく。
「クルル…クルル…ット。」
サトウはアーチャーに気づいた。「その調子で続けて? すぐ戻ります。」

アーチャーに話すサトウ。「試験まで後 2週間、今投げ出すわけにはいきません。」
アーチャー:「何とか、誰かに代わってもらえないか。」
「代わりがいるなら大佐だって、私を誘いにブラジルまで来たりしないでしょ?」
「ホシ…」
「生徒たちを見捨てるわけにはいきません。」
「命令しようか?」
「私は休暇で来ているんです。無理に呼び戻すとなると大佐も強制行為で処分を受けるし、私も活動中の船に乗る理由はなくなる。」
「君の優れた耳が必要だ。」
「3週間、待って下さい。」
アーチャーはため息をつき、小さな機械を取り出した。
起動すると、異星人の声が再生される。『Poq volcha vaY Du bogh Q'apla!』
サトウ:「それは?」
アーチャー:「…クリンゴン語だ。ソヴァル大使が、言語データベースのサンプルを提供してくれた。」
「ヴァルカン人は教えてくれないはずじゃあ。」
「そうだ。だが、何とか互いに妥協点を見出したんだ。」
引き続き音声が流される。『so'wI chu'lu'ta sonchly yem Surgh...』
声に聞き入るサトウ。「…何か、わかりました? クリンゴンのこと。」
アーチャー:「多少ね。クリンゴンは戦闘種族で、変化に富んだ文法上に、80 の複数口頭音を使い分ける言語系がある。」
「音量を上げて?」 機械を受け取るサトウ。
「よーく考えろ? クリンゴンと最初に話す人間になれる。そんなチャンスを逃していいのか?」
微笑むサトウ。

宇宙ドック。
ブリッジに入るタッカー。「何だってヴァルカンの科学士官なんかを。」
アーチャーも制服を着ている。「クロノスまでの星図が必要だったんだ。」
タッカー:「星図と引き替えに、スパイを乗せるわけですか?」 2人はブリッジを通り、隣の作戦室※36に入る。
「付き添いだと思えばいいと、フォレスト提督に言われたよ。」
「やっとヴァルカン人から逃れられると思ったのに。」
「往復たったの 8日間。それでお別れだ。それまでは君も、礼儀正しく接してくれよ?」
「自信ないな。ブリッジじゃポートス※37といた方がリラックスできるかも。」
部屋にはビーグル犬がいた。
笑うアーチャー。ドアチャイムが鳴る。
アーチャー:「覚悟はいいか? どうぞ。」
トゥポル:「本日午前8時に大佐の指揮下に配属されました。ご確認を。」 臭いに気づく。
「ん? どうかしたのか。」
「いえ別に。」
アーチャーはポートスを見た。「ああ、そうか。ヴァルカンの女性は臭いに敏感だったねえ。ポートスが不快な思いをさせないといいが?」
トゥポル:「不快な状況に耐える訓練を受けています。」
タッカー:「今朝はシャワーを浴びましたよ? 大佐は?」
アーチャー:「すまんねえ。こちらは少佐の、チャールズ・タッカー三世だ。副司令官の、トゥポル。」
「トリップ※38。そう呼ばれてます。」 手を差し出すタッカー。
トゥポル:「覚えておきましょう。」 握手しようとしない。
アーチャー:「…君が今回の任務に熱意をもてなくても、我々の規則に従ってもらいたい。この部屋とブリッジでの発言は機密情報だ。翌日ヴァルカンの最高司令部※39で分析されるような事態は、避けて欲しい。」
「私が船に乗るのはスパイのためではなく、手助けするよう上官の指令を受けたからです。」
「上官は人間だけで宇宙に行かせたくなかったんだろうねえ?」
「私は志願したわけではありません。今回の任務が無事完了したら言われなくても喜んでこの船を降りますから、ご安心を。あ…」
ポートスがトゥポルの足にすがりついていた。
微笑むタッカー。
トゥポル:「ほかに何かありますか?」
アーチャー:「以上だ。」
出て行くトゥポル。アーチャーはタッカーを見た。

船が見える広間に、人々が集まっている。
フォレスト:「90年前、ゼフラム・コクレイン博士が伝説的なワープ飛行を成功させた時、我々はヴァルカン人に遭遇しました。」 ヴァルカン人たちもいる。「広い宇宙で、人類は孤独でないと知ったのです。今…我々は新たなステップに立っています。一世紀の長きに渡り、人生は宇宙の浜辺で遊んでいましたが、ついに大海へこぎ出します。」
クルーも見守っている。拍手が起こった。顔を見合わせるヴァルカン人。
フォレスト:「コクレイン博士とヘンリー・アーチャーのような熱意ある開発者なくして、ワープ5 飛行は、夢で終わっていたでしょう。その意味で、ヘンリーの子息である…ジョナサン・アーチャーがエンタープライズ※40の船長となるのはうってつけと言えます。」
アーチャーに向けて拍手が送られた。うなずくフォレストに、アーチャーも首を振った。出て行くクルー。
フォレスト:「博士の言葉を引用するより博士の話に、耳を傾けましょう。32年前にワープ5 センター※41の式典で語られた、あのスピーチです。」
映像が切り替わった。中央のコクレイン※42が話す。『いつの日か、強力なエンジンができるでしょう。それが成功すれば、現在の百倍の速度で宇宙を旅することが可能になります。』

