USS Kyushuトップに戻る

映画ガイド
第8作「ファースト・コンタクト」(3)
Star Trek: First Contact

dot

[その1 | その2 | その3]

・21. 肉体的快楽
機械の上に、人工的に皮膚が移植されていく。そのデータの腕が固定された※1
元クルーのボーグもいる。
データ:「教えてよ。ポリマーベースのニューロリレーを使って、私の陽電子ネットの中央プロセッサーに有機神経インパルスを出すのかい? …そうだとしたら、有機人工発信につきものの信号の減損という問題はどうやって解決したのか知りたいな…」
ボーグ・クイーンが近づく。「いつもそんなにおしゃべりなの?」
データ:「…いつもじゃないけど、まあ大抵はね。」
「どうして原始的な言語によるコミュニケーションに固執するの。アンドロイドの脳なら、もっと高度なことが可能でしょう。」
「忘れたのかい、私は人間になりたいんだよ?」
「我々も、かつては人間に似ていた。欠点があるひ弱な、有機体だった。…だが今は人工体を取り入れ進化している。両方を有することで完全になったのだ。あなたの目指すものも我々と同じはず。」
「うーん。…自分を完全だって信じ込むのは、精神が健康でない証拠なんだよ?」
「卑小な存在には、我々の大きな目的が理解できないと見える。」
「君が僕に何の興味もないのはよく理解してるよ、君はただ…エンタープライズのコンピューターの暗号コードを手に入れたいだけだ。」
「それも目的の一つ。では…」
再びデータの腕が露わになる。
クイーン:「それを果たすためあなたの望みも叶えてあげる。」
また腕が固定される直前、データはそばのボーグを殴った。
倒れるボーグ。そのままコンソールを操作し、左手も解放するデータ。
足も離れた。他のボーグを倒す。
ボーグが次々と向かうが、データには歯が立たない。
ボーグ・クイーンは一瞬顔を動かした。データの前にフォースフィールドが立ちはだかる。
振り下ろされるボーグの腕。データは声を上げ、腕を守った。
移植された皮膚から、血が出ている。うめくデータ。
手を挙げるボーグ・クイーン。集まったボーグは全員データから離れていく。
クイーン:「データ、あなたにはまだわからないの。自分を見て。私が与えた肉体をそんなに大事そうにかばって。意味のないものならなぜそうして守るの?」
データ:「私は、ただ人間の習性を真似しているだけなんだ。」
「あなたはどんどん人間に近くなってきた。嘘のつき方まで身につけて。」
「…私の、プログラムはこういう感情を…処理できるようにはできていないんだ。」
「ではその皮膚をはぎ取ればいい、欠陥回路を捨てるように。」
「あ、あ…」
「やってみるがいい。我々は止めない。」
データは皮膚に手をかける。
クイーン:「どうしたの? 肉体に惑わされることはない。」
無言になるデータ。
近づいてくるボーグ・クイーン。「どうやって肉体的な快楽を得るか知っている?」
データ:「ああ…もし、君が…生殖のことを言っているのなら、もちろん…私は正常だ。マルチテクニックで…プログラムされているから。」 後ろに下がるが、壁が立ちはだかった。
顔を近づけるボーグ・クイーン。「その機能を最後に使ったのはいつ?」
データ:「8年と…7ヶ月16日と 4分22秒前※2…」
「それは長すぎる。」
ボーグ・クイーンはキスをした。口を離す。
今度はデータの方から求める。


※1: 腕を固定したボーグが、後ろから「ポン」と軽く叩くのは、ボーグらしくないという指摘があります

※2: 悪名高き TNG第3話 "The Naked Now" 「未知からの誘惑」での、ターシャ・ヤーとの関係を示しています

・22. ビーコン
ピカードたちは、ディフレクター※3のそばまで来ていた。起き上がる棒状の部品。
ボーグが生身のまま作業している。
離れて見ていたウォーフ。「もっと人手を連れてきましょう。」
ピカード:「いや、時間がない。どうやら奴らはビーコンを素粒子エミッターの上に造ってるらしいな。」 ディフレクター盤の中央に、何本も棒が立っている。「トランスポンダーロッドが全て設置されてしまえばビーコンが動き出す。」
ホーク:「フェイザーを最大パワーで使ったらどうでしょうか。」
「駄目だ。ディフレクター盤に当たったら船が半分吹っ飛ぶ。反陽子※4で充填してあるんだ。…ほかの方法を考えよう。」

息をつきながら、森を走るコクレイン。ライカーたちが追う。
クルー:「こっちだ。」
続くクルー。
コクレインの前に現れた。「博士。」「博士!」
逃げるコクレインに、ラフォージが近づいた。「トイレを探してるんですか。」
コクレイン:「…俺はやらないぞ。」
「でもあなたがいなきゃ船は完成しない!」
「知ったことか。銅像になんかなりたくない。」
ライカー:「博士。」
「もうほっといてくれ。」 また走り出すコクレイン。
「遊んでる暇はないんだ。」 ライカーはフェイザーを発射した。
ショックで吹っ飛ぶコクレイン。水辺の上に転がる。
コクレインはすぐに起き上がる。
駆けつけるライカーは、ラフォージに言った。「…銅像のこと話したのか。」

