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エンタープライズ エピソードガイド
第48話「第3の性」
Cogenitor

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・イントロダクション
※1エンタープライズは、巨大な恒星に近づいている。
トゥポル:「急激な早さで、質量を失っています。」
リード:「いつ超新星になります?」
「100 から 200年後ね。」
アーチャー:「我々は生きてないな。見られなくて残念だ。」
「私は違います。見られるかもしれません。」
タッカー:「ヴァルカン人は長生きでしたねえ? でも 100年後か。何歳になるんです?」
答えないトゥポル。
アーチャー:「地球の船で、ハイパー巨星※2の10光年以内に近づいたものはない。…後どのくらい近づける。」
トゥポル:「…外壁の温度は、1,100度近くです。これ以上近づくのは危険です。」
「ここからスキャンするしかないか。天体測定部に指示しろ。ウズウズしてるだろうからな。」
リード:「…誰かが、我々より遥かに近くに行ってます。」
「船か。」
「方位 261、マーク 4。ここから 2万キロ以上、星に近い位置です。」
「…見てみよう。」
異星人船が映し出される。
アーチャー:「見覚えは?」
トゥポル:「いいえ。」
「呼びかけろ。」
サトウ:「…干渉が強すぎて無理です。」
「音声のみは。…エンタープライズ※3船長、アーチャーです。我々を検知していますか?」
男性の声。『船長のドレニク※4です。どこからいらしたんです?』
アーチャー:「太陽系です。そちらは?」
ドレニク:『ヴィシア※5という星系から来ました。ここから 25光年以上先です。昨日到着されたようですね。ハイパー巨星の観測ですか?』
「近くで観測するのは初めてなんです。」
『素晴らしい光景です。核合成率はもう計測しましたか?』
「…残念ながら我々にはその技術がありません。」
『進歩の段階を飛び越えてよければ、センサーの改造を喜んでお手伝いしますよ?』
「…助かります。お返しに何かできることがあるといいんですが。」
『では船に招待いただけませんか。なるべく多くの種族と出会いたいのです。』
「我々もです。ぜひ食事に、ご招待させて下さい。」
『一時間で伺います。では楽しみに。』
タッカー:「攻撃準備しなくて済むファースト・コンタクトっていいもんですねえ。」
アーチャー:「ふーん。シェフに、お客様だと伝えてくれ。」


※1: このエピソードは、TNG ラフォージ役のレヴァー・バートン監督です。ENT では第10話 "Fortunate Son" 「復讐の連鎖」以来、3話目となります。参考

※2: hypergiant
超巨星 (supergiant) の上。特超巨星?

※3: 吹き替えでは「エンタープライズ

※4: Drennik
(アンドレアス・カツラス Andreas Katsulas TNG第55話 "The Enemy" 「宿敵! ロミュラン帝国」などのロミュラン、トモロク司令官 (Commander Tomalak) 役) クレジットではヴィシア人船長 (Vissian Captain)。声:大木民夫、VOY ブースビー、旧ST2 カーン、旧ST4 スポック、旧ST5 サイボック、叛乱 ドアティなど

※5: Vissia
種族名は Vissians

・本編
ヴィシア船とドッキングしているエンタープライズ。
船長用食堂にいるドレニク。「トライニシウムなら、18,000度まで耐えられますよ? 100年以上これで船の外壁を造ってます。」
アーチャー:「…G型の恒星でも光球まで入れるでしょうねえ。」
「シールドが 2倍のストラトポッド※6なら、もっと深く入れます。」
「…そこまでの技術力は、まだ先のことだな。」
「技術はついてきますよ。探検家の気持ちさえあればね。」
「ディープスペースは初めてで。」
「もっと先を御覧になりますか。明日ストラトポッドで、水素層に入るんですが。よければ御一緒にいかがです。」
「…探検しましょう。」