ブリッジに入るクルー。おのおの持ち場につく。
コクレイン:『…そうです、宇宙に存在する無数の惑星が身近になれば、神秘のベールに包まれた新世界を探検し、新しい生命体と文化に遭遇するのも夢ではありません。』

コクレインのスピーチは続く。『このエンジンは、その夢の第一歩です。人類未到の地へ行くため。※43

アーチャーは思い返す。

少年のアーチャー。目の前で機械が浮かんでいる。
父親のヘンリーが操作していた。
アーチャーはそれを手に取り、模型の中に納めた。

命じるアーチャー。「出航だ、メイウェザー少尉。まっすぐしっかりと。」
エンタープライズを係留していたいかりが外れ、ゆっくりと前へ進む。
宇宙ドックにいる、環境服を着た者たちが見守る。

機関室にアーチャーの通信が入る。『どうだ、トリップ?』
タッカー:「いつでもどうぞ?」

指示するアーチャー。「ワープ準備。」
メイウェザー:「コース設定。ワープ許可をお願いします。」
トゥポル:「座標が 0.2度ずれています。」
アーチャー:「了解。…発進。」
エンタープライズはワープに入った。

宇宙に浮かぶ、巨大な構造体。
部屋の中心に天井から光が注ぎ、その中にシルエット姿の人物が見えている。
クラングを追っていたのと同じ種族の男※44がやってきた。その移動は残像が残ったように見える。
シルエットの人物※45は尋ねた。『クラングの行方は。』
異星人:「人間どもといます。」
『ほかに不明者はいるのか。』
「兵士が 2人殺されました。一人は友人です。何とかなりませんか。」
『我々の辞書に誤りを犯すという言葉はない。証拠を取り戻せ。』
「承知しました。約束します。今度はいつお目にかかれますか。」
『おまえの関知することではない。』 その姿は消えた。


※15: チャールズ・タッカー三世主任機関士 Chief Engineer Charles Tucker III
(コナー・トリニアー Connor Trinneer JT の CM で山高帽を被った男性を演じていました) 吹き替えでは階級は少佐となっていますが、公式サイトでは中佐、UPN では少佐と異なっています。階級章では一種類しかないため区別はできないようです。声:内田直哉 (うちだ なおや)、DS9 2代目ウェイユンなど

※16: Orbital 6

※17: Captain Archer
ジョナサン・アーチャー船長 Captain Jonathan Archer (スコット・バクラ Scott Bakula ドラマ「タイムマシーンにお願い」のサム・ベケット博士役) 声:谷口節 (たにぐち たかし)

※18: 宇宙艦隊 Starfleet
従来では暫定的に、惑星連邦と宇宙艦隊は同時にできたことにされていました

※19: Commander Williams
(ジム・フィッツパトリック Jim Fitzpatrick) 名前は言及されていません。カーク役ウィリアム・シャトナーへのオマージュ。声は Silik 役の楠見尚己さんが兼任

※20: ソヴァル Soval
(ゲイリー・グラハム Gary Graham VOY第26話 "Cold Fire" 「管理者サスピリア」のタニス (Tanis) 役) 声:山路和弘、DS9 キーヴァン、VOY スーダーなど

※21: Admiral Leonard
(ジム・ビーヴァー Jim Beaver) 名前は言及されていません。スポック役レナード・ニモイへのオマージュ。声:北川勝博

※22: 名前は Tos (トーマス・コパシュ Thomas Kopache TNG第124話 "The Next Phase" 「転送事故の謎」のミロック (Mirok)、第175話 "Emergence" 「知的生命体“エンタープライズ”」の機関士 (Engineer)、DS9第117話 "Ties of Blood and Water" 「父死す」などのネリスの父、キラ・タバン (Kira Taban)、VOY第39話 "The Thaw" 「悪夢の世界」のヴィオーサ (Viorsa)、ENT第67話 "Harbinger" 「新たなる脅威の兆し」の異星人 (The Alien)、映画第7作 "Star Trek: Generations" 「ジェネレーションズ」のエンタープライズ-B 通信士官 (Enterprise-B Communications Officer) 役) ですが、言及されていません。声:小山武宏

※23: Admiral Forrest
(ヴォーン・アームストロング Vaughn Armstrong TNG第20話 "Heart of Glory" 「さまよえるクリンゴン戦士」のコリス司令官 (Commander Korris)、DS9第3話 "Past Prologue" 「スペース・テロリスト ターナ・ロス」のガル・ダナー (Gul Danar)、第171話 "When It Rains..." 「嵐の予兆」などのカーデシア人セスカル (Seskal)、VOY第7話 "Eye of the Needle" 「ワームホールの崩壊」のテレク・ルモール (Telek R'Mor)、第122話 "Survival Instinct" 「ボーグの絆を求めて」のトゥー・オブ・ナイン (Two of Nine)=ランサー (Lansor)、第143話 "Fury" 「帰ってきたケス」のヴィディア人船長 (Vidiian Captain)、第155話 "Flesh and Blood, Part I" 「裏切られたホログラム革命(前編)」のアルファ・ヒロージェン (Alpha Hirogen)、第171話 "Endgame, Part I" 「道は星雲の彼方へ(前編)」のコラス (Korath)、ENT第14話 "Sleeping Dogs" 「名誉に生きる者」のクリンゴン船長 (Klingon Captain)、第22話 "Vox Sola" 「漂流生命体の叫び」などのクリタサン船長 (Kreetassan Captain) 役。ゲーム "Armada II"、"Bridge Commander"、"Starfleet Command III"、"Elite Force II" でも声の出演) マッコイ役デフォレスト・ケリーへのオマージュ。声:金尾哲夫、ST4 チェコフなど