ディフレクターのそばに近づいたピカード。「阻止するには、3つあるマグロックを全て解除しなければ。」
脇のコンピューターを操作する。パネルが開き、コンソールが現れた。
「パネル・オフライン」と表示されている。操作するが、「アクセス拒否」となった。
ボーグがピカードの方を見た。
ウォーフとホークは、別のロックへ向かう。
同じように操作するホーク。
ボーグは運んできた筒状の物体を取り付けている。エネルギーが入った。
ウォーフも銃を置き、操作を始めた。やはりアクセスが受け付けられない。
またボーグが振り向く。ロッドが立てられ、稼働する。
ホークもアクセスしようと試みる。気づくボーグ。
その一体が向かってきた。フェイザーライフルを構えるホークを見る。
発射するホーク。吹き飛んだボーグは、まっすぐ飛んでいく。
ディフレクターに身体をぶつけた※5後、宇宙空間へと回転しながら消えた。
作業に戻るホーク。ボーグの作業も進んでいる。
ウォーフがアイソリニアチップを動かすと、「マニュアル入力」という表示※6に切り替わった。
そしてボタンを押すと、「アクセス可能」の後に「マグロック・サーボ制御可動」となった。隣のレバーに手をかける。
また向かってくるボーグ。
ウォーフがレバーを動かすと、低い音が響いた。「磁気抑制装置を解除しました。」
ボーグにフェイザーを撃つウォーフ。だが既に適応されていた。
ウォーフ:「もう適応された。」
ピカードは作業を続ける。ウォーフに向かってくるボーグ。
ウォーフはライフルを手放した。ピカードもロックをマニュアル入力に変更する。
ボーグに気づかれた。ピカードはフェイザーを構えると、ボーグの足下に向けて撃った。
白い気体が噴き出し、浮き上がるボーグ。そのまま上昇して消えていく。
ウォーフと向き合うボーグ。ウォーフは背中に隠していたメクラフ※7を手にした。
ボーグの腕を切り落とす。ケーブルでつながれているが、フワフワと浮く腕。
攻撃を続けるウォーフ。ボーグもウォーフに腕を振り下ろし、環境服から空気が漏れ出す。
メクラフを首元に振り下ろすウォーフ。血が噴き出す。
コンピューター※8:『警告。あと 45秒で減圧します。』
うめき、手で穴を押さえようとするウォーフ。
ピカードはウォーフと、止まったボーグの様子を見る。
またロッドが稼働する。
ロックをアクセス可能にしたホークへ、ボーグが近づく。気づかないホーク。
レバーを動かすのに手間取っている。
ピカード:「ホーク!」
ホークは腕をつかまれた。叫ぶ。
そのまま身体をつかまれ、ディフレクターの外へ連れて行かれた。作業を続けるピカード※9
またボーグが来る。レバーに手をかけるピカード。
ロックが解除された。後ろに下がるピカードを見るボーグ。
ピカードは斜めになっている場所まで下がった。そして磁気を解除し、床を軽く蹴る。
ボーグを避け、空中を回転しながら移動する。まだ気体が噴き出している上を通る。
ピカードは出っぱりに手をかけ、再び磁気を発生させた。足が船体に吸着する。
ロッドの稼働は続き、小さく音が聞こえ始めた。ホークがやり残したレバーを動かすピカード。
「マグロック全解除」と表示された。
するとディフレクターの周りを固定していた装置が、順番に解除され始めた。なすすべなくそれを見るボーグ。
全て解除され、円盤状のディフレクター中央部が浮き上がっていく。端につかまったままのボーグもいる。
それでもロッドが立てられた。全て終わったらしく、定期的に音を発する。
フェイザーライフルを手にしようとするピカード。だがライフルがブーツで踏まれた。
ホークだ。そしてその顔は、既に半分以上がボーグ化されていた。
ピカードを殴る。踏みつけようとするホーク。
だがホークは撃たれた。宇宙空間を漂っていく。
足の穴を、ボーグのケーブルを巻き付けてふさいだウォーフが、発射したものだった。まだボーグの腕が浮いたままだ。
ビーコンとして稼働を始めるディフレクター盤。浮き上がっていくが、中央の太いケーブルで未だに船体とつながっている。
ピカードはライフルを取り、それを撃った。切り離される中央部。
同時にビーコンの活動も止まる。さらに上昇していく。

横になっているデータのそばにいたボーグ・クイーンは、気づいた。「計画の変更が出たわ、データ。」

エンタープライズを離れていくディフレクター盤。
ウォーフは銃を構えた。上空に見える中央部。
ウォーフ:「これも吸収するがいい。」
発射する。ディフレクター盤は爆発した。
ピカードはウォーフを見た。ヘルメットにヒビがある。
そのまま、歩いていく。


※3: 第15スタジオに建設された、実物の 8分の7 という巨大セット。撮影に 5日を要しました

※4: antiproton

※5: 無重力状態のはずなのに、火花が弧を描いて落ちるのは変だという指摘があります。同様に気体も落ちてきていますね

※6: この画面で、"SUBSYS ID = MAGLOCK AE35" と表示されています。AE35 というのは映画「2001年宇宙の旅」(1968) での、ディスカバリーのアンテナ制御モジュールと同じ記号

※7: mek'leth
DS9第87話 "Sons of Mogh" 「モーグの息子たち」など

※8: 原語では全てメイジェル・バレットですが、吹き替えではここだけ沢海さんではないような…

※9: この時一瞬だけ、ピカードの手元のハンドルが回転済みの位置 (上側) になっています。直後に元の位置に戻ります

・23. コクレインの夢
賑わう地表の酒場。その奥のミサイルサイロ内部に、コクレインがいた。
インターコムをつけたライカー。「あと一時間です。今の気分は?」 青い服を着ている。
コクレイン:「頭がガンガンするよ、酒のせいか撃たれたせいか。…両方かな。でも歴史を作ってやるぜ、ヘヘ…。」
通信が入る。『トロイよりライカー。』
ライカー:「こちらライカー。」