食堂のタッカー。「上のがヴァニラで、下が…チョコレート。食べてみて? …ああ、ちょっと待った。まずはチェリーから。これだ。」
女性のヴィシア人。「なぜ?」
タッカー:「…ただ、そうなんです。」
別の女性も同席している。「人間の伝統?」
タッカー:「まさしく。」
リードが近づく。「紹介しない気ですか?」
タッカー:「ああ…こちら、マルコム・リード。兵器士官です。ヴィシア人生物学者のトレイスターナ※7さんに、こちらは戦略士官のヴェイロ※8さんだ。」
「…お会いできて光栄です。」
「お前も入れよ。交流深めないとな。」
「喜んで。あちらにヴィシアの機関主任と、奥さんがいますよ? 挨拶してきたらどうです。」
アイスをリードに渡すタッカー。「それじゃまた。」
笑うリード。
別のテーブルへ向かうタッカー。「機関主任でらっしゃいますね。」
機関主任※9:「タッカー少佐? …大尉から伺いました。おかけ下さい。」
「よろしく。」 握手するタッカー。
「妻の、カラ※10です。」
カラ:「ご招待感謝します。」
タッカー:「食事はいかがですか?」
「美味しいです。」
機関主任:「我々の食事も、味わっていただきたいな。もっと、香りが強いんです。」
タッカー:「楽しみですねえ。機関室も、ちょっと覗けます?」
「ええ、是非とも。」
タッカーは、もう一人いるヴィシア人に手を差し出した。「タッカーです、当船へようこそ。」
ヴィシア人:「…どうも。」 握手しようともしない。
カラ:「名前はありません。共同親※11です。」
タッカー:「共同親。」
機関主任と顔を見合わせ、微笑むカラ。「子供を作るための。」
タッカー:「ああ…。」
機関主任:「我々のワープコアからは、オミクロン放射※12があります。まず、こちらで予防接種をしてから、いらして下さい。」
「はい。」

ハイポスプレーを打つフロックス。「いいでしょう。」
タッカー:「じゃあ、共同親って知ってる?」
「…性別が 2つとは限りません、フーン。例えば? ええ…ライジェル人※13の性別は、4つだそうです。いやあ 5つかな。」
「じゃあ、あの男だか女だかわからないのは…第3の性なのか?」
「まさにその通り。」
「彼女は…あれは、妊娠過程に関わるのか。」
「まさしく。」
「男女のケースにはそれなりに詳しいが。」
「3人以上では異なります。この場合共同親は、妊娠促進酵素を提供すると思われます。」
「…『提供』って、どうやって。」
「そうですねえ、まず女性が…」
「いや、いやいやいやいいよ。知りたくない。」
「そうですかあ? うーん。写真が、あります。」 モニターに近づくフロックス。
「いい…いや、パスしとく。…この注射、何時間効く。あちこち、見てきたいからな。」
「オミクロン放射の影響なら、12年は防げます。」
「十分だな。助かった。」
「眉をひそめず、受け入れましょう? 異種族を知るのが任務でしょう。性別がいくつあろうとね。」
うなずくタッカー。医療室を出ていく。

恒星の中を進む、ストラトポッド。
アーチャーはその景色に見とれている。
ドレニク:「…『この天と地の間には、人知も及ばぬことがある。』※14
アーチャー:「…何で知ってるんです。」
「ハムレット第1幕ですよ。そちらの通信士官が、人類の文学作品をいくつか下さった。承認済みですよねえ。」
笑うアーチャー。「もちろんです。だが、翌日引用を聞くとは思わなかったなあ。」
ドレニク:「一度読めば、忘れません。」
「読むのも、かなり早いようですねえ。」
「シェークスピアは夕べ読破し、ソフォクレス※15にかかりました。次のお勧めはありますか?」
「ご自分でもう名作を選んでらっしゃる。…あれは電離水素ですよね。」
「磁気流を作ってるんです。」
「故郷の友人に言ってもきっと信じないだろうなあ。」
「私の友人もきっと、マクベスに驚嘆しますよ。…間もなく彩層に入ります。」

ワープコアの近くにいるヴィシア人機関主任。「コアにデューテリアムを注入する前に、反物質ストリームを圧縮します。」
タッカー:「磁気密閉の必要がないわけだ。」
「…構造図を出しましょう。」
「俺たちの星、地球では…性別は 2つなんです。」
「大抵がそうですね。」
「例の共同親は、各家庭にいるもんですか?」
「それは非効率的ですよ。…子供を作りたい時しか必要ありませんから。」
「ああ。じゃあ、それが済めば。」
「別の夫婦の元へ、送られていきます。共同親は全人口の 3%ほどです。…それが丁度いい、割合なんです。自然とそのように、なったようですね。」
「…船にいるのはあの一人だけですか。」
「一人です。…カラと私に子供ができれば、あれは当分必要ありません。」
「ふむ。」
「プラズマコンバーターを近くで見てみませんか。」
「ええ、すいません。…で、あれと暮らしてるんですか?」
「我々の部屋においています。」
「生殖以外、何を。」
「…あれは…食べて、寝ます。ほかは、特に何もしません。」
「…でも学校は?」
「存在理由は一つだけなんですよ? 学校にやっても意味がありません。どうしてそれほど、あれに興味が?」
「ああ…人間は好奇心旺盛で。」
「…ん? …信じがたいかもしれませんが、このポリマーは自然に存在する 200以上の元素からできているんですよ?」 構造図を表示させる機関主任。
「そりゃありえない。」
「まだ 92 の元素しか発見してないんでしたよねえ。いや、もし気分を害されたらすみません。」
「いろんなことにビックリですけど、素直に受け入れないとね。」