※24: John
愛称

※25: Moore
TNG/DS9/VOY 脚本家、ロナルド・D・ムーアへのオマージュ。特に TNG 以降のクリンゴン話を多く担当しました

※26: plasma rifle

※27: warbird
TNG 以降ではロミュラン戦艦に使われる呼称

※28: ドクター・フロックス Dr. Phlox
(ジョン・ビリングズレー John Billingsley Xファイル 「荒野の三人」などに出演) 声:茶風林 (ちゃふうりん)、DS9 フレル、VOY 初代パリス提督

※29: Sub-commander T'Pol
(ジョリーン・ブラロック Jolene Blalock TV映画「アルゴノーツ 伝説の冒険者たち」などに出演) なお「副司令官」というのは役職でなく階級であり、これまでのシリーズではロミュランにも使われていました。吹き替えには一部混同が見られますが、そのままにしてあります。声:本田貴子 (ほんだ たかこ)

※30: Dan
ダン・レナード (Dan Leonard)

※31: Ensign Travis Mayweather
(Anthony Montgomery 犯罪捜査官ネイビーファイル4 「真の友情」などに出演) 声:浜田賢二 (はまだ けんじ)

※32: Lt. Malcolm Reed
(ドミニク・キーティング Dominic Keating イギリスのレスター生まれ) なお TOS 同様、中尉の階級は実質的に存在しない可能性があります (参考:階級早見表)。声:井上倫宏 (いのうえ のりひろ)

※33: TOS と同じく「船長」という訳になっています

※34: Ensign Hoshi Sato
(リンダ・パク Linda Park 韓国生まれ) 声:岡寛恵 (おか ひろえ)

※35: Carlos
(Ricky Luna) 声:青木誠

※36: 作戦室の壁には、帆船 (1799年、映画第7作 "Star Trek: Generations" 「ジェネレーションズ」より)、空母 (1961年、CVAN-65、映画 ST4 "The Voyage Home" 「故郷への長い道」より)、スペースシャトル (1976年、OV-101、映画 TMP "The Motion Picture" 「スター・トレック」。オープニングにも登場)、そして NX-01 の各エンタープライズの絵が飾られています。それぞれの壁紙を公式サイトでダウンロードできます

※37: Porthos
三銃士の一人、ポルトスにちなんでの模様

※38: Trip

※39: ヴァルカン最高司令部 Vulcan High Command

※40: Enterprise
艦隊登録番号 NX-01。「U.S.S.エンタープライズ」ではないことに注意。VOY第94話 "Hope and Fear" 「裏切られたメッセージ」に登場した偽の宇宙艦隊艦、ドーントレスは NX-01A ということになっていました。なおメイウェザーが船暮らしに慣れていることからもわかる通り、初めての宇宙船ということではなく、「深宇宙探査船」という意味だと思われます。「エンタープライズ」と吹き替え

※41: Warp Five Complex

※42: ゼフラム・コクレイン博士 Dr. Zefram Cochrane
(ジェイムズ・クロムウェル James Cromwell TNG第59話 "The Hunted" 「恐怖の人間兵器」のネイロック (Nayrok)、第142・143話 "Birthright, Part I and II" 「バースライト(前)(後)」のジャグロム・シュレク (Jaglom Shrek)、DS9第80話 "Starship Down" 「ディファイアントの危機」のハノック (Hanok) 役) ワープの発明者で、オープニングにも登場するフェニックスを造りました。映画第8作 "Star Trek: First Contact" 「ファースト・コンタクト」以来の登場。TOS ではグレン・コーベット (Glenn Corbett) が演じました

※43: "explore (those) strange new worlds (and) seek out new life and new civilizations" や "go boldly where no man has gone before" という言い回しが使われています。TOS・TNG のオープニングや、後のエンタープライズで記念銘版に記されている言葉です (TNG では man が one に変わります)

※44: 名前は Silik (ジョン・フレック John Fleck TNG第98話 "The Mind's Eye" 「裏切りの序曲」のタイバック (Taibak)、DS9第47話 "The Search, Part I" 「ドミニオンの野望(前編)」のオーニサー (Ornithar)、第166話 "Inter Arma Enim Silent Leges" 「闇からの指令」のコヴァル (Koval)、VOY第125話 "Alice" 「アリスの誘惑」のアバドン (Abaddon) 役) ですが、言及されていません。このエピソードガイドは「スリバン」とだけにしていますが、セリフのあるスリバンはほとんど Silik だけなので区別はつくと思います。声:楠見尚己、DS9 アレキサンダー