別の部屋にいるトロイ。「打ち上げドアを開きます。」
ライカー:『開けてくれ。』
操作するクルー。

ライカーもコックピット※10に座った。上のドアが開き、青い空が見える。
まぶしさに目を閉じるコクレイン。「おお…。」
ライカー:「ごらんなさい。」
「…何だ、24世紀には月はないのか。」 青空の中に見えている。
「ありますよ? でも姿が違います。月には 5,000万人の人が住んでるんです。晴れた日にはティコ・シティ※11、ニューベルリン※12や、アームストロング湖※13が地上からも見えるんです。」
「ヘヘー。」
「それもみんなあなたの…」
「よしてくれ。もう礼を言われるのはたくさんだよ。偉大なるコクレイン博士の話は聞き飽きた。そんな歴史の本を誰が書いたんだが知らないけどな、あんたら俺のことを買いかぶりすぎてるよ。ヘヘ…みんな俺を聖人扱いしてる。でなけりゃ、予言者か何かみたいに。」
「聖人だとは思いませんが、先見の明はありますよ? だからフェニックスもできた。」
「…俺の欲しいもの知りたいか。ドルだよ、ドル。金さ。…これを造ったのは、人類の新時代を切り開くためじゃない。星へ行きたかったわけでもない。俺は飛行機も嫌いで、いつも電車なんだ。」
笑うライカー。
コクレイン:「この船が売れたら引退して南の島へ行こうって思ってた。…あったかくて、裸の女がいる。…それが、ゼフレム・コクレインさ。ただの男なんだ。あんたらがみんなで褒め称えてる、歴史上の人物なんか…俺は知らねえよ。そんなお偉いさんは俺じゃない。」
ライカー:「ある人の言葉です。『英雄になろうとするな、ただの男であれ。…いずれ歴史が判断を下してくれる。』」
「…ヘ、何だそのアホらしい御託は。…誰が言ったんだ。」
「あなたですよ、今から 10年後にね。…あと 58分ですよ、博士。チェックリストを確認しましょ。」


※10: 角度を変えることができ、振動装置を備えたセット。後に ENT第1話 "Broken Bow, Part I" 「夢への旅立ち(前編)」などの検査ポッド、第48話 "Cogenitor" 「第3の性」のヴィシア人ストラトポッド、第50話 "First Flight" 「運命の飛行」の NX実験機内装として再利用

※11: Tycho City
訳出されていません

※12: New Berlin
TNG第152話 "Descent, Part I" 「ボーグ変質の謎(前編)」より

※13: Lake Armstrong
月に初めて降りたアポロ11号の宇宙飛行士、ニール・アームストロングにちなんで

・24. “もうこれ以上、引けない”
ブリッジに上がってきたダニエルズ。「ボーグが動きました。既に 3地点で防衛線を突破され、第5、第6デッキも奪われました。こちらの武器にも全て適合してるので撃っても効きません。」
シャツ姿のピカード。「では武器の威力を高めるように修正の方法を考えないといけないな。…今は何とか、奴らの前進を食い止めろ。」
ダニエルズ:「しかし。」
「銃が駄目なら素手だ。」
「…了解。」 ウォーフを見るダニエルズ。
話を聞いているリリー。
ウォーフはダニエルズを止めた。「待て。艦長、武器が効かなくなった以上エンタープライズの自爆シークエンスを作動させ、我々は船から退避すべきです。」
ピカード:「駄目だ!」
クラッシャー:「…ジャン・リュック。船ごと破壊すればボーグも死ぬわ。」
「いいや、留まって戦う。」
ウォーフ:「しかし既にエンタープライズを失った以上、いたずらに犠牲を増やすこと…」
「まだ失ってはいない、エンタープライズはボーグには決して渡さない! 私が指揮を執っているうちはな。これは命令だ。」
「お言葉ですがその命令には承伏しかねます…」
「抗議は記録しておく。」
「申し上げにくいことですが艦長、ご自分のボーグとの個人的な体験が艦長の判断を歪めているのではありませんか。」
「…君は怖いんだな。…船を破壊して逃げ出そうとしている臆病者だ!」
クラッシャー:「ジャン・リュック!」
ウォーフ:「…あなたがほかの男だったら今すぐこの場で殺してやるところです。」
ピカード:「不服なら出ていけ。」
歩いていくウォーフ。
ピカードもブリッジを出ていった。
リリー:「…これからどうするの。」
クラッシャー:「命令に従うしかない。ダイソン※14、キャプラン※15、武器システムを修正する方法を検討してみて…」
「待って、馬鹿げてるわ! 退避して船を自爆させれば済むなら、そうすればいいじゃない。」
「艦長が決断した以上議論は終わりなのよ。」
手を挙げるリリー。ピカードの後を追う。
クラッシャー:「リリー!」