※6: stratopod

※7: Traistana
(Stacie Renna) 声:きのしたゆうこ

※8: Veylo
(Laura Interval VOY第109・110話 "Dark Frontier, Part I and II" 「ボーグ暗黒フロンティア計画(前)(後)」のエリン・ハンセン (Erin Hansen) 役) クレジットではヴィシア人女性その2 (Vissian Woman #2)。声:日野由利加

※9: ヴィシア人機関士 Vissian Engineer
(F・J・リオ F.J. Rio DS9第80話 "Starship Down" 「ディファイアントの危機」などのエンジニア、エンリケ・ムニス (Enrique Muniz)、VOY第159話 "Repentance" 「宿命の殺人星人」のジョレッグ (Joleg) 役) 声:目黒光祐

※10: ヴィシア人の妻−カラ Vissian Wife - Calla
(Larissa Laskin) 声:林佳代子

※11: Cogenitor
(Becky Wahlstrom) 原題。声:唐沢潤

※12: omicron radiation

※13: Rigellians
ENT第1話 "Broken Bow, Part I" 「夢への旅立ち(前編)」など。今までは "Rigelians" (L が一個) と書かれていましたが、同一種族とみなしていいと思われます

※14: "There are more things in heaven and earth than are dreamt of in your philosophy."
原語ではドレニクは「第1幕、第5場」とまで言っています

※15: Sophocles
(前497〜前406) 「オイディプス王」など

エンタープライズ。
トゥポル:「探査期間は?」
アーチャー:「3日程度だろう。星の外周は、10億キロ近くにもなる。ここからでは検知できない表面の様子をスキャンしてくるよ。」 荷物を用意している。
「小型機にこもって 3日は長すぎるのではないですか? 先方とは会ったばかりですし。」
「心配はしてない。彼らは素晴らしいよ? 学ぶことがたくさんある。…『美しき友情の始まりかもしれない。』※16 ああ、それで思い出した。映画を見せてくれと頼まれたんだ。いくつかピックアップしてある。」 パッドを渡すアーチャー。
「手配します。」
「後を頼むぞ。」
「映画のことですか?」
作戦室を出る 2人。

ワープコアの上で作業中のタッカー。
トゥポルが機関室に入る。「…少佐。」
タッカー:「…船長発ちました?」
「3日間お留守です。…船長の指示で、ここにある映画をヴィシア船に転送しておいて下さい。」
降りてきたタッカー。「…エンジニア知ってます?」
トゥポル:「挨拶は。」
「夫婦で、子作り中だ。」
皮肉を言うトゥポル。「素敵だこと。」
タッカー:「ただもう一人必要で、彼女のことは『共同親』と…呼ばれてます。」
「第3の性ね、女性じゃないわ。」
「…男ってよりは、女なんだよな。ペット並みの扱いだ。ただ部屋におき、読み書きも教えず、名前もない。うん、ポートスだってあるのに。」
「他文化の習慣を批判すべきではありません。」
「家に入る時靴を脱ぐとか、そういうレベルじゃない。フロックスのヒル並みの扱いを受けてるんだ。必要な時だけ取りだし、ケースに投げ戻す。」
「三者による生殖はよくあることです。」
「うーん、そんな話じゃないんだって。俺が言ってるのは、人権だよ。」
「人間じゃないわ。…船長はこの種族と、生産的関係を築きたがっています。…その意見はあなたの胸に留めておくことですね。」

中性子顕微鏡※17を準備しているフロックス。「その通り。生殖は秘め事であるケースも多い。うーん? 大っぴらに語りたがらない種族もいます。」
タッカー:「生殖行動がどうこう言ってるんじゃないよ。共同親の扱いが納得いかない。」
「見た目は同じですけどねえ。」
「だったらいいってわけじゃない。」
「善悪の問題じゃありません。」
「…彼らが船に来た時、通常通りスキャンしたよな。」
「危険な病原体は何ももっていませんでしたよう?」
「共同親は能力的に、どうなのかわからないのか? つまり…普通の男女に劣るのか。」
笑うフロックス。「神経系のスキャンは、していません。」
タッカー:「俺に、スキャンできるか。」
「…してどうするんです?」
「知りたいんだ。」
「可能ですよ?」