※45: ヒューマノイドの姿 Humanoid Figure
(ジェイムズ・ホラン James Horan TNG第148話 "Suspicions" 「新亜空テクノロジー超フェイズシールド」のジョブリル (Jo'Bril)、TNG第153話 "Descent, Part II" 「ボーグ変質の謎(後)」のバーナビー大尉 (Lieutenant Barnaby)、DS9第112・113話 "In Purgatory's Shadow" & "By Inferno's Light" 「敗れざる者(前)(後)」のイーカティカ (Ikat'ika)、VOY第55話 "Fair Trade" 「密売人」のトージン (Tosin) 役) 声:森田順平、VOY ヴォーラックなど

エンタープライズ。
瓶の液体中を泳ぐ、ヒルのような生物を見るアーチャー。「見かけより能力か?」
フロックス:「免疫細胞虫※46を揺らさないで下さいよ?」
「地球はどうだ。」
「面白い。中華料理が気に入りました。召し上がった経験は?」
「私はサンフランシスコ育ちだよ?」
「ああ、人間は解剖学的には少々単純ですが、その生物学的欠点を、明るい楽天主義で補っていますねえ。」
笑うアーチャー。
フロックス:「かき玉スープの卵みたいなものです、フフ。ああ、気をつけて。」
アーチャーが手にした容器は、激しく揺れた。「中身は?」 慌ててフロックスに渡す。
フロックス:「アルタリアの有袋動物※47。モリュアリュ…」 動物をあやす。「フフン、これの糞には高濃度の再生酵素が含まれているんです。」
「糞に?」
「新しい世界に行くなら新しい発想がいる。だからヴァルカンは、種族間医療交換計画※48を始めた。勉強になります。」
「研究を中断させることになって悪かったなあ。人間のドクターはクリンゴンのクの字も知らん。」 眠っているクラングを見るアーチャー。
「いえいえ、私はむしろ嬉しいんです。人類というものを研究するなら、ストレスを受けている時が一番。滅多にないチャンスだ。それにクリンゴンも面白い。生きたクリンゴン人の治療は初めてです。」
「メイウェザー少尉によると、クロノスに着くのは約80時間後。それまでに意識を取り戻す可能性は?」 アーチャーはクラングの足をしげしげと見つめる。
「10分以内に目覚める可能性もある。いい状態とは言い難いが。」
「80時間だ、ドクター。彼が自分の足で船を降りられなければ、生きるチャンスは少ない。」 医療室を出て行くアーチャー。
「全力を尽くします。楽天主義ですよ、船長。」
振り返ったアーチャーに、フロックスは笑みを見せた。その唇は、地球人より遥かに上まで曲がった。

はしごを上るタッカー。開けた場所に出てきた。上を見上げる。「逆さまだよ、少尉。」
メイウェザー:「わかってます。」 天井に座っている。
「なぜ逆さなんだ。」
「ここは船の『スイートスポット』なんです。どの船にもある。」
「スイートスポット?」
「大抵重力発生機と、船首板の中間地点にあるんです。ハッチをしっかりつかんで? いえ、両サイドをしっかり。そう、押し上げて。グイッと。」
言われたとおりにするタッカー。ふわりと浮き上がった身体は、空中で逆さまになった。
慌てるタッカー。天井に頭をぶつけてしまった。
メイウェザー:「練習して下さい。」
タッカー:「ああ…。」
「重力ゼロで寝た経験は?」
「寝る?」
「胎児に戻った気分ですよ?」
タッカーはため息をつき、さっきまで自分がいたハッチを見る。「君はトゥリリウス・プライム※49に住んでたとか。」
メイウェザー:「…現地に着くのに 3年かかりました。ドレイラックス※50と、テネイビア※51の 2つの月にもいましたよ?」
「俺は一カ所だけ有人惑星に行ったが、チリダニだらけの星だったな。ところでドレイラックスの女はおっぱいが…」
「3つ。ええ、ほんとです。」
「直に知ってるのか。」
「右手でも、左手でも、まだ余る。」
「宇宙育ちは経験豊かでうらやましい!」
笑う 2人。