観察ラウンジで、フェイザーライフルの部品を扱っていたピカード。
リリーが来た。「どうしようもない男。」
ピカード:「今は議論してる時じゃない!」
「あらそう、私は 24世紀のことは何にも知らないけど、船に留まって戦うのは自殺行為だって部下はみんな思ってる。ただあんたに面と向かって言わないだけ。」
「私の命令には従うのだ。」
「…そりゃいつもはまともな命令を出すからでしょう?」
「私が一番よくボーグを知ってる。…私以外は、誰もわからない。」
「それ一体どういう意味。」
「……6年前のことだ。私はボーグ集合体に改造された。身体に奴らの人工生命装置を植えつけられて…集合意識につながれた。自分の個性は全て消され…ボーグの一人となった。…わかっただろう、だからこそ私はボーグのことがよく理解できるんだ。奴らとの戦い方もな。悪いが仕事があるんだ、出てってくれ。」
「…ああそういうことだったの。……単純だったんだ。ボーグへの恨みってわけね? だから奴らをやっつけてやりたいんだ。」
「私の時代には復讐というのは存在しない。感性がずっと進化しているのでね。」
「何言ってんのさ、ホロデッキでボーグを撃ち殺したときのあんたの顔、見せてやりたいわ。ざまーみろ、万歳! って顔してた。」
立ち上がるピカード。「…よくもそんなことを。」
リリー:「人間ってのはね、他人を殺して快感を感じられるようにできてるもんなの。そういう男嫌っていうほど見てきた。」
「出ていけ!」
「行くもんか! どう私を殺す? リンチ少尉を殺したみたいに。」
「救う道はなかったんだ。」
「救おうともしなかったくせに! 何が『感性が進化してる』よ、嘘ばっかり!」
「今はもう時間がないんだ!」
「あらそう、悪かったわ。お楽しみを邪魔する気はなかったの。エイハブ船長※16はクジラを捕まえに行かなきゃならないもんね。」
「…何?」
「24世紀にだって本ぐらいあるでしょうが。」
「…復讐じゃあない。」
「大嘘つき!」
「人類の未来を救うためにすることなんだ!」
「こんな船なんか爆破しちゃえばいいじゃない!」
「いかん! …いかん!」
ピカードはフェイザーライフルを振り上げた。それは背後に当たり、前面が砕け散る。
飾られていた歴代エンタープライズの模型が落ちてきた※17
ピカード:「……エンタープライズを犠牲にはできない。…我々はこれまで妥協ばかりだった。安易に撤退し…奴らが侵略してくると、黙って引き下がった。全世界を改造されても、やはり引き下がった。…もうやめだ。…もうこれ以上は後には引かん! これより先には行かせない!※18 …必ず、今までしたことの代償を奴らに払わせてやる!」
ピカードは窓に近づき、外を見つめた。
壊れた模型を手にするリリー。「船が壊れちゃったわよ。……周りを見なきゃ駄目※19。」 外へ向かおうとする。
ピカード:「『エイハブ船長は白鯨の背のコブ目がけて、今までのありったけの怒りと憎しみとをぶつけていった。…もし彼の胸が大砲だったら、心臓を撃ち出したことだろう。』」
「なーに?」
「…『白鯨※20』だ。」
「実を言うと、読んだことないの。」
わずかに微笑んだピカード。「エイハブは何年も自分の足を、食いちぎったクジラを探し求めた。復讐しようとしてな。しかし、結局はそれで命を失った。船もな。」
リリー:「…引き時ってのを知らなかったのね。」
ピカードは、フェイザーを置いた。出ていく。
そのライフルを見たリリー。

ブリッジに戻ったピカード。「……エンタープライズからの退避準備。」
動き出すクルー。ピカードはリリーを見る。


※14: Dyson

※15: Kaplan

※16: Captain Ahab
パトリック・スチュワートはこの後の 1998年、テレビ映画「モビー・ディック」でエイハブを演じました。エミー賞、ゴールデングローブ賞にノミネート

※17: ガラスを割った直後、エンタープライズ-D の模型が少し傾き、C は無傷に見えます。ですがカットが切り替わると、どちらも壊れて落ちています

※18: 予告編 (特報) では、この部分の別テイクの映像が使われています。このセリフは、DS9第174話 "The Dogs of War" 「自由への叫び」でクワークがパロディ的に引用しています

※19: 原語では「エイハブ」と呼びかけています

※20: Moby-Dick
ハーマン・メルヴィル作、1851年。映画 ST2 "The Wrath of Khan" 「カーンの逆襲」でも言及。この一節はスチュワートが選んだそうです

・25. 自爆装置起動
シートベルト※21が締められる。

閉じられる巨大なドア。

フェニックスの中で、スイッチを入れるコクレイン。「ATR 設定は。」
ラフォージ:「作動した。」
「メインバスは。」
ライカー:「OK だ。」
「点火前シークエンス開始。」

命じるピカード。「自爆シークエンスを開始。認識コード、ピカード・4・7・アルファ・タンゴ。」
クラッシャー:「コンピューター、ビヴァリー・クラッシャー中佐。自爆シークエンス確認。認識コード、クラッシャー・2・2・ベータ・チャーリー※22。」 ブリッジの壁に、いくつも開いていく個所がある。
ウォーフ:「コンピューター、こちらはウォーフ少佐だ。自爆シークエンス確認。認識コード、ウォーフ・3・7・ガンマ・エコー※23。」 コンピューターでは、太平洋の一つの島が拡大されている。
脱出口へ入っていくクルー。荷物を運ぶ。
コンピューター:『命令確認を受理。自爆シークエンス開始のため最終コードの入力を。』
ピカード:「こちらジャン・リュック・ピカード。自爆シークエンス、アルファ・1。15分後、カウントダウンは不要だ。……開始せよ。」
次々と退避する士官。
コンピューター:『15分後に自爆します。これ以後の音声による警告はありません。』
再び脱出口が閉まった。
クラッシャー:「…エンタープライズ-E も可哀想。」
ピカード:「短い命だったな。」
「また造ってくれるかしら?」
「…そりゃ E の次には、F も G もある。」
ターボリフトへ向かおうとしたウォーフを、ピカードは呼び止めた。「ウォーフ。…さっき君に言ったことを少し後悔しているよ。」
ウォーフ:「少し、ですか。」
「…正直に言うと、君は私の知る限り最も勇敢な男だ。」
「…ありがとうございます。」
ピカードは握手した。「グラヴェット島※24で会おう。」
出ていくウォーフ。独り残ったピカードは、ブリッジを見回した。
データの声。『艦長。』
ボーグの声も聞こえる。
ピカード:「データ。」