たくさんの果物とチーズが、食堂のテーブルに置かれている。
リード:「チーズはフルーツとよく合うんですよ。」
ヴェイロ:「このチーズというのは 8種類なの?」 向き合って座っている。
「何百種類もあります。何千かな。」
「なぜ 8つ選んだの?」
「船にある中で、一番匂いが強い。ここの食事は香りがほとんどないと言ってたから、気に入ってくれるかと。試して?」
一切れを鼻に近づけるヴェイロ。「マイルドね? でもいい匂い。」
リード:「…それじゃあ、これは?」
「…少し、スパイシーな匂いね。何てチーズ?」
「スティルトン※18。かなり刺激が強いはず。」
「食べたことないの?」
「もう長いこと。」
「どう?」 ヴェイロはリードの鼻に近づける。
「この刺激は少しどこじゃないな。」 そのまま食べるリード。「うん。」
「こっちは何?」
「アルザスのマンステール※19。」
「…面白いわ。官能的だと思わない?」
匂うリード。「とても。」 また食べる。
リードの唇に触れるヴェイロ。「…後で、兵器室を見られる? あなたの戦略アレイを見たいの。」
リード:「…地球ではよくこう言う。『君のも見せるなら…僕も見せる』って。」
チーズを口にするヴェイロ。

操縦するドレニク。「お父上が! 信じがたいな。我々の星でワープドライブが開発されたのは 1,000年近く前だ。」
アーチャー:「…あなた方が地球へ来てないのが不思議ですねえ。」
「我々はあまり遠くへ行きません。近くに観察すべきものが多い。」
「こうして知り合えたんだ、ぜひ地球へ来て下さい。そう遠くない。」
「例外も設けましょう。…光球のすぐ外側まで行きます。少し揺れますよ?」
「大丈夫です。」
降下するストラトポッド。

ヴィシア船の機関主任。「臨界質量に達すると、陽電子とニュートリノの混合物がチェンバー内に注入されます。見てて?」
タッカー:「…うーん、効率が 30%以上上がってる。」 構造図が表示されている。「すごいですね。」
「この技術は、多分エンタープライズにも応用できますよ。」
「助かります。…エンタープライズに、夫婦者はいないんですよ。部屋は広いのがもらえるんですか?」
「船長が寛大なので。」
「うらやましいですね。俺の部屋は…この半分だな。部屋を見せてはもらえませんか。船長に教えたら多少は広さのこと考えてくれるかもしれないし。」
「なら、今夜食事でもどうです。料理を食べてみるとおっしゃいましたよね?」
「部屋にダイニングがあるんですか。」
「あまり匂いの強い物は、避けましょう。」

食事を一口分取り、匂うタッカー。かなり強いらしい。
同じ私服姿の機関主任とカラが見ている。
タッカー:「…うーん、匂いに比べると味は、マイルドだ。」
カラ:「私達には味より香りが重要なんです。」
「まる一日かかったでしょ。」
笑うカラ。「一日あればもっと香り高い料理を作りましたわ?」
機関主任:「カラは微少重力ラボの責任者で、普段は料理をする暇はないんです。」
タッカー:「共同親も一緒に食べるんですか。」
「一日一食しか食べませんので。」
「じゃあ、うちの…食堂では…。」
カラ:「エンタープライズへ連れて行ったのは特別です。」
「残念だ、挨拶したかったのにな。」
「どうしてですか?」
機関主任:「タッカー少佐は、我々の生殖過程に興味があるんだ。人間は男女だけだ。」
カラ:「…起きているかしら。」 立ち上がる。

医療室のモニターに、3つの情報が並べられている。
タッカー:「どれが共同親だ。」
フロックス:「これです。シナプス密度と神経質量は、夫婦とほぼ同じです。この共同親は、普通の男女と同程度の知能がありますねえ。」

提案するアーチャー。「よければ、私が操縦しましょうか。」
ドレニク:「…地球の航行制御とは違いますよ。空間軸が 5つありますからね。」
「ずっと見てましたし、やれると思います。」
笑い、コンソールを隣のアーチャーの方へ移動させるドレニク。
多少揺れたが、アーチャーは操縦できている。
ドレニク:「…経験豊富なようですな?」
アーチャー:「多少は。…下で、大きなフレアができてます。周りを飛びましょう。スキャンしやすいでしょ?」
「激しい磁気流動が発生してる。航行センサーに誤差が出る可能性がありますよ?」
「気をつけます。」
フレアを回り込むストラトポッド。

ヴィシア船機関室のタッカー。「量子インバーターを回転して、反物質流動を 3倍に?」
機関主任:「その通り。あと、3つで終わりだ。」
「…今朝から何も食べてないんですよ。もしよかったら、食堂に行かせてもらっていいですかね。」
「待っていただければ、ご案内しますよ。」
「大丈夫、独りで行けますから。…じゃ後で。」