食堂に入るタッカー。
フレッチャー乗組員※52が教える。「空いてますよ、少佐。」
タッカー:「すまん。今夜はボスと食事だ。」


用意されたテーブルのそばで話しているアーチャー。「グランド・キャニオン※53は?」
トゥポル:「いいえ。」
「ふん、ビッグ・サー水族館※54。」
「観光は私の仕事ではありません。」
テーブルからパンスティックを手にするアーチャー。「ふむ、仕事だけじゃだめだ。…外に出て、思いっきり楽しまなきゃ。たまにはね?」
トゥポル:「娯楽施設なら居住区に揃っています。」
「ふーん。」 ドアチャイムが鳴る。「どうぞ?」
タッカーが入る。「お待たせしました。」
アーチャー:「かけたまえ。」 3人は席につく。「トゥポルの話を聞いていた。ソーサリート※55のヴァルカン居住区に住んでいたそうだ?」
「奇遇だな! 若い頃そこから数ブロック先に住んでた。」 パンスティックを食べるタッカー。「居住区はすごい賑わいでした。」
笑うアーチャー。トゥポルがナイフとフォークでパンスティックを切ろうとして、折れてしまったのを見る。「指を使った方が楽だと思うがね?」
トゥポル:「…ヴァルカンは直に食べ物に触れません。」
アーチャーはうなずいた。
タッカー:「スペアリブを食うところを見てみたい。」
アーチャー:「大丈夫、ベジタリアンに肉は出さん。」
やってきたクルーが料理を運ぶ。トゥポルにはサラダ、タッカーとアーチャーにはスペアリブ。
タッカー:「こりゃ美味そうだ。シェフによろしくな?」
クルー:「承知しました。」
トゥポル:「人間は進歩的文明をもつと言いながら、未だに肉を食すとは野蛮です。」
タッカー:「食習慣で人を判断するなと祖母に教わった。」
アーチャー:「進歩的文明かどうかはさておいて、50年前の地球を知れば人類の進歩に驚くだろう。」
トゥポル:「人間は忍耐も理性もものにできない、衝動的な肉食動物だと思います。」
タッカー:「へえ? 戦争はどうだ? 疫病に飢餓は。2世代に渡って出していないぞ? これは自慢してもいい。」
「かつての本能を取り戻す可能性がゼロになったとは言えません。」
「かつては、人肉食の風習もあった。そのころに戻ったらどうしよう。任務が短くてよかった。」
アーチャー:「人間の本能は根強いものだ。一晩で変われと言われてもなあ。」
トゥポル:「正しい規律があれば…」 パンスティックを丁寧に切り、ナイフに刺したのを見せる。「不可能はありません。」
手を広げ、笑うアーチャー。

ブリッジ。
操縦するメイウェザー。「ワープ4 ポイント 3 に達しました。」
リード:「……あまり変わらないなあ。」
サトウ:「誰も気づかないんですか?」
アーチャー:「何をだ。」
「揺れですよ、微弱な振動です。」
トゥポル:「気のせいでしょう。」
アーチャー:「もう 0.1 上げてくれ。」
船がわずかに振動した。
サトウ:「ほら、揺れたでしょ?」
リード:「ディフレクター・シーケンスだ。異常なしです。」
トゥポル:「部屋に戻って少し休んだ方がいい。」
サトウ:「……ポンフォ・マラン。」
「ここでは人間の言葉で話すことになっています。少尉もそれを尊重してもらいたい。」
アーチャー:「秒速 3千万キロで進むわけだから、多少の揺れが起きるのも当然だ。一週間もすれば慣れるだろう。」 呼び出し音。「アーチャーだ。」
フロックス:『こちらドクター・フロックス。患者の意識が戻りそうです。』
「すぐ行く。出番だ。」
サトウは席を立った。

叫ぶクラング。「Pung ghap HoS! Pung ghap HoS!」
アーチャー:「どうしたんだ。」
機械を手にしたサトウ。「変です。翻訳機がうまく機能していないようです。文法が調整できません。」
クラング:「DujDaj Hegh!」
「あ…」
アーチャー:「クロノスに向かっていると言え。」
「ああ…インガン・ホック、ジュ!」
クラング:「Tujpa'qul Dun?」
「私たちが誰かと聞いています。」
続けるように指示するアーチャー。
サトウ:「オゴミ・エンタープライズ。プゴロ。」
クラング:「Nentay lupHom!」
「ラプホムだから…自分の船を返して欲しいと言っています。」
アーチャー:「破壊されたと。」
「ソンチ。」
クラング:「Vengen Sto'vo'kor※56 Dos!」
「あ…よくわかりませんが、死後の霊を食べることに関して言っているようです。」
アーチャー:「ああ…もう一度、やってみてくれ。」
機械を調整するサトウ。「あの…音声プロセッサーを通してからチェックさせて下さい。」
クラング:「MajOa blmoHqu!」
「えーっと、今のは…妻が醜くなったですって? 申し訳ありません! でもこれが精一杯なんです。」
診断したフロックス。「ああ、失礼。前頭葉前部皮質が強く刺激されて混乱してます。言葉もね?」
クラング:「Hljol OaOqu'nay!」
サトウ:「ドクターのおっしゃるとおりだと思います。『臭い靴』が何かに関係あるなら別ですが?」 船が揺れた。「ああ、ですから…」
「OaOqu'nay!」
「今のはワープ振動ですよねえ?」
「OaOqu'nay!」
通信機に触れるアーチャー。「ブリッジ、どうした。」
トゥポル:『ワープが解除されました。メインパワーが…』 音声が途切れ、ライトが落ちる。

ブリッジも同じだ。
メイウェザー:「全デッキ、パワーダウン。」
リード:「右舷船首に怪しい影が見えました。」
トゥポル:「何?」
「わかりません。それがパワーダウンの原因かもしれません。」
エンタープライズのパワーが落ちていく。

暗闇の中を進む、無毛の異星人たち。壁をつたっている者もいる。

叫び続けるクラング。「Qa'rot bah chu'lu'ta!」
ハンドライトをつけるアーチャー。「直ちに補助パワーを作動させるんだ。」
クラング:「Sonchly DaHjaj pung'gaP!」
「こいつを黙らせてくれ。」
サトウはクラングに言った。「黙れ!」
クラング:「DaHjaj pung'gaP...」
アーチャー:「鎮静剤で眠らせろ。私はブリッジに戻る。」
「DaHjaj pung'gaP...」
サトウがはしごにライトを当てると、一瞬異星人の姿が見えた。だが壁に同化してしまい、見えなくなる。「船長。誰かいます。」
2人が同じ場所にライトを当てても、姿はない。武器を構える保安部員。
アーチャーははしごに近づく。
別の方向から物音が聞こえた。
ゆっくり歩くアーチャーは、音の主をとらえた。天井をつたっている。「撃て!」
発砲する保安部員。異星人は逃げた。
クラングはつぶやいた。「Suliban.」
保安部員の近くで音がしたが誰もいない。その瞬間、逆方向から倒された。
壁に叩きつけられる保安部員。
アーチャーは銃を拾い、一人の異星人を撃った。
近くに倒れた異星人に驚くサトウ。
だが、もう一人の異星人が天井から飛び降りてきた。クラングの真上に。
アーチャーは保安部員を起こす。「大丈夫か?」
保安部員※57:「はい。ああ…」
ライトが戻った。既にクラングの姿はなかった。