※21: スペースシャトルで使われるのと同じもの

※22: Crusher 2-2-beta-charlie

※23: Worf 3-7-gamma-echo

※24: Gravett Island
架空の島。製作スタッフマネージャー (ムーアの助手) Jacques Gravett にちなんで

・26. フェニックス号発射
カウントダウンが進む。
トロイ:「制御室より、フェニックス、最終打ち上げシークエンスのチェック完了。幸運を。」

ライカー:「歴史を作る準備はいいか。」
ラフォージ:「いつでも OK?」
コクレイン:「何か忘れてる気がする。」
ライカー:「何です。」
「…わからない、大したこっちゃないだろう。」

トロイ:「点火シークエンスを開始。」

フェニックスから噴き出す蒸気。
揺れるコックピット。
トロイ:『20…』
コクレイン:「ああそうだ、思い出したぞ。」
『19、18…』
ラフォージ:「何を。」
『17…』
コクレイン:「どこだったっけ。」
ラフォージ:「何が!」
トロイ:『16…』
コクレイン:「あれなしじゃ飛べないんだい。」
『15…』
ライカー:「ジョーディ、打ち上げ中止だ。」
『14…』
コクレイン:「いやあ、大丈夫。あった。」
『13…』
コクレインは小さな円盤を取り出した。前の装置に入れる。
『12、11、10…』

トロイ:「9、8…」

トロイ:『7…』
コクレイン:「いくぜ、ロックンロール!」
『6…』
コクレインはスイッチを押した。

大音量の音楽が流れ出し、トロイは耳を押さえた。

火を吹くフェニックス。
「マジック・カーペット・ライド」※25が流れるコックピットで、ライカーはラフォージと顔を見合わせて笑った。
上昇していく。明るくなった。

揺れる酒場。人々が見守る中、フェニックスが打ち上げられた。
一直線に上っていく。さらに強く火を出す。
みな驚きの表情で見つめる。
ライカー:「もうちょっと音下げて。」
音楽を止めるコクレイン。
ラフォージ:「ちょっと、第2呼気バルブに警報ランプがついてますよ。」
ランプを指で弾くコクレイン。横から装置を叩いてもそのままだ。
コクレイン:「気にすんな、大丈夫だって。…私の合図と同時に、第1段の運転を停止して切り離す。3、2、1…いけ!」
操作するライカーとラフォージ。
大気圏を抜けたフェニックスは、下部構造を切り離した。
2本のワープナセルが姿を見せる※26
ライカー:「よーし、ワープコアをオンラインにしよう。」 スイッチを入れる。
窓から横に見える地球に、コクレインは感嘆する。
ラフォージ:「見物はこれからです。」

まだ脱出作業が続く。
パッドを渡すピカード。「ライカーか部下の誰かに会ったらこれを渡してくれ。」
リリー:「何なの?」
「…どこか北アメリカの静かな土地へ行って歴史には、干渉するなって命令だ。」
「それじゃ、幸運を祈るわ。」 握手するリリー。
「ああ、君もな。」
「……一緒に来ない気なのね?」
「…リリー、私がボーグに捕らわれたとき部下たちは命懸けで助けに来てくれた。…船には…まだ部下が、一人残っている。私は彼に借りがある。」
リリーはピカードの肩に手を置いた。「……わかったわ、がんばってね。」
リリーが入った脱出口を閉じるピカード。

エンタープライズの船体から、無数の脱出ポッド※27が離れていく。全て一直線に地球へ向かう。


※25: "Magic Carpet Ride"
ステッペンウルフの歌。1968年

※26: この場面は、ENT のオープニングでも使用されています。フェニックスの模型は ILM 製作、John Goodson 監修

※27: 外観は John Eaves デザイン。このシーンの船体は模型ですが、ポッド (と、離れた後の穴) は CG です

・27. “お帰り、ロキュータス”
廊下を歩くピカード。
「機関部」と書かれたドアの前で止まった。ボタンを押す。
中からは赤い光が明滅している。不気味な音も響く。
入るピカード。同化された壁のそばを歩いていく。
ボーグの声が聞こえる。アルコーヴにボーグもいるが、襲ってくる気配はない。
だがピカードを見ている。ピカードから離れてついていくボーグ。
ピカードはワープコアを見た。静まりかえっている。
またボーグの声。近づくピカード。
クイーン:「どうしたのロキュータス、見慣れた光景でしょ?」 姿を見せる。「有機体の精神は本当に脆弱だわ。」