ヴィシア船の廊下を歩くタッカー。
周りをうかがい、ドアチャイムを押した。2度押すと、やっとで開いた。
ヴィシア人の共同親がいた。「誰もいません。」
タッカー:「君に会いに来た。」
「…どうして。」
パッドを取り出すタッカー。「これ持ってきた。読み方を教えるよ。」


※16: "This could be the beginning of a beautiful relationship."
映画「カサブランカ」(1942) より (実際は relationship ではなく friendship。本当はセリフの正確な引用ではないようです)

※17: neutron microscope
ENT第40話 "Stigma" 「消せない汚名」より

※18: Stilton

※19: Alsatian Muenster

テーブルにパッドを置くタッカー。「やってみて。」
共同親:「何でこんなことを。」
「単語に触れると、発音が聞ける。ほら、やってみて。」
音声が流れる。『今日。』
タッカー:「それでいい。次のにいって。」
『私達は。』
「よし、次は。」
共同親:「でも私は字を読んだりしちゃいけないんです。」
「誰がそう言ったんだ。」
「早く、帰って。」
パッドを持って立ち上がるタッカー。「……君は彼らと同じだけ、能力があるんだ。」
共同親:「嘘です、私は生殖のためにいる。」
「それは彼らが言ってることだろ? 君にも権利がある。学んだり、自分で生き方を決めたり。名前をもったりね。」
「あなたの星ではそうでも私は違います。」
「カラが子供を産んだら、誰が育てる。誰が面倒見る?」
「彼らです。」
「何で! 君も子供を作るのに不可欠な存在だろ。」
「…あなたはわかってない。」
「ああ、かもな。…スキャンしたんだ。君は彼らと全く同じ能力をもってる。ただ一つ違うのが、性別だ。男女の違い程度しか違わない。…字を読めたらと思ったことないのか。…害にはならないぞ。怖がることないんだよ。」
共同親は微笑んだ。再びパッドを置くタッカー。
共同親はそれを引き寄せ、順番に単語に触れていく。『今日私達は。…今日私達は字を。…今日私達は字を習う。』

ストラトポッドのアーチャー。「コツがつかめてきたぞ? …お望みなら、もっと近づきますよ。」
ドレニク:「更に 1万メートル行きましょう。光球の素粒子数を数えられる。」
「了解、船長。1万メートル接近します。」
一気に降下するストラトポッド。
揺れが激しくなる。
ドレニク:「大丈夫ですか?」
アーチャー:「心配無用です。」
「この高度をもうしばらく保ってて下さいよ。」
「お任せを。」

エンタープライズ。
兵器室に来ているヴェイロ。「光子弾頭が装着されてるの?」
リード:「光子弾頭? 聞いたこともないな。※20
「私達の武器の方が少しだけ進んでいるようね?」
「古色蒼然として、見えるんだろうな。」
「私の星では古い物は大切にされるわ?」
「古臭いんだろ? 俺たちは。」
「でも魅力的。…動力源は何を使ってるの?」
「サリウム・マイクロ電池※21だよ。」 フェイズ銃のロッカーに近づくリード。「これもかなり、古臭いんだろうな。」
「そんなことないわ。私達も同じ物を使ってる。」
「…じゃあ次はフェイズ砲を見てもらおうかな。」
「お願い。」
ハッチを開けるリード。「どうぞ。」
先に入るヴェイロの後ろ姿。
続くリード。「ああ。」

奥に進むリード。「マルチフェイズ・エミッター搭載。最高出力は、80ギガジュール。」 砲台を移動させる。
ヴェイロ:「素晴らしいわ。」
「窮屈で申し訳ないな。」
「いいの。…ずっとあなたに近づきたかったから。」
「…ほんとに?」
「親しくなれたらいいなと思ってたの。今夜一緒に寝ない?」
驚いたリードは、頭を打った。「ああ…地球では、女性と一晩共に過ごす前にまず…食事に誘ったりするんだ。」
ヴェイロ:「ヴィシアでは全く逆よ? 女は男の人と寝てみて気が合えば、それから食事に行くの。」