※46: immunocytic gel worm

※47: Altarian marsupial
TNG第82話 "Future Imperfect" 「悪夢のホログラム」でアルタリア脳炎 (Altarian encephalitis) が言及

※48: Interspecies Medical Exchange

※49: Trillius Prime
書籍 "Star Trek: Star Charts" によると、DS9 ダックスの母星、トリル (Trill) と同一の惑星とされています

※50: Draylax

※51: Teneebia(n)

※52: Crewman Fletcher
(Jason Grant Smith) 名前は言及されていません

※53: Grand Canyon

※54: Big Sur Aquarium

※55: Sausalito

※56: スト・ヴォ・コー
クリンゴン人における死後の世界。TNG第149話 "Rightful Heir" 「クリンゴン神カーレスの復活」など

※57: Crewman
(バイロン・テームズ Byron Thames)

ブリッジに戻ったアーチャー。「最新式センサーなのに、どうして侵入者を感知できなかったんだ。」
メイウェザー:「大尉によると、感知した直後にパワーを失ったようです。」
リード:「右舷センサーログが、空間の揺らぎを記録してます。」
タッカー:「ちょっとした不調では?」
サトウ:「医療室の出来事は現実です。」
アーチャー:「記録された揺らぎをしっかり分析してくれ。武器の状態は。」
リード:「ターゲットセンサーを調整する必要が。」
「すぐ始めろ。」
トゥポル:「船長。」
「クラングは犯人を知っているようだった。彼の言葉を翻訳してくれ。」
サトウ:「了解。」
トゥポル:「船長、このような事態は予測不能でした。…ソヴァル大使も理解してくれるでしょう。」
アーチャー:「君は科学士官だろ? トリップの分析を手伝ってくれ。」
「サンフランシスコの天体観測コンピューターの方が効率的です。」
「ここは地球じゃない。船にあるもので間に合わせるんだ。」
「クリンゴン人は消えたのです。任務はもう終わりました。」
「消えたのではなく、誘拐されたんだ。必ず犯人を捜し出してみせる。」
「広大な宇宙で、どうやって捜し出すと言うんですか。センサーに映った影では見つけられません。馬鹿げた任務です。」
「…話がある。」

作戦室に入る 2人。
アーチャー:「任務に対する君の気持ちはどうでもいい。だからヴァルカン的皮肉はさっさと胸の奥にしまい込んでくれ。」
トゥポル:「そういう反応をするから、人間は地球にとどまっているべきだとヴァルカンは主張しているんです。」
「私はこれまで、ヴァルカン人に禁止されていることを守ってきた。ヴァルカン人が父の成功を阻止しようと、様々な情報を隠している間も、父は仕事に打ち込んだが、飛行は叶わなかった。我々は君らのように 200年も生きられない。」
「宇宙艦隊と連絡を取って、状況を知らせるおつもりですか?」
「いや、知らせない。君も従ってもらう。わかったらさっさと戻って協力するんだ。」
出て行くトゥポル。アーチャーはため息をつく。

異星人が解剖されている。
アーチャー:「何かわかったか?」
フロックス:「クラングの言葉通り、スリバン人※58でした。ですが、普通のスリバンではありません。」
「というと?」
「DNA は確かにスリバンですが、解剖学的には違う。この肺を、ご覧下さい。」 内蔵を見せるフロックス。「気管支が 5つあります。本来は 3つです、ふーん。それから次にこの肺胞なんですがね、違う種類の大気を処理できるように変えられています。」
「つまり一種のミュータントだと?」
「ええ、でしょうがこれは偶然じゃありません。つまり、『突然変異』ではないんです。彼は非常に高度な医療を受けている。遺伝子工学のね。ご覧下さい。」 フロックスが顔にライトを当てると反応がある。「皮下の色素嚢※59です、ふーむ。」 服の部分も同様だ。「生物擬態皮膚※60、それに…目が、すごいですよう? 複合網膜※61。船のセンサーが感知できない物まで見えます。」
「遺伝形質ではない。」
「ええ、本来スリバンは人間とあまり変わりません。実に感動的な仕事ですよ。こんなものは見たことがない。」