ピカードの目に、細いドリルが近づく。

クイーン:「もう私を忘れてしまった? 私達は一心同体だったのに。」

同化が終わったピカードつまりロキュータスは、目の横についている赤いライトを向けた。

クイーン:「今でも我々の歌は聞こえる?」

ロキュータスに顔を近づけるボーグ・クイーン。

ピカード:「ああそうだ。…思い出したぞ。…君はいつも私のそばにいた。…しかし、あの船も…ボーグも全て破壊されたはずだ。」
クイーン:「あなたは三次元レベルでものを考えている。何て小さくなってしまったの。…でもデータはわかってくれる。そうでしょ、データ?」
アルコーヴの一つに、データが立っていた。
ピカード:「データに何をした。」
クイーン:「彼がずっと欲しがっていた血と肉を与えたの。」
データの顔は、半分ほど皮膚を移植されている。
ピカード:「…彼を放せ。望みは彼じゃないはずだ。」
クイーン:「代わりに自分を差し出すと言うの?」
「…私を差し出す? …それだ。思い出したぞ。君は私を改造するだけでは足りず…私の全てを自由に操ろうとしたんだ。…君の意思で。」
「バカな、うぬぼれないで! あなたは特別な存在じゃない、大勢の中の一人に過ぎない。」
「それは嘘だ。…君が欲しかったのはただの働き蜂※28じゃない。人間とボーグの間の溝を埋めることができる、自分の意思をもった人間。言わば君と対等の存在が欲しかったんだ。…だが私は逆らった。君と闘った。」
「あなたを待っていた未来は素晴らしいものだったのに。」
「……今でも遅くはない。……ロキュータスは君に仕えよう。…君の望み通りに。…パートナーとして。データを自由にすれば代わりに私が君のそばに留まろう、喜んで。君に逆らうことなく。」
「あなたはとても気高い男。我々には欠けている資質だわ。我々はそれを吸収し我がものとする。」 ピカードの顔に手を這わせるボーグ・クイーン。「おかえりなさい。ロキュータス。」
ボーグ・クイーンが見ると、データの前のフォースフィールドが解除された。
クイーン:「データ、あなたは自由よ。」
ピカード:「…データ、行け。」
データ:「嫌です。…私は行きたくありません。」
クイーン:「わかった? もう私はパートナーを見つけたの。…データ。エンタープライズの自爆シークエンスを解除しなさい。」
ピカード:「データよせ、やめてくれ。」
操作を始めるデータ。
ピカード:「データ、聞いてくれ。」
文字が表示された。
コンピューター:『自爆シークエンスは解除されました。』
ため息をつくピカード。
クイーン:「暗号コードを入力しコンピューターを私のものに。」
さらに入力を続けるデータ。
ピカード。「データ。」 近づく。「…データ。」
無言で離れ、ボーグ・クイーンのそばに立つデータ。「彼は、いい働き蜂になるでしょう。」
ピカードはボーグに連行される。


※28: 後の VOY では、そのまま「ドローン」と訳されます

・28. ワープ壁を破れば/ボーグ・クイーンの最期
フェニックス。
ラフォージ:「プラズマインジェクター、オンライン。…万事順調のようですよ。…準備 OK です。」
ライカー:「じき彼らが現れる頃だ。注意を引くためには次の 5分間でワープバリアを破らないとな。」
「ナセルの準備も整ってます。」
「よーし、行こう!」
コクレイン:「ワープ開始※29!」
ライカーとラフォージは顔を見合わせ、笑った。
速度を上げて地球から離れるフェニックス。その向こう側にエンタープライズが見える。
ラフォージ:「ワープフィールドは異常ありません。船体構造にも、異常なし。」
表示※30を読み上げるライカー。「速度、現在秒速 2万キロに到達。」
コクレインは、中が暗くなったのに気づいた。「おい、一体何なんだあれは。」
ちょうどエンタープライズが太陽と重なっていた。
ライカー:「大丈夫ですよ、きっと見送りに来てくれたんでしょう。」

下着姿のピカードは、首元に回転ノコギリを近づけられる。
見ているボーグ・クイーン。
データ:「これから外部センサーをオンラインにします。」
フェニックスが映り、そこに照準が合わせられる。

コクレインはフェニックスの状態を見る。
ライカー:「ワープ入口まで後 30秒。」
フェニックスの方へ、エンタープライズが向かってくる。
ライカー:「速度光速に接近!」
コクレイン:「限界速度に到達!」

データ:「量子魚雷セット完了。」
クイーン:「撃墜せよ。」
ボタンを押すデータ。
量子魚雷が連続発射された。
フェニックスへ向かう。
ゆっくりと歩くデータ。
クイーン:「見るがいい、未来が終わる様を。」
モニター上で、魚雷がフェニックスに近づいていく。
満足げなボーグ・クイーン。
もう少しだ。
だが量子魚雷は、全てフェニックスの後方をかすめただけだった。
ボーグ・クイーンを見るピカード。
クイーン:「データ!」
データ:「抵抗しても、無意味だ。」
データはそばのタンクを叩き割った。プラズマ冷却剤が一気に流れ出してくる。
吹き飛ばされるデータ。冷却剤は充満してくる。
台を上り出すピカード。ボーグ・クイーンが見上げると、ケーブルが天井から何本も下へ向かってきた。
ピカードはそれをつかみ、さらに上る。ボーグ・クイーンも下からやってきた。
既に床はプラズマ冷却剤で一杯だ。ケーブルにぶら下がるピカード。
ボーグ・クイーンはピカードの脚をつかみ、引きずり下ろそうとする。
ケーブルが抜けそうだ。