ヴィシア語の本を読んでいる共同親。「『ディデュロン山脈※22は大陸の平原北部に連なっている。』」
タッカー:「すごいな!」
「山頂の描写の方が素晴らしい。」
「山じゃなくて君の進歩がすごいんだ。」
「…『動物層と植物層は中央高原の両側で異なる。』」
「たった一日でここまで進歩したじゃないか。文字は氷山のほんの一角だ。どんなことも、学べるんだよ。歴史に、科学…工学も悪くない。一日ただここに座ってなくたっていいんだ。」
「勉強なんてさせてもらえっこない。」
「なら説得するんだよ。…勉強だけじゃない、何だって体験できる。音楽を聴いたり、海で泳いだり。君の星も海あるだろ?」
「ある。」
「それに、ディデュロン山脈だって。本で読むのもいいが、登るのも最高だ。」
「山に登ってみたい。」
「そうだろ、な? そうこなくっちゃ! …続けて読めよ。俺はラボにいることになってるから、戻らないと。機会を見て戻ってくる。」
出ていくタッカーを呼び止める共同親。「トリップ?」
タッカー:「あ?」
「…名前をトリップにしたい。同じ名前に。」
「本当の名前はチャールズだ。」
「…だったら名前をチャールズにしたい。」
「…光栄だ。」
また本を読み始めるチャールズ。

警告するドレニク。「前方にフレア生成中だ。」
アーチャー:「…どこです。」
「見えてくる、左舷に 40度軸を傾けて。フレアを旋回できる。」
前方に巨大なフレアが巻き起こる。
アーチャー:「大きすぎる!」
ドレニク:「上昇だ、飛び越えるんだ!」
一気に上へ向かうストラトポッド。
アーチャー:「これじゃ無理だ!」
ドレニク:「加速して!」
「…間に合いません。」 アーチャーは向きを変えた。
「どうする気だ!」
「波を越えられなきゃ、潜ってかわすしかない。」
ストラトポッドはフレアに突っ込む。
激しい揺れが襲う。
反対側に出てくるストラトポッド。
ドレニク:「…あんな技、どこで覚えた。」
アーチャー:「オアフのノース・ショア。ボディサーフィンです。…そろそろお返しした方がよさそうだ。」 操縦コンソールを戻す。

ターボリフトを降りるチャールズ。「私を連れてきたと知れたら罰せられますか。」
タッカー:「罰する? いや、ちょっと怒られるかもな。」 周りを見る。
「私は罰せられます。」
「じゃあ戻った方がいいか…」
「いや、いいんです。もっと見たい。」
「OK。見つからないように気をつけよう。…これが、転送機っていうんだ。」 台に乗るタッカー。「物を物質流に変換して、どこにでも送れる。大体…2,000キロ以内ならな? そしてそれを、再物質化する。」
「ヴィシア人も送れる?」
「そのはずだよ?」
「試してみたい。」
「そいつはやめた方がいいな。」
「…トリップの持ち場はどこ。」
「見るか? こっちだ。」

アクセスチューブから出てくるタッカー。「誰もいない。」 機関室の 2階だ。「これがメインエンジン。艦隊で一番速い。ワープ5 を超えることができる。」
チャールズ:「私の船にもこういうのがあるはずだけど見たことない。」
笑うタッカー。「そっちのエンジンはうちのより数段進んでるよ。」
チャールズ:「ここに住んでるの。」
「いやあ、違う。俺の部屋は Bデッキなんだ。…映画って観たことあるか。」

コンピューターにタイトルの一覧※23が表示されている。
タッカー:「観たことない奴に一本選ぶのは難しいな。…ウェスタンなんてどうだ? …いやあ、違うな。ミュージカルも今ひとつだしなあ。これだ。地球の静止する日※24。初映画には SF が一番だろ。」
チャールズ:「トリップの星の話?」 タッカーの部屋にいる。
「ああ、でも架空の話だ。地球が止まったことはない。座って。きっと気に入る。」 再生させるタッカー。
チャールズは見入る。
モノクロの映像だ。UFO に驚く人々。

タッカーと囲碁※25をしているチャールズ。「なぜ人間は、クラートゥーとアンドロイドを恐れたの。」
タッカー:「ヴァルカンとファースト・コンタクトする前、地球人は暴力的で…知らないものはなかなか信用しなかった。クラートゥーが何者でどこから来たか、彼らは知らなかったんだよ。それで、殺そうとした。」
「わかる気がする。」 碁を置くチャールズ。「私の勝ち?」
笑うタッカー。「…ここ 2年俺に勝った奴はいないんだぞ?」
チャールズ:「ウェスタンのこと教えて、次はウェスタンを観ようかな。」
「…今日は遅い。気づかれる前に戻った方がいいな。」
残念がるチャールズ。