コンピューターの画面を見ているタッカー。「ではこれは?」
トゥポル:「ただの雑音です。この装置じゃプラズマ崩壊率を分離できません。」
「なぜそうだと断言できるんだ。」
「ヴァルカンの子供はもっと進んだおもちゃで遊んでます。」
「…あのな、ヴァルカン人は偉ぶってるという連中がいるが、私に協力しようと懸命に努力する副司令官の姿を見たら、その思いも変わるだろうよ。」
「船長の任務はクリンゴン人を同胞に帰すこと。でもクリンゴン人はもういない。」
「船長はただの地球人かもしれんが、真剣に行動してるとは思わないか? 宇宙艦隊はずっと地球に押しとどめられてた。…せっかくつかんだチャンスはものにしなきゃ。そう決意した船長を手助けしたいと思うのが自然の感情だ。それが、忠誠心というもの。だろ?」
アーチャーも機関室に来た。「進展は?」
タッカー:「いえ、あまり。」
トゥポル:「リード大尉が気づいた空間の揺らぎは、三環プラズマのステルス船の影響だと思われます。」
「プラズマ崩壊率がわかれば、ワープ特性を見つけることができます。」
「残念ながら、船のセンサーでは崩壊率を測定できません。」
サトウがやってきた。ワープエンジンを示す。「そんなに近づいて大丈夫ですか?」
アーチャー:「…何かわかったか?」
「…クラングの言葉は全て意味をなさないものでした。」
「スリバン人については?」
「何も。」
「スリバンは知ってるか?」
トゥポル:「3641星域※62の原始的な種族ですが、今まで脅威になったことはありません。」
「今は脅威だ。地球については何か?」
サトウ:「データベースにもありませんでした。これが全てです。翻訳できなかったのは 4つの単語、恐らく固有名詞でしょう。」
パッドを見るアーチャー。「『ジェリック、サリン※63、ライジェル※64、ソリア※65』。聞き覚えがあるか?」
トゥポルは答えようとしない。
アーチャー:「トゥポル?」
トゥポル:「…ライジェルは惑星系です。ここからおよそ15光年離れた場所にあります。」
「なぜためらった。」
「クラングの船から回収された航行記録によると、ライジェル10号星※66は、彼が地球にぶつかる直前に立ち寄った星です。」
「なぜ、そんな大事な情報を、今まで隠していたんだ?」
「詳細を明らかにする権限は私にはありません。」
「今度何か隠しているとわかったら、任務が終わるまで窮屈な拘束室で過ごすことになるだろうからそのつもりで。」 連絡するアーチャー。「操舵席。」
メイウェザー:『メイウェザー。』
「ヴァルカンの星図から、ライジェルという星系を探し出してくれ。その 10番目の惑星にコース設定。」
『了解。』
エンタープライズはワープに入った。

スリバンがクリンゴン語を使って、クラングに尋問を行う。「(どこにある? どこにある?)※67
機械を頭部につけられたクラング。「(知らん。)」
微笑むスリバン。「(殺されたいのか?)」
クラング:「(知らん。)」
「こいつ嘘はついてないだろうな。」
スリバンのドクター※68。「ええ、もちろんです。薬が効いています。」
スリバン:「(お前の船にあるのか? 地球船か?)」
クラング:「(何の話だ?)」
「(ライジェルへ行った目的は?)」
「(人に会うため。)」
「(誰に?)」
「(サリンというスリバン女。)」
「(何を受け取った?)」
「(何も。)」
「私が戻るまで生かしておけ。」 出て行くスリバン。

エンタープライズはワープを抜け、惑星に近づく。
シャトル格納庫で話すアーチャー。「シャトルポッドに乗り移ったら、商業施設に着陸する。36レベルある。」
トゥポル:「翻訳機はライジェル語に調整されていますが、様々な人種がいるので気をつけること。」 コミュニケーターを渡していく。「ライジェルではよそ者に対し気の短い種が多い。人間に会うのも、初めてでしょう。それから、人間は社交的になる傾向がありますが、意識して抑える用にして下さい。」
タッカー:「生水には気をつけなくていいんですか?」
「…ドクター・フロックスによると、水と食料は心配ないそうですが、あまり手を出さないようにとのことです。」
メイウェザーと顔を見合わせるタッカー。
アーチャー:「クラングは密使だということがわかっている。彼に何かを渡した人物が、誘拐の目的を知っているかもしれん。わずか数日前のことだ。2メートル※69もあるクリンゴン人は目立つからな。」
シャトルに乗り込むクルー。
エンタープライズの下部からシャトルが発進した。

雪の降る地表へ降りるシャトル。施設の最上階に着陸した。
火で料理が作られている。トゥポルとタッカーが歩いてきた。
様々な種族の異星人がいる。近づいてきた虫を追い払うタッカー。
ドアの奥から、女性の叫び声が聞こえてくる。
そちらを見るタッカー。「何なんだ?」
トゥポルはタッカーの肩をつかんだ。「我々には関係ありません。」

チョウが飛んでいる。
台の上では、2人の女性※70がなまめかしいダンスを披露している。
その様子を見ているメイウェザーとリード。
ダンサーはチョウに向かって口を開いた。長い舌が伸び、虫を捕らえた。口の中に運ばれる。
歓声が上がった。
異星人※71が話す。「いい女でしょう? 紹介できますぜ。」
メイウェザー:「ほんとにクラングを見たのか?」
「後で教えますって。でもまずは、たっぷり楽しまなきゃ。旦那はどっちがいい?」
「行きましょう、大尉。」
リード:「あれは本物のチョウかい? それとも、ホログラム?」
食べ続ける女性。
メイウェザー:「大尉。」
リード:「ああ、そうだな。わかってる。急ごう。ああ…」