フェニックスは光速に入った。
揺れる船内。コクレインは叫び続けている。
窓からは星の軌跡が見える。

耐えるピカード。ケーブルも限界だ。
その時、床の冷却剤の中から一本の腕が伸びてきた。機械的な構造が露わになっている。
振り返るボーグ・クイーン。データの腕だった。
顔の半分にあった皮膚も既に消えており、中の回路※31が見える。ボーグ・クイーンの身体をつかんだ。
必死にピカードをつかむボーグ・クイーン。データは降ろそうとする。
ついにボーグ・クイーンの手が離れ、データと共にプラズマ冷却剤の中へ落下した。
ピカードのケーブルは抜けてしまったが、そのまま振り子のように空中を移動して 2階部分につかまることができた。
ボーグ・クイーンの叫び声が響く。顔の部分が溶け続ける。
アルコーヴで火花が飛び、ボーグが飛ばされた。叫ぶドローンもいる。
それを避けて移動するピカード。次々と倒れるボーグ。
ボーグ・クイーンの顔は完全に溶け、中のわずかな機械だけが見える。

ライカー:「これぐらいで十分だ、スロットルを戻してワープから出ましょう。」
星の線が消えた。方向転換すると、小さく青い惑星が見えた。
コクレイン:「あれが地球か。」
ラフォージ:「そうですよ。」
「…えらく小さいな。」
ライカー:「だけど偉大な星になるんですよ?」


※29: 原語ではピカード艦長も多用する "Engage." で、それを受けてライカーたちが笑っています。すぐにワープに入るわけではないので「ワープ開始」は言い過ぎかも…

※30: 上昇していく数字をよく見ると、21,000 に繰り上がらずに 20,000に戻っています

※31: この点滅もボーグ同様、モールス信号で「抵抗は無意味だ」と表示しているそうですが…。宣伝用写真を撮影する際、スパイナーはこのメイクをしていたため、顔の右半分しか写さなかったそうです

・29. 0.6秒
コンソールを操作するピカード。音が響き、冷却剤が排出されていく。
床には倒れたボーグの姿が何体もある。下へ降りるピカード。
まだ床が熱いらしく、歩くたびにわずかに音がする。
ボーグの死体の間を歩いていく。小さな音が聞こえた。
そこへ近づくと、ボーグ・クイーンだった脊髄部分がかすかに動いていた。頭蓋を持って引き抜いても、光は明滅している。
ピカードは脊髄をへし折った。完全に動かなくなる。
投げ捨てるピカード。
データ:「艦長。」 後ろで倒れていた。
ピカード:「データ。…大丈夫か。」
「…ひどい顔でしょうね、この感じじゃ。…感じます。……妙ですよね。彼女が死んだこと、何となく残念ですよ。」
残骸を見るピカード。「すごい女だった。」
データ:「彼女のおかげで、私はまた人に近づきました。…一時 (いっとき) は、彼女の誘いに乗りかけたほどです。」
「…一時ってどれほどだ。」
「…0.68秒です※32。」
微笑むピカード。
データ:「アンドロイドにとっちゃ、永遠のような時間ですよ?」
ピカードは手を差し出し、笑った。立ち上がるデータ。
機関室の中を見渡す。出ていく 2人。


※32: 吹き替えでは、なぜか「0.6 から 0.8秒ぐらいです」

・30. ファースト・コンタクト 地球暦 2063年4月5日
『航星日誌、地球暦 2063年4月5日。フェニックスのワープ航法は、今回もまた成功した。異星人の船はワープサインを探知し、歴史とランデブーするべく地球へ針路を取った。』
夜のモンタナ。人々が空を見上げる。
雲の中に光が見える。音が大きくなってきた。
コクレインやリリー、エンタープライズのクルーもいる。
雲を抜け、空から降りてくる船※33。風が強くなり、一帯が明るくなる。
エディ※34をはじめ、集まる人々。無言で見つめる女性※35
船は着陸した。
その一部が開いていく。中から強い光。
地面への道ができた。人影が見える。
口を開けたままのコクレイン。みな船の人物を見る。
コクレイン:「驚いたね。ほんとにほかの星から来たんだ。」
ライカー:「ワープ船を造った人間として、挨拶を。」
コクレインはゆっくりと進み出た。前にいたリリーは、コクレインの手を握った。
さらに船の方へ独り進み出るコクレイン。
下りてくる異星人。後ろにも 2人の姿が見える。
コクレインと向き合った。頭のフードを取る。
その耳は、先が尖っていた。
片手を上げ、中指と薬指の間を開ける。「友よ、永遠に栄えあれ※36。」
コクレインは真似しようとしたが、無理だった。そのまま手を差し出す。
2人は手を握り合った。
コクレイン:「ありがとう。」
うなずくヴァルカン人※37
ピカード:「静かに消えるときがきたようだな。」 前へ歩く。
ライカー:「ライカーよりエンタープライズ、転送準備をしろ。」
リリーに近づくピカード。人々はヴァルカン人を取り囲み、歩いていく。
リリー:「帰ってしまうの。」
うなずくピカード。
リリー:「……うらやましいわ。あなたの行く世界が。」
ピカード:「…私こそうらやましい。新しい時代 (new frontier) へ最初の一歩を踏み出せて。…君のことは忘れないよ。」 リリーの頬にキスした。
歩いていくピカード。ライカーたちと並ぶ。「ピカードよりエンタープライズ。転送開始。」
転送される 5人。リリーは空を見上げた。