機関室にいるトゥポル。「少佐は以後、ヴィシア船乗船を禁ずると言われました。なぜです。」
タッカー:「いるべきところにいなかったので。」
「そのようですね。あなたは彼らにラボへ行くと告げた。彼らが呼んだところそこにはいなかった。食堂を探してみても、そこにもいなかった。」
「共同親といました。」
「どこで。」
「最初は彼女の部屋です。厳密には、彼女のじゃありませんが。あれは機関主任夫妻の部屋ですからね。彼女は寝室をあてがわれ、おとなしくしていればリビングに出てもいいそうですよ。」
「なぜ行ったんですか?」
「文字を教えてます。」
「彼女の教育は彼らの問題です。」
「それを何もしてない!」
「ほかにはどこへ。」
「…ここへ呼んで、中を案内し、映画を見せた。」
「そこまでしましたか。船長の希望を台無しにする気ですか。」
「一日だ、たった一日で、彼女は地理の本をスラスラ読めるようになった。」
「船長はこのファースト・コンタクトを重要視しています。…少佐の行為で、取り返しのつかないことになったかもしれません。」
「俺の言ったこと何も聞いてないでしょ。」 出ていくタッカー。

機関室。
作業中のタッカー。
チャールズがやってきた。咳払いする。
タッカー:「気づかなかった。どうしてた、大丈夫か。」
チャールズ:「勉強させてくれない。山には登らせないって。」
「心配ないよ。いずれ…わかってくれるさ。」
「トリップのこと怒ってる、船長が戻ったらすぐ発つって。…もう駄目です。ねえ、トリップ。私をエンタープライズにおいて。」


※20: "I'm not familiar with that." がこう訳されていますが、以前第14話 "Sleeping Dogs" 「名誉に生きる者」でクリンゴン船ソムローのものを使っているので、「よくわからないな」ぐらいが適当かも

※21: sarium micro-cells
後のフェイザーはサリウム・クレライド (sarium-krellide) 電池が使われています

※22: Didiron mountain

※23: 「地球の静止する日」以外は全て架空の映画です。ですが、「アドベンチャー」の中に「ディクソン・ヒルと黒ラン (Dixon Hill and the Black Orchid)」というタイトルがあります。ディクソン・ヒルは (ST世界でも) 架空の私立探偵で、TNG第12話 "The Big Goodbye" 「宇宙空間の名探偵」などで、ピカード艦長がホロデッキで演じました。また、「SF」には「ケオティカの花嫁 (The Bride of Chaotica)」も (VOY第106話 "Bride of Chaotica!" 「侵略されたホロデッキ」より)

※24: "The Day the Earth Stood Still"
1951年。映画第1作 "The Motion Picture" 「スター・トレック」も担当した、ロバート・ワイズ監督。「地球静止した日」と訳されていますが、実在映画のタイトルぐらいきちんと調べてもらいたいですね

※25: 英語では "game of go" といいます

恒星から帰還するストラトポッド。
アーチャー:「アーチャーよりエンタープライズ。」
トゥポル:『どうぞ。』
「最高の探検だった。」
笑うドレニク。
アーチャー:「2時間後に詳しく報告する。彼らのコンピューターに大量のデータをダウンロードしてからだ。」
トゥポル:『すぐに帰還していただいた方がいいと思います。問題が起きています。』

作戦室に入るアーチャー。
先にタッカーが待っていた。
アーチャー:「…彼女はどこだ。」
タッカー:「あの…船長、女性ではありません。」
「どこだ。」
「私の部屋です。」
「…いつこういうことになったんだ。」
「夕べです、夕食後に。」
「すぐ帰すよう要請されています。」
「船長もこうすると思った、どうしても放っておけなかったんです。あれじゃまるで…」
「外してくれるか、副司令官!」
出ていくトゥポル。
アーチャー:「勤務一年目の新人なら、こんなこともあるだろう。だが君がか。…私もこうするだって? ……本気でそう思ったなら、私はこれまで最悪の手本を示してきたようだ。…君はこの船の上級士官だ、私が直面したいろんな問題を間近に見てきたはずだ。私だって自分の価値基準で正しいと判断しても、他種族に干渉していいか、いつも悩んでいる。苦渋の選択なんだ。簡単に私もこうするなどと言うな!」
タッカー:「文字を教えるのが、悪いことだとは思いません。」
「それが浅はかだと言うんだ! 地球の文化を押しつけにここまで来てるんじゃない!」
「船長が本や映画を見せたのと同じことでしょ。」
「彼らの文化を、はなから無視することと、本を渡したことは全く違う! …しかも、本は彼らが望んだことだ。彼女が字を教えろと頼んだか?」
「いいえ。」
「うん。なのに、部屋へ忍び込み、エンタープライズに連れ出した。嘘をついてまでな、どうしてだ! ……一緒に来い。」

チャールズは訴える。「私はもう船へは帰れません。」
アーチャー:「話し合いが済むまでのことだ。」 タッカーもいる。
「トリップが、私にも権利があるって。」
「君の権利のことを言える立場にないんだよ。申し訳ない。」
「…無理矢理追い返すんですか。」