異星人が座って並ぶ中、タッカーもいる。ため息をついた。
隣の者が持っている箱が動き出した。箱を押さえる異星人。タッカーはその場を離れた。
子供※72が息を切らす声が聞こえてきた。隣にいる女性※73が、子供の口に機械をつけたり外したりしている。
トゥポルは隣の部屋で情報を聞き出していた。
女性はまた呼吸機を外した。とても苦しそうな子供。
戻ってきたトゥポルは、コミュニケーターを使う※74。「トゥポルより船長。」
アーチャー:『どうぞ。』
タッカーは女性に言った。「おい!」
トゥポル:「セキュリティにはクラングの記録はありませんでしたが、レベル19 のクリンゴン領に、クリンゴン人がよく行くという話を聞き込みました。『新鮮な食料』があるとか。」
アーチャー:『レベル19 のどこだ。』
「最北端にある区域で、地熱管のそばです。」
『では現場で会おう。以上。』
タッカー:「何をしてる! 子供を殺す気か!」
止めるトゥポル。「少佐! 余計なことです。」
タッカー:「このままじゃあの子が死んでしまう!」
「あれはロリリア人※75で、4歳まではメチル酸化物しか吸えません。母親は環境に慣れさせているんです。」
「…そりゃ知らなかった!」
「人間というのはすぐ結論を出したがる。ほかの文化を客観視する目を養うべきです。そうすれば口を出すべき時が、わかります。」
2人が去った後、フードを被っていたスリバンが振り返った。

蒸気が噴き出す区域を歩くサトウ。「何だかずいぶん寂しいところですね。」
アーチャー:「『領土』と言ってもここは飛び地だ。」

「トゥポルが『新鮮な食べ物』とか言ってましたけど、レストランはなさそうですね?」
異星人の話し声が聞こえてきた。遠くに歩いているのが見える。
アーチャー:「やあ! 待ってくれ!」
サトウ:「ハクジェ!」 2人の異星人はそのまま歩いていった。「クリンゴン人だと思ったのに…。」
物音が聞こえた。
コミュニケーターを取り出すアーチャー。「アーチャーよりトゥポル。」 雑音しか返ってこない。「トゥポル、応答を。」
サトウ:「賑やかな場所に戻った方がよさそうです。」
「…物陰は賑やかなようだ。」 銃を準備する。「下がってろ。」
用心して歩く 2人。
だが突然、サトウにスリバンが飛びかかってきた。アーチャーにも襲いかかる。
抵抗するアーチャー。スリバンは軽やかな身のこなしを見せる。
2人は連れて行かれる。


※58: Suliban
なお種族名からすると本来は「スリバ人」と訳すべきでしょうが、前述の書籍 "Star Trek: Star Charts" によると偶然にも (?) 母星名も「スリバン」とされており、「ヴァルカン人」同様にスリバン人でも間違いではないと言えます

※59: subcutaneous pigment sacs

※60: bio-mimetic garment
「皮膚」というよりは衣服ですね

※61: compound retinas

※62: Sector 3641

※63: Sarin

※64: Rigel
「リゲル」とも呼ばれ、TOS から何度も触れられた恒星系。従来はオリオン座ベータ星のこととされていました。しかし実際は遥か遠くに位置する恒星のため、前述の書籍 "Star Trek: Star Charts" では、実際のリゲルに似た地球近隣の別の恒星を同じ呼び方にし、過去のエピソードで言及された惑星のいくつか (10号星も含め) はその星系内のものということにしています

※65: Tholia
ソリア人 (Tholian) は TOS第64話 "The Tholian Web" 「異次元空間に入ったカーク船長の危機」で登場? した種族。その後のシリーズでも何度も言及されました。ENT で、あの独特な風貌を再び見せてくれるんでしょうか?

※66: Rigel X

※67: 本国の放送でも、画面内に英語字幕が表示されました

※68: スリバン・ドクター Suliban Doctor
(ジョセフ・ラスキン Joseph Ruskin TOS第46話 "The Gamesters of Triskelion" 「宇宙指令! 首輪じめ」のガルト (Galt)、DS9第49話 "The House of Quark" 「クワークの結婚」などのトゥメック (Tumek)、第66話 "Improbable Cause" 「姿なき連合艦隊(前編)」のカーデシア人情報屋、VOY第107話 "Gravity" 「ブラックホールと共に消えた恋」のヴァルカン・マスター (Vulcan Master)、映画 "Star Trek: Insurrection" 「スター・トレック 叛乱」のソーナ人士官その3 役)

※69: 原語では「7フィート」

※70: ダンサー Dancer
(Diane KlimaszewskiElaine Klimaszewski)

※71: 異星人男性 Alien Man
(ヴァン・エパーソン Van Epperson DS9第7話 "Q-Less" 「超生命体“Q”」のベイジョー人職員 (Bajoran Clerk) 役) なお後でトゥポルが話しているエキストラと同種族のように見えることから、ライジェル人かもしれません

※72: 異星人の子供 Alien Child
(Ethan Dampf)

※73: 異星人の母親 Alien Mother
(Chelsea Bond)

※74: TOS と同じくフリップ式で、作動音も似ています

※75: Lorillians


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