作戦室を出てくるピカードは、制服姿に戻っている。「報告せよ。」
ウォーフ:「月の重力場でワープサインが消えたので、ヴァルカン人には気づかれませんでした。」
ラフォージ:「エンタープライズのワープフィールドを、ボーグ・スフィアの時刻測定数値に合わせました。」
ピカード:「よし、時空のゆがみを作り出せ。」
「了解。」
ライカー:「全デッキは準備せよ。」
データ:「操舵手、OK。」 振り返るその顔は、まだ半分機械の部分が見えている。
ピカード:「データ、24世紀へコースを設定しろ。…きっと我々の未来が両手を広げて待っていてくれる。」 艦長席に座る。
「コース設定完了です。」
ピカードは指を向けた。「…発進※38。」

地上から見える光点が速度を上げ、前方のもやに突入した。消える。
見上げていたリリー。
酒場のコクレイン。「あーそうだ、いいものをお聞かせしましょう。待っててください?」
酒を口にしているヴァルカン人。リリーも中に入る。
コクレイン:「えーと。」 ジュークボックスを叩く。
「ウービィ・ドゥービィ」が流れ出した。驚いて立ち上がるヴァルカン人。
コクレイン:「あー大丈夫大丈夫、大丈夫だから。…そりゃ。」 踊り出す。
ヴァルカン人はまた座った。
コクレイン:「…ほらみんなも。」 笑う人々。
響き続けるロック。酒場の隣にヴァルカン船が見える。


※33: 名前は言及されていませんが、ムーアによるとトゥプラナ・ハス (T'plana-Hath)。映画 ST4 "The Voyage Home" 「故郷への長い道」で言及された、ヴァルカン人哲学者にちなんで。John Eaves デザイン、VisionArt (Pacific Ocean Post となっている書籍もあり) 製作の CGI。クルーが降りてくる着陸脚の部分は、実物大のセットです

※34: ごく一部の資料では、TOS/TNG でサレク大使を演じたマーク・レナードが、住民の一人としてカメオ出演しているとされています。ただ他の資料のほぼ全て (特別版 DVD の全特典を含めて) では一切触れられていません。そもそもレナードは丁度映画の公開日 (1996年11月22日) に死去されていますが、撮影は前とはいえそんな直前に出演できるものでしょうか (IMDb では 93年のテレビ出演が最後)。まさかとは思いますが、ここで一瞬アップになるエディ (=脚注※1-43) と勘違いしている恐れもあります。ここでは出演情報はデマと結論づけます

※35: 住民 Townsperson
(タマラ・リー・クリンスキー Tamara Lee Krinsky) セリフなし

※36: "Live long and prosper." 「長寿と繁栄を」

※37: Vulcan
(カリー・フレデリクセン Cully Fredricksen VOY第5話 "Phage" 「盗まれた臓器」のダレス (Dareth) 役。映画「ドラキュラ」(1992) などに出演) 3人のヴァルカン人は、聖書の 3人の賢者をなぞらえています。声:中田和宏

※38: "Make it so."

・感想など
映画第8作、TNG 映画では 2作目となる、フレイクス初監督作品。本当に TNG だけとなったということもあり、脚本のムーアとブラガものびのびとできたと語っています。内容的には映像・ストーリーの両方で、実に盛りだくさんです。エンタープライズ-E をはじめとする初登場要素も数々ある上に、やはりファンが望んでいたボーグとの戦いは素直に面白いものでした。その上スタートレック史上極めて重要なヴァルカン人とのファースト・コンタクトを取り入れ、この映画から他のシリーズにも少なからぬ影響を与えています。
ボーグ・クイーンやピカードの復讐など、テレビとは違う設定に多少戸惑う点も確かにあります。でも感想でこれを言っちゃ後出しではありますが、興行的に大成功しているのは見過ごすわけにはいきません。歴代10作で 2位、TNG ではもちろん 1位 (ネメシスの 2倍以上)、同年公開の映画ではオープニング記録 6位を達成しています。TNG 映画では初となる、故ジェリー・ゴールドスミスの音楽も最高ですね (特にクライマックスのファースト・コンタクト)。公開当時、試写会で一回見ただけなのが惜しまれます。結局面白ければ多少外れようが構わないんですね。面白ければ。
当初は船=ピカード、地上=ライカーの位置が逆で、ピカードとルビー (後にリリー) のロマンスもありました。スチュワートの意見で変更されたそうです。戻る過去もルネサンス期の案もあったとか。消えていったタイトル候補としては、"Renaissance"、"Borg"、"Generations 2"、"Destinies"、"Future Generations"、"Resurrection" (復活。「エイリアン4」と被るため変更) があります。最終的には第4シーズンのエピソードにもあった、「ファースト・コンタクト」になりました。

現在の形式では初の映画ガイドとなりました。ありがちな長寿シリーズと違って ST では映画もれっきとした正史の一部なので、こうして時々 TOS/TNG と並行して扱っていきたいと思います。本当は特別版 DVD が新録だという話があったので、旧吹き替え準拠で作って比較してもらうという意図もありましたが、結局新録ではありませんでしたねえ。それにしても映画だけあって、関連情報の膨大なこと…。ENT版との時間の兼ね合いもあり、字幕の検証まで手が回りませんでした。次に手がけるときは、余裕をもってやりたいですね。


dot

previousその2
USS Kyushuトップ | 「未踏の地」エピソードガイド