会議室にいるドレニク。「私達はたった 2日で、数年かかっても築けないような絆と友情を築いた。きっと解決できますよ。」 テーブルには機関主任とカラもついている。
アーチャー:「簡単ではないかもしれません。地球では、亡命を求められれば受け入れる…義務があるんです。」
「ここは地球じゃない。それに共同親がタッカー少佐の言ったことを真に理解しているとは思えませんね。」
「ですが聞いたところでは、あなた方と変わらない豊かな知性があるそうじゃないですか。」
機関主任:「何を話す必要があるんです。…共同親は我々の船のものですよ? …それとも私達に子供をあきらめろとでも言うんですか!」
「…不当な扱いを受けているから保護してくれと、本人から要請されています。無視はできません。」
カラ:「不当に扱われているのは私達です。共同親をもらうまでにどれだけ待ったと思うんですか?」
「もらう? まるでただの物か何かのようにおっしゃるんですね。」
機関主任は立ち上がる。「批判されるいわれはありません! …我々の文化も知らずに。もしそちらのスチュアードが、食事の給仕を強制されたと、我々に亡命を求めたらどうしますか。」
アーチャー:「誰も強制などしていません。」
「謝ります。でも文化的背景を知らずに、判断しないで下さい。」
「…とにかく私としては、保護を求めている人物を無視はできないんです。」
ドレニク:「…急いで発つ必要はない。時間はあります。よく考えてみて下さい。」

廊下。
アーチャーについて歩くトゥポル。「気に病まれることはありません。正しい御判断です。」

タッカーの部屋に、ピアノ曲が流されている。聴き入るチャールズ。
ドアチャイムが鳴り、タッカーは音楽を止めた。「どうぞ。」
入るアーチャーとトゥポル。
タッカーとチャールズは、顔を見合わせた。

ヴィシア船はエンタープライズとのドッキングを解除した。
ドレニクの声がブリッジに流される。『アーチャー船長。』
アーチャー:「シェークスピアの戯曲は 36 だけです。ペースを落として、是非ゆっくり読んで下さい。」
スクリーンに映ったドレニク。『そうしましょう。…昨日の件は、済んだこととして将来の関係には影響がないようにしたいですね?』
「…ストラトポッドが一機余っていたりしませんか?」
『…艦隊もいずれ同程度の物を開発しますよ? …では失礼を。』
「お気をつけて。」
通信を終えるドレニク。ヴィシア船は去っていく。
アーチャー:「…星にも別れを告げる時だな。…トラヴィス、出発準備だ。」

ワープ航行中のエンタープライズ。
自室のベッドで、ポートスをなでながら本を読んでいるアーチャー。呼び出しに応える。「何だ。」
サトウ:『ヴィシア船船長から通信が入っています。様子が変です。』
「つないでくれ。」

制服に戻ったアーチャーは、作戦室の窓から外を見ていた。
ドアチャイムに応える。「…入れ。」
タッカー:「何か御用ですか。」
「あのヴィシアの共同親が、死んだそうだ。」
「…え? …どうして。」
「自殺だ、トリップ。…自殺したんだ。」
「…そんな。なぜ…。…全部俺の責任だ。」
「ああ、その通りだ。…彼女だけじゃない。お前のせいで、あの夫妻も子供をもてなかった。…また長く待たされるんだ。いい加減、行動する前にそれがどういう影響を及ぼすのか考えるべきだな! いつも衝動的すぎる! これが痛い教訓になったろ。」
「…わかりました。」
「本当か? 本当にわかっているのか! お前は、彼らに干渉する権利はないと重々知ってた。だが自分の基準で、正義を押しつけたんだ。もしこれが地球上でのことなら、何とか解決…できただろう。だが違う! だろ? ここはディープスペースだ、彼女は死んだ。我々とファースト・コンタクトしなければ生きていたはずだ! 私は上官としてその原則を十分に叩き込めなかった。でなければ、お前が軽率にあんなことをするはずはないんだからな。」
「…責任は私に。」
「…下がっていい。」
「…船長。」
窓の外を見るアーチャー。タッカーは出ていった。



・感想
後の「艦隊の誓い」につながる、他種族への干渉について描いた話です。そういう小難しいことは別にしても、急転直下のラストはインパクト十分。ストーリー展開も余計なシーンがない感じで、ENT の中では極めてよくできたエピソードだと言えると思います。海外のレビューでは「DS9最終話以来の名作」とまで書いているものもありました。さすがにそこまでは感じませんが…。
監督はお決まりのバートンだからいいとしても、脚本は誰かと思ったら…いつものバーマン&ブラガのコンビ。やればできるじゃないですか。こういう話は初めて観る方にもお勧めできますね。


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